第10回_EU ECHAプログラム2023年~2026年

欧州化学物質庁(ECHA)は、2月1日付ECHA WeeklyでECHAプログラム2023年~2026年(ECHA Programming Document(s)2023-2026)のリリースを公表しました1)2)。
このドキュメントは、ECHAの2023年の活動プログラム、2024年の活動予定、及び2026年までの活動予定と活動戦略計画が含まれています。
ますます重要度が高まるECHAの役割と今後の方向性を知る上で有用な情報が含まれていますので、以下に概略を説明します。

1.ドキュメントの構成

ドキュメントの構成は、前文、略語リストに続きECHAのミッション/ビジョン/バリュー及び成り立ちと法的位置づけが記されています。その後に読者手引きに続いて3章からなる本文と12の付属文書で構成されています。本文第1章は一般状況(General Context)、第2章は2023年から2026年の多年度活動計画、第3章は個別の活動プログラムが記載されています。

2.内容の詳細

ECHAは、2007年にREACH規則のもとで設立され、EUの化学物質政策の実施に関する技術的、科学的及び管理的業務を遂行することが使命とされています。また、欧州委員会に対して、ハザード評価、リスク評価、リスク管理、リスク管理の決定がもたらす社会的・経済的影響に関する科学的・技術的側面についての意見を具申しています。
このように、ECHAの成り立ちはREACH規則の実施に関する業務を行うことが出発点でしたが、現在ではCLP(classification, labelling and packaging of substances and mixtures )、BPR(biocidal products Regulation)、など業務範囲が拡大してきています。現在の業務範囲の根拠となる法令は、附属書ⅠBに掲載されています。

2.1.一般状況(第Ⅰ章)

2023年は、ECHAの戦略計画2019-2023の最終実施年となります。この戦略計画は、①「環境負荷物質の特定とリスク管理」、②「産業界における化学物質の安全かつ持続可能な使用」、及び③「EU 法規制の実施による化学物質の持続可能な管理」の3つの戦略的優先事項に基づいて実行されていますが、2023年度は次の戦略計画策定に向けてこの見直しが行われる予定です。

2.2.2023年から2026年の多年度活動計画(第Ⅱ章)

ECHAの管理委員会(Management Board:管理委員会)は、2021年にECHAの戦略2019-2023の中間レビューを行いました。見直し結果として、2023年の活動計画に関しては前項で示した3つの戦略的優先事項がそのままほぼ有効であると結論づけました。
そもそもこの見直しの目的は、①欧州グリーンディールや持続可能な化学物質戦略の発表に伴い、ECHAの組織や政策の状況が大きく進化したことへの対応、②ECHAに委ねられた新たな任務とCOVID-19の大流行の影響によるECHAの任務と仕事の進め方の改善、及び③3つの戦略的優先事項がこれまでにどのように実施されたかという経験から学ぶ機会、と捉えています。

戦略的優先事項1:パートナーとともに、その能力とEU市場の化学物質に関する総合的な知識を活用して、懸念される物質群を特定し、欧州委員会がどの規制措置が必要かを判断し、REACH、BPR、CLP、POP、あるいはその他の関連法規に基づき、必要な措置を講じるのを支援する。
戦略的優先事項2:戦略的優先事項1から得た知識をもとに、REACH、CLP、BPR、PIC、WFD、DWDに規定された産業界の法的義務と、そこでのECHAの職務を利用して、ECHAが行動を起こす前に産業界の知識と能力を向上させることを目指す。
戦略的優先事項3:戦略的優先事項1から得た知識をECHAの任務の中で活用し、化学物質管理に関する国際的な取り組みに向けたEU化学物質規制制度内の一貫性と統合性を向上させる。

これを受けて、管理委員会はECHAの戦略計画の進捗をレビューしたところ、

①これまでのECHAの戦略的優先事項実施状況を見ると、項目間で進捗に差が見られる。
②ECHAが直接的な法的権限を持ち、プロセスの大半を処理し、十分な資源を利用できる活動では、最大の進展と影響が観察される。一方、法的委任があまり明確でなく、複数の関係者が関与し、資源が限られている場合、ECHAの化学物質安全性促進への取り組みは期待されたほどのインパクトを与えていない。

の2点が判明し、この結果から以下の課題を抽出しています。

①予算の制限により、ECHAが現実的に提供できる量を継続的に見直すことで、業務の優先順位をつけることが求められている。
②ECHAは、サービスプロバイダーとしての役割と、規制措置を推進する機関としての役割の間の適切なバランスを見つける必要がある。
③物質群に関する作業(グループ評価)への移行を継続し、データをより統合し、統合されたデータ管理とITツールを活用することにより、当局と利害関係者一般が利用できるようにする必要がある。また、関係者のニーズを考慮しながら、規制プロセスにおけるデジタルコラボレーションを強化する必要がある。

管理委員会は、特に上記レビュー結果②を重要視しているようで、「新しい業務の実施による作業量と資源への負担は、ECHAの業務と作業方法のポートフォリオの長期的な持続可能性、特に規制の中核となる成果物の提供と委員会の作業への圧力に関して、懸念を抱かせるものであった」と結論しています。

管理委員会のレビューに対するECHAの対応案は。以下です。

①効率性、モチベーション、職員の福利厚生を高い水準で維持することにより、十分な資源、インフラ、知識、能力を利用できるようにする。
②原則として、利用可能なリソースの再配置が不可能な場合、新たな規制業務は適切な追加リソースと組み合わされる必要がある。ECHAは、その法的権限と政策目標の計画的な変更を管理できるように、人的資源(HR)戦略に沿って、必要な職員の能力を積極的に高め、資源の再配分を柔軟に行うための投資を続けていく。
③ECHAは、その戦略的計画の実施において、他の当局、産業界、利害関係者の積極的な貢献とそれぞれの義務の遂行を期待している。

3.まとめ

2023年は、2019年からのECHA戦略計画の最終年であり、COVID-19の影響を受けて見直しを行った現計画を仕上げていく年となります。その中で、2024年以降の次期戦略計画策定に向けた検討が進んでいきます。
本ドキュメントから明らかとなったことは、ECHAの役割はますます重要になりカバーする法規制も増加していく中で、ECHAの持つ資源、インフラ、知識、能力には限りがあることから、IT等を用いた効率化や能力強化をしつつも活動の優先順位付けが重要になってくることです。
今後もECHAの戦略的優先事項は大きく変わることはないというメッセージとともに、新規業務の追加には資金・人材面での強化が求められているということで、受益者側にも新たな負担が発生する可能性を示唆しているものと受けとめました。

参考文献:
1)ECHA Weekly
https://echa.europa.eu/view-article/-/journal_content/title/9109026-268

2)ECHA Programming Document(s) 2023-2026
https://echa.europa.eu/documents/10162/17623970/final_mb_41_2022_echa_pd_2023-2026_en.pdf/dac8bfb4-f7f4-2e4b-7347-76d9d405419a?t=1674827053808

(一社)東京環境経営研究所 杉浦 順氏

免責事項:当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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