第102回_ESPRは自動車が適用除外→自動車はELV規則で同様の規制がされる?

持続可能な製品のエコデザイン規則(Ecodesign for Sustainable Products Regulation、以下ESPR)は、2024年7月18日に施行されました1)2)。ESPRの対象はEU域内で流通するほぼ全ての製品ですが、適用除外の分野があり自動車分野も適用除外です。自動車分野に関しては持続可能な製品かつ競争力と環境保護の両立を実現する方法として、既に施行されているELV指令3)4)5)などの規制を統合し補完する「車両設計及び使用済み車両の管理に関する循環性要件に関する規則(以下ELV規則(案))6)7)が検討されています。ESPRに類した規制を行う方向ですが、立法化まで至っていません。

ESPRは、対象製品の拡大、デジタル製品パスポートの創設や、公的機関に対するグリーン製品の公共調達基準、売れ残った消費財が廃棄されるのを防ぐ枠組みの創設を定めています。ESPRは枠組み規制であり、具体的な規制内容は今後製品グループごとに欧州委員会が委任法令で規定する予定です。ESPRの適用対象はEU域内で流通するほぼすべての製品を対象としていますが、自動車分野に対しては第1条2項(h)で型式認証と市場監視に関する規則(以下3R型式認証指令 4))で規定される自動車は対象外としています。

ご質問の「ELV規則(案)」は2023年7月に提案文書が公開されました6)7)。ELV規則(案)の目標は、EUの既存の法律を最新化しEU単一市場の機能を改善するとともに、現行のELV指令と3R型式認証指令における課題を解消し、車両の設計から廃車の最終処理まで車両におけるすべての段階で競争力と環境保護の両立を図り持続可能な製品とすることで、自動車分野の循環型経済への移行を促進することです。

ELV規則(案)では、現状のELV指令などでの課題である特定材料のリサイクル率と廃車の補足率を踏まえて、次の6つの施策を盛り込んでいます。

1.「設計循環」:容易に解体できる設計とし、最低限の再利用性、リサイクル性、及び回収率を設定する。自動車メーカーは、解体業者等に詳細な情報を提供し、車両には循環型車両パスポートを添付する。
2.「リサイクル素材の使用」:新車に使用されるプラスチックの25%はリサイクル素材とし、リサイクル材の含有率を申告する。
3.「より多く、より効率的に回収」:廃車の所在不明をなくすために、連携車両登録システムの導入、走行不能車両の輸出を禁止、及び検査と罰金を強化する。
4.「より良い回収」:リサイクルの定義を厳格化して埋め立て処理を制限する。貴重な部品や材料などを強制的に取り外すとともに、30%のプラスチックのリサイクルを義務化する。
5.「拡大生産者責任(Extended Producer Responsibility:ERP)」:廃棄物処理の品質向上に向けた「拡大生産者責任」を強化するとともに、メーカーとリサイクル業者の協力関係を改善する。
6.「対象の拡大」:段階的に対象を拡大する(すべてのトラック、バス、オートバイも同様な処理)。

現行のELV指令等から引き継いだ施策と上記施策は、ESPRが求める耐久性や信頼性、リサイクル可能性やリサイクル材の利用、含有懸念物質の管理などのエコデザイン要件に対応した内容となっています。但し、ESPRにある環境フットプリント及びカーボンフットプリントを含む環境影響、エネルギー・水・資源効率などについては、ELV規則(案)では対象としていません。なお、エネルギー効率は、別途CO2排出基準規則で基準が設けられています8)9)。自動車の循環設計と生産に関する要件は、車両に適用される認証制度に基づき、第三者機関である認証機関の型式承認プロセスを通じて設定及び施行されており、寿命を迎え廃棄物と見なされる車両を収集して環境に配慮した方法で処理する枠組みで規制されています。
一方、ESPRは持続可能な製品のエコデザインに関する適合性評価を自己責任で行い必要な技術文書および適合宣言書を作成する枠組みで規制されています。ESPRの製品グループごとに定められる委任法によってCEマーキングが求められるなどの要件は異なっています。

なお、ELV規則(案)は、公開後2023年末まで提案文書に対するパブリックコメントを受け付けていましたが、その後の立法化に向けた動きは見られていません。欧州自動車工業会(Association des Constructeurs Europeens d’Automobiles;ACEA)は、提案文書に対する意見書を公開して、ELV規則(案)の見直しを強く求めています10)。ACEAの反対により提案文書の内容が大幅に修正される可能性もあり、注意が必要です。

1) 持続可能な製品のエコデザイン規則(Ecodesign for Sustainable Products Regulation)
http://data.europa.eu/eli/reg/2024/1781/oj
2) 持続可能な製品のエコデザイン規則
https://johokiko.co.jp/chemmaga/tkkqa0090/tkk_qa/
3) 廃車指令2000/53/EC
http://data.europa.eu/eli/dir/2000/53/oj
4) 3R型式認証指令2005/64/EC
http://data.europa.eu/eli/dir/2005/64/oj
5) 自動車の型式認証と市場監視に関する規則(EU)2018/858
http://data.europa.eu/eli/reg/2018/858/oj
6) 車両設計及び使用済み車両の管理に関する循環性要件に関する規則の提案
https://environment.ec.europa.eu/document/download/f144fb9b-2227-43ca-9131-38be36c05f93_en
7)EU 自動車の循環設計とELV管理規則(案)
https://johokiko.co.jp/chemmaga/tkk0033/tkk/
8)乗用車及び小型商用車に対するCO2排出基準規則 (EU)2023/851
http://data.europa.eu/eli/reg/2023/851/oj
9) 大型車に対するCO2排出基準規則 (EU)2024/1610
http://data.europa.eu/eli/reg/2024/1610/oj
10)ACEAのELV規則(案)に対する意見書
https://www.acea.auto/publication/position-paper-end-of-life-vehicle-elv-management-and-circularity-requirements-for-vehicle-design/

免責事項:当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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