第8回_気になるアメリカの州法 その1:カリフォルニア州法

アメリカは、合衆国憲法に記載された外交、国防、通商、通貨、破産法などの権限は連邦法が州法に優位と定め、それ以外を州の権限とする「連邦主義」を採用しています。連邦法と州法が衝突する際は連邦法が優先(連邦法先占) されますが、「合衆国憲法によって合衆国に委任されていない権限、また憲法によって各州に禁じられていない権限は、それぞれ各州または人民に留保される」となっています。各州には州憲法もあり、州兵制度もあります。州兵は、有事は連邦軍として動員されますが、平時は州知事の指揮下で治安維持を担います。このように、連邦と州は、上下関係ではありません。

カリフォルニア州の人口は約4千万人ですが、2024年のGDP(名目州内総生産)は約4兆1,000億ドルに達し、日本を抜いてアメリカ、中国、ドイツに次ぐ「世界第4位」の経済規模を記録しました。州とは言っても、世界的には大国に匹敵します。最近、環境関係法規制は、連邦環境保護庁(EPA:U.S. Environmental Protection Agency)の権限を州に移管する動きがあります。このような潮流のなか、昔から環境規制が厳しいことが知られているカリフォルニア州の、環境に関連する気になる新たな州法をご紹介します。

§1グリーンケミストリー・イニシアチブ(CGCI)とSCP規則

カリフォルニア州は、連邦法である有害物質規制法(TSCA)ではカバーしきれない化学物質のリスクを補完し、州独自に高水準な安全基準を確立するという背景から、2008年に、「California Green Chemistry Initiative (CGCI)」を立ち上げ、その実施機関として毒性物質管理局(DTSC)を設置しました。目標は、単なる「有害物質の排除」だけでなく、化学物質の毒性や職場でのばく露に関する情報を透明化することで、「グリーンケミストリー(環境に優しい化学)」の原則に基づいた、本質的に安全な技術や代替品の開発を促進するインセンティブを生み出すことです。

1. 1 SCP規則について

CGCIの理念を具体化するため、以下の州法および規則が整備されました。

(i)AB1789・SB509: 製品に含まれる化学成分の特定、優先順位付けのプロセス確立、および有毒情報クリアリングハウス(Toxics Information Clearinghouse)の設立を義務付け。
(ii)Green Chemistry法(*1): カリフォルニア州規則集に規定され、消費者製品中の懸念化学物質を特定する法的枠組みを構築。
(iii)より安全な消費者製品規則 (Safer Consumer Products Regulations: SCP)(*2): DTSCが運用を担い、製品の安全性評価から代替案分析までを規定する2013年に採択された具体的な運用ルール。

1.2 SCPプログラムの5段階プロセス

DTSCは、消費者製品に含まれる有害化学物質を削減するため、以下のステップでプログラムを運用しています。

(i)優先製品作業計画の策定:3年ごとに重点カテゴリーを定義
(ii)優先製品(Priority Products)の特定:「製品と化学物質の組み合わせ」をリストアップ
(iii)製造業者による代替案分析(AA):60日以内の通知と、代替案の包括的分析
(iv)規制対応の実施:使用制限や情報開示などの決定
(v)適合確認と強制措置:製品試験による遵守確認

またこれら一連のプロセスを支える基盤として、情報センター「Cal SAFER」(*3)が運用されています。事業者はこのシステムを通じて通知や報告書を提出し、関係者はパブリックコメントを投稿することが可能です。

1.3 2024-2026年作業計画と対象範囲

現在、2024年から2026年までの作業計画が進行しており、「子ども向け製品」「塗料」「マイクロプラスチック関連製品」「自動車部品・メンテナンス用品」「エレクトロニクス」などの12カテゴリーが重点対象となっています。作業計画に記載された時点では、事業者に法的義務は生じません。

1.4 事業者に求められる実務

DTSCのWebページによれば、事業者は以下の点に留意する必要があります。

(i)「候補化学物質」(*4)と「優先製品」(*5)の違い: 有害性が既知の物質が「候補化学物質」であり、それが含まれる特定の製品が規則で指定された際に「優先製品」となります。この指定には、科学的ピアレビューや公聴会を含む厳格な行政手続きが伴います。
(ii)通知の期限: 優先製品を定める規則発効から60日以内に「優先製品通知」を提出しなければなりません。新規参入の場合も販売開始から60日以内が期限となります。
(iii)専門家向け・産業用製品の扱い: 本規則は一般消費者向けだけでなく、専門ユーザーや産業用(B to B)の製品も対象となります。これは、労働者も「敏感なサブグループ(ばく露のリスクが高い層)」として保護の対象に含まれているためです。成形品(アーティクル)も例外ではありません。

<参考>
SCPに関する公式なFAQおよびガイドラインは以下Webページで公開されています。

(i)SCPプログラム総合FAQページ(*6)
プログラムの概要、規則の内容、候補化学物質、優先製品(Priority Products)など、制度全般に関する質問と回答がカテゴリー別にまとめられています。

(ii)カテゴリー別FAQ(FAQ Category: SCP)(*7)
DTSCのサイト内で「SCP」に関連するFAQを一覧で確認できるアーカイブページです。

(iii)代替案分析(Alternatives Analysis)に関するFAQ(*8)
製造業者が最も直面する実務である「代替案分析(AA)」に特化したFAQページです。

(iv)SCPプログラム概要と流れの解説(*9)

(v)CalSAFER (情報管理システム) (*10)
優先製品の通知や代替案分析レポートの提出、過去に提出された他社のレポート例などを確認できるシステムです。

(vi)代替案分析ガイド (AA Guide) (*11)
製造業者が分析を行う際の具体的な技術指針

§2.カリフォルニア州 Proposition 65(Prop65)

カリフォルニア州には、住民が直接法案を提案し投票で採択する「直接民主制(ballot initiative)」が導入されています。Prop65は、1986年11月に有権者の約63%という高い賛成多数で承認された住民提案法で、正式名称を「1986年安全飲料水および毒性物質執行法」です。「Prop65」という名称は、1986年の住民投票における「案件番号65番」に由来しますが、混乱を避けるため10年ごとに番号がリセットされる仕組みとなっています。
Prop65の主旨は、既存の規制では不十分であるという認識に基づき、「がんや生殖毒性を引き起こすことが知られている化学物質」について、事業者が以下の2点を守ることを義務付けています。

(i)飲料水水源への排出禁止: 州が指定する有害化学物質を、飲料水の水源となる場所に排出してはならない。
(ii)明確かつ合理的な警告の提供: 州が指定する化学物質に人をばく露させる場合、事前に警告を与えなければならない。

2.1 Prop65の法的構成

Prop65は「法(Code)」(*12)とその詳細運用を定めた「規則(Regulation)」(*13)の二層構造になっています。

(1) 法(Code)の主な条項
(i)§25249.5: 飲料水汚染の禁止
(ii)§25249.6: ばく露前の警告要求
(iii)§25249.8: 有害化学物質リストの作成・公表義務
(iv)§25249.7: 法執行(司法長官だけでなく、一定の条件下で一般市民も提訴が可能)

(2) 規則(Regulation)の主な条項
運用ルールを定める規則には、科学諮問委員会の役割(第3条)、警告の具体的な表示方法(第6条)、および「これ以下の量であれば健康リスクがない」とされるセーフハーバーレベル(第7条・第8条)が規定されています。

(3)基本的な要求事項と対象物質
日本企業にとって最も重要な実務は、Prop65 Lis t(*14)に収載された物質についての「警告表示(Warning)」の要否判断とその実施です。州政府(環境保健有害性評価局:OEHHA)は、少なくとも年1回リストを更新します。現在、約1,000種類の化学物質が収載されています。リストには、以下の2つの基準値が示されることがあります。

(i)NSRL(No Significant Risk Level): 発がん性物質に関する「重大なリスクがないレベル」
(ii)MADL(Maximum Allowable Dose Level): 生殖毒性物質に関する「最大許容投与量」

事業者は、自社製品の使用を通じて人がこれらの基準値を超える量にばく露する場合、警告表示を行う義務があります。

(4) ばく露前警告の実務
ばく露とは「皮膚接触、吸引、摂取」を指します。警告義務は、製造・輸入・卸・小売までのすべてのサプライチェーンに及びますが、一般的には製造業者や輸入業者が責任を負います。表示は製品ラベル(Label)だけでなく、説明ラベルや棚札が必要で、インターネット販売画面でも必要です。警告表示の要件は2024年12月に改正され、2025年1月1日より施行されました。主な変更点は「より具体的な情報提供」への転換です。

(5) 標準的な警告表示(Full-Length)
警告マークと共に、以下のフレーズを含める必要があります。
(i)発がん性: “This product can expose you to chemicals including [化学物質名], which is known to the State of California to cause cancer…”
(ii)生殖毒性: “…cause birth defects or other reproductive harm…”

(6) 短縮形式(Short Form)の重大な改正
製品サイズが小さい場合に許容される「Short Form」が厳格化されました。2024年の改正により、少なくとも1つの対象物質名を記載することが必須となります。経過措置として、2028年1月1日までは、物質名を記載しない旧形式の使用も認められていますが、早期の切り替えが推奨されます。Short Formの例示をお示しします。

(i)リストアップされた発がん性物質へのばく露
Warning Symbol:“WARNING:” or the words “CA WARNING:” or “CALIFORNIA WARNING:“Cancer risk from exposure to [name of chemical]. See www.P65Warnings.ca.gov.”; or “Can expose you to [name of chemical], a carcinogen. See www.P65Warnings.ca.gov.”
(ii)リストアップされた生殖毒性物質へのばく露
Warning Symbol:“WARNING:” or the words “CA WARNING:” or “CALIFORNIA WARNING:“Risk of reproductive harm from exposure to [name of chemical]. See www.P65Warnings.ca.gov.”; or “Can expose you to [name of chemical], a reproductive toxicant. See www.P65Warnings.ca.gov.”
(iii)リストアップされた発がん性物質と生殖毒性物質の両方へのばく露
Warning Symbol:“WARNING:” or the words “CA WARNING:” or “CALIFORNIA WARNING:“Risk of cancer from exposure to [name of chemical] and reproductive harm from exposure to [name of chemical]. See www.P65Warnings.ca.gov.”; or “Can expose you to [name of chemical], a carcinogen, and [name of chemical], a reproductive toxicant. See www.P65Warnings.ca.gov.”
(iv)リストアップされた発がん性物質と生殖毒性物質の両方として化学物質へのばく露
Warning Symbol:“WARNING:” or the words “CA WARNING:” or “CALIFORNIA WARNING:“Risk of cancer from exposure to [name of chemical] and reproductive harm from exposure to [name of chemical]. See www.P65Warnings.ca.gov.”; or “Can expose you to [name of chemical], a carcinogen, and [name of chemical], a reproductive toxicant. See www.P65Warnings.ca.gov.”

(7)判例法と「60日間の違反通知」
米国は判例法主義であり、過去の和解事例や裁判結果が重要な基準となります。Prop65の特徴は、「60日間の違反通知」(*15)という仕組みです。民間人やNGOが違反を発見した場合、事業者に通知を送ります。60日以内に州当局が介入しない場合、その民間人が事業者を提訴でき、勝訴すれば罰金の25%を報奨金として受け取れるため、「賞金稼ぎ」的な訴訟が頻発しています。直近の状況は、60日間の違反通知の(60-Day Notice Search)データベースで検索可能です。
過去の和解事例や支払われた罰金額、弁護士費用などの統計・詳細を年次ごとにまとめた「和解・判決の年次報告書(Annual Settlement Report)」(*16)も、公開されています。

(8)和解事例
Prop65の和解はカリフォルニア州司法長官のデータベースに収載されています。
(i)子供用ランチバッグ(PFOA)(*17)PFOAが含まれるランチバッグに対し、警告なしで販売したことへの是正措置。
(ii)シャワーライナー・カーテン(PFOA)(*18)家庭用シャワーライナーにおけるPFOAばく露に対する和解。

自分で特定の製品カテゴリーを調べたい場合は、以下の手順で最新の訴状(Notice)を確認できます。
https://oag.ca.gov/prop65/60-day-notice-search

(i)Chemical Name に「Perfluorooctanoic Acid (PFOA)」を選択。
(ii)Search をクリックすると、PDF形式の訴状(違反通知)の一覧が表示されます。
-Notice PDF:違反の内容と対象製品のリスト。
-Settlement:合意に達した後の和解条件(罰金額や再処方基準)。

次の機会に、カルフォルニア州法の「責任ある電池リサイクル法(SB 1215)」及びプラスチック汚染防止および包装材生産者責任法(SB54)についてご説明します。

化学物質法規制研究会 松浦技術士事務所 松浦 徹也 氏

引用
*1:Green Chemistry法
https://oehha.ca.gov/risk-assessment/green-chemistry
*2:SCP 下記URLはDTSCからのリンク先(契約企業のWebページ)です
https://govt.westlaw.com/calregs/Browse/Home/California/CaliforniaCodeofRegulations?guid=IAD4F8D705B6111EC9451000D3A7C4BC3&originationContext=documenttoc&transitionType=Default&contextData=(sc.Default)
*3:Cal SAFER 公式サイト
https://calsafer.dtsc.ca.gov/
*4:候補化学物質
https://dtsc.ca.gov/scp/candidate-chemicals-list/
*5優先製品
https://dtsc.ca.gov/scp/priority-products/
*6:SCPプログラム総合FAQページ
https://dtsc.ca.gov/scp/faqs/
*7:カテゴリー別FAQ
https://dtsc.ca.gov/faq-category/scp/
*8:代替案分析(Alternatives Analysis)に関するFAQ
https://dtsc.ca.gov/scp/alternatives-analysis-frequently-asked-questions-faqs/
*9:SCPプログラム概要と流れの解説
https://dtsc.ca.gov/scp/safer-consumer-products-program-overview/
*10:CalSAFER
https://calsafer.dtsc.ca.gov/
*11:AA Guide
https://dtsc.ca.gov/scp/alternatives-analysis/
*12:Prop65_Code
https://leginfo.legislature.ca.gov/faces/codes_displayText.xhtml?lawCode=HSC&division=20.&title=&part=&chapter=6.6.&article
*13:Prop65_ Regulation
https://oehha.ca.gov/proposition-65/law/proposition-65-law-and-regulations
*14:Prop65 List
https://oehha.ca.gov/proposition-65/proposition-65-list
*15:60日間の違反通知
https://oag.ca.gov/prop65/60-day-notice-search
*16:和解・判決の年次報告書
https://oag.ca.gov/prop65/annual-settlement-reports
*17:子供用ランチバッグの和解事例
https://oag.ca.gov/prop65/60-day-notice-2023-01283
*18:シャワーライナー・カーテンの和解事例
https://oag.ca.gov/prop65/60-Day-Notice-2023-02761

免責事項:当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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