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トップ講師コラム・取材記事 一覧> 特許について:情報機構 講師コラム

講師コラム:隈元 光太郎 先生


<隈元先生の書籍>
  書 籍:  パテントマップ作成・活用ガイド

コラムへのご意見、ご感想がありましたら、こちらまでお願いします。

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第1回 環境保全技術と特許
 


 21世紀は地球環境問題への取り組みが最大の課題となっている。地球に与える環境負荷が自然の回復能力の範囲内にとどまる社会をどの様に捉え、実現に向かうかが検討されている。また、あらゆる産業分野では、環境を前面に押し出した事業が展開されつつある。

 新たな事業展開、研究開発の現場でも「環境保全技術」が重要課題となっている。

  環境問題にどれだけ積極的に取り組んでいるかが、企業価値を左右する時代となり、また「環境経営」という言葉も使われているように、環境技術の水準が企業経営の柱となっている。日経の「環境経営度調査」によれば、過去10年の総合順位の算出で、グローバル市場で競争力を持つ企業が上位に並ぶ傾向が出ているという。国際的な環境への規制や関心の高まりにも対応しているのである。このような状況を考えると企業におけるすべての部署で環境意識を高めることが必須となる。研究、製品開発、新商品開発、事業展開、製造、環境保安などに携る者は環境に対する意識のみならず、最新の技術、考え方などを知ることが必要になる。

 年間40万件ほど出願される特許の中で、環境に関わる出願は増え続けている。しかし 「環境保全技術」を系統的に分類し、それぞれの分野でどのような展開がされているのか、調査するのは困難な面が多い。特許調査に活用されている技術分類すなわち国際特許分類では、「環境」という視点の項目が作られていないからである。

 そこで、日本の特許庁では、各分野にまたがり横断的な観点から情報検索を可能とするものとして、「広域ファセット記号」というインデックスを用意している。その中に環境保全関連技術の項がある(Zを頭文字とする3つの英文字から構成される)。すなわち



 ちなみに「広域ファセット記号」は次の11項目が設定されている。


 さて、環境技術に対する最近の技術動向を特許から調べる機会も多くなる。そのため環境関連技術を次のように分類すると調査しやすいようである。

  A.環境不適合物(有害物質・廃棄物等)の再資源化技術
   (廃棄物処理等に活用される新技術など)
  B.グリーンケミストリーに繋がる最新技術
  C.環境調和型エネルギー関連技術
    1.新しい一次エネルギー供給源(再生可能エネルギー)
    2.最終エネルギー活用技術
  D.地球温暖化、生態系への阻害要因に対応した素材と技術(エコマテリアル)
    例えば生分解性プラスチックスなど環境負荷軽減マテリアル

 概略どのくらいの特許が出願されているか実際に特許情報を検索してみた。



103415件

・ZBP・・生分解性ポリマー[適用範囲 全範囲] (平成14~付与)は
5035件
であった。
 「生分解性ポリマー」最新の特許のリストを出してみる。(表参照)
 このテーマでは「広域ファセット記号」が用意されていたので検索は容易であるが、上記環境技術の検索はそう簡単ではない。このような対象技術をパテントマップを作成して、技術の動向を解析するのも有意義である。
 目的に応じ、分野ごと、対象技術ごとに特許を収集し、特許の中を読みながら目的とする情報を仕分けすのである。これがパテントマップ作成のスタートになる。




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第2回 仕事に活かす情報とは
 


「情報」の意味
 仕事を進める上で有効な情報を把握し業務の中でそれを活用する事は大変難しい。先ず、情報とは何かもう一度その意味を知っておく必要がある。
 情報は人が作り、送りだし、再びそれを人が五感で受け自己の持つ知識を基に新しい「報せ」を創造し、送り出していく、それが情報と考えるとわかり易い。
 ここで言う「報せ」として、活字、映像、音声、書類、本、ディスク、等が媒体となる。即ち情報は常に再生産され、人が必ず介在し、その情報を共通の「知識」(これも情報の一つ)としてそれぞれ自己の主観で蓄積されていく。
したがって人そのものが「情報」とも言える。業務の中で言えば、受け手のない「報せ」は「情報」ではない。自分が受けた「報せ」を自分の知識によって新たな「報せ」として活用し、他に影響を与えて、はじめて「情報」となるのである。(図1



 情報を解析するという事は、ある目的で受けた情報を自己の「知識」によって新たな情報として創造する事である。情報を解析し、価値ある情報を作り出す行為は、創造力を必要とする。そのノウハウは個人のもつ能力でもある。
 目的意識を明確に出来るならば、あとは自己の感性によって誰もが容易に情報をうまく料理する事が出来るのである。この感性を「情報感性」と読んでいる。
情報を活用するには、目的を明確にして、仕事の課題を掘り下げ、具体的アイテムに結びつける方策を創造し、実際の仕事に活用してこそ「真の情報」という事になる。その原動力が情報感性なのである。

情報収集とは
 情報を集める行為は余り意識されていない事が多い。意識しなくとも情報は手に入るという認識があるからである。情報を収集する立場にたって、情報を集める、四つの場面を考えてみよう。

(1)情報を待つ
 消極的響きを持つ表現であるが、情報収集の基本である。出来るだけ多くの情報を毎日認識できる環境を作る。例えば新聞に目を通す、TVの報道番組を見る、クリッピングサービス、SDIサービス、メールマガジン、を購入する、情報脈(人との交流)を広げる等である。これらを活用できるための原動力は「好奇心」である。常に問題意識、関心事を明確にしておく。

(2)テーマを決めて、情報を探す
 情報を探すには、情報源の利用方法を知っておく事である。メディアの発達と多様化により、見掛けの情報量は膨大化している。
しかし情報の原点はそれ程多いものではない、一つの情報がいろいろなメディアで提供され、加工され流通しているのが実態なのである。この事は情報のコストが下がり、誰でも容易に情報を入手出来る状況にある(一つの情報源から多面的に複数の情報機関で加工され提供される)。調査目的を明確にし、的確な情報源を見つける事が重要となる。

(3)見えない情報を見つける
 未公開の情報を探す事なのだが、「丸秘」情報の合法的な入手方法を考えがちであるが、未公開情報は、実は公開情報を解析する事とイコールなのである。
例えば調査会社の調査は、出来るだけ多くの関係筋から情報を集め(インタビューなどで情報を探る)、その情報を分析・解析する方法が取られている。即ち、公開情報が未公開情報に繋がるのである。そこで、より有効な生きた情報として、幅広い情報脈(人とのネットワーク)の開拓が何よりも必要になるのである。

(4)身近な情報を見直す
 身近な情報を見直すことも重要になる。例えば、毎日の新聞記事を時系列に並べて、事象のトレンドを読んで、情報の流れを見つける(線情報)ことである。
 次ぎに色々な切り口(観点)で情報を仕分けし、それぞれの切り口をクロスして事象の広がりと、流れを認識し、情報を解釈すれば新しい情報(面情報)が見えてくるのである。いずれにせよ身近な情報を生きた情報として活用できることが重要である。情報を解析するというのは、収集した情報を目的に応じた切り口で解釈する事である。

誰にでも使える情報源
 情報源という言葉は人によって、認識に幅があり一概に定義付ける事は出来ない。情報を解析し活用するという立場から、積極的に情報を探すという「行為」そのものが情報源となる。インターネットを利用するのも正にその「行為」の一つである。「情報を探す」を専門的には情報検索と呼んでいる。インターネット時代になって、情報検索は誰にでも使えるものとなっている。
 情報検索は情報の集合から、明確な目的のもとに、必要とする情報を探し出す行為である。ここで言う「情報の集合」がデータベースである。「必要とする情報」とは情報を探すものの意志がはっきりと反映されていなければならない。データベースがいくら膨大な情報を持っていても、検索する人の能力以上の結果は出て来ないと言われるのも、このことを指すのである。
 そこで身近に使えるデータベースの一つである新聞記事データベースの活用法を考えてみよう。

新聞記事データベース
 最新の産業動向、企業動向、技術動向等を知るには新聞記事情報が早くて確実である。
新聞では、「A社がM社を特許権侵害で告訴した」といったような事件も、国内外を問わずほとんど時間差無しで伝えられる。「B社が新しいタイプのコピー機を開発した」と言うニュースが報道されれば、自社の開発やライセンシングに検討を加えることも出てくるであろう。このように、企業情報にしても技術情報にしても、日々社会の動きを監視しながら、迅速に対処する必要がある。また過去の情報を調べなければならない場合も多い。こうした情報を得るための手段として、新聞記事データベースは不可欠なものとなっている。
 新聞記事データベースは、現在では一般紙をはじめ、産業新聞、業界新聞など、ほとんどの新聞社がデータベースを作成し、記事情報として提供している。これらのサービスは誰もが気軽に利用できるようになっている。現在、日経4紙、朝日、読売、毎日、日刊工業、化学工業日報などの記事データベースは、主要記事の全文がタイトル、日付とともにデータとして収録されている。
 これらのデータベースは各新聞社、情報提供会社を通じて、インターネットで提供されている。
 新聞記事データベースの特徴は、単に過去の情報を探すツールだけでなく、先に述べた「線情報」を容易に作れる点にある。一つの観点で集めた、過去の一定期間の新聞情報を時系列に並べると、一つの流れとして新しい情報が見えてくる。
 個々の点情報はそれぞれ関連を持ちながら現在の視点で蘇るのである。3年とか5年という単位で過去の記事を集めることによって、ある企業や業界の動向が認識される。これが過去のニュースが現在の資料として、活きてくるのである。これも新聞記事情報がデータベースとして活用できるからである。

実際のテーマで、新聞記事データベースで検索して、その結果一覧を「線情報」として眺めてみよう

テーマ <最近話題のインクカートリッジのリサイクルと特許訴訟>

日経(4紙)記事データ検索(日経テレコン)
     検索キーワード:  インクカートリッジ AND リサイクル AND 特許
     検索結果  22件の記事
以下、古い年代からの記事リスト(2004年12月~)

この記事リストから、様々な情報を読み取る鍵が見えているのである。読み取る力が情報感性である。


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第3回 特許情報を活用するために必要な補足情報(2007/11/27)


 前回のコラムで身近な情報を意識的に活用することで、情報感性が磨かれていくことを述べた。特に新聞情報についてその活用場面を紹介したが、今回は特許情報との関連を概観してみよう。

 意識的に特許情報と組み合わせる情報として、良く使われるのは、新聞記事情報である。例えば、企業動向や技術動向を特許情報で把握することは当然であるが、一番情報として早いのが新聞記事情報である。新聞記事には細かい技術内容は詳細に記載されないが、企業、大学などの動きは常時報道されている。新聞記者の中には技術関係の専門家がいて、学会情報、科学情報も取材されている。
 したがって新聞情報は利用の仕方によっては、有効な技術情報源になり得るのである。新聞記事情報には、信憑性のない記事とか、宣伝記事も混じっているが、そこに報道された事実のみを認識すればさほどの問題はない。新聞記事は読みやすく、解り易く書かれているが、技術情報の詳細については文献等で確認する必要もある。
 しかし企業動向については、最新の情報が得られる点で重要であり、特許情報を補完するものとなる。

 ある企業による,ある技術開発の新聞発表の時期と,特許出願の時期とは一定の関係がある。出願とほぼ同じ時期に新聞発表を行う企業もあれば、特許が公開された時点で,新聞発表することもある。したがって、過去の新聞記事と特許情報との係わりを知っておく事も重要である。

 新聞記事情報は、すべてデータベース化され、いつでも利用できるので、記事の時系列リストをアウトプットして、特許情報リストと対比するのが良い。特許が企業の具体的な研究開発の集大成であるならば、新聞記事情報はその企業のもっている活動の実態であり企業の「顔」である。

 新聞情報と特許情報の関係は、企業動向のパラメーターとして相互に活用出来るが、技術的な内容に付いては両者だけでは詳細が解らない場合も多い。そのような場合は、文献情報や製品情報によって、具体的内容を把握するのである。  情報は一面的なものでなく、多種多様なソースが絡み合ったものであり、それをどの程度解きほぐせば事実が読めるかということが重要である。

 企業の活動をもっとも正確に把握できるのが特許情報である。しかし一つ一つの特許を点として見ただけでは、その企業の開発戦略は見えて来ない。その企業の特許出願の時間的流れと技術的な傾向を読み取り、特許以外の情報(新聞記事情報)と組み合わせて初めて、開発戦略など企業の動きが見えて来るのである。一つ一つの情報を時間の流れで整理すると、そこに新しい情報が見えてくる。

特許情報の捉え方
  一つの技術(発明)に対して、一件の特許が対応するという事は、ほとんど有り得ない。多数の特許によって一つの発明が生かされ、複数の特許権が相乗的に発揮され、その新技術の事業が利益を生む、これが技術競合時代の特色である。この様な新技術の特許はどのように「特許群」を形成するのか。発明の第一段階で最初の出願があり、その後次第に具体的な条件を選択した発明が次々出願されていく。
そのほか関連特許と防衛特許、製造特許、応用特許が出願される。ある企業における新技術の関係特許の中からキーになる特許を特定する事が必要になる。しかも時代と共に技術は進化して、キーとなる特許も新しいものに変遷していく。
 一つの技術の10年間におよぶ関係特許が2000件近くになることは不思議でない。その時の最も中心となる特許を「クラスター」と呼ぶ事にする。技術動向を探る時、特許群の中で、ある技術の「クラスター」を見つける事が大切である。



 ある技術の特許群からクラスターを見つける事は比較的容易であるが、日々公開される膨大な特許から時代を先取りする新技術の萌芽を見つける事は極めて困難と言われている。それは、公開される特許の数が多すぎる事と、いろいろな種類の特許が次々見掛け上ランダムに公開されてくるからである。一方で未来技術に繋がる新技術は必ず特許に出願される事も事実である。未来技術の発見が困難であるからと言って、諦める必要はない。それぞれの技術分野によって、特許の出かた出し方は違うが、特許を出願順(時系列)に並べて出願の流れを把握し、発明の技術思想と技術背景、先行技術の問題点、その解決手段の新規性、などを解釈すれば、個々の特許の絶対的価値を見出すことも可能である。

そのためには次の事を頭に入れ実践する事が望まれる。
 (1)科学技術文献に目を通して最先端技術の流れを掴んでおく
 (2)学会発表の内容をチェックし、当業者との交流を心掛ける
 (3)新聞記事情報にも注意を払う(科学記事、学会情報、先端技術解説、注目
    技術報道)
 (4)それぞれの技術の特許クラスターを見つけ、その公報(明細書)を読む。それに
    は公報の読み方がポイントになる
    例えば、明細書中には、先行する技術内容が記載され引用文献名・先行する特許
    番号が必ず表示されている。この引用情報は、技術の発展段階を示す有力な指標
    となる。

新聞記事情報と特許情報の対比
 新聞記事と特許出願の関係を実際の企業に着目して対比して見よう。
A社の食品包装材料とそれを使用した製品情報を整理したデータである。
特許は出願日基準、新聞記事は記事掲載日付を基準としてある。この対比表を見ると、製品と包装材料との関連が見えてくる。


 


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第4回 パテントマップを作る(2007/12/11)


 研究者や技術開発者にとって、情報は生命であり、創造活動の資源である。
 しかし情報をどのように有用な資源とするか、なかなか具体的には説明しにくいものである。研究課題の発掘と発明創造は単に多くの情報を集め、その中から有用な情報を見つけるだけでは、課題解決型研究の域を出ないのである。発想のプロセスのなかで、最も重要なのは情報の「構造化」と「再構造化」である。情報の構造化とは、情報をさまざまな切り口(観点とも言う)で分類・系統化する事と考える。
 再構造化とは、最初に解析した切り口分類を絶えず新しい視点で再考し、新たな切り口項目で再分類する事である。構造化された情報は、新しい複数の「概念」を生み出す可能性を持つのである。なぜなら、構造化された情報は社内資源として、多くの部署・グループ内で有効に活用できるので、それぞれの立場で「新しい概念」が発想されるからである。ここで発想される「概念」を具現化して新しい課題や発明が創造されるのである。

 資源となる情報源はいくつもあるが、構造化し易い情報として「特許情報」に絞る事が有用である。そして、特許情報構造化の一つが、いわゆる「パテントマップ」である。



   研究開発の成果を新製品として市場に投入するまでには膨大な投資を必要とする。特許情報の活用はその成否の鍵を握る資源の一つといっても過言ではない。

 研究開発において企画・探索の段階では、特許情報から技術の動向(ニーズ、課題)を把握し、それによって、研究・開発の技術や製品のアイディア、ヒント、方向性、競合技術、競合企業の動向などの情報を得る。研究開発がスタートすると、新しいアイディア、新技術が生れ、基本特許の出願となる。出願時には先行技術の調査が行われ、それから得られた関連特許情報から、さまざまな技術情報を糧として、新たな技術思想が創造される。
 そして、応用技術や、要素技術の展開に係わる特許出願が続く。さらに開発が進み市場参入の段階では、製造技術特許、製品特許が出願される。この段階になると他社の権利を侵害するのを回避するために、特許の権利関係の調査が行われる。新製品の販売開始段階では、自社製品を守るために、他社特許の継続的な調査が行われる。
 また、製造技術の改良、製品の機能改善など製品が市場で利益を生んでいる段階でも、次期製品への投資、改良特許の出願は続くのである。このように特許情報は研究開発から新製品市場投入まで、継続的に活用されているのである。

したがって特許情報を企業で活用する場面は、次のように考えると理解しやすい。
(1)経営・開発戦略情報としての活用
(2)競合他社動向の分析
(3)研究開発のテーマ探索
(4)研究開発対象テーマに関する最新情報の把握
(5)研究開発活動におけるアイディアを得るために
(6)新製品・新技術開発のためのニーズ探索
(7)知的財産権に係わる事業戦略の情報として
(8)研究開発戦略(特許出願戦略)のための情報

 特許情報は、最新の企業における研究開発の方向、意志を反映している。又特許は企業の研究開発の集大成でもあり、経営戦略と連動している。そして特許情報は、R&D活動の一部と考えることが出来るのである。

【課題発掘のステップ(発想法について)のイメージ】



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第5回 マイクロ燃料電池(携帯型燃料電池)の実用化は近いか(2007/12/25)





 マイクロ燃料電池が実用化の段階に来ているという、マイクロ燃料電池(携帯型燃料電池とも呼ばれる)は、音楽プレーヤー、携帯電話、デジタルカメラ、ノート型パソコンなど小型の携帯情報機器向けに開発されているコンパクトな形状の燃料電池のことを言う。燃料電池はクリーンエネルギーとして注目されているが、マイクロ燃料電池はそれに加え、燃料を供給し続けさえすれば発電する。従来の電池のように充電する手間が省けるとして、実用化が期待されている。

 最近の新聞記事から各社の開発状況が見えてくる。栗田工業は「ダイレクトメタノール燃料電池(DMFC)」向けに、固体状のメタノールを開発した。燃料に固体メタノールを使って発電するもので、メタノール燃料の扱いが容易となる。

 NTTドコモとマイクロ燃料電池専業ベンチャー、アクアフェアリー(大阪府茨木市、相沢幹雄社長)が携帯電話用燃料電池の実用化に向け、共同開発に合意したと発表。このほか、日立、東芝、NEC、ソニーなどが開発を進めているという。

 燃料電池として代表的なものとして、「固体高分子型燃料電池」(PEFC)が在る。燃料電池は、燃料としての水素と空気中の酸素が化学反応する過程で生成する電子を取り出して発電する。PEFCは化学反応の場(電解質)として固体高分子膜(プロトン交換膜)を基材として使い、水素を燃料とする。

 自動車用や家庭コージェネレーション(熱電併給)用燃料電池はPEFCが一般的。燃料は純水素を使うほか、アルコール系や炭化水素系物質を改質して発生した水素も利用する。

 マイクロ燃料電池は燃料として水素ではなく、メタノール水溶液を直接使えるDMFC 「直接メタノール型燃料電池」が主流であった。化学反応の場に同じ膜を用いる点でPEFCに属するが、燃料が異なるため特にDMFCとして区別している。PEFC用と同じ電解質膜を使うこともできるが、燃料のメタノール水溶液が漏れる(クロスオーバー)、膜の単位面積当たりの電気出力が弱いといった課題がある。

 しかし此処に来て、マイクロ燃料電池でも直接水素を発生させる方式が開発された。それぞれの方式でメーカーが開発を競っているが、いずれの方式でも基本特許を持つとする企業などが権利を主張し始めている。今後、各メーカーは特許使用料の支払いなどを迫られる可能性もある。

 マイクロ燃料電池の方式は「直接メタノール型(DMFC)方式」と「固体高分子型(PEFC)方式」に大別される。DMFC方式は燃料にメタノール水溶液を使う。PEFC方式は一般的な燃料電池と同じく燃料に水素を利用する。

 このうち、DMFC方式については、カリフォルニア工科大学が米国特許「US5599638」などの基本特許を保持しているとしており、同大発ベンチャーの米DMFC社がメーカーにライセンス契約を結ぶことを提案し始めた。日本ではまだ出願中だが、すでに特許が成立した米国に輸出する場合にはライセンス契約を結ぶ必要が出る可能性が大きい。

 「DMFC社は、同社とそのパートナーが製造・販売するメタノール燃料カートリッジを採用し、燃料カートリッジの販売で得た利益をDMFC社と分配することを提案している。カール・クッコネン最高経営責任者(CEO)は「メーカーは契約初期に多額の支払いをする必要はないので負担は少ない」と言う。DMFC方式の普及にも貢献する新しいライセンス方式だと主張している。」(日経産業新聞 06/10/17)

 一方、PEFC方式は、アルミニウムまたはアルミニウム合金を水素発生材料として使う方式が最近注目されているが、室蘭工業大学の渡辺正夫教授らがこの方式に使う燃料「活性アルミ」の製造方法に関する特許を出願中(特開2006-45004)(特開2006-63405)という。渡辺教授はまだ具体的なライセンス方法を明らかにしていないが、「今後、日立マクセルと燃料供給方式などに関して共同開発を始める予定」としている。

 PEFC方式では、ベンチャーのアクアフェアリー(大阪府茨木市、相沢幹雄社長)と共同開発を進めているNTTドコモの対応が注目される。両社は水素発生材料を明らかにしていないが、何れ特許問題が派生すると思われる。

 この様に新しい技術開発においては常に特許問題が生じるのである。

 マイクロ燃料電池に関連する特許を調べると、150件近くの特許が検索されてくる。





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第6回 発酵法による水素の製造方法は実用化するか(2008/1/22)




 原油価格の高騰、バイオ燃料への注目など地球温暖化防止対策の動きとともに、持続可能なエネルギーの開発が、加速する状況にある。 次世代エネルギー源の本命と期待される燃料電池は、水素と酸素を反応させて電気を作り出す。
 二酸化炭素(CO2)が発生しないので、地球温暖化防止に役立つと期待されている。これに使う水素の製造方法は様々だが、現在、家庭用や乗用車向けに普及し始めている燃料電池に使われている水素は、石油やガスなどの化石燃料を原料にしている。
 製造過程でどうしてもCO2が発生するため、発電時にCO2が発生しなくても真にクリーンなエネルギーとはいえない。

 化石燃料を使わずに水素を製造する方法としては、水力や太陽光発電を利用して水を電気分解する取り組みなどがあるが、廃棄物等から製造するこころみが注目されている。二酸化炭素(CO2)の排出を減らせるだけでなく資源を有効活用できるとあって、資源に乏しい日本にとって実用化への期待度は大きいといえる。
 ただ、現時点では実験室レベルでの成果がほとんどで、燃料電池への供給源となりうるのか正当に評価するのは難しい。

 例えば、サッポロは島津製作所、広島大学と共同で、廃棄するパンから効率よく水素を生成する実証試験に成功した。生成する水素ガスに有害物質である硫黄分を含まず、燃料電池へ直接利用できる。
 その後、食パン工場の廃棄物から水素を高効率で抽出する技術を開発を進めている。ホップを使って雑菌の繁殖を抑制、発酵を促してエネルギーの回収効率を80%にした。実用化を見込んで1000リットルの大型設備で実験を繰り返し、プラントで同様の効率で運転できるのか確かめられた。
 具体的には、食パン製造時に出る廃棄物などを水に混ぜて反応容器に入れる。加熱すると微生物によって廃棄物内の糖、グルコースが発酵して水素を出す。その際、新たにホップを加えることで加熱せずに雑菌を抑えて発酵させる。加えるホップもビール生産に利用した廃棄物を使える。パン工場と協力し、食パン廃棄物を900リットルの試験器に投入する実験を180日間実施。廃棄物内のグルコースが持つエネルギーの約8割を水素として回収できたという。今後は大型装置で効率や運転条件などを確かめる。

 三洋電機は生ゴミからの水素製造に取り組んでいる。粉砕した生ゴミに加熱などの前処理を加え水素発酵槽に投入する。発酵槽の温度を36~37℃に保つと、生ゴミに付着している水素発酵菌の働きが活発になり、約6時間後には水素を含むガスが発生する。1キログラムの生ゴミから7.5リットルの水素を製造できたという。
 微生物を使った水素製造の取り組みは他にもあるが、生ゴミに付着している微生物をそのまま利用するのが特徴。

 廃棄物を利用した水素製造は実用化に向けて課題は多い。開発のカギを握るのは多様な企業や研究組織が互いの創造力を連結する「連結創造」が必要になる。
 有機廃棄物等からの水素発酵による水素の製造法に関する特許も多く出願されている。「水素発酵」 「燃料電池」というキーワードで特許検索してみたら、61件ヒットした。
 特許出願リストを見ると、発酵法による水素製造に取り組んでいる企業・機関は多岐にわたっていることが分かる。

 出願件数の多い企業は(株)タクマ、東京瓦斯、(株)荏原製作所、三洋電機、(株)電制、また独立行政法人産業技術総合研究所などである。このほか鹿島建設、サッポロビール、(株)西原環境テクノロジー、松下電産、電源開発、新日本石油、独立行政法人科学技術振興機構、広島大学、岡山県などが出願している。





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第7回 特許で見る「超臨界水」の技術(2008/2/5)




 超臨界水とは、水は零度で氷になり100度で沸騰して水蒸気に変わる。これは地上1気圧の状態である。密閉した容器の中では氷は零度で水になり100度で水蒸気になりさらに熱し続けると圧力は高まり、374度、218気圧の臨界点に達すると、別の状態に変わる。液体のように分子が密集しているのに、上記のように分子が一つひとつ激しく動き回る液体期待の両方の特徴を持つ状態である、これを「超臨界水」と呼んでいる。

 「超臨界水」の性質を利用して様々な研究開発が進んでいる。超臨界水の本格的な研究は、70年代後半に米国で生物兵器を処理する目的で始まったといわれる。80年代後半からは、地球温暖化ガスのフロンの分解技術として注目され、研究が進んだという。日本では、PCBを分解する設備で超臨界水が使われている。湖尾の設備では、ほぼ100%PCBを分解して二酸化炭素と食塩に変化させる。

 「超臨界水」は無機物が溶けにくくなる反面、有機物を良く溶かすようになり、これに酸素を加えた状態では、有機物が酸化される。温度、圧力を変化させ反応を自由に制御できるという。

 超臨界水を溶媒として、廃棄物の発生の少ない有機合成、廃棄物の処理など、応用の幅は広がっていく。

 さて、「超臨界水」を活用した環境関連技術が重要な位置付けとなっているので、これらの技術動向を特許から探ってみることにした。いわゆるパテントマップを作ってみるのに、先ず情報の収集方法がポイントとなる。

「超臨界水」が技術のキーであり、「環境関連技術」という観点から、特許情報を集めることになる。

 特許庁のパテントマップ用識別記号(分類の一つ)に広域ファセット記号:ZAB(環境保全関連技術に関するもの[適用範囲 全範囲]【平成6~】)を用いて特許データベースで検索してみた。(ファセット記号:ZAB  and  フリーワード:超臨界水)
284件(2~3件ノイズあり)

 出願企業の内、オルガノ株式会社が群を抜いて出願件数が多かった。次に中部電力、石川島播磨工業、三菱重工業、東芝、日立製作所、など大手企業が参入している。件数は少ないが、研究機関、大学などの出願が目に付く。本格的パテントマップとはいえないが出願人ランキングリストを表にしたので参考まで。


   水の状態図(イメージ)
朝日新聞・【新科論】2006.11.28(夕)より引用











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第8回 情報を読み取る(2008/2/19)




 仕事を進めるため、何かを始めるとき、情報を集め有効なアクションを見つけることは日常のあまり意識しないことが多いが、自分にとって有効な情報がないときなど、情報の収集と情報の読み取り方など気にすることが多い。そこで情報の読み取り方、解析の仕方など考えてみる。

 情報を解析するという行為は創造性に基づく思考の現れであるが。解析行為を「人」の側から分解すると、2つの大きな要素に分解できる。一つは、「作業」であり、もう一つは、「思考」である。
 この2つの要素は解析行為(プロセス)の中で混在しているのが特徴である。「作業」とは誰がやってもほぼ同じ方法と結果が得られる動作であり、マニュアル化が可能である。
しかし「思考」は脳の作用(ブラックボックス)であるため、人夫々に大きな差異があり、当然マニュアル化できない。「思考」の本質は、情報の中身を解釈する中心的要素である。

 脳の働きは意識して見ることは出来ないが、脳の働きを援助する手段はあるはずである。情報を整理加工する事はその手段の一つなのである。即ち、現在までの自分の経験、知識により収集した情報をいろいろな観点(切り口)から整理して、「思考のためのチャート」を作成する事などである。「思考」を支援するための情報加工、そして更に大切なのは脳を活性化する事にある。これが情報感性を高めるということである。

 自分一人では、発想に限界がある場合、何人かの人と情報のキャッチボールをする事で、新たな発想が生れ新しい情報が創造されるのである。
 「作業」と「思考」プロセスは完全に分離しているわけではなく、お互いにクロスして作用している。「作業」は誰がやってもほぼ同じ結果が出るが、「思考」はそれぞれ人によりその結果が異なるのである。ここに情報の解析を複数のメンバーでやるメリットがある。
 即ち「作業」プロセスの要素が多い部分は分担するが、「思考」プロセスの要素が多い部分は、一人の思考で創造していくか、数人でディスカッションして創造していくのである。
 情報検索のキーワードの選定、情報の解釈、結論を導く等は典型的な「思考」プロセスである。一方、情報の仕分けと分類、情報検索の実行、資料の収集、図・グラフの作成、レポートの作成等は「作業」プロセスの要素が大きい。いずれにせよ「思考」と「作業」は表裏一体であり、実際の解析過程ではあまり意識されないのが普通である。しかしこの「思考」・「作業」の二つのプロセスが存在する事を認識する事が重要なのである。
 「思考」を支援するのが情報加工であり、その基礎は目的を明確にし、情報の見方すなわち切り口を創造的に設定する事にある。



 ところで、情報を読み取る行為で最も難しいのが結論を導き出すところであろう。結論と言うのは、現在見えていない状況で、将来、発生する事象を予測する事であり、その情報に対する行動(対策)を示す事である。この様な「予測する能力」とはどのようなものであろうか。人の脳の働きで必要な要素として、図の様なイメージが浮かんでこよう。


 情報感性は知識を容易に引き出す能力であると伴に、常に情報を監視し新しい知識として蓄積する能力でもある。決断力は直感とヒラメキの要素を持った、判断力ある。一つの情報にこだわり過ぎると前に進めず、逆に小さな情報を無視して、ジャンプすると重大な誤りを犯す。要は、こだわりとジャンプのバランスが重要なのである。見識(現状把握力)を高めるには、情報の流れを構造的に認識するトレーニングが必要である。
 例えば、技術の流れやニーズの変化、企業の発展サイクルなどは、それを動かす環境変化(外部)要因が鍵を握る。この要因の及ぼす相関関係を認識できれば、技術の流れ、ニーズの変化を予測できるはずである。そのためには、過去の情報から、環境変化(外部)要因のトレンドを把握し、その影響を分析して情報の流れとして認識するのである。
 また一つの技術が他の技術にどのように影響するか、技術の組み合わせからどんな技術が生れるのか、それらの情報を総合する能力、そして新技術の萌芽を察知する情報感性、が望まれるのである。これらバランスされた力が総合的洞察力であり、予測能力と言えるのである。(次回に続く)

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第9回 情報感性を磨く(2008/3/4)




 前回、情報の読み取り方について、述べたが、その中で情報感性がポイントになることに触れたが、情報完成についてもう少し考えてみる。
 人間は自分の行動を制御し、新しい創造を行うためには、自身で情報を処理し、解析する、本質を持っている。情報が独立した存在ではなく、人と一体であるという認識が出発点である。情報は人と人のつながりが基礎であり、これを私は情報脈と呼んでいる。日頃から情報脈を大切にする事が情報を解析するための糧ともなってくるのである。
 企業に所属するすべての者は,優れた情報感性が要求されるのである。情報の中には諸々のものがあり,それぞれに有用なものが存在する。 

 昔から,情報は自分で探し,分析してそれをもとに新たな情報を創造し、自分の仕事に生かしていた。情報が膨大になっている現代でもその事は変わらない。幸いここに来て,情報を個人で入手する強力や手段が発達し,誰でもどこでも全世界の情報が入手できる環境にある。 この様な状況の中で、情報収集から解析までのプロセスを日常業務で、実践するためには、情報感性をより磨く必要がある。

 常日頃、次の点を心掛けると良いと思っている。
(1)これからの情報テーマを探索する意欲
     これからのマーケット(ハードからソフト、シーズからニーズ)
     これからの技術の見方(地球環境の視点が重要)
     これからの産業分野を予測する(エネルギー、環境関連、医療・介護、生物科学)
(2)身近な情報の接し方(関心事を持つ)
     毎日の新聞記事、TVニュースに注意を払う(常に興味を持つ)
     自分の当面のテーマに関する学習
     広く情報を閲覧する能力
     トリガー情報を見つける
(3)情報の整理加工を習慣付ける
     情報の中の重要ポイントを見つけ自分の言葉で要約するトレーニング
     多観点でものを見る(切り口を見つける)トレーニング
     情報マップを作る習慣
(4)予測能力を磨く
     情報の総合的解釈
     切り口を軸とする、情報の時間的(年代)流れ
     重要情報を見つける意識と勘
(5)情報解析の実践(切り口の見つけ方)
     情報を自分の切り口で、解釈するトレーニング

情報の仕分け分類を実行してみる
収集した情報を自分の切り口で、仕分けする作業である。ここでは【水耕栽培技術】をテーマとした場合、どのような切り口で仕分けするか、目的に応じた仕分け項目をイメージした。




表 水耕栽培における光源と光制御に着目した特許情報の仕分け例



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第10回 「パテントマップ」という言葉の一人歩き(2008/3/18)




 企業の活動をもっとも正確に把握できる情報の一つに特許がある。
 しかし一つ一つの特許を点として見ただけでは、その企業の開発戦略等は見えて来ない。その企業の特許出願の時間的流れと技術的な傾向を読み取り、特許以外の情報と組み合わせて初めて、開発戦略など企業の動きが見えて来るのである。一つ一つの情報を時系列に並べて整理すると、そこに新しい情報が見えてくる。
 このようにして情報を一つの群・流れとして眺めることが重要である。特許においても、情報を一つの群・流れとして整理加工してみると全体像が浮かんで来る。これがパテントマップの考え方に繋がるのである。

 さて、「パテントマップ」と言う言葉は古くから使われている。1970年特許が公開制度になって間もない頃、「パテントマップ」という言葉が輸入され、一方で特許公開情報を技術予測に活用できないかという研究もなされた。しかし特許情報を技術予測に活用する有効で普遍的な手法は確立されなかった。
 また「パテントマップ」の利用・作り方の方法も具体的に世に出て来なかった。そのため「パテントマップ」と言う言葉が一人歩きして、様々な解釈と誤解を生じてきた。更に1990年代後半以降になると、特許データベースを活用し、パソコンで特許データを加工するソフトとして「パテントマップ」と言う言葉が頻繁に使われている。
 ここで使われる「パテントマップ」は個々の特許情報の持つ具体的技術内容に、とらわれることなく、ある特許母集団のデータを通して、その母集団全体を把握するために作られる統計的マップと呼ばれるもので、技術動向・企業動向の指標などに活用される。特許の統計的処理で作られる図・表(統計的マップ)には多くの形態があり、パソコン用のパテントマップ作成ソフトで誰もが容易に作成できるのである。
 「統計的マップ」は、パソコン上で極めて短時間に、特許情報を統計的に加工して見易いグラフ、図表が作れるのは有り難いが、それ以上の結果は出てこないのである。これは本来の「パテントマップ」とは別物であることは認識されている。
 このようにパテントマップという言葉はかなり広い意味で使われているのが現状である。
単に特許情報を解り易い図表、チャートに整理したものをマップと呼んだり、特許出願のための戦略シートであったりする。パテントマップ本来の意味は具体的技術内容を軸に置いた特許戦略上必要な作戦地図とでも言うべき物であった。
 特許出願と研究開発計画が明確な目的意識を持った時に、特許出願戦略と特許情報戦略が策定され、パテントマップが作成される。単に特許情報を整理加工した表や図や絵を指すのではない。少なくともこの言葉の原点は「特許戦略上必要な作戦地図」として使われたのである。

パテントマップの種類(機能面から見た)
パテントマップを実用的な情報処理として考えるとき、「パテントマップ」を便宜的に次の三つの機能に分けることにしている。
(1)戦略マップ 
(2)情報マップ 
(3)思考マップ

 戦略マップとは、はっきりとした企業目的と開発戦略に基礎を置いた、自社を含む特許情報の解析結果である。一般には、重要プロジェクトテーマの中で作成されるもので、自社、他社、海外出願を含めた特許情報及びその他の情報も多角的且つ継続的に活用できるように加工された情報データベースト考える。

 情報マップとは、具体的なテーマに対して、研究、開発、営業、企画調査,経営者などに特許状況を理解できるように、技術の内容、技術の現状、他社の開発動向、最新の技術動向などを解析した結果、その特許情報を解り易く加工した図・表類である。言い換えるとプレゼンテーションとしてのマップである。
 したがってその解析結果をどのように活用するかが鍵となる。また特許の情報収集から解析までのプロセスが重要である。
 思考マップとは、特許情報解析の過程で、作られる思考のためのチャートを指す。特許の時系列表など、考えるための便宜的スケッチと想えば良い。人に見せるものでなく自分の思考を助ける道具として考える。
 パテントマップは特許情報をいかに活用して、開発戦略の道具として役立つものを作成するかである。

 パテントマップの目的
 情報を解析し、価値ある情報を作り出す行為は、創造力を必要とする。そのノウハウは個人のもつ能力である。特許情報とパソコンなどの道具があって、結果として具体的にパテントマップが示されるが、その過程は本人でさえもなかなか具現化しにくい。
 パテントマップは特許を情報として活用するためのアウトプットの一例であり、特許情報を群として認識しその核心(クラスター)を把握する心構えが重要になる。
 企業の特許出願の時間的流れと技術的な傾向を読み取り、特許以外の情報と組み合わせて初めて、開発戦略など企業の動きが見えて来るのであり、パテントマップ作成には特許以外の情報も活用する必要がある。 
 特許情報の整理加工の基本は、出願日の順に出願特許を並べた時系列表を作成することである。これによって企業の開発動向、技術の展開が認識できる。この時系列表の作成がパテントマップ作成のスタートとなる。

 さて、役立つパテントマップを作成するには目的意識を明確にすることが必要である。その目的として次のような事が考えられる。
 (1)新規事業展開上妨げとなる特許群の分布と権利関係の状況を知る。
 (2)新気参入のために、他社より優位に立つための自社特許群と他社特許群の対比。
 (3)製品開発のため、関連分野の出願状況把握。
 (4)研究開発テーマ探索における対象分野の技術動向。
 (5)海外の事業展開に必要な特許網の把握
 (6)事業戦略における特許権取得状況
 (7)技術導入のための特許取得戦略(クロスライセンスを含む)
 (8)他社特許網排除のための戦略
 などいろいろな目的がある。

 パテントマップは権利情報と技術情報の両面から活用するのが普通であるが、特に特許権の侵害・抵触の関係を判断するとか、企業の販売戦略を目的としたものを「権利マップ」として区別する事が多い。「権利マップ」は侵害・抵触の判断を明確にするため、個々の特許の請求項(権利範囲)や構成要素が理解でき、それぞれの権利の利用関係及び権利期間などが解るようなチャートとして表示する。
 又個々の企業の開発戦略を知るために、ある分野の発明者によるグルーピングとテーマの関連を表現した「発明者マップ」も利用価値がある。パテントマップはそれぞれの場面で、それに適したスタイルがある。
 有用なパテントマップを作成するには、感性と経験が必要といわれている。即ちパテントマップが、情報の創造的成果であると言われる所以であり、その過程が重要なのである。 実際にパテントマップを作成してみた方はお分かりと思うが,かなりの時間と労力が必要で、口で言うほど容易ではない。特に日々の仕事に追われる研究開発者にとってマップどころではないかもしれない。そこを乗り越える事を期待したい。
 マップを作れば研究開発がうまくいくのではなく、マップ作成の過程(収集,整理,加工,解析)で重要なヒント、アイディアが浮かぶのである。パソコンと、マップ作成ソフトがあれば,誰でもマップが作れるという錯覚は今すぐ拭い去るべきである。パソコンとマップ作成ソフトはあくまでもマップ作成(図表作成)のツールであり、情報感性と創造性を発揮する魔法の杖ではない。



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隈元光太郎先生のご紹介

【ご経歴】
昭和37年 東京理科大学理学部応用化学科卒業
昭和37年 呉羽化学工業(株)入社 福島県錦工場勤務の後
東京研究所主任研究員、特許部、産業調査部主査などを経て
昭和61年 特許調査部調査班長
平成元年技術調査部次長
平成9年知的財産部担当部長
平成11年3月同社定年退職後、現在に至る

関係団体 昭和63年7月から3年:日本アグドック・ケムドック協議会会長

著  書 企画手法実践マニュアル(共著):昭和58年企業研究会
      最新 特許情報解析マニュアル:平成15年企業研究会
      パテントマップ作成法・活用法
~特許情報・特許調査・事例・演習~:2004年(株)情報機構

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