「環境法令」制定のもとになった環境問題や国際会議(前) コラム/化学物質情報局

「環境法令」制定のもとになった環境問題や国際会議(前) コラム/化学物質情報局

よくあるお問合わせよくあるお問合せ リクエストリクエスト セミナー会場セミナー会場へのアクセス
セミナーのメニュー

化学・電気系 その他各分野
一覧へ→
  ヘルスケア系
一覧へ→
情報機構 技術書籍情報機構 技術書籍
技術書籍 一覧技術書籍 一覧
   <新刊書籍>
  ・  6G材料
  ・  ラベル・SDS 作成の手順
  ・  PFAS
  ・  労働安全衛生法
  ・  IPランドスケープ
電子書籍電子書籍
化学物質管理化学物質管理
通信教育講座通信教育講座
LMS(e-learning)LMS(e-learning)
セミナー収録DVDDVD
社内研修DVD
セミナー講師のコラムです。講師コラム
  ↑2023/7/7更新!!
お申し込み・振込み要領お申込み・振込要領
案内登録案内登録
↑ ↑ ↑
新着セミナー、新刊図書情報をお届けします。

※リクエスト・お問合せ等
はこちら→ req@johokiko.co.jp



SSL GMOグローバルサインのサイトシール  



 

化学物質管理への取組みを考える


 

(株)フジクラ 電子電装環境部 主席技術員 地頭園 茂 氏


 このコラムではこれから、各種の化学物質法規制の概要・考え方から対応、情報を収集するための方法などを紹介していこうと思っています。皆様のご参考になれば幸いです。


 

第2回 「環境法令」制定のもとになった環境問題や国際会議 − 前編 − 

(2011・7・1)
 

今回は、「環境法令」への期待や制定のもとになった環境問題や国際会議などについて紹介します。


「 環境法令 」 への期待


 

 地球環境保護と持続型社会の実現可能性への明るいビジョンを示すことは、私たちの世代である21世紀においてもっとも大きな課題のひとつと考えられています。
しかし、私たちはどのように進めていけばよいのでしょうか?
 
その答えはいくつかあると思いますが、そのひとつを紹介してみたいと思います。
明るいビジョンを示すための思考実験として、地球環境保護と持続型社会の実現という課題を、次の 3つ の切り口から考えてみます。


(1) 環境資源の社会利用を最適にして、環境と調和するには?
 
  水、空気、生物資源、鉱物資源、化石燃料などの環境資源を社会で利用することを考えてみます。 経済学では資源を利用しますと、リスクと便益が生まれます。環境と調和している社会にとって、環境資源の最適な利用とは、環境リスクと便益とのバランスが適切にとれていることと考えられます。 しかし、そのバランスはいつも固定しているわけではなく、時代や事件などにより変動してしまうようです。

 例えば、原子力発電の環境リスクと便益のバランスは、福島原発事故の前と後で急激に変わろうとしています。 原発の安全神話は崩れてしまい、欧州では原発リスクの最小化に向けて大きく舵が切られ、国民投票で脱原発を決定したり、すでに稼動している原発を停止させたりするなどの政策が急いで進められているようです。

(2) 必要となる社会の合意を形成するには?
 
  地球や社会に深く関わることですから、社会の合意形成が必要になります。社会の合意形成のためには、政治のリーダーシップや社会の一員である私たちの理解や協力などが不可欠であると考えられます。


(3) 実現に向けた進め方は?
 
  環境リスクと便益の最適バランスといった環境調和や社会合意形成の進め方としては、法治国家のルールに従って進めるのが、おそらく現実的ではないだろうかと考えています。

 最適バランスをとるために専門家で組織された審議会等で策定された環境法令案を、国民の代表からなる国会で審議し、可決制定された環境法令は、法治国家のルールにより社会の合意形成がなされている、という進め方です。
昨今の環境法令案については、化学物質規制、補助金等の環境政策やその財源となる新たな税金の導入なども考えられていて、8月31日まで延長された第177回通常国会へもいくつか議案が上がっているようです。

 このように、環境に適切な社会バランスを実現し、政治的リーダーシップのもとで、社会全員が理解・協調して合意形成が得られるように、規制や制度のための「環境法令」が制定され施策が整備されていることは、地球環境保護と持続型社会の実現可能性に向けた明るいニュースだと思います。

「環境法令」は、過去から続いている環境問題などを解決するため、化学物質などの専門家も加わって深く思索され、それぞれ構造化した体系で制定されてきています。最近では環境問題解決のみならず、環境問題を未然に防止する施策なども制定されているようです。 社会全体が「環境法令」を遵守することにより、地球環境保護と持続型社会の実現可能性への明るいビジョンが見えてくるのではないかと期待されています。

このように期待されている「環境法令」ですが、それらは何も無いところから突然制定されたものではなく、制定のきっかけになった環境問題や国際会議などがありました。

制定されるもとになったと考えられる環境問題や国際会議などについてこれから紹介していこうと思います。 もとになった環境問題などを知ることで、「環境法令」をより身近に感じていただいたり、その理解を深めるきっかけになれば、と思います。


 

「環境法令」へ ・・・ 「有害物質(公害)」と「影響物質(地球環境問題)」


 

 産業革命の後、工業生産では環境に悪い影響を及ぼす副産物というのが生成されるようになってしまいました。
そのような副産物は大きく分けて、2種類あります。ひとつは、自然界でまとまって多く存在することがないような「有害物質」、そしてもうひとつは、それだけで有害というわけではありませんが、問題なのはそれが大量になってしまうと、人の健康や動植物の生態系に悪い影響を及ぼしてしまうという「影響物質」です。

 「有害物質」の例としては、カドミウム、鉛、水銀などの化合物、光化学エアロゾル(炭化水素が大気中で酸化されて酸になったもの)、発がん性化学物質、そして硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)などがあります。
 「影響物質」の例としては、メタンや二酸化炭素などもともと自然界に存在している化学物質、あるいはフロンや代替フロンなど人工的に生み出された化学物質などです。

 これらの化学物質は、水や大気中を拡散して移動しますが、「有害物質」が拡散した場合は「汚染(pollution)」となり、大気汚染、水質汚染などという言い方をしています。さらに、有害物質の汚染源が限定され、それによる悪影響がその周辺に限定されているような場合を「公害」と呼んでいます。

 一方、汚染源が数多くあり、それによる悪影響が距離的に広い範囲であるような場合は、より一般的に「地域環境問題」という言い方をします。さらに「地域」が、行政的な区域をまたがるような広範囲にわたる場合(具体的には州境や国境をまたがるような場合)には、「越境(trans‐boundary)」という言い方をすることがあります。

 「影響物質」(それ自体は有害とまでは言えない化学物質)の場合は、一般的に汚染とは呼ばないようです。「影響物質」が私たち人間の生活に悪影響を及ぼすようなメカニズムは、因果関係があり少し複雑になっています。

 例えばフロンは、上空の大気中にあるオゾン層を破壊してしまいます。
オゾン層は、宇宙から地球に降り注いでいる有害宇宙線や紫外線を和らげる働きがあるので、それが薄くなったり、穴が開いたりして破壊されますと、人だけではなく、地球上で暮らしている動植物など多くの生態系にも悪影響を及ぼしてしまいます。

 一方、メタンや二酸化炭素、代替フロンなどは、地球全体を覆っている大気に蓄積されやすい気体です。
その濃度が高くなりますと、地球から宇宙への熱放射が減少してしまい地球表面の温度上昇につながってしまいます。これは「温室効果(greenhouse effect)」と言われています。
そしてこれは、地球全体の気候に影響を及ぼしますので、一般的には「地球温暖化(global warming)」と言われることも多いようです。

 地球の平均気温が上昇することだけを考えれば温暖化ですが、実際の影響はそれだけではなく、局地的に寒冷化したり、また、湿度や降雨、風向きなどの大きな変化を伴ったりすることがあります。
さらに海流の変化や海面の上昇などを伴い、それが更なる気象の変化(異常気象など)を引き起こしたりしていますので、それらも含めて「気候変動(climate change)」と言われることが多いようです。

 このようなオゾン層破壊と気候変動(あるいは地球温暖化)に関する問題は、地球全体に関わることなので、これらをまとめて「地球環境問題」と表現されることも多いようです。


 

「環境法令」へ ・・・ 多くの「公害問題」


 

 社会問題として多くの注目を集めたのは、やはり「公害問題」だったと思います。
 公害問題は、世界の先進工業国や急速に発展している新興国のほとんどで経験されている問題で、先述の「有害物質」による大気や水などの汚染と、それによる健康被害という社会問題です。

 わが国では戦後の高度成長期に発生した、いわゆる「四大公害病」と呼ばれる問題があります。
 (1)熊本水俣病、(2)新潟水俣病、(3)イタイイタイ病、(4)四日市ぜん息 がそれです。

 (1)と(2)の水俣病の原因は、工場排水に含まれていた水銀化合物です。 これが水俣湾(熊本の場合)に放出されたことにより発生しました。 海の魚に水銀化合物が濃縮蓄積され、その魚を通して水銀を摂取してしまった沿岸住民が水銀中毒を起こすことになったものです。

 (3)のイタイイタイ病の原因は、鉱山の排水に含まれていたカドミウムです。
 鉱山から流れてきた排水が農業用水に混じり、農作物、特に米を通して、さらに、飲料水を通して周辺住民の体内にカドミウムが蓄積されてしまいました。
カドミウムは自然界に微量ですが存在しています。しかし、体内に蓄積された濃度が人間の許容範囲を超えてしまったため、強い毒性に変わり、そのため骨がとても脆くなってしまい、簡単に折れてしまうという重篤な症状を引き起こすことになったものです。

 (4)の四日市ぜん息の原因は、四日市第1コンビナートからの排気に含まれていた硫黄酸化物や窒素酸化物です。これらの有害物質が大気汚染を引き起こし、多くの人がぜん息の症状を引き起こすことになったものです。

 同じような公害問題が(程度に差はありましたが)日本の多くの工業地帯で起こっていました。

 発生から現在までのあいだに多くの訴訟が進められましたが、行政対応などにより公害問題はおおよそ解決されつつあるようです。


 

「環境法令」へ ・・・ 「酸性雨問題(広範囲の問題)」


 

 公害被害の発生直後は、原因の特定から始めなければなりませんでしたが、科学技術のめざましい進歩のおかげで、原因さえ特定できれば、その対策はそれほど難しくありませんでした。
 さらに、被害が人の健康に関わることですので、コストを掛けてでも汚染源を根絶するという方向で、社会の合意形成は比較的容易にできたようです。

 次に、もう少し広い範囲での環境問題を見てみたいと思います。

 自動車などの排気ガスや工場の煙突などから排出される煙などに含まれる硫黄酸化物や窒素酸化物は、大気を汚染して、ぜん息などの呼吸器障害を引き起こすことが知られていますが、この大気汚染の範囲がもっと広くなると、さらに深刻な問題が引き起こされることにつながります。

 例えば、硫黄酸化物のひとつである二酸化硫黄(SO2)は、水(H2O)と反応しますと、強酸性の劇物である硫酸(H2SO4)に変化します。そのため、二酸化硫黄が大気中に放出されて雨と反応しますと、硫酸になって降ってきてしまいます。

 また同様に、窒素酸化物が水と反応しますと、強酸性の劇物である硝酸(HNO3)に変化します。そのため、窒素酸化物が大気中に放出されて雨と反応しますと、硝酸になって降ってきてしまうのです。

 このように、大気中の硫黄酸化物や窒素酸化物が水と反応して、強酸性の雨となって降ってくる現象は「酸性雨(acid rain)」と呼ばれています。この酸性雨現象ですが、火山灰などにも硫黄酸化物や窒素酸化物は含まれていますので、自然現象としても起こる現象です。

 しかし、例えば石炭による火力発電などは大量の石炭燃焼を伴いますので、そこから発生する硫黄酸化物や窒素酸化物の量は、自然をはるかに超えたものになり、広範囲に拡散していきます。
 そして拡散した結果、国境や州境を超えて他国や他州にまで酸性雨の被害をもたらすことになってしまうわけです。

 欧州では第2次世界大戦後、火力発電所の石炭燃焼などが原因と考えられる酸性雨によって、ドイツにあるシュヴァルツヴァルト(黒い森)の樹木が深刻な被害を受け、大きな社会問題となりました。

 図1 シュヴァルツヴァルトの酸性雨被害

 出典 : http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/d/d4/Silberwald.jpg

 欧州だけではなく酸性雨問題は米国でも発生していて、米国政府は1960年代から「大気浄化法(連邦法)」を制定して規制に取り掛かりました。
 この「大気浄化法(連邦法)」は、酸性雨だけではなくあらゆる大気汚染を規制の対象にしていて、さらにより包括的なものにするため、何度も改正がなされています。
 1990年に改正された大気浄化法(The Clean Air Act Amendments of 1990)は、全米のレベルだけではなく州のレベルでも導入されるなど、大気浄化政策はさらに高度な取組みが進められています。


 

「環境法令」へ ・・・ 「地球温暖化問題(気候変動の問題)」


 

 地球温暖化(気候変動のほうが問題の範囲は広い)は、最近では小学校の教科書に載っているようなホットな話題ですが、少しおさらいしてみたいと思います。

 地球物理学的な説明によりますと「地球温暖化」というのは、大気中に占める二酸化炭素などの温室効果ガスの濃度が上昇したために、地球から宇宙への熱放射を減少させてしまうという現象です。

 「温室効果ガス(green house gas: GHG)」と呼ばれているものには、二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素(一酸化二窒素)、ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)、パーフルオロカーボン類(PFCs)、六フッ化硫黄の6種類があります。

 また、これら6種類の温室効果ガスは温暖化に影響する程度が異なっていて、その影響する程度を表す指標として「地球温暖化係数」がよく使われています。
 「地球温暖化係数」というのは、それぞれの温室効果ガス1グラム当たりで、どのくらい地球温暖化に影響するか、を二酸化炭素と比較して倍数で表した係数です。

 二酸化炭素の影響の程度を1としますと、メタンは21倍、亜酸化窒素は310倍、ハイドロフルオロカーボン類やパーフルオロカーボン類は、数百倍から1万倍程度(物質で差があり)、六フッ化硫黄は2万3900倍とされています。

 「地球温暖化係数」を導入することにより、温暖化は二酸化炭素だけではなく、むしろその他の温室効果ガスによる影響のほうが大問題であることがわかってきました。また、これらの温室効果ガスは、その発生源や利用用途は下記のように、それぞれ大きく違うこともわかってきています。

 (1)二酸化炭素は、石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料、または、生物や植物に由来するバイオマス燃料の燃焼によって発生しますので、エネルギー消費と密接な関連があります。
 (2)係数310の亜酸化窒素は、麻酔効果のある物質で、医療用に用いられています。
 (3)係数2万3900の六フッ化硫黄は、電気・電子機器の絶縁材などに用いられています。
 (4)ハイドロフルオロカーボン類は、冷蔵庫や空調機などの冷媒や溶剤に用いられています。また、このハイドロフルオロカーボン類は、代替フロンとも呼ばれています。

 もともとは冷媒や溶剤などに使われていたフロンは、オゾン層の破壊につながることがわかり、世界的な問題となりました。その後、国際条約によりフロンは全廃することが決定されました。そして、その代替として用いられるようになった物質が、代替フロンでした。しかし残念なことに、代替フロンはオゾン層の破壊には影響しませんが、その代わり地球温暖化に影響するということが判明したというわけです。

 (5)メタンは、天然ガスの主成分です。天然ガスは、燃料として使われるのが一般的で、その燃焼により二酸化炭素が発生しますが、二酸化炭素はメタンよりも温室効果が小さいことがわかっていますので、メタンを燃焼させて二酸化炭素にしたほうが温室効果は小さいことになります。

 このように、温室効果ガスの発生源や用いられる用途が異なるため、それぞれ異なる産業界や関係者などが関与することになります。
 そのため、温室効果ガスの規制対象や規制にふさわしい方法などが、産業界や関係者などによって違ってくることになります。また、その規制の範囲も、一国にとどまらず、地球全体が対象となります。

 このように地球温暖化問題(気候変動の問題)は、原因からも影響の範囲からも、それまでの公害問題に比べると、範囲も広いし対象者もさまざまという大変複雑な問題になっています。

 ところが、このように大変複雑な問題である温暖化や気候変動といった地球環境問題ですが、実は、1997年までは、一部の気候専門家や環境専門家にしか知られていないという状況だったようです。

 そしていよいよ1997年に、一般の方にとっても地球環境問題への関心を高めることとなる国際会議が日本で開催されることになります。


( 第2回 「環境法令」制定のもとになった環境問題や国際会議 − 前編 −  完 )


 

次回は、第3回 「環境法令」制定のもとになった環境問題や国際会議 − 後編 − を予定しています。


 

第1回 化学物質法規制の背景などを考える

第3回 「環境法令」制定のもとになった環境問題や国際会議 −後編−

第4回 国際条約、わが国の法令の体系、環境法令の分類など

第5回 わが国の環境基本法の概要

第6回 化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)の概要

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ご感想・ご要望など御座いましたら、ご一報いただけましたら幸いです。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

コラム執筆者のご紹介
 
 
 地頭園 茂(じとうその しげる)氏

 

 所属:(株)フジクラ 電子電装環境部
 
 経歴:2000年頃より製品含有化学物質管理を手がけ、現在に至る
 
 専門:製品含有化学物質管理
 
 活動:JAMP(アーティクルマネジメント推進協議会)、JGPSSI(グリーン調達調査共通化協議会)他、多数
 

 
 
   → 化学物質情報局へ
 
会社概要 プライバシーポリシー 特定商取引法に基づく表記 商標について リクルート
Copyright ©2011 技術セミナー・技術書籍の情報機構 All Rights Reserved.