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環境法令の体系・分類、国際条約など、化学物質規制の背景 コラム/化学物質情報局

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化学物質管理への取組みを考える
 

(株)フジクラ 電子電装環境部 主席技術員 地頭園 茂 氏


 このコラムでは、各種の化学物質法規制の概要・考え方から対応、情報を収集するための方法などを紹介していこうと思っています。皆様のご参考になれば幸いです。


 

第4回  国際条約、わが国の法令の体系、環境法令の分類など

(2011・9・1)
 

 あらためて考えてみますと、化学物質は私たちの日常生活のあらゆる場面で使用されており、非常に身近な存在となっています。 私たちの生活は、多くの化学物質によって支えられていて、化学物質を使わずに現代の生活水準を保つのはもはや難しいのではないでしょうか?


 

化学物質の種類は多い


 化学物質の種類は自然界由来のものも含めますと地球全体に数千万あり、そのうち私たち人間が工業的に作り出したものは、10 万以上と言われています。
また、世界最大の化学物質データベースであるCAS レジストリ(*)には、4,500 万以上が登録されています。 そして1日当たり約1万2,000が新たに追加されているそうです。 わが国でも生産、消費、廃棄されている化学物質の種類は、約5万種類あると言われています。
 
 (*)CAS レジストリとは?
 全米化学学会の一部門であるCAS(Chemical Abstracts Service)が運営している、世界最大の登録数を誇る化学物質情報のデータベース。 化学関連の研究発表なども広範囲にわたり登録されています。
 
 私たちの生活を支えてくれる化学物質ですが、多少なりとも有害性はあります。 そして、その有害性を甘く考えていますと、事故や環境問題などへの対応も遅れてしまうようです。 さらに、一般的には「無害」だと思われていたものでも、使い方やその量によっては環境汚染をもたらすことがあるようです。
 
 例えば昨年9月に開催されました、経済産業省、環境省、厚生労働省による3省合同の化学物質に関する安全対策審議会では、 一般的に使用されている難燃剤HBCDについて、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法と呼ばれています)に基づき、 長期毒性試験の実施(有害性調査指示)が適当かどうか審議されています。


 - 平成22年9月3日(金)化学物質審議会の公開資料より抜粋 -

 HBCDは環境中への放出の可能性がある用途で相当量の製造・輸入数量があり、高蓄積性であることから、 HBCDの長期毒性が第一種特定化学物質相当であれば、環境汚染が生ずるおそれがあると見込まれる。


このように私たちの日常生活には化学物質が不可欠であることを再認識したうえで、 化学物質法規制を順守することにより、化学物質のリスクを管理しながら上手に活用していくことが求められていると思います。
 
化学物質のリスク管理については、1992年の地球サミットを契機として世界的取組が進展し、 2002 年のヨハネスブルグサミットにおいて、 「2020年までに化学物質の生産や使用が人の健康や環境にもたらす悪影響を最小化する」という2020年目標が定められました。
 
この2020年目標を達成するため、世界の国々において化学物質の規制や管理に関する法令の整備が進み、 欧州EUでも化学物質管理を総合的に進めるREACH 規則が導入されています。


 

わが国の化審法は、世界で最初の新規化学物質の届出・審査制度


 わが国でも世界の動向を踏まえて化学物質に関係する法律の制定や改正が行われてきました。
わが国の化審法は、世界で最初の新規化学物質の届出・審査制度として、1973年10月16日法律第百十七号として制定されています。
化審法など環境法令の多くは、科学的に捉えられるように「元素及び化合物」を基本としていますが、法律の目的が違っていたり、 複数の法律で同じ内容の化学物質を規制しないという原則があったりしますので、法律により表現が異なったり、厳密になったりして少し複雑になってしまう傾向はあるようです。
 
2009年第171回通常国会へ内閣提出法律案34号(閣法34号)にて、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)」の改正案が提出、 審議され、2009年5月13日に可決成立し、2009年5月20日に法律第三九号として公布されました。改正化審法案に述べられていた提出理由は下記のとおりで、 2020 年目標の達成や欧州EUなどの動向等を踏まえたものとなっています。
 
 【提出理由】
 化学物質の管理の一層の充実が求められている国内外の動向等にかんがみ、 包括的な化学物質管理を実施するため、難分解性の性状を有しない化学物質を新たに規制対象とし、 及び化学物質の安全性評価に係る措置を見直すとともに、 流通過程における適切な化学物質管理の実施及び国際的動向を踏まえた規制の合理化のための措置等を講ずることが必要である。 これが、この法律案を提出する理由である。


 

製品ライフサイクル管理、新規/既存/有害化学物質の管理


 化学物質による環境問題を未然に防ぐためには、製造工程のみならず、 消費者による使用、廃棄など製品ライフサイクルの各段階で適切な管理を行うことが必要となります。
世界各国における、新規化学物質、既存化学物質、有害化学物質への基本的な考え方は、おおよそ次のとおりです。
 
 (1) 新規化学物質
 市場に投入される前に安全性を審査するため、データに基づく有害性評価を実施する。
 市場に投入された後はリスク管理を実施し、必要に応じてリスク低減のための規制を実施する。
 
 (2) 既存化学物質
 リスト化して、製造および輸入事業者に有害性情報や暴露情報の提出を義務付ける。
 
 (3) 有害化学物質
 ・有害性のある化学物質については、その発生源、環境への排出量、廃棄物など事業所外への搬出量など必要なデータを把握/集計/公表する。(PRTRの仕組み)
 ・有害性のある化学物質に関する情報(性状や取扱い方法など)を、当該化学物質の製造事業者からサプライチェーンの川下に属する全事業者へ伝達する。(MSDSの仕組み)
 
 このように国内外の動向や製品ライフサイクルなど多岐に亘る、広い範囲が関わってくるため、 化学物質法規制は、身近なことではありますが、少し分かりにくくなってしまう傾向があります。
 しかし、化学物質管理へ取り組むためには、化学物質法規制の概要や考え方を学んだり、情報を収集したりすることが必要になります。 それに関する筆者の経験をご紹介します。
 
 初めから個別の化学物質法規制に取り組んで理解しようとしましたが、理解に苦しむことばかりで、あまり成果が上がりませんでした。 そこでやり方を変えてみました。まず環境法令全体を俯瞰して多岐に亘る概要を自分なりに把握してみることにしました。 そして概要の把握が進むにつれ、個別の化学物質法規制も少しずつ理解しやすくなってきたというのが筆者の経験です。
 
 このコラムでも、国内外の動向として国際間の取り決め(条約など)、わが国の法令の体系、そして環境法令の分類および法律などを紹介して、 化学物質規制など多岐に亘る環境法令全体を俯瞰してみたいと思います。


 

条約、議定書などの国際間における取り決め


 環境問題がひとつの国の内にとどまらず国境を超えて広く拡大してしまう昨今、 それにともない地球レベルの環境問題を解決しようとして取り決める環境に関する国際条約、議定書、協定などが多くなっています。 そして、国家間になりますと少なからず利害の対立なども出てしまうようです。
 
(1) 条約(バーゼル条約、ストックホルム条約、ロッテルダム条約、ラムサール条約など)
 
 国際法では条約は、憲章、条約、協定、議定書など、その名称に関わらず国家間あるいは国家と国際機関の間の文書による合意のことを言います。
 国際法では条約による合意は、条約を締結する権限を有する機関相互の間で行われなければなりません。 わが国では、内閣が締結権を有していますが、必ず国会の承認が必要となっています。
 
 条約というのは国際上の規律として、関係する国を拘束しますので、原則として国内法に優先するものと考えられます。 そのため条約も国として守るべき法のひとつと考えられ、国会で成立する法律などと同じように公布されます。 それによって国法として施行されます。
 
条約で決められた国としての義務を履行するために、多くの国では条約に即した新たな国内法が制定されるのが一般的です。 環境に関する国際条約の場合も、特に具体的な成果を上げるために何らかの規制を実施することが多いため、 国内での規制運用などが考慮された国内法が制定され、それに基づいて実務を進めることがほとんどのようです。
 
そのため企業の環境管理(製品中有害物質管理や事業場環境管理など)の実務を考える場合、関係する国内法の要求事項を把握することが必要になります。 それらは国際条約の要求事項を満たしていますし、また国内での規制運用なども考慮された国内法になっていますので、よく把握しておくことが重要です。 ただし、条約が締結されたばかりなど、まだ国内法として制定されていない場合もあります。 ビジネスによっては、締結されたばかりの条約への対応も必要になる場合があります。 その場合は、国際条約そのものの内容を理解し、企業の環境管理でどのような形で要求事項を満たすかを考えるなど大変な実務になることが予想されます。
 
(2) 議定書(京都議定書、モントリオール議定書、ヘルシンキ議定書など)
 
 国際法では議定書は、広い意味の条約の一種と考えられています。 一般的には、ある条約を修正するような条約、またはある条約を補足するような条約のときに議定書という名称が用いられるようです。 例えば「気候変動枠組み条約」は、地球温暖化防止のための方策が包括的に記述されているのに対し、「京都議定書」は、温室効果ガスの名称や二酸化炭素の削減目標値、 その期限などがより具体的に記述されていて、「気候変動枠組み条約」を補足するようなものと言えます。
 
(3) 協定
 
 国際法では協定は、最も広い意味の条約の一種と考えられています。 専門的に範囲が狭いまたはそれほど重要とされていない国家間の取り決めとして協定という名称がよく用いられるようです。 協定には、国会の承認が必要な協定と、必要ではない協定の二通りがあります。 例えば日米安保条約による「合衆国軍隊の地位に関する協定(日米地位協定)」などは国会承認が必要な協定ですが、 二国間の貿易協定などは国会承認が必要ではない協定で「行政協定」と呼ばれることがあります。
 
(4) 宣言(リオ宣言など)
 
 リオ・デ・ジャネイロ地球サミットで合意された「リオ宣言」のように、国連などの国際機関の会議で作成されたある一定の原則を宣言した文書や署名国が受ける制約などを表明したものです。国際法では国家の一方的意思表示のことを言うようです。 他の例としては、すべての人民とすべての国民が達成すべき基本的人権についての宣言である世界人権宣言などがあります。


 

わが国の法令の体系、法令の種類(法律、命令、条例など)


 わが国の法令の体系や種類について紹介します。 わが国の法令は、大きく分けて「国に関連する法律・命令等」と「地方公共団体に関連する条例」があります。

それぞれの法令について簡単な概要を述べます。
 
法律
法律は、原則として衆参両院の議決を経て制定され、憲法や条約に次ぐ効力を持っていて、後述の命令や規則などとは区別されます。
 
 例えば、生物多様性基本法(平成二十年六月六日 法律第五十八号)、 環境の保全のための意欲の増進及び環境教育の推進に関する法律(平成十五年七月二十五日 法律第百三十号)、 環境影響評価法(平成九年六月十三日 法律第八十一号)などがあります。
 
 次は、衆参両議院の議決を経ないで、行政機関により制定される国の法令です。
 政令、内閣府令、省令、告示、通達などがあります。
 
(1) 政令
 憲法や法律の規定を実際に実施するために、内閣が制定する命令です。
 法律の委任がなければ、罰則を設けたり、義務を課したりすることはできません。
 例えば、石綿による健康被害の救済に関する法律施行令(平成十八年三月十日 政令第三十七号)、 ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法施行令(平成十三年六月二十二日 政令第二百十五号)、 環境影響評価法施行令(平成九年十二月三日 政令第三百四十六号)などがあります。
 
(2) 総理府令(内閣府令)
 特に内閣総理大臣が主任の行政事務について発する命令です。
 例えば、地球温暖化対策の推進に関する法律施行規則(平成十一年四月七日 総理府令第三十一号)、 ダイオキシン類対策特別措置法施行規則(平成十一年十二月二十七日 総理府令第六十七号)、 環境影響評価法施行規則(平成十年六月十二日 総理府令第三十七号)などがあります。
 
(3) 省令
 各省の大臣がその主任の行政事務について発する命令です。
 例えば、新規化学物質に係る試験並びに優先評価化学物質及び監視化学物質に係る有害性の調査の項目等を定める省令(平成二十二年三月三十一日 厚生労働省・経済産業省・環境省令第三号)、 環境影響評価法に係る民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律施行規則(平成十七年三月二十五日 厚生労働省・農林水産省・経済産業省・国土交通省・環境省令第一号)、 有害性情報の報告に関する省令(平成十六年三月十八日 厚生労働省・経済産業省・環境省令第二号)などがあります。
 
(4) 告示
 国の機関がその指定や決定などの処分およびその他の事項を一般に知らせることです。
 例えば、国際標準化機構(ISO)の環境コミュニケーションに関する国際規格が発行された件(平成19年6月20日 環境省告示第42号)、 環境影響評価法第四十八条第二項において準用する同法第十一条第三項及び第十二条第二項の規定により国土交通大臣が定めるべき指針に関する基本的事項の一部を改正する件(平成17年3月30日 環境省告示第27号)などがあります。
 
(5) 通達・通知
 国の上級機関が所管する地方自治体などの書記官に命令または示達する形式のひとつで、  法令の解釈、運用や行政執行の方針などに関するものが多いようです。 実務の担当者にとっては特に参考になると思います。
例えば、3-クロロ-1,1,2,3,3-ペンタフルオロ-1-プロペンによる労働災害防止について(平成23年7月27日 通達番号:基安化発0727第1号 厚生労働省労働基準局安全衛生部 化学物質対策課長 から 都道府県労働局労働基準部 健康主務課長 宛て)、 有害物ばく露作業報告制度の周知徹底について(平成22年12月28日 通知番号:基安発1228第2号 厚生労働省労働基準局安全衛生部長から 都道府県労働局長 宛て)、 インジウム・スズ酸化物等取扱い作業による健康障害防止対策の徹底について(平成22年12月22日 通知番号:基安発1222第2号 厚生労働省労働基準局安全衛生部長から 都道府県労働局長 宛て)などがあります。
 
(6) 条例・規則
 地方自治体の行政事務に関するものや、地方自治法で規定される事項について、 地方自治体の議会の議決を経て制定される法形式のひとつです。 条例は、地方自治体の事務に関して、国が制定する法律の範囲内で、法令に違反しない範囲で制定できます。 ここで注意したいのは「上乗せ条例」「横出し条例」というものです。
 
 上乗せ条例とは、国の法令に定められた基準に上乗せされて制定される条例、あるいは都道府県条例の基準に上乗せして制定される市区町村条例のことです。 地方公共団体の条例は国の法令の範囲内で制定することが原則になっていますが、 環境関連(水質汚濁防止法など)では地域によって差があることから、地域にあわせて国の法令を上回る基準を設けることができるとされています。
 
 また、国の法律と同じ目的であっても、法律の規制していない項目に関して規制の幅を拡大することができるとされています。これが横出し条例と呼ばれているものです。
それぞれ地域によって差があることから、大気汚染防止法32条、水質汚濁防止法27条、騒音規制法27条、振動規制法24条、悪臭防止法19条などは横出し条例が認められています。


 

わが国の環境法令の分類 (基本、救済、管理、刑法)



 一般的にわが国の環境法令は、上図のように分類されています。それぞれについて簡単に概要を述べます。
 
1. 環境に関係する憲法の条文
環境に関係する条文としては、13条および25条が考えられます。
 
(13条)
 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
 
(25条)
すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
 
このように国内法令最上位にあたる憲法の中に、国民の幸福追求権および最低限度の生活権(これらは環境権と呼ばれることがあります)が規定されていると考えられています。
 
2. 環境基本法
この法律は、環境に関する国の政策の基本的な方向を示すもので、以下のような目的を持っています。 これを受けて環境関連の個別の法律(個別法と呼ばれる)が体系的に並びます。
 
・ 環境保全についての基本理念を定める。
・ 国、地方公共団体、事業者及び国民の責務を明らかにする。
・ 環境保全に関する施策の基本となる事項を定め、総合的かつ計画的に推進する。
・ 現在から将来にわたり、健康で文化的な国民生活を確保するとともに、世界人類の福祉に貢献する。
 
3. 環境救済法
環境破壊により生じた人または物の被害救済に関する法律のことを環境救済法と呼んでいます。
しかし、損害賠償などにより環境被害者を救済したとしても、それはあくまで後追いの救済であり、身体的被害を元通りに回復させるのは容易ではありません。 そこで被害を受ける前に、環境破壊の行為を防ぐほうが、より有効な救済手段と言えます。 例えば民事訴訟による「環境破壊事業の差し止め」などが考えられます。
憲法で規定されていますので、国は公衆衛生の向上及び増進に努めなければなりません。 環境破壊が考えられる場合は、環境破壊の原因事業の許認可を取り消すなどの権限が、法律により行政に与えられています。
 
4. 環境管理法
行政主導により環境破壊を防止し、環境を良好な状態に維持するための施策に関する法律のことを環境管理法と呼んでいます。 それらはさらに、環境規制法、環境アセスメント法、環境保全法、費用負担・助成法に分類することができます。
 
(1)環境規制法
環境破壊行為の防止あるいは環境保全に関する法律で、大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音、振動、地盤沈下、悪臭という7つの公害に関する規制等を定めています。
 
a. 固定発生源に対する公害規制
汚染物質を確定し、主要な発生源である施設等を指定し、そこから排出される汚染物質の濃度あるいは量を排出基準によって規制する排出規制が講じられました。 その結果、公害の防止は事業者の責任において行われることとなりました。
現在までに「大気汚染防止法」、「水質汚濁防止法」などに基づいて規制対象業種と指定施設が拡大されたほか、 著しく汚染が進行した地域における大気汚染、水質汚濁については総量規制の導入により厳しい規制が行われてきています。 さらに国による排出規制に加え都道府県や市町村の多くは、それらの事業活動の集中の程度などに応じて、 上乗せ条例や事業者との公害防止協定の締結などを行っています。
 
b. 移動発生源に対する公害規制
経済社会活動の拡大により、貨物/旅客の輸送量が増大し、自動車、航空機、新幹線鉄道など移動発生源による大気汚染、騒音、振動が都市部を中心に大きな問題となっています。 このような交通公害を防止するため、排出ガスや騒音の許容限度の設定、さらに交通量の集中する地域では利用時間帯/走行車線の規制により交通量の抑制を図ったり、 騒音に対しては、遮音壁の設置や緩衝緑地を設けたりしています。
また、ガソリンやLPGを燃料とする乗用車について、一酸化炭素、炭化水素、窒素酸化物に対する厳しい排出ガス規制が行われるとともに、 バスやトラック等の大型車両についても規制の強化が進められています。
しかし、自動車台数は毎年200万台程度の割合で増加していますので、交通公害をただちに解決することは難しいようです。 このため、現在講じられている発生源対策を強化/充実するとともに、交通施設周辺の土地利用や交通/物流システムの再構築といった総合的/構造的な対策が求められています。
 
その他にも下記のような規制があります。
c. 廃棄物・リサイクルに関する規制
d. 土地利用に関する規制
e. エネルギーに関する規制
f. 化学物質に関する規制
 
(2)環境アセスメント法
土地開発などを行う際に、環境に与える影響を事前評価する法律のことを環境アセスメント法と呼んでいます。 環境影響評価法(平成九年六月十三日法律第八十一号)などがあります。
土地の形状の変更や建築物の新設等を行う事業者がその事業の実施に当たり、あらかじめ環境影響評価を行うことは環境の保全上極めて重要です。 そのため環境影響評価について国等の責務を明らかにするとともに、環境影響評価が適切かつ円滑に行われるための手続などを定めています。
 
(3)環境保全法
自然環境保全地域の設定や自然公園の維持管理など、直接的な環境保全措置のための法律のことを環境保全法と呼んでいます。 自然環境保全法(昭和四十七年六月二十二日法律第八十五号)などがあります。
自然公園法(昭和三十二年法律第百六十一号)など自然環境の保全を目的とするもので、 国民が自然環境の恩恵を享受するとともに、将来にそれを継承できるように、 自然環境の保全が特に必要な生物多様性の確保やその他の自然環境の適正な保全を推進することなどが定められています。
 
(4)費用負担・助成法
環境汚染や環境破壊を防止するための費用あるいは復元に掛かる費用は、 環境問題の原因となる行為を行った者が負担するのが「汚染者負担の原則」(Polluter-Pays-Principle, PPP)です。
環境基本法の37条(原因者負担)には、環境保全や環境整備のための費用負担については、環境問題の原因となる行為を行った者が負担するよう必要な措置を講ずると総括的に規定されています。
これを受けて、公害防止事業費事業者負担法(昭和四十五年十二月二十五日法律第百三十三号)、公害の防止に関する事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律(昭和四十六年五月二十六日法律第七十号)、 石綿による健康被害の救済に関する法律(平成十八年二月十日法律第四号)などが個別法として制定されています。
 
5. 環境刑法
事業活動に伴って人の健康に係る公害を生じさせる行為等を処罰に関する法律のことを環境刑法と呼んでいます。 「人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律」(昭和四十五年十二月二十五日法律第百四十二号)などがあります。
しかしこの法律は、昭和46年7月1日施行なので、その前にすでに水銀流出が発生していた熊本水俣病事件には適用されないことになっています。


 

わが国の環境に関する個別法と(公布された年月)


 わが国では環境に関する法律として、環境基本法(1993年11月)を始め、多くの個別法が公布されています。 それら個別法の名称と(公布された年月)などを列挙して全体を概観してみます。
 
1. 化学物質に関する法律
  化学物質の規制や情報把握などに関する法律です。
 
・化学物質の審査および製造等の規制に関する法律
(化審法)(1973年10月)
・特定化学物質の環境への排出量の把握等および
管理の改善の促進に関する法律(PRTR法)(1999年7月)
・有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律
(家庭用品規制法)(1973年10月)
・労働安全衛生法(労衛法)(1972年6月)
・毒物および劇物取締法(毒劇物取締法)(1950年12月)
・農薬取締法(1948年7月)
・消防法(1948年7月)
・高圧ガス保安法(1951年6月)
・液化石油ガスの保安の確保および取引の適正化に関する法律
(液石法)(1967年12月)
・肥料取締法(1950年5月)
・食品衛生法(1947年12月)
・農林物資の規格化および品質表示の適正化に関する法律
(JAS法)(1950年5月)
・飼料の安全性の確保および品質の改善に関する法律
(飼料安全法)(1953年4月)
・食品の製造過程の管理の高度化に関する臨時措置法
(HACCP手法支援法)(1998年5月)
 
2. エネルギーに関する法律
・エネルギー政策基本法(2002年6月)
・エネルギー環境適合製品の開発および製造を行う事業の
促進に関する法律(低炭素投資促進法)(2010年5月)
・地球温暖化対策の推進に関する法律
(地球温暖化対策推進法)(1998年10月)
・エネルギーの使用に合理化に関する法律
(省エネ法)(1979年10月)
・エネルギー等の使用の合理化および資源の有効な利用に関する
事業活動の促進に関する臨時措置法(省エネ・リサイクル法)(1993年3月)
・電気事業者による新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法
(新エネ利用特措法)(1997年4月)
 
3. 原子力に関する法律
・原子力基本法(1955年12月)
・核原料物質、核燃料物質および原子炉の規制に関する法律
(原子炉等規制法)(1957年6月)
・放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律
(放射線障害防止法)(1957年6月)
・原子力災害対策特別措置法(原災法)(1999年12月)
・特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律(2000年6月)
 
4. 廃棄物・リサイクル等に関する法律
・循環型社会形成推進基本法(2000年6月)
・廃棄物の処理および清掃に関する法律
(廃棄物処理法)(1970年12月)
・特定有害廃棄物等の輸出入等の規制に関する法律
(バーゼル法)(1992年12月)
・ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法
(PCB廃棄物特措法)(2001年6月)
・特定製品にかかるフロン類の回収および
破壊の実施の確保等に関する法律(フロン回収破壊法)(2001年6月)
・資源の有効な利用の促進に関する法律(リサイクル法)(1991年4月)
・容器包装にかかる分別収集および再商品化の促進等に関する法律
(容器包装リサイクル法)(1995年6月)
・特定家庭用機器再商品化法(家電リサイクル法)(1998年6月)
・建設工事に関わる資材の再資源化等に関する法律
(建設リサイクル法)(2000年5月)
・食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律
(食品リサイクル法)(2000年6月)
・使用済み自動車の再資源化等に関する法律
(自動車リサイクル法)(2002年7月)
・古物営業法(1949年9月)
 
5. 公害等に関する法律
 【大気保全】
・大気汚染防止法(大防法)(1968年6月)
・自動車から排出される窒素酸化物および粒子状物質の特定地域における
総量の削減等に関する特別措置法(排ガス抑制法)(1992年6月)
・特定特殊自動車排出ガスの規制等に関する法律
(オフロード法)(2005年5月)
・ダイオキシン類対策特別措置法
(ダイオキシン特措法)(1999年7月)
・特定物質の規制等によるオゾン層の保護に関する法律
(フロン等規制法)(オゾン層保護法)(1988年5月)
・スパイクタイヤ粉塵の発生の防止に関する法律(1990年6月)
・電気事業法(1964年7月)
・ガス事業法(1954年3月)
・鉱山保安法(1949年5月)
・道路運送車両法(1951年6月)
・道路交通法(道交法)(1960年6月)
・道路法(1952年6月)
・道路運送法(1951年6月)
・貨物自動車運送事業法(1999年12月)
 
 【水質保全】
・水質汚濁防止法(水濁法)(1970年12月)
・下水道法(1958年4月)
・浄化槽法(1983年5月)
・瀬戸内海環境保全特別措置法(瀬戸内法)(1973年10月)
・湖沼水質保全特別措置法(湖沼法)(1984年7月)
・海洋汚染等および海上災害の防止に関する法律
(海洋汚染防止法)(海防法)(1970年12月)
・河川法(1964年7月)
・海岸法(1956年5月)
・特定水道利水障害の防止のための水道水源水域の
水質の保全に関する特別措置法(1994年3月)
・水道法(1957年6月)
 
 【騒音・悪臭・振動】
・騒音規制法(1968年6月)
・悪臭防止法(1971年6月)
・振動規制法(1976年6月)
 
 【土壌汚染・地盤沈下】
・農用地の土壌の汚染防止等に関する法律
(土壌汚染防止法)(1970年12月)
・土壌汚染対策法(2002年5月)
・工業用水法(1956年6月)
・建築物用地下水の採取の規制に関する法律
(ビル用水法)(1962年5月)
 
 【公害防止管理者】
・特定工場における公害防止組織の整備に関する法律 (公害防止組織法)(1971年6月)
 
 【公害罪】
・人の健康に関わる公害犯罪の処罰に関する法律(1970年12月)
 
 【費用負担・補償・救済】
・公害防止事業費事業者負担法(1970年12月)
・公害健康被害の補償等に関する法律
(公健法)(1973年10月)
・石綿による健康被害の救済に関する法律
(石綿救済法)(2006年2月)
・公害紛争処理法(1970年6月)
 
6. 土地利用に関する法律
・環境影響評価法(環境アセスメント法)(1997年6月)
・都市計画法(1968年6月)
・都市緑化法(1973年9月)
・都市の美観風致を維持するための樹木の保存に
関する法律(樹木保存法)(1962年5月)
・都市公園法(1956年4月)
・工場立地法(1954年3月)
・大規模小売店舗立地法(大店立地法)(1998年5月)
・生産緑地法(1974年6月)
・景観法(2004年6月)
・宅地建物取引法(宅建業法)(1972年6月)
・建築基準法(1950年5月)
・建築物における衛生的環境の確保に関する法律
(ビル管理法)(1970年4月)
・電波法(1950年5月)
・海洋基本法(2001年4月)
 
7. 自然保護・生態系に関する法律
・自然公園法(1957年6月)
・自然環境保全法(1972年6月)
・自然再生推進法(2002年12月)
・生物多様性基本法(2008年6月6日公布・施行)
・地域における多様な主体の連携による生物の多様性の保全のための
活動の促進等に関する法律(生物多様性保全活動促進法)(2010年12月)
・絶滅の恐れのある野生動植物の種の保存に関する法律
(種の保存法)(1992年6月)
・鳥獣の保護および狩猟の適正化に関する法律
(鳥獣保護法)(2002年7月)
・遺伝子組換え生物等の使用等の規制による
生物の多様性の確保に関する法律(カルタヘナ担保法)(2003年6月)
 
8. その他グリーン購入、教育推進等
・国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律
(グリーン購入法)(2000年5月)
・環境情報の提供の促進等による特定事業者等の
環境に配慮した事業活動の促進に関する法律
(環境配慮促進法)(2004年6月)
・環境の保全のための意欲の増進および
環境教育の推進に関する法律(環境教育推進法)(2002年7月)
・バイオマス推進基本法(2009年6月)
・エコツーリズム推進法(2007年6月)
・民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用
に関する法律(電子文書法)(e文書化法)(2004年12月)
・国等における温室効果ガス等の排出の削減に配慮した
契約の推進に関する法律(環境配慮契約法)(2007年5月)
 
わが国の環境法令をできるだけ列挙してみました。 このように環境法令全体を俯瞰して概要を把握していくことにより、各個別法の位置づけなどが自分なりに想像できるようになると思います。 そうなれば内容の理解はさらに進むだろうと思います。
これからも法律は、新しく制定されたり、改正などでその内容が変更されたりします。 そのような新しい法律についても、全体を俯瞰して概要を把握することにより、法律の位置づけなどを自分なりに想像できるようになれば、内容は理解しやすくなるだろうと思います。 環境法令を学ぶときの参考にしていただけたら幸いです。


 

 ( 第4回 国際条約、わが国の法令の体系、環境法令の分類など  完 )


 

次回は、環境基本法や化審法などの概要について紹介する予定です。


 

第1回 化学物質法規制の背景などを考える

第2回 「環境法令」制定のもとになった環境問題や国際会議 - 前編 -

第3回 「環境法令」制定のもとになった環境問題や国際会議 - 後編 -

第5回 わが国の環境基本法の概要

第6回 化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)の概要

 

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ご感想・ご要望など御座いましたら、ご一報いただけましたら幸いです。

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コラム執筆者のご紹介
 
 
 地頭園 茂(じとうその しげる)氏

 

 所属:(株)フジクラ 電子電装環境部
 
 経歴:2000年頃より製品含有化学物質管理を手がけ、現在に至る
 
 専門:製品含有化学物質管理
 
 活動:JAMP(アーティクルマネジメント推進協議会)、JGPSSI(グリーン調達調査共通化協議会)他、多数
 

 
 
   → 化学物質情報局へ
 
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