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トップ講師コラム・取材記事 一覧> 半導体製造汚染防止・除去のためのクリーン化・洗浄技術の最新動向:講師コラム


講師コラム:服部 毅 氏


『半導体製造汚染防止・除去のためのクリーン化・洗浄技術の最新動向』



コラムへのご意見、ご感想がありましたら、こちらまでお願いします。


第8回「韓国の漢陽大学で半導体クリーン化・洗浄技術について講義」(2024/7/17)



 今年もまた「半導体 クリーン化・歩留向上技術」および「半導体 精密洗浄・乾燥技術」のセミナーをそれぞれ9月と11月にそれぞれ1日コースとして実施することになりまして、その準備を進めています。
 それに先立ち、今年は6月20日に韓国の漢陽大学(Hanyang University)の要請で上記の内容を1日に圧縮したセミナーを
 “Practical Overview of preventing and Removing Contamination from Wafer Surfaces
 for Semiconductor Manufacturing
 ~An Introduction of Ultra Clean Surface Processing and Precision Cleaning
 Technologies~”
と題して大学の公開講座として行う機会を得ました(図1参照)。減少気味の半導体洗浄技術や超クリーン化技術の研究開発や実務に従事する技術者の人口がグロバルレベルで増えることを祈念して引き受けました。
 韓国の物質工学系大学ランキングでトップクラスに位置する同大学の大学院学生(アジア各国からの留学生を含む)だけではなく、サムスン電子やSKハイニックスなどのデバイスメーカー、SEMESやSKシルトロンなどの装置・材料メーカーのエンジニアなど多数の若い韓国人が熱心に聴講してくれました(図2参照)。


図1:韓国漢陽大学で開催されたセミナーのスケジュールと講義のねらい

 朝9時から夕方5時まで7時間にわたり、立ったままでマイクを握りしめて、なれない英語(Japanese English?)で講義するのは、さすがに疲労困憊し、翌日は昼頃まで爆睡しました。もともと情報機構セミナーで使用してきた数百枚のテキスト図面を英語に翻訳するのに数カ月を費やしましたが、韓国の若いエンジニアから示唆に富む内容で役に立ったと言っていただけ、安堵しました。


図2:講義終了後に受講者と記念撮影

 韓国での講義準備の過程で、最新情報も盛り込みましたので、9月と11月の東京会場およびONLINEで実施するセミナーは、韓国での体験を踏まえて前回よりパワーアップした内容になります。ぜひ、半導体製造の神髄ともいえる本テーマに興味ある方のご受講を歓迎いたします。日本半導体産業の復権と製造装置・材料産業の開発・製造そして世界に向けた拡販に役立つ講義をしたいと思っております。

 半導体クリーン化・歩留向上技術
 ~半導体製造ラインの汚染の実態と歩留まり向上のための
 シリコンウェーハ表面汚染防止技術の基礎から最新動向まで~
 <会場受講/Zoomオンラインセミナー 選択制>
 ●日時 2024年9月26日(木) 10:00-16:30
 https://johokiko.co.jp/seminar_chemical/AC2409A4.php

 半導体精密洗浄・乾燥技術
 ~半導体製造におけるシリコンウェーハ表面の洗浄・乾燥および
 表面汚染除去技術の基礎から最新動向まで~
 <会場受講/Zoomオンラインセミナー 選択制>
 ●日時 2024年11月26日(火) 10:30-17:00
 https://johokiko.co.jp/seminar_chemical/AC2411A4.php

服部 毅 氏のご紹介

■ご略歴:
30年余りソニー株式会社に勤務し、半導体材料基礎研究(中央研究所)からプロセス・デバイス開発(半導体事業本部)歩留まり向上・クリーン化(九州および米国量産ライン)まで広範な業務に従事。ウルトラクリーンテクノロジー研究室長、リサーチフェロー。この間、本社研究開発戦略スタッフ、米国スタンフォ―ド大学留学、同集積回路研究所客員研究員なども経験。

2007年に国際技術コンサルタントとして独立し現在に至る。内外の多数の半導体・製造装置・材料メーカーや市場動向調査企業などで技術指導・社員教育・開発戦略・学会発表支援などを担当。

海外半導体業界や学会の最新情報をマイナビニュースTECH+に毎日(平日)数件執筆している。
https://news.mynavi.jp/author/0001750/




第7回「30周年記念半導体クリーン化・洗浄技術国際会議UCPSS2023が9月開催」(2023/7/7)



 国策先端半導体メーカーRapidusの技術指導を請け負ったことで知られるベルギーの先端半導体研究機関imecが30年以上にわたり隔年開催している半導体超クリーン化プロセスや洗浄技術に関する国際会議 UCPSS2023 (https://www.ucpss.org)が来る9月12~14日にベルギーの古都ブルージュで開催されるが、この度、論文採択選考が終わり、プログラムが発表された。



 3日間にわたるUCPSS2023のセッション構成は
  ・基調講演
  ・ナノシートGAA FET形成のカギを握るSiGe選択エッチング
  ・高アスペクト比微細構造のパターン倒壊、ウェーハ乾燥の課題
  ・ウェーハ上および純水・薬液中の金属汚染制御
  ・パーティクル防止と除去
  ・枚葉スピン洗浄の動力学
  ・インターコネクト・新たな多層配線材料のクリーン化プロセス
  ・持続可能な半導体製造のための洗浄技術(今回からの新たなテーマ)

 ポスターセッションおよびLate Newsセッション(調整中)の予定で、半導体業界で最もホットなテーマが目白押しである。
 オープニング基調講演は、本稿著者(服部毅)が「半導体洗浄技術の過去・現在・将来」と題して過去70年の洗浄技術を振り返り、未来を展望する。今回16回目に当たるUCPSS2023は、30+1周年記念大会(コロナ禍のため前回15回が1年延期となったため30周年が31周年になってしまった)であるため、1992年の第1回開催時に基調講演を行った縁で著者が再び基調講演者に選ばれた。続いて、imecのHans Mertens氏が「CMOS微細化のためのナノシートベースのトランジスタ構造:3次元閉鎖空間のウェットエッチおよびガスフェーズエッチの挑戦」と題して、将来に向けたGAAトランジスタの3次元微細構造洗浄のホットな課題について基調講演し、2人に基調講演者で過去から未来の半導体洗浄技術まですべてカバーする。


UCPSS2023のオープニング基調講演プログラム抜粋(出所:UCPSS Website

 日本からは、ソニー、SCREEN、東京エレクトロンはじめ、オルガノ、野村マイクロサイエンス、栗田工業、三菱ケミカルはじめ多数の企業や研究機関の論文が採択されており、伝統的に洗浄技術や汚染制御技術に強みを発揮し続ける日本勢の存在感を欧州でアピールできそうである。なお、9月11日には、洗浄技術や超クリーン化技術の初心者(新規参入者)のためのチュートリアル(講義)が予定されている。
 聴講参加登録者の受付も始まっている。ブルージュは、ベルギーで最も人気のある観光地で、街中が世界遺産に指定されている中世の古都(下の写真)である。ぜひ、観光を兼ねて?国際会議に参加されてはいかがでしょうか。


 UCPSS2023のオープニング基調講演プログラム抜粋(出所:UCPSS Website

 なお、毎年恒例の、「先端半導体クリーン化・歩留まり向上技術セミナー」(シリコンウェハ上の汚染を如何に防止するか)および「先端半導体洗浄・乾燥セミナー」(シリコンウェハ上の汚染を如何に除去するか)を今年も、それぞれ8月31日および9月26日に情報機構主催で開催する。これらのセミナーでは、UCPSS2023のプレビューやレビューを行い、皆様に最新情報をお届けする。


先端半導体クリーン化・歩留向上技術
~先端半導体製造ラインの汚染の実態と歩留向上のための
ウェーハ表面汚染防止技術の基礎から最新動向まで~
<会場受講/Zoomオンラインセミナー 選択制>
●日時 2023年8月31日(木) 10:00-16:30
https://johokiko.co.jp/seminar_chemical/AT230891.php

先端半導体洗浄・乾燥技術
~半導体製造ラインのウェーハ表面洗浄・乾燥および
汚染除去技術の基礎から最新動向まで~
<会場受講/Zoomオンラインセミナー 選択制>
●日時 2023年9月26日(火) 10:30-17:00
https://johokiko.co.jp/seminar_chemical/AT230992.php




第6回「再び脚光浴びるオゾン水活用のウェーハ洗浄やフォトレジスト剥離」(2022/10/13)



 半導体製造において、シリコンウェハの洗浄は製品の歩留まりを左右する重要な最頻工程となっており、洗浄には薬液とリンスのための超純水を大量に消費する(参考資料1)。一方では、半導体工場の環境対策の一環として、薬液の使用量削減や廃液の削減が今まで以上に求められており、この見地から薬液に代えてオゾン水の活用が再び注目されている。

 20年以上前にオゾン水を用いた洗浄やレジスト剥離の研究が世界的なブームとなったが、その後、日の丸半導体産業の衰退で日本では研究開発が中断していた。 しかし、最近になって国内や近隣国の半導体関係者から問い合わせをいただくようになった。地球環境保全への規制が世界的に厳しくなってきたことや、重要性が再認識された半導体および関連産業への新規参入が増加していることも影響しているのだろう。


1.オゾン水を用いたウェーハ洗浄
 半導体工場では、伝統的に硫酸やアンモニアや塩酸を過酸化水素と混合した複数の薬液を用いて長いシーケンスで時間をかけて多層浸漬洗浄する、いわゆるRCA洗浄法(あるいはその改良版)が主流を占めてきた。これに対して、著者らは、低濃度のオゾン水と希フッ酸を秒単位で繰り返し用いる短時間枚葉スピン洗浄方式(いわゆるSCROD洗浄方式)を開発し半導体量産に導入した2~4)。ちなみに、SCRODは、本稿著者が考案したSingle-Wafer Spin Cleaning with Repetitive Use of Ozonated Water and Dilute HFの頭字語である。Scrodという英単語はもともとのタラ(cod)の幼魚という意味だが、SCROD洗浄技術が大きく成長してほしいという願いをこめて命名された。
 その後、著者らは、シリコンロスを抑制した超微細加工対応として、超希釈フッ酸ジェットスプレイを用いたSCLUD(Single-Wafer Spin Cleaning with Use of Ultra Diluted HF/Nitrogen Jet Spray)方式を考案して発表している5)。




図1 オゾン水と希フッ酸を交互に数秒ずつ吹きかけるSCROD洗浄(文献4による)


2.オゾン水によるレジスト除去
 なお、フォトレジスト剥離に関しても百数十度に加熱した硫酸過酸化水素水混合液に代えて常温オゾン水を用いる試みが世界中で行われてきた。オゾン水は、廃液処理の際に容易に酸素と水に分解するので地球環境にやさしいレジスト除去液として注目されている。著者らは、特殊な方法でオゾン濃度を180ppmまで上げることにより、イオン注入のないレジストの剥離レートを1μm/分まで上げられたが6)、今のところ、高ドーズレジストの除去は無理で、今のところ、プラズマアッシングに頼らざるを得ない7)。地球環境保全の立場から、オゾン水が半導体産業でもっと活用されるように、技術的なブレークスルーが期待されている。

 2022年11月28日に開催予定の「先端半導体洗浄・乾燥技術~半導体製造ラインのウェーハ表面洗浄・乾燥および汚染除去技術の基礎から最新動向まで~」では、再び脚光を帯びているオゾン水の半導体洗浄への利用についても詳しく紹介する予定である。


参考文献
1) 服部毅:「先端半導体洗浄・乾燥技術~半導体製造ラインのウェーハ表面洗浄・乾燥および汚染除去技術の基礎から最新動向まで~」セミナーテキスト(情報機構、2022年)
2) T.Hattoriほか:「Contamination Removal by Single-Wafer Spin Cleaning with Repetitive Use of Ozonized Water and Dilute HF」, Journal of the Electrochemical Society, vol.145, pp.3278-328 (1998)
3) T.Osaka 他:「Single-Wafer Cleaning with Repetitive Use of Ozonated Water and Dilute HF (“SCROD”)」、The Electrochemical Society Proceedings, vol.2001-26,pp.3-14 (2001).
4) 服部毅:「RCA代替洗浄―オゾン水・希フッ酸繰り返し枚葉スピン洗浄」、新版シリコンウェ-ハ洗浄のクリーン化技術、pp.394-400 (アライズ社, 2000年)
5) T.Hattoriほか:「Environmentally Benign Single-Wafer Spin Cleaning Using Ultra-Diluted HF/Nitrogen Jet Spray (SCLUD) without Causing Structural Damage and Material Loss」, IEEE Transactions on Semiconductor Manufacturing, vol.20, no.3, pp.252-258 (2007)
6) 岡本彰、国安仁、服部毅:「高濃度オゾン水を用いたレジスト剥離」、応用物理学会第 62回(2001年秋季)学術講演会予稿集p.617, 講演番号12p-W-10 (2001)
7) T.Hattoriほか:「Stripping and cleaning of high-does ion-implanted photoresists using a single-wafer, single-chamber dry/wet hybrid system」, IEEE Transactions on Semiconductor Manufacturing, vol.22, no. 4, pp.468-474(2009)
以上


第5回「空気清浄のための〔上方流〕と歩留向上のための〔チップ分割〕という新しい概念」(2022/7/7)



 毎年秋に開催している「先端半導体クリーン化・歩留向上技術~先端半導体製造ラインの汚染の実態と歩留向上のためのウェーハ表面汚染防止技術の基礎から最新動向まで~」セミナーを今年も来る2022年9月28日に東京で開催し、オンラインZoomも併催します。このセミナーでは、半導体表面に付着する汚染物質をいかに防止するか、半導体ウェーハを汚染から防ぎ、高歩留まりを確保するノウハウを解説します。11月開催予定の「先端半導体洗浄乾燥技術セミナー~ウェーハ表面汚染除去の基礎から最新動向まで~」と姉妹セミナーとなっておりますが、それぞれ独立しておりますので、いずれか一方だけでも受講可能です。
 セミナーは毎年1回だけ開催しており、毎回、最新動向を常に追加して講義内容を更新しておりますが、今年新たに取り上げる予定のテーマの中から2つの最新テーマを紹介しましょう。


1. クリーンルームの新方式
 先端半導体工場では、シリコンウェーハは密閉箱(FOUP)に収納されており、その開閉は装置内で行われておりますので、クリーンルームの空気に触れないにも関わらず、いままで最高清浄度のクリーンルームを設置する企業が多かったです。しかし、最近新たな動きが出てきました。

 近年は製造装置が発する熱が問題となっており、従来の天井から清浄空気を床にめがけて流すダウンフロー(下方流)方式だと暖流が発生する懸念があるため、空気の取り入れ方を見直すようになってきました。装置の発熱を上方に逃がすため、流れを従来とは真逆のアップフロー(上方流)として装置から天井へと変更する半導体企業が出てきました。まさに発想の大転換です(図1参照)。




図1 クリーンルームの新たな空気の循環方式:
図示されていないが、一部の上方流(暖流)は外部へ放出し、
吸気ユニットでは、フレッシュエアを一部取り入れている。
(出所:三重富士通セミコンダクター)
https://www.usjpc.com/news/press_release/2015-1105


 製造装置などの発熱体から発生する熱上昇流とともに浮遊微粒子をクリーンルーム上部へと搬送されます。従来方式と比較して給気風量の大幅削減が可能となります。さらに、本システムは建屋構造を簡略化できるため、建築工事費用も削減できます。

 この方式を最初に導入したのは、富士通三重工場(正式名称は三重富士通セミコンダクター、現UMJC)でしたが、最近はキオクシア北上工場にも導入されたことが報告されています。


2.チップ分割(チップレット)で歩留まり向上
 シリコンウェ―ハ上のパーティクル付着のように欠陥がランダムに発生する場合、製造歩留まりはポアソン分布に基づいて予測可能であり、チップ面積が大きくなるにつれて歩留まりは指数関数的に低下してしまいます。論理回路が複雑になるにつれて、チップ面積はますます大きくなり、歩留まりは低下の一途をたどっています。これを防止するための方策が業界全体で進められています。



図2 チップレットを集積したSoP:業界全体でチップレット間のI/O標準化が進んでいる。(出所:UCle)


 SoC(System on a chip)を機能ごとに分割して小さなチップレット(チップをさらに分割した小片)とすることによって個々のダイ面積を小さくすれば、個々のチップレットの歩留まりは著しく向上するわけです。「Known good die」と呼ばれる動作実証済みのダイ(すなわちチップレット)を実装したSoP(System on a Package)は、高い歩留まりが確保できるため、不良品による損失を最小化できるというわけです。

 SoPでは、最先端のプロセスを使わなくても済む部分(例えばI/Oコントローラー)には、レガシープロセスを適用したチップレットを用い、最も微細化が要求される部分(例えばCPU)には微細化プロセスを用いたチップレットを用いるようにして、機能ごとに別々の微細化プロセスを適用すればコスト削減が図れます。
 もう1つ、チップレットのメリットとしては、メーカー各社が、他社製の設計と検証の手間のかからないチップレットを選択し、性能面や価格面で最も適した組み合わせでSoPを作ることが可能になります。このため、設計の自由度が増します。複数のチップレットを相互接続するための通信方式のオープン規格を業界全体で統一する活動がすでに始まっています。

 本セミナーの主たるテーマは、シリコンウェーハ上の汚染(パーティクル、金属汚染、有機物汚染など)をいかに防ぐかということですが、上述したような周辺技術の最新知識も習得できます。


第4回「半導体クリーン化技術の質問に答えます」(2021/10/7)



 去る2021年9月21日に、毎年一回開催している「先端半導体クリーン化・歩留まり向上技術」のセミナーをオンラインで開催しました。後で受講者からいろいろ質問をいただきましたが、ここでは多くの方々に共通する一般的な質問をとりあげて回答することにします。受講されなかった方にもこの分野に興味を持っていただくため、わかりやすくビジュアルに解説しました。


Q: 有機汚染はパーティクル(異物微粒子)として観察されることはあるのでしょうか。
A: パーティクルの中には、例えばフォトレジスト残渣フレークやプラスティック製ウェハカセットの摩耗粉のように有機物でできたものも多数あります。これらは、離散して存在し、表面検査機でパーティクルあるいはヘーズとして検出されます。これらは無機物質のパーティクル同様に、パターン欠陥の原因になります。
 しかし、有機汚染の多くは、クリーンルームや設備内の有機材料からガスとして放出された有機物質がVOC(Volatile Organic Compounds、揮発性有機化合物)として空気中に浮遊しウェハ上の広い面積に薄膜状で吸着するのが特徴です。図1にそのイメージを示します。




図1 ウェハ表面に付着する各種汚染のイメージ図
(服部毅編「新編シリコンウェハ表面のクリーン化技術」p. 171より)


 量が多ければパーティクルあるいはヘーズとして観察されることもあります、たとえば、フィルタのコーキング材であるシロキサンは、ごく少量でもウェハに吸着しやすい性質があり、リソグラフィ(露光)やレーザー照射を用いた各種計測時に光や熱で化学分解して揮発成分は飛び去り、最終的に固体成分である2酸化ケイ素(SiO2、白色)が目に見える形でウェハや露光装置や光学式計測装置のレンズ・ミラー上に残留します。レンズ(あるいはミラー)の透過率が落ちてしまい、露光や計測に支障をきたします(図2参照)。




図2 シロキサンが原因のレンズの曇り(ヘーズ)(情報機構クリーン化セミナーテキストより)


Q: 密閉ボックスでの輸送について、真空を維持したままボックスで搬送するというアイデアはどのようにお考えですか。
A:  過去に米Texas Instrumentsが国防総省空軍の援助で真空ボックスを用いた試作ラインを構築し論文も発表しました。減圧プロセスから別の装置の減圧プロセスへウェハを移行させる際に真空を破らずに済むので時間の節約ができ、デバイス製造に要する時間を短縮できるとの理由でした。しかし、誰も真似しようとはしませんでした。金属をくりぬいた真空ボックスの価格は高くて重たいし、真空装置から別の真空装置へ移送というプロセスは多くはないし、その場合は今ならマルチチャンバを使えば箱に出し入れせず、真空を破らずにそれぞれのチャンバで別の処理ができます。歩留まりを上げるためには、プラズマCVD やドライエッチングなどの減圧処理の後や次工程の前にはウェハに付着したパーティクルによる歩留低下を防ぐために真空とは相性の悪いウェット洗浄が入るようになりました。講義の最後にお話ししましたように、FOUPにしろSMIFにしろ密閉箱に入れたり出したりせずにプロセスを連続で行うやり方が理想だと思いますが、マルチチャンバによる連続プロセスなど一部を除きまだ実現していません。(多くの量産工場ではそのような使い方をせず、すべてのチャンバで同一プロセスを行ってスループットを上げているのが現状ですが)。将来、枚葉搬送枚葉処理を実現するには、さらにどんなことを検討する必要があるか考えてみましょう。実は、ITRS (国際半導体技術ロードマップ)では、2000年代に10年後(つまり2010年代)に一部で枚葉搬送枚葉処理が採用されるようになるとの予測を発表していましたが、そのようにはなっていません。ほかのほとんどの産業では(例えば自動車組み立て工場、わかりやすい身近な例ではデパ地下でよく見かけるせんべいがベルトコンベア上を搬送しながら加工される自動製造機)ごく普通に行われているこの方式がなぜ半導体製造では採用できていないのでしょうか。この辺の事情を検討することで、すでに四半世紀にわたり進歩していない半導体ウェハ搬送・処理方式に破壊的革新がもたらされるでしょう。




図3 枚葉搬送枚葉処理を採用した半導体製造システムの模式図(情報機構半導体クリーン化セミナーテキストより)


Q: クリーン化セミナーと洗浄セミナーはどこが違うのですか。クリーン化や洗浄技術は日本が強い分野ですか。
A: まず、後の質問からお答えします。ウェハ洗浄は、パーティクルを発生する各プロセスの前後に行う場合が多く、半導体製造工程で最頻プロセスとなっています。そのためのウェハ洗浄装置は大きくバッチ浸漬式と枚葉スピン式の2種類ありますが、前者はスクリーンが70%、東京エレクトロンが15%前後のシェアを握っています。後者はSCREENが4割弱、東京エレクトロンが2割弱と日本勢が過半のシェアを握っています。米国Lam Research (旧SEZ)と韓SEMES (Samsungの子会社)がそれぞれ10%台のシェアで続きます。韓KC テック、米アクリオン、芝浦メカトロニクスなど多数のサプライヤーが1桁台のシェアで続きます。洗浄と関連のあるCMP装置の世界トップシェアはアプライドマテリアルズが握っていますが、荏原製作所が3割のシェアを持って検討しています。水回りのプロセスは、きめ細かいメンテナンスが必要で、日本勢が強いといわれています。クリーン化も日本が強い分野です。ソニーでは、各種汚染に敏感なイメージセンサを数十年にわたり開発し製造してきたので、クリーン化については世界でも最も進んでいると思います。最新のクリーン化・洗浄技術に関する国際会議の様子、特に日本勢の活躍についてはマイナビニュースに参加レポートを執筆したのでご覧ください。https://news.mynavi.jp/article/ucpss2021-1/

 なお、「先端半導体クリーン化・歩留まり向上技術」のセミナーは「半導体表面への汚染付着をどのように防止するか」に焦点を当てており、これに対して2021年11月25日に開催した、クリーン化セミナーの後編ともいえる「先端半導体洗浄・乾燥技術」セミナーは、半導体表面の汚染をどのように除去するか」に焦点を当て解説しました。

先端半導体洗浄・乾燥技術
~半導体製造ラインのウェーハ表面洗浄・乾燥および
汚染除去技術の基礎から最新動向まで~

●日時 2021年11月25日(木) 10:30-17:00


第3回「シリコンウェハを収納・搬送する密閉箱FOUPの問題点」(2021/7/14)



 世界中の先端半導体製造ラインで使われている300mmシリコンウェハは、FOUP(Front Opening Unified Pod)と呼ばれる密閉箱に収納されて保管・搬送されている(図1,2参照)。
 前面についているふたは、FOUPを製造装置に装着した際に機械的に自動で開閉できるような仕組みになっており、これがFront Openingの由来である。Unifiedというのは、ウェハケースとウェハカセットが一体化しているとことに由来する。
 
 ウェハをFOUPに収納することにより、クリーンルームの空気中のパーティクル(異物・微粒子)や分子状の汚染物質(揮発性有機物質やアンモニアやドーパントなど)の付着を防ぐことができる。これにより、クリーンルームの空気の清浄度を下げることができ、作業者は全くウェハに触れることなく作業を行えるので、クリーン化の観点からの優れた概念である。



図1 FOUP(蓋を開いて中に収納されているウェハが見えるようにしている)



図2 FOUPローダーを4台装着可能なウエハ保管庫


 FOUPは、国際半導体装置材料協会(SEMI)により世界標準化されているため、世界中の300mmウェハを用いた半導体上場で採用されているが、良いことずくめではない。過去には、蓋を開けるたびの発塵とかプラスティック材からの有機ガス発生など様々な問題があったが、今ではほとんど解決している。

 FOUPの本質的な問題点

 しかし、きわめて本質的な課題が残されている。この種の密閉箱は、もともと米国HP(ヒューレット・パッカード)社半導体事業部門の天井からパーティクルが舞い降りる古いクリーンルームの延命策として考案されたものである。外からの汚染は防ぐことしか念頭になかったので、ポッド内部に汚染発生源がある場合は防ぎようがない。パーティクル付着の無い、きれいなウェハをクリーンルームのきれいな空気中で入れたのだから、ポッド内部に汚染発生源などあろうはずはないと思われるかもしれないが、最近は、これが大きな問題となってきている。

 F系やCl系の腐食性ガスを使ってドライエッチングしたウェハをFOUPに収納すると、ウェハ表面に残留していた腐食性ガスが揮発してFOUP内壁に吸着し、別なウェハを入れた際に、FOUP内壁から揮発したガスがウエハに吸着して、金属配線を腐食する現象が起きる。
 最近は、このほか様々な理由でPOUP内を窒素パージするようになってきているが、この問題についても言及する。


第2回「超臨界流体洗浄・乾燥をDRAMメーカーがパターン倒壊防止のために量産導入」(2020/11/9)



 先日、最先端超微細半導体プロセスの技術動向を調査している市場動向調査会社から、「超臨界流体の先端半導体プロセスへの応用に関心が集まっているようだが、実態をつかめない。洗浄・乾燥技術の半導体製造への適用に関する貴殿の書かれた書籍(図1)(参考資料1)を読んだが、出版から8年を経ているが、この間にどの程度実用化したのか?」という問い合わせを受けた。この書籍は大学教授の方々との共著で、私が半導体メーカーの研究部門在籍時に研究した成果もとに様々な半導体プロセスへの適用に関して実例をあげて解説していたので、私に問い合わせがあったわけだ。調査会社の担当者は、半導体メーカーも装置メーカーも口が堅く最新情報を得るのが困難だと言っていた。それにはわけがある。

 DRAMメーカーが10nm 級先端DRAM製造に導入

 実は、超臨界流体洗浄。乾燥技術は、すでに韓国Samsungで実用化し、先端DRAMの量産ラインで使われている。そのための装置を製造しているのは、Samsungの子会社で韓国最大の半導体装置メーカーであるSEMESであるが、Samsungは、超臨界流体洗浄・乾燥を実用化したことを公表しておらず、SEMESは装置を製造していることを公表しておらず、外販もしていない(参考文献2)。DRAMライバルのSK HynixやMicron TechnologyはSEMESから入手できないので、東京エレクトロンやSCREENなどの日本勢や韓国のSEMESのライバル企業に開発依頼をしている。すでに、日本製の超臨界流体洗浄・乾燥装置の試作機が、Samsungのライバル各社に納入されているらしいが、こちらもかん口令が敷かれ社外秘となっている。
 そういえば、数年前に、韓国半導体装置メーカーの技術者が私のセミナを受講し、日本語を勉強し愛読しているという上述の書籍(図1)を持参し、サインを求められたことがあった。超臨界流体装置を韓国での新たなビジネスチャンスととらえて装置を開発中だと言っていたが、完成したのだろうか。



図1 超臨界流体洗浄・乾燥について解説した専門書


 リンス水の表面張力で先端半導体デバイスの微細回路パターンが倒壊

 アスペクト比の大きな柱状構造は、水や液体の表面張力による毛管現象で、パターン倒壊癒着が起きやすく(図2参照)、プロセスの微細化に伴いますます半導体微細加工を阻害する現象として知られ、先端プロセスを活用したい半導体メーカーは解決策を長年にわたって模索してきていた。



図2 リンス水の表面張力で倒壊したアスペクト比のおおきな柱状回路パターン(FinFETのフィン列)の例


 表面張力が原理的に発生しない超臨界流体技術はMEMS分野ではすでに微細パターンの乾燥用に導入されており、一般にもコーヒーからのカフェイン抽出やレース地の複雑な模様のある衣類の染色やドライクリーニングなどでも使われているが、高圧下でのプロセスであるため、減圧プロセスが中心の半導体業界では研究は長年にわたって進められてきたが実用化はされていなかった。韓国メディアは、「Samsungは、京畿道華城市にある最先端の10nm級のDRAM量産ラインにおいて、ますますアスペクト比が大きくなる円柱状キャパシタ構造の洗浄乾燥に活用している」と伝えているが、どうやら従来からある洗浄・燥手法では、ソリューションが見いだせず、最終的に原理的に表面張力が発生しない超臨界流体にたどり着いた模様だ(参考文献2)。Samsungでは新型メモリなどでも適用を検討しているともいわれている。



【参考文献】
1)服部毅(共著):「半導体・MEMSのための超臨界流体」(コロナ社)
https://www.coronasha.co.jp/np/isbn/9784339008371/

2)服部毅;「日本は半導体製造装置でも韓国を後追いする立場となるのか? - Samsungが子会社開発の超臨界洗浄装置をDRAM量産ラインに導入」  マイナビニュース  2017.3.07
https://news.mynavi.jp/article/20170307-semes/

マイナビニュース(服部毅の記事一覧) (https://news.mynavi.jp/author/0001750/) に、毎日、世界中の半導体産業や半導体技術に関する最新ニュースを執筆しておりますので、グローバルな半導体産業や半導体技術に関する最新情報入手にご活用ください。


第1回「台湾TSMCがEUV露光用マスクの「ドライクリーン技術」を量産導入し歩留向上」(2020/8/18)



 2020年8月現在、米国インテルや韓国サムスンエレクトロニクスは先端のロジックデバイス試作ラインにEUV(波長13.5nmの極端紫外光)リソグラフィを導入しているが、製造歩留まりが長期にわたり低迷しており、7/5nmデバイスを量産できる状態には至っておらず、台TSMCだけが量産に成功して独り勝ち状態にあると半導体メディアが伝えている(参考文献1.2)。
 なぜ、TSMCだけ最先端の超微細デバイスの歩留まりを高く保つことができているのだろうか。その背景に隠されていたTSMCの様々な歩留まり向上策の一端が最近明らかになったので紹介しよう。

 TSMCは、EUVリソグラフィ工程で使用されるEUVマスク上に付着したパーティクル(異物微粒子)除去に、従来の薬液や純水を大量に使うウエット洗浄プロセスにかわる環境にやさしい「ドライクリーン技術(Dry-Clean Technique)」を量産ラインに導入してEUV適用デバイスの製造歩留まり向上を図っていることが明らかになった(参考文献3)。ドライクリーン技術は薬液や純水のかわりに物理力でパーティクルを除去してウェハ表面を清浄化する「ドライクリーニング技術」とも異なり、付着したパーティクルを1粒ずつ組成分析して同定し、発生源を特定してその発生源を排除することにより、マスク上にパーティクルが付着せぬようにするパーティクル付着防止手法である。なお、Dry-Clean Techniqueは、TSMCの独自の呼び方である。



TSMCの半導体製造クリーンルームでEUVマスク表面を拡大画像で観察しているエンジニア (出所;TSMC)


 落下するパーティクルの分析と汚染源の排除により、10,000ウェハごとのマスク付着パーティクル数が以前の数百個から1桁台に減少させ、2020年までに99%の削減率を達成できたという。同社によれば、導入以来、節水量は約735トン、薬品節約量は約36トンとなっている。改善効果は70億円に達したという。すでにこの手法を完全自動化し、そのシステムを量産ラインに導入済だという。

 同社は、「ドライクリーン技術」は世界初の量産導入と宣伝しているが、確かにEUVマスクに関しては世界初であっても、シリコンウェハ上のパーティクル対策としては極めて常識的な対策であろう。歩留まり向上には、こういった地道な努力の積み重ねが必須である。



【参考文献】
1) 服部毅:「Intel、7nmでも歩留まりの低迷で外部ファウンドリの活用の可能性も」
https://news.mynavi.jp/article/20200727-1177821/  マイナビニュース 2020/7/27

2) 服部毅:「Samsungの5nm EUVプロセスに歩留りトラブル発生か?! - 海外メディア報道」
https://news.mynavi.jp/article/20200724-1172912/ マイナビニュース 2020/7/24

3) 服部毅:「なぜTSMCだけEUVプロセスで高い歩留まりを達成できるのか?」
https://news.mynavi.jp/article/20200807-1204728/ マイナビニュース 2020/8/07

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