研究開発者に、すぐ役立つ実践MOT(技術経営):情報機構 講師コラム
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トップ講師コラム・取材記事 一覧> 研究開発者に、すぐ役立つ実践MOT(技術経営):情報機構 講師コラム


講師コラム:小西 正暉先生

『 研究開発者に、すぐ役立つ実践MOT(技術経営) 』


コラムへのご意見、ご感想がありましたら、こちらまでお願いします。
小西正暉先生のご紹介

【ご経歴】
所属・役職: 徳島大学工学部創成学習開発センター・客員教授(創造性豊かな学生を育てる)
経歴: 元・キヤノン(株)
活動: 太陽光発電協会シニアアドバイザー、ITコーディネータ
季刊誌「ソーラーシステム」に“太陽光発電の実務知識”を連載完了


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第1回 MOT(Management of Technology)とは?
 
 MOTは一般的には「技術経営」と訳されており、1980年代に米国のマサチューセッツ工科大学で開始された教育プログラム(Management of Technology Program)が語源といわれています。
 また、アポロ計画からでてきた概念だという説もあります。
 アポロ計画は人類を月に送るという壮大な計画でした。
 個々の技術開発はもちろんのこと、機器やシステムの信頼性、プロジェクトチームの編成や日程計画立案から管理までシステマチックに遂行する必要がありました。
 このように広く技術をマネジメントする手法ともいえます。

 経済産業省ではMOTを「技術を事業の核とする企業・組織が次世代の事業を継続的に創出し、持続的発展を行うための創造的かつ戦略的なイノベーションのマネジメント」と定義しています。
 簡単に言えば「技術を効率的に活用して企業経営に役立てる」と考えればいいでしょう。

 アメリカではMBA(Master of Business Administration)教育が盛んで、MBAを取得した人が経営幹部として企業を運営していました。
 しかし最近ではMBA教育で教わる企業戦略やプロジェクト戦略に加えて、先端的な技術動向も加味して企業運営を行わなければ、的確なマネジメントができなくなってきました。

 ヨーロッパの有名なビジネススクールである国際経営開発研究所(IMD)による日本の世界競争力(World Competitiveness Yearbook)ランキングでは、92年の1位から2002年には27位まで落ち、その後は低迷し2006年にやっと20位以内に返り咲きました。
 特許件数や開発投資ではトップクラスの日本が、このような評価を受ける最大の原因はビジネス効率の悪さや起業家が育たないことにあると指摘されています。
 シリコンバレーにあるスタンフォード大学のSRI(Stanford Research Institute)が定義しているMOTは「技術投資の費用対効果を最大化すること」と単純明快で、日本こそMOTを普及しなければならない国かも知れません。



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第2回 企業の使命と収益 
 
 MOTは企業だけのものではありませんが、今回は対象を企業に絞ってご説明します。

 企業の使命は、世の中が必要とするモノやサービスをタイミングよくお届けすることで、その対価として収益(利益)を得ます。
 したがって、その収益はお客様のために継続的に使われなければなりません。

 「継続的」は企業にとって重要なキーワードで、現状の延長線上の商品だけでなく潜在ニーズを掘り起こし、そのニーズにマッチした商品を開発し、お客様に喜ばれる商品を世の中にお届けしなければなりません。
 このように長期的な視点で研究開発を続けるためにも、得られた資金を効率よく使って「商品」で世の中に貢献しなければなりません。

 MOTは「技術を効率的に活用して企業経営にやくだてる」とか、「技術投資の費用対効果を最大化すること」とご説明しました(第1回)。
 効率よく収益を上げ、その収益を「技術」という側面から効率よく活用し、お客様のニーズに応える企業活動そのものが、実践的MOTだと考えます。

 収益を上げるためには、どうすればいいのでしょう。
 昔から「入るを図って出を制す」といいます。
 この原則は個人も企業も国家も同じで、徹底して守ることが大切です。
 これを式で表すと以下のようになります。
   売上(入る)-経費(出る)= 利益
 この式を分解して表すと以下のとおりです。
  売価 - 原価 = 粗利 ・・・①
  粗利 - 経費 = 利益 ・・・②

 ①式の粗利を大きくするためには「安く作って(安く仕入れて)高く売る」、言い換えれば魅力のある商品(高く買ってもらえる商品)を開発し、材料や作り方を工夫して安く作ることです。
 また、研究開発費や設計費は(企業によって異なりますが)②式の経費または①式の原価にカウントされますから、研究開発の効率をあげることもMOTの重要なテーマです。


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第3回 敵を知り己を知る(SWOT分析)(2007/12/4)
 
 孫子の兵法にでてくる「敵を知り己を知れば百戦危うからず」には続きがあって、「敵を知らずして己を知れば一勝一敗、敵を知らず己を知らざれば戦うごとに必ず危うし」とあります。

 情報分析の重要性を端的にあらわした格言だと思いますが、現代も2500年前と変わらず正確で客観的な情報分析の重要性は増すばかりです。
 人はそのときどきで自信過剰になったり自信喪失気味になったり、とにかく情報処理に主観が入るのが常です。
 どんな手法を使っても公平に(客観的に)情報を分析するのは難しいのですが、比較的有効な手法の一つにSWOT分析があります。

 SWOT分析は1960年代にスタンフォード研究所で開発されたもので、チーム自身が持つ内部環境を強み(Strengths)と弱み(Weaknesses)に、プロジェクトがおかれている外部環境を機会(Opportunities)と脅威(Threats)に分けて分析・評価します。
 外部環境とはプロジェクトが目的を達成するうえで影響力を受けると思われる要因の分析、内部環境はチームが持っている有形・無形の資源(技術力や資金力など)を分析評価します(下表参照)。



SWOT分析の基本は
 ・ 強みをどのように生かすか?
 ・ 弱みをどのように克服するか?
 ・ 機会をどのように利用するか?
 ・ 脅威をどのように取り除くか、避けるか?
ですが、気をつけなければならないことは、弱みをどこまで改善しても他社に追いつくだけです。

 強みを更に強くして他社が追従できないレベルまで引き上げることが重要で、弱みは他社にアウトソーシングするとか共同開発することも視野に入れなければなりません。
 また、機会と脅威は捉え方によってはどちらにでも解釈できる場合が多く、重要なことは機会を逃さない俊敏さです。

 SWOT分析の最大の利点は、チームで議論する過程で共通の現状認識や問題意識を持つことができ、チームの一体感が醸成されることです。
 全員参加で議論することによって、独善的に陥りがちな情報分析を少しでも公平にし、共通の目標をもって邁進することによって百戦百勝して欲しいものです。


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第4回 サプライチェーンと研究開発(2007/12/18)
 
 原材料や部品の調達から製造、流通、販売という、お客様に商品をお届けするまでの一連の流れを「供給の鎖(サプライチェーン)」といいます。企業活動は、上記の「主務業務」と企画・人事・経理といった「支援活動」から成り立っています。
 では、研究開発業務はどちらに属しているのでしょう。製品設計しなければ製造できませんから、研究開発は主務業務のように思えますが、実は支援活動グループに位置づけられています。

 分かりやすい例としてアパレルメーカーのベネトンのお話をしましょう。ベネトンは、妹さんが編んだセーターをお兄さんが近所に売ることからスタートした企業で、お兄さんの経営センスもさることながら、妹さんの卓越したデザインセンスによって世界中に店舗を持つ国際企業になったといわれています。
 ところが、いくらセンスのいい妹さんとはいえ、色の流行を予測するのは至難の業だったようです。このことを知ったベネトンの技術者たちは、お客様の反応を見てから色を決めるという経営課題を技術で解決しました。

 セーターは糸の段階で色を染めたあと編んで仕上げます。お客様の好みがわかる頃には糸の染色は終わっているため、色の予想が外れると糸が無駄になるだけでなく出荷までに時間がかかりすぎます(ビジネスチャンスを逸する)。
 そこで白の糸でセーターを編んでおき、あとで染めることにチャレンジしました(染色工程を後にする)。セーターを染めるには、胸や背中の広い部分と脇の下のように狭まった部分をムラなく染めなければなりません。この難題をベネトンの技術者はクリアしたのでした。

 テーマの探索活動において、世の中の研究開発の動向調査からスタートする場合がよくありますが、これではロスが多すぎます。企業の研究開発テーマの設定は、企業が必要とする経営課題の理解からスタートすべきです。
 経営が要求するテーマを研究開発課題に具現化し、その課題解決のために世の中のシーズ(種)を探索するといったやり方のほうが、ずっと効率のいい研究開発活動だと思います。


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第5回 共同開発契約と機密保持契約(2008/1/15)
 
 限られた経営資源の中で効率的に研究開発を進める手法として、お互いの得意技術を出し合って進める共同開発は、企業にとって重要な経営戦略の一つです。
 ところが、共同開発そのものが研究開発行為のため、共同開発契約の中に盛込まれるべきビジネスのことが後回しになることがあります。

 加工が難しい特殊な材料を機械メーカーと一緒になって加工方法を共同開発した場合、材料が売れるのに伴って加工機も売れますからお互いにハッピーな関係ですが、例えばデバイスメーカーと装置メーカーの間で従来の数倍も能力のある加工機を共同開発した場合はどうでしょう。
 装置メーカーは開発した装置をどんどん販売したいのですが、デバイスメーカーはコンペチターを引き離すチャンスですから、他社に装置を売って欲しくありません。

 また共同開発を行う場合、他社には知られたくない機密事項も話し合うことになりますから、一般的には機密保持契約(Non Disclosure Agreement/NDA)も結びます(共同開発契約の中に機密保持契約を含める場合もあります)。
 NDAには、共同開発が終わった後3年間とか5年間の機密保持期間を設定するのが一般的です。
 共同開発契約の中にビジネスの取扱が触れられていないと、ハッピーな関係だと思われた材料メーカーと機械メーカーの間でも問題が生じます。
 例えば、お客様から商品に関する技術的な質問を受けたとき(NDAで縛られている内容に関しては)「えー、あのー・・・」と曖昧な応答をしなければなりません(ここで説明してしまうと機密漏洩になります)。

 自社独自で研究開発をスタートするときは、事業化の目処がたってからビジネスの詳細を考えても遅くはないのですが、共同開発の場合はビジネスのための開発戦略の一環であることを十分認識し、事業化の道筋をしっかりと見定めてからスタートしましょう。


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第6回 特許の使い方(2008/1/29)
 
 特許制度の目的は「この法律は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発展に寄与することを目的とする。」と、特許法第1章第1条に書かれてあります。
 目的から明らかなように、特許は産業(ビジネス)の発展に貢献して初めて価値がでるのであって、学術的な高さが要求される学術論文などとは異なります。さらに重要なことは発明を奨励する見返りとして一定の法的な保護が与えられていることです。

 特許はビジネス活動の重要な道具(ツール)ですから、特許本来の特長を生かした使い方をしなければなりません。すなわち長期的な視点に立って、企業が有する技術や事業の発展にどのように寄与できるかどうかを見極めなければなりません。
 特許のロイヤリティ収入の多寡や訴訟で勝ち取った賠償金などが話題になりますが、特許係争は金銭的にも人的にも膨大なコストを要します。
 例え訴訟に勝ってライセンス料や賠償金を得たとしても、それは短期的な収益にしかならず、長期的な観点からは創造性を欠いた作業にしかなりません。

 特許はビジネスで使うことによって価値が生まれてくるものですから、使われ方によって価値に差がでてきます。使う企業によっても異なりますし、どのような製品に使われるかによっても異なります。
 また所有している特許が一つなのか、あるいは関連特許を所有しているのか否かによっても異なります。
 最近は一つの製品が一つの技術で成り立っていることは少なく、複数の技術が複雑に入り組んでいます。すなわち単独の発明や特許で事業化に至ることはほとんどなく、数多くの特許を組み合わせる必要があります。このような背景から1社で全ての技術を用意することが難しくなりつつあり、単純な(1件ごとの)クロスではなく、「パッケージ・クロスライセンス」が主流になってきました。

 事業を成功に導くためには、単独の研究者のみに頼るのではなく、複数の研究開発者はもちろんのこと、事業にかかわる全員が協力しなければなりません。このような観点からも特許の発明者だけが大きく評価されるべきではありません。



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第7回 企業内における研究開発の位置付け(2008/2/12)
 
 ハーバード・ビジネススクールのマイケル・ポーター教授は、企業の競争力を明らかにするために「バリューチェーン」という内部環境分析手法を提唱しています。
 この手法は、企業が製品やサービスを顧客に提供する企業活動を、購買物流・製造・出荷物流・マーケティングと販売・サービスといった一連の流れの中で、価値とコストを付加・蓄積していくものととらえ、この連鎖的な活動によって顧客に届ける価値が生み出されるという考え方に基づいています。

 図に示すとおり、一連の流れを主活動と位置づけ、全般管理・人事労務管理・研究開発・調達活動を支援活動と位置づけています。このバリューチェーンの利用方法は、全体的にどのようになっているのかを把握するところから始めます。 どの工程が価値を生み出し、どの工程で多くのコストを費やしているかを解析し、効率よく価値をあげるためにはどこを改善するべきか検討します。



 ここで最も重要なことは、技術開発が支援活動の項目に位置していることです。技術開発の最も重要な目的は価値の高い製品を開発することですが、それだけでは不十分で、バリューチェーン全体を見渡して各ステップで価値を向上させたりロスを減らしたりしなければなりません。
 例えば大きな機械を輸出する場合を想定します。大きな機械ですから性能試験を完了したあと、輸送のために機械を分解して運びやすい大きさにします。次に壊れやすい部品をしっかりと梱包します。運搬方法のところに大きな改善点が隠れていることがお分かりでしょう。

 企業の製品開発はコンペチターと差別化するために、新機能を付加することに多くの時間を割きます。
 このこと自体は非常に重要なことですが、開発した製品がお客様に届くまでに多くのステップがあることを認識し、どのステップで新しい付加価値をつけるのか、どのステップでコストを削減するのか、全体のバランスに気を配りながら研究開発活動に取組みましょう。


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第8回 製品の仕様は時代とともに変わる(2008/2/26)
 
 コンピュータに欠くことのできないDRAM(演算処理を行う際、一時的にデータを保存する役目を担っている)は、1970年代に従来のリング状の磁性体(磁気コア)から半導体集積回路に置き換わりました。
 半導体ICの製造技術は高度で、当時は主に米国でしか作れませんでした。1980年代に入って米国をキャッチアップした日本は、徹底した品質管理で高品質の製品を世の中に供給し、米国に取って代わりました。ところが1990年代に入り、製造技術でNo.1だった日本のメーカーが韓国・台湾に太刀打ちできなくなりました。

 日本の半導体技術が台湾や韓国に負けるようになったのでしょうか。日本の半導体技術者に質問すると全員が「勝っている」あるいは「百歩譲っても、決して負けてはいない」と答えます。
 確かにデジカメなどに使われているCCDやCMOSセンサ(半導体素子)は、メモリよりずっと難しい製造技術が必要ですが日本の独壇場です。

 ではDRAMの世界で何が起きたのでしょう。1980年代はIBMに代表される大型コンピュータも健在で、ミニコン・オフコンと呼ばれる小型コンピュータ(いま思うと結構大きいのですが)が中心でした。そこで使われるDRAMに要求された仕様は長期信頼性でした。
 日本メーカーは徹底的に品質の向上を果たし、世界の半導体市場を席巻しました。その証拠に1987年における半導体の売上高は1位がNEC、2位が東芝、3位が日立と、金銀銅を日本が独占しています。

 1990年代に入りパソコンが普及してきました。皆さんが感じているとおりパソコンの普及は爆発的で、コストの低下もドラスティックでした。パソコンの耐久は長くても5年、大型コンピュータの時代に要求された20年保証ではなく、要求されたのは過酷なコストダウンでした。
 韓国・台湾のメーカーは技術導入をしながら、徹底的にコストパフォーマンス(費用対効果)を追求しました。一方、日本の半導体メーカーは(成功体験が邪魔したのでしょうか)対応が遅れました。結果は(昨年上半期の売上実績で)1位がインテル(米国)、2位がサムスン電子(韓国)、3位がTI(テキサス・インスツルメンツ/米国)です。

 企業の開発には優先順位があります。最も気をつけなければならないことは、お客様が何を要求されているのかを見抜き、必要な技術開発に力を集中することです。



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第9回 P&G社とプロジェクト憲章(2008/3/11)
 
 プロクター・アンド・ギャンブル社(P&G)は、洗剤・紙おむつ・ヘルスケア製品などを製造販売している会社で、年間売上8兆円の大企業です。
 それでもP&Gは年率5%の成長を目標に掲げています。たった5%の伸びといっても売上8兆円の規模ですから、年間4000億円の売上増を達成しなければなりません。
 当然のことながら現行製品の拡販だけではなく、多くの新規事業を立ち上げなければ4000億円の売上を上乗せすることはできません。

 2000年、CEOになったラフリーは、売上の増加を上回る勢いで増え続ける研究開発費にメスを入れました。彼の卓越したところは、研究開発費を抑えるのではなく、過去の成功事例を徹底的に調査したことです。
 調査の結果、素晴らしい成果をあげている大半が、組織の壁を超えてアイディアを融合させたものや、社外との連携によって開発が行われたものであることを見出しました。
 そこでラフリーは、新製品の半分をP&Gの研究所単独ではなく、他社や大学などとの共同開発によって実施するよう方向転換しました。

 ソフト開発の世界には「プロジェクト憲章」というツールがあります。開発プロジェクトが目指すターゲットやゴールなどを明記したチーム全員の「みちしるべ」です。
 プロジェクト憲章には、プロジェクトの名称、なぜ行われるのか、具体的な最終目標、成果物、予算、納期、完了条件、組織とメンバー、チームの運営ルールなどが書かれています。

 自分たちが進めようとしている目標が明確でなければ、そして相手(パートナー)に求めようとしている内容が明確でなければ協業は成り立ちません。
 異なる企業文化の中で育った技術者同士が、共通の目標、共通のルールで、お互いに業務を分担しなければならない協業にとって、プロジェクト憲章は絶好のツールといえるのではないでしょうか。

 P&Gがプロジェクト憲章を使ったかどうかは分かりませんが、他部門や他社と協業するために、研究開発の目標や開発項目の分担を明確にし、完成までの時間管理を厳格に行ったことは容易に想像できます。
 協業のいい側面を最大限に引き出し、大成功したP&Gの優れたところを学んで欲しいと思います。



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第10回 まとめ(2008/3/25)
 

 第2回の②式でご説明したように、研究開発活動の資金は、企業がビジネス活動によって生み出した粗利の一部から充当されます。従って資金が足りない場合は、自らが稼ぎ出すことから始めなければなりません。研究開発資金の原資となっている粗利を増やすためには、①式の売価を高めるかコストを低減するかのどちらかです。
 順番としては、取り組み易いコスト削減からスタートしたほうが得策だと思われます。なぜなら、生産現場はいつでも驚くほど多くの改善項目(コスト削減テーマ)が転がっているからです。

 次に、第3回で説明したSWOT分析などの手法を使って、他社製品と自社製品の比較検討を行い、コスト削減で浮いた資金を使って、強みをより強く、そして弱みを補強しなければなりません。

   製品の仕様を決める際には、お客様が何を望まれているのかを徹底的に解析しなければなりません。世の中の技術の流れだけを見ていては、第8回で説明したようにピント外れの研究開発に力を注ぐことになってしまいます。
 お客様のニーズを解析することは「世の中が必要としているモノをタイミングよくお届けする」企業使命ともピッタリ一致する行動です(第2回)。

 技術ありきではなく、お客様が望む製品開発を行うわけですから、自社技術だけでは完成しない場合があるはずです。その場合は積極的にパートナーを見つけて協業しましょう。協業の成否は第9回で説明したように、どこまで具体的に詰められているかにかかっています。

 以上のような行動を続ければ、潤沢な研究開発資金を手に入れることが出来るはずです。しかし、ここで気を抜いてはなりません。企業に体力がついてきたら、目標達成までに時間のかかるテーマを少しずつ追加していきましょう。
 時間のかかるテーマは、顧客のニーズが変化する、他社に先を超される、緊急テーマが飛び込んでくる等々、いろいろな外乱が入ってきます。このようなときにこそ経営課題に立ち戻り、テーマ自体の必要度と優先順位を見極める必要があります。

 再度、「技術投資の費用対効果を最大化すること」がMOTの要諦だと申し上げて、本シリーズを終わりにさせていただきます。


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