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講師コラム:古川 隆 先生


『DTCマーケティング/医薬品マーケティング』


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第1回 [医薬品のマーケティング・コミュニケーション](2009/2/3)

 「マーケティング・コミュニケーション」という言葉が、最近よく使われるようになってきた。
 マーケティングの教科書には、マッカーシーによる4Pマーケティングの枠組みとしてProduct(製品)、Price(価格)、Promotion(プロモーション)、Place(流通チャネル)の4つが挙げられており、この4つのPを適切に組み合わせてマーケティング・ミックスを展開するとされている(図表1参照)。
 ここでは「マーケティング・コミュニケーション」という言葉は出てこないが、マーケティングのツールの1つである「プロモーション」に該当するのが、「マーケティング・コミュニケーション」である。

 しかし、従来の「プロモーション」と最近の「マーケティング・コミュニケーション」とは全く同じ概念という訳ではない。「プロモーション」が企業から顧客に対して一方的に働きかけていくイメージが強いのに対して、「マーケティング・コミュニケーション」は、企業と顧客との双方向のコミュニケーションという意味合いが強い。
 これを単に「コミュニケーション」とだけ言う場合もあるが、これだと本来の「情報の伝達」という広い意味に捉えられかねないことになるので、「マーケティング・コミュニケーション」とした方が分かりやすいだろう。

 さて、製薬企業の医薬品マーケティングでも「プロモーション」という言葉は頻繁に使われる。その活動のほとんどが医師に対する働きかけを指し、MRによる営業活動、医学専門雑誌の広告、販促資材の活用、医師向けの催しなどを総称している。典型的なB to Bのプッシュ戦略であり、これをあえて「マーケティング・コミュニケーション」と言い換えないのも無理はないだろう。
 しかしそれが、最近では製薬企業も一般消費者に対してDTCマーケティングを導入するようになり、「マーケティング・コミュニケーション」という言葉を意識せざるを得なくなってきている。



 
 



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第2回 [医薬品マーケティングとDTCマーケティング](2009/2/17)

 今まで経験のない消費者とのコミュニケーション、それはB to Cのプル戦略を製薬企業も実施せざるを得なくなったことを意味する。製造企業が大きくなるにつれて流通チャネルに対するプッシュ戦略と消費者に対するプル戦略を同時に用いることになるのはよく知られている。
 このプッシュ戦略とプル戦略の両方が必要となることがIMC(統合型マーケティング・コミュニケーション)を考える上で重要になる(IMCについては次回で細かく触れる)。

 DTCマーケティングは紛れもないコンシューマー・マーケティングであり、製薬企業の実施するプル戦略である。少し前まで、製薬企業ではDTCマーケティングは特殊なマーケティング手法と考えられていたようだ。そのため、DTCマーケティングだけが単発のキャンペーンとして単体で検討され、計画され、実施され、結果として何の効果があったのかという議論が繰り返されてきた。

 しかし、同じ企業が実施するマーケティングで医師向けのマーケティング、そして消費者のマーケティングと区別して考えること自体おかしなことである。製薬企業では未だに顧客は医師だけと考えている節があるが、本当の顧客は医薬品を服用する患者であろう。そうするとクリニックや病院などの医療機関は流通チャネルにおける小売店に相当すると考えるのが自然だ。大企業である製薬企業は、流通チャネルである販売代理店や医療機関に対して従来のプッシュ戦略を実施するのと同時に最終消費者である患者に対してプル戦略といえるDTCマーケティングを実施すると考えると分かりやすいのではないだろうか(図表2参照)。

 DTCマーケティングの先進企業では、このプッシュ戦略とプル戦略のマーケティング統合が実に見事になされている。もはやDTCマーケティングだけを取り出して論議することはあまり意味のないことだろう。統合的なマーケティング活動の中に従来の医師向けのマーケティング戦略とDTCマーケティング戦略の両方があると考えるのが自然である。

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第3回 [IMCとは何か](2009/3/3)

 製薬企業を対象としたセミナーなどで以前よく「IMCという言葉をご存じの方はいらっしゃいますか?」と質問をした。各回の参加者から「知ってます」という回答を聞いたことがない。これが、広告会社関係者の集まりだと、ほとんどの人が知っている。逆に「そんな当たり前な質問をしないでください」と怒られかねない。
 IMCとは統合型マーケティング・コミュニケーション(Integrated Marketing Communication)の略号である。マーケティング・コミュニケーションについては、マーケティングの4Pのうちのプロモーションの概念が変化したものであると第1回目で述べた。第2回目では製造企業が大きくなるにつれて流通チャネルに対するプッシュ戦略と消費者に対するプル戦略の両方の戦略が必要となることがIMCを考える上で重要であるとも述べた。

 IMCの定義は「広告、ダイレクト・マーケティング、SP(セールス・プロモーション)、PR(パブリック・リレーションズ)といったあらゆるコミュニケーション手法の戦略的な役割を生かして組み立てられた包括的コミュニケーション計画の付加価値を認め、かつこれらの手法を合体することにより、明晰で一貫性があり、最大効果を生むコミュニケーションを創造すること」とされている。(全米広告業協会:有賀勝訳、図表3参照)

 もともとIMCは米国で1980年代に出てきたコミュニケーション手法である。研究者の理論によるものではなく、広告主や広告会社などの実務家により実践の場で急速に普及した手法である。現在日本でもおよそ消費財企業でIMCを知らない会社はないだろう。米国でこのIMCが普及した背景には、部分最適の行き過ぎへの反省があったからである。
 広告は広告戦略、PRはPR戦略、SPはSP戦略、とそれぞれの担当部門が専門スタッフと専門会社によりその最高の戦略を求めていった結果は、必ずしも企業としてのマーケティング・コミュニケーション戦略の最適ではないということが分かったからである。日本では、広告会社の守備範囲が異なるので、米国ほど部分最適の弊害は出なかったが、IMCが普及する以前に望ましい形の統合がなされていたとも言えない。
 現在ではクロス・メディア戦略ということが声高に叫ばれているが、ベースとなっているのはこのIMCの考え方である。

 さて、それではこのIMCがどうしてDTCマーケティングと関係あるのかということについては次号で触れてみたい。

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第4回 [IMCとDTCマーケティング](2009/3/17)

 実際にIMCを計画立案し、推進していくためにはいくつかの有効条件を考慮する必要がある。

 IMCの研究者であるPercyはこれを9つに整理している。
  @ターゲット・オーディエンスの複雑性
  A流通の複雑性
  B消費者がたどる商品購入意思決定プロセスの複雑性
  C短期的コミュニケーション目標対長期的コミュニケーション目標
  D市場セグメント明確化の必要性
  E複数のそれぞれ異なるメッセージを伝達する必要性
  F特徴的なそれぞれ異なるメッセージを伝達する必要性
  G流通業者向けインセンティブの利用の可能性
  H小売店向けメッセージの重要度の度合い

 また、日本の著名な広告研究者である岸=田中=嶋村はこの条件を4つにまとめている。
  @ターゲット・オーディエンスの複雑性
  A製品・サービスの複雑性
  B流通チャネルの複雑性
  Cコミュニケーション目標の複雑性

この4つの有効条件を用いてIMCとDTCマーケティングを対比してみると両者の関係がよく分かる。(図表4参照)@ターゲット・オーディエンスの複雑性では、プッシュ戦略におけるターゲットである医療従事者とプル戦略におけるターゲットである医療消費者の存在がある。A製品・サービスの複雑性では、医薬品は人体内で薬の持つ複雑な作用機序によって作用し、すべての人で微妙に作用が違うため、医師や薬剤師による詳しい説明が必要になる。B流通チャネルの複雑性では、医療機関を流通チャネルとみた場合、医師は処方権という強力な権限により医薬品の一方的な購買決定をせまることができる。Cコミュニケーション目標の複雑性では、DTCでは潜在患者の発掘と速やかな受診促進を目標とするとともに確定診断された後では、定期的な通院や良好な服薬コンプライアンスの維持も目標となる。

 以上にようにDTCマーケティングはIMCの有効条件をすべて満たすことから、その計画立案や推進にあたっては、IMCの理論枠組みによるマーケティング・コミュニケーション戦略を採用する必要があると言えよう。

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第5回 [米国型DTCとヨーロッパ型DTC](2009/3/31)

 先日も米国でのDTCに対する否定的な記事が配信され、それを読んだ人から筆者のところに問い合わせがあった。米国で現在のようなDTC活動が始まってからこれに対する賛否の論争は絶えない。
 初期のころのDTCに対する賛否論争については拙著『DTCマーケティング』でも詳しく紹介している。大事なことは、賛否の対象となっているDTCが米国におけるものであるということである。
 米国におけるDTCは日本におけるDTCとはかなり違ったものである。そしてヨーロッパにおけるDTCとも違っている。この国・地域による手法の違いをしっかりと理解しないで表面的に一括りにしてDTCは良いか悪いかと論ずることにはあまり意味がないと考えている。

 では、米国型DTCとヨーロッパ型DTCはどう違うのだろうか。図表5に両者の違いをまとめてみた。
 米国型DTCの特徴としてまず、医薬品製品名による広告が消費者に対して可能ということが言える。このことは一般消費財と全く同じコミュニュケーション手法の利用が可能であることを意味する。そのため米国のDTCではDTC広告、特にテレビ広告が中心的に用いられている。

 次にDTCの目的であるが、新規の患者の発掘と受診促進がその中心である。これに対してヨーロッパ型DTCでは日本と同様製品名の広告は禁止されていてできない。広告手法は疾患名を用いた疾患啓発広告が中心となり、メディアはテレビだけでなく新聞など幅広いメディアが利用されている。また、DTC-PRやDTCプロモーションも工夫されてDTC広告と統合されて実施されている。ヨーロッパ型では新規患者の発掘ももちろんあるものの患者との関係性を長期的視野に基づき強固にして、コンプライアンスの維持を求めていくことにも重きが置かれている。

 国が違えば医療制度や医薬品を取り巻く法規制も違い、医療消費者の特性も違うわけだからDTC活動もそれに合わせて違ってくるのが当然といえる。
 もういい加減に米国での出来事を単純に日本に当てはめて論議するのは控えた方がいいと思うのだが、いつも騒ぎ立てるのはDTCに関して深い知識のない人たちによってである。

 米国型とヨーロッパ型のそれぞれ違うDTCマーケティングと日本のDTCマーケティングの比較については次号で述べるとしよう。

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第6回 [日本のDTCマーケティング](2009/4/14)

 前号で「米国型とヨーロッパ型のそれぞれ違うDTCマーケティング」
 を見てみたが、賢明な読者はヨーロッパ型DTCが日本のDTCによく似ていることに気づかれたと思う。日本にDTCが導入された当時の最大の失敗は米国型のDTCをそのままお手本にしたことだと筆者は考えている。拙著『DTCマーケティング』はこれに対する警鐘の意味も込めて著したつもりである。

 当時英国資本のコミュニュケーション・エージェンシーに在籍し、ヨーロッパ型のDTC事例を分析した上で日本の環境にあった日本版DTC企画をクライアントに提案したところ、「そんなのはDTCじゃないよ!!」と何回も笑われたことを苦々しく思い出す。それほど当時は、DTC=DTC広告という単純な形での理解しかなかった。

 図表6に米国、ヨーロッパ、日本のDTCを2軸により類型化したマトリックスを示す。縦軸はターゲットを示し、横軸は広告(メッセージ)内容を示している。
 日本は医療制度や医薬品を取り巻く法規制が、どちらかというとヨーロッパに近いので、そのような環境下ではヨーロッパ型DTCをよく研究した方が課題の解決法が見つけやすい。

 最近注目されているメディカル・コールセンターの有効活用やまず医療従事者に対して製品情報を提供した後に医療消費者にDTCで疾患情報提供する方法、DTC-PRの活用など、みなヨーロッパ型DTCで培われたものである。

 米国でも2006年のPhRMAによる自主規制以降、DTCの内容がヨーロッパ的になって来たと言われているが、製品名を広告できるという甘味が残る限り、従来型DTCからの完全脱却は難しいのではないだろうか。

 そういった意味では、両方の手法のよい所を研究し導入できる立場の日本のDTCマーケティングがこれから一番進化していく可能性が高いと筆者は考えている。

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第7回 [DTCマーケティング推進のための社内組織](2009/4/28)

 いよいよDTCマーケティングを推進するための社内組織について解説していこう。日本にある製薬企業でDTCマーケティングを推進するための専門部署を持っているのはほんの数社ではないだろうか。一番多いケースが、本社のマーケティング関連部署にDTCマーケティングの担当者を置くケースである。一人でも専任の担当者が居ればいい方で、著者の知る多くの企業では兼任の担当者であることが多い。DTCマーケティング以外の業務もこなしながらDTCマーケティングも見ていく形である。これは外部から見ていても気の毒なくらい本人が多忙であることが多い。日本でもDTCマーケティングがこれだけ普及してきたのだから、もっと専任の担当者も増やして一つの部署として機能させて欲しいとは思っている。

 さて、社内である製品のDTCマーケティングを実施しようとした場合どんな順序で進めていったら良いかについて組織的な観点から汎用的な考えを提示しよう。各社それぞれの組織、社内手順があるので、ここで提示するのはあくまでも参考例としてみてほしい(図表7参照)。

 第1段階として「情報整理」のフェーズがある。専門の部署がない場合は、製品担当チームが核となって始動する。DTCマーケティング実施のために必要な疾患情報、市場情報、患者情報などを整理する。この段階でとかく手薄になるのが患者に関する情報である。社内に信頼に足るデータがなければ迷わずオリジナルの調査を設計し実施してでもデータを揃えることが肝要である。

 第2段階としては「プランニング」のフェーズがある。ここでは、社内承認を得るための戦略的な観点からのフレームワークを徹底的に検討する。この段階では、社内の製品チームを支援する部署や著者のような専門コンサルタントも参加することが多い。組織としてあまり人数を多くしないことも大切である。ここでよく犯す失敗は広告会社などのDTCの協力会社に安易にDTCの企画依頼することである。協力会社は製薬企業のために戦略のフレームワークは作成してくれない。あくまでもコミュニケーション部分での具体的な企画提案になる。戦略は社内とコンサルタントで作成すべきであろう。

 めでたく社内での承認が得られると第3段階である「実行プラン作成」のフェーズに移る。この段階では社内の関係する部署はすべて巻き込んでおかないと実行時にいろんな不都合が起きてくる。ここではじめて協力会社にきちんとブリーフィングをして実行プランの原案を作成してもらうことになる。このブリーフィングは重要で、第1段階で整理した情報と第2段階で決定した戦略そして実行予算を可能な限り詳細に提示してクオリティの高いプランを作成してもらわないといけない。著者の支援している製薬企業ではかなり緻密なブリーフィングシートを使用して実効をあげている。

 実行プランが完成したら、あとは実施するのみであるが、多くの企業でDTCマーケティングの効果検証を実施している。効果検証はどのようなデータをもってするのか実施前に検討して、データの集め方(多くの場合は調査をすることになるが)を決定しておくことが必要である。DTCマーケティングの一連の活動が終わった後では得られるデータは限られてくる。そういう意味では、第3段階では、社内の調査部門の参加も必要と言えよう。



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第8回 [DTCマーケティングとMRの統合](2009/5/12)

 日本でも初期の段階のDTCマーケティングでは、MR活動との効果的な統合が計画されておらず失敗した事例があったようだ。米国でも初期の段階では同様であったようだが、現在はしっかりと統合されて実施されている。4回目で詳しく述べたがDTCはIMC(統合型マーケティング・コミュニケーション)であるので、マーケティング・コミュニケーションのツールのすべてを統合することは自明のことである。日本では、この理解が進むとともにほとんどの製薬企業でDTCマーケティングを最大限利用したMR活動が展開されている。少なくともDTCマーケティングを実施した経験のある企業から、MRをどうやって関連させるのかと言った初歩的な質問が著者のところに寄せられることはない。図表8にその汎用例を示した。疾患領域や製品特性、各社のMR戦略の違いにより細部は違ってくるかもしれないが、だいたいにおいてこのような統合が図られていると思う。

 DTCの実行プラン立案までの段階では、現場での調査に協力してもらったり、情報を提供してもらうことによりDTCマーケティングの企画に少しでも参画してもらう。DTCマーケティングの実行プランが決定されてから実施に移されるまでの間には医療機関に対してDTCに関する情報提供を徹底的にしてもらう。この活動が非常に重要で、DTCマーケティングに製品名を使用することができない日本では、この事前のMR活動によってドクターにどこの企業が患者を医療機関に来院させているのかを認識してもらう必要がある。当然認識の後、自社製品の処方へと誘導するのはMRの本来の仕事である。

 DTCマーケティングの実施中は、現場においてフォローにつとめてもらう。どんなに事前に情報提供をしておいても実施中に何らかのクレームが発生することがある。そういう場合は直ちに本社に連絡してもらい最善の対応をすることになる。特にクレームがなくても実施中は、患者の受診動向をヒアリングするという名目で訪問することが可能なので、積極的に訪問してもらいその情報を逐一本社に報告してもらうのも手である。DTCマーケティングの終了後も来院患者数のヒアリングや何か問題点がなかったかなどの確認にも動いてもらうことができる。

 DTCマーケティングとMR活動との統合を解説してきたが、DTCマーケティングはMRにとっても格好の活動チャンスとなるので、どれだけ効果的に活動してもらうかで成果も大きく違ってくる。本社の製品チームはDTCマーケティング実施に当たってMRのモチベーションアップを図ることも忘れてはならない。



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第9回 [DTCマーケティングの効果測定](2009/5/26)

 著者が製薬企業から依頼されることが多い業務の中に、このDTCマーケティングの効果測定方法の整備と確立がある。DTCマーケティングを実施している企業では何らかの効果測定基準をすでに持っている。また、これから実施しようと考えている企業にとってもこの効果測定は実施のための重要な要件である。実際にどのような効果測定がされているかというとこれは各社まちまちである。残念ながら機密保持義務があるため詳細な手法を紹介することができないが、確実に言えることはそれほど単純な作業ではないということである。「効果」といってもそれが「売上高」を意味するのか、医療機関を「受診した患者数」なのか、はたまた「Webサイトへのアクセス数」なのか、「コールセンターへの入電数」なのかによって効果を知る仕組みは違ってくる。

 図表9に一般的なDTCマーケティングを実施したときの受診者のフローを示す。フローに添って数字が@〜Mまで振ってあるが、厳密に効果検証をしていこうと思えば、このそれぞれについてデータを計測する必要がある。すべてのデータを正確に計測するのは不可能だが、HのWebサイトの閲覧者やIのコールセンターへの入電数などはかなり正確に実数を計測することが可能になっている。@〜CのDTC広告の各メディアへの接触についてのデータ収集は調査会社である株式会社社会情報サービスがDTC専用の調査モデル「DTC-Roi(DTCロイ)」を用意している。この調査モデル「DTC-Roi(DTCロイ)」では、広告を見ての受診意向と実際の受診行動も調査できるようになっており使い勝手が良い。

 DTCをプランニングする際によく利用されるいちばん基本的で分かりやすい効果検証の公式は投下したDTC関連総費用に対してのDTCによる売上高増加をみる方法である。分母にDTC総費用を分子にDTCによる売上をおいて、数値が1以上であれば“効果あり”という判定になる。拙著『DTCマーケティング』にも紹介しているが、この方法はプランニングに際してDTC実施を検討するために用いるのは有効だと思うが、DTC実施後の効果検証に用いようとすると少し問題がある。たいていDTCマーケティングの対象となる製品は、発売して間もないことが多く、売上の増加がDTCマーケティングによるものなのか通常のMR施策などによるものなのか厳密に分離して算定するのはなかなか難しいからだ。

 DTCの効果測定をしようとした場合、実施前に自社ではどのような効果検証モデルを用いるのかしっかりと検討し決定し、効果検証モデルに用いるそれぞれのデータはどのように測定するのかも決定しておく必要がある。DTCの先進企業では、DTCを実施するごとにこの効果検証モデルを精緻化することで、DTC実行プログラム自体の精度を上げることに成功している。DTCマーケティングを実施する際はついつい実行プログラムの予算ばかりに気を取られがちだが、効果検証を精密にしたいのであればそのための効果測定に用いる調査費用なども十分に用意しておかなければいけないことがわかると思う。


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第10回 [これからのDTCマーケティング](2009/6/9)

 このコラムもあっという間に10回目で最終回を迎えることになった。最終回ではこれからのDTCマーケティングについて著者が今感じていることを紹介していこう。

 株式会社アサツー ディ・ケイより提供された同社の社内資料によると昨年日本で投下されたDTC広告費は100億円を超えた模様である。同社資料によると昨年の日本のDTC広告費は、115億5029万円余りであった。同じく同社の集計による2007年のDTC広告費は69億3151万円余りであったので60%以上も伸びたことになる。長らく日本のDTC広告費は100億円を超えなかったので、昨年がブレークポイントになったと言えよう。日本のDTCマーケティングは確実に成長していると言ってよい。

 今後日本のDTCはどう変わっていくだろうか。著者はDTCマーケティングの目的として大きく3つ、すなわち「疾患の認知」、「処方の獲得」、「コンプライアンスの維持」を拙著『DTCマーケティング』で挙げたが、今までの日本のDTCマーケティングでは「疾患の認知」にフォーカスがあたっていたと言って良い。どのプログラムもDTC広告を主体とした疾患認知向上型の手法が広く用いられていた。その結果、疾患の認知は上がったが受診にはあまり結びついていないことが課題として浮かび上がって来た。最近の目的の大きな変化は「処方の獲得」のための「患者の受診促進」や「医療機関における医師への相談促進」にフォーカスがあたりつつあることだ。消費財のマーケティングでは、広告を用いて商品ブランドの認知向上を図るとともに販売促進(セールス・プロモーション)によって消費者を実際の購買行動へと働きかけていくのが一般的である。DTCマーケティングでもこのセールス・プロモーション的な手法が模索されてきてDTCプロモーションが増えてくるだろう。

 では、今後どのようなDTCマーケティングの手法が導入されてくるだろうか。まず、メディカル・コールセンターの活用であろう。現状のDTCでコールセンターは、新聞広告などを見て小冊子プレゼントに応募してきた人への事務的な対応が中心である。一般消費材マーケティングでのキャンペーン連動型と同様である。DTCマーケティングでは、コールセンターにもう一歩進んだ取り組みが欲しいところだ。電話をかけてくる人は少なからず疾患に関心や不安があるのだから、入電者に対して医療従事者が電話で相談するサービスを提供すれば患者に対して疾患の理解を深めるだけでなく、受診行動へのきっかけとなることが期待できる。(図表10参照)日本ではメディカル・コールセンターと呼べる会社がほとんどないのが実情だが、ティーペック株式会社だけは例外で医師を含む多くの医療専門スタッフを社内にかかえており、質の高い医療情報を提供できる体制を整えている。同社はもともとはDTCマーケティング関連業務を扱っていなかったのだが、近年かなりのDTC関連プロジェクトを推進しているようである。キャンペーン連動型と違いリードタイムが十分にないとサービスの品質が保てないということだが、扱う内容が疾患であるのだから当然のことではある。

 次に注目しているのは病医院内のテレビによる疾患啓発・受診促進活動である。一般消費財ではセールス・プロモーションとしての「デジタルサイネージ(電子看板)」が現在注目されている。デジタルサイネージとはいろいろな場所に設置されたディスプレイに映像や情報を配信し、表示する仕組みを言い、これからの新しいコミュニケーション方法として注目されつつある。代表的なものとして電車車内のドア上の液晶ディスプレイやスーパーマーケットなどに設置された大型ディスプレイに流れる広告映像などが挙げられる。その病院版と言って良いメディアが株式会社メディアコンテンツファクトリーの提供する「疾患啓発テレビ」である。(図表11参照)医療機関を他の疾患で訪れている患者さんに対して院内で啓発をしていけば、医師はすぐそこにいる訳だからこれほど効率的なことはないといえる。しかし、残念ながら今までこの手法を取ろうとすると使えるメディアは、待合室に置かれた患者さん向雑誌くらいであった。「疾患啓発テレビ」では病医院での患者さんの待ち時間に効率的に疾患啓発と受診促進を働きかけるメディアとして先進的な製薬企業が利用を始めている。

 最後に「コンプライアンスの維持」を目的としたDTCもスタートしたことをお知らせしておこう。アストラゼネカ株式会社は、乳がんの手術後にホルモン剤療法を始める乳がんの患者をサポートする会員制クラブ「Free Style Club(フリースタイルクラブ)」の新規会員募集を4月からはじめた。このクラブは、患者からの申し込みで入会でき、アストラゼネカ株式会社が運営をし、患者が女性らしく「あたりまえの生活」が送れるように応援するものだ。DTCの目的としての「コンプライアンスの維持」は日本では今までほとんど注目されず、治療を受ける患者を支援していくこのような仕組みはなかなかスタートしなかった。ここに来てこのような取り組みが出てきたことは大変喜ばしいことといえる。欧米では以前より製薬企業が提供する患者支援のための会員制組織がDTCの一環として実施されてきており、その疾患は今回のアストラゼネカ社ような重度な疾患にまで及ぶ。

 あくまでも数例を挙げたのみだが、今後の日本のDTCでは「処方の獲得」、「コンプライアンスの維持」にフォーカスをあてた活動が増えてくると考える。製薬企業を取り巻く協力企業には積極的に新しい手法を提案して欲しいし、製薬企業もどんどんそれを取り入れて新しい形のDTCマーケティングを展開してもらいたい。今年DTCマーケティングが新たなフェーズ3に入ることを期待しながらこのコラム連載を終わりたいと思う。ずっとコラム連載を読んでいただいた読者諸氏に感謝申し上げる。


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 ◆11月12日(木)に製薬企業様を対象としたDTCマーケティング・シンポジウム2009
 を東京で開催する予定です。詳報は上記メルマガでお伝えします。◆

 
 

 
 



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古川 隆先生のご紹介


 株式会社アーベーツェー 代表取締役 コンサルティング・エグゼクティブ。
 淑徳大学国際コミュニケーション学部講師、東京電機大学情報環境学部講師。
 専門は医薬品マーケティング、DTCマーケティングの第一人者として活躍中。
 特に、日本で初めてのDTCマーケティングの正書
 『DTCマーケティング −医薬品と医療消費者の新しいコミュニケーション−』
 は製薬業界や広告研究者の間で評価が高い。

 日本広告学会、日本マーケティング・リサーチ協会などの学会・協会に所属。
 日本広報学会では、マーケティングPR研究会の主査を務める。
 マーケティング・コンサルタントとしての活動の他、大学での教育、
 研究活動や書籍・論文の執筆、講演活動など多数。
 趣味は音楽で、自らもクラリネットの愛好家。


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 株式会社アーベーツェー  http://abc-onsulting.co.jp/


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