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講師コラム:佐野 茂 氏


『 電池特にEV用電池の最新事情 
リチウムイオン電池・次世代電池の課題を解決する
新規な電池理論
 



コラムへのご意見、ご感想がありましたら、こちらまでお願いします。

追加:第8回(最終回)(2021/5/6)



1)はじめに・おわりに:ハイキング・目次・謝辞

 緊急事態宣言発出直前に駆け込みでハイキングに行って来ました。山梨県道志山塊最高峰の御正体山は標高1681mで、200名山に選ばれています。最寄りの旅館で前泊し、最も楽そうと選んだ登山路でも中級者向けです。尾根伝いに小さなピークを幾つか上り下りする途中で、快晴に恵まれたので、雪の積もった南アルプス頂上群を一瞬だけ見ることが出来ました。頂上手前で旅館に頼んでおいたおにぎりで昼食を取り、最後の330mの急登では息も絶え絶え、頭上が開け御正体山頂上に着きました。山頂周辺には緑鮮やかな大きな草が群生しており、花が咲けばさぞ綺麗だろうと想像しました。下りの途中の展望台では、麓から雪の頂上までの富士山の全貌が眼前に広がり、この山では唯一の見所です。下山は靴が埋まる程に枯葉が吹き溜まりとなっている急坂を直線的に下り、昔サッカーで鍛えた膝でも応える程でした。コンクリート舗装の林道の1時間の下りは、登山靴でなくトレッキングシューズだったので足先が痛くなり困りました。
 頂上周辺に群生していた綺麗な葉は、ネット検索によると、「バイケイソウ」と思われます。7月に花が咲きますが、毒草のために案内板には何も書かれていなかったのだと納得しました。山の形容が綺麗なことでは有名ですが、富士山展望以外には見所がなく、200名山と言うには物足りない山です。登山自体のしんどさが選ばれた理由かもしれません。1813年に妙心上人が修業の場と定め開山し、上人は35歳の時に上人堂にこもり即身成仏し、そのミイラは生まれ故郷の岐阜県谷汲村の横倉寺に安置されています。数年前に横倉寺に行き、初めてミイラを観て感銘したことがあり、不思議な縁を感じました。

 本コラムも最後になりました。今回は目次と各章の要約を掲載しました。参考にして下さい。

 2年半にわたる長い間、本コラムを掲載させていただいた(株)情報機構様に感謝いたします。特に、適切な助言と激励をいただいた同社中谷氏に深謝いたします。
 初めての執筆経験で読み難い箇所も多く、本当にご迷惑をおかけしました。一部でもお読みいただいた読者の皆様に心より感謝いたします。
 なお、今後もご質問、お気づきの点がございましたら、(株)情報機構中谷氏または小職(sxkbf151@yahoo.co.jp)まで遠慮なくお問い合わせ下さい。
 では、皆様のご繁栄とご健康をお祈りしつつ筆を置きます。



2)電池の基礎:要約

 要約を作成しました。参考にして下さい。



3)3月度記事の紹介と評価

 2021年3月度の雑誌・新聞記事について紹介及び所見を作成しました(Fig.194)。
 今月も日経グループの評論と市場関係の記事で、技術的な記事はほとんどありません。
 ソフトバンクが空飛ぶ基地局用の重量エネルギー密度重視の次世代電池開発の情報収集を目的に、電池性能評価拠点を開設する。情報収集されるとなると、クライアントは警戒すると思いますが、大丈夫でしょうか?
 VWが欧州域内に電池内製工場の建設を計画している。EV化に本格的に取り組む姿勢は評価できる。材料調達は出来るでしょうが、欧州には電池技術者はいないので、技術者をどう募集するのでしょうか?

 要約を作成しました。参考にして下さい。


Fig.194  2021年度3月度新聞と雑誌記事の紹介と評価



4)新規な電池理論

 要約を作成しました。参考にして下さい。



5)昔話

 要約を作成しました。参考にして下さい。


















追加:第7回(2021/4/8)



1)はじめに:庭の草木

 緊急事態宣言が解除され、桜が一斉に開花し、同時に年度末の行事も加わって、東京の人出はコロナを感じさせません。近所の飲み屋街も大盛況です。例年花見を楽しみにしていますが、東京の桜の名所は残念ながら飲食禁止ですし、基礎疾患ある身としては混雑にも気が引けますので、花見は断念しました。
 庭の花が例年より早く咲き出し、縁側に腰掛けて、密を避け、ソーシャルディスタンスも十分に取り、ドリップコーヒーを入れ、名古屋の名菓「しるこサンド」を食べ、今年の花見としました。
 庭の話をした時に、「ガーデニングが趣味ですね。」と言われ、慌てて「庭仕事です。」と打ち消しました。草茫々になるのが嫌で、腰痛に悩まされる「草取り」に多くの時間を費やし、楽しくもない庭いじりをしているので、趣味とは程遠い感じです。しかし、「木瓜(ボケ)、花カイドウ」が垣根に並んで咲き誇り、足元に色とりどりの「フリージア」が咲いているのを見ると、少し得をした気分になります。通りがかりに写真を撮っている若い女性がいたので、木瓜の枝の棘を切り取ってあげました。沢山咲いたフリージアは仏壇に供えました。
 4月に入り「木香薔薇(モッコウバラ)」が咲き始めました。垣根(120cm高)の上110cm間口210cmの塩ビパイプで組んだ柵一面に、小さな黄色の花が咲き誇る姿は、我が家一番の景色です。通りかかりの人が歩みを緩め眺めています。バラの一種ですが、虫が付くことがないので育て易く、棘がないので切り枝を分けてあげることも容易で一番のお気に入りです。
 見栄えが良くても「棘」は困ります。聞こえが良くても「毒ガス」発生の可能性がある電池は如何でしょうか?




2)電池の基礎:特許「空隙論」

 前回(追加第6回)で、正極高容量化の可能性を入手情報に考察を加えて解説した。要約すると、
 @ 両極をグラファイトあるいは多孔性カーボンにすれば、グラファイトなら、理論値372mAh/gの半分の180mAh/g、新規な電池理論「片持ち論+篩膜」に従えば、カーボンナノチューブのような多孔性カーボンでは1100mAh/gの半分の550mAh/gの容量を正極に蓄電出来る。
 A 「その場負極」は固体電解質にできた「空隙」に蓄電されており、正極活物質からリチウムイオンを供給するのではなく、リチウム金属負極から提供しても同様に、固体電解質にできた「空隙」に貯蔵されるはずで、「その場正極」を形成することが出来る。
 B 正極過剰容量は遷移金属の高次への酸化ではないと言うことは立証されている。酸素のー2価からー1価または0価への酸化と言われているが、不安定な過酸化状態の酸素量が含有酸素の相当量になり、構造を安定に保つことは出来ない。
 これらのことから「正極過剰容量」について長年考えており、新規な考案が理論として完成したので、本コラムで紹介する。

<余談>
 ・ 7年前に、この結論について産総研の若手研究者と議論した時、彼らの指摘は、@Aは電圧が取れないから電池としては無意味であると言う意見であった。当時は電圧については、明確な答えを持っていなかったので、彼らの率直な意見が、本発明の考案時に非常に参考になった。
 ・ コラム追加第5回などで解説した電極をn個に分割する考察手法は非常に有効である。電池の理論家にデンドライト発生の相談をすると、驚くような実験結果を出してくる。メーカーでデンドライトが困るのは電極前面に析出するのではなく、極一部で起こるショートである。電極全体でデンドライトがセパレータを埋めるような状況がセル内で起これば、それ以前に破裂発火している。電極のほんの僅かな部分でもショートすれば電池としては使えないし、運が悪ければ破裂発火する。平均値でデンドライトショートが発生する電池が作られることはないにもかかわらず、理論家が取り扱う電池は常に平均値で、微小箇所で派生するデンドライトは見つけられないので、その理論は工学的には価値があっても、電池にとっての工業的価値はほとんどないと考えている。
 ・ <繰り返しになるが>異なる電極電位、安定化エネルギーを有する状態が複数存在しても、外部から測定できる電圧は一つしかなく、最も相手極と遠い電位になると言う概念は非常に重要な基本である。電池を並列に使えば電池電圧は最も高いセルの電圧になることは、日常的に素人「使用者」の方は実感をしている感覚であるのに、電池理論を取り扱う専門家はこの考えを認めようとしない。電池の中の電極各部が立体的に全て同一でない時間があり、充分な時間を掛ければ平準化するが、電池のように電流が流れている動的な状態、つまり非平衡状態では、平均は全てを表現していない。局部で起きていることを考察できてこそ、「電池の電気化学」である。

 電極をn個の部分に分割し、その個々を計測することで、電極全体では全くデンドライトが発生する状況ではなくても発生する現象を、コラム追加第5回の交流インピーダンス半楕円解析法で観測できることを解説した。コラム追加第5回Fig.178の等価回路での考察を、正極過剰容量に適用する。分割したn部は仮想上で分割しただけであり、同じ大きさ、特定の場所である必要はない。n部は並列に接続されているので、電極をn個の部分に分割すると、各局部は次のように書ける。
    n部の充放電(閉路)電位 = 平衡電位P ±{n部の(電子抵抗r+イオン移動抵抗R)}
                *(n部の電流I) ± (n部の電荷移動抵抗η) 
                ±(n部活物質不均一性のSOC調整電圧S
                ±(n部の反応面イオン濃度補正電圧C
 n部は負極に対しては全て「等電位」である。電流を遮断すると、電流が関与する項は「0」になり、分割したn個の箇所での電極電位が異なるが、対極である負極から測る電圧は、最も負極との差が大きくなる電圧言い換えれば最も高い電圧しか測ることが出来ない。つまりその瞬間の電池の起電力は、正極・負極の平均値ではなく、正極・負極の最も大きな電位差になる。正極活物質の電極電位と、空隙中のリチウムイオンとでは電極電位は明らかに異なるが、外部から測定できる電位、つまり電池電圧は、より大きい正極活物質の電極電位になる。
 正極活物質中のリチウムイオンの安定化エネルギーが空隙中のリチウムイオンの安定化エネルギーより低い場合には、空隙中のリチウムイオンの電極電位が正極電位となるはずであるが、空隙中に存在するリチウムイオンは電解液とは直接接触していないので電極反応は起こせないので、実際には空隙中のリチウムイオンの電極電位は測定できず、電池電圧としては観測できない。
 前回Fig.186の篩膜を、リチウムイオンの挿入脱離反応で酸化還元反応する物質に変えることで、電極電位が決定する。現行で解り易いコバルト酸リチウムを篩膜とした構造図がFig.189である。コバルト酸リチウムの化学式はLiCoO2の放電末の状態で、通常のリチウムイオン電池の材料の状態である。多孔体構造は例えばソフトカーボンで、内部に電解液に直接接触していないnmサイズの細孔・空隙が無数に存在する。
 放電前に、空隙にリチウムイオンを蓄電するために、プレドープをする。金属リチウムを電槽内に設けて、正極と組み放電すると、金属リチウムからリチウムイオンが電解液に溶出し、リチウムイオン電池の正極反応、コバルト酸リチウムへの挿入電位で、正極活物質に挿入される。空隙周囲の電子の静電力で正極活物質からリチウムイオンが空隙内に移動し、空隙の壁に沿って「片持ち論」で配列する。壁から0.2nm、リチウムイオン同士は0.3nm以上離れて安定に存在する。Fig.189はその状態を模式図で描いた。正極活物資コバルト酸リチウム層は、リチウムイオンが結晶内部を通過するが見掛け上の変化はない。

  
Fig.189 正極活物質篩膜及びプレドープ後の反応機構模式図

 コバルト酸リチウムの結晶方向と多孔構造カーボンの空孔方向との接触面はリチウムイオンの移動を阻害するような妨害物質の無い清浄面で結晶の方向性を一致させる必要があるが、現在でも固体電解質と負極カーボンとの界面はリチウムイオンの受け渡しが出来ているのであるから同様な反応機構である。
 細孔の中を埋めることなく細孔の入り口をふさぐ必要があるので、負極活物質表面の被覆に関しコラム第21回で紹介したプラズマ化学気相成長などの気相成長法は、細孔内を埋める可能性が高いので、負極に限らず正極でも液相成長法の方が適していると考えている。液相成長法ではナノサイズ細孔の中まで進入できないので、細孔の入り口を塞ぐように、正極活物質層を形成できる。空隙の形状・寸法は重要である。短径が4nm以上の空隙があればリチウムイオンを「片持ち論」で蓄電できる。空隙が大きくなればその壁面の広がりに比例しリチウムイオンを多く蓄電でき、活物質重量は増加しないので、重量当たりの高エネルギー密度化は実現できる。一方、空隙の体積でなく壁面沿って「片持ち論」でリチウムイオン蓄電量は比例するので、空隙が大きくなれば、中央部は無駄なスペースとなり、体積当りのエネルギー密度は低下するので、大き過ぎない空隙設計が必要である。
 プレドープした正極を通常通りに負極と組み合わせて充電すると、6通りの反応が同時または順次進行する。
 @ 活物質から外部回路への電子の流出
 A 活物質構成物質の酸化反応:Co3+ ⇒ Co4+ + e-
 B 活物質中リチウムイオンの電解液への溶出:Li(活物質)+溶媒 ⇒Li(溶媒)+活物質
 C 活物質中のリチウムイオンの移動
 D 多孔体への電子欠損の注入
 E 空隙中リチウムイオンの正極活物質への移動:Li(空隙)+活物質⇒Li(活物質)+空隙
 Fig.190左図に図示されるように、充電により正極活物質から電子を引き抜かれることで3価のコバルトが酸化され4価になり、リチウムイオンは電解液中に溶出する。さらに充電をして電子欠損を注入すると、正極活物質のリチウムイオンが抜けた後を埋めるように、静電反発力で空隙中のプレドープされたリチウムイオンが正極活物質へと押し出される。空隙中のリチウムイオンが無くなれば、正極活物質の酸化反応による電位上昇が始まり、充電を終了する。
 放電ではFig.190左図から右図、上記@〜Eが逆に進行する。放電により多孔体に電子が注入されると、静電力で正極活物資中のリチウムイオンが空隙に引き出され、正極活物質で減少した分のリチウムイオンが電解液から正極活物質に挿入される。同時にコバルトが4価から3価になる。正極活物資中と空隙中をリチウムイオンが埋めると、通常通りに正極物質の放電電位が下がり放電は打ち切られる。


  
Fig.190 空隙を有する正極の充電・放電反応機構模式図
 

 カーボンなどの多孔構造体を酸化還元できる物質で被覆して正極活物質とする方法を解説したが、正極活物質合成時に空隙を作成する直接的な作製方法がある。Fig.191左図で図示するように、例えばコバルト酸リチウムのようなリチウムイオンが脱挿入することで電極反応をする物質の合成時に、意図的に空隙を設ける。あるいは一次粒子を二次粒子に造粒する時に、意図的に空隙を設ける。メカニカルミーリングは欠損を生じやすいので、適した作製方法である。いずれの方法でも最終焼成時に高温を避ける工夫が必要である。正極活物質に電子電導性が不足する場合には、副反応がない範囲でカーボンなどの導電助剤を添加することも有効である。形成した空隙が電解液に直接接触していないことが必須条件である。
 Fig.191 左図が正極活物質で、意図的に空隙が設けられている。正極活物質は放電状態である。右図は、リチウム金属などを対極にしてプレドープした状態であり、空隙にリチウムイオンが注入されている。空隙に導入されたリチウムイオン量が過剰容量になる。充電では、Fig.192左図のように、正極活物質は充電状態つまり酸化された状態で、空隙に存在していたリチウムイオンは充電により注入された電子欠損に押し出されるようにして正極活物資中に移動する。放電では、Fig.192右図のように、正極活物質は放電状態つまり還元された状態で、空隙には放電により注入された電子により、正極活物質からリチウムイオンが引き出され、空隙壁に沿って蓄電される。



Fig.191 空隙を有する正極活物質の製作時とプレドープ後の模式図


 正極活物質空隙には、「片持ち論」でリチウムイオンは安定に存在するので、空隙の形状により従来の正極活物質より高容量化にならない可能性があるが、重量がない空隙に蓄電できるので、重量当たり容量密度は従来の正極活物質よりはるかに良くなることは明白である。現在発表されている正極過剰容量で、安定的に充放電できる正極活物質はこの充放電機構「空隙論」によると考察した。現在の正極過剰容量の研究は早急に「空隙論」で再検討すべきである。



Fig.192 空隙を有する正極の充電・放電反応機構模式図



 考案した「空隙論」を特許出願した。

 【特許出願日】   2021年3月10日
 【発明者及び特許出願人】  佐野 茂
 【特許請求の範囲】  電荷担体イオンの挿入及び脱離により酸化還元する化合物に囲まれ、その電荷担体イオンが挿入及び脱離することが出来る空隙を有する正極活物質からなることを特徴とする蓄電池。

 特許公開前で権利取得のためには不利になるのは承知しているが、出来るだけ早く多くの方に「空隙論」を知っていただくべきと考え、本コラムにて公開することにした。実施例追加、審査請求など特許権取得活動にご協力いただけませんでしょうか?
 本章「電池の基礎」は今回を最終回にする。年賀状で数人の方から、目次または索引を作って欲しいとの要望があり、また私自身もお問い合わせに対し関連する回を即答できなくなっているので、索引代わりの「要約」を作成し、次回記載することにした。

<結論>
 ・ 正極過剰容量は正極活物質中の「空隙」に、リチウムイオンが「片持ち論」で蓄電されている。
 ・ 正極電位は正極活物質の酸化還元電位であり、空隙中のリチウムイオン蓄電は正極電位には反映されない。
 ・ 特許を出願した。特許権収得活動にご協力いただけませんでしょうか?



3)2月度記事の紹介と評価

 2021年2月度の雑誌・新聞記事について紹介及び所見を作成しました(Fig.193)。
 今月も日経グループの評論が中心で、テスラと中国の動向に関する記事であり、技術的な進展は少ない。電池の回収再生について、自動車用は回収システムがスターター用バッテリーで出来上がっているので、完全回収できるはずである。鉛蓄電池分野では再生鉛は新鉛より高いが、電池工業会が上手く主導して再生鉛も製品材料として使われている。リチウムイオン電池でも正極材料は高価なので、十分にコストメリットがあり、100%回収再生できる。負極・電解液などの有機物の再生は難題であろう。税金を投与してでも再生システム構築をするべきである。
<結論>
 ・ テスラ・中国関連の記事で、技術的進展は少ない。
 ・ 廃電池の回収は既存の自動車用鉛蓄電池の回収ルートが使え、正極材の再生はコストメリットがある。
 ・ 負極・電解液などの再生にはコストメリットが無く、再生システム構築に税金を投与すべきである。


Fig.193  2021年度2月度新聞と雑誌記事の紹介と評価




追加:第6回(2021/3/11)



1)はじめに:電動自転車と周辺の川

 緊急事態宣言が発出され1カ月過ぎ、関東の1都3県を除き解除の方向のようです。陽性者の自宅待機、東京の医療体制の危機的状況は解消したのでしょうか?都営植物園は閉鎖され観梅に行けないので、書くことがなく困りました。「谷」が付く地名に住み、帰宅途中の登坂で、「電動自転車」の若奥様達に軽々と追い抜かれ、度々悔しい思いをしていました。正月に自分へのご褒美として「リチウムイオン電池搭載の電動自転車」を買いました。折角の高い買い物ですから、有効活用と遠乗りを思い付き、地図を眺めると、普段の散歩コースを含め、数本の川があることに気が付きました。コースを検討し、5川、2上水を周遊しました。結果は下表のようになり、約43kmの走行で、2/3は川沿いと池の周回を走れました。
 「妙正寺川」は2013年に地下調整池と公園が整備され、日頃の散歩コースです。「石神井川」は水量もなく面白味のない川ですが、「かい掘り」中のためかもしれません。「千川上水」は狭い川幅の両岸が岩模様に造作され、都会の川とは思えない可愛いらしい風情です。「仙川」は川沿いの道が突如突き当りになり住宅の境界を流れ追従できず迂回したり、暗渠になっている個所があったりで四苦八苦しました。「玉川上水」は水が綺麗で水量も豊かで、直線なので気持ち良く走れました。途中「太宰治入水地」に立ち寄りましたが、今の水量では自殺は無理です。当時は豊富な水量があったのでしょうか?「神田川」はフォークソングにも歌われ、山の手地区を代表する川で、沿道は歩道・自転車道として整備されています。
 乗り始めから「オートマチック」でしたが、神田川沿道では「バッテリーメーター」が容量不足を標示していたので、緩い下り坂を「エコモード」に切り替えて走りました。「善福寺川流域」は和田掘公園・善福寺川公園になっており、「バッテリー残量」を気にしながら、ひたすらペダルを踏み続けました。「エコモード」は登坂ではパワー不足でしたが、何とか43kmの帰着まで「バッテリー切れ」は避けられました。




2)電池の基礎:正極高容量化の可能性

 コラムを29回執筆し、毎回3)章「次世代電池」で「正極高容量化」について学会発表などを紹介し評価した。要約すると以下であるが、いずれも納得できていない。
 ・「空気極」が最も高容量であるが、酸系では「白金溶解」、アルカリ系では「炭酸ガス汚染」の欠点が、燃料電池の研究も含め何10年間も解決できていない。私が見聞きした範囲では解決できる可能性は見出せない。
 ・「イオウ系正極」も昔から研究され、「高温型NaS電池」では大型定置用で優位性が判明し実用化されている。室温では「電解液への溶解」を止める手段として、「固体電解質・イオン液体・濃厚電解液」の研究がされている。さらに、イオウと多硫化硫黄の体積変化も実電池では難問である。今後の研究次第ではあるが、実用化はやはり難しいと思っている。
 ・ 遷移金属酸化物で「過剰容量」が出現し、2倍程度の高容量化を目標に研究がされている。過剰容量の出現は、遷移金属の高次過酸化状態ではないことが判明し、「酸素過酸化」で解釈されている。
<余談>
 学会などで、反応式を質問すると、酸素の発生以外ではいつもはぐらかされる。質問が悪いと、座長が引き継いで質問してくれる事もあるが、納得の得られた回答を得られたことがない。さらに、過剰リチウムイオンが結晶の何処に蓄電されているかの質問では、まともな回答が得られない。

 私はこれらの「正極高容量化」の内、遷移金属化合物での「過剰容量」に着目したが、「酸素過酸化状態」には疑問を持ち数年間考えていたので、その考察内容を披露する。

2−1)電気2重層コンデンサ
 電気2重層コンデンサは、Fig.182のように、負極では負極活物質の電子と釣り合うように電解液中の正イオンが活物質表面に配列し、正極では正極活物質の「電子欠損」と釣り合うように電解液中の負イオンが配列する。この電気量は活物質表面積に比例する。「電子欠損」とは、半導体分野では「ホール」と呼ばれていると思う。電池も活物質表面に電気2重層コンデンサが形成されているのに、この技術用語「電子欠損」で解説することはない。活物質表面への配列だけで、電池のように活物質内部にも電荷担体が蓄えられるわけではないので、電気2重層コンデンサの高容量化は難しい。

  
Fig.182 電気2重層コンデンサ原理

 多孔体構造である正極活物質の細孔を筒状に描き、模式図Fig.183で充放電における電子・電子欠損の動きを表現した。左図放電状態では活物質中に電子欠損はなく、電解液中に正イオン・負イオンが均一に分布している。充電状態になると右図のように、正極活物質中には電子欠損が多数存在し、その電荷に見合う負イオンが活物質表面に配列する。電解液中には正負イオンはほとんど存在しなくなる。充放電でこの状態が繰り返される。負イオンは電解液中を移動するだけで反応せず、活物質の劣化は起こらないので、サイクル劣化と言う概念はない。
 充電により細孔内は溶媒と負イオンが存在するが、細孔が小さければ、電子欠損を増やしても溶媒があるために細孔内の負イオンは増加出来ない。細孔に蓋をするように、負イオンは通過するが溶媒は通過しない「篩膜」で被覆するとFig.184のようになり、負イオンが細孔内により多く貯蔵できる。Fig.184の模式図で細孔をカーボンナノチューブで構成すれば、コラム各回第4章「新規な電池理論=片持ち論+篩膜」と近似できる。「新規な電池理論」でのカーボンナノチューブの計算結果では、細孔の壁と数nm、正イオン同士の距離が数nmまで近づくことができることが証明された。正イオンより負イオンはイオン半径が数倍大きいので、負イオンは正イオン程には配列できないが、細孔が細く深ければ高容量化の可能性がある。また、高電圧をかけた時に細孔内で電解液が酸化分解されることもなくなる。負極カーボンナノチューブの計算では、イオンは細孔内に配列されると、イオンの配列状態で安定化エネルギーは不連続に存在し、各々に安定化エネルギ−を有し、対応する電極電位を有していることが判った。実際には細孔はカーボンナノチューブのような整然とした細孔ではなく、ランダム構造であるので、電位つまり充放電曲線は連続的になる。

  
Fig.183 電気2重層コンデンサ正極の充放電
 

 Fig.184では、電解液中の正イオンと細孔中での正イオンとは周囲の状態が変わるので、移動だけではなくなりコンデンサとは言えず、電極反応が起きていると考えるべきである。Fig.185に示すように、両極の細孔内に正負両イオンを挿入し、その電位差で電池反応が起きる。正負極ともに「篩膜」を設けた細孔壁に「片持ち論」で正負イオンが整列し充放電する様子を模式図で示すと、Fig.185のようになり、負極は計算化学でLiC2は証明され、正極はLiC6程度になる。現行正極活物質の数倍の容量を蓄電することが出来る。
 製造時にイオンがあるのは電解液中だけで、充電により電解液中の正負イオンが分離するので、電解液量に蓄電量が制限される液制限電池であり、固体結晶中より電解液に溶解する方が密度が小さいのは明らかで、高容量化には限界があり、現行のリチウムイオン電池を上回ることはない。



Fig.184 「篩膜」付き電気2重層コンデンサ正極の充放電



Fig.185 「篩膜」付きデュアルカーボン電池の充放電


2−2)過放電カーボン極
 10年以上前に当時立教大学の故高村教授からチタン酸が酸化物であるが負極になると聞き、正極・負極は相手極との電位差で決定されるので、カーボンも負極にも正極にもなるとの教えられた。電気2重層コンデンサも特殊なカーボンでは正極側でリチウムイオンが挿入出来るとの話をされていた。学会発表をされたはずだが私は聞き損なった。
 初充電時にSEI形成のためのリチウムイオンを補充する目的で、金属リチウムを負極に張り付ける手法が注目されたことがあるが、その時には負極ではリチウム金属の溶解反応、正極ではカーボンへの挿入反応が起きる。
   負極反応 : L(metal) ⇒ L + e
   正極反応 : C + Li + e  ⇒ LiC
 多孔体カーボンはリチウムイオン挿入型の正極になる。容量密度は負極と同じはずであるから、グラファイトなら最大372mAh/g、「新規な電池理論」に従えば、1000mAh/gが予想できる。リチウムイオンが正負極間を移動するので、電解液消耗型ではなくなり、電解液量に電池容量が制限されない電池になる。
 Fig.186のように、負極をリチウム金属でなくカーボンにすると、正負極ともに同じ反応であり、0Vの放電末には両極が同じリチウムイオン数を内蔵した時になり、最大容量を半分に分け、176mAh/g、「新規な電池理論」に従えば、500mAh/gが最大容量になる。電圧も半分になるので、2V程度しかなく、最終的なエネルギー密度の増大にはならない。



Fig.186 「篩膜」付き両極カーボンリチウムイオン電池の充放電


2−3)その場形成負極
 第23回(2020年7月17日)4)章「新規な電池理論:実験結果の「新規な電池理論」による考察」で紹介した内容を転記する。なお、同一の図を用い、図番は変更していない。解説文は多少手を加えた。
 ファインセラミックスセンター(略称JFCC)山本、NG大IR教授達が「その場形成負極」を発表した。Fig.148は、発表論文を参照に作図した。充電時には、リチウムイオンが正極コバルト酸リチウムから固体電解質LATSPO内を負極集電体Ptに向かって移動し、Ptから700nm程度でリチウムが非常に多い分布領域、その手前2μm程度にリチウムが少し存在する分布領域が出来る。図では不連続に描いたが、連続的に濃度が変化し、濃度勾配は指数関数のように見える。この700nmに分布されたリチウムが充放電に伴い増減することから、「その場形成負極」と名付けられた。
 <発表論文> Electrochmistry Communications 20(2012)113―116

 最初にこの発表を聞いた時には、実験、電圧測定の手違いで「リチウム金属」析出と思った。NG大IR教授に確認すると、リチウム金属ではないとの回答でした。固体電解質の専門家数人に固体電解質のリチウム占有箇所が充放電で増減する可能性を聞くと、一様にあり得ないと言う回答でした。
 なお、正極活物質容量を電位が変動しない程に大容量にして実験をすべきであり、さらに「電位走査法」での充電時にリチウム金属析出電位まで充電しリチウム金属析出を確認することで、逆に「リチウム金属」析出ではないことが明白になったはずである



Fig.148 その場形成負極模式図


 リチウム金属でないとすればリチウムイオンで、さらに固体電解室結晶中に存在していないとすれば、カーボンナノチューブを例に計算化学で実証した「新規な電池理論・片持ち論」でリチウムイオンの貯蔵を解釈すべきである。Fig.187 左図は固体電解質内にナノサイズの空隙・隙間・割れ目がある状態の想像図で、右図は拡大図である。空隙の存在は、TEM観察で材料初期には認められないが、充放電後の活物質の観察では認められており、初充電時のリチウムイオン移動で結晶に歪が生じ形成されたと考えている。空隙に出入りすることでリチウムイオンの充放電が起きている。カーボンナノチューブでの計算結果は円筒とは限らず、あらゆる形状で定性的には成立する。同右図は空隙を拡大した図で、空隙の壁に沿ってリチウムイオンが一定の間隔に並んでいる。空隙の中央に挟まれてではなく、また複数個が集まってクラスターになることもない。
 初充電時のリチウムイオン移動で結晶に歪が生じ電子電導性が出現したとすると、反応は次式のようになる。
    充放電反応 : Li + <空隙>+ e ⇔  <空隙・Li・e
 「新規な電池理論」計算におけるカーボンナノチューブが、「空隙」と電子電導を発現した固体電解質に置き換わったと考えている。
 本実験のリチウムイオン蓄電機構に関する考察は、高容量化を目指すはずの電池学会で注目されるべきですが、固体電解質自体への注目が高く、充放電機構についてはほとんど取り上げられることがありませんでした。JFCC研究者に理論特許出願を進めたのですが実現はしませんでした。
 「2−2)過放電カーボン極」で強調したように、正極負極はどちらが電位が高いかで決められることで、可逆反応であれば、相手次第では正極にも負極にもなる。「その場負極」も相手極が金属リチウムであれば、「その場正極」になる。
 2−1)電気2重層コンデンサ、2−2)過放電カーボン極、2−3)その場形成負極について解説し、正極でも高容量化できる可能性を示唆した。現行のカーボン負極の2〜3倍つまり現在のコバルト酸リチウムを代表とする挿入型金属酸化物の数倍の容量が得られることを解説した。
 しかしながら、多孔性カーボンであれば、負極との電位差・電池電圧は僅かで電池としての魅力はない。次回この電池電圧について考察した内容について解説する。

<結論>
 ・ 高容量正極として、空気極・硫黄極は、昔からよく知られた課題が解決できていない。
 ・ 電気2重層コンデンサでは、「篩膜」で細孔に電解液浸入を防げば高容量化できるが、電解液量制限は変わらず高容量化には限界がある。
 ・ その場形成負極は、固体電解質に空隙が生じ、その空隙にリチウムイオンが片持ち論で貯蔵される。
 ・ 初充電時に固体電解質内に歪が生じ電子電導性が出現し、リチウムイオンとの電気的中性を保っている。
 ・ 「空隙論」で現行挿入型金属酸化物の数倍の高容量になるが、電位が低く、電池としては魅力がない。


Fig.187  左図:空隙論        右図:拡大図



3)1月度記事の紹介と評価

 2021年1月度の雑誌・新聞記事について紹介及び所見を作成しました(Fig.188)。
 新年に当り日経クロステック、日経ビジネスが特集を組み、「EV用電池」の現状・将来についての評論が連載された。電池が注目されることは大歓迎である。よく調べられているが、概論なので真新しい情報・見解はない。日本が開発したリチウムイオン電池も、半導体・液晶と同じように、日本⇒韓国⇒中国と優位性が変わり、日本の「負け組」がはっきりしてきた。トヨタ・本田が得意とする「HEV用電池」では電池メーカーとの合弁会社が成功しているが、「EV用電池」ではテスラ以外は自社生産に踏み込めていない。日本電池メーカーは単独では企業規模が小さ過ぎて中国企業に比してコストメリットは作り出せないから、「次世代電池開発」に専念すべきである。
 欧州で大規模な電池量産工場新設計画があるが、材料が調達できれば電池は製造できると考え違いをしている。技術つまり日本技術者の「調達」の目途はあるのだろうか?
 関西大学・GSユアサのカーボン/S正極、横国大酸素レドックス、東北大学・名古屋工業大学の欠損金属酸化物に関する発表が興味深い。いずれも前章で取り上げている「空隙論」でデータを考察し直せば、高容量正極への道筋が見えてくるはずである。
 電解液大手2社が統合したが、一緒になっても規模では中国に勝てない。期限間近の既存特許を大事にするだけでなく、技術の優位性がある内に新しい電池・電解液開発をするべきであろう。

<結論>
 ・ 電池が注目され、特集記事が組まれている。新しい情報・見解はないが、嬉しい事である。
 ・ EV用電池では、テスラ以外は自社生産に踏み込めていない。電池メーカー単独では規模が小さ過ぎる。
 ・ 欧州で電池量産工場新設の計画があるが、材料だけでなく技術は調達できるのか?
 ・ 正極材料で興味深い研究成果があるが、「空隙論」で考察し直すべきである。
 ・ 電解液メーカー2社が統合されたが、量では中国に勝てない。既存特許だけでなく質を高めるべきである。


Fig.188  2021年度1月度新聞と雑誌記事の紹介と評価




追加:第5回(2021/2/1)



1)はじめに : 我が家の電池

 新型コロナウィルスの感染状況が悪化し緊急事態宣言が11都府県で発出されました。東京の医療体制は悲惨な状況で、重症化し易い高齢で基礎疾患のある私は、買い物以外には外出していません。この欄に書くことがないので、知恵を絞ったあげく、「我が家の電池」を調べてみました。パックとしてセル数が明確でない機器もありますが、単電池個数として170個程が使われていました。断捨離をする必要がありそうです。機器毎、電池種毎に整理すると以下の表のようになりました。昨年度国内電池販売個数は一次電池247百万個、二次電池148百万個の割合で、我が家でも比率は変わらないようです。
 乾電池仕様では、マンガンとアルカリ乾電池の両方を入れています。マンガン乾電池は国内に量産工場はなく、アルカリ乾電池も2社しか製造していないと聞いています。日本の製造工場が縮小され寂しい限りです。リチウムイオン電池生産も海外に移管されることも必然でしょう。電池工業会が衰退するまでに「新規な電池」が開発されると良いのですが・・・。
 表中のリチウムイオン電池使用機器の電池価格は、携帯電話11Wh305円/Wh、掃除機32Wh250円/Wh、電動アシスト自転車202Wh172円/Whで、保護回路などを考慮しても高過ぎ、交換部品で儲ける商売なのでしょう。中国CATL、韓国LGC中国工場では10円/Whを「目指し」ています。「見込み」ではないかもしれませんが、価格差に愕然とします。国内での競争でなく、中国メーカーとの価格競争を念頭にすれば、現行のリチウムイオン電池では勝ち目がなく、「新規な電池開発」が急がれます。
 皆様のご家庭でも自粛中に「我が家の電池」を調べてみませんか?




2)電池の基礎:半楕円型交流インピーダンス測定結果

 コラムを追加し4回過ぎ、回復過渡電圧から多くの重要な情報が得られることを解説した。一方、リチウムイオン電池正極の放電では、放電末に「電極奥部」のリチウムイオン濃度が希薄化することは検知出来ないと判明した。「電極奥部」のリチウムイオン濃度がある程度測定出来る可能性のある方法を考え付き、特許出願をしたので紹介する。なお、記載した測定データは記憶に頼っているので不正確である。
 電極をn個の部分に分割すると、各局部は次のように書ける。
    n部の充放電(閉路)電圧 = 平衡電圧P ±{n部の(電子抵抗r+イオン移動抵抗R)}
                  *(n部の電流I) ± (n部の電荷移動抵抗η
                    ±(n部活物質不均一性のSOC調整電圧S
                    ±(n部の反応面イオン濃度補正電圧C
 分割したn部は仮想上で分割しただけであり、同じ大きさ、特定の場所である必要はない。n部は並列に接続されているので、対極に対しては全て「等電圧」である。
 n部の充放電(閉路)電圧について等価回路を描くとコラム追加第4回に記載したFig.168、Fig.169のようになり、(電子抵抗r)と(イオン移動抵抗R)がn部毎に存在するように描き直すと、Fig.174のようになる。


  
Fig.174 n部毎の等価回路

 電力配線の交流インピーダンス測定で、コールコールプロットが半円にならずFig.175のように半楕円になった場合には、各家庭の電気製品・配線などの違いを考慮した伝送線路理論が適用され、等価回路はFig.176のように描かれ、Fig.177の解説図のように、半円が複数個実数軸方向で平行移動し、同時に測定されて半楕円になったと考えられる。
 蓄電池の交流インピーダンス測定で半楕円になった場合にも、蓄電池の電極活物質内各部は対極との距離、電子抵抗、イオン移動抵抗に差があり、電力配線の各家庭に見立てて、伝送線路理論が適用されている。
 リチウムイオン電池で交流インピーダンス測定をすると、通常は2個の半円になる。高周波側の小さい半円は負極を反映し、低周波側の大きい半円は正極を反映する。頻繁には起こらないが、Fig.175の半楕円になることがある。この半楕円の理由について、合剤電極が多孔体で不均一な細孔構造であるから、細孔内の電子抵抗、イオン移動抵抗さらには細孔形状の多様性が原因と解説されている。
 命題「多孔体構造だから楕円になる。」が成立するためには、「楕円でない(半円になる)時は多孔体構造ではない。」が成立しなければ、必要十分条件を満たしていないはずである。私は平面電極を測定したことはなく、測定した電極は全てランダムな細孔を有する多孔体構造で、大半は半円になり半楕円になる頻度は少ない。同じ活物質の電極で測定して半円にも半楕円にもなる。半楕円になるには、多孔体構造だけではなく、他の原因があるはずである。


  
Fig.175 半楕円コールコールプロット


Fig.176 電送線路理論による等価回路


Fig.177 複数個の半円が重複した半楕円


 なお、Fig.175のような半楕円になる場合に、CPE(constant phase element)を含む等価回路でカーブフィッティングが行われ、イオン移動抵抗や電極反応抵抗が求められ、電池の特性比較に使われている。数学的に上手く処理されているが、物理的意味あるいは化学的意味に対しての理論付けは理解できず、実際の現象捉える必要がある電池への応用には疑問があるので、本稿では考慮しない。
 Fig.174の等価回路がn個並列に並ぶと、Fig.178のような並列等価回路になるはずである。Fig.178のn部並列等価回路は、Fig.176の伝送線路理論の等価回路に良く似ているので、半楕円になったのはこの並列等価回路が原因であると推定した。
 ☆ 伝送線路理論を理解できていないのに、この推論をすることは乱暴と承知している。
 各要素を次のように仮定すると、Fig.178はFig.179のように書き直せる。
 ・ 各細孔内の{イオン移動抵抗R}は、n部のリチウムイオンに濃淡が出る状況では決して無視できないが、電流の大小を加味して、各細孔内の{(電子抵抗r+イオン移動抵抗R)*(電流I)}はn部で大きな差はない。
 ・ 各細孔内の(n部の電荷移動抵抗η)はn部で同一である。
 ・ 大胆ではあるが、(n部活物質不均一性のSOC調整電圧S)が均一である。
 各n部の交流インピーダンス測定によるコールコールプロットは半円を描き、その半円の中心が(n部の反応面イオン濃度補正電圧C)だけFig.177の模式図のように、半円が横移動し重なり合って、半楕円になっていると推定した。半楕円の長径を電圧に換算しネルンスト式からリチウムイオンの局部的な希薄化を推定出来る。これまでの測定結果が半円、半楕円とバラついたのは、リチウムイオン濃度が不均一になるような高率放電であって、回復過渡電圧が「0」でない短時間に測定した場合だけに半楕円になるためと理解できた。交流インピーダンス測定であれば、回復過渡電圧測定よりはるかに短時間で測定できる。さらに、充放電の電流が通電されている状態でも、交流を重畳することで、電源を遮断している時と同じ結果が得られるはずである。


Fig.178 n部並列等価回路


 以上の推論で特許を出願した



 出 願 日: 令和2年(2020年)9月29日
    出願番号 : 特願2020―173590
    出 願 人: 佐野 茂
    発 明 者: 佐野 茂
    発明の名称: 蓄電池充放電制御方法
 請求項 1: 交流インピーダンス測定結果のコールコールプロットが、半円を延長した半楕円になる場合に、元の半円の直径と半楕円の長軸との差を電圧に換算し、その電圧差をネルンストの式に従って反応種イオン濃度に換算する電極各部の濃度測定方法及び測定された電極各部の反応種イオン濃度により充放電を制御する充放電制御方法。
 請求項 2:請求項1に記載された電極各部の反応種イオン濃度測定装置及び測定結果により充放電制御する蓄電池充放電制御システムおよびその充放電制御システムを装備した電源装置。




 出願に当たり、実験での確認を出来ていないので、どなたかご協力いただけませんでしょうか?実験で確認できた場合には、「実施例」を追加して共同出願に訂正させていただきます。

<結論>
 ・ リチウムイオン電池の交流インピーダンス測定で半円2個にならず、半楕円になることがある。
 ・ (n部活物質不均一性のSOC調整電圧S)と(n部の反応面イオン濃度補正電圧C)とを加えて、細孔毎の等価回路に書き直した。
 ・ 電力配線での伝送線路理論の等価回路に似ているので、細孔毎の並列等価回路が半楕円の原因であると推論した。
 ・ 半楕円の長径を電圧に換算しネルンスト式から、リチウムイオンの局部的な希薄化を推定できる。
 ・ 特許を出願したが、実証試験が不十分なので、実験にご協力していただけませんか?


Fig.179 細孔並列イオン濃度補正等価回路



3)12月度記事及び2020年度10大記事の紹介と評価

 2020年12月度の雑誌・新聞記事について紹介及び所見を作成しました(Fig.180)。
 先月に引き続きLGC製EV用電池火災でGMもリコールをした。SOCを90%に下げる対策を取ったことから、デンドライトショートと推定して良さそうである。高エネルギー密度化のために活物質充填密度を上げ過ぎたのではないだろうか?東芝から固体電解質をセパレータとした水系のリチウムイオン電池の発表があった。東芝はSCiBの時コスト度外視で製品化した。この電池の説明でもコストを重視している様子がないが、安価なら定置用として可能性があると思う。ホンダ3輪バイクは電池交換式で商品化すべきと思うが、資料から計算するとエネルギー密度が非常に低い。設計に問題があるだろう。「国際」と名が付く研究機関では「外国/中国」技術者が活躍し、技術を身に着けて帰国することを「真似した」「盗んだ」と批判するのは筋違いだろう。


Fig.180  2020年12月度 新聞と雑誌記事の紹介と評価



 年度末に当たり、2020年度の10大記事を選定し月順で表した(Fig.181)。
 最重要な記事は中国がNEV車にHEVを認めた記事で、トヨタ、ホンダの日本勢が圧倒的に有利だが、中国のEV強国になる戦略とは矛盾する決定です。EVで唯一成功しているテスラの戦略が注目を浴び多くの記事が発表された。価格だけで調達先を決める自動車メーカーが大半の中で、破天荒な言動で名高いイーロン・マスクが電池に関しては自社生産で非常に堅実です。欧州のEV工場内に電池工場を建設する計画も発表された。GMはLGCと合弁で電池生産に参入するらしい。
 ヒュンダイとGMのEV車でLGC製電池が火災事故を起こし、SOCを下げる対策を取った。負極カーボンの詰め込み過ぎによるデンドライトショートと推測する。
 大坂府立大が酸素レドックスでの容量を出現した。東芝が固体電解質をセパレータにして水系のリチウムイオン電池の開発に成功した。コストが安ければ定置用として可能性がある。レドックス電池の老舗住友電工が発表した。コストを見直せば10円/Wh以下の可能性があると思う。
 トヨタ自動車が配布した充電式ランタンを回収した。トヨタ自動車は20年間の電池技術の蓄積があり、電池メーカーとしてプロのはずだが、最近のEV戦略では電池を軽視している感があり、電池調達で素人のような選定ミスをしたのだろう。


Fig.181  2020年度10大 新聞・雑誌記事


<結論>
 ・ LGC製EV用電池が火災事故を多発している。デンドライショートと推定する。
 ・ 東芝が固体電解質セパで水系のリチウムイオン電池開発に成功した。価格次第で定置用に可能性がある。
 ・ 中国NEV規制でHEVが認知された。日本勢には有利だが、中国のEV強国戦略には矛盾する。
 ・ テスラのEV戦略が注目される。自社生産の戦略を高く評価する。GMもLGCと組んで自社生産する。
 ・ 大阪府立大が酸素レドックスでの高容量化を開発した。
 ・ 住友電工がレドックス電池の開発を発表した。40年の歴史に期待する。価格を下げられるか?
 ・ トヨタ自動車が充電式ランタンを回収した。電池を安易に調達して選定ミスをしたのだろう。


追加:第4回(2021/1/13)



1)はじめに:新宿 山ノ手「七福神めぐり」

 コロナで緊急事態宣言が発出される直前に、大慌てで初詣として七福神巡りをしました。今年は「丑年」東京で「牛」が有名な地名は「牛込」です。1300年前に牛舎があったと言う説もある「旧東京市内」の由緒ある地名で、 新宿区の一部が「東京市牛込区」と呼ばれ、昔は「牛込○○町」のように地名に付けられていましたが、今は学校名・交差点・駅名に残るだけで残念です。東京理科大のある神楽坂の裏通りは、曰くありそうな小料理屋が並び花街の面影が残っています。記憶はほとんどないのですが、私はこの路地沿いの小さな幼稚園(菩提幼稚園?)に通っていたので、来る度に探すのですが、跡地に立ち寄れたのは一度だけで、毎回迷子になりそれ以降は見付けることが出来ません。
 迷子にならないように路地を上ると、鎮護山善国寺「毘沙門天」に着きます。インド出身、十種の利益がある、福の神です。色紙を購入し、ご朱印を頂き、七福神巡りのスタートです。「牛込神楽坂」駅から都営地下鉄で一駅「牛込柳町」駅へ移動し、インド出身、難民救済の優しい神様、大乗山経王寺「大黒天」をお参りします。また都営地下鉄に乗り「若松河田」駅で、古事記に出て来る唯一の女性、五穀豊穣の守り神、厳島神社「弁財天」にお参りし、徒歩数分の、中国出身、短身・長頭、長寿の神、大久保永福寺「福禄寿」に参拝し、筋向いの、中国出身、不老不死の霊薬を所持する長寿の神、春時山「寿老人」をお参りしました。新宿の喧騒の手前にある、日本古来、鯛と釣り竿を手にした海の守護と商売繁盛の神様、稲荷鬼王神社「恵比寿神」で破魔矢を購入し、花園神社近辺に近付かないように営団地下鉄に乗り「新宿御苑前」駅で、中国出身、布袋を背負う実在の禅僧、霞関山太宗寺「布袋和尚」で色紙に最後のご朱印をいただき、七福神が勢揃いしました。「多国籍」の神様達が、一艘の宝船に乗っていることに感心しました。
 都営地下鉄を初乗り180円で2回乗りましたが、シルバーパスのお陰で無料で乗れ、予定より早く回れたので、最後に新宿御苑でブラブラしようと思いましたが、コロナの影響で閉鎖されていました。広い敷地の公園まで閉鎖する程にコロナの蔓延が酷いことを身近に感じました。
 緊急事態宣言が発出されますが、昨春よりは制約が少なく、危機感が浸透するのでしょうか?ファッショナブルなウレタンマスクが普及し、息苦しくなく快適と評判も高いようですが、ウィルスの捕捉率は確かなのでしょうか?リチウムイオン電池ではイオンの通過性が良いセパレータはショート防止には適しませんでした。



2)電池の基礎:電池特有の電気化学

 コラムを追加し3回過ぎ、回復過渡電圧、充電曲線、放電曲線の解析をしましたが、教科書通りでないことに戸惑った方が多いと解り、改めて整理をすることにした。私の解説が解り難いことが混乱を招いているので、出来るだけ解り易く整理し直した。
 電池の電気化学では、材料があるのに充放電出来ない現象(前回コラムFig.162 <q:放電出来なかった電気量>)、熱力学的平衡論では起きないデンドライト析出のような副反応が起きる現象を解析することが重要である。平衡電圧あるいは小さな電流での充放電電圧については、材料化学では重要なテーマであるが、電気化学では当たり前の結果しか得られず、詳しい解析は重箱の隅を突いただけにしかならない。本コラムでは、実用上有益な解析・考察をする。
 電池の電圧は、電流が流れていない時の開路電圧(OCV)と、電流が流れている時の閉路電圧(CCV)に大別でき、開路電圧(OCV)は、見掛け上変化しない平衡電圧と、時間が経つに連れて変化する回復過渡電圧(TRV)に分類できる。なお、実電池では、例えば鉛蓄電池のガス発生のような副反応も伴うが、主反応の解析には含めず、別途必要に応じて解説すべきである。
 リチウムイオン電池の充放電時の閉路電圧(CCV)は、次のように書ける。
   充放電(閉路)電圧(CCV) = 平衡電圧 ±(電子抵抗+イオン移動抵抗)*電流 ±過電圧
 平衡電圧は充電状態SOC(同様に放電状態DOD)により変化する。金属リチウム負極、チタン酸リチウム負極、鉄オリビン系正極などではほとんど変化せず一定である。(電子抵抗+イオン移動抵抗)はオームの法則に従い、IR―Dropなどと略称される。過電圧は、電流が流れている時と電流が流れていない時との電圧差の内、オームの法則に従がう電圧降下分を除く、全ての電圧降下分を言う。充電と放電とでは符号が逆になる。
 充放電を打ち切る、つまり電流が「0」になると、開路電圧(OCV)は、次のように書ける
   充放電遮断後開路電圧(OCV) = 平衡電圧 ±過電圧
電流遮断後の電池電圧は、放電では上昇、充電では下降し、充分な時間経過後平衡電圧になる。この間を「回復過渡電圧」と名付けた。回復過渡電圧(TRV)は過電圧を表している。
   電流遮断後の開路電圧(OCV) = 平衡電圧 ±回復過渡電圧(TRV)
回復過渡電圧の内、電流遮断後から最初の数秒は、電気2重層コンデンサの充放電を伴う電荷移動過電圧であり、その後数秒から数時間かけて、電池内の不均一な状態が均一な状態になる。コバルト酸リチウムのように吸蔵されたリチウム量により電位が変化する場合には、活物質内での不均一性に起因する。
 リチウムイオン電池の反応は、以下のように書ける。
   L + 2Li0.5 ⇔ 6C + 2L
カーボンとコバルト酸リチウムの固体反応であり、電池電圧はコバルト酸リチウムとカーボンの充電状態SOCに伴い変化し、電解液中のリチウムイオン濃度は無関係のように見えるが、正負電極反応に分離すると電極反応式は、
   負極 : LiC ⇔ 6C +L + e
   正極 : 2L ⇔ 2Li0.5 + L + e
となり、電解液中のリチウムイオン濃度が関与し、電解液中のイオン濃度の不均一性がある場合にも電位は不均一になる。負極反応電位は、リチウムイオン濃度が薄くなると電位が下がる、正極反応電位は、リチウムイオン濃度が薄くなると電位は下がる。電解液中のリチウムイオン濃度の変化を考慮すると、
 過電圧あるいは回復過渡電圧は以下のような3種の電圧から構成されている。
   過電圧 = 回復過渡電圧
       = 電荷移動過電圧 +活物質不均一性のSOC調整電圧 +反応面イオン濃度補正電圧
回復過渡電圧を測定すると、数秒間の指数関数的変化は電気2重層コンデンサの充放電を含む電荷移動過電圧による変化であり、電荷移動過電圧は初期挙動として省略できる。その後は活物質内または電解液内での不均一性が解消されるための電位変化である。
 活物質不均一性のSOC調整電圧は、次の理由で除外することが出来ると考えている。
 ・ 電極の一部が高電位A+で、一部が低電位A−であるとすると、A+⇒A、A−⇒Aの逆反応が起き、全体がAになる均一化の反応が起きる。
 ・ この反応が数分の早い反応速度であれば、充放電中にも早い速度で反応が進行し、不均一にはならない。つまり、SOC調整電圧は無視できる程に小さい。
 ・ この反応が数時間単位の遅い反応であれば、回復過渡電圧の数時間以内の変化は、反応面イオン濃度補正電圧と見做すことが出来る。
 ・ 活物質の均一化の時間とイオン濃度の均一化の時間とが分離できなければ、別途異なるSOCの電極を組み合わせて均一になるまでの経時変化挙動の測定結果などで解決する必要がある。
 ・ なお、金属リチウム負極、チタン酸リチウム負極、鉄オリビン系正極などSOCにより電位が変化しない場合には、SOC調整電圧は「0」である。
 活物質不均一性のSOC調整電圧を省略出来れば、回復過渡電圧から電極反応面でのリチウムイオン濃度を推定することが出来る。
 交流インピーダンス測定では、電池の電気的特性を等価回路で解説している。電極反応に関して抵抗と電気2重層コンデンサで近似することで、物理的意味も備わっている。交流インピーダンス測定の参考書によると、電池の等価回路はFig.166のように書かれ、さらに反応種イオンの電極反応面への供給が遅れる場合には、Fig.167のように、ワールブルグインピーダンス(WB)を導入することで、拡散律速の反応機構でも解析できる。ワールブルグインピーダンスの正しい意味が解らないが、電流が流れていない時にも同じ現象である(活物質不均一性のSOC調整電圧)、(反応面イオン濃度補正電圧)と同じ意味とは思えないので、Fig.167のワールブルグインピーダンスの代わりに、(活物質不均一性のSOC調整電圧)、(反応面イオン濃度補正電圧)を書き加えて、等価回路図をFig.168のように書き直した。前述のように、(活物質不均一性のSOC調整電圧)が省略できるとすると、Fig.169となり、(反応面イオン濃度補正電圧)が求められる。
 機器動作が停止した数秒後の電池電圧と、充放電電流の電流積算計から求めたSOC値で、SOC/平衡電圧の換算表から求めた平衡電圧との差が、回復過渡電圧つまり電極反応面での電極電位であり、ネルンスト式により反応面のイオン濃度を求めることが出来る。
     ※ 電気化学インピーダンス法 第2版 板垣昌幸著 丸善出版発行はP項



Fig.166 電池の等価回路                Fig.167 拡散過程を含む等価回路


 リチウムイオンの供給遅れによる電極反応面でのリチウムイオン濃度を定量的に算出できる。(反応面イオン濃度補正電圧)が120mVつまり元のリチウムイオン濃度1mol/lの1/100以下になれば、デンドライト析出の可能性があることを判断することが出来る。その結果を制御系に提供することで、デンドライト発生を防止できる。
 一方、電極をn個の部分に分割すると、各局部は次のように書ける。
    n部の充放電(閉路)電圧 = 平衡電圧P ±{n部の(電子抵抗r+イオン移動抵抗R)}*{n部の電流I} ±n部の電荷移動過電圧η ±n部活物質不均一性のSOC調整電圧S ±n部の反応面イオン濃度補正電圧C
 分割したn部は仮想上で分割しただけであり、同じ大きさ、特定の場所である必要はない。n部は並列に接続されているので、対極に対しては全て等「電圧」である。単極として考えるなら等「電位」である。正負極電位について書き直すと、以下のようになる。
    n部の正負極電位Pn =平衡電位P ±(r+R)*I ±η ±S ±C
 nは任意であり、各n部は並列に接続されているの、Pは1〜nで全て同一である。しかしながら、r、R、I、η、S、Cはn部で全て任意の値で大小があり、Pnが等しくなるように電流Inが変化する。したがって、電流が流れているこの段階では、各部の各構成要素を外部測定で定量することは出来ない。
   電流を遮断すると、電流Iは「0」になるので、(r+R)*Iは直ちに「0」になり、Iの対数関数であるηも数秒後には「0」になり、強引ではあるが、S省略できるとすると、
    n部の正負極電位P =平衡電位P ±C
 P及びCは、各n部は同一ではなくの固有値で、その各部が並列に接続しているので、測定される唯一の電圧は最も高い電圧が測定される。「電位」で言い換えれば、電極電位は対極を基準にして、最も大きな電位差となる電位が測定電位になる。なお、時間が経つにつれて回復過渡電圧は「0」になり、P =平衡電位Pとなり、全てn部で同一になる。


  
Fig.168 回復過渡電圧の等価回路                Fig.169 イオン濃度補正等価回路


 n部の負極の充電を要素で分解すると以下のように書ける。
       負極n部の充電電位 =平衡電圧P +{n部の(電子抵抗rn+イオン移動抵抗R)}*{n部
                  の電流I} +n部の電荷移動過電圧η +n部活物質不均一性の
                  SOC調整電圧S +n部の反応面イオン濃度補正電圧C
 前述のように整理すると、
       負極n部の充電電位 =平衡電圧P −n部の反応面イオン濃度補正電圧C
       負極充電反応(リチウムイオン挿入反応) :  6C +L + e ⇒ LiC
   電極反応面でリチウムイオンの供給が遅れ、反応面のリチウムイオン濃度が薄くなる。リチウムイオン濃度は
       セパ内濃度 > 電極表面濃度 > 電極奥部濃度  (Fig.170)
の濃淡になり、電極奥部電位の方が電極表面電位より低くなり、回復過渡電圧は電極奥部電位が測定できているので、回復過渡電圧からデンドライト析出の可能性を判断できる。
 n部の正極の放電を要素で分解すると以下のように書ける。
       正極n部の放電電位 =平衡電圧P +−n部の(電子抵抗r+イオン移動抵抗R)}*{n部
                  の電流I} −n部の電荷移動過電圧η −n部活物質不均一性の
                  SOC調整電圧S −n部の反応面イオン濃度補正電圧C
 前述のように整理すると、
      正極n部の放電電位 =平衡電圧P −n部の反応面イオン濃度補正電圧C
      正極放電反応(リチウムイオン挿入反応) :2Li0.5 +L +e  ⇒2L
 電極反応面でリチウムイオンの供給が遅れ、反応面のリチウムイオン濃度が薄くなる。リチウムイオン濃度は
       セパ内濃度 > 電極表面濃度 > 電極奥部濃度  (Fig.164)
の濃淡になり、電極表面電位の方が電極奥部電位より高くなり、回復過渡電圧では電極奥部電位は測定できない。
 電極表面電位から算出されたリチウムイオン濃度は極端に薄くないので、放電末現象については深く検討されなかったように思える。リチウムイオン濃度が極端に薄くなった時に、正極活物質表面上で起こる現象について検討し直す必要がある。



Fig.170 負極のイオン濃度分布        Fig.164 正極のイオン濃度分布


<結論>
 ・ 回復過渡電圧は、電池内の不均一な状態が均一な状態になる変化で、電荷移動過電圧、活物質不均一性のSOC調整電圧、反応面イオン濃度補正電圧である。
 ・ 電荷移動過電圧は電流遮断後の数秒間の変化であり、活物質不均一性のSOC調整電圧は時間が異なるので、省略することが出来、回復過渡電圧から反応面イオン濃度補正電圧を求めることが出来る。
 ・ 電池の等価回路のワールブルグインピーダンスの代わりに回復過渡電圧を加えるべきである。
 ・ 電極奥部リチウムイオン濃度が1/100以下になり、回復過渡電圧が80mVを超えるとデンドライト析出が予測できる。
 ・ 放電末の正極深部リチウムイオン濃度は測定できないので、希薄化で起こる現象を検討すべきである。




3)記事及び電池討論会発表の紹介と評価

 2020年11月度の雑誌・新聞記事について紹介及び所見を作成しました(Fig.171)。
 各社のEV電池戦略に関する評論が多数発表されています。特に、EV電池を社内生産する「テスラ」の動向が中心で、マスメディア独特のセンセイショナルに書かれていますが、どこまでが本当かを見極める必要があるでしょう。「中国」はEV強国になり全世界への供給基地になる戦略と論説されています。その戦略で「HEV」が承認されている理由が理解できません。新技術として、東芝が「水系リチウムイオン電池」を発表しました。EV用にはエネルギー密度が不足するが、定置用の技術仕様は満たしていると思う。コストダウンが出来るでしょうか?
 11月に電池討論会が新型コロナの影響のためWebで開催されました。聞くことが出来た発表について、紹介・評価しました。Webについては全く分からないし、慣れていないのですが、特に不便を感じずに参加できました。しかし、会場では平気で手を挙げられるのですが、Webでの質問は躊躇し何か物足りない討論会でした。
 Fig.172にA会場での発表を整理しました。第2日目に全固体電池の特別セッションがあり、全固体電池開発の全体像が紹介されていました。名大入山教授の「・・・蓄電固体界面科学・・・」では、私が以前より主張している全固体電池の「界面抵抗」について、反応界面のイオン希薄化の電気化学的考察が取り上げられていて楽しみです。「フッ化物系」は固体電解質のテーマでは無理があるように思いました。他の発表は特別新しい内容はなく、「高容量化」の目標に関しては、全固体電池が行き詰まっているのは明白です。



Fig.171  2020年11月度 新聞と雑誌記事の紹介と評価


 A会場第1、3日はリチウムイオン電池の評価関係で、いずれも興味深い重要な発表が続いた。電池あるいは電極全体での評価は、局所的に起こっている「突然死」「不具合」現象とは繋がらない。これらの局所的現象を検出できる評価方法に価値があり、実用上に役立てることが出来る。今回の発表では、かなり実用にも役立つ発表が多かった。「金沢工業大学藤田研究室」が提示した等価回路は、私が提唱しているリチウムイオンの反応面での濃淡に由来する「局部電池」を組み込んでいて、今後の解析に期待できる。「早稲田大逢坂研究室」は以前から矩形波交流インピーダンス測定を発表し、今回は充放電電流が流れている非平衡状態での計測に挑戦している。
 Fig.173にA会場以外の発表を整理しました。
 東芝が固体電解質LATPセパでプロトン移動を抑止し「水系リチウムイオン電池」を実現した。Fig.171
 No.201105,201106の記事の技術発表である。LATPの大型耐久性とコスト次第では定置用で実用化できる可能性がある。



Fig.172 2021年電池討論会A会場


 ナトリウム、カリウムについてはリチウム資源量から、注目されているが、「海水中リチウムイオン」の回収コストは計算できているのだろうか?南米のリチウム鉱山の悪い噂を聞く度に、いずれは海水から回収するべきと思っている。LIBTECからイオウ系全固体電池の「熱安定性」の発表があり、液系LIBと25℃の差しかなく、同時に計測された「硫化水素発生」を考慮すれば、全固体電池に全く利点が感じられない。東北大の「錯体水素化物系」全固体電池はこれまで欠点の発表がない。他の研究室でも研究が始まっているはずで、これから楽しみである。空気電池での「亜鉛極」研究では、昔の失敗の歴史を踏まえて研究しているのだろうか?デンドライトショートは平均的あるいは全体的な現象ではないので、局所で起きたら電池として「0」になるとの認識がない研究ばかりで失望する。



Fig.173 2021年電池討論会B、C、E,F,H会場


<結論>
 ・ テスラ戦略の影響が大きい。テスラの内製方針を支持する。テスラ以外はEVに本気とは思えない。
 ・ 中国のNEV規制にHEVが含まれ日本勢は安心だが、EV強国戦略と矛盾しないのか?
 ・ 東芝水系リチウムイオン電池は、固体電解質LATPセパの大型耐久性とコスト次第では定置用で実用化できる可能性がある。
 ・ 金沢工大藤田研究室の等価回路は、私の提唱する局部電池を組み込む等価回路と同じで、今後の解析が期待できる。早大逢坂研究室は矩形波交流測定で、充放電中非平衡状態での計測に挑戦している。
 ・ イオウ系全固体電池熱安定性は液系と大差なく、硫化水素発生もあり、メリットを感じられない。
 ・ 亜鉛極デンドライトショートは局所現象で、全体的・平均的な抑止方法は昔の失敗の繰り返しになる。



追加:第3回(2020/12/7)



1)はじめに:親水公園・旧古河庭園

 コロナ第3波で外出自粛が要請され、大慌てで紅葉狩りへ出掛けました。JR王子駅近くに「音無川、別名滝野川」を地下埋設した時に旧流路に岩を配置して整備された、日本の都市公園100選に選ばれた「音無親水公園」があります。夏場に都会の子供の水遊び場となっています。金魚を放流して掴み取りをさせたら面白いでしょう。遊歩道に植えられたもみじ及び音無もみじ緑地のもみじは、葉が縮れ汚い色付きで、時期が来ても綺麗に色付くとは思えませんでした。京都の寺院のもみじとは大違いです。
 通り向かいの「飛鳥山公園」では、13年前に設置されたモノレール「アスカルゴ」に乗りました。アルミ軽合金で洒落た作りで2分間の運行で、驚くことに無料です。飛鳥山公園は、徳川吉宗が倹約令の中、市民の娯楽・花見の場として提供しました。園内の数本のもみじは、どれも綺麗な色ではなく、やはりDNAが違うのでしょう。
 本郷通りを歩くこと10分の「旧古河庭園」は、明治時代陸奥宗光の別宅、大正時代古河財閥虎之助本宅、戦後財閥解体により国有化、1956年都市公園として開園・建造物の修復をし、2006年国の名勝に指定されました。洋館2階和室は「密」になるので閉館され、1階食堂、ビリヤード室など接客空間は見学が出来ました。喫茶室ではバラ園を望みながら茶菓を楽しむことが出来ます。バラ園では秋咲きのバラが白から紫まで見事に咲いていましたが、匂いが少なく感じるのは温度が低いためでしょうか?
 庭園池の周りのもみじは、DNAの違いを感じさせる綺麗な色付きです。紅葉の盛りには少し早かったのですが、北部式雪吊りで覆われた松との調和が素晴らしく立ち止まりました。「北部式雪吊り、ワラボッチ、バチ竹など」丁寧な説明版があり、興味を引き付ける配慮がされ、正に「おもてなし」の心と感心しました。遊歩道途中の茶室前で、「作法を知らないのですが」と尋ねると、「お気軽に」と言われ、床の間があり、中央に炉を切った茶室に通され、他にお客がなく一対一で、「裏千家」の正式な御点前で、お菓子とお抹茶を振舞われました。久々の緊張感がとても快く、太閤様になった気分を味わいました。
 コラム第17回(2020.2月)で紹介した名古屋市「揚輝荘」に比し、規模は別として、根本的に違うのは手入れ・整備・おもてなしの差です。名古屋には観光資源がないと言われますが、名所・旧跡の取り扱い・手入れがお粗末で、もっと大事にすべきです。名古屋城を木造にすれば万事解決は本当でしょうか?
 次回(1月)は初詣を予定していますが、初詣が出来るのでしょうか?



2)電池の基礎:電池の電圧(3)高率放電特性

 前回に引き続き電池電圧の解析、今回は放電曲線である。Fig.162は、本コラム第2回Fig.9を書き写した。
 放電曲線の一般的な電気化学的処理は、開路電圧(OCV)と閉路電圧(CCV)との差(Fig.162―a、b)について、電子電導度、イオン伝導度、正負極の過電圧、反応種濃度の増減などの解析である。私もこれまでセミナーなどで解説している。材料開発では低率放電でも理論容量に対する利用率が低いので非常に重要である。また、エネルギー保存を目標とする用途では充電と放電との電圧差は、エネルギー損になるので大事な数字である。しかし、材料開発が終了すれば、あるいは一般の用途ではFig.162で示すように、低率放電ではほぼ理論値が出るのに、高率放電で大きな容量減が起きる原因を追究することが実用上重要なテーマである。所謂高率放電特性である。Fig.162曲線C(赤一点鎖線)のように蓄電量が十分に残っているのに、放電電圧が急降下し、設定されている終止電圧になり、<q:放電出来ない蓄電量>を残し放電が終了する。
 <q>が発生する原因を追究することが、電池の電気化学で一番重要であると思っている。これまで、正しく解析出来ていると思っていたが、「間違っていた」ことに気が付いたのでので、本コラムで初めて披露・解説する。
 前回のように、溶液中の反応種である硫酸イオンの影響が解り易い鉛蓄電池の放電で解説する。反応式は
  全電池放電反応: Pb + PbO + 2SO42− + 4H → 2PbSO4 + 2H2
  負極放電反応 : Pb + SO42− → PbSO4 + 2e
  正極放電反応 : PbO + SO42− + 4H + 2e → PbSO4 + 2H2
 と書かれ、硫酸イオン(SO42−)が電池反応、正負極の夫々の電極反応に関与している。負極反応電位は負極SOCには依存せず、また正極反応電位も正極SOCには依存しないので、電極電位は硫酸イオン濃度だけを考えればよい。例えば、比重1.26硫酸と接している電極電位と比重1.08硫酸と接している電極電位とは異なり、前回のFig.160―C図を参照すると、電池電圧は、2.12V、1.94Vである。



Fig.162 高率放電曲線


 放電が始まると、両極共に硫酸イオンは、「ある場所」から電極反応面に移動し、電極反応面で活物質と反応し、電解液中からは消費される。「ある場所」とは反応が始まる前に硫酸イオンが存在する場所で、両極活物質の細孔内、両極間のセパレータあるいは電解液保持材の細孔内、さらには電槽内のあらゆる場所に存在する硫酸である。イオン移動速度が電流より大きければ、「ある場所」から電極反応面まで、硫酸イオン濃度は変化なく一定であるが、イオン移動速度より電流の方が大きければ、電極反応面での硫酸イオンが枯渇し薄くなり、「ある場所」と電極反応面とでは硫酸濃度が異なり濃度勾配が出来、濃度拡散が起きる。
 対極を標準にした電極各部における電圧Eは、
  E=正負極電極電位差F―(電子抵抗r+イオン移動抵抗R)*電流密度I―正負極電荷移動過電圧η(I)
 電極各部を分割し、そのm番目の電圧を上式に従うと、
  Em=正負極電極電位差Fm―(電子抵抗rm+イオン伝導の抵抗Rm)*電流密度Im―正負極電荷移動過電圧ηm(I)= E
 m番目の電圧「Em」は、各因子は異なるが、総和ではどの箇所も「E」である。抵抗が大きい所は電流が小さく、抵抗が小さい所は大きな電流が流れることで、電極各部全ての電圧を均一にしている。電荷移動過電圧は各部による差はなく電流の対数に比例する。硫酸イオンの移動速度よりも大きな電流の場合には、電極反応面での各部の硫酸イオン濃度は異なるので、正負極電位は硫酸濃度関数になる。上式を書き直すと、
  Em=正負極硫酸濃度関数電位差Fm―(電子抵抗rm+イオン伝導の抵抗Rm)*電流密度Im―正負極電荷移動過電圧ηm(I)= E   ・・・・・A
 高率放電での<q:放電出来ない蓄電量>の原因は、各部の電池電圧を表現した上式Aで硫酸濃度が薄くなり硫酸濃度関数電位差が小さくなり、蓄電量はまだ残っているのに放電終止電圧に到達するためである。
 Fig.163は、簡略化した解説図である。放電中の硫酸濃度は
  極群上部 >セパ+保液材 >電極表面 >電極奥部
である。もちろん典型的な硫酸濃度分布を図示している。 上式Aで電流を遮断すると、電流密度Imは「0」でオームの法則に従う1R―ドロップは「0」になり、電荷移動過電圧は秒単位の遅れはあるが、やはり「0」になる。残りは硫酸濃度関数電位だけの「回復過渡電圧」が測定される。「回復過渡電圧」を解析することで、終止電圧に到達した状態での硫酸濃度の状況を把握でき、放電終止電圧を守っていれば、不自然な硫酸濃度になることはなく、電池を劣化させることはないと考えていた。Fig.163に図示するように、「電極奥部」硫酸濃度は「電極表面」硫酸濃度より薄いので、「回復過渡電圧は相互に対極基準で最も大きな電圧である」との原則に従うと、「電極表面」硫酸濃度を反映した電圧になる。従来測定できていると考えていた「電極奥部」硫酸濃度を反映した電圧は測定できていない。電極反応に関与している「電極表面」硫酸濃度の情報は得られるが、電極反応に関与しているにもかかわらず、肝心の「q」に相当する「電極奥部」硫酸濃度の情報は得られない。つまり従来の解析は「間違い」であると気が付いた。



Fig.163 鉛蓄電池硫酸濃度分布


 硫酸濃度の順位が議論の対象になると不本意であるが、硫酸濃度が異なる個所があることをFig.163で象徴的に図示した。重力の影響、対流の影響などを割愛したが、硫酸濃度が薄い箇所の情報が得られないことは確かであり、当初目的の「q」の原因を探れていない。「電極反応面」硫酸濃度は、濃い硫酸を有する「セパ+保液材」に近接しているので、極端に希薄にはならないが、「電極奥部」は「電極反応」面より希薄になっている可能性が高い。放電終止電圧からIR―ドロップ、電荷移動過電圧を減じた「回復過渡電圧」からは、電極活物質等に悪影響を及ぼす程の薄い硫酸濃度は算出されないが、「電極奥部」硫酸濃度を反映した電圧は測定できていない、つまり「電極奥部」の硫酸濃度が薄くなっている可能性、及び放電終止電圧が「硫酸奥部」で硫酸の希薄化を生じない値に設定されていない可能性があることが判明し、「電極奥部」硫酸が鉛蓄電池における不具合発生原因の一つである「水」に近い状態になっている可能性が示唆された。
  ☆「回復過渡電圧は相互に対極基準で最も大きな電圧である」の原則は、多孔体構造の電極では非常に重要である。
 話をリチウムイオン電池に戻す。リチウムイオン電池の反応は、
   L + 2Li0.5 ⇔ 6C + 2L
 と書かれ、カーボンとコバルト酸リチウムの固体反応であり、電池電圧はコバルト酸リチウムとカーボンの充電状態SOCに伴い変化し、電解液中のリチウムイオン濃度は無関係のように見えるが、正負電極反応に分離すると放電時の電極反応式は、
   負極 : LiC ⇔ 6C +L + e
   正極 : 2Li0.5 + L + e  ⇔ 2L
となり、電解液中のリチウムイオン濃度が関与し、濃度変化に伴い正負電極電位は変化する。正極では「ある場所」から「電極反応面」へのリチウムイオンの供給が遅れ、電極反応面でのリチウムイオン濃度が薄くなる。負極では「電極反応面」からのリチウムイオンの逸散が遅れ、電極反応面の濃度は濃くなる。リチウムイオン電池負極放電時のリチウムイオン移動方向は、前述の鉛蓄電池正負極の充電時と同じで、正極放電時の移動方向は鉛蓄電池正負極の放電方向と同じである。負極における電極反応面からの逸散の遅れによる濃度が濃くなる変化の電極電位への影響は小さいので無視する。逆反応を数学的に処理すれば、定量的に証明出来るはずだが本コラムでは省略する。



Fig.164 リチウムイオン電池のリチウムイオン濃度分布


 対極を標準にした電極各部における電圧Eは、
  E=正負極電極電位差F―(電子抵抗r+イオン移動抵抗R)*電流密度I―正負極電荷移動過電圧η(I)
 鉛蓄電池とは異なり、正負極電位は電極活物質の充電状態SOCで電位が変わるので
  負極電位=カーボンSOC関数電位―リチウムイオン濃度関数(濃くなる)電位
  正極電位=コバルト酸リチウムSOC関数電位―リチウムイオン濃度(薄くなる)関数電位
放電電気量からのカーボンSOC関数電位、コバルト酸リチウムSOC関数電位は、別途平衡電圧から求めることが出来かつ電流は各部の均一性を保つ方向に増減するので、各部で均一と見做すことが出来る。結果として、正極電位はリチウムイオン濃度関数だけで表現できる。Fig.164は、鉛電池簡略図Fig.163を、リチウムイオン電池に描き直した。リチウムイオン濃度は、
  (セパ+保持材)濃度 > 電極表面濃度 > 電極奥部濃度
の順番になる。 もちろん実際にはこのように単純ではなく、平面方向にも複雑な濃度分布があるが簡略化している。リチウムイオン濃度を反映した正極電位は
  電極表面濃度(濃い)を反映した正極電位 > 電極奥部濃度(薄い)を反映した正極電位
の大小関係になる。

<余談:一般常識>
 大電流放電で放電終止電圧に到達した場合にも各部の電圧(Em)は同一(E)であり、Eの因子の内大きく変化す因子は正極の電極反応面リチウムイオン濃度(薄くなる)関数電位である。つまり、正極反応面へのリチウムイオンの移動が電流に追いつかなくなり、電極表面でリチウムイオン濃度が薄くなり、リチウムイオン濃度(薄くなる)関数電位が小さくなり、電池電圧が小さくなり、蓄電量は十分に残っているのに、放電終止電圧に到達し、<q:放電出来ない蓄電量>を残し放電が終了する。

 電流を遮断すると、(電子抵抗r+イオン移動抵抗R)*電流密度IのIR−ドロップは直ちに「0」になり、秒単位の時間経過後には正負極電荷移動過電圧η(I)も「0」になる。この時測定される回復過渡電圧は、正負極電極電位差Fになり、前述のようにSOC関数電位が等しいと見做せば、正極電位はリチウムイオン濃度(薄くなる)関数電位だけになる。「回復過渡電位は対極基準で最も大きな電位が測定される」の原則を適用すると、リチウムイオン濃度が薄い方である「電極奥部濃度」を反映した電位ではなく、リチウムイオン濃度の濃い方である「電極表面濃度」を反映した電位が測定される。回復過渡電位からネルンストの式により算定される「電極表面」リチウムイオン濃度は、電池・電極に不具合を発生させる濃度ではない。一方、「電極奥部」リチウムイオン濃度は薄くなっている可能性があり、正極上に形成されたリチウム含有塩の溶解度が高くなり、「SEI」の安定性が下がり、電解液分解がより進むことになる。さらに、リチウムイオン濃度が薄くなることで正極活物質の電解液との反応性が高くなるのではないだろうか?「電極奥部」でのリチウムイオン濃度が回復過渡電圧では算出出来ない程に薄い濃度になっている状況下での劣化を検討する必要がある。
 なお、本考察では簡略化するために、正負極のSOC不均一性による電位変化はないとしたが、実験的にこの考察を証明するためには、チタン酸鉄リチウム負極、リン酸鉄リチウム正極組み合わせると、電極活物質の充電状態による電位変化は非常に小さいので、リチウムイオンの電極反応面濃度だけが電位を反映させることになり、データ解析は容易であろう。
 高率放電中の「電極深部」電解液濃度を測定することは、電池の早期容量減さらには急激な劣化を検討する上で、非常に重要である。「回復過渡電圧」では電極表面での現象しか情報を得られず、「電極奥部」の情報を得られる測定方法の確立が急務である。その可能性がある測定方法を「思い付き」で考案し特許出願した。多くの方の検証を得て、早期に測定方法を実用化し、デンドライトショートなどの致命的な不具合を「0」にしたいので、非公開段階ではあるが次回紹介する。

<結論>
  1.リチウムイオン電池正極放電反応は、電極反応面へのリチウムイオンの移動が遅れ、濃度が薄くなる。
  2.ネルンストの式に従い電位が下がり、容量が残っていても放電終止電圧に到達する。
  3.回復過渡電圧から電極反応面のリチウムイオン濃度を推定することが出来る。
    ☆ 回復過渡電圧は相互に対極基準で最も大きな電圧である。
  4.電極表面部リチウムイオン濃度は算出できるが、より薄いはずの電極奥部濃度は推定できない。
  5.実験的に決められた終止電圧が適切であると言う理論的裏付けはない。
  6.電極奥部でリチウムイオン濃度が希薄化したことを検知できる測定方法の確立が急務である。



3)記事の紹介と評価

 2020年10月度の雑誌・新聞記事について紹介及び所見を作成しました(Fig.165)。
 今月も「テスラ」関連の記事は多く、中国進出ではCATLから「オリビン系」電池を調達する。電力系統の平準化・安定化などに、「定置用電池」の超大型の市場予測があるが、電池に適する規模を超えていると思う。韓国HyundaiのEV火災事故調査の結果が、原因不明に終われば、「デンドライトショート」だろう。「経産省」が次世代電池特に「全固体電池」の開発を促進するが、「国策」にすれば、革新的な開発・発明が出来るのだろうか?

<結論>
 ・ EV火災事故は原因不明か?
 ・ 国策で革新的な開発・発明が出来るか?



Fig.165  2020年10月度 新聞と雑誌記事の紹介と評価




追加:第2回(2020/11/5)



1)はじめに:赤城山・鬼滅の刃

 紅葉シーズン到来、「赤城山」にハイキングに行きました。山荘ではなく、「GoToトラベル」35%割引を利用し、少し贅沢な「源泉かけ流し」の温泉旅館に泊まりました。露天風呂の浴槽は中央で仕切られ、42℃のお湯の上流側では茶色、仕切りの下流側で白色に変わるのが不思議でした。含有鉄分が変色するのでしょうか?二日目は雨で、高崎観音、富岡製糸場、榛名神社を観光しました。15%割引の「クーポン券」を使えた「富岡製糸場」では一部入場制限が行われ、コロナ対策に神経を使っていることが分かります。「インバウンド」の入場者がいれば、もの凄い混雑になることは容易に想像出来、観光地が空いているのは「コロナ禍」の良い面でしょうか?日曜日には「初音ミク」のイベントが行われるようで、大掛かりな設備を建設中でした。
 「赤城神社」は古から信仰される女性の願掛け神社で、女性の願いを叶え、護る「姫守」を授けています。お守りとは思えない、今時の若い女性向きの図柄のグッズが沢山並んでいました。大沼の回りは「紅葉」が綺麗でしたが、登り始めると紅葉はほとんど終わり、枯葉を踏みながら枯木の中を登りました。1827mと気楽に考えていたのですが、土曜日のため登山道は行列になり、いつものような「ゆっくり」登山は出来ず、前後のグループのペースで登ったため、息も絶え絶えで山頂に辿り着きました。その山頂は葉が落ちていて寂しい風情ですが、逆に見通しが良くなり山々の爽快な素晴らしい景色を眺めることが出来、魔法瓶で入れた温かい味噌汁がありがたい程の寒さでした。
 コラム第22回(7月)でも取り上げましたが、コロナ禍で一本の光となっている映画「鬼滅の刃」はご覧になりましたか?興行収入100億円を歴代最速10日で突破しました。前回はチンプンカンプンでしたが、今回はストーリーについていけました。鬼にされた妹をウーバーイーツのように「霧雲杉の木箱」に入れて背負う設定が非常に独創的で、単なるバトル物ではない人間味を感じますが、肝心要のバトル場面は退屈で居眠りをしてしまいました。
 沢山のグッズが売られており、観客は入場料以上の浪費をしているようで、原価100円もしないコップを1000円で買う気持ちにさせる経済効果は千億円規模でしょう。



2)電池の基礎:電池の電圧(2)

 前回3か所(イ、ロ、ハ)で間違った記述、誤解を生む記述があり指摘されたので、最初に訂正します。
 イ.「電池試験では開路電圧(OCV)、閉路電圧(CCV)、回復過渡電圧(TRV)の3つの電圧が測定される。」この記述は間違いで、電池試験で測定される電圧は、沢山あり、状況・条件で夫々呼び名が付いています。直ぐに10以上の名称が思い付きます。ここでの正しい記述は、
 (正)「このコラムでは、電池試験で測定される沢山の電圧の内、開路電圧(OCV)、閉路電圧(CCV)、回復過渡電圧(TRV)の3つの電圧について解説する。」 です。
 ロ.電位が異なる「所」、「近い・遠い」、Fig.153の上下、Fig.155の集電体との位置など、機械的な「場所」と誤解されている。本来の主旨は「電位が異なる状態」で、「cm・mm」ではなく、単位は「v」である。また平面として書く作図技法が幼稚で、立体的に徐々に変化している様子が描けていない。
 (正)電位の異なる「状態」があり、相手極との電圧差が最も「大きな電圧」が測定される。
 ハ.「回復過渡電圧」のFig.154が放電末からの立ち上がりを記し誤解を呼びました。
 (正)Fig.157のように、放電末からの電圧挙動には限らず、放電途中でも電流を遮断した時からの電圧挙動です。Fig.157ではSOC50%で放電を打ち切っている。なお、放電に限らず、充電でも同じ挙動を「回復過渡電圧」と呼ぶ。



Fig.157 回復過渡電圧(TRV)


 前回の「回復過渡電圧」の解説に対し質問があった。説明が悪く理解が得られなかったようである。学会などで、電池理論の専門家に聞くと、平均電圧が測れるとの答えが多い。あるいは、答えてもらえないことが多い。この定義は重要で、電池の容量低下などの課題を考察する上での本質と思っている。
 イ.放電を遮断するとIR-Dropが0になるので瞬時に上昇し、その後数秒で電圧が安定する場合と、直ぐには安定せず、数秒から数分かけて安定する場合がある。低率放電では短時間で、高率放電では多くの時間を掛けて安定する。回復過渡電圧は、この高率放電時の時間を掛けて変化する電圧挙動を指している。なお、「自己放電」などを無視すれば、時間が過ぎてからの安定した電圧を「平衡電圧」と呼んでも構わない。
   ☆ 電圧が変化している。
 ロ、高率放電をSOC30%で打ち切った場合、数秒から数時間にわたる回復過渡電圧期間中は、充放電は行われていないので、所謂IR―Dropは「0」で、活物質全体としてのSOCは30%で変化しない。
   ☆ IR―Dropは「0」で、活物質全体としてのSOCは変化しない
 ハ、正極電位と負極電位がSOCにより変化すれば、その差である電池電圧もSOCにより変化する。逆に、SOCが変化すれば、電池電圧が変化する。
   ☆ 電池電圧が変化している「回復過渡電圧」期間中にはSOCが変化している。

 イ、ロ、ハの3条件から、回復過渡電圧の変化は電池内の局部におけるSOC変化を表現しており、正極では最高電位、負極では最低電位での電位差、つまり電池として最高電圧から、平均電圧への変化の様子が測定されている。電圧の「高い・低い」を逆に表現すれば、「充電」でも全く同じことが言える。
<余談>
 ・ 多くの方が加重平均の電圧が測定できるはずと答えられる。しかし、SOC50%で放電を遮断した後に、内部で平均化が起こっても、加重平均は50%で変わらない。例えば、遮断時にSOC55%の部分が全体のA1あり、45%の部分がB1あれば、55*A1+45*B1=50%であり、時間経過後にSOC53%A2、SOC47%B2に変わると、53*A2+47B2=50%になり、長時間経て安定になれば、50*A3+50B3=50%になる。加重平均の電圧が測れているなら、回復過渡電圧の現象は起こらない。単純な話なのに理解し納得される方は少ない。何故なのか不思議である。

<結論>
 ・ 回復過渡電圧は、電池内部で電位の違う部分が平均化される挙動を、電圧変化として表している。
 ・ 測定される回復過渡電圧は、正極の最高電位と負極の最低電位との差の最大電圧である。

 この「結論」を強調するのは、今後のOCV、CCV解説の大前提になるからである。現在発表されている電池の電気化学的考察は、測られている電圧が平均電圧でのことで、電極内が不均一になる高率充放電の挙動を見ていないことになり、電池挙動に関する考察のかなりが的外れになっている。
 Fig.158に一般的な定電流定電圧充電曲線を描いた。定電流域では、0.2〜1C程度で充電し、定電圧領域では、電流が1/100C程度になるまで、定電圧充電する。時間で打ち切る充電もある。電流をさらに小さくなるまで定電位充電を続けると、活物質の充電よりも、充放電装置誤差、電解液分解などを考える必要があり奨められない。充電開始時の挙動(図A)を右上に拡大した。電子電導とイオン伝導の抵抗に因る電圧上昇が瞬時に起きる。この電圧上昇値はオームの法則に従う、所謂「IR―Drop」である。充電電流を変えると、電圧上昇値はほぼ電流に正比例し、オームの法則に従うことが理解できる。また、1kHzで測定する交流抵抗計(注1)の値ともほぼ一致する。その後電荷移動過電圧により、数分以上電圧は徐々に上昇する。この上昇曲線は指数関数に近似でき、電気2重層容量など電荷移動過電圧の係数を求めることが出来る。この取り扱いについては多くの論文がある。一般的な充電電流であれば、イオン移動の遅れを考える必要はない。その後の上昇は充電量に従った電池電圧となる。正極がコバルト酸リチウムでは正極電位は直線的に上昇し、オリビン酸鉄ではほぼ平行直線である。負極グラファイトは2〜3段階の階段状に上昇し、ハードカーボンでは右肩上がりに上昇する。上昇する様子を解析すると、正負極の材料あるいは混合比などが類推でき、多くの測定結果が発表されている。
 (注1)交流抵抗計は電池測定用ではなく、電気回路上の抵抗を測る目的の製品として50年前には普及していた。周波数1kHzは当時の機器製作上の理由と聞いている。電池の抵抗測定用としても、「IR―Drop」だけを測定するためには非常に便利な計測器である。

 定電流から定電圧に切り替わる電圧は充電終止電圧と呼ばれ、正極材料により異なるが、コバルト酸リチウム正極では4.2Vが普通である。高くすれば容量は増えるが、安全性は下がるので、両方のバランスから下二桁まで規定・制御している。
 充電中の電極の電圧Eは、
  E=(電子抵抗r+イオン伝導の抵抗R)*電流密度I+正負極反応過電圧η(I)
    +正負極平衡電位差F(SOC)
 電極各部を分割し、そのm番目の電圧を上式に従うと、
  E=(電子抵抗r+イオン伝導の抵抗)*電流密度I+正負極反応過電圧η
    +正負極平衡電位差F(SOC)
    = E
 m番目の電圧「E」は、各要素は異なっても、総和ではどの箇所も「E」である。抵抗が大きい所は電流が小さくなることで、抵抗が小さい所は大きな電流が流れることで、電極全ての局部での電圧を均一にしている。反応過電圧は各部による差はなく、電流の対数に比例した変化しかない。分割した各部の抵抗状態が異なれば、充電電流に違いが出てSOCに差が生じるはずであるが、SOCの低い所は充電が先行して補うので、結局は均一に充電されることになる。なお、平衡電位差はそのSOCでの起電力と言い換えても良い。
  ☆1:通常はSOCが部分的に異なる「状態」は生じない。



Fig.158 定電流定電圧充電曲線(CC―CV)


 充電終止電圧に到達した後は、抵抗による電圧降下分と過電圧による電圧降下分が徐々に小さくなり、電池電圧が充電終止電圧に到達するまで電流が流れ続ける。しかしながら、大電流充電で各部のIR―Dropと反応過電圧差が大きくなり、その埋め合わせで充電量差が生じSOCの異なる部分が生じた場合には、SOCの低い状態の部分が充電終止電圧になるまで充電電流が流れる。定電圧領域に移行する時にSOCの違いが大きければ、定電流域での電流量が増えることになる。逆に言えば、定電圧域での充電量と全充電量のとの比がSOCの不均一性を表していることになり、電極の診断に重要な指針になる。
 電池の技術解析で最も重要なことは充電が遅れている、つまりSOCが低い状態が何故生じるかの原因究明である。現在の理論解析は、電圧の高い状態を測定し解析しているので、測定できていない(見えていない)SOCの低い状態、充電が遅れている状態の解析は出来ないと考えている。
 定電流充電域から定電圧充電域に移行する直前、仮にSOC約80%で充電を打ち切った時の、回復過渡電圧の挙動をFig.159に描いた。
 充電打ち切る直前に測定される電圧は、前述のように、
  E=(電子抵抗r+イオン伝導の抵抗)*電流密度I+正負極反応過電圧ηLog(I)
    +正極平衡電位差F(SOC)+負極平衡電位f(SOC)   = E 
 充電を打ち切った直後、電流が「0」になった瞬間の電圧は、
     E= 正極平衡電位差F(SOC)+負極平衡電位f(SOC) :起電力と呼んでも構わない。  回復過渡電圧期間中は上式の起電力が測定され、その起電力は時間に連れて変化し、最終的には充電量に見合うSOC約80%の起電力で安定、つまり平衡電圧になる。
 電極内部にSOCに異なる状態があれば、SOCの高い状態は内部で放電し電圧が下がり、SOCの低い状態は充電され電圧が上がり、各部のSOCが均一になると、充電量に見合うSOC約80%相当の起電力で安定・平衡電圧になる。
 前回記述したようにリチウムイオン電池の起電力になる反応式は、
   L + 2Li0.5 ⇒ 6C + 2L
   と書かれ、カーボンとコバルト酸リチウムの固体だけが関与するが、正負電極に分離すると充電時の電極反応式は、
   負極 : 6C +L + e  ⇒ LiC
                (リチウムイオン濃度が下がれば、ネルンストの式に従い電位は低くなる)
   正極 : 2L  ⇒ 2Li0.5 + L + e
となり、電解液中のリチウムイオン濃度が関与し、濃度で正負電極電位が変化する。リチウムイオンの供給あるいは逸散が充電電流に比し遅れる場合には、電極表面の濃度が変化し、電極電位差である電池電圧も変化する。正極ではリチウムイオンの逸散が遅れ正極表面での濃度が高くなり、負極では供給が遅れ濃度が薄くなる。逸散の遅れによる濃度変化は小さく電極電位への影響は小さいので無視できる。負極ではネルンストの式に従い、濃度が1/10になると約60mV低くなり、1/100になれば約120mV低くなる。  充電を遮断後、各局部のSOCの差がほとんどなくても、電解液濃度に差が生じていれば、濃度の高い部分から低い部分へリチウムイオンは自然拡散し、濃度の低い所の濃度が上昇し、負極電位は上昇する。電池電圧としては小さくなる。濃度が元の濃度で均一になれば、本来の全反応で表される起電力で安定・平衡になる。実験によりリチウムイオン濃度の不均一は電極の面方向ではなく、電極の厚み方向に生じていることが確認出来ている。
 蛇足ながら、本コラムで一貫してデンドライト析出の機構解明をしてきているが、負極反応と負極副反応である金属リチウム析出(デンドライト生成)との電位差は約80mVであるから、
   負極副反応 : Li + e  ⇔ Li(金属)
濃度差1/100は非常に重要な意味を持つ。本コラムではその濃度差は電極表面と「電極奥部」との機械的位置で起こると記載した。また、劣化により「滓」の蓄積が細孔径を実質的に狭めることがリチウムイオンの希薄化の一因であると結論付けた。
 定電流域と定電圧域の比率は、SOC不均一性と、リチウムイオン濃度不均一性を表しているので、この比率を評価することで電池特性を評価することが出来る。電池が製作直後であれば、電子的接触が不均一になっている可能性または電極活物質細孔が不均一である可能性が高いので、製造工程を見直すことが必要になる。使用後であれば、「電極深部」のリチウムイオンの希薄化つまり「滓」の堆積が起きている可能性が高く、SEI形成添加剤の検討、設置温度などの条件を検討する必要がある。定電流域と定電圧域の比率から「電極深部」リチウムイオン濃度の希薄化を検知し、デンドライト発生を予知できる可能性もある。



Fig.159 充電遮断後の回復過渡電圧(TRV)


<余談=昔話>
 電池内が不均一な場合の電池電圧と回復過渡電圧に関心を持ったのは、鉛蓄電池用の硫酸比重計の開発をしていた時である(特開2003―065924)。鉛蓄電池の充電反応は
   全電池反応 : 2PbSO4  + 2H0 → Pb + PbO + 2SO42− + 4H
    負極反応  : PbSO4   + 2e  → Pb + SO42−
    正極反応  : PbSO4   + 2H0 → PbO + SO42− + 4H + 2e
  と書かれ、硫酸イオン(SO42−)が電池反応に関与し、正負極の夫々の電極反応にも関与していることが明確である。絶縁性の硫酸鉛の増加に伴う電極の電子伝導度の変化を無視すれば、負極反応電位は負極SOCには依存せず、また正極反応電位も正極SOCには依存しない。
 Fig.160に鉛蓄電池の定電流(0.2C)定電圧(2.4V)充電曲線A、水晶振動子式比重計を取り付けた断面略図B、硫酸比重と起電力の関係Cを図示した。鉛蓄電池の開路電圧は図Cのように硫酸濃度・比重に比例し、比重からSOCを推定することもできる。例えば、比重1.26の硫酸の鉛蓄電池の電池電圧は2.12V、比重1.08の電池電圧は1.94Vである。充電に連れて、充電量よりも早く電圧は上昇し、充電終止電圧(2.4V)になる。同時に測定している硫酸比重計の数値は、電池電圧から決定される比重よりもかなり低い。定電圧充電領域の手前頃にガス発生が起き、電解液が上下に撹拌されるために、急激に比重が上昇する。ガス発生直前の極群上部での硫酸比重は低く図Cで決定される電池電圧は低いはずである。しかし、測定電圧は充電終止電圧(2.4V)になり、極群上部での低いはずの電池電圧は測定電圧には反映されないことに気が付いた。
 当時は、比重計の開発が主眼で、またスポイトで硫酸比重を測定する時には、吸入・排出を繰り返してから測定することを作業標準として決められていたので、それ以上の確認試験も考察もしなかった。しかし、今日まで不思議に思って忘れたことはなかった。今回コラムの追加で、電池技術の基礎を書ける機会を得たので、電池内が不均一な場合の電池電圧、それにより生じる回復過渡電圧を書くことを決心した。正直な所、非常に難しい概念であり、今も迷いながら記載している。
<結論>
  ・ 定電流定電圧充電の定電圧域では、SOCが不均一、あるいはリチウムイオン濃度が不均一であれば、平均化するまで電流が流れる。
  ・ 定電流域と定電圧域の比率は、SOCの不均一性及びリチウムイオン濃度不均一性を表している。
  ・ 回復過渡電圧から不均一性を検知出来、デンドライト発生に関する情報が得られる。



Fig.160A 比重計付き鉛蓄電池の充電曲線A



 

      Fig.160B 比重計付き鉛蓄電池               Fig.160C 硫酸比重と起電力


3)記事の紹介と評価

 2020年9月度の雑誌・新聞記事について紹介及び所見を作成しました(Fig.161)。今月も「テスラ」関連の記事が多かった。社長の個性でEV事業が成功している。電池のEVにおける役割を重要と考え、「内製」する方針を崩さないことは高く評価する。EV時代到来を本当に考えるなら、他のメーカーも電池は安ければ良いと言う方針を考え直すべきである。
 「定置用電池」について、「超大型」は電池に不向きであると記載して来ているが、「レドックスフロー電池」は他の電池に比べれば、「超大型電池」に適していると思われるので、再評価すべきである。
 「トヨタ自動車」が景品(?)として配布した「充電式ランタンの電池」が不具合を起こした。安ければ良いで安易な調達をすると、痛い目に合う典型的な例である。EV用電池で同じことが起きないとは言えない。
<結論>
  ・ 「テスラ」はEV用電池を内製している。EVに於ける電池の重要性を軽視し、低価格だけで調達をするEVメーカーに勝ち目はない。日本メーカーは?



Fig.161  2020年9月度 新聞と雑誌記事の紹介と評価



追加:第1回(2020/10/7)



1)はじめに:追加主旨・大田黒公園・彼岸花

 (株)情報機構担当者様の指導と皆様のご支援のお蔭で、一昨年から24回のコラムを続けることが出来ました。一応区切りは着いたのですが、書き残した気持ちがあり、担当者に申し出た所、継続を認められました。「電池技術の基礎」に関する事、取り上げなかった「正極」についても記載するつもりです。毎月の「発表記事紹介」は習慣になっているので続けます。注目すべき記事についてのコメントが次世代電池の動向を探る上でお役に立つはずです。また、恥を承知で実験での確認をせずに「理論特許出願」をしたので、公開前ですが要約を記載します。実験を伴う開発にご協力いただければ助かります。追加は第1回から始め、毎回の文字量はこれまでの1/3程度にし、箇条書きなどにより読み易くなるように工夫します。引き続きご笑覧頂きますようお願い申し上げます。ご意見を伺えればと思っています。
 5月末愛知県を去る時に名古屋在住の読者の方から「名古屋人が知らない隠れた名所の紹介を楽しみにしていました。これからは東京の隠れた名所を紹介して下さい。」と頼まれました。買い物ついでにママチャリで30分程の「大田黒公園」に行って来ました。音楽評論家大田黒元雄氏の屋敷跡を杉並区が、数寄屋造りの茶室を備えた「日本庭園」として整備し、仕事部屋として使われていた洋館と同時期に建てられた蔵は国の登録有形文化財になっています。当時のピアノが復元され定期演奏会が開かれています。池の錦鯉は色鮮やかでしたが、他には彼岸花が芝生の隅間に数本咲いているだけでした。紅葉の頃は60本のモミジが鮮やかに色付くと想像しました。子供が紙飛行機を枝に引っ掛けていたので、ジャンプをして取って上げましたが、ジャンプ力の衰えを痛感しました。
 新型コロナウィルスによる外出自粛もあり、自宅の庭の手入れに時間を掛けています。さるすべり(百日紅)は読んで字の如くで8月初めから咲き、ふよう、もみじあおい、のうぜんかずらもポツポツ咲き残っています。10月に入り、「金木犀」の黄色小さな花が咲き出し、良い香りが漂っています。私の好きな「曼珠沙華(第14回参照)」は昨年10日遅れでしたが、今年は彼岸のお中日から2日遅れで白が3本咲きました。赤はさらに4日遅れで咲きました。白い曼珠沙華に「山口百恵」、赤い曼珠沙華に「菩薩」を思い浮かべるのは私だけでしょうか?
 秋の学会シーズンですが、皆様とはお会いできないようで残念です。



2)電池の基礎:電池の電圧

 電池試験には見所が沢山あり、正しく観れば正しく電池評価が出来る。手間暇かけて、あるいは高価な試験委託料を支払うのだから、正しく観て正しく解釈することが重要である。放電容量試験、充電試験、放電率試験、高低温試験、サイクル試験、保存試験、広く安全性試験などの試験がある。高度な試験方法は専門外であるが、機器分析、顕微鏡観察など多くの先端技術を駆使した測定方法がある。苦言を呈すれば、「刀はもの凄い切れ味になっているが、何を切るべきかを考えているのか?切った後は切り捨て御免ではないか?」私が高度な試験で得られたデータと「電池挙動」との関係を聞くと、「素人」が何を聞いているのか?との返事が多く困惑させられる。
 今回は最も簡単な「放電試験」について解説する。第2回(2018.11.15)に取り上げているが、電池技術として基本であるので再度取り上げることにした。
 電池試験では「開路電圧(CCV=Closed Circuit Voltage)」、「閉路電圧(OCV=Open Circuit Voltage)」、「回復過渡電圧(TRV=Transient Recovery Voltage)」の3つの電圧が測定される。放電が開始される前の電流が流れていない時の電圧が「開路電圧」で、電流が流れている時の電圧が「閉路電圧」である。さらに、閉路電圧の状態から電流遮断後直ちに開路電圧にならない場合に閉路電圧は時間を掛けて開路電圧に収束して行く。この間を「回復過渡電圧」と名付けた。この名称は電池学会で著名なKT大AB教授にも助言をいただいた。
 リチウムイオン電池の代表的な「放電曲線」がFig.152(第2回Fig.9を簡素化している)である。図中の青色破線はその時の充電状態(SOC=State of Charge)での「開路電圧」で、通電打ち切り一定時間後に安定になる電圧で、「平衡電圧」である。正極がコバルト酸リチウムなどのリチウムイオン挿入型遷移金属酸化物で構成されている場合には、100〜0%までのSOC変化に連れて、「開路電圧」は満充電電圧約4.2Vから放電が打ち切られる終止電圧約3.0Vまで徐々に下がる。リン酸鉄系の正極材料では正極電位はほとんど変化がなく、電池電圧も変化は小さい。負極グラファイトは挿入する位置により3段階に変化し、電池電圧もそれに伴って階段上に変化するが、正極の変化程には大きくなく、材料によってはグラファイト層間の膨張収縮の繰り返しにより一定の間隔に収束し、数十サイクルの充放電で平坦に変わることがある。「開路電圧」は電極材料の性質で決まり、エネルギー密度計算などの基準なので、材料化学として重要である。



Fig.152 放電曲線


 鉛蓄電池の反応式は
  Pb + PbO + 2SO42− + 4H ⇔ 2PbSO4  + 2H
と書かれ、硫酸イオン(SO42−)が電池反応に関与していることは明確である。硫酸イオン濃度と相関する比重を測ることで、SOCを推定することもできる。ほぼ直線関係でネルンストの式も成立することが理解できる。例えば、比重1.26の硫酸の鉛蓄電池の電池電圧は2.12V、比重1.08の電池電圧は1.94Vである。
 一方リチウムイオン電池の反応式は
   L + 2Li0.5 ⇔ 6C + 2L
と書かれ、一見すると、カーボンとコバルト酸リチウムの反応だけで、リチウムイオンは反応式には出てこない。例えば、1モル/lの電解液のリチウムイオン電池の電圧は、0.1モル/lの電池電圧と同じである。リチウムイオンが反応に関与していないと見えるために、多くの反応機構解析で、固体電極の反応機構だけしか取り上げられていない。しかしながら、正負電極に分離すると電極反応式は、
   負極 : LiC ⇔ L+ + 6C + e
   正極 : 2Li0.5 + L + e  ⇔ 2L
と書け、いずれの極の反応でもリチウムイオンが反応式に登場し、リチウムイオン濃度がネルンストの式に従って、電極反応電位(平衡電位、可逆電位)を変化させるはずである。ネルンストの式に従う負極電位の変化はFig.89(第14回)のようになる。
 実使用とは異なるが、放電曲線の解析をする時に電流因子を固定できるので、定電流で放電する方が試験としては都合が良い。放電開始直後の電圧降下(Fig.152でIRドロップと表示)には電極反応過電圧などは含まれず、電子抵抗とイオン移動抵抗だけで、電流を2点以上変化させると、オームの法則に従った直線が得られる。放電開始直後を過ぎると電極反応過電圧により徐々に「閉路電圧」は低くなる。放電平均電圧は初期から終期までの積分平均が正しいが、一般的には放電時間の半分経過時の電圧で代用している。「開回路電圧」と「閉回路電圧」との比が「電圧効率」になり、電池特性の重要な評価基準である。特にエネルギー損失が重要な要素である自然エネルギー蓄電用途では重要な値である。電圧降下量(Fig.152で電圧降下分と表示)は電子抵抗、イオン移動抵抗、反応過電圧の総和であり、放電中の変化は小さい。
 「エネルギー効率」の観点からは電圧降下を小さくすることは大切であるが、電子抵抗・イオン移動抵抗を小さくすると、内部短絡時の瞬間電流が大きくなり、破裂発火の確率は必ず上がるので安全性の観点からは推奨できない。放電後1秒以内で電気2重層の放電を含む電極反応過電圧による電圧降下がある。高速充放電のために反応表面積を大きく出来る活物質粒子の微細化が研究されるが、表面積増大に比例して電気2重層容量が大きくなり、内部短絡時の瞬間電流が大きくなるので、同様に安全性の観点からは推奨できない。



Fig.89(第14回)リチウムイオン濃度と電極電位


 放電後はSOC変化に伴う正極電位の低下のために電池電圧は徐々に下がり続け、放電終止電圧に到達した時点で放電を打ち切られる。複合材料の場合には段階的に電池電圧が下がり、材料面の情報が得られる。
 <補足>
 ・ 「満充電電圧」は定電流定電圧充電の充電終止電圧で、安全性から4.2Vが民生用電池では一般的である。
 ・ 「放電終止電圧」は機器動作範囲から機器設計者が決め、半導体の動作制限から3.0Vが一般的である。過電圧が大きい大電流放電ではより低い電圧が選ばれる。
 ・ 「電位」は正極・負極が分離している単極の表現で、「電圧」は正極と負極との両極の電位差を表現する。

 電池の電極各部は電極端子から距離が違うので、電子抵抗・イオン移動抵抗は微妙に違い、その差だけ充電状態に差が出る可能性がある。定電流値と時間とから算出したSOC状態50%の時にFig.153のように電極上部端子近傍はSOC55%、電極下部端部はSOC45%となる可能性がある。
 ☆この正極で測れる「電池電圧」はSOC何%の電圧か?
単純な質問だが、電気化学の先生に聞くと、SOC50%の電圧が測定されるとの回答が多い。この回答は間違いで、実際にはSOC55%の電圧が測定される。電極内各部で異なる電位があっても、測定電圧は一つしかなく、相手極から一番遠い、最も高い電圧が測定される。無論電極内では、SOC45%と55%の電位が違う活物質が電子電導出来る短絡した状態にあるから、SOC55%の部分は放電し、SOC45%の部分は充電され、最終的には電極内部で均一化が図られ、SOC50%の電圧になる。電池電圧はSOC55%の電圧からSOC50%の電圧に下がることになる。



Fig.153 SOC不均一電極の説明図


 Fig.154(第2回Fig.11を書き直し)のように、大電流で放電すると、「閉路電圧」が電気量で50%の放電で「放電終止電圧」を下回る場合がある。「高率放電特性(レート特性)」と呼ばれ、ほとんどの電池で起こる現象で、リチウムイオン電池でも同様である。放電を遮断すると、電子抵抗とイオン移動抵抗による電圧降下分が無くなるので、一瞬で電圧が上昇する。次に電極反応過電圧、電気2重層の放電などにより、1秒以下の短時間の電圧上昇が起こる。その後は数分から数時間を掛けて、開路電圧まで上昇する。Fig.154の図では3.4Vから3.75Vまで、約350mV上昇している。この現象を解釈することが、「電池の電気化学」でもっとも重要な考察と考えている。



Fig.154 TRV(回復過渡電圧)


 低電流放電の場合には、「電極表面部」と「電極奥部」とのイオン移動抵抗による電位差は小さく、均一に放電され、放電遮断後直ぐ「開路電圧」は「平衡電圧」になる。しかし大電流の場合には、「電極表面部」と「電極奥部」との間でイオン移動抵抗による電位差で均一に放電されず、Fig.155の解説図に示すように「電極表面」と「電極奥部」とで異なる充電状態になり、複数の電位を有する電極になる。この状態で電流を遮断すると、抵抗による「電圧降下分」はなくなり、対極から最も遠いSOC70%に相当する3.8Vが測定され、SOCが均一になるように、長時間かけて高電位部は放電し、低電位部は充電され、電池電圧は下がるはずである。しかし、Fig.154に示すように、「回復過渡電圧(TRV)」は「開路電圧(OCV)」に向けて短時間で上昇する。この現象を「電極奥部」でリチウムイオン濃度が下がり、「ネルンストの式」に従って電位が下がっていると考えた。例えば、元のリチウムイオン濃度が1モル/lで、「電極奥部」のSOCが70%の時には、「電極奥部」の電位は3.8Vだが、リチウムイオン濃度が1/1000000になれば、約60mVの6倍350mV下がり、3.45Vになる。つまり希薄化が進めば、「電極奥部」の電位は下がり、電子抵抗とイオン移動抵抗と反応過電圧による電圧降下分を加えると、電池電圧は3.0Vを下回り、「放電終止電圧」に到達する。



Fig.155 TRV(回復過渡電圧)


 放電遮断後は、「電極奥部」のリチウムイオン濃度は元の濃度に戻り、その時の「電極奥部」のSOC70%の状態での電位3.8Vを示すようになる。さらに、時間をおけば、電極全体の充電状態の均一化がすすみSOC50%3.6Vに収束することになる。
 Fig.65(第11回)は負極上でのデンドライト析出の理由を「電極奥部」のリチウムイオン濃度の希薄化で解説した図である。



Fig.65(第11回)デンドライト析出模式図


 <結論>
  ・ 電池電圧には、開路電圧、閉路電圧、回復過渡電圧と言う3種の電圧がある。
  ・ 放電中電極内部で充電率が異なる状態が起きた場合、電池電圧は充電率が高い電圧が測定される。
  ・ リチウムイオン電池の全電池反応ではリチウムイオン濃度は関係ないが、正負極の電極反応はリチウムイオンが関与しネルンストの式に従う電位となる。
  ・ 開路電圧と閉路電圧との差はエネルギー効率であるが、特殊用途を除けば、その差は小さく重要ではない。
  ・ 回復過渡電圧は、電極奥部のリチウムイオン濃度の希薄化により電極反応電位が下がった状態から元のリチウムイオン濃度に戻る現象を表現している。
 <余談>
  ☆ 上記第2項「複数電位が存在する場合に、対極から最も遠い電位になる。」、第3項「電極奥部のイオン濃度が低くなりネルンストの式に従う電位になる。」は、非常に重要な結論で、電池の解析で余り考慮していなかった。今回初めて真剣に考え、この結論を導き出した。
  ☆ ご批判があれば、是非ともお聞かせ下さい。



3)記事の紹介と評価

 2020年8月度の雑誌・新聞記事について紹介及び所見を作成しました(Fig.156)。テスラ関連の記事で、技術的な記事はありません。



Fig.156  2020年8月度 新聞と雑誌記事の紹介と評価



第24回(2020/9/9)



1)はじめに:大菩薩峠

 新型コロナウィルスで落ち込んだ経済の立て直し策「GoToキャンペーン」から東京都は外されましたが、お盆休みに久し振りの外出、ハイキングに行きました。一昨年は鳳凰三山、昨年は那須岳と、私にとっては大事な年中行事です。「大菩薩峠」は山梨県にある峠で、1913年から1944年にわたり連載された「中里介山」の長編時代小説で有名になりました。私にとっても学生時代に「青梅街道」に抜ける山岳路でパトカーに追いかけられた思い出の地です。昨年秋にハイキングを計画したのですが、台風被害で断念しました。今年も宿の主人に東京からと尋ねると、来客はほとんど東京発ですから気にしていませんとの返事でした。昼過ぎにバスで登山口に着き山荘まで標高差1000mを登りました。コロナ自粛で筋肉が落ちていると心配していましたが、事前トレーニングの20日間ウォーキングの効果か、思ったより順調に歩け、予定より1時間も早く着き豪勢なティータイムを楽しめました。山小屋風の山荘で夕食、朝食共にまあまあでしたが、「花おくら」の酢の物は洒落た添え物で、焼酎を頼みたくなりました。
 翌朝は大菩薩嶺、大菩薩峠と回りました。ハイキングではすれ違う時に挨拶をするのが慣わしですが、今回は皆下向き加減に小声で挨拶していました。2000mの高地でも晴天で暑く、「マスク着用率」は1割程度でした。女性の着用率が男性の3倍ほどで、何故男性は低いのでしょうか?下山途中のお茶屋で、久し振りにかき氷を楽しみましたが、いつも通り途中で頭がキーンと痛くなりました。
 二日間共に快晴でこれまでで一番天候には恵まれ、頂上付近からの標高第1位の「富士山」の絶景、第2位の「南アルプス」の峰々の豪快さに息をのみました。峠で記念写真を撮ろうとした所、「高温のためカメラ作動停止します」との表示が出て、携帯電話は動かなくなり、慌てて日陰で冷やすと表示が消え無事撮影が出来ました。炎天下でポケットに入れていたので、40℃は超えていたと思います。「リチウムイオンバッテリー保護」の役割もしているのでしょう。
 下山も順調で脚力に自信が出て来ました。1時間早く下山したので、麓の市営温泉施設「大菩薩の湯」に立ち寄りました。緊急事態宣言中は市民以外の入場は断られたようです。通常の半分以下になるように入場制限され、脱衣かごで入場数を管理し、その籠は毎回アルコール消毒をしていて、「コロナ時代」の共同浴場運営と感心しました。最終バスで最寄り駅に戻り、駅前でほうとう鍋、馬刺しと馬肝を味わいました。

 2018年10月10日から始めた本コラムは今回で「24回目」となり、当初予定の連載期間が終了しました。締切りに遅れることは度々でしたが、危機的な大過はなく続けることが出来ましたのは、編集に携わった「鰹報機構」の担当者のお陰で、心より感謝しています。何をしても中途半端にしかできない私が、最後まで意欲が衰えることなく続けられたのは、多くの読者の方々のご支援の賜物で、毎回楽しみにして下さる読者も増え、素晴らしい経験でした。本当にありがとうございました。
 なお、編集者よりコラム継続を了承されましたので、引き続きご笑覧頂けますようお願い申し上げます。



2)電池の基礎:まとめ

 24回にわたり「電池の基礎」を記載したので、最終回に当たり、要点をまとめます。
 リチウムイオン2次電池は電池電圧が高い、つまり負極電位が低いことが特徴で、そのために水を使うことは出来ず、多くの有機物が熱力学的には分解する欠点を有しています。この欠点を補うために負極反応表面を不働態膜で覆う固体電解質界面、略称SEIが非常に有効に働いて、電解液分解が続くことを防いでいます。SEIはリチウム含有有機・無機化合物で、難溶性で、絶縁性で、リチウムイオンは透過できる薄膜です。溶媒和したリチウムイオンはSEIで脱溶媒し、単離した溶媒は負極活物質表面には近付けないので分解することはなく、リチウムイオンだけが負極活物質表面で電気化学反応することが出来ます。このSEI挙動は、リチウム金属1次電池でも同じ機構です。さらに言えば、鉛蓄電池で活物質表面に不働態膜ができ水分解の速度が実用上非常に遅くなり、水の分解電圧1.23Vよりはるかに高い約2Vの電池が実現できている理由と同じです。
 SEIは初充電時に陰極電位が下がるに連れて、電解液との電気化学反応で生成します。リチウム1次電池で一般的に使用されていたプロピレンカーボネートは、グラフィト層間に浸入してから分解し、表面にSEIを形成することが出来ず、エチレンカーボネートはグラファイト層間に浸入する前に分解し、表面に適正なSEIを形成することが出来ます。初充電時のSEI生成を円滑に進めるためにビニレンカーボネートを添加することを発明したのはUB社YT氏です。 
 SEIはリチウムイオン電池実用化に大きく貢献していますが、電解液の還元分解で形成するために、完全な不溶性被膜とは言えません。充放電による活物質の膨張収縮あるいは温度変化による溶解度及び活物質との膨張率の違いなどにより剥離・溶解します。この結果SEIを構成している成分は電解液中に溶けだします。私はSEIの「滓」と名付けました。SEIは電子が飛び込んで電解液を分解しているので、電子が飛ぶ=通過できる=距離の数nm厚さで、劣化により厚くなると言う表現は、SEIの本質を無視しています。「固体電解質界面」と名付けられているように「界面」であり、「厚く」なると言う表現は間違っています。「SEI」ではなく「界面」から離れた「滓」が増えることで、「滓」の層が厚くなります。この「滓」の存在を認識することがリチウムイオン電池の劣化を考える上で一番重要です。
 SEIから遊離した「滓」が細孔の壁に沿って積もり、細孔の実質孔径が狭くなります。電解液との反応ですから、アレニウスの法則に従い「10℃で2倍」の簡易表現が当て嵌り、充放電による膨張収縮、温度履歴が進行速度に影響します。「滓」が蓄積した細孔内ではイオン移動は非常に遅くなり、当初の設計よりも「電極深部」への供給量が不足し、「電極深部」での塩濃度が下がり、電極反応電位がネルンストの式に従って低くなります。「電極表面」と「電極深部」とに塩濃度、リチウムイオン濃度に差が生じ、濃度拡散によりイオン供給量は増えますが、最後には「電極深部」で希薄化が起き、電極反応電位は大きく下がります。その濃度差が1/10になると、60mVの電位変化となります。デンドライト析出反応とグラファイトへの挿入電位との差は約80mVですから、例えば、「電極表面」と「電極深部」との濃度差が1/100になると、その電位差は120mVになり、「電極深部」で挿入反応が起こるよりも、「電極表面」でデンドライトが発生する方が電気化学的には容易になります。
 デンドライト発生の考察には、他にA、B、C案があり、電気化学的に解説しました。
 A.カーボン挿入反応では、活物質表面での挿入反応面への移動で、析出反応より過電圧が大きくなる。
 B.デンドライト析出では、溶媒和イオンに電子が飛び込み0価になり脱溶媒和の過電圧が小さくなる。
 C.挿入反応では電極反応表面積の変化は小さいが、析出反応ではデンドライトが生成すると、デンドライト表面も反応表面積に加わるので、析出に伴い電流密度は小さくなり、よりデンドライト生成が小さな過電圧で起きることになる。
 これらの説はいずれも正しく、同時に起きる可能性もあります。電位変化はターフェル式に従い電流密度に比例するので、大電流充電つまり急速充電がデンドライト生成を引き起こします。
 デンドライトショート箇所でジュール熱が発生し、電解液分解で可燃性ガスが発生し、さらには正極材から酸素が脱離し、外部酸素とは遮断されている密閉電池でも、発火・破裂が起きます。1年以上使用されてから市場で発生するリチウムイオン事故の大半はデンドライトショートが原因と言えます。最初の発生から数年にわたり事故が続いたような事件では、原因が特定できなくても損害賠償責任を負うことになります。
 デンドライトショートは破裂・発火事故の原因ですが、リチウムイオン電池では避けられない「突然死」も「電極深部」の希薄化が原因の一つです。EV用・HEV用電池で、高率放電容量が無くなった「中古電池」を、低率放電仕様の定置用で再利用する事業が計画されていますが、通常劣化だけの寿命判断では、「突然死」「デンドライトショート」は検知できません。電池メーカーがその事業に踏み込むのであれば、電池メーカーの責任ですので構いませんが、自動車メーカーなどのユーザーが手前味噌の論法で電池劣化を判断して「中古電池」を再利用することには反対です。「突然死」「デンドライト発生」を検知する方法を先に開発するべきです。なお、私は良い検知方法を考え付いています。
<余談>
 ・ 丁度不摂生でコレステロールが血管に溜まり、動脈硬化を起こしたイメージが似ています。
 ・ 「滓」が増えると、ドロドロの川が渡りにくいのと同じです。※「滓」は私が命名しました。
 ・ 反応種イオン濃度差で生じる過電圧は「拡散過電圧」と呼ばれますが、電気化学の教科書では間違え易い解説がされていることがあるので、敢えて使いませんでした。

<結論>
 ・ 負極カーボンへのリチウムイオンの挿入反応電位が低いために、高エネルギー密度を実現できている。
 ・ この電位では電解液が分解するが、SEI(固体電解質界面)が形成され、電解液分解は止められている。
 ・ SEIは活物質の膨張収縮、熱履歴などで剥離・溶解し、「滓」となり活物質壁近傍に蓄積する。
 ・ 「滓」により細孔内が埋まり、「電極表面」と「電極深部」との濃度差により電極反応電位に差が生じる。
 ・ 電位差が生じたために「電極深部」での挿入反応より、「電極表面」でのデンドライト発生が優先される。
 ・ デンドライトが成長しショートが発生すれば、正極からの酸素発生も起き破裂・発火する。
 ・ 破裂・発火事故が頻発すると、原因が特定できなくても賠償責任を負うことになる。
 ・ 「突然死」「デンドライト発生」を検知することなく、「中古電池」の再利用には反対である。
 ・ 原因の一つである「電極深部」の希薄化を検知する方法を考え付いた。



3)次世代電池:まとめ

 2020年7月度の雑誌・新聞記事について紹介及び所見を整理し作成しました(Fig.151)。電気自動車関連の各社戦略の記事で、技術的な記事はありません。



 Fig.151のような毎月の雑誌・新聞記事の切り抜きと、電池討論会を代表とする学会発表、各種講演会・セミナーでの調査に、所感を記載した報告書を作成し、次世代電池・電池材料を検討しました。
 テスラの盛況を除いては、中国における政策上の厚遇をもってしても、電気自動車の販売は頭打ちになっています。国内においても日産リーフが実績作りは出来ましたが、量産と言えるほどの販売実績にはなっていません。テスラは2019年度には367千台を売り上げ、株式の時価総額はトヨタ自動車の1.7倍と言う成果を上げていますが、経営者の類まれなる事業戦略が功を奏したとは言え、電気自動車の成功例として一般的に語れるとは思えません。
 トヨタ自動車が先鞭を切ったエンジンとモーターを両立するハイブリッドカー(HEV)は大衆車として根付きました。私もトヨタ自動車のアクアを所有していますが、ヒーターを使う冬でも22km/lの燃費で、燃費改良車として非常に優れ、コスト面でも合理性に叶っています。ガス欠はガソリン車と同じですが、電池の容量不足で走行できなくなる恐怖感は全くありません。HEV用電池は、トヨタ自動車がニッケル水素電池とグラファイト仕様のリチウムイオン電池の併用、ホンダ技研はハードカーボン仕様のリチウムイオン電池を搭載しています。私はニッケル水素電池の方が適していると思っています。リチウムイオン電池では膨張収縮がなく、傾斜型充放電曲線のハードカーボン仕様は上手い設計と思います。
 現行電気自動車が一般に受け入れられない第1の理由は、一充電走行距離が不足しているためです。ガソリン車では残り100kmになるとガス欠警報を出すように設計されていますが、この基準に当てはめれば、電気自動車では半分も行かないうちに警報が出てしまうことになり、走行不能の恐怖感がいつも付き纏うことになります。余程環境意識が高い方、あるいは特殊事情がある方でないと買う気にならないのは当然です。電気自動車が普及するには現行の2倍の電気エネルギーを蓄電出来る電池の開発が必須です。電極など各構成要素について2倍以上の能力が必要です。この条件に照らし合わせると、現在の正極・負極はほぼ理論値に達していますので不適切と言うことになります。
 民生用リチウムイオン電池は日本の発明で、ソニー・サンヨーが市場を独占しましたが、15年程でサムソンSDIなど韓国勢に首位を譲り、さらに10年もかからずに中国勢に市場を席巻されました。電気自動車用電池では、既にCATL・BYDなど中国メーカーが実績を重ね、量産体制も構築し、製品の品質も決して劣ってはいないので、日本メーカーには勝ち目がありません。材料もセパレータ以外は日本製から中国製へとほとんど変わってきています。
 改良型リチウムイオン電池として、3元系正極材料でニッケル割合を80%まで引き上げる開発が、官民挙げて取り組まれていますが、安全性を犠牲にできる限界値を探っているだけで、火災事故の裁判資料を作成しているだけのように思えます。
 中国は半導体・液晶で成功したように電池も「産業のコメ」として輸出産業化に成功しました。部品だけでなくパソコン・携帯電話のような先端技術機器も世界の工場になりました。自動車、ガソリン車は日欧米に追い付くことは難しいが、日欧米が本気になっていない電気自動車を、環境問題を建前にして輸出産業、世界の工場に成長させる戦略を立てています。補助制度で国内での普及を進め、NEV(ニュー・エネルギー・ビークル)規制で、輸入車・海外メーカーの制限をしていました。しかし、不思議なことに、2020年6月にHEVもNEVに含まれると言う発表がありました。HEVでは日本勢が圧倒的に有利で、輸出産業化戦略からは理解し難い方針転換です。今後の中国政府の動向を見極める必要があります。
 「トヨタ自動車」はHEVに重点を置いて来ましたが、2017年12月にEV戦略を発表し、2019年6月に5年前倒しの計画変更をしました。欧州勢がEVに傾斜していく歩調に合わせるとの理由でした。しかしながら、その後関係者から中国でNEVにHEVが認められることになるとの発言を聞き、まさかと思いつつ各方面で情報収集し注目していました。上述のように、HEVがNEVに認められれば、クレジットの負担が低減され、無理してEVを製造する必要はなくなりました。同じことが「ホンダ技研」にも言えるでしょう。
 HEVであれば、トヨタ自動車はニッケル水素電池でもリチウムイオン電池でも「PEVE社」での「電池メーカー」としての実績があり非常に有利な立場です。ホンダ技研も「GSユアサ」との合弁会社「ブルーエネジー社」があり、「ハードカーボン」と言う優れた特徴を有しているので、投資時期を誤らなければ勝ち組です。
 次世代負極材料として亜鉛極は古から2次電池負極として研究されて来ましたが、デンドライトショートが最大の欠点です。特許検索によると、特殊な固体電解質をセパレータに使うことにより、デンドライトショートを止められる技術が公開され、実用化の可能性があると言えます。リチウム金属については、NG大IR教授がデンドライトが集電体の裏面に析出することを発見しました。確実に裏側に析出させることが出来れば、金属リチウムも実用化できる可能性があります。
 シリコンなどの合金系は充放電に伴う体積膨張・収縮によるSEIの剥離溶解があり実用化できていません。活物質粒子を微細化するなどの方法では、解決策にはならないでしょう。充電により膨張した体積に見合う「篩膜」で被覆し、SEI劣化を防ぐ方法を提案しました。
 本コラム第4章に毎回記載するように、カーボン多孔体は「片持ち論+篩膜」により、重量で3倍、体積で2倍を実現できる最有力候補であることに間違いありません。
 全固体電池はイオン伝導度が液系並みになるだけではメリットは小さく、高容量活物質を導入するための手段として開発するべきです。イオウ系固体電解質はイオン伝導度と毒性の強い硫化水素発生とに相関があるので、硫化水素発生を考慮した上で研究発表するべきです。
 次世代正極に関しては、リチウム過剰系正極は有望ですが、酸素レドックスによる反応機構ではなく、考案中の「空隙論」で解釈すべきと思っています。固体電解質によるイオウ系正極の溶解防止は正極の高容量化になりますが、まだ研究段階でしょう。
 定置用蓄電池として、消防法の非常用電源のように絶対に停電が許されない用途では、「突然死」が予測できないリチウムイオン電池の採用は難しく、従来通り重くて大きくても鉛蓄電池が選定されるべきです。停電に対し余り重要でない、命に係わらない用途では価格で決まります。中国製リチウムイオン電池は10円/Whになるので、この価格が基準とした価格競争になります。日本メーカーでは鉛蓄電池でも難しく、亜鉛空気電池だけが対抗できると思います。
<結論>
 ・ 現行リチウムイオン電池はEV用としては走行距離(蓄電量)不足で、市場でも中国に勝てない。
 ・ 改良型リチウムイオン電池も中国メーカーに対し、開発しても性能は同等、価格・実績で負けることになる。
 ・ 輸出産業化を意図したはずの中国NEV規制にHEVが認められ、今後の展開が予測出来なくなった。
 ・ HEVなら日本勢のトヨタ自動車とホンダ技研が、圧倒的な勝ち組になる。
 ・ 次世代負極材料候補の亜鉛は、特殊固体電解質セパレータでデンドライトが止められ有望である。
 ・ リチウム金属は集電体の裏側析出に可能性がある。
 ・ シリコン合金系負極は体積膨張を見込んだ「篩膜」被覆に可能性がある。
 ・ カーボン多孔体は「片持ち論+篩膜」により、高容量化の最有力候補である。
 ・ 信頼性が余り要求されない定置用電池では10円/Whの価格競争になり、空気亜鉛電池が有望である。



4)新規な電池理論:まとめ

 ファインセラミックスセンター在籍時、「楠氏」が発明した「SiC熱分解法カーボンナノチューブ」の研磨工具など機械的応用の探索調査をしていた時に、カーボンナノチューブを負極活物質に適用し失敗した発表を知りました。カーボンナノチューブのようなnmサイズの空間でリチウムイオン挿入電位まで充電すれば、SEI形成で目詰まりすることは電池技術の常識で、無意味な研究と解説しました。説明している内に、SEI、正確には「滓」で目詰まりする事を防げば良い事に気付き、カーボンナノチューブのような微小空間に、リチウムイオンは通過できるが溶媒などの分子は通過出来ない孔を設ける「特許第5062989号」を理論特許として出願しました。その後カーボンナノチューブに数個の孔を開けたのでは、通過量が少なすぎると、同様な条件を有する「篩膜」を設ける「特許5134254号」を出願しました。特許事務所・弁理士からは実施例がないので特許にならない、さらにカーボンナノチューブに限定しないと拒絶査定に反論できないと言われましたが、審査官への直接面談による反論の機会を得て、これまでの経過と後述する計算化学による証明を資料に長時間に亘る説明をしました。AO審査官は非常に熱心に聞いて頂き、特許としての不完全さには目を瞑り、新規性に重点を置かれた好意的判断をされ特許として認めていただけました。面談の最後に、理論も新規性が高ければ特許になりますと激励して頂いた時には感激しました。
 特許を出願し、「片持ち論」関連の調査研究をすると、ソフトカーボンでグラファイトの2倍以上の容量が出現する場合に、SEI形成のための電解液分解電流であるとの推論で、多くの研究は中断されていました。電解液分解だけでは説明が出来ない放電量もあり、カーボンの微孔にはグラファイト以上の容量を有する能力があることに確信を持ちました。グラファイト中のリチウムイオンは両面のグラフェンから引っ張られて安定に存在すると考えられていましたが、エネルギーの安定について、中学校で習った「山の頂上は不安定、谷の底は安定」を思い出し、また、大岡越前裁きの「子争い」も思い出し、両方から引っ張られているのではなく、負に帯電したグラフェンシートと正に帯電したリチウムイオンとの静電力による引力と、リチウム最外殻電子と炭素電子の負同士の静電反発力とが釣り合って安定に存在している「片持ち論」を考案しました。
 グラファイトより多くの容量が出現した実験結果について、複数個のリチウムがクラスターになって細孔の真中で「両持ち論」で存在する「クラスター論」で解釈されていました。正に帯電したリチウムイオン同士が近接できるはずはないので、実験結果を「両持ち論」を前提に解釈して、「クラスター」状態を想像しただけで、深い考えはないと気にしませんでした。
 「片持ち論」に自信はありましたが、高容量になることについては自信がなく、SM社に転職した私の元部下のAH氏に相談すると、実験で出来ないことを計算化学で予測する手法が本件にも当て嵌りそうだからと、計算のプロ、京都大学立花教授を紹介されました。立花教授に「両持ち論」「片持ち論」を説明すると、熱心に聞かれ質疑応答の後、快く引き受けてくれました。早速楠氏も含め3人でNEDO主管の「Li−EADプロジェクト」に申請しました。リチウム金属になる安定化エネルギーとの比較を、電池としての条件とする必要があることを理解して頂き、それ以外は全てお任せしました。カーボンナノチューブの中心と壁との間の平面上の各位置でリチウムイオンの安定化エネルギーを求め、次に数を変えて安定化エネルギーを求め、更に立体方向上下3層でも計算しました。何度も立花教授の研究室に集まり計算結果の検討会を開催しました。検討会にはリチウムイオン電池の産みの親NS氏、物理学の師匠AK氏、紹介人AH氏、研究協力者KT氏にも加わって頂き、電池として矛盾の無いことを慎重に検討し、以下のような結論が得られました。
 ・ 中心近くには存在せず、壁から0.3nm程離れた位置が安定であり、「片持ち論」が立証できた。
 ・ 平面ではLiC3、立体である3層ではLiC4が成立し、高容量化が立証できた。
 ・ 計算上の空間としてカーボンナノチューブ壁の外側で計算し、3倍LiC2が立証できた
 ・ 同時に計算したマリケンチャージにより、リチウムイオンの荷電状態の知見も得られた。
 ・ 結果の考察から「両持ち論」・「クラスター論」は否定出来た。
 更に、リチウムイオンが通過出来、溶媒などが通過できない孔の条件についても計算し、「篩膜」が存在することを立証することができました。
 しかしながら、私の国プロ評価委員への説得が下手で、国プロの継続は否決されました。予定していた体積当りでの容量、グラファイトとの比較などの計算はできなくなりました。「クラスター論」が学会常識になっていることに対し、不勉強・不用意過ぎたと反省しています。共同研究者の方々には大変申し訳なく思っています。
 SiC―C複合体が、傾斜型の充放電曲線を描き、金属Si、Li―Si合金は出来ていない、アモルファスSiCとアモルファスカーボンが出来ていることが発表され、「片持ち論+篩膜」が成立していると思われました。容量はグラファイトの2倍程度で、サイクル性は非常に良く、いわゆるソフトカーボンと同じ貯蔵機構であるが、アモルファスSiCが電解液分解に対する「篩膜」になっていると考察しました。
 出願前調査で良く似た充放電曲線・サイクル特性を示すデータを実施例に、SiCとカーボンの混合物がサムソンSDIから出願され、特許が成立していることが判明しました。電荷貯蔵及び電池反応については全く記載されていないのは、意図的に隠したのではなく、理解・考察できなかったと推定しました。実験データでは先願されましたが、理論の部分では先願性があると考え出願しました。
 名古屋工業大学川崎教授の「ピーポッド実験」、ファインセラミックスセンター山本氏の「その場形成負極」など「片持ち論」で実験結果を解釈することが出来ます。カーボンナノチューブに限定せず、カーボン多孔体さらには電子電導性多孔構造体では、現行グラファイトを少なくとも重量で3倍、体積で2倍以上になる最適構造があるはずです。
<結論>
 ・ 楠氏発明のカーボンナノチューブで「片持ち論+篩膜」を考案した。
 ・ 実験での実証に目途が立たなかったので、立花教授に計算を依頼し、国プロに参加した。
 ・ 計算化学で「片持ち論」が立証でき、グラファイトの3倍、LiC2が成立することを確認した。
 ・ グラフェンを通過する時の安定化エネルギーをリチウムイオンと溶媒で比較計算し「篩膜」が確認できた。
 ・ 「両持ち論+クラスター論」を否定できたが、国プロは打ち切られた。
 ・ SiC―C複合膜で「片持ち論+篩膜」が成立した。しかし、サムソンSDIの先願がある。
 ・ カーボンに限定せず電子電導性多孔構造体は「片持ち論+篩膜」により高容量負極活物質になる。


5)昔話:東海LIB会

 YB社で市場予測の間違いからユーザーを失い、量産ラインが遊ぶことになってしまい、失意に落ち込んでいる時に、友人を通して某社よりお声が掛かり、YB社を退社し名古屋に新天地を求めました。当初は米国ベンチャーの指導など充実していましたが、私が頼りにしていた副社長が肺癌で急死され、その後は思い出すのも憚られる様な酷い処遇を受けました。しかし、救う神ありで、半官半民の研究機関ファインセラミックスセンター(略称JFCC)に出向することが出来ました。JFCCには出向者が大勢いるので肩身の狭い思いをすることなく、特許担当として研究者の手助けをしていました。研究発表会の運営係など自分に不向きな業務にも取り組むことが出来、良い経験が出来ました。楠氏発明のカーボンナノチューブの機械的応用の調査テーマを兼務するようになり、既報の通り、リチウムイオン電池に関する「片持ち論+篩膜」の発明をしました。
 愛知県、名古屋に転勤してから寂しい思いをしていました。東京で情報交換会をしていた時に参加されていたNG大SN教授だけが、リチウムイオン電池関係の知り合いでした。2003年にFJ社のパソコン用電池制御回路設計者OZ氏が転勤して来られ、早速お会いしました。SN教授は全く飲酒はしないのですが、3人意気投合して忘年会をすることになりました。他の方にも声を掛けようと言うことになり、「東海LIB会」名付けて発足しました。
 下表が開催日と参加者です。東京の新橋に似た雰囲気の名古屋市金山周辺の居酒屋で開催しました。当初夏の納涼会も行われましたが、参加人数が減った機会に忘年会だけになりました。参加者からは毎回来年も開催しましょうとの声があり、20回も続けることが出来ました。参加人数は10人弱で、会話を弾ますには丁度良い人数です。学生が参加すると日頃の飲み会とは違い新鮮な雰囲気でした。
 毎回SN教授の含蓄ある講話で始まり、会食途中から参加者全員が近況報告をします。個性ある内容で楽しみでしたが、皆様話題豊富で雄弁なので、後半はいつも時間を気にして急がせることになり、申し訳なく思っていました。最近は電気化学会東海支部の方達が加わり、LIB会と言うよりは異業種交流会のようになり、より活発になってきました。皆様から貴重かつ有益な話を伺えたことが、私にとって名古屋生活で得られた大事な財産です。
 一昨年末、東京へ引っ越すことを決めた時に本会は終わりにしたいと申し出ました。これからの人と人との繋がりは、新型コロナウィルスのために、このような懇親会ではなく、SNSを通してすることになるのでしょう。




6)おわりに

 1)「大菩薩峠」にハイキングに行きました。
 2)重要な「SEI」の弊害である「滓」が「デンドライト」生成の主要因であることを電気化学的に考察した。
 3)現行も改良型も中国メーカーに勝てない。金属系・合金系負極材料は注目すべき発表がされている。
 4)多孔性カーボンを「片持ち論+篩膜」で再検討すれば、重量で3倍、体積で2倍の高容量化ができる。
 5)名古屋に転勤してから、「東海LIB会」を開催し、素晴らしい財産が出来た。 

 冒頭にも記載しましたように本コラムは「24回目」となり、当初予定の連載期間が終了しました。各回掲載後に、記載内容の書き残しに気付き、頂いた質問が本筋から外れている場合には、順を追った回答が出来ず心残りでした。特に、「EV用新電池と新規な電池理論」を主題にしたので、電池技術の基本事項は結論だけを唐突に記載しました。質問の多くは電池技術の急所を突いていました。技術が奥深い故に自分の浅薄さから躊躇し、充分な説明が出来ずイライラが積もりました。編集者に相談しコラム継続を希望した所、快く承諾して頂きました。充分な説明ができるとはおこがましいのですが、2〜4回分の補足・訂正をこれまでの半分程度の量で記載します。
 ・ 電池の充放電曲線から読み取れること、読み取れないこと。
 ・ 正極の充放電特性に関わること。
 ・ 準備中の特許が出願出来ましたらその紹介。
 引き続きご笑覧頂けますようお願い申し上げます。



第23回(2020/8/17)



1)はじめに:料理日誌

 新型コロナウィルス対策では経済の立て直しのため東京都以外はGoToキャンペーンが始まりました。東京では感染者は徐々に増えており第2波が襲ってきているのかもしれません。高齢者で基礎疾患がある私は、感染したら重症化する可能性が高くびくびくしています。特許庁と病院、近所での買い物以外には外出していませんので、本章で紹介することがなく困っています。引越しに伴う整理・整頓・清掃・庭仕事が一段落してからは、調査報告書作成と本コラム書きしかしていません。家族会議の結果、四日に一度夕食当番を引き受けることになり、最も多くの時間を割いているので、この間の料理日誌を披露します。




 東京の安売りスーパーでは、工場量産品は名古屋と同程度の価格ですが、肉・野菜の生鮮食品は10%程度高く感じます。近所のイオン系列(三重県発祥)の小さなスーパーは、名古屋時代に通ったスーパーの雰囲気があり、安心感があります。プライベート商品を見付けると嬉しくなりつい買ってしまいます。お刺身のパックの底が凸凹で「上げ底」と思ったのですが、自転車で持ち帰ると全く崩れていなくて驚きました。刺身が崩れないための突起・凸凹と聞き、日本的な気配りの包装パックと感心しました。
 20年近くの単身赴任生活で「なんちゃって自炊」はしていましたが、人に食べさせるのは初めてで緊張して調理しています。味音痴なので調理中の味見はしなかったのですが、流石に今は汁物については味見をしています。塩加減位は解るようになりたいと努力しています。味噌汁は名古屋流で赤だしです。「俺流味噌煮込み」は「のんき屋」の味噌煮込みを参考に「ニンニク仕立て」で一番の得意料理です。「ビーフシチュー」は「牛スジ」が入手できれば、他の材料には拘りなく美味しく出来上がります。今後は「お吸い物」の完成を目指すつもりです。
 12回の総合評価ではスーパーで購入した「中国産うなぎ」が最優秀でした。国産とは比較になりませんが、家庭の食卓では十分で、リチウムイオン電池が中国に独占されるのも仕方がないかも知れません。
 唯一の趣味は「3密」になるので出来ず、毎日閉じ籠りの悲惨な状況です。料理を趣味にする気はないのですが気晴らしにはなっています。「3密」にならない趣味を模索中です。



2)電池の基礎:電極深部の塩濃度の測定

 本コラムで一貫して主張していることは、高速充放電では電解液中の反応種であるリチウムイオンが「電極深部」で供給不足になり、濃度が薄くなると言うことです。
   負極の充電: Li + xC + e → LiC
   正極の放電: Li + LixMO2 + e  → Li(1+x)MO2
 負極では充電の時に、電極活物質反応面へのリチウムイオンの供給が不足し濃度が下がり、逆に正極では放電の時に、電極活物質反応面へのリチウムイオンの供給が不足し濃度が下がります。逆に、負極が放電、正極が充電の時には、「電極深部」の塩濃度が上昇します。
 低率充放電でのイオンの移動は電気泳動で十分に供給できるので、拡散による移動はなく、電解液中の「濃度勾配」は生じません。平衡状態から微小な電位あるいは電流変動で現象をとらえる交流測定では、電池の高速充放電時の過電圧を捉えることは出来ません。多くの交流測定結果あるいはシュミレーションが実電池挙動を表せない理由です。大電流充放電をし、電気泳動だけではなく拡散移動が加わった時の大きな過電圧が電池の充放電で意味を有します。小さな電流つまり過電圧が小さい時を計測・考察することには全く意味がありません。肝心要の現象を見落として、どうでも良い現象だけを測定・考察して解ったような発表が多く、指摘しても、ワードブルグインピーダンスを考慮しているからと聞く耳さえ持たない態度に、本当にうんざりします。
 低温で極端な過電圧挙動を示すことも拡散による移動が始まる、つまり濃度勾配が生じ、大きな過電圧が発生するための現象で、正に肝心要の現象です。「本コラム第16回2)章」住化分析センター様の顕微鏡観察で、―10℃試験で、放電では正極、充電では負極の「電極奥部」が凍結・凝固する、「凝固点上昇」が起きている、つまり電解液中の塩濃度が下がっていることを観察出来ています。しかし、実験用特殊セルで観察でき、通常の市販電池の計測に適用できる手法ではありません。
 <余談>
 私が学生の頃、45年程前に、恩師AK氏がJ・Newmanに、鉛蓄電池シミュレーションの論文間違いを指摘した手紙を書きましたが、無視されました。Newmanのシミュレーションを疑いもなく真似をしている人は、何故大電流放電、低温放電時の極端な容量低下にシミュレーションが合わなくなるか考えて下さい。低率充放電の中程での電圧・過電圧が良く一致しても、電池としては全く意味がありません。




Fig.145 伝送線路理論の回路図


 コールコールプロットを描く交流測定は、直流充放電から切り離して行うのが一般的で、通常の測定ノウハウとしては、充放電遮断後はデータが安定しないので時間を開けて測定することになっています。測定されたコールコールプロットが正確な半円を描かずに半楕円になることがあります。高周波側に出来る負極の半円と低周波側に出来る正極の半円の二つの円が重なって半楕円になるとの説明がされますが、相手極を大過剰にし、その半円が無視できる程に小さくしても半楕円になり、正負極の半円が重なるだけでは説明が出来ないことが解りました。電力配線の交流測定での半楕円は、各戸の配線抵抗などの違いで説明する「伝送線路理論」が適用されます。電池でも電極中の活物質各部を電力配線の各戸別に対応させ、「伝送線路理論」を適用させ解説されます。Fig.145は、電気屋ではない私が「伝送線路理論」を聞きかじって描画しました。確かに電極内の各部への電子抵抗、空孔内電解液のイオン移動抵抗に差が生じ説明が付きます。この説明では、イオン移動抵抗とコールコールプロット横軸・抵抗軸の変化量とが全く合わない理由を説明できません。実験で得られた測定値とは明らかに矛盾しているのに、「伝送線路理論」が適用できると言う文献を鵜呑みにしているようです。電池に詳しい方で値に矛盾を感じた方は、電極活物質の空孔の形状に着目し、イオン移動の流れの違いで説明をされています。実験的には直流電流を遮断してから時間に連れて半楕円が半円に直った記憶があります。
 これら事実から電池の両端子からの電気的信号だけで「電極深部」の電解液中の塩濃度の希薄化現象を把握できる方法を考案しました。数年前に考案し、公証役場には原案を2017年に登録しましたが、実験による最終確認が出来ず特許出願を躊躇しています。突然死予測が出来る可能性があり、中古リチウムイオン電池の再使用には不可欠の技術です。どなたかご協力していただけませんでしょうか?
 次回は「電解液劣化とデンドライト発生」についてまとめをし、今後の課題を記載します。
 <結論>
  ・ デンドライトショートの原因である「電極深部」の塩濃度の希薄化は、負極は充電、正極は放電で起きる。
  ・ 「電極深部」の塩濃度の希薄化は、凍結観察すなわち凝固点上昇により実証されている。
  ・ 交流測定では大電流あるいは低温での充放電時の過電圧挙動つまり拡散過電圧を把握できない。
  ・ コールコールプロットの楕円は正負極を現す半円2個の重複ではなく、「伝送線路理論」でも説明できない。
  ・ 実電池での「電極深部」濃度計測法を考案したが、実証実験が出来ていない。どなたかご協力願えませんか?



3)次世代電池:定置用蓄電池

 2020年6月度の雑誌・新聞記事について紹介及び所見を整理しました(Fig.146)。電気自動車関連の記事が多いのはいつも通りですが、基礎研究分野で大阪府立大学から注目すべき発表がありました。2件は間違いなく今年の10大ニュースになります。




Fig.146 2020年6月度 新聞と雑誌記事の紹介と評価


・ 電気自動車の市場・戦略に関し、中国NEV規制が変更されました。これまで日本が得意とするHEVはNEVには含まれていなかったのですが、NEVに含まれるようになりました。昨秋よりトヨタ自動車関連の方々から、私のコラムは「ひっくり返ります」と言われ、八方聞いて回ったのですが、確定的な話はありませんでした。中国の方針転換は、オリビン正極の時にも予測出来なかったのですが、今回も思い知らされました。トヨタ自動車、ホンダ技研は、HEVの中国生産に集中する戦略で、EV開発の必要性は非常に小さくなりました。欧州の自動車会社も現状のEVでは一般ユーザーには売れないことは解っているので、これからHEVを開発することになり、既存の電池を使わざるを得ないので、ハードカーボン負極と言う特徴を有するブルーエナジー社に注文が殺到するでしょう。注文量に対しての判断力が勝負を分けそうです。なお、コロナの影響で自動車販売が落ち込んでいることも、中国の方針変更に関係があるのかもしれません。
・ 大阪府立大学辰巳砂教授研究室は、アモルファス固体電解質研究の老舗で、今の全固体電池ブームに乗っている訳ではありません。全固体電池でもエネルギー密度増大がなければ実用化出来ないと言う基本に基づいた、長年のアモルファス固体電解質の研究成果で、今後大きな意味を持つと思います。しかしながら、正極過剰容量は酸素の酸化と考察している点は賛同できません。折角の重大な実験結果が、間違った理論で解釈されていることを残念に思います。本コラムには理論の完成が間に合いませんでしたが、従来から提言している「空隙論」で解釈するべきと思っています。

 本コラムの主テーマはEV用次世代電池ですが、地球温暖化のためか災害発生が頻繁に起きるようになり防災用電池の需要が増えました。また、化石燃料発電から太陽電池などの再生可能エネルギー発電への移行も進んでいます。自然エネルギー発電では発電量と消費量のバランスおよび周波数変動対策が必要で、蓄電池がシステムの中に取り込まれることが多くなりました。周波数変動対策について、必要性を解説した発表記事を鵜呑みにすると、莫大な定置用市場が開かれると予測されており、太陽電池・建設分野からの新規参入が増えています。本コラムでも一般論としての定置用についての紹介・評価をします。電池業界では、従来「据置蓄電池」と言う用語が使われていましたが、馴染み難いためか「定置用」が一般的な用語となっています。
 独立電源:商用電源がない離島などで、太陽電池などの自然エネルギー発電システムで、無日照時に放電する。
 停電防止:災害などで商用電源が停止した場合に補完する。避難通路の確保、コンピュータのバックアップなどです。
 災害批難時の充電用:災害批難時に停電中でも携帯電話などの充電に使用する。急速に需要が伸びている。
 負荷平準化:自然エネルギー発電の欠点である発電量が消費量と同調しない分を埋め合わせる。
 周波数変動:不規則な発電のために、停電する事故を防ぐ。

 1970年代サンシャイン計画・ムーンライト計画から今日まで、自然エネルギー発電に関連する定置用蓄電池が、ロードレベリング用として、NEDO委託の国家プロジェクトとして何度も試みられていますが、いずれも中途半端な結果に終わっています。最近はリチウムイオン電池を使うことを目的として無理矢理にNEDO補助金が使われている気がします。しかし、国内産業育成にはならず、韓国さらには中国からの輸入品が市場を席巻しそうです。
 定置用蓄電池の役割の一つ停電対策は、避難通路の確保は当然ながら、例えば金融関係では停電時にセキュリティシステムが瞬断なく確実に放電出来なければならないと言う非常に重要な役割があり、信頼性が第一に重要です。某銀行の地下室を見学させていただいたことがありますが、6畳間程度の非常用電池システムが独立して3列あり、最終的に一番大事なことはセキュリティと聞き、銀行ギャングの映画を思い出しました。停電後@50msec以内に電池が放電を開始し、A数十分以内にジェット機発進用の高圧装置が駆動・発電し、B最終的にはエンジン発電機が発電を開始するような3段階のシステムでした。最初の@が正常に動作出来ることが非常に需要な役割をしていることが理解できました。
 <余談>
 防災用電池の一種で、普段は電極を充電状態で不稼働にし、停電時など必要時に活性化して電源となる一次電池があります。「古河電池梶vが派手に発表・宣伝をしている負極マグネシウムの「注水電池」は、必要時に水を入れることで活性化し放電できます。類似の負極カルシウム電池を、湯浅電池梶i現GSユアサ)は約40年前に製品化しましたが、カルシウム水溶液がアルカリ性で廃棄できないために販売中止に追い込まれました。発売前に予測できたはずと思いました。
 逆に、負極を亜鉛、正極を酸素極とし、必要時に封を切って空気を導入して正極を活性化する一次電池も、非常用電池として開発されています。「WA HOLDINGS社」から商品名「エイターナス」が売り出されています。




Fig.147 定置用蓄電池一覧表


 定置用二次電池の候補をFig.147に整理しました。非常用など信頼性が重視される場合には、実績のある鉛電池が最有力候補で、リチウムイオン電池は突然死が予測できないので不適格です。電池重量・体積で設置工事費用の大幅な増大を招く場合、最近の電話用通信中継局のように地上ではなく屋上などに設置される場合には重量がある程度意味を持ちますが、評価の対象となる程にエネルギー密度は重要ではありません。電池の安全性確保のための制御回路が複雑になるとコスト高になりますが、システムが大きければ電池価格に吸収されるでしょう。結局は電池のセル価格が一番重要で、韓国メーカーが中国政府に工場建設認可を受ける時に計画予算として見積もったと噂される10円/Whの金額が基準になります。鉛蓄電池の自動車始動用電池の工場原価が、国内ではこの程度だと思います。設置用鉛蓄電池の最低価格は2倍程度でしょう。あらゆる製品が中国で生産すれば国産の半分程度になるので、今後は輸送費がコストの一部として重要になるかもしれません。リチウムイオン電池を定置用にすると言うことは、付加価値の高い信頼性が必要な用途では「突然死予測」が出来ないから採用できず、価格勝負の場面では中国製には可能性があるかもしれませんが、国産では話になりません。
 国内メーカーの勝算はEVと同じで画期的な次世代電池を開発することです。見えている電池では、亜鉛空気電池が最有力候補と思います。亜鉛極は日本ガイシ(株)が層状水酸化物でのデンドライトショート防止に成功し、アルカリ系空気極における炭酸ガス除去に成功すれば、低価格で実現性は高いと思います。
 <結論>
 ・ 自然エネルギー発電の普及につれて、定置用蓄電池の市場が増大する。
 ・ 信頼性が大事な停電対策にはリチウムイオン電池は不的確で、残念ながら実績ある鉛蓄電池が最適である。
 ・ 価格が決定権を持っており、中国産に対抗するには次世代電池、空気亜鉛二次電池の開発に掛かっている。


4)新規な電池理論:実験結果の「新規な電池理論」による考察

 名古屋工業大学川崎教授の「ピーポッド実験」を「新規な電池理論」で解釈することが出来ることを解説しました。「新規な電池理論」は既に実験的に検証されていると言えるのかも知れません。カーボン多孔体に関する実験結果が学会発表されますが、多くは考察が曖昧になっています。「新規な電池理論」を適用すると、矛盾なく説明出来るはずです。
 全固体電池では電解液ではなく固体電解質が使われているので、「SEI・滓」と言う概念は無くなり、「新規な電池理論」で言う「篩膜」は不要になります。空隙におけるリチウムイオンの「片持ち論」の成立を検討することになります。以下の実験結果の考察は、研究者・発表者に説明はしましたが、納得・合意は得られていません。間違っていれば全て私の責任で、その前提で読んで下さい。
 ファインセラミックスセンター(略称JFCC)山本氏、NK大IR教授達が「その場形成負極」を発表しました。Fig.148は、発表論文を参照に作図しました。充電時には、リチウムイオンが正極コバルト酸リチウムから固体電解質LATSPO内を負極集電体Ptに向かって移動し、Ptから700nm程度でリチウムが非常に多い分布領域、その手前2μm程度にリチウムが少し存在する分布領域が出来ます。この間は図では不連続に描きましたが、連続的に濃度が変化し、濃度勾配は指数関数のように見えます。この700nmに分布されたリチウムが充放電に伴い増減することから、「その場形成負極」と名付けられています。




Fig.148 その場形成負極模式図


 最初にこの発表を聞いた時には、実験、電圧測定の手違いで「リチウム金属」析出と思いました。NK大IR教授に確認すると、リチウム金属ではないとの回答でした。固体電解質の専門家数人に固体電解質のリチウム占有箇所が充放電で増減する可能性を聞くと、一様にあり得ないと言う回答でした。なお、正極活物質容量を電位が変動しない程に大容量にして実験をすべきであり、さらに「電位走査法」での充電時にリチウム金属析出電位まで充電しリチウム金属析出を確認することで、逆に「リチウム金属」析出ではないことが明白になったはずです。
 リチウム金属ではないとすればリチウムイオンと呼ぶべきで、さらに固体電解室結晶中に存在していないとすれば、カーボンナノチューブを例に計算化学で実証した「新規な電池理論・片持ち論」でリチウムイオンの蓄積を解釈すべきです。Fig.149 左図は固体電解質内にナノサイズの「空隙・隙間・割れ目」がある状態を想像した図です。「空隙」の存在は、TEM観察で材料自体には認められないが、充放電後の活物質の観察では認められており、初充電時のリチウムイオン移動で結晶に歪が生じ形成されたと考えています。「空隙」に出入りすることでリチウムイオンの充放電が起きています。カーボンナノチューブでの計算結果は円筒とは限らず、あらゆる形状で定性的には成立します。同右図は空隙を拡大した図で、空隙の壁に沿ってリチウムイオンが一定の間隔に並んでいます。空隙の中央に挟まれてではなく、また複数個が集まってクラスターになることもありません。
 電流が流れている訳ですから左辺に電子があり、右辺では電子が無くなる反応が成立する必要があります。三つの可能性を考えました。
 @ 固体電解質が電子電導性を出現し、固体電解質中のTiイオンが還元される。
   還元反応: Ti4+ + e → Ti3+
 全反応 : Li+ + <空隙> + Ti4+ + e → <空隙・Li+> + Ti3+
 この場合の固体電解質は電子電導性が出現しているので、「固体電解質の定義」からは外れています。固体電解質結晶中のTiの4価⇔3価反応が不可逆に起きること、Tiイオンの電気量にも無理・矛盾があるような気がしています。
 A 固体電解質が電子電導性を出現し、固体電解質中に電子が蓄電される。(Fig.150左図)
   還元反応: <空隙> + e  →  <空隙・e
   全反応 : Li+ + <空隙>+ e →  <空隙・Li+・e
 「新規な電池理論」計算におけるカーボンナノチューブが、電子電導を発現した固体電解質構造体に置き換わったと考えています。
 B 固体電解質に電子電導性が出現せず、Pt中に電子が留まっている。(Fig.150右図)
   還元反応: Pt + e  →  <Pt・e
   全反応 : Li+ + Pt + <空隙> + e →  <空隙・Li+> + <Pt・e
 Ptに蓄電された電子と空隙内のリチウムイオンが釣り合った状態で、キャパシタとも言えます。ただし、電解質結晶中にリチウムイオンが増えたのではなく、空隙中に存在するリチウムイオンが出たり入ったりします。電気2重層キャパシタの定義からも外れます。




Fig.149 左図:空隙論   右図:拡大図


 本実験のリチウムイオン蓄電機構に関する考察は、高容量化を目指すはずの電池学会で注目されるべきですが、固体電解質自体への注目が高く、充放電機構についてはほとんど取り上げられることがありませんでした。JFCC研究者に理論特許出願を進めたのですが、実現せず残念です。
 前述のように固体電解質の場合には「SEI・滓」の概念は無くなりますので、カーボン負極でも「篩膜」を必要としない「新規な電池理論」が容易に成立します。2016年5月TK大ST准教授、TH大OR教授達は「穴あきグラフェン分子」を開発しました。特殊な構造したカーボン構造体で、中央に空孔・細孔を有し、周囲をグラフェンが取り囲んでいます。カーボンナノチューブで壁がグラフェンの積層構造になっていると考えれば、「新規な電池理論・片持ち論」が成立することは容易に想像できます。積層されたグラフェン層の層間をリチウムイオンは通過し、内部の空間・細孔内にグラフェン層の壁に沿って安定に存在します。「穴あきブラフェン分子」で負極を構成し、「SEI」を考慮せずに済む「固体電解質」との組み合わせでグラファイトの2倍以上の充放電容量を得ています。このようにカーボンで中空を有する特殊構造体であれば、「新規な電池理論=片持ち論」は適用出来、高容量化の糸口になると信じています。
 <参考発表> プレスリリース 2016年5月16日 東北大学&科学技術振興機構(JST)

 電解液系ではソフトカーボンでの1000mAh/g以上高容量出現はSS大ED教授など以前より多くの研究者で確認されていますが、「篩膜」を付けず、「SEI」に頼るために数回の充放電で、細孔・空隙は「SEI・滓」により埋められ閉塞し、充放電が出来なくなります。TK大OK助教が開発した「層状化合物MXene」、HG大MO教授がグラファイト層間を4nmと広げられた「酸化グラフェン層間」などは、是非とも「新規な電池理論」で考察し直すべきです。多くの液系でのカーボン構造体細孔内蓄電の研究は、「SEI」に頼る従来思考に基づいているが、「SEI」なしの「篩膜」の研究開発を進めれば、電池高容量化が実現出来るはずです。
 次回最終回には、「新規な電池理論」のまとめを記述します。





Fig.150 その場形成負極における電子の位置


 <結論>
  ・ 正極からのリチウムイオン移動で固体電解質内に「その場形成負極」が出現し充放電できる。
  ・ リチウム金属ではなく、固体電解質結晶中でもなく、「空隙・隙間・割れ目」の壁に沿って貯蔵される。
  ・ 相対する電子は、Tiの還元、固体電解質中に存在、Pt集電体中に存在の三例の可能性がある。
  ・ 「SEI」不要の「固体電解質」と組み合わせた「穴あきグラフェン分子」では、「片持ち論」が成立する。
  ・ グラファイト層間よりも広い空隙を有するカーボン構造体で、「片持ち論」により高容量化が実現できる。



5)昔話:リチウムイオン電池のお客様

 リチウムイオン電池開発を担当するようになり、鉛蓄電池の研究者の時にはほとんど経験できなかった、お客様の機器開発に関与する機会が非常に増えました。開発競争の真只中にあるノートパソコン・携帯電話の設計担当者は必死でリチウムイオン電池に関する情報収集をしていました。
 携帯用デジタルオーディオの開発していたKS社には、少量ですが製品納入を出来ました。不具合が発生しても実に協力的で、原因追及を親身になって考え協力していただきました。今なら誰でも知っているNT社の携帯ゲームの機器開発を請け負っていたSP社には何度も試作品を納入し、私が昼食で食中りし会議が出来なくなった時には、親切に駅まで送っていただいたこともありました。それほどに親密になっていたのに、携帯電話一本に絞り込む会社方針に変わり、量産を引き受けられないとお断りに伺った時には、本当に悲しい顔をされ、製品開発が1年以上遅れると言われた場面が今でも夢に出て来ます。同じような話はカメラメーカーでもありました。この頃は特殊サイズのリチウムイオン電池の争奪戦になっていました。量産設備は専用にして大量生産しコストを下げ、特殊サイズでライン稼働率を下げることはしないと言う事業戦略です。お客様好みの特注品電池、工芸品のような電池ビジネスは成立しないことは十分に理解していますが、電池「オタク」の私としては何か寂しい気がします。
 ノートパソコンでは日本IBM、富士通など、爆発的に成長した携帯電話ではNEC、パナソニック、京セラ、日本無線、海外ではエリクソンなどを回りましたが、ご担当者は皆電池について詳しく、使用方法について逆に多くのことを教えていただきました。「NI社MT氏」には他社情報も沢山教えてくれました。特に不具合とその対策に関する情報は、通常入手できない競合メーカーの手腕を垣間見ることが出来、貴重な経験を積みました。
 リチウムイオン電池を最初に商品化した「SN社」は自社の「カムコーダー」に搭載しましたが、最初に「ノートパソコン」に搭載したのは「FJ社」でした。当時は安全性に懸念を抱かれる方も多くいたのにニッケル水素電池からリチウムイオン電池への切り替えを勇断されました。早速試作品をもって東京西部の工場に担当「OZ氏」を訪問し、試験をお願いしました。電池の性能試験結果は好評でしたが、「釘刺し試験」だけは通過できないとの報告を受けました。社内では何度も確認していたので再試験をお願いしましたが、やはり破裂するとの結果でした。試験室への立ち入りは許可されませんでしたが、試験の様子を写真も含め丁寧に説明を受けました。写真を見ていて、釘刺しをしているボール盤がプリント基板の貫通孔用の小さな器具であることに気が付きました。電池メーカーが通常使っているボール盤は工作機械で、孔を開ける力が強く、桁違いに落下速度・穴開け速度が違います。早速自社の装置でも落下速度を落として釘刺し試験をすると、破裂発火するセルの割合が増えました。この結果をOZ氏は電池メーカー各社に告知し、釘刺し試験では「釘の径と落下速度」を決めるようになりました。
 工場技術部門での安全性対策が緩い時代でしたので、釘刺し試験は防護服を着て、昔の公園のトイレのようなコンクリブロック製掘っ立て小屋の中で、ハンマーで叩いて釘刺しをしていました。職人技の部下がいて、毎朝数10セルの釘刺し試験結果の報告を受けました。危険なのは解っており、随分無茶な事を部下に強要していました。釘について検討すると、細い方が破裂発火は少ない。釘自体が短絡電流の逃げ道にならないセラミック製の方が危険でした。また、釘の代わりに丸棒で突き刺すと全て破裂発火しました。今でもこの辺りのリチウムイオン電池の安全性は変わっていないと思います。
 「釘刺し試験」はSBA・IECなどの規格では最近でも認められていないと聞いています。リチウムイオン電池以前から実施されていた電池の安全性試験で非常に有効な試験と思っています。アメリカのベンチャー企業の技術指導をしていた時に、釘刺し試験方法を教え、試験させると破裂発火することが解り、量産開発を停止し、安全性確保の必要性を指導しました。IEC規格にない試験の実施には抵抗が強く、仕様書に「釘を刺してはいけない」を明示すれば良い、「PL裁判」で負けなければ構わないと考えているようでした。「釘刺し試験」には二つの意味があり、
 @ 実際に電池の輸送・梱包作業中に釘が刺さり破裂発火したことがある。
 A 釘が正負極を貫くことで、デンドラトショートなどの内部短絡を模擬できる。
 @に対しては仕様書に書くことで責任だけは逃れられるが、Aに対しては電池自身の安全性を高めておく必要があります。単純には電極活物質表面の電気2重層容量を減らす、外部短絡時の抵抗を高くするなどの工夫が必要です。「内部短絡試験」としてNi片を人為的に挟み込む「SBA S 1101 9.3.1耐内部短絡試験」の試験手順では、電池メーカーと専門試験所は出来ますが、ユーザー・機器メーカーではほとんど不可能と思います。前述のFJ社OZ氏のような使用者が安全性を確認することを拒絶している試験です。釘刺し試験の「規格化」には日本メーカー1社と韓国メーカーが反対していると聞きました。オリビン系に限定していた当時の中国メーカーでは、釘刺し試験での破裂発火はなかったはずです。使用者にも簡便に実施できる「釘刺し試験」を安全性規格に盛り込むべきです。
 次回は最終回ですので、名古屋での思い出話として、上述のFJ社OZ氏と始めた東海地区でのリチウムイオン電池情報交換会について報告します。
 <結論>
  ・ リチウムイオン電池開発当初はお客様も電池の使用方法・安全性などに関心が高かった。
  ・ 釘刺し試験での釘の条件・落下速度の条件は電池を使う側の試験で判明した。
  ・ JIS内部短絡試験に加えて、使用者にも簡便に実施できる「釘刺し試験」を規格に盛り込むべきである。


6)おわりに

 1)新型コロナウィルスのため外出自粛をしており、料理当番を引き受けました。
 2)「電極深部」の塩濃度の希薄化は凍結観察で確認されているが、交流測定などでは把握できない。計測法を考案したが実証試験が出来ていないので、ご協力願います。次回は「電解液劣化とデンドライト発生」についてまとめます。
 3)定置用蓄電池の市場は増大する。信頼性では鉛蓄電池である。最重要な価格は中国製の10円/Whが価格標準になり、日本メーカーにとっては亜鉛空気二次電池開発が急務である。次回は「次世代電池」についてまとめます。
 4)固体電解質内に「空隙」が出来、その壁に沿って貯蔵される「その場形成負極」が「片持ち論」で出現する。「穴あきグラフェン分子」などカーボン多孔体では「片持ち論」が成立する。次回最終回には、「新規な電池理論」のまとめを記述します。
 5)リチウムイオン電池開発当初はお客様も関心が高く「釘刺し試験」の条件を提案された。「釘刺し試験」は使用者も出来るので規格に盛り込むべきである。次回最終回は東海地区情報交換会について報告します。



第22回(2020/7/7)



1)はじめに:紫陽花と鬼滅の刃

 新型コロナウィルス対策での外出・県外移動自粛がやっと解除されました。本コラムの予定(プロット)では、今月は「第14回5)吉野さん」に記述した「箱根あじさい電車」に、昔の小田原の仲間を誘って乗る計画でいましたが、残念ながら諦めました。
 我家の庭の紫陽花は骨粉の入れ過ぎでアルカリ性土壌になり、皆ピンク色で、綺麗な青・紫色にならず不満で、来年は硫酸アルミニウムを添加してみます。
 ※ 紫陽花は土壌が酸性だとアルミニウムが吸収され青色になる。リトマス試験紙とは逆です。
 「新規な電池理論」特許2件(特許第5062989号、第534254号)の「9年目維持年金」を支払いに特許庁に出掛けたので、帰路に渋谷駅から沿線が見所と紹介された「京王井の頭線」に乗りました。渋谷は学生時代に良く行きましたが、景色は一変し迷子になります。途中の久我山も高校の最寄り駅、家庭教師のバイト先でしたのでやはり親しみがあります。沿線のり面に「紫陽花」が点在していましたが、盛りは過ぎており、本来の青〜紫色でなくピンク系に変色していました。浜田山駅周辺が一番多く、小振りな花が沢山咲いていました。渋谷から吉祥寺へと徐々に色が綺麗になり、僅かな地域差による気候・環境への植物の敏感さに驚きました。
 我家裏のバス通りの1km先に、行列のできるカフェがあります。ufotable社運営の「ufotable Cafe TOKYO / マチ★アソビカフェ TOKYO」で、若者なら誰でもが知っている「鬼滅の刃」のお店です。年輩の方でも子守り、孫守をしている方なら聞いたことがあると思います。あるいは、店舗売上げを隠し、映画「マルサの女」のような古い手口、自宅金庫に現金を隠した脱税でも話題になりました。入店予約を入れようとしましたが、6月中は一杯で予約出来ませんでした。同じufo社が製作した映画「Fate/stay night [Heaven‘s Feel] 」を、コロナを掻い潜り池袋の映画館で観てきました。初めてこの種の映画を観ましたが、事前準備をしていなかったので、全くストーリーに付いて行けず、男も女も皆同じ顔に見え、味方か敵かさえも区別が付きません。想像上の技と武器を繰り出して次から次へと格闘をしますが、仕組みを考える余裕もなく、何一つ違いが判らず、結局後半は眠い目を擦っていました。帰路に漫画「鬼滅の刃」第1巻から第6巻を買い求めました。次巻巻頭に登場人物の紹介があり、それを横に置いて読み進めました。空想の技・武器で「鬼退治」をするのですが、全く理解出来ません。唯一のメリットは直ぐに眠くなるので、不眠症気味の私には良好な「睡眠導入剤」になります。「桃太郎の鬼退治」の現代版と考えればよいのかもしれません。
 「筋肉マン」、「スラムダンク」、「幽☆遊☆白書」などを観て、子供と一緒に楽しんでいましたが、その子も40歳を超え、時代が余りにも変わりました。物語性に価値が無くなっているのかもしれません。時代に近付くために、懲りずに「UFOTable」に予約申し込みをしています。
 コロナのため新作が作れず良い面もあります。BS放送では連日古い映画が上映され、「伊豆の踊子/1974年」・「潮騒/1975年」を観ることが出来ました。「横須賀ストーリー/1976年」以降のファンで、デビュー当時は関心がなく、今回初めて観ました。篠山紀信画集「百恵」の艶っぽさとは違った初々しさに驚き、感動しました。「山口百恵は菩薩である」 合掌。




2)電池の基礎:接続チェック法とチョコチョコ充電

 本章より「昔話」の章に記載する方が相応しいかもしれませんが、非常に短いパルス電流が電池に加わる電気回路で不具合が発生した経験があり、共通課題になると思いました。
 携帯用音響機器の共同開発で、専用のリチウムイオン電池を開発提供しました。電池仕様・制限を100%取り入れて充電器は設計され、試験で全く問題がなく、新製品展示会に出展した所、3日間の展示終了後、全ての電池が膨れていました。電池内部で電解液が分解しガス発生したことは明らかでした。解体結果ではセパに僅かにデンドライトの痕跡がありましたが、よく解りませんでした。充電器仕様説明を詳しく聞くと、電池を置くケースで、電気接続をメカスイッチあるいは磁気スイッチではなく、端子間に検知電流を流すことで、電気接続を確認していました。
 この0.1秒以下の「検知電流」が曲者で、充電器から電池へ電流を流しているので、充電に相当します。もちろん過充電防止のため充電電圧には上限があるのですが、満充電状態の電池でも接続確認をするために、「検知電流」は過充電電圧より高くても流れていました。展示会場では頻繁に充電器との着脱が行われており、この使用条件を設計上見落としていたので実験で確かめてみました。満充電の電池を充電器に分周期で着脱を繰り返しました。700〜1000回で、再現性良く膨らみました。
 ・ 検知電流が過充電防止電圧を越えて流れている。
 ・ 正極が過充電状態になっている。
 ・ 電解液分解が助長されラミネート電槽が膨れた。
 実使用では脱着は間隔があくので、ガス発生後には並行してガス吸収(?)が起き、一時的に膨れても元に戻るから対策は特に必要がないと説明しました。機器側は念のためにと検知電流値を出来るだけ減らし、展示会用は過充電電圧を下げました。
 上記理由には、矛盾が解っていました。
 ・ 負極カーボンでの「滓」が正極に移動し気体となるので、正極電位と気体発生量は無関係のはずである。
 ・ 短時間(0.1秒以下?)の検知電流では、正極活物質電位は数%の上昇しか起きない。
 ・ 正極自体での電解液分解は起きない。
 デンドライト発生の経験から、パルス状の検知電流は正極の電位を上げたのではなく、満充電電池に対しては大電流で、負極表面にデンドライトが発生していたに違いないと思うようになりました。検知電流の充電で負極深部の活物質空孔内が拡散律速になり電位差を生じ、負極表面にデンドライトが発生してしまったのだと思います。
 この問題を電気回路の専門家であるOT氏に相談した所、ノートパソコンなどでは電池接続時に充電方向の検知電流を流す前に、電池電圧測定つまり電池を放電させ検知し、電池が満充電であれば検知電流を流さないようになっているが、電池技術者からの説明を十分理解されずに設計された充電器も沢山あり、この間違いは起こる可能性があるから注意喚起しておいた方が良いと言われました。
 OT氏が設立したSN社のHK氏に電気回路の設計を依頼しました。主旨は理解、賛同してくれ、保護回路が動作して回路が切断された場合の復帰に工夫がいると言われ、新規に電気回路を設計してくれました。特許出願も考えたのですが、電気回路特許は難しいと言われ断念しました。
 短時間でも大電流で充電方向に電流が流れ、電気量としては正極電位を上昇させない短時間であっても、負極側では十分にデンドライトが発生します。パルス充電あるいはハイブリドカー用電池のように頻繁に充電を繰り返す場合には、その1回のパルスに注意が必要です。パルスを入れる瞬間(ON)にひげ状のスパイク電流が入る場合に、コールコールプロットの高周波側の円の左肩、時間ではms、周波数では1kHzであれば、電気2重層の充電つまりイオンの移動だけで電極反応は起きていないので問題はありません。100msであれば、コールコールプロットの右肩に位置し、電極反応が起きており、デンドライトが発生する可能性があります。100msでも一万回では17分で、決して無視できません。
 商用交流ノイズは50Hzつまり20msで、電気2重層の充電よりは長く電極反応が起きている状態です。電気測定では平均化により、この程度の変動は見えなくされていることがありますが、振幅が大きければデンドライトは発生する可能性があり、出来たデンドライトが全て放電出来ない場合には、デッドリチウムとして孤立化して蓄積し、条件が揃った時に発火原因になります。充電側のノイズは、環境条件も含めオシロスコープなどの高速測定で、周期、振幅を確認するべきでしょう、
 電気回路技術者は半導体の破壊電圧にならず、素子の局所温度が上がらないms単位のノイズには余り注目しません。ノイズからデンドライト発生の可能性がることを十分説明する必要があります。
 次回は電極「深部」の電解液濃度測定について考案した内容を解説します。
 <結論>
 ・ 電池の接続確認のために、充電方向の電流を流すと不具合が発生する。
 ・ 正極過充電になる程の電気量でなくても、電流が大きければデンドライトが発生する可能性がある。
 ・ 最初に放電側に電流を流して、電池電圧を測定、判断して検知電流を流すべきである。
 ・ パルス電流on時、商用交流、スイッチング電源などによるノイズはms以上であれば注意が必要である。
 ・ 測定では平均化されてデータ取得することがあり、オシロスコープで振幅を確認する必要がある。




3)次世代電池:正極活物質候補

 「2020年5月度」の雑誌・新聞記事について紹介及び所見を整理し作成しました(Fig.141)。先月に続き件数が少ないのは、新型コロナウィルスの影響と思います。4件共に注目する必要はないでしょう。




Fig.141 2020年5月度 新聞と雑誌記事の紹介と評価


 「EV用次世代電池」向け「正極活物質候補材料」をFig.142に表示しました。負極と異なり、推奨できる(〇印)が付けられる候補はありません。現行の3元系の「Ni比率」を上げる改良は、徐々に実用化されていますが、数10%のエネルギー向上にしかならず、次世代とは言えなません。むしろ「安全性が軽視」されることが心配です。
 高エネルギーになるイオウ系は、現行電解液系では溶解が止められないと言う根本的な欠点があり実現出来ません。溶解の機能を有しない固体電解質との組み合わせに期待が集まっていますが、硫化物の体積変動に追従できる固体電解質は非常に難しいと思います。YK大WB教授は早くから、体積変動問題がない「イオン液体あるいは濃厚溶液」の溶解抑制機能に着目し、多くの研究成果が発表されていますが、実用レベルには到達出来ていないように思えます。
 「キノン類などの有機物系」はSS研YO氏が丁寧な実験・解説をしていますが、EV用としては体積エネルギー密度の低さが致命的です。正負極炭素の「デュアル系電池」はKS大IH教授が熱心に研究されています。負極炭素の挿入反応と同じ機構で正極炭素に負イオンを挿入するので、「電極活物質」としてのエネルギー密度は数倍になる可能性がありますが、電解質が反応物質で容量を決定します。溶解した塩は固体内よりはるかにエネルギー密度は小さいので、電池としては高容量になりません。レドックス電池のように、電解液をタンクに貯蔵し循環するようなシステムで、EV・携帯用以外の用途を探索すべきでしょう。マグネシウムなど多価電池は、電圧は低くなるが価数倍数のエネルギー密度向上が期待できます。マグネシウム金属はデンドライトが発生しないとの発表を聞きますが的外れです。正極・負極いずれも研究の余地があり、実用化はまだ先になるでしょう。空気電池は多くの研究者が携わっているのでいずれ実現すると思いますが、一般論として、燃料電池と同じくEV用としては空気の取り込み速度に課題があり、酸/貴金属系では貴金属の溶解がコスト面で無理、アルカリ/金属酸化物系では空気中の炭酸ガスによる汚染対策が難問でしょう。
 リチウム(イオン)過剰系が注目されています。金属酸化物の酸化還元(レドックス)では説明が出来ない容量が出現します。唯一の正極高容量化の候補と高く注目しています。学会発表で反応式を質問すると、質問の仕方が悪いのか頓珍漢な回答が返ってきます。座長が慌てて質問をし直すことがありますが、研究の中で反応式の検討さえしていないような気がします。遷移酸化物のレドックス容量より過剰な容量に対しては、現在主流の考え方は、遷移金属が高次に価数変化するのではなく、酸素のレドックス、つまり酸素がマイナス2価からマイナス1価に酸化されるという考えです。放電はその逆になります。

  金属酸化物の酸化 : Li22+2−2  ⇔  Li + LiM3+2−2 + e− ・・・@
  酸素の酸化 : LiM3+2−2  ⇔  2xLi + Li(1-2x)3+(x−2)2 + 2xe ・・・A

 酸素の価数がマイナス2価からマイナス1価に変わると言うことは、過酸化リチウムなど過酸化物では起こる反応ですが、結晶構造を構成している酸素の相当量が変わっても固体構造が安定とは思えません。温度あるいは充放電の繰り返しで安定な酸素に変化し、構造から抜け出すなど構造破壊が起こると考えています。
 Aの反応に対し、酸素の価数変化ではない反応機構を考えるべきで、メカニカルミーリングと言う機械的混合の効果が高いことから、活物資粒子内に亀裂・空隙が出来、その中にイオンが蓄積・貯蔵されているモデルの「空隙論」を提唱しています。考察は出来ており、理論が完成したら理論特許の出願も考えています。

  過剰放電:Li22+2−2 + xLi + xe− ⇔ LiX(Li22+2−2)−X
  カーボ :Li22+2−2 + xLi + xe− + Cy ⇔ LixCy + (Li22+2−2)−X




Fig.142 EV用次世代電池用正極活物質候補


 <結論>
 ・ 負極に比し、確信を持って推挙できるEV用次世代電池用正極活物質はありません。
 ・ イオウ正極は電解液系では無理で、固体電解質・イオン液体などで溶解を止める必要があります。
 ・ リチウムイオン過剰系は可能性があるが、酸素レドックスでの解釈を見直した方が良い。
 ・ その他正極活物質はEV用としては実用化の可能性は低い。
 ・ リチウムイオン過剰系を発展させて、「空隙論」を考察中です。




4)新規な電池理論:ピーポッドの実験

 新規な電池理論は計算化学では立証できたが、実験での検証は出来ていません。目的は違う実験ですが、実証実験と見做せる研究・実験結果を紹介します。名古屋工業大学物質工学専攻川崎教授が行った研究で、通称「ピーポッド実験」です。川崎教授の許可を得て実験結果を転載させていただいていますが、考察は私が考えた内容で、川崎教授が全て了解している訳ではないことを前提にご理解願います。





Fig.143 ピーポッド(さやえんどう)模式図


 川崎教授から提供していただいたピーポッドの模式図がFig.143です。単層カーボンナノチューブとC60フラーレンを真空管中で加熱することで、カーボンナノチューブ内にフラーレンを内蔵させます。カーボンナノチューブ径は1.35nm、フラーレンは0.71nmです。ラマン測定で電子状態を確認しています。フラーレンを内蔵することでカーボンナノチューブが多少膨らむことは無視して、フラーレンが断面中心にあるとすれば、両者の隙間は、0.32nmになります。グラファイトの層間と非常に近いことが特徴的です。形状からピーポッド=さやえんどう=と呼ばれています。
 ピーポッドを負極材料として半電池を構成し充電すると、初期非常に大きな不可逆容量が観測され、その後の容量は、フラーレンがないカーボンナノチューブの容量に対し、ピーポッドは体積では2倍、重量では1.3倍に増加します。絶対値についての見解は述べませんが、カーボンナノチューブの外側には変化がないとすると、内側に吸蔵した電荷が増大したことは明白です。フラーレンの重量が活物質重量に加わるので、重量当たりの計算値は小さくなります。欠陥がなければフラーレンの内側にはリチウムイオンは入ることが出来ないことは解っているので、本来は空間の体積は減少しているのに2倍の容量になっています。
 この結果を知り、懇意にしていた「SS大ED教授」に相談をしました。「ED教授」は本コラム第13回1)ノーベル賞で紹介したように、カーボンナノチューブ発明者としてノーベル賞候補と言われており適任と思いました。Fig.144の簡略図を作成し、説明し議論を行いました。Fig.144図Bのように、カーボンナノチューブとフラーレンの隙間が、リチウムイオンは通過できるが電解液は通過できない隙間で「新規な電池理論」の「篩膜」と見做せます。電解液が浸入していない空隙にリチウムイオンは吸蔵されています。
 図A:カーボンナノチューブ径は溶媒が浸入できる寸法で、数サイクル充電でカーボンナノチューブの内側に浸入した電解液は分解しSEIさらには「滓」となって、リチウムイオンは動けなくなり容量は出現できません。
 図B:ピーポッドの形状図で、カーボンナノチューブとフラーレンの隙間は0.32nmです。
 図C:ピーポッドを充電した時のリチウムイオンの存在位置を、「両持ち論」で推定した模式図です。
 図D:同じく「片持ち論」で推定した模式図です。
 図E:カーボンナノチューブの両端のみにフラーレンを入れた場合の「片持ち論」で推定した模式図です。
 ED教授は「両持ち論」に固執し、私が主張する「片持ち論」には納得されませんでした。ただし、クラスター論にも否定的で、体積当り2倍の高容量になった結果ついては首を傾げていました。当時はまだ計算化学の結果は出ておらず自信がなかったので引き下がりました。この時のED教授の対応で「両持ち論」の根強さ・根深さを自覚すれば、後々国プロの評価などで混迷をしなかったと悔やんでおります。図Eのように、両端のみにフラーレンを入れることが出来れば、カーボンナノチューブ全長の壁にリチウムイオンを吸蔵させることが出来、「両持ち論」との差が明白に表れ、「新規な電池理論=片持ち論+篩膜」が実証出来たことになります。
 名古屋工業大学と言う身近で重要な研究がされていると喜びました。カーボンナノチューブ・フラーレンは製造コストが高く実用材料にはなりませんが、「両持ち論」では説明できない2倍の容量が出たと言う事実を、工学的な立場から重視し取り上げるべきと思います。しかし、世間・学会常識を基準とする補助金制度からは好評は得られず残念で堪りません。





Fig.144 充電後ピーポッド模式図


 <結論>
 ・ 名古屋工業大学川崎教授の「ピーポッド実験」は「新規な電池理論」の実験による証明になる。
 ・ カーボンナノチューブとフラーレンの隙間は0.32nmで、「篩膜」と見做すことが出来る。
 ・ 高容量が得られた結果を「両持ち論」では説明出来ないが、「片持ち論」では説明出来る。




5)昔話:携帯型眼底カメラとイオントフォレシス

 リチウムイオン電池の応用としては、従来型2次電池、鉛蓄電池・ニッケル水素電池が使われていた用途で、携帯用などのように軽くしたいと言う要望がある場合に、従来電池を代替することでユーザー要求を満たすことが出来ます。付加価値が高く、ある程度のコストアップが認められる場合に、リチウムイオン電池は適していますが、従来電池に比べて安全性に不安があることが欠点で、その欠点を払拭できることが重要な技術です。
 2002年頃(YB社を退社していた?)、ペーパー電池の用途開発で親しくなり、私的にも懇意になったKW社OD氏から、最近は眼科医に女性が増えて、携帯用の眼底カメラの電池が重すぎて困っているとの相談を受けました。リチウムイオン電池を使いたいが、販売数量が少ないし、医療用で顔に近い所で使われるために、どの電池メーカーも引き受けてくれないとのことでした。電池仕様、実際の使用状況から判断して、日本製電池で正しい設計の充電器・保護回路を備えれば、決して安全性に問題が起こることはないと判断でき、本コラムで度々登場しているOT氏が設立したSN社HK氏に相談すると、快く引き受けてくれました。日本製電池でシステムを設計・構築し、電源システムとして納入し携帯型眼底カメラの軽量化に成功しました。女医達からの評判が良く全世界の標準機になったと聞きました。異分野の方との会話から新規用途展開が出来た好事例です。
 最近では、電子タバコ、首掛け式扇風機など、リチウムイオン電池も破裂・発火すれば人命に関わる場所で使われることが多くなっています。信用できるメーカーの電池と安全性重視でシステム設計することを大切に守るべきでしょう。
 <余談>OT氏はリチウムイオン電池の保護回路、充電器の専門家で、独立してSN社を設立しました。私の部下を研修させようと相談し、回路技術を有しているがバイク事故で右腕の不自由な部下でも良いかと尋ねたところ、本人がその気あるのにそのような「愚問」をするなときつく叱られました。いつも怒鳴っている人ですが、若い人には優しい面もあるのだと驚きました。部下も丁寧な指導を受け今でも役立っていると感謝しています。

 同じくKW社OD氏から「イオントフォレシス」と言う、「ドラッグデリバリシステム」について相談を受けました。ポリエチレンオキサイド系高分子固体電解質の技術導入時、エルフ社交渉人が「イオントフォレシス」と言う言葉を言って、最後まで医薬分野を除くことに固執していたことを思い出しました。エルフ社は薬品会社大手「サノフィ社」の親会社で、当時サノフィ社で「イオントフォレシス」の電気化学的研究をしていたと思います。薬剤をしみこませたパッドを、パップ剤のように皮膚に張り付け、専用電源で電流を流すことにより薬剤の皮膚内への吸収を促進する手法です。電気つまり電圧により皮膚界面のバリヤー機能を乗り越えるためで、数Vの電圧が必要とされています。当然水溶液ですから、水素酸素の発生、抵抗による発熱も伴います。効果を疑う方からは、発熱で皮膚を劣化する効果しかないとも言われました。
 薬剤の多くは水溶性で、イオンになっているので、その移動は電気化学の分野です。イオン移動を電気泳動(エレクトロマイグレーション)に頼るのではなく、イオン濃度差に基づく拡散移動に置き換えることが出来れば、発熱も小さく電圧も低くなり、皮膚に馴染み易いペーパー電池を使用出来るでしょう。さらに、パッド自体を正負電極として電池レスで薬剤を移動させることが出来る可能性もあります。パップ剤の代用だけではなく、インシュリン注射の代用が出来れば糖尿業患者の利便性は非常に良くなると思います。「ペタンと張る」だけで元気になれれば、素晴らしい「ドラッグデリバリシステム」になるでしょう。製薬研究者と電気化学者との共同開発で、先駆的な成果が得られるような気がします。電気化学者が医療関係に役立つことが出来る貴重な分野でしょう。
 次回は、お客様で親しくなったFJ社OZ氏などの話をします。



6)おわりに

 1)流行の「鬼滅の刃」を読みましたが、憑いて行かれませんでした。
 2)「電気的接続チェック法」と短時間の「パルス充電」の危険性を指摘しました。次回は「電極深部の濃度測定法」について説明します。
 3)「EV用次世代正極活物質」候補を整理しました。確信をもって推薦できる材料はありません。次回は「定置用蓄電池」について整理します。
 4)名古屋工業大学川崎教授の「ピーポッド実験」を紹介し、「新規な電池理論」での解釈を記載しました。次回はT大ST准教授の実験を「新規な電池理論」で解釈します。
 5)リチウムイオン電池仕様「眼底カメラ」と「イオントフォレシス」について記述しました。次回は懇意にしていたお客様の話をします。



第21回(2020/6/11)



1)なんじゃもんじゃの木

 緊急事態宣言の対象として東海3県が一足早く解除されました。東京・大阪に比べて「密」の切迫感に乏しいので、前回記述した「名古屋飛ばし」のような異質感はなく、素直に受け止められます。朝のラッシュは東京に比較すれば遥かに緩やかです。ドア周辺は同じように混んでいますが、車両中央部は新聞が読める程にガラガラです。偶に事故などで遅延すると、ホームで並んでいる人が乗り切れない程の混雑になりますが、入り口で立ち止まる人がいて中に入れず、車両の中央部はやはり空いています。東京なら中までぎゅうぎゅう詰めになる、あるいは「詰めて下さい」の声が上がりますが、名古屋では自分が乗車出来たら、乗り切れない人がいても後は我関せずです。名古屋流の生き方でしょうか?
 少し自粛を怠って、3密を避けたミニ観光をしました。「なんじゃもんじゃ」の木をご存知ですか?面白い名前で以前から気になっていました。学名は「ヒトツバタゴ=一つ葉田子」、生息地が対馬と東美濃、愛知県に隔離分布する珍しい分布形態で、絶滅危惧類に指定されています。岐阜県土岐市県道66号は「なんじゃもんじゃ街道」と命名され、「なんじゃもんじゃ」並木のドライブを楽しんで来ました。10m以上の大木は少なく、3m位の細い木が整列して植樹され、これから観光名所として売り出すつもりでしょう。大木は満開を過ぎていましたが、若木は満開で綺麗に咲いていました。純白の細い花弁4枚が枝先に密集し、離れて観ると、自然の色とは思えない程に真っ白で、他の白い花と比べるとその白さが際立っていました。
 天然記念物の土岐市白山神社境内の「古木」は支柱に支えられ、根尾の「薄墨桜」を思い出しました。「孝助の嫁」と言う伝承がありますが樹齢は不明です。満開は過ぎていましたが、薦められた通り裏側に回って観ると、満開の時にまた来てみたいと思えるような立派な枝振りでした。
 土岐市は陶器の町で、街道途中の道の駅「どんぶり館」で丼を買い求めました。女店員に「なんじゃもんじゃ」の木を尋ねると、二人で顔を見合わせ知らないようでした。観光名所にするためには従業員教育から始める必要があると呆れました。
 知人に頼まれて、「中部国際空港」に行って来ました。米国ベンチャーの指導で渡米を繰り返していた時は、小牧空港しかなく、知多半島の「中部国際空港」は初めてです。「新型コロナウィルス」の外出自粛で国際線の発着はなく、国内線も一日20機程の発着です。構内はレストラン・お土産屋の一部が開いているだけで人通りもなく閑散としています。名古屋人は「エビフライ」を名古屋名物と思っていませんが、タモリさんが名古屋名物に認定した「エビフライ」を「まるは食堂」で食べました。本来なら飛行機の発着を観られるはずですが、昼食中には1機だけでした。帰路は海岸線を通り砂浜に降り、久し振りに海を眺めていると、亡くなった親友が散骨して欲しいと言っていたことを思い出しました。
 私事ですが、5月25日に愛知県清須市から東京に引っ越しました。普通は空き家に引っ越すのですが、今回は実家に戻るので、家具・荷物全てが倍になり、それを1.5倍程度に減らす選別をしながらで、非常に時間がかかりました。市の広報を真面目に読んでいなかったので、粗大ごみは1回に5個までしか出せないことに気付かず、仕方がないので木製家具は壊して可燃ごみ専用袋で出しました。プロに任せるべきであったと後悔しながらも、宅急便を活用して無事引っ越しを済ませました。
 名古屋便りは最後になり、次回7月号は東京発となります。緊急事態宣言は解除されましたが、「コラム1)はじめに」の取材には苦戦しそうです。

新住所:〒166-0001 東京都杉並区阿佐谷北5丁目25番16号




2)電池の基礎:前回「突然死」の補足

 前回「劣化後電池」の再使用への警告として「突然死」を取り上げましたが、唐突過ぎて読み難いなど、貴重なご意見をいただきました。特に鉛蓄電池の専門家であり、私の師匠のTS氏からも助言があり、その助言を加味して補足訂正します。
 電池メーカーはどの電池でも寿命を予測し記載しています。本コラムの主題であるリチウムイオン電池は添加剤も含め材料変更が度々行われるので、寿命末までの試験での実寿命を確認せずに「加速試験」で代行しています。鉛蓄電池のような水系の電池は電解液中の溶媒つまり水が分解しても、電極反応で水に戻るので、「電解液劣化」と言う概念はありません。一方、リチウムイオン電池では電解液中の溶媒が分解しSEIを形成し、それが「滓」となって、電池内に蓄積します。この「滓」がリチウムイオン電池の劣化です。「滓」と言う用語は、このコラムで言い始め公認された用語ではないが、非常に適切な「用語」です。「滓」の概念については本コラムの前半に詳述しているので、ここでは省力します。
 「滓」の生成は負極電位における電解液溶媒の還元反応ですから、横軸が絶対温度の逆数であるアレニウスプロットが適応出来ます。0〜50°ではほぼ直線近似でき、その傾きは電解液成分などにより変わり、実験では2.3が中心値でした。
 10℃2倍:50℃1年の試験結果は、20℃で8倍つまり8年。
 10℃2.3倍:50℃1年の試験結果は、20℃で12倍つまり12年。
 10℃3倍:50℃1年の試験結果は、20℃で27倍つまり27年。
 アレニウスプロットの簡略形として、一律何倍と表現することが正しくはないが、本コラムではキリが良い「10℃2倍則」を推奨します。実寿命のデータが得られたら、正しい倍数に訂正すべきでしょう。なお、50℃以上の加速はかなり直線からズレるので推奨できません。
 アレニウスプロットは化学現象について成立し、反応だけでなく拡散などにも適応できますが、温度以外の要素・条件に変化がないことが大前提です。突然死と関連するラミネート電池での水分あるいは溶媒のシール部透過の拡散もアレニウスプロットが適応されるはずです。部下NS君の丁寧な実験によると、単純に温度加速すると非常に高い倍数となり合致しないが、恒温恒湿試験機で相対湿度ではなく絶対湿度を一定にすると、アレニウスプロットが適用できます。気体拡散は電池内部と外部との蒸気圧差に比例し、温度を変えると蒸気圧自体も変化するので、その影響を乗じる必要があります。
     加速率 = (10℃2倍則) × (蒸気圧の変化)
 このように、電池メーカーは十分な検討をしたうえで、寿命推定をしているので、寿命末・交換時期と判断した電池を、単なる関数近似で劣化判断し、突然死を無視して、まだまだ使えると再使用することには賛成できません。、破裂発火すれば、電池が大きいので、甚大な被害となり心配です。
 次回は繰延にした接続不良検知方法の欠点を紹介します。
 <余談1>
 「滓」の蓄積が劣化要因であるとの主張は本コラムで一貫していますが、「滓の量」とリチウムイオン電池の「容量減少量」とは一致しません。「滓」が正極活物質の細孔内に浮遊・蓄積して、リチウムイオンの活物質表面への移動を妨害し、放電電圧が低下するために放電を継続できなくなり、電池容量が減少します。極端には細孔内がドロドロになり、拡散律速になり、ほとんど高率放電できなくなります。「突然死」の一種です。
 <余談2>
 ラミネート電池開発初期に、ユーザーから男性と女性では劣化の程度が異なるとの市場結果が報告され、男性は背広の内ポケット、女性はハンドバックに入れるから温度特に湿度が違うためと回答したことを思い出します。 
 <余談3>
 鉛蓄電池のような劣化要因が種々ある場合には、その劣化要因毎にアレニウスプロットの適応性を検討する必要があります。コンピュータのバックアップに使われている「陰極吸収式鉛蓄電池」の場合には、正極集電体表面の化学反応での不働態膜形成による「集電体の膨張(グロース)」が寿命原因なので、アレニウスプロット簡略形「10℃2倍則」が適用できます。電池工業会も認めているはずです。「集電体の膨張(グロース)」は電槽破壊、希硫酸漏液の可能性もあるので警戒する必要があります。
 <余談4>
 内部発熱する電源装置の場合には、組み込まれたバックアップ用「陰極吸収式鉛蓄電池」が早期劣化するので、電池を冷却することも装置仕様にすべきです。また、電源装置の設置室は乾燥しているので、電槽壁から外部への水分透過量が増え、希硫酸濃度が高くなり、正極鉛集電体の膨張(グロース)が促進されます。電槽壁に金属箔を積層すれば、透過量は激減出来ると思います。
 <余談5>
 本コラムでは20℃を基準にして記載していますが、携帯電話用リチウムイオン電池の売込みのために北欧の某携帯電話メーカーを訪問PRする時に、客先仕様書が標準温度23℃で規定されており、時間と手間を省くために、一部の20℃データを23℃に手直しした苦い思い出があります。いわゆる「特採」の一種でしょう。
 <余談6>
 本コラム「第7回2)発火事故例と原因」の章で記載した「2019年3月20日付中日新聞」によれば、被害が生じた場合には原因が特定できなくても、製造メーカー(パナソニック)に損害賠償責任があると言う地裁判決が出ています。電池メーカーの推奨以上に使用する場合に、誰が責任を負うかも考えておく必要があると思います。
 <結論>
  ・ 使い古した電池を再使用するためには、指数関数に乗る劣化とは別に「突然死」を予測する必要がある。
  ・ リチウムオン電池の劣化は電解液分解が原因で、アレニウスプロット簡略形「10℃で2倍」が適用できる。
  ・ シール不良の「絶対湿度」のように、温度以外の因子が変化するとアレニウスプロットは適用できない。




3)次世代電池:全固体電池用合金系負極



Fig.137 2020年4月度 新聞と雑誌記事の紹介と評価


 「2020年4月度」の雑誌・新聞記事について紹介及び所見を整理し作成しました(Fig.137)。例年4月は学会発表の後でもあり掲載記事数は多い(2017年17件、2018年12件、2019年17件)のですが、今年は新型コロナウィルスの影響で自粛しているため5件と少なく、4件の全固体電池に関する機器評論家の記事も加えました。
 ・ 「三洋化成とAPB」の「全樹脂電池」が前月に引き続き注目されています。前回書いていますので省略しますが、バイポーラ電極にメリットはほとんどなく、多くの企業が協賛していることが不思議です。
 ・ 全固体電池がウエアラブル機器に最適との評論家の意見ですが、この種小さな機器での需要には騙されたことがあるので信じないことにしています。
 Si等の合金系負極の液系電池での課題は、本コラム第14回3)章 Fig.92で図説し、その解決方法は同第15回3)章 Fig.100に活物質製作時に予め「篩膜」を設けることを提案しました。活物質の膨張収縮による電解液との反応による「滓」の増大を「篩膜」により抑制できる上手い方法です。
 この対策を全固体電池の合金系負極ではより容易に実現できます。Fig.138が概念図で、通常は放電末の活物質である金属Siと固体電解質を混錬して合剤を作り、初充電で活物質として活性化します。一方、本考案では、放電末でなく充電末状態リチウムシリコン合金Li22Si5を原料として混錬します。図Aのように固体電解質と活物質が混在します。作図は見易いように固体電解質比率が高くなっています。最初の放電で図Bの合金からリチウムが抜け活物質は小さくなりますが、固体電解質は形状を保持し空隙を作ります。次回充電で、リチウムイオンが空隙に侵入し、空隙を埋めるようにSi金属と合金化し、ほぼ初期の製造時と同じ状態になります。
 正に絵に描いた餅で、充放電する時の電子の受け渡し、固体電解質中に形成される空隙の構造安定性など、問題は多くありますが、一考の余地はあると考えています。
 なお、この考案は容易に思い付くので、私が不勉強なだけで、既に開発をしている方がいらっしゃるかも知れません。
 次回は次世代正極を取り上げます。




Fig.138 全固体電池輸合金系負極概念図


 <結論>
  ・ 全固体電池用合金系負極は、充電末状態の活物資を固体電解質と混錬して作製すれば、膨張収縮の欠点を克服出来る可能性がある。




4)新規な電池理論:理想形模式図

 三星エスディアイ(株)」より特許第5669143号が出願・成立し、SiCx、非晶質炭素との混合に関し広い範囲で成立している。実用化されれば「サムソンSDI」の一人勝ちになるが、私の基本特許「新規な電池理論=片持ち論+篩膜」に抵触することを記述しました。
 サムソンSDI特許内容を加味して、「新規な電池理論」の理想形を考察します。
 「 (株)三五」が気相成長で作製した「アモルファス炭化ケイ素と非晶質炭素の混合物」からなる薄膜電池負極はFig.139のように図解できます。当初はSiCがSiとCに分離し、シリコン合金の充放電が起きていると考えらえていましたが、
 ・ 放電後活物質からSi金属は分析で同定できなかった。
 ・ 一部はSiOxであるが、Siの大半はアモルファス(a−)SiCxであった。
 ・ 充電後活物質からLiSixの存在を断定できる解析結果はなかった。
 これらの結果から、リチウムイオンは非晶質炭素に吸蔵されていると結論付けました。





Fig.139 作製したSiCx模式図 




Fig.140 新規な電池理論模式図



 「(株)三五」が開発した「a−SiCx+非晶質炭素複合体」はFig.139に図示したように、a−SiCと非晶質炭素が薄膜内に無秩序に成長し、表面に存在するa−SiCxが「篩膜」となり、全薄膜内に電解液が浸入するのを防ぎ、非晶質炭素を壁とする空隙を形成しています。充電により、空隙の壁に「片持ち論」でリチウムイオンが整列します。この充電機構は従来から多くの研究者が観測している「ソフトカーボン中へのリチウムイオンの脱挿入」と全く同じ機構です。表面にa−SiCx膜が形成され、空隙への電解液の浸入が防がれているために、空隙内での電解液の分解反応、SEI形成反応が起きず、空隙が埋められることがありません。しかし、反応に関与しないSiCxが活物質の一定量を占めるので、エネルギー密度を高くすることは出来ません。
 上記欠点を克服するために、a−SiCxを電解液に接触する表面だけに形成し、内側に非晶質炭素を壁とする空隙を沢山設けることで、「新規な電池理論」での高容量化を実現します。Fig.140に図示するように、活物質の電解液接触面は「a−SiCx膜」に覆われているために電解液は浸入できず、炭素壁でできた空隙内ではSEI形成反応は起きず、空隙が埋められることはありません。a−SiCxには電子電導性はなく、電子が飛び込めない距離、数nmの厚さがあれば、表面で電解液分解は起きず、SEIを形成する必要もなくなります。「a−SiCx膜」はリチウムイオンを通過させるが抵抗は高いので、薄い方が良く100nmで十分であり、活物質層厚み100μmの1000分の1しかなく、SiCxによるエネルギー密度の減少は無視できます。Fig.140では活物質を平面に描きましたが、粒子間の電子電導の課題を克服できれば、塊状であっても構いません。
 製造コストを考慮すると、非晶質層は従来技術の塗布で行い、その上にa−SiCxを成膜する方が良いが、気相成長法は細孔内の壁に沿って被覆し空隙を埋めてしまうので、液相成長法の方が適しています。ファインセラミックスセンターNG氏が水素分離膜の研究で関連技術を有しており委託可能です。技術の目途は出来ているので、資金援助していただけませんでしょうか?
 次回は、MK大KS教授のピーポッドの実験を紹介します。
 <結論>
  ・ 出願特許の薄膜構成ではエネルギー密度は低いので、非晶質炭素活物質表面だけをa−SiCxで被覆する。
  ・ 従来技術で多孔性非晶質炭素を塗布し、気相成長ではなく液相成長で活物質表面をa−SiCxで被覆する。
  ・ 技術の目途は出来ているので、どなたか資金援助していただけないでしょうか?




5)昔話:アルミ正極集電体について考え付いたこと

 前回、リチウムイオン電池に関する旭化成鰍フ特許の内、1984年5月28日出願、公開番号106556号、特許第2128922号「アルミ正極集電体」が回避できないと判断した裏話をしましたが、当時は考え付かず今頃になって考えていることを記述します。
 「アルミ正極集電体」について、何故アルミニウムが今まで正極集電体として公知になっていないのかに困惑していました。「アルミ正極集電体」特許では、正極こそコバルト酸リチウムが使用されていますが、負極は充放電「不可」のアルミニウム箔で実施されており、金属負極電池です。電池の専門家は出願に二の足を踏む内容です。理由の解らない現象に恐怖を抱くのと同じで、「アルミ正極集電体」がトラウマになり、部下の反対を押し切って実施権を購入することにしました。旭化成鰍フ条件は10数件の特許実施権の一括購入とそれらの特許権取得の妨害をしないと言うことでした。
 10数件の特許にはリチウムイオン電池の基本特許、1986年11月8日出願、特許2668678も含まれていました。これら特許は学術的には矛盾している個所、間違っている個所もあり、さらに相互を比較すると、意図的に矛盾して書かれている請求箇所もあり、学術的な正しさ・美しさよりは請求範囲を広くすることが優先されていました。学術論文とは違い特許では、最適値、最適組み合わせなどは厳密に考える必要はなく、矛盾だらけであっても権利が広く取得できれば良いと割り切って構わないと思います。リチウムイオン電池の原理に関する部下及び特許担当者の議論は学術的な矛盾を突いており、正しかったのですが、「アルミ正極集電体」は学術的な意義とは別に、共通技術の先駆性として認めざるを得ませんでした。反対を押し切り特許実施権を入手し、引き換えに異議申し立ての権利は放棄しました。私は人の意見を聞いても取り上げない悪い性格があり、部下達の非常に有意義な技術論争を打ち切ってしまいました。
 最近になって、アルミニムが何故公知ではなかったかについて気が付きました。リチウムイオン電池が市場に出る前にも有機電解液での電池は存在し、コイン型リチウム1次電池、YB社もかなり大きなリチウム1次電池を作っており、前述のように金属リチウム2次電池の研究も実施していました。負極はリチウム金属、正極は2酸化マンガン、電解液溶媒はPCまたはジメキシエタンなどが使われ、電解液中の電解質塩はトリフルオロメタンスルホン酸リチウム、過塩素酸リチウム(LiClO4)などが使われていました。当時の金属リチウム2次電池の研究者は、量産になれば熱安定性に問題があることは解っていましたが、入手し易い過塩素酸リチウムを疑問なく使っていました。「本コラム第18回5)昔話:白金の溶解色は?」で記載したように塩素イオンは不働態膜を破壊し易いので耐食性を考えて、アルミニウムは使えないと思い込み、正極集電体として沢山の長所があり、誰でもが知っている金属であるのに使われなかったと思います。
 一方、2次電池は1次電池に比較してはるかに高電流仕様になるので、有機電解液中イオン移動の速度不足を補うために集電体面積を広げ、円筒の中に収めるために捲回するリチウムイオン電池の正極集電体としては、ステンレスよりは電子電導性が高く、容易に薄く出来るアルミニウム箔が必須となりました。「6フッ化リン酸リチウム」は耐還元性、イオン伝導度などから採用されましたが、アルミニウムを正極集電体として使用するために、塩素イオンがない「6フッ化リン酸リチウム」を採用する必要があったのではないでしょうか?「アルミ正極集電体」特許の実施例では過塩素酸リチウム使われているので、当時はこの考えが思い付きませんでした。
 リチウムイオン2次電池に「6フッ化リン酸リチウム」を採用することで、剛直なステンレスから解放され、アルミニウムが正極集電体として使用できるようになったことが、リチウムイオン電池が市場に復旧するために非常に重要な技術になったと考えています。
 YN氏は、大福帳を持って歩いていると噂される程の実施料収入が入ったようで、「アルミ正極集電体」特許第2128922号で2002年全国発明表「彰」文部科学大臣賞に輝き、「本コラム第14回5)昔話:吉野さん」に記載した2004年紫綬褒章に発展し、最終的に昨年度の「ノーベル賞」受賞へと繋がったのでしょう。「彰」の名が体を表したのでしょう。
 次回は、リチウムイオン電池の用途開発で、僅かですが役に立った話をします。



6)おわりに

 1)「なんじゃもんじゃ」の木を紹介しました。外出自粛中にもかかわらず名古屋から東京に引っ越しました。
 2)リチウムオン電池の劣化は「10℃で2倍則」が適用できるが、温度以外の因子が変化すると適用できない。「突然死」を含めて再使用業者は責任を負う必要がある。次回は接続不良検知方法の欠点を紹介します。
 3)全固体電池用合金系負極は、充電末状態の活物資を固体電解質と混錬して作製すれば、膨張収縮の欠点を
克服出来る可能性がある。次回は次世代正極を取り上げます。
 4)従来技術で多孔性非晶質炭素を塗布し、液相成長で活物質表面だけをa−SiCxで被覆する。技術の目途は出来ているので資金援助していただけませんか?次回は、MK大KS教授のピーポッドの実験を紹介します。
 5)「アルミ正極集電体」の実現には、塩素イオンがない「6フッ化リン酸リチウム」が重要な役割を担っていたことに気が付きました。次回は用途開発で僅かですが役に立った話をします。




第20回(2020/5/14)



1)はじめに:名古屋の自慢話

 パンデミック寸前と言う状況で緊急事態宣言が延長になり、のんびり花鳥風月を紹介する訳にも行かず、私自身も持病を抱えた高齢者で典型的な重症化予備軍なので、外出せずに在宅だけで書けることを選びました。
 名古屋、正確には愛知県に住んで20年近くになり、東京人が見た名古屋ではなく、名古屋人が見た名古屋になりましたが、未だに驚かされることがあり、名古屋の紹介を追加します。
 東京都は全国から多くの人が集まって成り立っており、農水産業が乏しいので、他県から兵糧攻めにあったら、直ぐに白旗を挙げなければなりません。従って、他県出身者も歓迎され、直ぐに溶け込むことが出来ます。8年住んだ大阪府も同じ雰囲気を感じました。愛知県は違います。名古屋で生まれ、名古屋で成長し、名古屋で働くことが普通と思っています。東京から名古屋駅(名駅と言う)に着き、名古屋鉄道(名鉄と言う)に乗り換えにホームへ行くと、同じホームで各駅停車、準急、急行、特急が次々に到着・発車するだけではなく、その同じホームで行き先が違う本線・犬山線・津島線の3路線が次々に発車します。ホーム眼前に色違いの標示があり、それに向かい行列を作ります。津島線は短いのでホーム後方にしかなく慣れないと乗れません。表示も決して見易くなく、名古屋人以外は戸惑い唖然とします。不慣れな名古屋人も困ります。
 インバウンドの方々を案内する友人から聞きましたが、中部国際空港に到着して、豊田、小牧など名古屋周辺で一泊して、翌朝東京または大阪へ貸し切りバスで行くのが普通の旅程で、名古屋では観光しません。名古屋はインバウンドの方々に標識などが優しくなく、案内しても困ることが多いようです。
 名古屋は独立できる。東京・大阪とは違い正にこの自信が余所者を歓迎する必要がない理由です。トヨタ自動車があり製造品出荷額1位で工業県と思われますが、農業産出額7位と兵糧攻めに耐えるバランスの取れた産業構造となっています。お米こそ全国20位ですが、農家数は6位、耕地当り生産農業所得は1位、キャベツ1位、トマト3位など野菜5位、バラ・菊など花木1位、豚肉10位、鶏卵8位、ウズラ1位と農畜産業が盛んです。元勤務地・三河安城から西は農地が多く田園風景が広がり、所々に大きな自動車関連工場がある景色が、愛知県の代表的な風景なのかもしれません。
 漁業ではアサリ1位、ワタリガニ類2位、しらす3位、養殖うなぎ2位、養殖あゆ1位と食料に困ることはありません。ただし、あさりは近年不漁が続いているので順位は変わっていると思います。潮干狩りも閉鎖の所が多くなって来ています。今年はコロナウィルスのためにどこも閉鎖ですので、来年は豊漁が期待できるかもしれません。
 唯一の弱点はエネルギーつまり石油ですが、名古屋港は貿易額では2位、輸出額・貿易黒字では断トツの1位ですから、輸入には困ることはなさそうです。中部電力の再生可能エネルギー比率は16%で、全国平均並みで、この比率を高めることが需要課題でしょう。渥美半島には大きな風車があり22MWの発電力を誇ります。変動の激しい自然エネルギー発電の増加に伴い、蓄電池の役割も益々高まると思います。
 4月7日の新型コロナウィルス感染症の緊急事態宣言で、感染者数216人で第4位の愛知県が対象地域に含まれず、久し振りに「名古屋飛ばし」の言葉が使われました。「名古屋飛ばし」は、1992年東海道新幹線でのぞみが運転開始になった時に、始発電車が名古屋を停車しないダイヤが組まれ、愛知県、特に名古屋市を筆頭に尾張地方の政財界から激しい反発が続出し、中日新聞も批判的な報道を行った事件です。私が名古屋に来た時には収まっており、飲み会でも話題になった記憶がありません。久し振りに「名古屋飛ばし」の言葉を聞き、名古屋人は決して忘れていなかったと可笑しくなりました。




2)電池の基礎:寿命と突然死

 「電池の基礎」という小題からは外れるのですが、最近EV用電池で、廃車後つまり長期間使用した電池を再使用(リユース)する事業で劣化診断、寿命予測が注目されています。「劣化後電池」の寿命予測は非常に難しいと考えており、取り上げることにしました。
 人間と同じように電池には寿命があります。「電池寿命」という言葉は正式な電池用語です。「補償、保証、期待」などを頭に付けて使います。ユーザーから見れば、工業製品ですから「寿命」を「保証」して欲しいのですが、使用条件により「寿命」が極端に変わるので、「保証」は出来ず、自動車スターター用電池では36カ月、6万kmのように無償交換の「補償期間」を表示するのが一般的です。長期間使われる据置き用・定置用では「期待寿命」を付記することもあります。設置温度が高い場合もあるので、使用温度20℃と規定して「期待寿命」を記述します。使用温度が一定でない時には積分平均値をとり、「10℃2倍則」で換算して期待寿命を推定します。保証期間<補償期間<期待寿命の順序です。
 メーカーは実際の充放電回数(=サイクル寿命)、使用する期間(=カレンダー寿命)を試験しますが、試験期間が長くなるので、「加速試験」で寿命を推定します。1時間放電3時間充電の試験条件では1日6回充放電出来、実使用1日1回の充放電を6倍に加速出来ます。カレンダー寿命に対しては、「10℃2倍則」を適用して試験期間を短縮します。経験的には0〜50℃の範囲では「10℃2倍則」は適用できます。50℃で試験をすれば20℃実使用に対し8倍の加速が出来ます。サイクル寿命とカレンダー寿命とでは劣化つまり寿命原因が異なるので両方の期間を並列で書きます。両方の劣化が寄与するので充分に余裕のある期間にします。
 リチウムイオン電池の劣化の基本は充放電効率の累積になり、
    n回目容量={(n−1)回目容量(1−劣化)}*{(n−2)回目容量(1−劣化)} *
          {(n−3)回目容量(1−劣化)}・・・・{2回目容量(1−劣化)}*{初回容量(1−劣化)}
 コラム第4回Fig.22のように指数関数になり、充放電効率の値を適当に選び延長すれば、寿命予測が出来ます。劣化要因が複数の時には、各劣化による影響を加味すると変曲点が生じますが、それを無視してもほとんど誤差内で予測することが可能です。日本メーカーはその予測値に対し、倍以上の安全率でユーザーに対し提示します。海外メーカーは予測値をそのままユーザーに提示する習慣のようです。
 日本メーカーが安全率を非常に大きく取るのは「突然死」が予測できないからです。電池の寿命試験をしていれば、非常に偶にではありますが、著しく早期に寿命に至る結果が出ることがあります。日本メーカーは「補償期間」を過ぎていても、「期待寿命」範囲内であれば無償交換に応じます。従って、充分な安全率を見ることが必須になります。
 コラム第4回Fig.22の指数関数劣化から大きく外れ、容量が一気になくなり寿命にいたる現象を「突然死」と呼んでいます。ユーザーが劣化を感じると言う表現には異論もありますが、普通に使用していて容量劣化を感じていないのに、ある日突然に容量が無くなってしまう現象です。「突然死」は正式な電池用語ではないが、電池関係者には衆知で、クレームとしては何度も経験をしています。なお、シール不良、不純物などが原因の納品後直ぐに容量が無くなる不具合は、「突然死」とは呼べません。
 <蛇足>人間には寿命があります。しかし、寿命予測と言う表現はないと思います。元気であった友人が癌で急逝することも、ある日交通事故に遭うこともあります。最近ではタレント志村けんさんのように一カ月前には映画出演を予定する程に元気であったのに、新型コロナウィルスに感染し突然ご逝去されました。正に「突然死」です。平均寿命との差は引き算で求められますが、各個人が後何年生きるかは「占い」の世界の話です。
 突然死の理由は、「ドライアップ」と「デンドライトショート」が大半と考えています。「デンドライトショート」についてはこれまで散々述べてきたので。ここでは省略します。
 「ドライアップ」は電解液減少によりセパレータが乾燥し、電気が流れなくなります。電解液は
    電解液量 = 正負極活物質中の空孔体積 + セパレータ空孔体積 + 電槽内空間 + 余分
 この式で最初に投入量を決めます。電極活物質中の空孔体積は真密度と見掛け密度の差で決められることが多く、セパレータ空孔体積はセパレータメーカーが仕様書に記載している値を使い、電槽内空間は設計図上で求積します。「余分量」の設定は電解液の使用期間中の減量を見込み、通常は「ドライアップ」は絶対に起こりません。通常でない、つまりシール不良による電解液漏出(=リーク)が生じたために「ドライアップ」が起きます。「リーク」を「漏液」とも表現しますが、液体ではなく気体として漏れ出ていきます。
 円筒型では金属のカシメを利用しているために、シール不良が起こることはありません。しかし、「コラム第10回5)章昔話」で詳述したように、電池を収納するスペースあるいはその方法に余裕がなく、カシメ部に応力がかかり「ゆがみ」が生じるとそのカシメシール部から[リーク]する可能性があります。角型では溶接部への溶接屑混入による溶接不良で貫通孔が生じリークする可能性、また角型電槽の強引な深絞りで金属亀裂(?)が生じリークする可能性があります。これらの不具合は、ある工場、あるライン、ある製造期間に限定されることが多いので、特定し易く対処も容易です。
 ラミネートシールの場合には、「コラム第15回5)章昔話」で詳述したように、正極端子タブのアルミ表面の腐食層を通しての水分浸入で、腐食層中で電解液中のPF6-と反応してできたフッ酸によりアルミ表面の腐食が進み、異常なシール不良が発生します。「コラム第16回5)章昔話」で詳述したような設計上の不適切を回避したとしても、このシール不良は発生します。タブ部溶着の時に接着剤にカルシウムを含有させるとフッ酸発生が抑えられることもありますが、絶対ではないようです。これらシール不良は不良率として決して高くはないのですが、出荷時の全数検査で検出できません。「コラム第10回5)章昔話」で詳述したように、「匂いセンサ」が実験・抜き取り検査用には非常に有効なことは判明したのですが、測定速度が遅く量産出荷時の全数検査には適用できません。全数検査に適したシール不良検査方法は未だにないようです。
 「突然死」が検出できないことを電池メーカーは理解した上で、劣化つまり寿命を仕様としています。単なる指数関数の延長だけで「突然死」の予測をせずに、と言うよりも検討さえもせずに、メーカーが保証していない劣化電池の「再使用=リユース」には問題が多いと思います。「突然死」のもう一つの原因である「デンドライトショート」は破裂発火で寿命末になり、火災が発生し、最悪人災が起きた場合に、リユース事業者の責任は免れないと思います。
 「デンドライトショート」が始まった時に通電が切れたり付いたりする現象をオシロスコープのような高速測定で検出することが出来ます。この現象が見付かれば間もなく「突然死」します。「デンドライトショート」の大半は電極活物質内「電解液の希薄化」が原因ですから、この希薄化を知ることで、デンドライトが発生する条件が成立していることを知ることが出来、結果として「突然死」を予測できます。電気的に外部から検知できる方法を考案しましたが、実験での実証が出来ていないことと資金不足のために「特許出願」を躊躇しております。どなたかご支援いただけないでしょうか?
 次回は電池の接続を電気的に検出する方法の欠点を紹介します。
 <結論>
  ・ リチウムイオン電池には「突然死」があり、メーカーは「突然死」見越して寿命を決定している。
  ・ 「突然死」の原因の大半は、「ドライアップ」または「デンドライトショート」である。
  ・ 「ドライアップ」はシール不良が原因で、出荷時の全数検査方法がないので市場での発生は防げない。
  ・ 「突然死」を考慮せずに、メーカーが決めた「寿命」を延長しての「リユース=再使用」には問題があり、寿命時に破裂・発火さらに火災、人災が起きた場合に、リユース事業者は責任を免れないと思います。
  ☆ 「デンドライトショート」の原因である希薄化の電気的検知方法を考案した。ご支援していただけませんか?




3)次世代電池:全固体電池と新材料

 「2020年3月度」の雑誌・新聞記事について紹介及び所見を整理し作成しました(Fig.131)。
 ・ 「三洋化成とAPB」の発表が注目されています。電池反応は従来リチウムイオン電池と同じで、ポリマーを活用して構造・製造方法が改良されています。YB社在籍時にPEO系ポリマー電池を実用化する時に、バイポーラ電極などについても検討し、メリットはほとんどないと言う結論を導き出しました。「定置用」に用途限定、つまり「無振動・低率充放電仕様」に限定することで、構造及び製造方法を改良していますが、用途限定をすれば、現行リチウムイオン電池でも同様の変更が可能です。製造者の都合で用途限定した電池は市場に受け入れられないことが大半です。多くの企業が協賛していることが不思議です。
 ・ 「サムソン」の発表は全固体電池での「高容量化」の取り組みです。硫化水素発生に触れていないことが不満です。リチウム金属負極の「デンドライトショート」を「銀―炭素ナノ粒子複合層」で止める発明ですが、導電性が均一になる効果だけではデンドライトは抑制できないので、何か特殊な効果があるのでしょう。
 企業のこの種発表は株価対策の場合もあり、疑ってかかる必要があります。本稿の4)章に「サムソンSDI特許」を紹介しています。こちらの方が本筋と思いますので参考にして下さい。
 なお、日本側の共同研究者「AH氏」は私の恩人ですので、是非とも成功してほしいと願っています。いずれAH氏が正しい反応機構を発表するはずですので楽しみにしています。
 前回、「全固体電池」用の次世代負極の有力候補リチウム金属はデンドライトショート防止が難しく実用化できないと結論付けましたが、克服できる方法を紹介します。






Fig.131 2020年3月度 新聞と雑誌記事の紹介と評価



 Fig.132の上段2図が電解液系、下段2図が固体電解質系です。左下図のように固体電解質では固体が硬いので、柔らかいデンドライトは止められると期待されましたが、下段右図のようにME大IM教授により否定され、今では液体よりも簡単にデンドライトショートすることは衆知になりました。ST大KM教授グループは特殊なセパレータでデンドライト成長を抑制できる結果を得ていますが、実用化は難しいと考えています。





Fig.132 デンドライト:固体電解質でも発生!



 5年前(2015年)の電池討論会で初めて聴講しましたが、「名古屋大学入山教授」の研究発表を紹介します。Fig.133は発表内容を私が作図した解説図です。入山教授には話しましたが納得・承認は得られていません。入山教授達(実際にはMY氏が担当)は固体電解質から銅集電体上に金属リチウムを析出させると、正極側ではなく「銅集電体裏側」ににょきにょきとリチウム金属が析出することを発見し、動画も使い発表しました。良く理解できず、直ぐに入山教授に質問しました。銅集電体の粒界など弱い部分で、固体電解質側ではなく「裏側」に析出する機構です。銅集電体表面と固体電解質表面の間に隙間があれば、その空隙に析出することが当然ですが、析出できる空隙がなく、固体電解質の硬さ・緻密さ、銅の性質(?)により「銅集電体裏側」に析出します。ただし、再現性・確実性など実用化は難しいとのことでした。
 Fig.133左図は、この現象を積極的に取り上げてデンドライトショート対策が出来るはずと言う提案です。一般の多結晶固体電解質ではデンドライトショートを止められないが、粒界のない単結晶固体電解質であれば、デンドライトショートが止められると考えています。銅集電体表面に気相成長などで固体電解質の単結晶薄膜を密着性良く成長・被覆させれば、デンドライトは銅集電体の裏側に析出し、最終目的のショートは止められるはずです。リチウムイオン固体電解質の単結晶膜ですから析出反応の障壁にはならないはずです。被覆膜の固体電解質側で電荷の授受が出来てはいけないので、電子電導しない厚さ数nmは必要と思います。イオン導電性つまりリチウムイオンを透過し、電子絶縁性の薄膜であれば、固体電解質でなくても良く、例えば本稿第4章で報告しているアモルファスSiC膜でも良いかもしれません。なお、銅集電体は粒界など金属として欠陥が多い、間隙が多い方が適しているのかもしれません。
 Fig.134は「裏側析出」機構を通常の「電解液」にも発展させた考案です。銅集電体表面を、電子電導性はなく、溶媒・対イオンを通過させず、リチウムイオンだけを通過させる薄膜で被覆し、密着性・強度が高ければ、上記反応機構により銅集電体裏側にデンドライトを析出・成長させることが出来るはずです。銅集電体裏側には成長したデンドライトが収納できる体積可変または真空の収納スペースを設ける必要があります。
 理論特許が出願できるとも思ったのですが、資金がないので出願はしていません。
 次回は全固体電池で合金系負極が実現できる方法を提案します。





Fig.133 銅集電体裏側析出




Fig.134 液系での銅集電体裏側析出



 <結論>
  ・ リチウム金属析出反応で、銅集電体裏側にデンドライトを析出させることでショートは止められる。
  ・ 銅集電体表面を固体電解質単結晶膜のような電子電導性がなくイオン伝導性がある薄膜で被覆する。
  ・ この反応機構を利用して、電解液系でもデンドライトショートを止められる可能性がある。




4)新規な電池理論:サムソンSDI特許

 前回、2016年5月31日に特許「二次電池負極」(特願2016−108611)を出願したことを記載しました。出願前の先願調査で、三星エスディアイ(株)より優先日2010年9月16日出願番号P2011−160943号、2014年12月26日に成立した特許第5669143号が見付かりました。2012年3月29日の公開時には、私が関心を持っていないシリコン系に分類されたために見落としたと思います。
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 [請求項1]下記の化学式(1)で表され、非晶質であるシリコン化合物を含み、全体重量に対し、5重量%〜20重量%の非晶質炭素からなる炭素層を表目に含むものであり、前記シリコン含有化合物は、FT=IR分析時、740〜780cm-1でピークを有するものであり、前記シリコン化合物は、CuKαでXRD測定時、35°〜38°でピークが現れないものである、リチウムイオン2次電池用負極活物質。
 [請求項2]前期負極活物質は、非晶質炭素系物質をさらに含むものである・・・・・。
 [請求項3] 前期負極活物質は、非晶質炭素系物質をさらに含み、前記シリコン含有化合物と非晶質炭素系物質の混合比率は、90:10重量%〜10:90重量%である・・・・・。
 [請求項5]前期非晶質炭素は、CuKαを利用してXRD測定時、(002)面の面間隔(d002)が0.34nm以上、0.4nm以下である・・・・・。
 [請求項6]前期非晶質炭素は、CuKαを利用してXRD測定時、結晶格子サイズ(Lc)が2nm以上、5nm以下である・・・・・。
 [請求項7] 前期非晶質炭素は、Li/Li電位である0.2〜1.5Vの電位区間で可逆容量が現れるものである・・・・・。




Fig.135 サムソンSDI特許明細書の実施例表


 [請求項1]は負極シリコン含有化合物を定義し、SiとCは物理的な混合ではなく、化学的に結合つまりSiCIになっているが、シリコンカーバイドのようなSiC結晶にはなっていないことを主張し、[請求項7]でグラファイトではない非晶質炭素が電池容量を実現していることを主張しています。構造は記載していませんが、表面層は炭素割合が少なく、内部は炭素割合が多い2層に分離しているような構造を考えています。
 表面非晶質炭素層+シリコン含有化合物 / シリコン含有化合物+非晶質炭素系物質
 実施例はスパッターで成長させた2μSiCI薄膜でxの値を変化させ、0.25は容量が多くなるがサイクル特性は悪くなり、0.95は初期容量が小さくなり、最適値0.65を得ています。実用化を意識して、500μSiCI厚膜を剥離・粉砕した粉末を合剤負極とした例でも薄膜時と同じ結果が得られ、表面非晶質炭素層の効果を記載しています。半電池で得られた充放電曲線は、前回紹介したFig.129の曲線に類似しており、平坦部のない徐々に上昇・減少する曲線です。容量の絶対値は分母の条件は別として、2500mAh/gと非常に大きい値で、サイクル寿命も300サイクル達成しています。
 反応式は以下になるはずですが、SiCxが充放電時にシリコン合金化反応を起こし、リチウムイオンとの結合・乖離を繰り返すとすれば、放電末でSi金属が分析できるはずですが記載していません。シリコン含有化合物SiCIについてはシリコン合金化反応は考えていないようです。
 (y+z)Li+ SiCx + (y+z)e‐ ⇔ Li(y+z)SiCI
            ⇔ LiySi + LizCI ⇔ yLi + Si + zLi + xC
   実施例8〜11では、500μ「非晶質SiC0.65」厚膜を剥離粉砕した粉末と「非晶質炭素系物質」とを混合して合剤電極を作製し、電池試験を行っています。[実施例8]の説明の中で、非晶質炭素粒子は全体可逆容量300mAh/gの70%の可逆容量になるとの説明があり、「非晶質SiC0.65」粉末と「非晶質炭素系物質」とを混合した負極活物質容量の大半が「非晶質炭素系物質」であると解釈できます。実施例8〜11で容量の記載がないが、実施例1〜7のような大きな変化がなかったと推定しています。つまり、容量は非晶質炭素量でほとんどが決定されていると思われます。




Fig.136 サムソンSDI特許5669143要約


 材料の同定に関し分析の専門家に読んでいただくと、
 ・ FT−IRでSi金属、SiOでがなく、SiCであることが確定されている。
 ・ XRDでは、結晶SiCではなく、微結晶または非晶質であることを示している。
 ・ 0.25≦x≦0.95で、Si金属、SiC結晶でないことを限定している。
 ・ 面間隔からグラファイトでない非晶質炭素に限定している。
 ☆ SiCxの状態および役割についてラマン測定で解明できるのに、測定していないあるいは記載されていないのは非常に奇異に感じる。
 Fig.136は上記解説を要約しています。本特許は実施例の説明に不明瞭な箇所が多く、非常に解り難い。解り易いことは特許審査官には理解を得られるが、技術の詳細を開示してしまうこととなり、特許として優れているとは言えません。リチウム金属とリチウムーシリコン合金を範囲外にし、それ以外は全て包含でき、非晶質炭素を加えて容量が増えることを明示し、広い請求範囲で成立しています。
 私達が出願した特許での実験との共通点から考え、本コラムの主題である「新規な電池理論=片持ち論+篩膜」を実証した結果であると考えています。本特許の発明者・出願人は「新規な電池理論」を知らなかったが、驚異的な実験結果が得られ、電池反応・蓄電機構を理解することよりも特許出願を先行したと推定しています。
 SiCxを篩膜に使う構造であれば十分に広い請求範囲で、この蓄電機構が実用化されると、サムソンSDIの一人勝ちになるが、私の基本特許「新規な電池理論=片持ち論+篩膜」に抵触すると思っています。
 なお、2015年にサムソン電子、サムソン先進技術研究所から、SiCを生成させずにSi粒子表面にグラフェンを被覆しSi負極で高容量長寿命電池が開発できたとNature Communicationsに発表され話題になりました。Si負極の体積変動を抑制できたと言う全く別の研究成果で、この論文は評価に値しないと考えています。むしろ、サムソンSDIが特許出願後学会発表していないので、非常に不気味です。
 次回はサムソンSDIの特許を加味して、「新規な電池理論」に基づく理想的な負極構造を図説する。
 <結論>
 ・ 私達の発明以前に、三星エスディアイ(株)より特許第5669143号が出願・成立している。SiCx、非晶質炭素との混合に関し、非常に広い範囲で成立している。
 ・ SiCx薄膜を含む負極での実験結果は私達の発明と類似し、薄膜だけでなく、実用化を意識した薄膜を剥離・粉砕し合剤とした電極についても実証している。
 ・ 電池反応・蓄電機構については解読し難い明細書で、解明せずに出願を先行している。
 ・ 金属系・合金系以外では最高の容量を実現している新規負極であるのに学会発表がなく不気味であり、実用化されればサムソンSDIの一人勝ちになる。
 ☆ 私の基本特許「新規な電池理論=片持ち論+篩膜」に抵触する。


5)昔話:リチウムイオン電池正極アルミ集電体

 この項は私の「昔話/リチウムイオン電池誕生頃の逸話」で、気軽にお読み下さい。
 前々回白金溶解、前回鉛蓄電池正極集電体の昔話をしました。いずれも酸化電位にある「金属の不働態化」と言う点で共通しています。リチウムイオン電池の正極集電体はアルミニウムが使われています。アルミニウムは容易に酸化されるが不働態膜で覆われ腐食は進みません。
 当時「PEO系高分子電解質」の研究・開発の経験を活かし、「リチウムイオンポリマー2次電池」の開発・製品化を進めていて、KS社より「ソリッドオーディオ」用の2次電池開発を要請され、共同開発・試作に成功し、製品納入する事になり、私がプロジェクトリーダーの拝命を受け、量産設備の設置を進めました。製品技術はほぼ完成していました。またER社からSN社のセカンドベンダーの内定受けその準備も急遽取り組みました。しかしながら、「旭化成鞄チ許」が気に掛かっておりました。「第7回5)昔話」に一言記述したように、以前から情報を得ていて特許調査、先行技術調査をして、特許侵害の恐れありと考えていたので、アルカリ2次電池経験者、電池・電気化学専門家、生産技術者、有機化学専門家達に、会議及び個別面談で意見を聞きました。全員が特許性ないとの判断で、腹をくくって無効訴訟を進めるべきとの意見で、かなり非難されたことを覚えています。
 「旭化成特許」の大半については皆と同じ意見で、裁判をすれば勝てる、特許を潰せる可能性があると考えていました。しかし、請求項後半の「アルミニウム正極集電体」が引っ掛かりました。ソニー、旭化成が実用化したリチウムイオン電池が従来電池と違う特徴の一つは、電極厚みが薄い、正負対向の見掛け表面積が大きいことで、集電体が重要な役割をしていることは明確で、前回、前々回に記載したように「正極集電体表面上の不働態膜」が電池性能を決めていると言う信念があり困りました。アルミニウムの長所は、
 ・ アルミニウムは柔らかいので、薄くし易く、捲回し易い。
 ・ 活物質との界面形成にアンカー効果が使える。
 ・ 正極電位では不働態膜として表面酸化膜ができ、集電体腐食が抑制できる。
 ・ 電子電導性が高いので、大面積であっても電子抵抗が不均一にならない。
 ・ 決して高い金属ではないし、供給性も問題がない。
 しかしながら、アルミニウムは当たり前の金属で、過去に誰かが実験で使って公知のはずであると考えました。特許、文献調査を念入りにし、さらに社外の方々に聞いて回りましたが、使った経験はある、あるいは過去に使ったと言う返事は帰って来るのですが、特許、文献に明確には書いていないようでした。
 当時ニッケル水素電池の水素合金負極に関し、OB社から特許侵害で提訴され、YB社は苦戦していました。私も上司から見解を求められ技術調査をしました。技術として考えれば、特許無効裁判をするのが当然で勝訴すると見解を述べました。しかし、OB社は特許性・技術ではなく貿易・産業への損害を主張し、結局PN社が旗を降ろし、最後まで争ったYB社は最悪の和解条件を飲まされたと聞きました。これが理由とは言い過ぎですが、上司IB部長から旭化成鰍ニはこれまでの経緯もあり、実施権取得交渉をしても構わないと言われました。本コラムで度々記載しているようにYN氏とは非常に親しかったので、争いごとは嫌と言う気持ちが強く、最恵国待遇を期待して特許権取得の交渉をしました。YB社が安易に特許権を購入したから、裁判で勝ち目が無くなったとの批判を、業界の噂話として後日聞きました。最初に譲歩したのはYB社、私であったかも知れません。
 次回は、この判断について今になって思うことを書きます。お楽しみに!



6)おわりに

 1) 愛知県は、産業構造のバランスが良いので、東京都、大阪府とは違い独立できる。
 2) 「突然死」の原因である「シール不良」は出荷時検査方法がないので、メーカーが決めた寿命を延長しての「リユース=再使用」には問題がある。次回は接続不良検知方法の欠点を紹介します。
 3) 全固体電池用負極として「リチウム金属」での「デンドライトショート」を防止できる名大入山教授が発見した析出機構を解説しました。次回は全固体電池でのSi合金系負極の課題克服法を紹介します。
 4) サムソンSDIの「SiCx薄膜利用負極」特許を解説しました。反応機構は記載していないが、優れた特許で実用化可能であり、非常に不気味です。次回は、「新規な電池理論」の理想型を図説します。
 5) リチウムイオン電池に関する特許で重要な請求項「正極アルミニウム集電体」の先願性を認めた経過を記載しました。次回はこの判断について、今になって考えることを披露します。



第19回(2020/4/10)



1)はじめに:新型コロナウィルス自粛お花見

 今回は花見でほろ酔いの様子を書くつもりでいましたが、新型コロナウィルスのために自粛が言われ、飲食を伴う花見は出来なくなりました。自粛中の花見を記載します。
 3月24日(火)東京・上野近くに用事があり、花見宴会の名所「上野公園」に立ち寄りました。小池知事の自粛要請の前日で、中央桜通りの封鎖はまだで、かなりの人が5〜7分咲きの桜並木の散策を楽しまれていました。例年ブルーシートでの場所取りが行われる道路脇はロープとコーンで規制され、縁石に腰かけているカップルが座っていましたが、宴会の様子はありません。しかし、駅近くの木立の下では5名程度10組程のグループがシートを敷いて食事をしていました。特に咎められている様子はなく、自粛要請が守られていると感心しました。翌日からは桜通りは進入禁止になり一層厳格に花見禁止になりました。
 愛知県では「日本さくら名所百選」に「五条川、岡崎公園、鶴舞公園、山崎川四季の道」の4箇所が選定され、「五条川」は昨年第7回コラムで紹介しました。
 3月29日(日)に夜桜が自慢の「岡崎公園」に行って来ました。日曜日なのに駐車場はがら空きでした。お花見「乗合舟」で乙川を下るのが風流なのですが、流石に乗船者は疎らでした。岡崎城・家康館など建物は封鎖されていました。城下の桜並木は木々の間隔が狭く、見上げると5分咲きの花が隙間なく咲き、ぼんぼり、フットライトに照らされた夜桜をベンチに腰掛けゆっくり眺めることが出来ました。
 今春の電気化学会はイベント自粛の影響で開催されませんでしたが、名古屋での恩人のカーボンで著名な「KS教授」がいる「名古屋工業大学」が予定会場でした。「名古屋工業大学」正門前に「鶴舞公園」があります。JRの駅名は鶴舞「ツルマイ」ですが、公園の正式名称は「ツルマコウエン」で「イ」が抜けています。名古屋の不思議の一つでしょうか?
 <余談>私の実家の「アサガヤ=阿佐谷」のJR駅名は「阿佐ヶ谷」で「ヶ」が加わっています。読み易いようにJRが変えたと聞いています。お笑いコンビ「阿佐ヶ谷姉妹」が有名で、「阿佐谷」と書く人は地元の人だけです。
 「鶴舞公園」は名古屋の上野公園に相当し、サラリーマン・学生の宴会名所です。例年は、夜間照明があり、サッポロビール「浩養園」のビヤガーデンが出前され、ビールもつまみも本物を頂けるので楽しみにしていましたが、新型コロナウィルス感染拡大防止のため中止になり残念です。4月3日16時頃に満開の桜の下をぶらぶらと散歩しました。桜林の下は例年なら隙間なくシートが敷かれるのですが、今年は飲食での花見自粛の看板があり、少人数10数組がシートに座り静かに食事をしているだけでした。
 翌日は、「山崎川四季の道」を尋ねました。「名古屋市立大学薬学部」内の有料駐車場に駐車しました。公立大学運営の有料駐車場は珍しく職員の経営努力と感心しました。収益は薬草園の肥料になるのでしょうか?!山崎川は平和公園を起点として暗渠から地上に姿を現し、瑞穂公園地区で散歩道に約600本の桜並木が植えられています。上流側の護岸は大きな天然石の石垣が築かれて、深い川底には大小の岩が並べられ、その隙間を大きな鯉が泳いでいます。桜の木は皆太く咲き振りが立派で、木々の間はゆきやなぎの白が桜花を引き立てています。また、左岸の散歩道には両側に植えられていて、空から見れば三筋の桜並木になるはずでユニークだと思いました。護岸はフェンスで仕切られており、シートを敷いて宴会をする場所には困りそうでした。川辺に降りられる所があり、階段に腰掛けて、飲酒は気が引けるのでコーヒーをのんびり飲みました。なお、ぼんぼりなど夜間照明は設置されていませんでした。




2)電池の基礎:デンドライト反応表面積増大

 前々回、リチウムイオンが負極活物質表面上を平衡移動する「仮説A」、前回、溶媒和リチウムイオンに電子が飛び込む「仮説B」を解説しました。
 金属析出反応の電流電位曲線を電位走査法などで求めると、電位変化に伴い急激に電流が増加します。縦軸電流が対数でないためですが、対数にしても、移動係数を0.5としたターフェル式に相当する直線よりもはるかに過電圧が小さくなります。ターフェル式の縦軸は電流ではなく「電流密度=電流/表面積」で、測定中表面積は変化しないことが前提になっています。
 Fig.124はデンドライト成長の様子を模式的に描きました。透明電槽でセパレータなしで観察すれば、肉眼でも見ることが出来ます。「ファインセラミックスセンター」が顕微鏡のその場観察で、亜鉛極について綺麗な画像を発表しています。最近の観察技術には目を見張ります。リチウムイオン電池のカーボン負極は10nm径粒子の集合体の多孔質で比表面積は数m2/gです。粒子を小さくし表面積を大きくすると、表面に形成される「電気2重層キャパシタ容量」が大きくなり、安全性が顕著に悪くなるので、表面積は出来るだけ小さくすることが「賢明な設計」です。Fig.124に示すように、デンドライトは発生に伴いデンドライト表面も反応表面となり、全反応表面積は次々に増大します。計測されている電流を表面積で割る電流密度(A/cm2)は、デンドライト成長につれて刻々と減少することになります。極端なことを言えば、デンドライトが沢山でき表面積が無限大になれば、電流密度は「0A/cm2」、結果として過電圧も極小になるはずです。



Fig.124 デンドライト成長による表面積増大


 反応表面積が変化する時の「電流密度/電位曲線」を想像した図がFig.125です。電流を流すに連れて、電流密度は下がってくるので、過電圧も小さくなり図中青色の曲線のような半円を想像しました。無論想像で描いたので全く自信ありません。デンドライトは成長するに連れて過電圧が徐々に小さくなり、電流は益々流れ易くなり、その電流のほとんどが挿入反応ではなく金属析出反応になり、デンドライト成長が一層促進されます。結果として破裂・発火に繋がると言えます。
 「ファインセラミックスセンター」の亜鉛デンドライトを観察した顕微鏡担当者には、動画として撮影した画像から画像処理で表面積を計算することをお願いしています。表面積変化が数値化できれば、充電中のデンドライト成長による電流密度減少さらには過電圧減少を数値にすることができ、Fig.125に定量的意味を付加でき、破裂・発火の検知・予測に役立つと思います。次世代電池として金属負極が検討されていますが、表面積が刻々と増大することは理解されていますが、数値化はされず感覚的表現にとどまっています。是非とも顕微鏡でデンドライト観察された時には、観察に留めるだけではなく、電池技術者に役立つ情報まで加工していただけると助かります。
 <結論>
 ・ デンドライト成長につれて反応表面積が増大し、電流密度・過電圧は下がり、成長が一層加速される。
 ・ 反応表面積増大を数値化できれば、金属負極の基礎理解に大いに役立つはずである。
 次回は第16回と重複しますが、「突然死」について整理・解説します。




Fig.125 表面積減少時の電流/電位曲線の想像図




3)次世代電池:全固体電池と新材料

 「2020年2月度」の雑誌・新聞記事について紹介及び所見を整理し作成しました(Fig.126)
 ・ 無理と思っていたテスラのギガファクトリが立ち上がった。パナ技術者が引き揚げた後に注目である。
 ・ 東大・東京理科大いずれも注目する程の研究ではない。LIBは関東の企業が成果を出したが・・・。
 ・ BECが増産に踏み込んだ。ホンダ自動車の出資と思う。HEV用LIBでは名実共にトップになる。
 コラム第16回で「全固体電池」でも開発の意義は「高エネルギー密度化」であると提言し、「硫黄系固体電解質」の研究は「硫化水素発生」を考慮するべきであると苦言を呈しました。今回も「全固体電池」と次世代電極材料に関し解説します。
 「全固体電池」の開発でNEDOはLIBTEC内に大型の開発プロジェクトを発足させ、大量の税金を注ぎ込むことになりました。NEDOニュースリリースを要約しました(Fig.127)。読み方に問題があるかもしれませんが、研究開発内容には高容量化に繋がる新材料の提案は読み取れませんでした。学会などで、固体電解質であれば高エネルギー密度になると信じ込んでいる雰囲気が蔓延しており疑問を感じます。企業が担うべき「量産技術」に関することおよび「計測評価技術」が多く、T社の意向に沿った成果と「○○が解った」との成果しか得られないと思い、国プロに期待する気持ちは益々無くなりました。
 固体電解質には本当に価値がないのでしょうか?
 Fig.128に次世代革新材料を列記しました。負極ではデンドライト抑制効果があり「リチウム金属」が採用できると期待された時もありましたが、ME大IM氏の発表以来デンドライトは止められないと言うことは衆知になっており、固体電解質でも金属電極の実用化は難しいでしょう。「Siなど合金系」はSEI劣化は防げますが、形状変化に対しては液系より不利でしょう。カーボンの高容量化については、本コラム主目的の第5章「片持ち+篩膜」論で溶媒がないので「篩膜」は不要になり、実用化できるはずです。現行グラファイトは理論限界ですが、ソフトカーボンのようなナノサイズの多孔体カーボンに「片持ち論」を適用すれば、2〜3倍の高容量になることが計算化学で証明されました。次世代負極材料としては「片持ち論」のカーボンが非常に有力だと思います。






Fig.126 2020年2月度 新聞と雑誌記事の紹介と評価





Fig.127 NewsRelease要約


Fig.128 全固体電池の高容量電極材料




 しかし、新規な電池理論「片持ち論」に基づく研究は未だにどこもしておらず自分の無力さを嘆くばかりです。今大騒ぎしているコロナの「クラスター」と同じで、細孔内「クラスター論」を徹底的に否定することが、次世代負極材料としてのカーボンの展望を切り開くことになると考えています。私の特許は固体電解質を意識して記載していないので、特許侵害の主張は難しいかもしれません。
 <結論>
  ・ 全固体電池負極として、「リチウム金属」、「Siなど合金」は課題があり実用化は難しい。
  ・ 「片持ち論」を適用した多孔体カーボンが最有力候補である。
 次回は、固体電解質での金属負極実現に関する興味深い研究発表と合金系負極実現のアイディを紹介します。



4)新規な電池理論:a-SiC膜・特許出願

 2015年11月12日電池討論会2D24(株)TTI大福氏他「プラズマプロセスを用いた高容量Si-Cナノコンポジット材料開発と負極特性」の発表がありました。SiとCからなる原料ガスでプラズマ化学気相成長法でSUS基板上に生成した薄膜を、対極Li金属、電解液1MLiPF6/EC・DMCで充放電すると、初充電を除き、Fig.129に示されるような綺麗な充放電曲線が得られ、782mAh/gの容量で、200サイクル後もほとんど容量低下がないとの発表でした。生成した薄膜の約半分はカーボンで、SiはXPSスペクトルから90%は「SiC」、10%SiOで、Si金属は無いことが判明しました。電子回折像からは非晶質で、アモルファスSiCであることが解りました。
 この発表から、充放電した反応は以下と推定しました。
 1)薄膜電池であるから集電体表面の金属、例えば「クロム酸化物還元・酸化反応」
 2)最初の充電でSiCが還元され、Si金属ができ、「SiLi合金化反応」
 3)a-SiC膜が、第5項で解説している「新規な電池理論」での「篩膜」になり、「片持ち論」が成立し、活物質中50%を占めるカーボン空隙への「挿入反応」




Fig.129 SiC−C負極の充放電曲線


 各反応の可能性について検討した結果、
 1)集電体の「酸化還元電流」は、計算予測から絶対量が少な過ぎ否定できる。
 2)「SiLi合金化反応」にしては、充放電曲線が滑らか過ぎる。アモルファスと謂えども「SiC」が負極電位で還元されることは考えにくいので、充放電後のSiの結合状態を調べる必要がある。
 3)否定も肯定もできない。
 従って、2)、3)のいずれかについて以下の項目を調査する必要があった。
 ・充放電曲線の任意の位置で、通電を停止し掲示変化後の「開路電圧」調査。
 ・充電後a-SiCが還元分解しSi金属の生成。さらに放電・充電後「SiLi合金」の存在。
 ・多孔性カーボン構造体の存在及び細孔内リチウムイオン吸蔵の成立
 これらを調査した結果、Li金属、Si金属の存在は否定されたが、「SiLi合金」がないことをは明確には出来なかった。またカーボンはアモルファスであることは判明したが、多孔体構造は確認出来なかった。しかし、発明者間で合意でき出願し易い内容で、2016年5月31日に特許「二次電池負極」(特願2016−108611)を出願した。
 特許の主旨はFig.130に描くようにSUS集電体とa-SiC膜との間にリチウムイオンが貯蔵されていると推定した。
 A)製造時:集電体でもあるSUS基板上にa−SiC膜(緑格子)が生成される。
 B)a−SiC膜(緑格子)はSEI膜と同様に溶媒和リチウムイオンが溶媒を脱離する「篩膜」の役割をし、集電体とa−SiC篩膜(緑格子)との間に空隙を形成し、リチウムイオンを収蔵する。
 C)a−SiC篩膜(緑格子)はカーボンを多量に含み電子電導性を有するので、空隙内で片持ち論を成立させ、多量のリチウムイオンを安定に存在させる。
 D)放電時には上記と逆反応が起き、空隙に吸蔵されたリチウムイオンはa−SiC篩膜(緑格子)を通過し電解液に放出され、溶媒和する。
 <結論>
  ・ プラズマ化学気相成長カーボン含有「アモルファスSiC薄膜」は、負極活物質として、グラファイトの理論量の2倍以上の容量で、サイクル特性も良い。
  ・ SUS集電体とカーボン含有「アモルファスSiC薄膜」との間に、充電により空隙を作りながらリチウムイオンを吸蔵する。放電ではリチウムイオンは同薄膜を通過して電解液に放出され溶媒和する。
 次回は関連するサムソンSDIの特許を紹介します。



Fig.130 SiC−C負極反応機構




5)昔話:鉛蓄電池正極集電体

 この項は私の「昔話/リチウムイオン電池誕生頃の逸話」で、気軽にお読み下さい。
 前回白金溶解の昔話をしましたが、さらに昔、私がYB社入社時の話をします。私は革新電池の研究開発を希望していたのでNAS電池には配属されると思っていましたが、鉛蓄電池のグループに配属されました。入社時に新入社員教育の一環で大型鉛蓄電池の徹夜での電池試験をすることになり、座学として鉛蓄電池の原理について講義を受けました。電池試験グループのTS氏が教官でした。TS氏は鉛蓄電池の生き字引のような方で、人望も厚く今でも年に1回懇親会をしている数少ない恩人です。TS氏の説明に幾つかの質問をした所、唯一納得出来ない回答がありました。集電体に鉛合金を使用している点です。正極の構造は
      鉛合金(集電体)/???/2酸化鉛(正極活物質)
    <???>には硫酸が入ります。この構成は、正に鉛蓄電池そのものです。
      鉛(負極活物質) + 2酸化鉛(正極活物質) + 硫酸 ⇒ 2硫酸鉛(正負極放電生成物)+ 水
 充電後に放置すれば、この反応により鉛集電体と正極活物質は硫酸鉛へと反応し活物質は無くなってしまうことになります。もちろんそうではなく、集電体表面に出来た硫酸鉛が鉛金属の不働態膜となり、それ以上の反応言い換えれば腐食反応を抑止していると考えました。
      鉛合金(集電体)/硫酸鉛(不働態膜)/2酸化鉛(正極活物質)
 この不働態膜は、硫酸イオンは通過できないが、反応が起きる程度の電導性がある、または電子が通過できる程に薄いと考察しました。
 自己放電により在庫期間に制限がある補修用市販電池の在庫期間を延長させるために、充電した極板を乾燥し電解液を注液せずに出荷状態で保管し、使用時に硫酸を注入して使用する「即用式鉛蓄電池=ドライバッテリー」が普及していましたが、電解液を注液しても始動性能を発揮できないと言うクレームが頻発しました。注液後時間を経ると必ず改善されることから、不働態膜が酸化鉛になり抵抗が大きくなること原因であることが推定出来ました。。
      硫酸鉛 + 水 ⇒ 酸化鉛 + 硫酸
 クレーム対策とすれば、酸化鉛に導電性を持たせれば良いので、酸化物で導電性がある物質を探すと身近には酸化錫が半導体であることを知り、鉛集電体表面に錫を付着させることを思い付きました。錫を表面に付着させるので、頭文字をとって「SH法」と名付け、特許出願しました。即用式に限らず鉛蓄電池の初期クレームのほとんどが「SH法」で解決できることが解りました。特許明細書には書いていませんが、実用化には致命的な欠点が解っていました。酸化錫は硫酸中で徐々に溶解し効果が継続しません。この欠点に気が付かなかったのか、パナソニックが私の技術を取り上げ、集電体合金表面の錫濃度を高くして同じ効果を発揮させ商品化しました。溶解する欠点が直ぐに判明したためか、商品は製造中止になりました。パナソニックの技術も大したことはないと思いました。
 正極集電体腐食防止の不働態膜は電池性能の鍵であるが、酸性雰囲気では酸化膜が溶解することが多いので選定は難しいことが解りました。合金で使われているアンチモンも酸化物は半導体性を持ち電池性能を上げていることが解りました。コバルトは非常に高価な金属で検討しませんでした。さらに、アルカリ系では酸化物は溶解しないので、特許にアルカリ系も含めておかなかったことを後々後悔しました。
 <結論>
  ・ 鉛蓄電池の性能改善には酸化物が電導性を有する錫を表面に付着させる「SH法」が非常に有効である。
  ・ 酸系では、錫のような酸化物は溶解し効果が継続しない。アルカリ系では溶解しないので有効である。
  ・ 蓄電池の正極集電体金属を防食する不働態膜は、電池性能に大きく影響する。
 次回は、この不働態膜がリチウムイオン電池でも大きな役割を演じていることを昔話に絡め記述します。



6)おわりに

 1) 新型コロナウィルスのため自粛中の花見の様子を紹介しました。
   2) デンドライト成長につれて反応面積が増大し、電流密度・過電圧が減少することを図説しました。画像処理による電極表面積の算定を有意義と要望しました。次回は「突然死」を整理・解説します。
 3) 全固体電池用負極として「リチウム金属」「Siなど合金」は難しく、「片持ち論」を適用した多孔体カーボンが最適であると提案しました。次回は金属負極実現の発表と合金系負極のアイディアを紹介します。
 4) 気相成長カーボン含有「アモルファスSiC」薄膜はグラファイトの2倍の容量が得られます。SUS集電体との空隙に吸蔵すると考察し特許出願しました。次回は関連するサムソンSDI特許を紹介します。
 5) 鉛蓄電池正極集電体腐食防止の不働態膜は電池性能に大きく影響する。錫を表面に付着させる「SH法」は非常に有効です。
次回はリチウムイオン電池における不働態膜の役割を解説します。



第18回(2020/3/10)



1)はじめに : 大河ドラマ「明智光秀」

 前回(第17回)5)昔話で記述したNS氏との会食の土産品に「ざざむし」佃煮と思い、10年程前に買ったことがある恵那市明智町の八百屋兼雑貨屋に立ち寄りました。「ざざむし」の張り紙がなく、店主は「以前は自分が採集して売っていたが、一昨年から不漁になり、昨年はほとんど獲れなかった。『温暖化』の所為で川が枯れてしまった。もっと北の方でないと!」と嘆いていました。「温暖化」はオーバーと思いましたが、相槌を打つと喜んでいました。
 明智町は大河ドラマの「明智光秀」所縁の地と言うことで、盛んに宣伝をしています。日本大正村の別称を持ち大正ロマン館を観光の目玉としていて、今年は「大河ドラマ館」を特別展示してドラマの紹介をしています。光秀が京で出会う「駒(門脇麦)」が大きく展示され、今後の進行役・接着剤として興味が湧きました。裏山にある白鷲城(明知城)は光秀とは直接関係はないものの、天険の地形を巧みに利用した山城の原形を残していて、井戸の代わりに天然の濾過機能を備えた貯水池の巧みさに感心し、当時の城攻めを思い浮かべました。
 可児市花フェスタ記念公園内にも「大河ドラマ館」が特別展示されています。光秀は可児市の明智荘・明智城で出生から30年を過ごし、斎藤道三・義龍親子争いで一族は離散したと言われています。天龍寺には歴代の墓所があり日本一大きい光秀の位牌が納められています。ここの「大河ドラマ館」では「熱い戦いをVRで体験!」に挑戦してみました。迫りくる騎馬隊の馬上からの槍を避けながら、ズバッと斬る迫力を楽しみました。点数は低かったのですが、係官に褒められました。
 やはり、大河ドラマ館が特別展示されている岐阜公園・岐阜城に行きました。ロープウェイ乗り口で驚かされました。城主斎藤道三の実物大フィガーが展示され、大河ドラマでの「本木雅弘」に瓜二つに出来ています。その実像感、「マムシの道三」の迫力に圧倒されます。「伊右衛門」で宮沢りえを相手に微笑ましい「本木雅弘」と同じ人物とは思えない、知的で品がありながら、猛々しい表情に驚嘆しました。「下剋上」の典型としても語られる斎藤一族で、信長に嫁いだ帰蝶/濃姫は、岐阜城攻略を信長に進言し、その後天下布武で都に進軍した陰の立役者で、光秀とも従兄関係にあり、ドラマの進行上需要な役です。「パッチギ」で天才的な演技力を披露した「エリカ様」の成熟した毒々しい演技を見たかったと思うのは私だけでしょうか?
 天守閣に上がると、この日は冬の高気圧に恵まれ、恵那山から中央アルプス、その先に南アルプスの雪山・北側には御岳から遠く乗鞍・北アルプス、さらに手前に白山の雄大な雪景色が、案内のパノラマ写真よりも遠くの山々が見える素晴らしい晴天でした。ここから眼下の市内、遠く名駅の高層ビルを一望すると、道三、信長の気分に浸れました。
 岐阜梅林公園は5分咲きで、濃厚な紅色は「濃姫」を象徴しているようでした。昔花見は桜ではなく、梅の花であったと聞きました。冬の寂しい園庭が、黄・紅・白・ピンクの濃い色の花が枝にびっしり咲き、春になります。暗くなったので金華山ドライブウェイでの一走りはせずに帰路につきました。
 この原稿を書いている時に、ラリーの師匠で大親友HD氏の訃報が入りました。年末にお見舞いした折に、愛知県に誘致される「国際ラリー選手権大会」で、主催者が昔所属していた「勝田氏」だから手伝いをしたらEV普及の一助になると話すと、笑顔で頷いていたのに早い最後でした。やっと二人で日本一周旅行、EV車でラリー参戦が出来ると喜んでいたので無念です。やはり「癌」は怖い!




2)電池の基礎:金属化先行機構・仮説B

 前回、脱溶媒したリチウムイオンが負極活物質表面上SEI層中を層間・空隙の「入口」まで活物質表面に沿って「平衡移動」することで、挿入反応の過電圧が増大する。その結果ターフェル式の傾きが緩くなり、挿入反応よりも金属析出反応が支配的になることを「仮説A」として解説しました。
 他にKT大AB教授から説明を受けた「仮説B」があります。私なりに解釈して模式図を作成しました(Fig.118)。左図の負極反応のリチウムイオン挿入反応では、SEIに到達した溶媒和したリチウムイオンがSEI層に入る時に、狭い箇所を通過する時に衣を脱ぐような状況で脱溶媒します。一方、仮説Bでは、溶媒和したリチウムイオンが「滓層」内を移動しSEI最外面まで近づいた時に、活物質中の充電で過剰になっている「電子が飛び込み」「0価つまりリチウム原子」となり、溶媒は静電的吸引力を失い脱溶媒します。「リチウム原子」は凝集・結晶化しデンドライトとして成長します。挿入反応での脱溶媒エネルギーは非常に大きいが、仮説Bの析出反応ではリチウムイオンに「電子が飛び込む」ことで脱溶媒するので、脱溶媒エネルギーは非常に小さくなります。なお、「電子が飛び込む」と言う表現は私が作り出した言葉で、正しい言い方ではないかも知れません。



Fig.118 仮説B 金属化先行過程


 AB教授からは10年以上前に説明を受けたが、当時は仮説Aで納得していたので深く考えませんでした。最近になり、仮説Bを再考すると、Fig.118に示すように、電子が飛ぶ時に溶媒に向かって飛ぶ時と、リチウムイオンに向かって飛ぶ時とで、飛距離が違わないとB説には矛盾があると気が付いた。つまり、電子が飛ぶ距離は負極活物質のエネルギー状態だけで決まるとすれば、「電子が飛び込む」溶媒和リチウムイオンの位置には溶媒も多数存在し、溶媒にも「電子が飛び込む」ことになり、SEIの定義である電子が飛ぶ最遠距離に矛盾することになる。逆に言えば、溶媒和リチウムイオンであるか溶媒であるかにより、電子の飛ぶ距離が変わらなければ、この説は成立しなくなる。この電子の飛ぶ距離が相手先により違うと言うことは、電極電位に含まれており、素過程で差が出ることはないのではないかと考えていました。私は量子力学・電磁気学は全く不勉強で、今更勉強しても無理と解っているので、専門家に尋ねてみました。恩師としていつも相談している、半導体の専門家元TK大AG氏は、「量子力学的計算をする必要があるが、受け取る側の引力は関係がある、つまり中性の溶媒と、+帯電しているリチウムイオンでは異なっているはずである。」との回答でした。先日、懇親会の席で半導体の専門家TK大IS教授に尋ねると、立ち話ではあるが丁寧な説明で「違うと思う」と回答された。両社の意見が一致したので、「仮説B:金属化先行」は正しいと判断しました。
 電気化学的に整理すると、ターフェル式で電流が流れやすい方向に傾きが変わるはずで、定量的な考察には実験値が必要ですが、このコラムでは移動係数を変化させることで、実験結果を代用しました。負極挿入反応の移動係数は従来通り「0.5」、金属・デンドライト生成反応の移動係数は反応が進行し易いことを示す「0.8」として、Fig.119を作図しました。低電流密度では、電極電位の差、約100mVのためにデンドライト発生は起きませんが、過電圧が0.4V程度、高電流密度になると、大逆転が起こり、電流のほとんどが金属結晶・デンドライト生成になります。



Fig.119 仮説B 金属化先行過程


 なお、チタン酸負極で安全性が高いと言われているのは、電極電位が低く、Fig.119で挿入反応を示す茶色の線がはるかに左に移動するので、「大逆転」は起こらずデンドライト発生の可能性が小さいからです。
 <結論>
  ・ SEI表面に達した溶媒和リチウムイオンに活物質から電子が飛ぶ込み「0価」になり、脱溶媒するので、脱溶媒エネルギーが非常に小さくなる。
  ・ 過電圧が小さくなりターフェル直線の傾きが変わり、デンドライト析出反応が負極挿入反応に優先する。
  ・ この大逆転は、過電圧が大きい、大電流の時に起きる。




3)次世代電池:電池討論会

 「2020年1月度」の雑誌・新聞記事について紹介と評価を作成しました(Fig.120)
 ・ EV用電池に関する注目記事は少なく、日本の電池業界・学界の低迷を危惧しています。
 ・ 「東洋システム梶v劣化診断:通常の劣化予測では突然死は予測できず、市場では混乱を招くと思います。
 私の技術でも兆候が現れてからは突然死を予測出来ますが、兆候が現れるまでは予測出来ません。
 ・ トヨタの全固体電池の話には新鮮味はありません。戦略は選択と集中と言いますが、選択ミスでは?

 昨年秋に開催された「電池討論会」について、発表内容と所感を整理しました(Fig.121)。表中(※)の補足説明を以下に記載します。
 ※1:リチウムイオン電池の研究・開発・実用化は全く国の支援を仰がずに、民間のソニー鰍ニ旭化成鰍ェ 工夫と努力を積み重ねた成果であり、その初歩段階で国が税金を投与する仕組みにはなっていません。どうすれば良いのでしょうか?
 ※2:RISING2で京大安部教授が担当し、発表数が非常に増え注目されている。EV用と違いコスト競争だけの定置用としては最適である。「メッキインヒビター」を電池用に新規合成するか?特許出願済みの日本ガイシ(株)の「層状復水酸化物」以外には解がないと思っています。



Fig.120 2020年1月度 新聞と雑誌記事の紹介と評価


 ※3:活物質表面を無機薄膜で被覆する。「新規な電池理論」篩膜の概念を踏襲している。今後の研究開発の方向性であり、負極に適用すれば高容量化になる。将来を考え特許出願すべきです。
 ※4:正極過剰容量について注目すべき結果が出ている。薮内教授が最も有望と思う。正極高容量化の唯一の策と思っている。今後の理論展開には酸素レドックスでなく「空隙論」を考えるべきである。私も理論の完成を急ぎたい。
 ※5:SiLix合金反応が起きているかが重要である。私の推定では合金反応は起きず、ソフトカーボンへの挿入反応が起き「片持ち論」が成立し、SiOxは「篩膜」になっている。つまり「新規な電池理論」が成立している。私の特許を侵害しているはずで警告したいが、資金不足で躊躇している。
 上記のように興味深い発表が多く、有意義な討論会であったが、固体電解質・全固体電池には進展が感じられなかった。
 次回は革新材料と全固体電池に関して解説します。




Fig.121 第60回電池討論会 発表内容の紹介と所感




4)新規な電池理論:篩膜のEC通過計算

 前回、グラフェンから2個の炭素原子を引き抜いた孔ではリチウムイオンは通過できないが、4個の炭素原子を引き抜いた孔ではリチウムイオンが通過することが出来ることを計算で立証しました。篩膜の「網目」を決定するために同じ寸法の孔で溶媒・アニオンが通過しないことを計算しました。
 Fig.122は代表的溶媒です。上二つが環状カーボネート、下二つが鎖状カーボネートで、夫々の特性を活かし、上と下の両方を混ぜて使っています。SEI形成にはEC(Ethylene Carbonate)が必要で、ほとんどのリチウムイオン電池にはECが含まれているので、ECで通過の可否を計算しました。他の溶媒については時間と費用の制約から省略しましたが、Fig.120の分子構造から推定して、結果は同じと考えました。計算方法は前回のリチウムイオンの通過可否計算と同じです。



Fig.122 代表的な溶媒            Fig.123 ECの通過可否計算


 リチウムイオンが通過できることが判明した4個の炭素原子を引き抜いた孔で、ECが通過する時のエネルギー障壁を、グラフェン面からの距離に沿って計算した結果がFig.123です。グラフェン面を通過する時のエネルギー障壁は28eVで、存在できないことが明白でした。なお、実用上の篩目設計には溶媒が通過できる孔の上限値も必要ですが、時間と費用の制約から計算を省略しました。中途半端な段階になったことは不本意です。

 <結論>
 ・ グラフェンから4個の炭素原子を引き抜いた孔を溶媒は通過することが出来ない。




5)昔話:白金の溶解色は?

 この章は私の「昔話/リチウムイオン電池誕生頃の逸話」で、気軽にお読み下さい。
 リチウムイオン電池より古い昔話を披露します。金が溶解すると何色と聞かれれば、金色(黄色)とどなたも答えられるでしょう。では、白金を溶解すると、何色になるでしょうか?迷われる方が多いと思います。40年程前に、潜水艦用電池納入先のKJ社の依頼で、石油精製の脱硫工程で生成する「芒硝(硫酸ナトリウム)」の電解装置を、YB社が開発・納入しました。正極が保証よりはるかに短寿命で大クレームになり、電気化学を知っているとに理由で、私に特命が下りました。仕様書に記載されていないイオン、例えばフッ素イオンが原料芒硝に含まれていたので腐食が著しく進んだとの結論が得られることを期待されました。ポテンショスタットを用い電位規制で白金の溶解挙動を調べました。白金は正極電位では表面に酸化白金の不働態膜が形成され、腐食がそれ以上進まないと言われていますが、王水では溶解するので、電位を上げれば溶解することは予測できました。電位規制により水分解を抑制し、過不働態域での溶解電流の綺麗な実験データを得ることが出来ました。定電位状態で数時間電解を続けると、フラスコ内の水溶液が綺麗な「金色」に着色し、感動しました。白金が金と似た性質を持つことは衆知ですが、溶解した色も金と同じと言うことは余り知られていないと思います。
 混入が推定できる各種イオンを添加し溶解挙動を調べました。王水と同じように「塩素イオン」では非常に良く溶けましたが、硝酸イオンでは僅かにしか解けませんでした。他の硫酸イオンなど通常含まれているイオンは皆同じ結果でした。「塩素イオン」が不働態膜を孔食することは腐食の教科書にも出ている話で、イオンが小さいから不働態膜に浸入・破壊すると習いました。「フッ素イオン」は塩素イオンより小さいはずですから、不働態膜が破壊され腐食が進むはずで条件を変え何度も実験しましたが、塩素イオンの時とは雲泥の差がありました。原料仕様にない「フッ素イオン」の混入が早期劣化の原因であると期待した会社の予測には反する結果しか得られませんでした。単にイオン半径だけで決まるのではないことが解りました。
 最近になってこの話をすると、この理由として
  ・ 塩素イオンとフッ素イオンとでは、酸性度が違うからである。
  ・ 不働態膜中の酸素イオン半径は、フッ素イオンよりも塩素イオンの方が近く置換され易いからである。
 との助言を得ました。どちらにせよ、酸素イオンが塩素イオンに置換され可溶性塩化白金になっているのだと推定しました。電位を上げれば、白金は必ず溶解する、特に塩素イオンがあれば非常に大きいことは、酸性系の燃料電池、空気2次電池でも参考になる知見と思います。

 <結論>
  ・ 白金は正極電位では溶解する。
  ・ 白金不働態膜は「塩素イオン」では孔食により溶解するが、「フッ素イオン」ではほとんど溶解しない。
  ・ 酸性系の燃料電池・空気2次電池では白金溶解は止められないのではないか?
 次回は、入社時に鉛蓄電池で疑問に思った正極鉛集電体について記載します。



6)おわりに

 1) 大河ドラマ「明智光秀」所縁の観光地巡りをしました。
 2) デンドライト析出の原因として、「金属化先行機構」を解説しました。次回は「電流密度減少」説を解説します。
 3) 「1月度」の雑誌・新聞記事の紹介と評価、2019年度秋の電池討論会参加調査報告書を掲載しました。次回は革新材料と全固体電池に関して解説します。
 4) グラフェンから4個の炭素原子を引き抜いた孔を溶媒は通過できないことを立証しました。次回は篩膜候補のアモルファスSiC膜について解説します。
 5) 白金の溶解色は金色であること、塩素イオンがあると白金は容易に溶解することを解説しました。



第17回(2020/2/5)



1)はじめに:揚輝荘・古川美術館

 名古屋に住んで15年過ぎ、名古屋市周辺の小牧⇒江南⇒みよし⇒清須と移動しました。名駅(名古屋駅の当地での呼び方)からの直線距離(km)は14⇒18⇒20⇒8で一番近く、名駅よりJR各駅停車で2駅目と便利な所が清洲です。昨秋発表された基準地価は104⇒97⇒141⇒89千円/m2で、清洲は名駅からは一番近いのに、はるかに遠い江南より安い地域です。織田信長が城主となり「尾張の中心」として繁栄し、清須会議で歴史上重要な逸話を残したが、家康が名古屋に移した「清州越し」で一変し、今や駅前にコンビニもないさびれた駅です。
 では、名古屋で一番高い住宅地は何処でしょうか?地下鉄東山線の覚王山周辺で、基準地価は383千円/m2、清須の4倍以上です。雄大な一戸建てが坂道に並び、玄関前の駐車場には、私の愛車トヨタ「アクア」は見当たらず、トヨタ「レクサス」が最低で、ほとんどが「ベンツ、アウディ、BMWなど」で、その横に「フォルクワーゲン、MINI、プジョー」が並び高級外車の展示場のようです。私とは身分が違うと痛感させられます。
 さて、「覚王山(カクオウザン)」に相応しい庭園と歴史建造物をご紹介します。「揚輝荘(ヨウキソウ)」。ここを知っている方は名古屋人でも粋な方です。「五摂家(※)」の筆頭「松坂屋」の初代社長、「伊藤次郎左衛門祐民(スケタミ)」が別邸として、当時は約1万坪の広大な敷地の中に30数棟の建造物を構築しました。現在も北園6,500m、南園2,700 m(現在の基準地価換算35億円)が残り、名古屋市に寄贈され公開されています。北園の「池泉回遊式庭園」は無料で楽しめます。南園の「聴松閣(チョウショウカク)」は2階建て山荘風の木造建築で、各界の要人・文化人が往来する迎賓館・社交場として華やいでいたようです。玄関、廊下、床、壁、建具に様々な「意匠」が施され、一つ一つの案内に頷きました。地階には昭和9年「祐民」が「インド」を仏跡巡拝した時の思い出が詰め込まれ、異国情緒豊かになっています。ホールでは地元の演奏家により、フットライトの仕掛けがある舞台で、定期的にコンサートが開催されています。当時は社交界の「舞踏場」で、今も少人数の社交ダンスクラブに貸し出され、私も華麗な(?)ステップを踏んでみました。
 「像の木彫りの置物」が展示されていましたが、残念なことに、当時のインドで造られた物ではないようです。当時造られた像の彫り物は「縦の縞模様」が匠の業で彫られ、足元に「台座」があります。宗教的にも大事にされているはずですので、「揚輝荘」に相応しく当時の本物を飾るべきではないでしょうか?この施設は名古屋市に寄贈され市が運営していますが、大きな建物を作る予算の一部を回して手入れをすれば、インバウンドの方にも名古屋の本当の良さを解かってもらえるのではないでしょうか?
  ※ 名古屋財界を牽引し絶大な発言力を有す名門企業を「五摂家」と称します。「松坂屋」名古屋鉄道、東海銀行(現三菱東京UFJ銀行)、中部電力東邦ガスの5社で、何故かトヨタ自動車は入っていません。
 映画ファンならご存知のヘラルド映画創始者、「古川為三郎」はあらゆる事業に手を出して蓄財し、あらゆる慈善事業に拠出した豪快な方です。刀剣・絵画に造詣が深く、晩年になり収集した作品を「覚王山」の「古川美術館」で展示しています。令和2年正月の特別展示は「一富士二刀三美人」で、「美人画」が飾られていました。私は美術が大の苦手で作品の良し悪しは全く解かりませんので、一番の美人を探してみました。情景は皆違うのですが、顔の美しさで群を抜いている作品「春雪」(雪中の傘美人)がありました。作者は私でも名前を知っている「伊藤深水」で、何処とは言えないのですが、明らかに「美人度」に違いがあります。「美人度」で作品の評価が決まるはずもありませんが、不思議な気持ちになりました。
 併設の「為三郎記念館」では丁度お茶会が開かれ、廊下ですれ違う度に、先程の「美人画」を思い浮かべてしまいました。山水庭園には椎の巨木が数本あり、千両、万両が紅い実を付け、寒椿が咲き、喫茶室「数寄屋カフェ」で名物和菓子「夢寿夢寿」とお抹茶で贅沢な気分に浸れました。




2)電池の基礎:デンドライト発生表面移動律速説

 前回、負極「奥」部でリチウムイオン濃度が薄くなることが原因で、デンドライトが発生することを解説しました。大電流での充電を繰り返していると、正極からの直線距離は電極活物質表面より遠いが、集電体の銅が露出している部分にデンドライトが先に発生・成長する傾向があります。カーボン表面上と銅表面上とでSEIの特性が違い、抵抗が違うためと考えています。負極活物質「奥」部の希薄化だけではない原因もあると思われます。その一つが、リチウムイオンの表面移動律速説です。
 Fig.96では、リチウムイオンのカーボンへの挿入反応と、リチウム金属析出反応とを同じ傾きのターフェル直線にしましたが、全反応を素過程に分けると、
 @リチウム金属析出反応:Li(溶媒) ⇒<脱溶媒過程=Li+(溶媒)> ⇒+e =Li(metal) +(溶媒)
 Aリチウムイオン挿入反応:Li(溶媒) ⇒<脱溶媒過程=Li+(溶媒)> ⇒Li<表面移動過程>
                    ⇒+xC+e   =LiCx   +(溶媒)
 正極から溶媒和されたリチウムイオンは負極SEIを通過する時に、「脱溶媒」します。この過程は@とAは同じです。Fig.110左図に描いたように、析出反応@ではカーボン表面に到達したリチウムイオンは、析出電位を有する電子が供与されれば、@後半を起こし、金属として表面に析出し、いずれデンドライトとして成長します。なお、ここでSEI層と考えているのは、前述の「滓」層は含めていません。



Fig.110 仮説A 表面移動律速


 一方、Fig.110中央図に描いたように、析出電位より高い電位では、@は起きず、カーボンの層間・空隙に挿入するはずですが、到達した所に層間・空隙の「入口」がなければ挿入できず、層間・空隙の「入口」まで表面に沿って平衡移動してA後半の挿入反応を起こします。この平行移動は粒子(10μ以下)表面だけの短い距離でも、密なSEI層中で過電圧が必要になると考えました。この時の過電圧を加えて移動係数を0.3と仮定すると、ターフェル式はFig.111のようになります。Aの傾きが大きくなり、図の例では0.1mA/cm2付近で、@、Aの熱力学的平衡電位での差約100mVは無くなり、1mA/cm2付近では、@とAとは大逆転し、Aの電流は僅か、@の電流が大半になります。なお、Fig.110中央図・右図では活物質粒子を層状に記しましたが、ハードカーボンのようなランダムな空隙を有するカーボンでも同じことです。また、ハードカーボンでも電解液からの挿入面はグラファイト層間であると言われていますが、この考察ではグラファイト層間とする必要はないので、層間・空隙の「入口」と記載しました。



Fig.111 仮説A 表面移動律速のターフェル式


 この「表面移動律速仮説A」は、どこかの講演で聞き、上手く説明が出来ていると感心し、必ず紹介しています。講演会名・講師名の記録を紛失しオリジナルを紹介することが出来ず残念です。
 なお、このテーマとは関係ないのですが、全固体電池の固体/固体界面で、電極活物質結晶の配向と固体電解質結晶の配向とが一致しない時にも、同じ現象が起きると考えています。第3の酸化物を界面に介在させると、電荷移動抵抗が下がるのは、第3の酸化物が薄膜または粒子として析出し、固体/固体界面に表面移動の隙間を確保できたためではないかと推定しています。日本ガイシ(株)様の協力を得て、この思想を特許として出願してみましたが、先願ありで拒絶されました。(特願2013-87239特開2014-212010)。全固体電池開発の参考になるでしょうか?
 <結論>
  ・ SEIにより脱溶媒したリチウムイオンが、挿入できる層間・空隙の「入口」の位置まで、活物質表面を平行移動する工程の過電圧で、ターフェル直線の傾きが変わり、デンドライト析出反応が挿入反応に優先する。
  ・ 全固体電池の固体/固体界面でも結晶の異なる配向面を合致させる表面平行移動の過程があると推定した。




3)次世代電池:最新情報の整理

 「12月度」の雑誌・新聞記事について紹介及び所見を整理しました(Fig.112)。
 今月も注目すべき記事は少なく、日本の電池業界・学会が低迷し始めたのかも知れません。全固体電池もコイン型の発表で関心が湧きません。



Fig.112 12月度 新聞と雑誌記事の紹介と評価


 2019年度も終わったので、振り返って10大記事を選んでみました(Fig.113)。旭化成(株)吉野フェローがノーベル賞を受賞しました。トヨタ自動車がEV化を5年早め、その関連でパナソニック・中国電池メーカーとの協業が注目されました。テスラ動向はよく解りません。パナソニックPCの火災事故に対する判決・プラ廃棄場火災など負の側面が記事になりました。技術的な記事は、質・量共に少なく、日本の電池業界・学会の低迷を象徴しているのではないかと危惧しております。
 昨秋にKRIワークショップに参加しましたので調査報告書を作成しました(Fig.114)。例年は技術的に高い内容が多かったのですが、今回は低レベルで、手前ミソの企業宣伝と思われる発表を技術講演としていました。中国の方の講演だけは聞く価値がありました。最近はいつも日本メーカーにがっかりさせられます。
 今回は添付図が3図になったので、昨年秋の電池討論会報告は次回に延期します。



Fig.113 2019年度 10大記事



Fig.114 KRIワークショップ 参加調査報告




4)新規な電池理論:篩膜の計算

 空孔・空隙の壁に片持ちで安定に存在すると言う「片持ち論」を計算化学で立証できましたが、「新規な電池理論」成立には、リチウムイオンは通過するが、溶媒・溶質などが通過できない「孔・篩膜」が必要です。
 形状・構造・分子・分子量など実体と理論とが厳密に定義できているグラフェンで計算しました。グラフェンの6員環面はリチウムイオンが通過するには小さ過ぎると言われていますが、私たちの計算でも同様の結果となりました。Fig.115模式図で示すように、グラフェン構成の炭素を1個引き抜きます。1個引き抜くことで引き起こされる周囲の炭素原子の歪みは作図上では表現できていませんが、計算では全て考慮しています。おそらくは孔が小さくなっていると思います。Fig.115に示すように、炭素原子を1個、2個、4個と引き抜きました。この引き抜いたグラファイト面上の孔にリチウムイオンが安定に存在できることを、通過できるかどうかの判断基準にしました。グラファイト面からの距離を変えてその位置での安定化エネルギーを求めました。求めた安定化エネルギーがリチウム金属結晶生成の安定化エネルギーより高くなれば、その位置つまりグラフェン面を通過せずにグラファイト表面にリチウム金属結晶が生成するはずです。活性化エネルギー・過電圧は考慮されていませんが、この基準で十分と判断しました。



Fig.115 本理論に敵う「孔」を立証する計算モデル


 炭素原子1個を引き抜いた時の結果は省略しました。炭素原子2個を引き抜いた結果がFig.116で、グラフェン面からの距離「0Å」、つまりグラフェンの孔の中に存在する安定化エネルギーは、リチウム金属結晶の安定化エネルギーと同等になり、通過するのは難しいと判断できました。



Fig.116 炭素原子2個分の空孔通過の計算結果


 炭素原子4個を引き抜いた結果がFig.117で、グラフェン面からの距離「0Å」、つまりグラフェンの孔の中に存在する安定化エネルギーは、リチウム金属結晶の安定化エネルギーよりはるかに低くなり、ほとんど抵抗なく通過できることが判明しました。引き抜いた孔の歪みは計算していますが、Fig.117の模式図では表現できていません。
 <結論>
  ・ グラフェンから2個の炭素原子を引き抜いた孔をリチウムイオンは通過できないが、4個の炭素原子を引き抜いた孔はリチウムイオンが通過することが出来る。



Fig.117 炭素原子4個分の空孔通過の計算結果




5)昔話:NS氏慰労会

 この章は私の「昔話/リチウムイオン電池誕生頃の逸話」で、気軽にお読み下さい。
 年賀メールで元KN大ST氏より、懐かしい写真が送られてきました。貴重な写真とコメントされていたので、この写真を取り上げることにしました。2006年SN社の円筒型リチウムイオンがカムコーダー、ノートパソコン市場を独占していた時に、その最大の貢献者であるNS氏が定年退社することになりました。私はリチウムイオン電池の「産みの親」と尊敬しています。母か父かは解かりません。SN社とは別に、リチウムイオン電池、電池業界への貢献を考えれば、恩恵を被っている電池関係者でも慰労会をするべきではないかと考え、NS氏に企画を話した所、了解が得られ、「NSさんのご苦労さん会」を皆様にお声掛けしました。「KY大YK教授」など関西の方々をお誘いすべきかで悩みましたが、交通費を支払う予定はなく、失礼になると思い声をお掛けしませんでした。中心人物の「NM社OT氏」は台湾に拠点を移されており、都合が付かず残念ながら出席出来ませんでした。皆様がNS氏の功績に敬意を払われていたこと、当時 (2006年7月5日) では素晴らしいメンバーが集まっていたことが解かります。(※当時の所属で、敬称は略しました)
 <SN社NS氏>主賓
 <SS大ED氏>代表してご挨拶をして頂きました。一番古い知り合い。「第13回1)はじめに」でノーベル賞候補者として紹介。負極導電剤VGCFの発明者、転じてCNTの製法発明者。遠方より自腹で来て頂きました。
 <KN大ST氏>乾杯のご発声をお願いしました。冒頭の年賀メール発信者。アルカリ系2次電池の専門家、NiZn電池商品化にも挑戦された。上司TM氏、部下KD氏と親しかった縁で今でも懇意にさせて頂いています。
 <AS社YN氏>LIBの最初からの知り合い。誰もがご存知の方。アルミ集電体特許にはギブアップしました。
 <MB社MR氏>電解液の専門家。有機化学に疎い私に何時も解り易く丁寧に教えてくれました。
 <TM社HY氏>最初に相談した方。充電器メーカーの営業担当。会社を転々とされ、今は独立されています。
 <SS社AH氏>当日の世話役、冒頭の写真を撮りました。私の後輩。SS社で全固体電池開発に活躍中です。
 <HS社TG氏>電池開発用材料・器具の商社。LIB以前からの知り合いで、人の紹介もしている。業界の主。
 <同社TD氏>飲み会では帰路が同じなので度々送っていただきました。HS社で今は役員。
 <UB社YT氏>電解液事業を立ち上げ大成功した。VC添加の提案者と思います。今は大学教授。
 <IT社TS氏>市場・技術調査レポートがLIB市場を牽引し、LIBの盛況を見越し、若くして独立された。
 <RK社OS氏>ポリマー電池で有効な特許をお持ちで、その後大学教授。委託元の紹介でお世話になった。
 <ES婦人>司会進行をお願いしました。
 <佐野>雑用係。
 皆様第1線でご活躍のお忙しい時に、万難を排して一堂に会することが出来たのは、NS氏のリチウムイオン電池への貢献への慰労であるという主旨に賛同されてのことで、主催者として嬉しくなりました。新橋の老舗の中華料理店にSN氏提案のクールビズ・スタイルで集合しました。ED氏の代表挨拶、KT氏の乾杯のご発声で開宴し、皆様より順番にNS氏への感謝の御言葉をいただき、「蘭」のブーケを贈呈しました。宴もたけなわに、主賓NS氏からリチウムイオン電池開発に関わる「高尚な話」をしていただき、最後に「YN氏」のご挨拶で散会しました。なお、2テーブルに別れたためにNS氏と十分話が出来なかった方には申し訳なく思っています。
 当時はSN社が独占的地位にいましたが、携帯電話が市場の主流になった時に、円筒での成功に慢心して角型に乗り遅れたためにSY社にトップの座を譲り渡し、今ではMT社に事業を譲渡してしまいました。NS氏のお気持ちを推し量ると残念で堪りません。SN社がもう少しリチウムイオン電池の現代社会への貢献度、その産みの親であるNS氏を正しく評価し、ノーベル賞受賞の宣伝効果を活かすことを考え活動すれば、ノーベル賞の日本人ダブル受賞も実現したのではないかと思っています。



6)おわりに

 1)名古屋の知る人ぞ知る揚輝荘・古川美術館を紹介しました。
 2)デンドライト析出の原因として、「活物質表面平行移動律速」仮説を解説しました。全固体電池の固体/固体界面に適用できるかもしれません。次回は「金属化先行」仮説を解説します。
 3)「12月度」の雑誌・新聞記事の紹介と評価、2019年度10大記事、KRIワークショップ参加調査報告書を掲載しました。次回は昨秋に開催された「電池討論会」の発表を要約します。
 4)グラフェンから2個の炭素原子を引き抜いた孔をリチウムイオンは通過できないが、4個引き抜いた孔を通過することが出来ることを立証しました。次回はその孔を溶媒が通過できないことを計算します。
 5)2006年に7月に開催されたSN社NS氏の「NSさんのご苦労さん会」の思い出を記載しました。



第16回(2020/1/14)



1)はじめに:初詣・イルミネーション

 新年おめでとうございます。元旦、近所の神社に初詣をしました。以前は「天祖神社」と呼んでいましたが、昇格して「神明宮」と名前が変わり、全国唯一の厄除け(八難除)のパワースポットと知られてからは大変な混雑です。参拝者の6列とは別に、観光地としての寺社では当たり前ですが、「令和初」のご朱印を求める2列の長い行列ができていました。配られている甘酒も200円で、無料だった「天祖神社」時代の素朴な初詣が懐かしくなりました。
 今年は「オリンピック」年、開催地東京を守るお寺をご存知ですか?
 東京(江戸)への災厄に備え、東西南北中央の五方位に「五色不動尊(青・白・赤・黒・黄)」が配置されています。
 目青不動=教学院、目白不動=金乗院、目赤不動=南谷寺、目黒不動=瀧泉寺、目黄不動=永久寺・最勝寺
 東京の安寧とオリンピックの成功を祈り、オリンピックの五輪(青、黄、黒、緑、赤)に掛けて、「五色不動尊」をお参りしました。目黒、目白、目赤の「三不動」は江戸の名所として史実にありますが、目青と目黄とを加えた「五色不動尊」は、将軍家光の時代に成立したとも言われていますが史実では確かめられていません。昔の場所からは移動している寺もありますが、現在も東京を取り巻くように配置されています。黄色の寺は2寺あるのが不思議ですが、「本家争い」をしている様子はありません。「目黒不動尊」以外はいずれも目立たない小さな寺でした。5円玉のお賽銭をあげ、住居の玄関の呼び鈴を押し「ご朱印」をいただきました。私のご朱印集めは流行する以前からで、母との旅行中に真似をして始め、既に3冊目と筋金入りです。オリンピックとの五輪つながりで五色不動尊の人気が高まれば良いと思います。
 途中は「都電荒川線(東京さくらトラム)」に乗りました。ゆっくりした速度ですが、大都市東京のど真ん中を車と並んで走る優雅で不思議な景色でした。排ガスがないので都会に適していますが、道路の利用効率から考えると、電気バスの方が正解だと思いました。
 年末に、国内最大と称する東海地区では最も有名な「なばなの里」イルミネーションを観に行きました。数年前に母を連れて行った時に、「今まで案内された観光地で一番良かった」と喜ばれました。有名な神社仏閣・観光地にはほとんど連れて行きましたが、それまでには観たことがない新鮮な光景だったのでしょう。寒い中うっとりと眺めている様子に嬉しくなりました。その後も訪れる度に、名古屋発ノーベル賞のLED照明、特に白色・青色LEDが増え、冬の雪景色が見栄えがするようになりました。今年も桜をテーマに葉・花弁一枚一枚に3原色のLEDを仕込み、サーチライトによる「反射光」ではなく、「自己発光」して季節により色を変えています。遠過ぎて個々のLEDが点滅している細やかな変化は観ることができず少し不満が残りました。トンネルあるいは周囲にもLEDがふんだんに使われており、LEDの「自己発光」に因る華美な世界は素晴らしい演出でした。
 名駅近くの「笹島」の小規模イルミネーションでも、同じ仕組みで模型の桜の葉にLEDが埋め込まれ、音楽に合わせてわせて7色の変化をしています。間近に高度なテクニックが解り、技術屋としては惚れ惚れする「匠の技」でした。このような感想も技術馬鹿だからでしょうか?(笑)。
 イルミネーションによる町興しは、地元清須市でも今年初めて商工会青年部の企画で、1989年に建設された清須城周辺の桜の木に、満開の桜をイメージしたピンクのLEDを巻き付けて点灯し、幻想的な雰囲気を作り出しています。若いカップルに頼まれ、お城を背景にスマホのシャターを押しました。
 来冬からは、リチウムイオン電池+LEDを搭載したドローンが夜空に飛び交うのではないでしょうか?




2)電池の基礎:放電曲線の解析

 前回、負極「奥」部でリチウムイオン濃度が薄くなることが原因で、デンドライトが発生することを解説しました。少し横道にそれますが、同じ理由で電池に起こる典型的な現象を解説します。
 シュミーレーション理論あるいは律速段階を扱う電気化学が、電池屋からすると何時も痒い所に手が届かないと言う感じがします。つまり役に立たないことが多いと思っています。
 第2回2)項で掲載した低率、高率放電の定電流放電曲線Fig.9を、正極「奥」部でリチウムイオン濃度が薄くなる現象を加えて解説します。Fig.104は正極「奥」部で濃度低くなった時、電極表面ではなく「奥」部の平衡電位がネルンスト式に従って変化することを紫色の曲線で示しました。無論、測定電圧は正負両極間の電圧だけですから、この電位は測定できません。低率放電の場合には、リチウムイオンの供給量は電気泳動だけで足り、リチウムイオン濃度の希薄化は起きません。高率放電の場合には、電気泳動だけではリチウムイオン供給量が不足し、電極活物質細孔中のリチウムイオン濃度が希薄化し、拡散による駆動力が加わります。リチウムイオン濃度の希薄化により、イオン伝導度の減少と併せて、電極「奥」部反応面でネルンストの式に従い、Fig.104の紫色の曲線で描いた平衡電位に変化します。紫色の曲線で描いた平衡電位を基準に放電がされ、極端な場合には電極「奥」部の濃度が0近辺になり、大きな電圧ドロップが生まれ下限電圧に到達し放電終了になります。
 この段階で、表現としては正極の容量が無くなったことになります。しかしながら、正極を取り出し新鮮な負極・電解液とで電池を組み試験をすると、全く正常に動作します。つまり正極活物質自体は劣化していないが、正極が貯蔵出来る容量が減少したと言うことです。
   @ 電極が微細化を起こし、脱落・孤立化して活物質容量が減少する。
   A SEI形成によりリチウムイオンがリチウム化合物(デッドリチウム)に変わり、正極に戻れるリチウムイオン量が減少する。
   B 正極活物質中の細孔がSEI「滓」により細くなり、正極「奥」部で電解液の希薄化が起き、電圧減少により放電出来なくなる。
 この内@は経験がありません。1000サイクル程度では日本メーカーの材料では起きないと思います。Aは充放電電流・ファラデー電流から見れば誤差内であり、放電容量減少の理由になりません。
 Bは電解液中のリチウムイオン移動量が十分でない設計では一般的な現象です。この電池の電解液を新品にして電池を組み直すと、活物質は死んでいないことが実験で確かめられます。電池メーカーでは昔から行われていた正極・負極劣化原因を決定する実験手法です。大学ではこの手法を余り使いませんが、友人のNG大SN教授がマンガン正極電池の劣化はマンガンの溶解に因る電解液分解の促進が理由であることを、この手法を上手に利用して解明に成功しています。さらに、この劣化の場合には下限電圧に到達した電池を、一度開路にし休止を挟み、電流を1/10にして放電すると相応の容量が取り出せ、更に1/100で放電すると更に容量が取り出せ、これらの容量を合算すると本来の設計容量に近い電気量が取れ出せます。つまり、正極活物質は全く劣化していないと言うことになります。(コラム読者から質問がありましたが)電動自転車で坂道が登れなくなり押して歩いて、しばらくすると再騎乗出来る現象です。
 なお、「低温」高率充放電試験ではこの電極内部の電解液の希薄化がさらに重要なことを引き起こします。住化分析センター様が−10℃の充放電試験で、放電では正極、充電では負極で、電極「奥」部で電解液が「凝固」している様子を、in situ顕微鏡で上手く観察しています。「凝固」すればイオン移動が停止し電流が流れないのは当然です。初期投入した濃度(1mol/l)では凝固しないはずが、充放電により凝固することがあると言う折角の貴重なデータが、電池性能・充放電特性との関連性で活かされていないのが残念です。電解液凝固点と塩濃度との関係データと関連付ければ、低温での極端な放電量の減少、充電でのデンドライト発生が明確になるはずです。友人の電解液専門家に問い合わせたのですが、「塩濃度と凝固点上昇」に関し提供できるデータはないようでした。電解液塩、PFのメーカーに問い合わせるべきでした。「凝固点上昇」は、電極「奥」部希薄化の証明にもなる重要なデータですが、電池性能・充放電特性と関連付けた考察が未熟で「宝の持ち腐れ」です。残念!
 蛇足ですが、電池開発名目の「税金」を使って高度(高額)な観察・計測をして装置の高性能さを唄い、得られた結果と電池性能との考察をしていない自己満足の研究には、納税者として大きな疑問を感じます。また、交流インピーダンス測定の自称プロが、低温での極端な容量減少に関する質問に対し、電荷移動抵抗の増加で回答していました。電解液希薄化さらには電解液凝固の可能性を想像せずの電池反応解析は如何なものでしょうか?チコちゃんではないですが「ボーっと生きてんじゃねーよ!」と言いたくなりました。
 劣化診断をする場合に、この現象を理解しないと「突然死」で驚くことになります。この現象を無視して「中古電池」を再利用しようと言うビジネスが進められていますが、「突然死」が起きた時にユーザーにどのように説明するのでしょう。第4回2)項Fig.22で例示した一般的な劣化だけで寿命判断し、リチウムイオン電池の特性「突然死」を全く考慮していない「乱暴な」中古品ビジネスで、リチウムイオン電池は中古では使えないと言う悪い評判が立つことになると心配しています。「突然死」はリチウムイオン電池では「想定内」の不具合ですから、「裁判沙汰」になればシステム提供者は「敗訴」する覚悟をするべきです。最悪「発火」すれば、第7回2)項に記載したように、「お灸」を据えられることになるはずです。
 なお、この「電解液希薄化」を、外部の正負極端子での電気測定で検知できる方法を考案しました。実際に電池試験で確認したいのですが、どなたかご協力していただけませんでしょうか?もちろん実証出来たら共同出願にさせて頂きます。



Fig.104 「奥」部希薄電解液の平衡電位


<結論>
  ・電極「奥」部でリチウムイオン濃度希薄化が起き、急激な容量減が起きる。「突然死」原因の一つです。
  ・電極「奥」部希薄化を正負極端子だけで測定する方法を実証したいので、ご協力して下さいませんか?



3)次世代電池:全固体電池・硫化水素発生

 「11月度」の雑誌・新聞記事について紹介及び所見を整理しました(Fig.105)。例年秋は記事が多いのですが、今月は質量ともに貧弱です。偶々であれば良いのですが、日本の電池学会・産業界の衰退を現しているのではないかと危惧しています。




Fig.105 11月度 新聞と雑誌記事の紹介と評価

 TK大KN教授から液体並みのイオン伝導性を発揮する硫黄系固体電解質が衝撃的に発表され、TY社が本格的に実用化研究をしていることが衆知となり、国を挙げて注目されることになりました。NEDOのLIBTEC内に大型プロジェクトが発足しました。
 上記発表があった時に、OF大TM教授が昔からイオウ系固体電解質をされていること、2005年頃にPN社の〇○氏(お名前を忘れたがNM機構TD氏の元上司)からゴムに包まれた全固体電池を見せていただいたことを思い出しました。1995年頃に次世代電池の検討をした時、上司IB部長が断念したNAS電池、住友電工潟激hックス電池、金属負極空気電池などを検討した時に、固体電解質も検討しました。結論は、酸化物系は固体/固体の接触がブレークスルー出来ない。硫黄系でのイオン伝導度はOF大TM教授の研究で可能性があり、固体/固体接触も〇〇氏のゴム弾性手法で可能性はあるが、製造ライン・廃棄・事故時等に有毒ガスである硫化水素発生の可能性があり、「人命に関わる電池は開発・製造しない」と言う社是から外れるので、研究対象から外すとの結論を出しました。イオン伝導性が向上すると構造が不安定化し、硫化水素は発生し易くなると言う相反する性質があると考えています。
 <有毒ガス硫化水素素発生について>
 硫化水素発生については問題がないとの主張があります。
  @ イオン伝導度向上を目指す研究者から、硫化水素発生について「納得のいく」説明が得られない。
  A 国プロ、NEDO/LIBTECでもほとんど注目されていない。
  B 実用化で先行しているTY社関係者は、(私の想像では)強固な鉄箱に閉じ込める等、事故時でも水分とは接触しないようにする機械的に封じ込める対策に自信がある。
  C 極群は密着しているから水がかかっても、一気には硫化水素が出ないので、環境中では高濃度にならない。
  D 廃車後は100%回収・適切な処分をするから、民生用のような廃棄時・後の問題は起きない。
 一方、老舗のOF大TM教授は硫化水素発生を懸念し、Sb添加などの抑制方法を発表しています(Sbも毒性無しとは言えませんが)。イオン伝導度が上がる材料を提案する時には、毒性・硫化水素発生が増えないことを実証し併記すべきです。



Fig.106 全固体電池開発の意義

 Fig.106に全固体電池開発の意義を整理し表にしました。
 「全固体電池」においても電池本来の貯蔵電気エネルギー量の増大を目的とするべきで、液から固体にすること自体を目的とすることは本末転倒です。1990年代・固体電解質を検討した当時は、「高分子固体電解質(SPE)」の時にも言われた「ホッピング伝導機構ではデンドライトは固体の中で成長しない」と言う仮説が普及していたために、「金属負極の実用化」を目的としました。しかし、SPEでの失敗で「ホッピング伝導」によるデンドライト抑制に疑問を持っていたので、ME大IM准教授に「固体電解質でデンドライトが止まるは本当か?」と伺った所、「内緒だが止まりそうもない」と言われました。その後学会でも発表され、今では固体電解質でも「デンドライトは止まらない」との認識が定着しました。つまり、金属負極実現と言う観点では、全固体電池は意義がない事になります。
 固体電解質は物質を溶解する性質がないので、液系では溶解するために実現できない高容量活物質「硫黄」正極は、全固体電池開発の目的に相応しいと思います。私はこの活物質について知見がないので解説することが出来ません。是非とも、全固体電池で「硫黄系」活物質を採用し、高エネルギー密度電池を開発し、中韓より早く特許を取得することを願っています。前述のPN社は当時多硫化硫黄系活物質の研究を熱心にしていたので、全固体電池の研究もその一環として行われたのだと思っています。次回は、昨年の電池討論会発表も含め、その他の革新材料と固体電解質との関連性について解説します。
<結論>
  ・ 電解液から固体電解質に変えること自体は無意味である。
  ・ 硫化水素発生を考慮した上で、エネルギー密度向上ができる電極活物質を実現するために、全固体電池を開発するべきである。



4)新規な電池理論:外側配置片持ちモデル

 リチウムイオンが「カーボンナノチューブ(CNT)」内で安定に存在出来る位置を、中心からの距離を規定して、平面から立面まで計算し、さらに外側にも配置して計算した結果、現行グラファイトLiCの少なくとも3倍の容量LiCが得られることが立証されました。
 Fig.107は現行グラファイト及び片持ち論でのリチウム貯蔵を平面に簡素化した図で、グラフェン間が現行グラファイトの層間の2倍程あれば、片持ち論が成立する様子を図説しています。無論クラスターのようなイオンの塊は存在しません。



Fig.107 現行グラファイトと片持ち論モデル

 Fig.108.左図では、さらに理想的な片持ち論モデルを図示しました。この図を観て、研究者協力者のKT氏は「子持ち昆布」と名付け、共同研究者KT大TB教授は「名は体を表している」と喜んでいました。複数のグラフェン間の空間に電解液が浸入すれば、SEI・滓の形成によりリチウムイオンは動けなくなり、理論として成立しても電池としては無意味で、右図のように2次粒子が篩膜で覆われている必要があります。
 現状の学会などで認識されている「両持ち論とクラスター論」は否定できましたが、リチウムイオンは透過するが、陰イオン・溶媒分子などは通過できない篩膜で覆う必要があります。次回は、篩膜が存在することを計算で証明します。
<結論>
  ・ 「両持ち論とクラスター論」を否定でき、現行グラファイトの3倍容量が得られることを立証した。



Fig.108 片持ち論・篩膜モデル



5)昔話:ラミネートシール その2

 この章は私の「昔話/リチウムイオン電池誕生頃の逸話」で、気軽にお読み下さい。
 富山のパップ剤製造ラインでラミネートシールを見学した時に感じた懸念が当りました。電池には端子があり、そこでシール不良が起きることが直ぐに判明しました。
 Fig.110図のようにアルミ端子に接着剤アドマーを貼り付け、それをアルミラミネート内張り内壁のポリプロピレン(PP)と融着します。接着剤には、PPが金属との接合手を持たないために、コロナ放電処理、酸不可処理などの方法で水素結合基を付加してあります。この接着強度の良否はPP母材と比較して頑丈であれば良で、接着面の剥離試験でPP母材より頑丈です。しかし、接着面での密封性、水分の遮断性は保証されていないので、この接着面、図中、茶色破線部(・・・)を通して水分が外部から浸入すると考察しました。電解液を入れないでリチウム金属を袋内に入れただけでは、重量増は増えず、接着面を通して浸入する水分は致命的ではありません。電解液を入れると、シール性が大きくバラツキ、不良が再現できました。電極のSOC状態には依存しません。ただし、ほとんどシール性能が低下しない結果も得られ、接着方法にも原因があると推定しました。
 Fig.109 茶色破線部(・・・)から浸入した水分と電解液は化学反応し、フッ化水素を生成し、生成したフッ素イオンがアルミナ膜を孔食します。水分・電解液の浸透量が増加し、結果としてシール不良になると考察しました。
    3LiPF + 12H0 ⇒ LiPO + 18HF + 2HPO
    6HF + Al     ⇒ 2AlF + 3H
 Fig.109図、A図とB図はシール部の位置が違っています。図Bのように、電解液と水分が狭い所で共存すると、酸性が強くなりアルミナ膜の腐食は多くなります。
 ラミネートシールは角型、円筒よりは簡便に作製できるので、材料実験で電池を作製する場合に採用されていますが、充放電サイクル試験結果の考察で、シール不良の結果を材料の結果と混同している例を度々見掛けます。寿命試験の場合にはラミネートセルでの水分透過量について十分に検討するべきです。
 次回は、展示用に納入した電池で不具合が発生した事例を、思い出して記載します。


Fig.109 端子タブシール不良構造

6)おわりに

 1)初詣・五色地蔵尊・イルミネーションを記載しました。
 2)高率放電で容量が減少する電池特有の現象さらには「突然死」を、電極「奥」部のリチウムイオン濃度希薄化で解説しました。次回はデンドライト「活物質表面移動」律速を図説します。
 3)液から固体にすることには意味がなく、エネルルギー密度向上を目的とし、硫化水素発生を考慮して、全固体電池を開発するべきであると指摘しました。
 4)現行グラファイトの3倍容量が得られることを立証しました。
 5)電極端子部でのシール不良について図解しました。



第15回(2019/12/6)



1)はじめに : 四季桜と紅葉狩り

 「12月12日」は何の日かご存知ですか?「バッテリーの日」です。1、2を野球の守備位置で書くと、投手と捕手です。投手と捕手を英語では「バッテリー」と言いますから、語呂合わせで「バッテリー=蓄電池」の日と1991年に電池工業会が制定しました。毎年スポーツニッポン新聞社と共催で「最強のバッテリー」表彰をしています。今年のセリーグは巨人山口投手と小林捕手、パリーグは西武増田投手と森捕手です。
 秋も深まり、紅葉狩りに「三重県御在所岳1212m」に行きました。数年前に休日に行ったことがあるのですが、かなり手前のファミレスで昼食を食べUターンして帰りました。とにかく物凄い渋滞で知人に話すと、早朝6時前に家を出ないと話にならないと言われました(笑)。今回は暇人の特権で平日に再挑戦し成功でした。日没が速いのでハイキング(約9時間)は予定せずロープウエイに乗り、天空から眺める中腹の紅葉は見事でした。山頂付近は盛りを過ぎていましたが遊歩道を散歩し、運が良ければ「カモシカ」に会えると楽しみにしていたのですが、その希望は叶いませんでした。展望レストランで菰野町の名産「真菰(マコモ)」の葉を練りこんだソフトクリームを食べ、険しい登山道に来春の挑戦を誓って帰りました。
 「カモシカ」と言えば、梅雨の終わりにハイキングの練習のために、小雨の中を鳳来寺山の階段を登り、下山後仏法僧で有名な自然科学博物館駐車場で帰り支度をしていると、灰色の獣が見えました。静かに近付き話し掛けると、振り向いてじっと私を見詰めていましたが、渓谷に降りていきました。突然のことで慌ててしまい写真を撮り損ないました。狸よりは大きいし、鹿にしてはグレーだし、きっと「カモシカ」だと思いましたが、人家がある村外れに「カモシカ」がいるとは信じられず、自然科学博物館で飼育していると思い電話で確認すると、「非常に珍しい偶然です。確かに近所に2匹生息しています。ゆったり動いたのなら、年寄りの方です。」と、明るい声で館員から返事を貰いました。不思議に得をした気分になりました。
 豊田市「小原の四季桜」を観に来ました。1820年頃に植樹されたのが初めでこの地区には約10,000本植えられ、10月下旬に小さな桜を咲かせ、紅葉とのコラボレーションを見せてくれます。平日でのんびりと絶景エリアの遊歩道を歩いていると、数組の若い女性グループが写真を撮っていて、話声は皆中国語です。韓国美人は余りいませんでした。日本人、名古屋人さえ知る人が少ないひなびた観光地に、大勢のインバウンドの方が来ていることに驚きます。駐車場の大型バスは中国語の大きな字でペイントされていて,一目で中国の方専用のバスと判ります。中国恐るべしと思い知らされます。小原ふれあい公園では大道芸が演じられていて、楽しみにしていた「へぼ飯」(蜂の子の混ぜご飯)は売り切れでした。数年前に老母に珍品だからと勧めましたが、顔を背けられました。その時に耳慣れた演歌が聞こえてきました。親友の売れない作曲家が書いた曲「夕影の人」で、こんな所で聞くとは本当に驚きました。カラオケの好きな方はDAM6113-01、社交ダンスならルンバに編曲されています。
 東海地区の紅葉狩りの究極は、約4000本のモミジの香嵐渓です。今年の紅葉は1週間程遅れたようで、紅葉も気象変動の影響を受けているのでしょうか?11月中旬から冷え込みが始まり一気に色付いたようです。夕陽に照らされて赤や黄色に輝く様は見応えがあります。ここでは名所故か家族連れが多く、日本人も負けずに賑やかです。ライトアップが始まると、ライトで輝くモミジが自然光とは異なり一層派手になります。今回はライトアップが目的で夕方に来たので、飯盛山途中の香積寺で引き返しましたが、次回には飯盛山に登り、全山が燃え上がる景色を見たいと思いました。


2)電池の基礎:デンドライトの電気化学(2)ターフェル式

 「電気化学」を習った方には復習です。大学で習ったことを思い出しながらですので、間違いはご容赦願います。
 電気化学で電流と電位との関係を表す基本的な公式がターフェル式です。
   電極電位 : η = E ― E0= a +b * log(i)
        b = RT/αnF  α:移動係数と呼ばれる反応方向の分配係数:0<α<1
   α=1であれば、b=約60mV、α=0.5であれば、b=約120mVで、Fig.95のようになります。
      ※ この記述には自信がありません。調べ直したのですがよく解らなくなりました。
        数値でなく増減関係の記載は正しいはずです。
 電極反応場でのリチウムイオン濃度が異なる1mol、0.01mol、0.0001molつまり100倍、10000倍薄くなった時のターフェル式を平行線として図示(Fig.95)しました。イオン濃度との関係は、カーボンへのリチウムイオン挿入反応もデンドライト発生反応も同じです。
   負極反応:リチウムイオン挿入反応: Li+(溶媒) +C6(グラファイト) +e- ⇒ LiC6 +(溶媒)
   副反応 :リチウム金属析出反応 : Li+(溶媒) +e- ⇒ Li(金属) +(溶媒)



Fig.95 ターフェル式:電位と電流密度



Fig.96 電解液希薄のデンドライト発生


 リチウム金属析出反応のターフェル式は、Fig.96の青色の直線です。セパレータ側のカーボン表面では濃度変化は起きないので、リチウム金属析出反応はこの電位で変わらずに反応が進行します。一方、集電体に近い電極「奥」部の活物質細孔で濃度の「希薄化」が起きると(例えば10分の一)、電流―電位曲線は120mV移動します。挿入反応の電流値はまだ析出反応の電流値を上回っていますが、析出反応も起きています。電極活物質層「奥部」が1000倍希薄0.001molであれば挿入反応は1mol時より右側に360mV移動し、析出反応よりはるかに右側に位置します。3.37Vの電位を例に取ると、挿入反応は0.8A程度であるのに、「金属析出反応」は10A程度、つまりほとんど「金属析出反応」が起きます。この状態の電池はリチウム金属電池です。
 この電極活物質層「奥」部で濃度が薄くなるという概念は、電池の専門家は受け入れ易いのですが、表面的に理解しただけの理論の専門家には理解できないようです。交流測定で解説する時に実際の電池の挙動を反映していないとの疑問に対し何の答えも出来ないのは、この実際の通電により電極活物質「奥」部と表面とで濃度差が生じていることを考慮しないからです。実際に電極厚み、充填率=細孔体積などを変えた実験をすれば、高率充放電、低温充放電特性が大きく変化していることを実感します。中味を解らずに、交流測定で解かったつもりになり電池設計をすれば、デンドライトショートで「大クレーム」になります。電流、細孔径、細孔体積、電解液特性などを組み合わせれば、電極活物質「奥」部の濃度について定量的な数値解が求められるような気がします。是非実電池に役立つ理論に興味がある方は方程式を立てて検討してみてください。
 Fig.97は、活物質「奥」部の電解液希薄化によるデンドライト析出の様子を図説するために、「第11回Fig.65 デンドライト析出模式図」を書き直しました。不適切な充電をすると電極「奥」部でリチウムイオン濃度が低く、極端になると濃度が0近辺になり、その位置に電極活物質が残っていても充放電は出来なくなります。正極では放電時に起き高率放電で理論容量が取り出せない理由です。負極では充電時に起きデンドライト発生の理由です。
 低温特性で、極端に高率放電特性が低下、あるいは負極上にデンドライトが発生する場合がります。Fig.97―図5のように、極端に塩濃度が低下すると、凝固点が上昇し、1molでは凝固しない温度でも、凝固している可能性を考慮する必要があります。知人に、電解液中の塩濃度と凝固点上昇のデータ探しを依頼しましたが、見つかりませんでした。どなたかデータをお持ちの方は教えていただけませんか?
     <各種電解液/塩濃度/凝固点>
 <結論>元々の濃度、つまり電極表面での濃度に対し、電極活物質「奥」部が1桁薄い濃度になれば、「リチウム金属析出」が電極表面で起こる、3桁低い濃度になれば、「負極反応電流」はほとんど「デンドライト析出・成長」になります。




Fig.97 電極「奥部」希薄化起因のデンドライト発生

3)次世代電池:合金系負極の課題解決法

 「10月度」の雑誌・新聞記事について紹介及び所見を整理しました(Fig.98)。
 「京セラ(株)」が派手な発表をしました。「KRIワークショップ」で取り上げられているので別途報告しますが、直観的には鉛蓄電池での「極板製造工程(練塗行程)」と同じと思います。「バインダーレス」にするために、鉛蓄電池で成功しているように集電体を格子、穴あき、エクスパンド形状にして、活物質同士で集電体を挟むような工夫がされているかもしれません。「太陽電池」との組み合わせで住宅用だから急速充電の心配はないし、急速放電の必要もないと言う「使用制限」で成り立つ電池と思われます。1次電池とは違い2次電池では、ある速度の入出力、充放電を出来る設計にすべきで、使用条件を厳しくしてユーザーを制限する電池はビジネスとしての発展はないと思います。鉄オリビンで安全と言っても、市販の急速充電器で受電されて大丈夫でしょうか?
 吉野さんのノーベル賞は電池関係者また旧知の方の受賞で大変喜ばしく、私にも何故かお祝いのメールが10通ほど届きました。西さんとのダブル受賞でなかったのは残念ですが、所属機関の応援の差を感じました。
 「秋の電気化学会」第2日目の要約を作成しました(Fig.97)。「負極亜鉛」が国プロでも取り上げられ、今回発表が増えてきていますが、昔から乾電池の2次電池化と言うテーマで多くの研究者が失敗しています。前述のように私もニッケル亜鉛2次電池でデンドライトショートのクレーム処理をした経験があります。昔失敗した解決策に類似した研究では解決できないと思います。フッ化物系は現状では全く評価出来ないが、このような企業では認められないような成果が見えない研究は国プロでする意義があると応援します。
 <余計なことですが>今回も国プロ関係で高度なつまり非常に「高価な」装置を使って、従来想像しかできなかった現象が実際に計測できたと言う発表が多数ありました。製品開発に繋ぐ意識がなければ、経産省の資金援助でする意義はないと思います。




Fig.98 10月度 新聞と雑誌記事の紹介と評価



Fig.99 2019年電気化学会秋季大会 第2日目

 シリコン負極は体積変化が大きく、実用化できないと指摘しましたが、その解決法を提案します。Fig.100に図示するように、充電により体積膨張した状態の大きさ・形状に、Si合金粒子を篩膜で被覆します。篩膜の目は「リチウムイオンは透過するが、電解液は通過できない」サイズの網目を持った篩膜とします。充電時にはリチウムイオンは通過するので、篩膜内部でSi粒子と合金化し安定貯蔵出来ます。放電時は合金からリチウムイオンが離れ、篩膜を通過して外部で溶媒和されます。この間篩膜の内部に電解液が浸入しないことが重要です。浸入すれば、Si合金周囲にSEIが出来てしまい、放電により剥離し「滓」となり、篩膜の内側に「滓」が充満してリチウムイオンは動けなくなります。なお、中空状態の膜は非常に難しいので、SiLi合金になった、つまり充電状態の活物質を出発物質として、それを篩膜で覆う行程の方が良いでしょう。疑似的に補助材料で合金サイズにして後に除去すれば、より現実的な製造工程と思います。
 この考え方は、第4項の「新規な電池理論」の延長で思い付きました。篩膜にはアモルファスSiOI、SiCxが候補になります。



Fig.100 Si合金極の膨張収縮の解決方法


4)新規な電池理論:外側配置片持ちモデル

 リチウムイオンが「カーボンナノチューブ(CNT)」内で安定に存在出来る位置を、中心からの距離を規定して、平面から立面まで計算しました。リチウム個数で換算すると、「LiC6」は確実、「LiC4」が可能性ありの結果が得られました。さらに高容量化を得るために、カーボンナノチューブの外側、いわゆるカーボンナノチューブ技術用語で「バンドル」と呼んでいる空間を想定しました。カーボンナノチューブを電解液に浸漬すれば、充電時にカーボンナノチューブから供給される電子により電解液が電気化学反応で分解しSEIが形成され、いずれ「滓」となり、電池としては使えなくなります。本計算では、カーボンナノチューブ間の「バンドル」も後述する「篩膜」により電解液と接触しない環境が成立しているとして計算しました。「篩膜」がある条件下での計算であることが大前提です。
 Fig.101に図示されるように、カーボンナノチューブの外側にリチウムイオンを配置しました。内側のリチウムイオンとの位置関係を2種、リチウムイオン数を2個と4個の配置条件でカーボンナノチューブ壁からの距離に応じて、0.01nm毎に計算しました。無論この計算においても「金属リチウム」が析出しない範囲で、第8回第4項で計算した「金属リチウム」の安定化エネルギーも図示しました。




Fig.101 外側配置片持ちモデル


 Fig.102、103の結果のように、カーボンナノチューブ壁から2〜3nmの位置で安定に存在出来ることが判りました。つまり、カーボンナノチューブの壁の裏表に存在することが計算化学では立証できました。この外側配置の計算でも「リチウム金属」ではない、独立した「リチウムイオン」が存在できることを示しており、「クラスター論」の誤りを立証したことになると考えています。
 この結果をリチウムイオン個数に換算すると、「LiC2」になり、重量エネルギー密度では、現行グラファイトの「3倍」になります。グラファイトは体積効率が良いので、体積エネルギー密度では、「2倍」程度と推定しています。ギリギリですが、「次世代負極」としての要求性能は満たしていると思います。
 昔話の項で書くべきことですが、この計算をしていた頃に、国プロ延長に対し、当時そして今でも学会で主流になっている「クラスター論」が大きな障害であり、計算だけでは翌年度の支援が受けられないことが判ったのですが、「時既に遅し」でした。NEDOの指示により資金稼ぎのために無理矢理「実験計画」を提出しました。電池実験の専門家である私が、出来もしない「実験計画書」を書くことに人生最大の悔しい思いをしました。今思えば「実験計画書」など提出せずに「計算化学」だけで突っ張るべきであったと後悔しています。



Fig.102 外側配置モデル2個の計算結果



Fig.103 外側配置モデル4個の計算結果


 <結論>
 ・ 「片持ち論」の計算で、カーボン壁で「LiC2」が成立し、現行グラファイトの「3倍」容量が立証された。



5)昔話:ラミネートシール その1

 この章は私の「昔話/リチウムイオン電池誕生頃の逸話」で、気軽にお読み下さい。
 昔苦労した件でラミネートシールがあります。電池では「寿命」と言う人間臭い表現が使われ、「期待寿命」を仕様書に記載します。実際に所定の年数保管し定期的に充放電試験をして決定すべきですが、何年もかかる大変な作業になるので、最も影響の大きい「劣化因子」を特定し「加速試験」で寿命を予測します。ラミネートの場合には内部に入る「水分量」あるいは外部に逃げる「電解液減量」で寿命が決まるので、断面部を透過する量を特定しました。
 ポリプロピレンの素材としての水分透過量はデータブックに載っています。フィルム面としての透過量(速度)ですが、素材としての評価値と言い換えても良いので断面積方向でも同じと解釈しその値を引用しました。各種の高分子フィルムの一覧表で酸変性ポリプロピレンの遮断性が高いことが解りました。各種気体の内「水」は分子としては小さい水素よりも透過が速いことが意外でした。室温で液体であることがその理由と考えました。供試したアルミラミネートは、外側からポリエステル(強度)6μm/アルミニウム箔(透過遮断)30μm/酸変性ポリプロピレン(耐電解液)50μmです。融着部の断面をシール面積、融着部の長さをシール長とすると水分透過量を求める式が成立します。
   水分透過量=シール材質透過係数×時間×シール断面積×1/シール長(×t℃蒸気圧×相対湿度)
 ラミネート袋にリチウム金属を封入し、恒温恒湿槽(60℃相対湿度95%)にて保管し重量変化を測定しました。浸入した水分は全てリチウム金属と反応すると考え、重量変化量から水分透過量を算出しました。経過時間を変化させると見事に直線関係が成立しました。シール長、シール面積などを変化させて測定すると、やはり上式が成立することが確かめられました。20℃との比較をすると、「10℃で2倍」つまり60℃なら16倍のアレニウス則の簡易表現が成立することも解りました。「60℃相対湿度95%」の加速条件を「25℃相対湿度65%」の常温常湿の標準環境に換算すると、約30倍に相当します。予め「水分含有量」と電池性能との関係を求めた実験により、加速試験で「期待寿命」を決定することが出来ました。
 4カ月の加速試験で10年の期待寿命を仕様書に掛けることになり、実務的には非常に便利です。この「10℃で2倍」の簡易則は、理論家からはお叱りを受けそうですが、非常に役立つので推奨します。
 シール条件・作業標準として温度、押圧、シール幅などはシール後試験片での引っ張り試験で決定しました。作業標準を守ることで品質の安定を図りました。
 電解液を封入し、重量減から求めた同様の試験で、電解液・溶媒の透過量も確認しました。電解液についても上式が成立しました。外部は電解液がないので透過量は水より多くなりました。予め「電解液量」と電池性能との関係を求めた実験により、期待寿命期間内で、いわゆる液枯れを起こさない電解液量を決定できました。
 「ラミネートシール」について十分な知見がなく困っていた時に、薬品会社の開発部長OD氏と会食しました。薬品ではシールで密封していることが多く、水分・酸素の透過遮断が非常に重要なはずと気が付き話題にすると、薬品業界では薬剤自体を開発・製造し、それを容器に入れる作業は協力会社に委託しているとのことで、早速パップ剤を委託している加工業者を紹介してくれました。「富山の薬売り」の伝統から加工業者は、富山地方に多く存在し、薬品会社一社の専用ではなく数社から委託を得ているとのことでした。了解を取っていただき工場を見学させていだきました。私が期待していたスループット以上の速度でパップ剤(貼り薬)がシールされていました。隣のラインではスーパー向けの豆腐がシールされており驚きました。豆腐のパックでは水が多いのでシール部に水がかかるので難しいと話されていました。「百聞は一見に如かず」で、この見学と担当技術者との質疑応答は非常に役に立ちました。前述の透過量・シール不良についても多くの知見が得られ、ラミネートシールに自信を持ちました。また、量産設備としてのシール装置に関しても、非常に有益な知見が得られました。
 しかし、パップ剤のシールラインを見ていて電池との違いに気が付きました。シール剤には電極端子がありません。相当数のラミネート電池を試作し恒温恒湿槽に保管し充放電試験で評価をすると、試験データにバラツキが生じました。つまり、不良品が頻発しました。 (続く)


6)おわりに

 1)四季桜、紅葉狩りを記載しました。
 2)ターフェル式を用いて、電極「奥」部のリチウムイオン濃度が希薄化した時にデンドライトが発生することを解説しました。次回は発生原因として活物質表面移動が律速となる場合を図説します。
 3)電気化学会秋季大会第2日目の調査報告を載せました。合金(Si)系負極の課題を克服する方法を解説しました。次回は全固体電池・固体電解質についての所見を記載します。
 4)カーボンナノチューブ外側に配置した場合の計算結果により、「LiC2」つまり現行グラファイトの「3倍」容量を立証しました。次回は計算結果の中間まとめをします。
 5)ラミネートシールに関する経験を記述しました。次回は端子部シールについて記載します。



第14回(2019/11/7)



1)はじめに:曼珠沙華

 吉野さんノーベル賞受賞おめでとうございます。吉野さんの思い出話を5)昔話に記載します。ご笑覧下さい。

 「11月11日」は何の日かご存知ですか?「電池の日」です。11月11日を漢数字で書くと、+(プラス)―(マイナス)+(プラス)―(マイナス)となり、電池の正・負極を表すことから、電池工業会が11月11日を「電池の日」に制定しました。
 「マンジュシャカ恋する女は マンジュシャカ罪作り」山口百恵の唸る程の声量の前に、ただ平伏すのみ、正に「山口百恵は菩薩である:平岡正明著」です。曼珠沙華「ゲ」と読まずに「カ」と読ませたのは、濁音は「菩薩である山口百恵」には相応しくないからでしょう(サンスクリット語manjusakaの音写)。彼岸花は昔から庭に咲いていましたが、毒性のために両親が嫌っていたので邪険にしていました。彼岸花が曼珠沙華のことと知り大好きになりました。増えたり減ったりし、今年は40本程咲きました。毎年律儀に彼岸の頃に咲くので感心していたのですが、今年は珍しく10日程遅くなりました。やはり、異常気象でしょうか?庭の10本程が白い花です。元々は全て朱色で突然変異でしょうか?歌詞では「白い花さえ真っ赤に染める」とあります。数では少ない白は、今年もいつも通りにお彼岸に咲きました。
 東海一の彼岸花の名所、知多半島矢勝川沿い東西1.5kmに渡る300万本の彼岸花を観に行きました。1990年地元の住人が、新美南吉の「ごんぎつね」の記述を実現しようと、一人で草刈りし球根を植えたのが始まりで、協力する人が増え、見渡す限りの朱色の絨毯になっています。彼岸花は葉のない頼りない茎の上に華麗な花が咲く不思議な形で、その粛然とした姿が菩薩=山口百恵=と重なります。1本では寂しい花で、このような絨毯になって華やかさが際立ちます。一部に白色、黄色が不自然にまとまって咲いています。品種改良した球根を植えたと推察しました。朱色の絨毯の中に突然変異により「白色」に咲いた様子は認められませんでした。一部花の少ない背の高い雑草が目立つ所があります。陽当り、性質と思いましたが、広範囲で不規則なので、散歩している方に伺うと、「草刈りをしないと草に負け花が咲かなくなるので、近所の小学生を動員して夏に草刈りをして来たが、年々難しくなって来ている。」とのことでした。やはり、自然に任せるだけではこれだけの観光名所は維持できず、小学生が縁の下の力持ちであると知り複雑な思いになりました。遊歩道を一周して持参したカキピーとドリップコーヒーの香りで至福の一時を過ごしました。
 隣接する「新美南吉記念館」に立ち寄ると、前庭で小学校低学年の遠足の生徒達が昼食を食べていました。遠足にはもってこいの場所です。「ごん狐」は南吉18歳の作品で昭和31年から小学校の教科書に採用されています。昭和13年安城高等女学校教師になり、安城に下宿して精力的に執筆活動をし、地元の名士「都築弥厚」の伝記執筆にも取り組みました。「都築弥厚」は、江戸時代後期水不足に悩まされる安城に、矢作川から水を導く大規模な用水を計画したが、最も恩恵を受けるはずの農民からの猛反発で計画は断念させられました。没後50年に県の事業として、後に日本3大農業用水と称される「明治用水」が完成します。先駆的な提案は誤解から保守的な反対に会うと、実現するまで50年必要と言うことでしょう。ただし、ドッグイヤーと呼ばれる時の流れが速い現代では5年程度ではないでしょうか?安城は大正時代には農業王国となり、「日本の丁抹」と称されるようになりました。「丁抹」には、開発中のソニー互換ラミネート型リチウムイオン電池を携帯電話メーカーに売込むために出張したことがあります。「丁抹」読めますか?農業王国「デンマーク」のことです。
 私は今も東洋システム(株)東海営業所にお世話になっています。事務所の窓から「明治用水中井筋」が見え、昼休みの散歩道になっています。紫陽花が植えられ、蛍の生息地として地元に大事に維持され、途中に観賞用の水車もあります。用水の水をくみ上げて、最大109V・102Wの発電をし、蓄電池に電気を蓄えています。軽量小型の必要がないのでリチウムイオン電池の必要はなく、安価な鉛蓄電池です。このような簡易的な非常用蓄電システムを各所に設置すれば、千葉県で起きたような大規模停電の時に役立つのではないでしょうか?このおもちゃのような発電システムでは焼け石に水ですか?


2)電池の基礎:デンドライトの電気化学(1)ネルンスト式

 大学で「電気化学」を習った方には復習です。大学で「電気化学」を習い、一応は修得していると自負していましたが、実際の「電池挙動」に適用した時にずれを感じました。本コラムでは、「電池挙動」を私の知識の範囲での電気化学で解説します。電気化学そのものを学習したければ、玉虫怜太著「電気化学」などで系統立てて勉強すべきです。蛇足ながら、私は35年振りに電気化学的解析をするために、「TK大KM准教授」にお願いし、個別指導を受けました。正しく電気化学を学びたい方がおられればKM准教授を紹介します。またKT大AB研究室は、吉沢四郎先生の教科書など昔から「電池の電気化学」の権威ですが、最近は滅茶苦茶忙しそうです。一般論ですが、電気化学は金属の腐食・防食から出発しているので、この分野の方は基礎がしっかりしています。最近電池分野に参入した方は、材料出身の方が多く、革新電池の研究には向いていますが、実際に電流が流れる、つまり速度論が重要な「電池挙動」に関する解説については不安を感じます。



Fig.89 リチウムイオン濃度と電極電位


 電気化学の有名な公式=ネルンスト式、電解液側に於いて反応種が反応面に存在=衝突=する確率、つまり電解液中の反応種の活量≒濃度、つまりリチウムイオン濃度と平衡電位の関係は、Fig.89のようになります。鉛蓄電池の場合には、全反応は、
   Pb + PbO2 + SO42-  ⇔ 2PbSO4 
となり、電解液中の硫酸イオンの寄与が非常に明確で、実際の硫酸濃度を変えれば電池電圧が変化します。
一方、リチウムイオン電池の全反応は、
   Cn + LixMO2 ⇒ LiyCn + Li(x-y)MO2     ・・・・・(14−1)
        <グラファイトならn=6が最大で、ハ−ドカーボンでは変化します。>
式(14−1)のようになり、全反応にリチウムイオンの項はなく、濃度依存性はないように見えます。電解液リチウム塩濃度を変えても電池電圧に変動はなく、この事がリチウムイオンの電極反応面の濃度変化を考慮し忘れてしまう理由です。
 蛇足ながら、電解液に関しての理論を取り扱っている研究でも、電解液濃度が変化するとイオン伝導度が変化することは考慮されていますが、電極反応電位が変化することに関しては触れていないことが多く、学会発表などで指摘しても、回答をはぐらかされることが多くがっかりします。45年程前に、シュミレーションで著名なJ.ニュ−マンが鉛蓄電池の充放電曲線について近似した時に、表面での電極電位の項を理解されていなくて、私の上司が手紙を書いたのですが、無視されていました。最近は修正されているようです。電極表面での反応種濃度が変わる場合にシュミレーションをされる時には、ネルンスト式を忘れずに考慮するべきでしょう。
 蛇足ながら、低速充放電をシュミレーションしても無意味です。放電深さ(DOD)=充電状態(SOC)で一義的に決まります。高速充放電時の平衡電圧からの電圧のずれ、理論容量からのずれをシュミレーションすることに意義があり、その場合には電極反応界面での活性種濃度が最も重要です。この条件を記載していなかったり、無視できるとした発表を聞くと本当にうんざりします。
 正極・負極それぞれの反応は、
   正極 : LixMO2 ⇒ Li(x-y)MO2 + yLi+(溶媒) + e- 
   負極 : Cn + yLi+(溶媒) + e- ⇒ LiyCn + (溶媒) 
となり、リチウムイオン濃度を反映します。
   電極電位 : E = Eo ― (RT/ZF)ln(Cx)
   濃淡電池電圧 :  Ex = (RT/ZF) ln{(Cx)/(Co)} = 59.2mVlog{(Cx)/(Co)}
濃度が10倍で59.2mV変化するので、Fig.89の直線の傾きを「約60mV/decade」としてあります。
 本稿のテーマである副反応は
   リチウム金属析出反応 : Li+(溶媒) +e- ⇒ Li(金属) + (溶媒)
であり、電解液中のリチウムイオン濃度への依存性は同じになり、図示はしませんが平行線になります。(溶媒)は通常の希薄溶液では両辺でキャンセルされるので書く必要はありません。
 理論では電解液濃度は対象とする反応系全体が均一で、最初の電解液濃度が保たれていることが前提です。では、実際に電流が流れている時、電流が非常に小さくイオンの移動量が電流よりもはるかに大きければ、上の前提は保たれているので、リチウムイオン濃度は時間的にも空間的にも均一になり、何も考える必要はありません。しかし、電流が大きく電解液中のリチウムイオン濃度に差が生じる場合、充電では正極から電解液中にリチウムイオンは溶出し負極に挿入されます。イオン移動は3種の駆動力が働きます。
   イオン移動 = 対流 + 拡散 + 電気泳動
密接している電池内部では「対流」は無視できるとし、電流が「電気泳動」での移動量より早くなると、電極反応界面でのイオン不足が生じ電解液中のイオン濃度が下がり、「拡散」も加わりイオンが移動することになります。拡散による移動量はイオン拡散定数と濃度差との積となります。逆に言えば、「濃度拡散」つまり濃度差によりイオン移動量を増やすことで所要の電流を達成します。セパ中のイオン濃度は初期投入した電解液濃度で変化なく、電極セパ側表面も同じ濃度で変化しません。例えば、最初の電解液中のリチウムイオン濃度が1mol/lであれば、セパ中および電極セパ側表面の電解液濃度は1mol/lに保たれます。一方、電極活物質の集電体に近い深部はイオン移動量が不足しイオン濃度が下がります。例えば、電極活物質深部でのリチウムイオン濃度が0.1mol/lに下がれば、60mV変化することになります。0.01mol/lの場合には、120mV変化します。
 このように、電極表面と電極深部で濃度が違うと、それぞれに対し異なる電極電位があると言う考え方は、決して一般的ではなく、理論を取り扱っている専門家でも、電解液濃度変化でイオン伝導度が変化することは考慮されていますが、電極電位が変化していることを記載している方は少ないと思います。
 実験では多くの方が測定しているように濃度が異なる電極反応表面になった場合に各表面で電極電位は異なりますが、正負両極端子で測る電圧は1つしかなく、その電圧は第2回2)項に記したように、正極に対し最大の電圧が測られます。(続く)


3)次世代電池:合金系負極の課題と対策

 「9月度」の雑誌・新聞記事について紹介及び所見を整理しました(Fig.90)。
 相変わらず、トヨタ自動車の「EV化前倒し」関連ですが、中国「CATL」の増産が前倒しの引き金になっていると言う解析です。トヨタ自動車が当面のリチウムイオン電池のグループ内での開発・調達を放棄した事であり、私には不満が募ります。非常に重要な部品で、研究・開発はほぼ完成し、技術者も十分に育成・確保し、資金力も豊富なトヨタ自動車は、自社内で開発・量産をすべきです。「日本の電池産業」生き残りのためにも自社内調達の再検討を願っています。なお、先月記した「中国NEV規制」に「HEV」が認められると言う「トヨタ自動車関係者」の発言の裏は取れていません。本2件についての最新情報をご提供いただけると助かります。



Fig.90  9月度 新聞と雑誌記事の紹介と評価

 自動車用で寿命になった電池を再利用しようとする事業が複数あります。通常の劣化で容量減少した電池と、デンドライト発生で性能低下した電池との判別は出来ません。実車試験電池ではデンドライトが原因での性能低下は珍しくありません。デンドライトが電池内部に多数発生している電池を、温和な条件での使用だから使い続けて良いと言うのは、「安全に死んでもらう」と言う「電池寿命の鉄則」に反しています。電池を熟知している方が事業推進しているのでしょうか?事故発生・紛糾時に立ち向かえるのでしょうか?「想定外」などとは言わせません。
 秋の電気化学会に参加しました。第1日目の要約を作成しました(Fig.90)。正極の過剰容量について、遷移金属の価数変化では説明できず、酸素欠損と関連することが衆知の事実になりましたが、酸素の欠損量では過剰容量が説明できないことも漠然と認められるようになりました。しかし、材料の専門家の発表では良く見られる反応式を不要とする考えは間違っています。反応式を質問すると、検討していなかったとの答えが返ってきて、唖然とします。材料を変えたら「偶々増えた」ではなく、電極反応式をファラデー則に従って検討し、容量を確定すべきでしょう。電池を取り扱うのですから、「電気化学」も大切にしていただきたいと思います。
 数年前から<正極空隙論>を提唱しています。説明が面倒な場合には<正極佐野理論>と煙に巻いています。
 ★正極活物質でも結晶欠陥とは無関係に、単純に物理的空隙があれば、そこにリチウムイオンが蓄積する。
 説明してもほとんどの方に理解されず、無視されるので考察を中断していましたが、コラム終盤では<正極空隙論>を解説できるように理論の完成を目指したいと思います。



Fig.91 2019年電気化学会秋季大会 第1日目

 次世代負極として第8回Fig.44に記載したように、金属負極の他にSn、Siなどの「合金負極」も注目を浴びています。
   5Si + 22Li+ +e-  ⇒  Si5Lizz    ※Snも同じ。
反応式から解るように、電解液中のリチウムイオンが電子を受け取りSi金属と合金化すると、数倍体積膨張します。Fig.92に図示するように、この体積膨張により、SEIが充放電するごとに剥離し、「滓」となり、イオン移動が阻害され、電池として機能しなくなります。この対策として元のSi粒子を微細化する研究が多く実施されていますが、Fig.92に寸法が記入されていないように、ナノ・ミクロン・ミリなどの寸法で現象が違うはずはなく、多少のサイクル稼ぎにはなりますが解決策にはなりません。薄膜・ナノ粒子にして結果が良くなったと言う発表は製品化を意識しての研究としての価値はありません。
 10年以上前になりますが、FS社が仙台にSn負極電池の試作工場を建設しましたが、製品発表の直前にキャンセルしました。理由は発表されなかったのですが、充放電に伴うSEI剥離、「滓」の蓄積が止められなかったと推定しています。カーボン負極の一部にSiを含有されている電池も製品化されていますが、容量向上の数値から推定すると、Siの利用率は非常に低く、Si負極とは言えません。3倍の高容量化を目指すのであれば、SEIのサイクル毎の剥離脱落に対する対策が必須です。次回私の案を披露します。



Fig.92 合金(Si)系負極の膨張収縮によるSEIの剥離


4)新規な電池理論:非対称モデルの計算結果

 リチウムイオンが「カーボンナノチューブ(CNT)」内で安定に存在する位置を、中心からの距離を規定して計算しました。非対称モデルでは、水平断面において中心からの等距離の円周上で安定に存在する位置を計算しました。リチウムイオン第1個目は任意の点で同等ですが、第2個目は第1個目に対し円周上のどの位置に存在するかを、近接した状態を初期構造として計算しました。近接した構造は決して安定ではなく、リチウムイオン同士は反発して離れていきます。不思議なことに、180度反対側が最も反発できる位置ですが、その位置が最大の安定ではなく、ある角度を持った位置が安定との計算結果になりました。この結果は丁度4個のリチウムイオンを均等に並べた位置に近く、第10回Fig.63で図示した時に4個が一番安定であった結果と一致しています。この角度、約90度が一番安定になると言う結果を深く理解することなく、スパコンの計算結果を鵜呑みにしました。リチウムイオン同士のファンデルファールス力を反映しているのかもしれませんが、この結果が重要であることを当時の私に意識がなく、議論と考察が不十分になってしまったことを後悔しています。
 近接は安定ではないと言う結果は、「クラスタ論」を否定するこれまでの結果とも一致します。リチウムイオンはナノオーダーの細孔内では壁から一定の距離が離れ、お互いは反発した状態で安定化する。リチウムイオン同士が凝集することはなく、金属結晶とは明らかに異なり、凝集・集合と言う意味を含む「クラスタ」と言う表現は誤りです。逆に言えば、カーボンナノチューブが最適解とは言えませんが、適切な細孔であれば、金属ではない状態でグラファイトの「理論限界372mAh/g」を超える容量が得られることが示せました。しかし、グラファイトの1.5倍程度であり高容量化には不十分です。次回高容量になる計算結果を紹介します。



 

  Fig.93 リチウムイオンの非対称モデル              Fig.94 非対称モデル計算結果



5)昔話:吉野さん

 この章は私の「昔話/リチウムイオン電池誕生頃の逸話」で、気軽にお読み下さい。
 吉野さんノーベル賞受賞おめでとうございます。
 ここ10年程はすっかり疎遠になってしまったので、最近の吉野さんのことは書けませんが、15年以上前のことを思い出話として、記憶を頼りに記載します。企業間の交渉内容、技術内容については祝賀の時に相応しくないことも多いので、後日記載することにします。
 吉野さんとの最初の出会いは思い出せません。リチウムイオン電池と言う言葉がなかった25年以上前に上司のIB部長とAK社のKB氏とが意気投合し、その縁で吉野さんを紹介されたはずですが思い出せません。明確なのはNS氏のメモで証明される会合で、OT氏の仲介で1993年8月に5名が新橋で会食した時に同席しています。第5回5)項に記したように、開発した電池の性能については熟知し感心していましたので、お付き合いするようになり、前述の臭いセンサの開発では、吉野さんがリチウムイオン電池の実験設備を依頼していたKR社に実験装置を置かせていただき、部下のNNが実験をしました。その報告会を兼ねて情報交換会をしていたことは第11回5)項に記載通りで、吉野さんとは頻繁にお会いしていました。
 YB社がAK社と縁が切れた後に、東芝(株)との合弁会社ATB社の開発部長になられ、同業他社であるにも拘らず東芝叶崎工場内にあった工場を見学させていただきました。他社工場に間借りした状況に申し訳ないと思いつつ、是非ともリチウムイオン電池製造工場及び設備を観たいと思い、無理を承知でお願いしました。私が見学したことがある半導体工場と比較すると、想像していた最先端工場とは異なり、古く・汚く、ドライルームも簡易的で、これならYB社でも十分に太刀打ちできる工場が作れると思いました。当時リチウムイオン電池に関し何でも相談に乗っていただき、頼み事には本当に気軽に応じて助けて頂きました。
 気軽に何でも首を突っ込まれると言う印象があります。一番の思い出は、1999年7月に、部下MUの企画で私の小田原実験室の仲間プラス協力者10人程で、ライトアップした箱根登山鉄道「あじさい電車」に乗り会社の保養所で一泊する小旅行にお誘いすると、他社のそれも全くの私的旅行に快くお一人で気軽に参加されることに驚きました。仲間達とも直ぐに打ち解けていただきました。夜の2次会にもいつもの調子でカラオケを楽しまれていました。吉野さんはカラオケで興に乗ってくると、誰彼無しに隣の方に話し掛け仲良くなるので、傍で見ていていつもハラハラしていました。旅行の写真を見ると吉野さんは誰と並んでも、いつも笑顔で写っています。この頃にはリチウムイオン電池の成功を確信されていて余裕の笑顔であったのだと思います。
 なお、この登山電車は台風19号で土砂崩れが起き運休になっています。紫陽花は本来観光用ではなく、土砂崩れ防止のために植えられているとのことでした。一日も早い復旧を願っています。この旅行での小雨の中での紫陽花と蛍の印象が素晴らしく、紫陽花が大好きな花の一つとなり自宅の庭にも植えています。
 吉野さんは非常に人情味厚い方で、私が諸般の事情で名古屋に転勤し、一人寂しい思いをしていた時には、SN社NS氏と名古屋に慰問に来て下さいました。長良川の鵜飼を観て、岐阜柳ヶ瀬で宴会をしようと言う企画でした。吉野さんは都合が出来、夜からの参加となり、私が不慣れなために当日が花火大会と重なっていることに気付かず、大変な混雑の中を岐阜駅から非常に苦労してホテルにたどり着くことになりました。私の不手際に対し一言も不満を言わず、いつもの笑顔で柳ヶ瀬の夜を楽しんで下さいました。
 お茶目な人柄でもあり、2004年紫綬褒章を受章された際には、女優「岩下志麻」と一緒に写っている写真を嬉しそうに見せ、この写真を宝物のように大事にされています。ノーベル賞受賞ではどなたと一緒の写真を嬉しそうに見せ、宝物にされるのでしょうか?


6)おわりに

 1)曼珠沙華に関わる話、山口百恵・新美南吉・明治用水を記載しました。
 2)デンドライトの電気化学その1としてネルンスト式で電極表面濃度と電極反応電位との関連を解説しました。次回はターフェル式でデンドライト発生を解説します。
 3)電気化学会秋季大会第1日目の調査報告を載せました。合金(Si)系負極の課題を解説しました。次回は同第2日目の調査報告とSi系負極の課題の克服策を提案します。
 4)カーボンナノチューブの水平断面上の位置について、非対称モデルでの計算結果を記載しました。これまで同様「クラスタ論」を否定しました。次回は現行を上回る高容量な計算結果を記載します。
 5)ノーベル賞受賞の吉野さんとの1993年から2004年までの思い出話を記載しました。次回は「ラミネートシール」を解説します。



第13回(2019/10/7)



1)ノーベル文学賞

 読書の秋を前に夏休みから、ノーベル文学賞候補「村上春樹」の長編小説「騎士団長殺し」に挑戦しました。数多くある作品の中から、知人の勧めもありましたが、一人称の主人公が「画家」と言う設定に関心を持ちました。何故かと言うと小中学校で成績は良かったのですが、「図工・美術」は苦手で、リンゴを描くとミカンに、猫を描けば犬にと、自分でも絵の才能はないと諦めていました。画家が対象にどう接しているかの不思議が、この小説でうかがえ最後まで読み切ることが出来ました。長編の文学小説を完読したのは30年振りかもしれません。
 村上氏の作品をたった一つ読んで感想を書くのはおこがましいこととは承知の上で、画家としての人間洞察力、奇想天外、スリリング、複雑に絡み合った人間関係など、最終の決着はどうなるのかと、はらはら、どきどきで夢中で読んでいたのですが、終盤から主人公の「幻覚」がそれらの「絡み」を一気に片付けてしまい、あっけなさを感じました。劇画タッチで若い方には好まれるのかもしれません。ストーリーの彩りの「音楽」、「車」、「料理」に関する注釈には、その博識振り及び取材の丁寧さに驚かされました。表現の小気味良さは秀逸で「立派な翼をそなえて、東京から大阪まで二時間あれば空を飛んでいける『オムレツ』」。どんな「オムレツ」なのでしょうか?テレビの食レポで若いタレントが「甘くて美味しい〜。」との表現とは、雲泥の差があります。ノーベル文学賞候補者の作品を「オムレツ」だけで評価するのは失礼ですが、随所に凡人には思い付かない表現が多く、翻訳は大変だろうといらぬ心配をしてしまいました。
 10月7日医学生理学賞、8日物理学賞、9日化学賞、10日文学賞、11日平和賞、14日経済学賞が発表される予定です。ノーベル賞受賞者、候補者と私との接点を思い返してみました。
 白川英樹氏: 2000年受賞。東工大⇒筑波大。恩師のAY氏の紹介でお世話になっていたYM氏の
        所属研究室(通称ゴム研)で受賞対象の「導電性高分子」の研究をされていたので、
        AY氏からよく話を伺っていました。定年後は一緒に家庭菜園をする約束をしていたのが、
        受賞により忙しくなりできなくなったと嘆かれていらしたそうです。発表の瞬間まで本人に
        知らされていないことを知りました。
 西澤潤一氏: 光ファイバーの発明他。東北大総長など歴任。2018年10月21日(92歳没)。
        一時期、西澤発明の実用化開発を担当しました。応用物理学会の特別講演後恒例の
       「西澤詣で」で私の順番になると、先生はわざわざ立ちあがり丁寧に頭を下げてくださいました。
        一介の素人研究者に対しても、筋を通す「心遣い」に感激しました。その様子を見ていた
        先生方からは一目置かれるようになり、面会予約が簡単にできるようになりました。
 遠藤守信氏: カーボンナノチューブ発明者。信州大。25年程前にカーボンの電子デバイスへの応用に関する
        委員会でご一緒し、カーボンについて教えていただきました。
        当時は「カーボンナノチューブの発明者」とは知りませんでした。
        発明された「気相成長カーボンファイバー」はリチウムイオン電池負極添加剤として
        昭和電工(株)で実用化されました。紫綬褒章の祝賀パーティは長野県・市後援で盛大に開催され、
        ノーベル賞受賞の前夜祭のような賑わいでした。後述する私が主催した「NS氏慰労会」の
        主賓をお願いしました。
 飯島澄男氏: カーボンナノチューブ発見者。当時は日本電気(株)。日本電気(株)がつくば学園都市に基礎研究所を
        設立した時に、大学の先輩であるMM部長に立ち入り禁止の研究所内を見学させていただき、
        巨大な電子顕微鏡の前で座られていた飯島氏を、偉大な発見者として紹介されました。
        この時「カーボンナノチューブ」との言葉を聞いた記憶はありません。
振り返ると、「カーボンナノチューブ」とは少なからぬ因縁があるようです。
 さて、毎年化学賞に「リチウムイオン電池」も取り上げられています。数年前までは9月末に某新聞記者から電話があり、受賞確定前に記事を書き上げる必要があると言って、今年はどうでしょうか?と、技術内容・候補者の素顔などについて問い合わせがありました。毎回何故か宴会途中に掛かってくるのでほろ酔い加減で答えてしまい、不味いことを言っていなければと気に掛かっていました。
 さて、今年の化学賞発表は9日で、コラム締切りを過ぎているので、上記は的外れになるかもしれません。(笑)


2)電池の基礎:デンドライトショートに関するまとめ

 電気化学会で正極劣化の発表があり、充放電曲線に「デンドライト発生」と思われる挙動があり質問した所、実車試験であるからデンドライトショートは当然考えられますとの回答がありました。実際に実車試験後に解体して調査している現場の方達からすると、デンドライト発生は当たり前の現象で、短絡していなければ正極試験の結果には影響がないと考えているようでした。電池メーカーの技術者と話をしていると、デンドライトの発生の可能性は肯定しながら、問題にしている方が少なく驚かされます。
 デンドライトショートの「不思議」です。
  ・ 実車試験後の「解体電池」では時々見かける。
  ・ デンドライト自身が「充放電可能」で内部抵抗などの電気測定では検出できない。
    ※例外は後述します。
  ・ 短絡初期に「スパイク状の電圧降下」があるが、データを平均化する充放電試験装置では検出できない。
  ・ 短絡しても必ずしも「発火」する訳ではない。
  ・ 発火後は周囲と反応し、「金属」としては検出できないことが多い。
  ・ 放置することで、ショートさらにはデンドライトが消滅する。
 これらのことから、デンドライト発生は重視されませんが、市販されれば必ず発火事故が起こることを忘れてはならないと思います。
 最近はHEV電池が注目され試験電池もHEV用のパワー重視、つまり電極内に十分な電解液通路がある、電極活物質内にイオン濃度の欠乏は起きない設計です。パワーと言う理解し易い指標があり、正極の重点密度を下げると同時に負極も充填密度を下げるために、デンドライト発生は起きませんでした。
 しかし、EV用電池ではノートパソコン用、携帯電話用と同様に高容量化競争で、低率放電容量が評価基準になるので、充填密度を高めた設計となります。出力・パワー制限が外れているので、最適充電を忘れ詰め込み過ぎになっていることを見逃します。是非ともデンドライト発生について十分理解し、電解液劣化などを考慮して慎重な設計が望まれます。長期使用中にはSEIの残骸「滓」が流路壁に堆積し、初期より細くなるので、その影響は顕著になります。丁度、人間で不摂生な生活を送ると、血管にコレステロールが付着し高血圧症になる症状と似ています(笑)。デンドライト発生を侮ると発煙・発火の大クレームになります。
 蛇足ですが、活物質ナノ粒子化は電極反応面積を増やすことで電極反応過電圧は減少しますが、電解液流路が狭くなりイオン移動が不足します。急速充電では電極深部へのイオン供給が遅れ濃度差が生じ、電極セパ側表面にデンドライトが発生します。活物質ナノ粒子化は電解液分解によるSEIに頼っているリチウムイオン電池ではディメリットの方が多いと思います。


3)次世代電池:LDHによる亜鉛ショート防止

 「8月度」の雑誌・新聞記事について紹介及び所見を整理しました(Fig.84)。
 今月は夏休みのためか記事は少なかったのですが、重要な記事がありました。「中国NEV規制」が「HEV」抜きで始まったことは既報ですが、最近「トヨタ自動車関係者」からHEVがNEVに含まれると言う話が聞かれます。トヨタ自動車が自社のHEVでの優位性を保つために、特許・ノウハウの開放・無償譲渡と連携した「HEV普及キャンペーン」の可能性もあります。中国事情に詳しい関係者に問い合わせると、中国国内では全くその動きは感じられないとのことです。中国政府の方針変更は突然に起こるので、本件も全く予測できず困ります。最新情報をご提供いただけると助かります。
 第11回に予告し第12回で延期しましたが、「亜鉛負極デンドライトショート」を「日本ガイシ(株)」が非常に上手い方法で止められたのでご紹介します。EV用に相応しいとは言えませんが、安価な亜鉛(Zn)を2次電池負極として使えないかと言う研究は古くからされており、私自身も「第6回5)昔話」に書きましたように亜鉛極のデンドライトショートでは苦い経験があります。




Fig.84  8月度 新聞と雑誌記事の紹介と評価


 特許を基に紹介すると、Fig.84 左図のように、負極から正極までの全電解液中に亜鉛イオンが存在する場合には、亜鉛デンドライトはセパレータを通過して(セパレータを突き破るは間違い)、正極まで成長し、短絡=ショートします。正極側に存在する亜鉛イオンは優先して析出し成長します。しかし、Fig.84 右図のように、正極室に亜鉛イオンが存在しなければ、金属亜鉛はセパレータの負極側だけに析出し、セパレータの正極側には析出せず、短絡(ショート)は起きません。負極室と正極室とを分けているセパレータに「層状複水酸化物=Layered Double Hydrooxide=LDH」を用いることが、日本ガイシ(株)により発明され、WO2013118561A1など多くの特許が出願されています。LDHの製造方法・劣化防止・亜鉛イオン捕捉性などに多くの工夫がされ、ニッケル亜鉛電池しての実用化が間近いことが解ります。
 従来のニッケル亜鉛電池は水分解による減液防止でニッケル・カドミウム電池で実績のある酸素リサイクル方式を採用していますが、LDH使用電池では、正極室と負極室との電解液が交じり合わないことが必須なので、酸素透過が困難になり、構造上の工夫が必要と思われます。デンドライト成長に因る体積変化、反応集中、デンドライトの切断・孤立化については、従来の亜鉛極と同じことが起こり対策が必要です。チューブ上に編み上げたガラス繊維筒に2酸化鉛粉末を閉じ込めた「鞘」方式の電動フォークリフト用クラッド式鉛蓄電池が参考になると思います。これらの実用化への工夫を積み重ねることで、私が手古摺ったニッケル亜鉛電池を製品化できると思います。
 私がニッケル亜鉛電池を担当した当時はリチウムイオン電池が出現・普及する前で、エネルギー密度で他の電池より優れており、市場的に大きな魅力がありました。ニッケル正極を使うことで、コスト面での優越性は半減し、亜鉛の重さからの重量密度の欠点は本質的なので、可搬するEV用としては、リチウムイオン電池が出現した今日では優位性はないと思います。
 一方、亜鉛空気電池は正極も低価格化可能で、他の電池系とは比較にならない程に低価格になり、定置用としては最適で実現性も高いと思っています。
 亜鉛イオンを正極側に存在させないという「LDHの役割」は、「イオン交換樹脂膜」でも実現可能と思いますが、現状の「イオン交換樹脂膜」は電池と言う酸化・還元雰囲気では耐久性がないようです。セラミックス膜よりは高分子膜の方が取り扱い易く安価・実用的と思われます。電池業界に参入を試みている有機合成化学会社の研究テーマにはならないのでしょうか?
 なお、軽元素であるリチウムなどではLDHは難しいが、デンドライト成長を止めるのではなく、「ショートを止める」と言う概念は、リチウム空気電池でも非常に参考になると思います。




Fig.85  亜鉛負極のデンドライトショート防止


4)新規な電池理論:CNT半径2倍の計算結果

 リチウムイオンが「カーボンナノチューブ(CNT)」内で安定に存在する位置を計算しました。「第9回Fig.56」に図示したCNTは、文献で一般的と思われた半径0.425nmを選びました。計算の結果、CNT壁の内側0.2〜0.3nmの位置に1列に並んだ状態で、安定に存在することが判りました。しかし、CNTが細すぎて1列にしか並べず、2重に内側に存在できない結果になったのではないかとの懸念を抱き、Fig.86に図示するように、内側2重にリチウムイオンが存在する可能性を検討しました。CNT壁/正のリチウムイオン/正のリチウムイオンの並び方が可能かどうかを検討しました。
 Fig.87に図示したように「CNT半径2倍モデル」を、5層の立体にし構築しました。結果はFig.88のようになり、CNT壁から0.2〜0.3nmの位置で安定に存在できることが確認され、それより内側ではリチウムイオンは存在できない、つまり2重には存在できないことが判りました。半径を2倍にしても容量は改善されず、逆に体積エネルギー密度では悪くなりました。この計算においても「金属リチウム」より安定な状態と言う条件を導入しています。金属リチウムであることを認めてしまえば、CNT内外を問わず安定に存在し、その場合にはリチウムイオン電池でなく「リチウム金属電池」になってしまいます。

  ・ 「クラスター」が存在すると言う計算結果は得られません。「存在しない」ことを計算で証明することは難しいと聞きましたが「クラスター」は存在しないと私は断言します。
  ・ 半径2倍のCNT内にも、金属リチウムではなくイオンとしてグラファイトと「同等量」貯蔵できます。
  ・ CNT半径2倍つまり細孔が大きくなると体積密度は下がり、グラファイトより低くなるかも知れません。
  ・ 国プロ報告会で「クラスター」論者からの意見に、即座に反論できなかったことを悔やんでいます。
  ・ <結論>グラファイト以上に出現した容量を、副反応の電解液分解の容量あるいは金属析出と否定する考察は
    間違っており、CNTのようなカーボンの細孔は高容量を実現できます。





 Fig.86 内側への存在の仮想図                  Fig.87 CNT半径2倍のモデル




  Fig.88 カーボンナノチューブ半径2倍の計算結果


5)昔話:高分子固体電解質その2

 この章は私の「昔話/リチウムイオン電池誕生頃の逸話」で、気軽にお読み下さい。
 エルフ社が有する高分子固体電解質(Solid Polymer Electrolyte=SPE)技術導入交渉の過程で、エルフ社は、後述する医薬用語「イオントフォレーシス」について固執したが、それ以外は当方の注文に対する異論はなく、とにかく早く権利譲渡したいと言うのが本音でした。報告した内容を基に翌日FD氏が最終交渉し、ほぼ要求通り、当初覚悟した価格より易く、特許・ノウハウを入手できました。
 同時期に、懇意にしていた「TK大YM教授」より、「ポリビニルアルコール(PVA)」で「イオン伝導性」が出現することが見付かったとの話があり、実験結果を見せていただいた。PVAは「鉛蓄電池添加剤」として発表された研究の追試実験をしたので、ある程度の知識は持っていた。鉛蓄電池添加剤として「充電受け入れ性」を改善するという内容であったが、水分解電圧が下がるなど負の影響が多く、添加効果を否定する結論を出しました。YM教授の実験により、非常に多くのリチウムイオンが「PVA」に溶解出来ることに驚きました。バラついているデータを観ていて、乾燥条件・時間でイオン伝導度が大きく変化していることに気が付きました。YM教授の乾燥に関する説明から、製作時に必要な「溶媒が残留」し含有量が違うことに気が付き、乾燥後の溶媒含有量とイオン伝導度との相関性を調べていただくと、顕著な相関性があり、充分に乾燥すると実用のイオン伝導度が得られないと言う事が理解できました。
 この結果を得て、直ちに「エルフ社技術の評価」に反映させるべきでしたが、この時にはまだホッピング伝導に因るデンドライト防止効果への期待を捨てきれず、また私自身に「ゲル型」であると言う自信がなく言いそびれてしまいました。結局高額な特許・技術ノウハウ料を支払い技術導入しました。エルフ社技術が入手できた段階では、PEOにおいても「残留溶媒とのイオン伝導度の相関性」は成立し、既に有償で導入した技術であっても見切りをつけるべきであると進言しましたが、社内事情が非常に複雑になり、私の提案が取り上げられることはありませんでした。逆に、1988年3月には自ら「ペーパー電池」として新聞発表しました。大反響となり、株価が2日間ストップ高になったと聞き申し訳ない気持ちで一杯でした。企業として引くに引けない状況が作り出されてしまい、数年に亘りYB社がリチウムイオン電池の立ち上げに遅れ、多くの開発資金・人材・時間が失われたのは、「エルフ社技術の評価」を誤った私の責任です。
 この間、米国バレンス社が「PEO系高分子」に溶媒を含有させた「自立性ゲル型高分子固体電解質」で素晴らしい電池特性を発表しました。「ゲル型高分子固体電解質」は見掛け上自立しているので固体に見えますが、イオン伝導機構は溶液中でのイオン伝導機構と全く同じですから、デンドライトショートが止まるはずもなく、単なる「液保持」機能だけになると失望しました。
 米国ベル研究所(通称「ベルコア」=電話の研究所)が「PVDF」に溶媒を含有させることで、「自立性ゲル型高分子固体電解質」を開発しました。10年以上後にベルコアの発明者の一人SC氏とじっくり話す機会がありました。電話線は単純にビニール線と言っていましたが、触ると濡れている感じがするのは高分子に溶媒を含有したゲル構造になっているからだと教えていただき驚きました。その開発経験から、「ゲル型電解質」として「PVDF系固体電解質」を開発したとのことでした。SC氏は良く勉強されていましたが、電池の専門家ではないので「ゲル電解質」の電池特性・商品メリットについて熱心に聴かれていました。
 SN社が「PVDF系ゲル型固体電解質」を使用、アルミラミネートを外装とし、ポリマーリチウムイオン薄型電池を携帯電話用として商品化しました。アルミラミネートは容易に傷が付き漏液するので、ゲル化して溶液の流動性を抑えることは非常に有益で、実験的には蒸発速度も抑制でき発火初期には安全性の面での効果も認められました。YB社もSN社互換製品を開発する際に、社内会議でこの点を強調して開発資金を調達しました。
 その後も溶媒が残留していない高分子固体電解質「真性ポリマー」に関する研究発表が多数あり、それらの文献値および実験結果をイオン伝導度と粘度との「相関性」として再調査すると、結局は「ガラス転移温度」と密接な関係があり、自立しているといえども、内部では液としての性質を有する高分子で、実用的には液体並みの粘度を有する必要があることが確認できました。また、ガラス転移温度以上に加温すると、イオン伝導度が大きく向上することも判明しました。この特長を生かした「温めた(Warm)PEO電池」も開発されましたが、中途半端な温度で制限がある電池は、電池メーカーでは商品化できないことは当然です。
 ポリマー種は膨大にあるので、新規な高分子を使用した「真性ポリマー電池」の研究・開発が今でも行われていますが、ガラス転移温度との関係、実用上の効果を十分に考慮した上で、評価するべきであると考えています。


6)おわりに

 1)ノーベル文学賞「村上春樹」読後感とノーベル賞受賞者・候補者と私との接点を記載しました。
 2)デンドライトショートを整理しました。次回はデンドライトを初歩的な電気化学で解析します。
 3)「亜鉛極」でデンドライト防止に成功した「日本ガイシ梶vの発明を紹介しました。次回は、「合金負極」での課題を解説します。
 4)カーボンナノチューブ半径2倍で計算し、重量当りでは同等、体積当りでは不利になる結果となりました。再度「クラスター論」を否定しました。次回はリチウムイオンの配置を計算します。
 5)高分子固体電解質技術導入経過と、ゲル型高分子固体電解質、イオン伝導度と粘度との相関性、温めたPEO、真性ポリマーについて解説しました。



第12回(2019/9/11)



1)はじめに:ハイキング

 夏休みに那須主峰・茶臼岳から「那須5岳」を完歩しました。昨年の鳳凰三山に次ぐ快挙です。
 小学6年の時、夏休みに希望者が参加できる林間学校がありました。ツベルクリン検査で陰性の生徒はBCG注射を接種されます。私は免疫力が強いのか陽転せずBCG注射跡がひどく化膿しました。化膿している生徒は林間学校に参加することが許されず、非常に悔しい思いをしました。異質であることの惨めさとそれに対する反発心が芽生えたきっかけの一つです。その林間学校が那須岳でした。私にとっては、半世紀の恨みを晴らすハイキングになります。
  一日目:那須ロープウェイ山頂駅1690m⇒茶臼岳山頂1915m⇒無間地獄⇒牛ヶ首⇒三斗小屋温泉1480m
   歩き始めて20分後に雨が降り出し雷鳴がとどろき、びしょ濡れで歩きました。
  二日目:三斗小屋温泉⇒峰の茶屋⇒朝日岳1896m⇒三本槍岳1917m⇒大峠⇒三斗小屋温泉
   昼食時は快晴で遠景も良く見えましたが、午後からは大雨でびしょ濡れになりました。
  三日目:三斗小屋温泉⇒牛ヶ首⇒南月山1776m⇒黒尾谷岳1589m⇒那須ハイランド770m⇒バス停
   アブなどの虫がもの凄く集ってきて往生し、那須別荘地からの車道はバテました。
 登山・ワンゲルの正式な経験はないのですが、苦しい思いをして頂上に登り切った時の達成感が堪らなく好きで、時間に余裕が出てからは、年に3回以上行くようになりました。荷物が重いと歩く速度が著しく遅くなるので、飲料水などの重量物はシェルパ(息子)に持たせています。ゆっくり歩き休憩も十分に取り、標準時間に対し登りは2倍、下りは1.5倍の所要時間を見込み、できるだけ一筆書きになるように行程を選定びます。日帰りの場合には前日最寄り旅館に宿泊し、地元の食材を楽しみ早朝から歩き始めます。帰路は在来線のグリーン車で晩酌・夕食を優雅に楽しみます。動体視力が衰えて新幹線の速度では落ち着きませんが、在来線では窓外の景色をゆっくり楽しめます。今回は残念ながら豪華な駅弁は売り切れ、お稲荷さんしか手に入らず、コンビニ弁当を加えました。
 アサギマダラの優雅な舞い、エゾリンドウのつぼみを見付け、ハクサンシャジン(ツリガネニンジンの高山型)の可愛らしさに足を止め、計画のコースを完歩しました。三岳の山頂での見晴らしは素晴らしく、風も弱く、遠くの山々を眺めながらのおにぎりは、おかずがなくても至福のご馳走でした。晴れ男を自負していたのですが、一日目、二日目と大雨に振られました。山では3時過ぎには天候が変わると言われていますが、二日共に昼過ぎには降り出し、4時頃には止んでいました。同じ宿に連泊したので衣類を乾燥させる余裕がありましたが、着替えが心配になりました。最終日に那須別荘地に降りてから、舗装道路を2時間も歩き、タクシーを呼ぶべきであったと後悔しました。
 無間地獄では、「硫黄臭」がする噴煙の吹き出し口を間近に観ました。硫化水素に注意と書かれており、「無色無臭」と書かれていました。「腐乱臭」がすると言うのが一般的理解で、記載ミスとも思いましたが、高濃度になると嗅覚が麻痺して「無臭?」になるはずで、「臭い」を感じる、嗅覚が活きている間に退避せよと言う警告としてはこの表現で良いのかもしれません。
 最近研究・開発が進んでいる「全固体電池」の一部で、「消火活動の放水」で硫化水素発生が懸念されています。一言触れている研究もあるが、全く無視している研究もあります。頑丈な鉄箱に入れるから大丈夫と言う自動車技術者もいますが、電池屋としては頷けません。


2)電池の基礎:電気制御

 「デンドライト発生」の多くは電極中電解液つまりは「イオン濃度差」により発生すると解説しました。それを「外部制御」できるかと言う実用上重要な課題について解析します。
 Fig.72は正負両端子で電圧を測った時の「定電流放電曲線(CC)」です。放電直後・終止時以外は、ほぼ直線的に電圧が降下します。電流値が100時間率以下の小さな電流であれば、この電圧を開路電圧(OCV)と見做し、電池の「充電状態(SOC、DOD)」をほぼ正しく推定出来ます。実用に合わせる、また実験時間の短縮もあり、通常は5時間以下で測定されます。Fig.74両端電圧測定での「定電流定電圧充電曲線(CCCV)」です。定電流値は放電と同じ、またはより短い1時間率で充電します。放電の裏返しで、放電末の開路電圧(OCV)からほぼ直線的に上昇します。所定の電圧に到達した時に、定電圧充電に変わり電流が徐々に下がっていきます。一般的には100時間率電流で充電を停止します。ほぼ100%、満充電になります。これ以降は電解液の分解などに消費され、望ましくない副反応が進みます。



   
  Fig.73 放電曲線(5時間率)                   Fig.74 定電流定電圧充電曲線


 電気化学測定では、開発の対象としている電極(作用極)とその電極と対になる(対極)とを備えて試験をします。作用極だけの情報を得るためには、@作用極を大きく上回る対極と組み合わせる。A「参照電極(Fig.75)」を基準に測定する。これらにより対極の影響を無視できます。@の場合容量が異なるために本来の電池性能とは別の情報が含まれます。実験的にはA「参照電極」での測定が一般的です。簡便な参照電極にはリチウム金属が使われます。Fig.76参照極を基準にした放電曲線、Fig.77は充電曲線です。両端の電圧変化に加え、正極と負極夫々の電圧変化を測定することが出来ます。負極は数回充放電を繰り返すと中間の電圧変動は非常に小さくなり、両端電圧の変化は正極の電位変化を測定しています。Fig.77のように、参照電極を用いた負極測定では、電池反応である「グラファイト挿入反応」と、副反応の「金属デンドライト生成反応」とは「約100mV」の差があり明確に区分けでき、挿入反応だけに制御することが出来ます。しかしながら、実用電池で適用出来る参照電極はないので、両端電圧つまり正極電位変化は測定できていますが、負極電位は測定できていません。
 <結論>電圧測定だけでは、デンドライト生成は検知・制御できない。



     
 Fig.75 参照電極測定                   Fig.76 参照極での放電曲線

     
 Fig.77 参照極でのCCCV充電曲線            Fig.78 端子電圧での充電制御


 電流積算で「充電状態(SOC)」を測定し、それに対応する正極電位を推定し、実測値との差で負極電位を算定する制御方法も考えられますが、実使用では、特定電流だけではなく、3桁程変動する電流の精度を保証する必要があります。
   電気容量Q=電流A×時間t
   電気容量誤差δQ/Q=電流誤差δA/A×時間t+時間誤差δt/t×電流
 時間誤差δt/tはクオーツの性能が高精度で無視できますが、第2項電流誤差では、通常の電流精度は抵抗シャントの最大電流時つまり「フルスケール精度」です。電気容量が限られている電池特有の使われ方では、最大電流での通電時間は短く小さな電流での時間が長いので、容量の誤差は非常に大きくなります。例えば、100Ah電池、電流測定器の最大電流(1000A)精度0.1%の場合に、最大電流1000Aで0.05時間50Ah(50%)放電すると、電流の誤差は1Aで容量の誤差は0.05Ah、0.1%となり無視できます。しかし同じ電池、電流測定器で、1Aで100時間放電すると、電流の誤差は同じく0.1Aで、容量の誤差は10Ah、20%になり、無視できない量になります。20%SOCの誤差は、200mV以上の電池電圧誤差に相当しデンドライトが発生します。
 また、第4回第2項で解説したように、電流が流れている時の電圧(閉路電圧)は過電圧を含み、さらに充電状態の不均一性を反映していないので、電極全体としてのSOCを測定できているとは言えないことも加味すると、外部からの電気測定ではデンドライトは検知・制御できないと考えています。Fig.75に端的に図解しました。
 なお、AI導入で、劣化状態も含めSOCを正確に把握することで、電気制御でデンドライト発生を防げるようになることが期待できるのかもしれません。



3)次世代電池:トヨタ自動車電動化計画

「7月度」の雑誌・新聞記事について紹介及び所見を整理しました(Fig.79)。今月も「トヨタ自動車の電動化計画5年前倒し」に関する解説記事が多く観られました。その他海外での細かな研究発表が報告されていますが、解説する価値がある成果はないと判断しました。海外特に米国発の発表のほとんどは「資金集め」と疑ってかかる方が良いと思います。




  Fig.79 7月度 新聞と雑誌記事の紹介と評価

 「トヨタ自動車電動化方針・動向」については、「第3回第3項Fig.19」に記しましたが、大幅な変更が必要です。「電動化戦略」をFig.80、「電池調達方針」をFig.81にまとめました。電動化の内訳変更はなく、HEVが主力で、EVは補助との方針は変えていません。電池は国内外から調達する方針です。中国向けは中国メーカー「CATL、BYD」からの調達ですが、CATLは欧州メーカーとの付き合いが古くトヨタ自動車の足を引っ張る可能性が高く、またBYDは電池メーカーであるだけではなく、EVメーカーつまり競合メーカーなのでいずれ決別することになると思います。国内メーカーではGSユアサグループのLEJは三菱自動車/日産自動車の関連会社、BECは本田自動車の関連会社でトヨタ自動車の傘下には入れません。結局は「パナ・旧サンヨー」グループとの提携が唯一の策となります。
 同族会社の「豊田自動織機」の名前も挙がっていますが、電池開発の経験がないことは解っているはずで不思議としか言いようがありません。トヨタ自動車は2017年度100名以上の特許発明者がいることが判っています。研究者・研究補助者は500名の規模と思われます。最近は全固体電池に専念していますが、数年前まではその規模でリチウムイオン電池を研究開発していたはずで、電池専業メーカーを上回る規模です。研究予算は数倍の規模と思われ、十分に電池メーカーとしての技術力は有しています。コストは中国メーカーに敵わないと思いますが、EVが主流になる将来を考えると、自社内・PEVEのようなグループ会社で研究・開発・製造することは、お金だけでは買えない大きなメリットがあるはずです。選択と集中で全固体電池に限定した開発方針を、見直すべきと思っています。
 個人的見解ですが、旧サンヨーグループはリチウムイオン電池に関しては独創性に欠けており、同様に真似を得意とする韓国LGCには勝てません。中韓メーカーに技術的優位性を持てる可能性があるのは、トヨタ自動車の電池研究部隊がリチウムイオン電池の改良に取り組んだ時と思っています。



   
 Fig.80 トヨタ自動車EV化戦略                  Fig.81 トヨタ自動車電池調達方針



4)新規な電池理論:マリケンチャージ

 リチウムイオンがカーボンナノチューブ内で安定に存在する位置を計算して来ました。私は計算化学の専門ではないので基本的なことを理解できていないのですが、計算をしていただいた立花教授より、「マリケンチャージ」は非常に便利な計算結果であるから参考にすると良いと教えていただきました。安定化エネルギーの算出より付帯的に得られ、他のグラフと同様に中心からの距離を横軸に、荷電状態(価数)を縦軸に図示しました。単層、2層の結果は省略したが、立体である3層の各荷電状態の計算結果はFig.82のようになります。安定に存在することが立証された半径から0.2nm前後では、0.6であり、0価でも1価でもないことが検証できました。
 MRI測定ケミカルシフトで、1価ではなく伝導電子の存在が認められていますが、この結果と一致しています。ただし、強調すべきは、「中心でも壁直近でもなく、壁から一定の距離で、リチウムイオン同士は決して近付いていない。」と言うことで、「クラスター論」はこの結果とは異なります。
 リチウムイオン同士の電子共有はなく、カーボンナノチューブの電子との相互作用がある。言い方を変えれば、伝導電子の存在はカーボンの電子を共有、つまりリチウム・カーボン合金の状態に近いと言えるのではないでしょうか?「合金」と言う言い方は間違っているかも知れません。
 本来は「マリケンチャージ」について、物理的意味を十分に理解した上で、用語として用いるべきなのは承知していますが、不真面目なため手間を省きました。「マリケンチャージ」は非常に的確に「片持ち論」のリチウムイオンの状態を示していると思います。カーボン壁に近付くことで、カーボンの電子雲を共有しているような状態になり、所謂「1価イオン」ではない状態にあるのでしょう。しかしながら、「0価」ではなく、またリチウムイオン同士が近付こうとしている訳ではなく、狭い空間に複数のリチウムイオンが押し込められているから、近接しているように見えているだけで、リチウムイオン同士で電子の共有はしていないと考えています。



   
  Fig.82 電子稠度=マリケンチャージ               Fig.83 マリケンチャージ計算結果


 講演では次のような例え話をしました。150人定員の電車車内を想定する。
 @10人の人が乗車する。10人はバラバラに座っている。 ⇒ クラスターではない。
 A同じ空車両に、旅行に行く10人グループが乗車し、集まって座っている。 ⇒ クラスターである。
 B同じく300人乗車する。乗車率200%でお互い迷惑な顔をしてぃる。 ⇒ クラスターではない。
 「クラスター」の定義付けの問題ですが、Aのようにがら空き状態でも集まっていれば「クラスター」でしょう。一方、Bのようにお互いの距離はAよりはるかに近くても、お互いが離れようとしているならば、「クラスター」ではなく、単に混んでいる状態でしょう。有名な「水のクラスター」は水素原子と酸素原子が交互に引き合い数10個の大きな分子のようにふるまう原子集団となるから「クラスター」と呼ばれています。
 なお、何故「クラスター論」の否定に拘るかと言うと、私たちの計算では全てリチウム金属の安定化エネルギーより安定な範囲での計算に留めています。つまり電極電位が異なることを大前提にしています。計算化学だけならカーボンナノチューブ内外にリチウム金属の結晶は安定に存在する結果になりますが、電池ではカーボンナノチューブの内と外とでは速度論的に大きく違います。カーボンナノチューブの内側に金属として存在できるエネルギーを与えれば、カーボンナノチューブの外側にも金属析出ができるはずで、その安定化エネルギーつまり電極電位ではリチウム金属電池であり、リチウムイオン電池ではないと考えています。そのことを象徴的に図示したのが、第4回Fig.24です。



5)昔話:高分子固体電解質技術導入

 この章は私の「昔話/リチウムイオン電池誕生頃の逸話」で、気軽にお読み下さい。
 1980年代に時間を戻し「高分子固体電解質」の技術導入を書きます。現在活躍中のYB社の方に迷惑がかるかもしれず随分悩みましたが、私のような引退した立場で、かつ高齢者にしかできない役割と思い、出来るだけ現役の方には迷惑が掛からず、これからの研究者に参考になればと願いつつ、言葉を選びながら勇気を出して書くことにしました。
 経緯は思い出せないのですが、上司IB部長が「JC大OG教授」と懇意になり、イオン伝導性高分子を紹介されました。OG教授は、確か東レ出身で、戦略的創造的科学技術推進機構(ERATO)緒方ファインポリマープロジェクトの総括責任者をされており、TVなどにも出演し、日本の科学技術の先端を担っておられました。同席させていただくと非常に熱心な方で、また企業の研究・開発方針に対しても理解が深く、若い研究者にも丁寧に接することに驚きました。社内プロジェウトが発足した時には、IB部長の発案で、とことん議論し理解を深めようと、箱根の健保保養所で合宿をすることになり声をお掛けした所、お忙しい中快く承諾され驚きました。杉並区鷺宮の住んでおられ、阿佐ヶ谷駅でお見掛けしお話しすることもあり、私もすっかりその魅力にひかれました。
 OG教授が紹介した「高分子固体電解質」は、1973年イギリスのライト氏がポリエチレンオキサイド(PEO)にイソチアニン塩を溶解するとイオン伝導性を示すことを発見し、1979年にフランス国立研究機関(CNRS)の「アマン氏」らが、PEOとアルカリ金属塩の複合体が「固体二次電池電解質」として応用できることを指摘したことが、その後の研究開発の始まりです。OG教授より基本技術の説明を受けました。
 @ 高分子鎖により溶媒和されたイオンが、高分子鎖の移動によりバトンタッチされて泳動が起きる。
 A 高分子の粘弾性挙動の温度依存性は、アレニウス型直線にはならず、上に凸、低温時の影響が大きい。
 B 伝導機構は無機固体電解質のホッピング機構と類似する。
 アマン氏の特許および技術ノウハウは、フランスの石油会社エルフと、カナダの電力会社ハイドロケベックに権利譲渡され、エルフ社はこの特許・技術ノウハウを一括して譲渡する意向であることが判りました。IB部長はナトリウム/硫黄電池のプロジェクトリーダーをしていたので無機固体電解質中の「イオンホッピング伝導」について見識があり、有機化合物で無機化合物と同じイオン伝導機構が成立するなら、必ず革新的電池ができると歓迎した。また、当時は金属デンドライトショートは無機固体電解質のホッピング伝導機構では起きないと考えられていた。このような背景から、エルフ社から技術導入することが社内決定し、その直接の交渉を私が任された。
 エルフ社は日産自動車の親会社ルノーのように筆頭株主がフランス政府と言う国策会社で、石油の取扱高では世界有数の会社である。化学工業製品全般を製造販売しており、所謂巨大企業である。その巨大企業の一部門として、高分子固体電解質の研究に手を出していた。エルフ社の交渉人LZ氏は、フランス人で日本人と結婚し、東京の高級住宅街の一つ下北沢の豪華な借り上げ社宅に住んでいた。専門は有機化学で、東京工業大学に留学していた経験があり、その点でも私との共通の話題に事欠かなかった。奥様の教育により達者な日本語を話し、難しい技術用語では英語も混じるが、十分な会話は出来ていたと思っていた。ただし、フランスの習慣と言われ昼間からワインを飲むのに付き合わされるのには困った。毎回席に着くと、ワインのフルボトルを頼み7:3の比率で飲んでいた。ある時にはいつも通りフルボトルを頼み食事が始まると、昼一番で重要な会議があるから今日は飲めないと言い出し、全部飲めと言われ、流石にこの日は会社に戻らずに直帰した。
 ワインを飲みながらの打ち合わせで、見方が甘くなったのか、「秘密事項だから」の一言で重要なことは確認できないままに調査報告書を作成した。また、本社の管理部に所属していて研究所本体から外れた職場にいた事もあり、私自身が一旗上げたいと言う野望があったことも否定できない。最終交渉にはND氏が来日し、詳細を詰めることになった。当時の技術トップFD氏は海外からの技術導入に積極的で本件も前向きに捉えられ、最終交渉前日の土壇場の会食も、私一人で行ってこいと言われ、フランス人二人を京都の庶民的な料亭に招待し、京料理をご馳走しながら、日本酒とワインの御酌をしながら最終交渉をした。
 ☆ 次回もこの話を続けますが、飛ばして読みたい方のために結論を先に言うと、40歳頃の私には「荷が重い役目」であった。



6)おわりに

1)夏休みに挑戦した那須岳ハイキングを記述しました。
2)外部からの「電気計測」ではデンドライト発生を検知・制御できないことを解説しました。次回はデンドライトショートを整理します。
3)「トヨタ自動車」のEV化戦略の5年前倒しを取り上げました。次回は「亜鉛極」でデンドライトショート防止に成功した発明を紹介します。
4)「マリケンチャージ」の計算結果を解説・考察しました。次回はカーボンナノチューブの半径を倍にした時の結果を紹介します。
5)「高分子固体電解質」技術導入の思い出話を記述しました。次回も継続します。



第11回(2019/8/6)



1)はじめに:渋沢栄一

 2月22日封切り第1週目に興行収入TOPになり、既に30億円以上になっている「翔んで埼玉」を平日のシニア割引きで観に行きました。埼玉県では大ヒットしたようですが、名古屋では300名の館内に4人しか観客はいませんでした。「埼玉県民」が東京都民に酷い虐待を受けていたと言う大茶番劇で、主役は芸能人格付けチェックで無敗の「GACKT」と今流行りの「二階堂ふみ」です。GACKTが高校生役、二階堂ふみが男役と異色のキャスティングです。埼玉県民が自虐ネタとして、「埼玉には名物が草加せんべいと『深谷』ネギしかない。」と言いますが、確かに埼玉県で他に思い出すことは「長瀞の舟下り」位です。私は小さい頃梅林堂の「五家宝」(きな粉を塗した円筒型の御菓子)が大好きで、「ごかぼう」と言えず「ばかぼう」と言って笑われていたことを思い出しました。
 2015年電気化学会秋季大会が「埼玉工業大学」で開催され、初めて「深谷」を知った方も多いと思います。渋沢栄一氏が設立した日本煉瓦製造会社のレンガが使われている東京駅を模擬して作られた深谷駅には、「渋沢栄一」のポスターが貼られています。新1万円札の顔に「渋沢栄一」が選ばれたことで、深谷市民/埼玉県民は大いに喜んでいます。深谷の「渋沢栄一記念館」に行ってみました。出生地ならではの展示で、幕閣、明治政府での閣僚と頭角を現したが、官界の体制に限界を感じ実業界へ転身し、約500社の設立に寄与したことが解り易く展示され、赤城山に向かって立派な銅像が立っています。最近になって来館者が急増しているとのことです。資料館としては物足りなく、東京都北区飛鳥公園内「渋沢史料館」を尋ね、渋沢栄一伝記資料を閲覧しました。
 実業界での活躍はマスコミで報道されていますが、私は特に「東洋紡株式会社」への貢献に目が留まりました。私がリチウムイオン電池の製品化を担当し製造装置情報を集めていた時に、「東洋紡」が開発中との情報が入り半信半疑で工場を訪問しました。とてつもなく大きな某部品の製造装置を組み立てている脇に、開発中の「捲回装置」があり、詳しく説明を受けました。既存装置を把握した上で工夫を重ねてあり良く出来ていました。携帯電話サイズより一回り大きいサイズの電池に向いていると感じました。
 前身の「大阪紡績会社」が明治16年に設立されています。創立発起人22名の筆頭が「渋沢栄一氏」で、大半は投資した華族、財閥人ですが、「山辺丈夫氏、岡村勝正氏」の名前も挙がっています。渋沢氏が紡績業発展のために大規模生産工場の建設を説き、保険業習得のために英国留学中の山辺氏に白羽の矢を立て、最新の紡績技術修得を依頼し、3年の滞英中に技術書を翻訳し、実務経験をまとめ「虎の巻/紡績書」を完成させました。14年「岡村勝正氏他3名」を技術者として採用し、招請した英国技術者の指導の下に技術を完成させました。山辺氏は当時としては珍しく資本家ではない社長に就任されました。
 岡村勝正氏「懐旧談」「談話」に興味深い記述がありました。@山辺氏の「虎の巻:紡績書」で理屈を学んだ。A各紡績工場遍歴で実地を体験した。B優秀な専門家の指導を受けた。この3点で機械据付・運転など新技術導入ができた。この新技術導入のキーポイントは今でも通用するのではないでしょうか?また、山辺氏は非常に多忙で、実際には「岡村氏他3名の技術者」が技術を完成させました。功労者として山辺氏は社長になりましたが、その影には優秀な協力者がいたということでしょう。
 大阪紡績は設立当初から黒字になりました。技術・量産規模などに技術者としては目が行きがちですが、「岡村氏談話」によると、「夜業」で装置稼働率を上げたことを第1の理由としています。働き方改革が叫ばれる昨今では余り強調出来ませんが、日本の紡績業の繁栄に「夜業」が貢献したことは確かなようです。夜業で使われた灯油ランプが度々火災を引き起こし夜業廃止が叫ばれた時に、岡村氏は、14年5月最初に渋沢氏邸で会食をした際にエジソン発明の「エレキトルライト」を室内灯にする話を思い出し、米国製電灯・発電機を入手し、民間で初めて「電灯」を使用しました。紡績業発展の基礎には第1は「夜業」、第2に「電灯の採用」があったとも言えるとのことです。その縁を作ったのも「渋沢栄一氏」です。「エレキトルライト」採用が紡績業発展の「裏話」とは・・・。リチウムイオン電池開発にも裏話が沢山ありそうです。


2)電池の基礎:初歩的なデンドライト発生/劣化

 電池設計・製造工程にはデンドライト発生の原因がない電池であっても、電解液劣化に伴いデンドライトが発生します。発火事故の大半は、使用開始後数年、つまり劣化してから発生します。



   
  Fig.64 急速充電模式図                   Fig.65 デンドライト析出模式図


 Fig.64に数μの粒子を厚さ100μ程度に塗工した負極活物質層を、粒子間の複雑な電解液通路を説明の都合上直線に簡略化して、充電途中を模式図で描きました。正常な急速充電では、正極からセパレータを通過して移動するリチウムイオン量(正確には塩)は十分に足りているので、白色から茶色のように活物質の正極に近い所から充電されていき、いずれは全体が充電、茶色に染まることになります。ところが過度な急速充電・極低温充電では、供給されるリチウムイオン量が活物質細孔内で少なくなり細孔内のイオン濃度、正確には塩濃度が低くなってきます。元々のセパレータ中の塩濃度(バルク濃度)と細孔内の塩濃度とに差ができ、濃度拡散がイオンの供給に貢献し、デンドライト発生することなく充電は完了できますが、充電電流の設計に間違いがあると、細孔内に供給されるイオン量(電気泳動+濃度拡散)が不足し細孔内のイオン濃度が下がり、デンドライトが発生します(Fig.65)。
 リチウムイオン濃度(塩濃度)とデンドライト発生については、電気化学的に次々回に説明する予定です。



 
Fig.66 劣化(孔壁での滓層形成)                     Fig.67 デンドライト発生正条件件


 急速充電試験で基礎データを積み重ね、充電電流と空孔つまりは充填率に十分余裕ある設計をします。しかし、第6回2)項に記載したように、ある期間電池を使用すると、SEI生成⇒剥離・溶解⇒再生により電解液中に「滓」が溜まります。Fig.66のように、電解液劣化つまり「滓」が多く堆積し、電解液通路が狭まってしまうと、活物質細孔深部へのイオン供給量が不足し、細孔内イオン濃度が低下します。丁度コレステロールが溜まり細くなった欠陥のようですと講演では話しています(笑う)。
 なお、Fig.67は講演で使用しているデンドライト発生条件の一覧表で、大雑把な表現で自信がないので説明しませんが、参考にして下さい。
 次回は、デンドライト発生を外部からの電気での充電制御では出来ないことを解説します。



3)次世代電池:亜鉛など金属負極

 6月度の雑誌・新聞記事について紹介及び所見を整理しました(Fig.68)。新聞記事で確認できてはいませんが、廃プラスティック集積場で火災発生が増えているようです。最近の携帯電話ではユーザーが電池の取り外しができないので、携帯電話内蔵のリチウムイオン電池はプラごみと一緒に廃棄されます。圧縮されれば、正に安全性試験です。通常ゴミの山は酸素(空気)不足で燻るだけですが、第8回Fig.42に記したように、正極活物質自体が酸素源で、電池の中ではショートで火花が飛び破裂発火します。消防関係者と話すと、酸素源を内包していることについて理解していないようです。電池工業会などが積極的に情報発信するべきです。
 トヨタが電動化計画を5年前倒ししました。ただしHEVとEVの配分についての変更はなく、HEVが主力で、EVは補助との方針は変えていないようです。電池は国内外から調達する方針です。従来からトヨタ自動車は電池を自社開発すべきと主張し今も考えは変わっていません。7月になりさらに動きが慌ただしくなっています。第3回Fig.19に記した「トヨタ自動車(株)の動向」については大幅な修正が必要になり、次回情報整理して再掲します。
 ニッケル亜鉛電池、亜鉛空気電池は再生可能エネルギーシステムなどの定置用電池として優れています。本コラムの主題であるEV用電池としては不向きですが、国プロで脚光を浴びている金属極におけるデンドライトショート対策について、亜鉛極は参考になります。第6回5)項に私の苦い経験を記述しましたので、その経験を基に、亜鉛極を例にして金属負極でのデンドライトショートについて解説します。

     金属析出反応電位:平衡電位+電流×抵抗+反応抵抗*電流の対数

     抵抗:電解液中のイオン移動抵抗+導線の電子抵抗+表面被膜抵抗

 正極との間に充電電圧が印加された時に、各部に印加される電圧は全て均等ですが、その中味は違います。各微小部分での反応過電圧が均一であれば、デンドライト成長はなく均一に成長するはずです。しかし、ミクロにみれば抵抗は均一にはならず、抵抗が小さい箇所では反応に寄与する過電圧が大きくなり、電流は対数比例で集中して流れます。小さなデンドライトが発生し正極との距離に遠近が生じれば、近い所に電流がさらに集中しデンドライトが成長します。実験では急速充電で観測しますが、観測し易いだけで、小さな電流にすれば起きないと言うのは、保管中にも発生した経験から間違いです。学会発表では多い表面を平滑にすると言う対策は、数10サイクルを100サイクル程度に出来るだけで、サイクル数が多い用途での対策にはなりません。同様に、集電体表面の結晶についての均一性なども意味はありません。





  Fig.68  6月度 新聞と雑誌記事の紹介と評価


 デンドライト抑制に成功している平滑メッキのインヒビターは、凸凹を無視できる程に表面被膜抵抗を大きくして、平滑にできていると推定しています。メッキ作業者はメッキの仕上がり、メッキ浴の状況を観察しながら、インヒビター効果が弱くなれば適宜補充しています。つまり、インヒビターは「劣化・減少」が前提とされています。私も当時入手できるメッキインヒビターを調査しましたが、全て電池の中で酸化分解し、電池では使えないと判断しました。また、有機合成メーカーに開発依頼をしましたが、技術的には可能であるが、市場規模がないと言うことで、体良く断られました。現在のような電池ブームであれば、有機合成メーカーも協力的と思うので、電池内部で分解・再生を繰り返す有機化合物の開発をお願いすれば、電池用のインヒビターを開発できると思います。
 セパレータで金属結晶を捕捉し正極側に成長させないと言う開発もされています。確かにセロハン系セパレータは、正極側に樹脂状に成長する(縦方向)前に、セパレータ内で結晶が成長(横方向)し、セパレータは灰色になりますが、直ぐにはショートしません。結果としてある程度ショートするまでの期間を延ばすことが出来ます。しかし、保存中のショートを結局防げなかったように寿命が要求される用途では解決策になりません。また、セパレータの微孔サイズをサブミクロンにする開発もされていますが、リチウム金属原子からすれば桁違いの大きさで、同様の結論で解決策になるはずがありません。
 次回は亜鉛極で非常に優れたデンドライト防止策が発明されたので、ご紹介します。



4)新規な電池理論:3層計算結果

 前回、Fig.62、63で「単層モデル」での結果を図示しました。書き落としがあり追記します。
  ・ CNTの両端は水素が結合した終端で、終端の影響が出ない程に十分に長いと仮定している。
  ・ CNTに1個のリチウムイオンが導入される場合には、CNTはー1価、同様にn個のリチウムイオンが導入される場合にはCNTはーn価とし、全体として系は「中性」である。
  ・ 絶対零度での計算であるが、常温でも結果は変わらない。
 多層・立体、つまりCNT縦方向に複数個のリチウムイオンが安定に存在できるかを確認するために、Fig.69に示す「多層モデル」で、「単層モデル」と同様に順次リチウムイオンをCNT内部に導入し、安定化エネルギー計算した。「多層モデル」は縦方向同じ位置に並ぶ場合と、6員環ズレて並ぶ場合との両方を計算したが、結果は同じであった。3層以上の4層目は1層目と同じ結果になることが解かっている。計算された安定化エネルギーは2層ではFig.70のようになり、「金属リチウム析出」より低い安定化エネルギーの範囲でC24個に対し、単層の結果と同様に6個は挿入できる。3層目ではFig.71のように、6個目はかなり厳しくなる。最終的にCの数との比に換算すると、Fig.72のようになり、グラファイトでの実績の1.5倍が限界であることが判る。なお、グラファイトでリチウムイオンはc軸方向で連続できず1個飛ばしで収納されるが、この3層での結果を反映していると思われる。
 中心からの距離としての安定化エネルギーが得られる位置は、2層、3層でも単層と変わりなく、中心と壁との間であり、中央に集まって存在できることはない。



    
  Fig.69 CNT立体計算モデル                   Fig.70 リチウムイオン2層 計算結果



 CNT表面に「金属リチウム」が析出していない範囲での安定化エネルギーを求めているが、金属リチウムを許容してしまえば、壁に金属として析出した状態、あるいはCNT中央部で結晶になった状態も安定化エネルギーが求められる。しかし、電池実験で、リチウム金属をグラファイト負極に貼り付け放置すると、金属リチウムが放電しグラファイトにリチウムイオンが挿入する。両者の電位が違うために起きる現象で、速度論を無視できる場合には、リチウム金属とリチウム挿入反応は完全に分離できる。電極反応電位と安定化エネルギーとは絶対値は異なるが物理的意味は同じであるから、速度論を考慮しない場合には、計算化学で示された結果は「実電池」においても成立する。CNT外側に金属リチウムが析出しないつまり「0価リチウム」でない「イオン」の場合には、CNT内部で金属クラスターが存在するという説は完全に否定される。
 計算結果をまとめると、
  ・ 安定化エネルギーが負になる条件があり、「新規な電池理論/片持ち論」が立証できた。
  ・ 金属リチウムが析出しない条件で片持ち論が成立し、LiC4が成立することが判明した。
  ・ さらに、現行LiC6を大幅に上回るモデルを推定し、計算で検証する。
 次回は、CNT中心と壁との中間に安定に存在するリチウムイオンの荷電状態について記述します。



    
Fig.71 リチウムイオン3層 計算結果                   Fig.72 立体モデルでの極小値



5)昔話:情報交換会メンバー

 この章は私の「昔話/リチウムイオン電池誕生頃の逸話」で、気軽にお読み下さい。
 定期的に開催されたシール不良検出装置開発の進捗状況報告会は、参加者間の情報交換会になり、大いに賑わいました。メンバーを紹介すると、
 KH社SS社長:下町のものづくり工場のモデルになりそうな方で、X社の開発を下支えし、シール不良検知については同様の考案をされていて実験場・打合せ室を提供していただいた。
 TK大EH助手:「匂いセンサー」の発明者。新コスモス電機製の複数の半導体センサーを組み合わせ、レーダーチャートで解析し匂いを定性・定量化する。大学では不遇であったが、アイディアマンでそのアイディアを自分の手で試作されていた。
 NM社OT氏:初代携帯電話用「リチウム金属電池」の保護回路、充電制御を開発した。本コラムに度々ご登場いただいていますが、個性豊かな方で「電池技術者は肝心なことは言わない」と、私はいつも怒られました。デンドライトを電気制御で解決すると無理を言って困らせられた。
 SN社NS氏:リチウムイオン電池を最初に商品化された。亜鉛空気電池の経験もされている。人格者で、公私に亘り私は御世話になっている。
 X社A氏:リチウムイオン電池発明者の一人。特に正極集電体アルミは随分調査したが、先行文献が見付からず脱帽した。
 HS商社TG氏、TD氏:この業界で知らない人がいない有名人。電池関連の実験装置の仕事で古くからの知り合い。商社マンらしい大胆さをお持ちで、SN社NU氏の移籍仲介でも相談に来られた。KH社の営業窓口でもある。
 MS社FY氏:OT氏の紹介。MS社の電解液分野参入を企画され、メーカー納入を実現した。技術者と聞いていたが、営業の方が向いている印象であった。
 MI大SM教授:FY氏の紹介。大学の先生としては製品に近いテーマを選ばれていた。毎回名古屋から自腹で来られ、全くお酒を飲まないのに、懇親会にも参加されていた。

なお、「SM教授」には、私が名古屋に赴任して落ち込んでいた時に元気付けていただき、今では電池関係を卒業されていますが、引き続き親しくさせて頂いており、年1〜2回東海地区電池関係者懇親会の発起人の一人で、毎回主賓として非常に面白い話をされます。本コラムの掲載許可を得ている「株式会社情報機構様」も紹介していただきました。人の縁は本当に不思議で、人見知りが激しく、人と接することが嫌で研究職になった若い頃の私には考えられないことですが、今では多くの方と話をできるようになり、助けていただいています。<感謝>



6)おわりに

1) 新1万円札の顔となられる「渋沢栄一氏」を調べて見ました。
2) 電極活物質細孔内に電解液劣化生成物「滓」が溜まることが、デンドライト発生の原因であると解説しました。次回は、外部からの電気制御ではデンドライトを防げないことを説明します。
3) 亜鉛極を題材に「金属負極」でのデンドライトショート対策は難しいことを説明しました。次回は、「亜鉛極」でデンドライト防止に成功した発明を紹介します。
4) 多層でもリチウムイオンが「片持ち論」で安定に存在できた計算結果を図示し、「クラスタ論」を完全否定しました。次回はその条件でのリチウムイオンの「荷電状態」についての計算結果を紹介します。
5) シール不良検知器開発の進捗状況報告会のメンバーを紹介しました。



第10回(2019/7/3)



1)はじめに:花火

 住んでいる清須市の「尾張西枇杷島まつり」花火大会に行ってきました。
 東京では、「隅田川の花火」が有名ですが、庶民は立ち止まって観ることも出来ない「遠花火」で、迫力はテレビで感じるものだと思っていました。中部では1000〜5000発程度の花火大会が身近に頻繁に開催されます。徳川家康が火薬開発の平和利用として推奨したと言われ、特に若衆が脇腹に抱え点火すると、炎が10m越えて噴出する勇壮な「三河手筒花火」が盛んです。
 「清須市」の花火大会は6月8日に開催され、小規模ですが、花火シーズン最初の大会で人気があります。お祭りは、200年の歴史を誇る5輌の「山車(だし)」(この地区では「やま」と呼びます)の運行で、からくり人形の舞も面白いですが、一番の見所は山車が方向転換する「曲場(まえば))」です。花火開始1時間前に庄内川土手に陣取り、ビール・どて串・助六寿司で晩酌を済ませ、ドリップコーヒーの香りを楽しんでいると、仕掛け花火(西枇祭り)を合図に、ドーンと言う音と共に尺玉が上がります。続いてスターマインが華々しく彩ると大会の始まりです。ドーンと言う音は花火が開くと同時に時間差なくお腹に響きます。遠花火ではなく、目線より上、首を見上げて観るのが本当の花火の醍醐味です。関東では立派な花火が上がると、「鍵屋、玉屋」と威勢の良い掛け声を上げますが、当地ではその風習はないようで、私だけが下を向いて小声で掛け声をかけていました。
 東海地区で一番大きな花火大会は、7月末の「長良川中日花火大会」です。岐阜駅から臨時バスで行き、早くから場所取りをします。炎天下の場所取りの途中に熱中症で気分が悪くなり、ビール缶で首を冷やし事なきを得ました。終了後は一斉に帰路に就くので、バスに乗れず岐阜駅まで歩きました。この花火大会は「昔話」の項でいずれ記述しますが、NS氏、X氏ともご一緒したことがあります。
 花火シーズンの最後は、以前住んでいた「江南市」で10月中旬に開催される花火大会です。リクエスト曲に合わせて打ち上げる「音楽花火」が見所です。老母を連れて行った際、「炎天下」の場所取りが必要なく、「間近で観られるのは初めて」と、とても喜んでいました。帰り際に車のキーをシートの下に落とし、暗闇の中大騒ぎをして老母に要らぬ心配をかけたことを思い出します。
 花火のカラフルな色は金属の「炎色反応」です。リチウム=赤、濃赤=ストロンチウム、橙色=カルシウム、黄色=ナトリウム、緑色=バリウム、青色=銅、紫色=カリウム、銀色=アルミニウム、金色=チタン。
 EVが普及して、リチウムが不足すると、花火の赤色が出せなくなるかもしれません(笑)。真相は、リチウムなどのアルカリ・アルカリ土類金属は薄いけれども海水に含まれており、濃縮して回収すれば良いので、国プロなどで資源枯渇、商社のリチウム鉱山の権利確保と騒いでいるのは、苦々しく思っています。


2)電池及びリチウムイオン電池の基礎:初歩的なデンドライト発生 その2

 正負容量バランスが取れていないとデンドライトが発生・成長するのと同じように、正負の対向面積が正極<負極となっていないと、正極面に対向していない負極面上にデンドライトが発生します(Fig.58)。容量としては正負バランスが取れていても、正極面が負極面からはみ出た箇所でデンドライトが発生します。図の面積の尺度はmm単位で、厚みはμ単位で、1000倍の縮尺の違いがあり、正⇒負の移動距離に比較し、同じ尺度であれば、平面方向への移動距離は図示できない僅かな量であり、対抗する場所に負極活物質=カーボンがなければデンドライトが発生します。
 積層型での重ね合わせ時のズレは解り易い例ですが、捲回型においても捲きずれが起きると=竹の子巻き=、同じようなことになります。設計ミスで起きることは少ないのですが、製造装置の重ね合わせ精度に裕度を持たせないとこの現象が起きてしまいます。また、塗工後に端子タブを打ち抜きで作り正負極を対向させない場合には、正極タブ下部の活物質塗工部を剥ぎ取りますが、この工程で剥ぎ取り方が不十分で対向する負極タブの縁にデンドライト発生が起きたことがあります。
 マンガン系電池では、マンガン溶解による正極容量減少量は非常に少ないのに、電池としては大きく容量が減少します。溶解したマンガンイオンが負極表面でマンガン金属として付着し、カーボン挿入口を蓋したようになり、リチウムイオンの挿入が出来なくなり、実質的に対抗表面が無くなったのと同じことになり、マンガン金属上にデンドライトが発生し、それがデッドリチウムとして正極に戻れなくなるためです。
 銅などの金属片がセパレータの正極側に存在すると、正極により酸化されイオンとなり、それが負極カーボン上で還元され金属として析出し、セパレータ細孔中を正極まで成長し短絡すると学会発表がありましたが、析出した金属上でリチウムイオンが還元されリチウム金属がデンドライト状に成長し短絡したと考えてデータを見直した方が良いと思いました。



 
  Fig.58 正極面>負極面                   Fig.59 正負極間距離の不均一


 正負容量バランスが取れ正極面の負極面からの食み出しがない場合でも、Fig.59に示すように、正負極間距離に不均一が生じた場合に、正極に近い方の負極表面上にリチウム金属析出・デンドライトが生成成長する可能性があります。この現象は単純に距離の問題ですから、一番遠い箇所までの正極からの距離L2と一番近い箇所からの距離Liとで、イオン伝導度の逆数に電流密度を乗じた積が、デンドライト生成の電極電位とカーボンへの挿入の電極電位との差約100mVを上回れば、デンドライト生成が優先します。普通の積層、捲回工程では起こることはなく、装置に異常があったと考えるべきでしょう。
   (L2−L1)*(1/イオン伝導度)*電流密度 > (デンドライト発生電位―挿入電位) ≒ 100mV


3)次世代電池:次世代負極の長短

 5月度の雑誌・新聞記事について紹介及び所見を整理しました(Fig.60)。今月は件数も内容も乏しく、注釈すべき事項はありません。中国BYD社がEVバス販売に力を入れているようです。コラム第5回で京都市内の路線バスを紹介しましたが、僅か2年で見違える程に改善できる開発スピードに驚かされました。日本メーカーは油断し過ぎているのではないでしょうか?



Fig.60  5月度 新聞と雑誌記事の紹介と評価


 Fig.44に表記した次世代電池の負極活物質候補が抱えている課題をFig.61に記載しました。
 5月23日に名古屋大学にて、科学技術振興機構主催、名古屋大学共催で「カーボン材料革新への期待と課題」というフォーラムが開催されました。講演者の一人がEV用電池開発の第1人者TY社IB氏と知り参加しました。恥ずかしいことにIB氏の講演途中で眠くなり一部聞き損なってしまいました。他の講演はカーボンの専門家の話で、用途開発には「電池」と言う言葉が出て来ますが、「導電補助剤」としての効果についてで、肝心要の「電極活物質」としての話は全く出て来ませんでした。情けない話です。「導電補助剤」は数種あり、コストも考慮して一長一短がありますが、電池容量としては数%の改善があるだけです。仰々しいフォーラムで話題とすることなのでしょうか?「カーボン系」は既に「理論容量密度」に達していると言われている間違った理論を疑いもせず真面目に検討していないからです。「両持ち論とクラスター論」に基づいているために容量限界となっていますが、私の「新規な電池理論」では間違っていることが立証されています。この間違いを正すことがコラム執筆の最大の目的であり、以後順序立てて解説をしていきます。是非とも、カーボンの専門家が高容量負極活物質開発に取り組まれることを望んでいます。
 リチウムイオン電池の優れている点は、正極・負極共に結晶構造への「挿入・脱離反応」であるために、充放電に因る体積変化が非常に小さいことです。一方、次世代負極として最有望視されている「金属系」の欠点は、充電時のデンドライト成長とそれに伴う短絡ショートで、他の項目で記述したように容易に解決できない難しい問題です。デンドライトショート発生で苦汁を舐めさせられた亜鉛は、乾電池にも使われている非常に安価で資源も豊富な金属で、次世代負極材料の候補から外すべきではなく、特に定置用では最有力候補と思っています。デンドライト短絡防止について、解決のヒントを次回ご紹介します。
 同じく合金系の欠点は、充電時の体積膨張、放電時の体積収縮に因る孤立化つまり絶縁化と表面SEIの剥離・溶解です。ナノサイズに微粒子化すれば解決できると言う発表が多数ありますが、表面積が大きくなり、それに伴う多量のSEI形成が必ず悪影響を及ぼすので、成功しないと断言できます。しかし、解決のヒントを次回ご紹介します。



Fig.61 次世代負極の課題と解決策


4)新規な電池理論:単層計算結果

 カーボンナノチューブ(CNT)の中心から1.0Å≦r≦3.0Åの範囲で変化させて、安定点を見積もり、さらに安定点近傍で詳細に計算した。中心付近(r≦1.0Å)および壁近く(3.0Å≦r)の範囲は、安定点が得られず図示できなかった。リチウムイオンを1個から6個まで徐々に増やし、各計算結果を点と折れ線でFig.62に描いた。


 
    Fig.62 安定化エネルギー計算結果           Fig.63 安定化エネルギーの極小値
         (リチウムイオン1層)                    (リチウムイオン1層)


  

 図から解るように中心から約1.5Å以内の範囲では、金属リチウムより安定であると言う条件の下では、図中破線以下でより安定な点は得られなかった。また、半径4.25ÅのCNT壁から約1.5Å以内の範囲でも同じくより安定な点は得られなかった。
 リチウムイオン1個の場合には中心から2.6Åの場所が最も安定で、同2個の場合には1.5〜2.0Å、同じく3個の場合には1.5〜2.5Åの広い範囲で、同じく4個の場合には2.0〜2.5Åの範囲で安定な状態が得られ、6個場合には2.3〜2.4Åの狭い範囲だけで安定に状態が得られました。「7個以上」では、金属リチウムより低い安定化エネルギーは求められませんでした。Fig.62から、リチウムイオン「1個から6個」まで、夫々の最も低い安定化エネルギーをFig.63に点と折れ線で図示しました。リチウム金属の値と比較すると、6個の場合に僅かな差となり、電極の可逆電位の差が小さいことと定性的には一致しました。7個以上では金属リチウムの方が安定なので、現行のグラファイトと同じ結果であり、残念ながら高容量化と言う結論は導き出せませんでした。
 結論として、CNT中心に寄り集まって存在する「クラスタ論」は完全に否定できた。「クラスタ論」主張者は、核磁気共鳴測定(NMR)結果から「イオン」としての存在は認めながら、正イオン同士の静電反発を無視して、中性の金属リチウムとして考察すると言うとんでもない間違いを犯していると主張します。
 なお、この計算をした時点では、私自身に自信がなかったために、NEDOプロジェクト中間審査で、「両持ち+クラスタ論」を論破できず、質疑応答に行き詰まり、意に反してクラスタでの存在を前提にした計算を実施することを約束してしまいました。「リチウムイオンがクラスタで存在する」条件に変更してTB教授に計算を依頼しました。ド素人の私が提示した仮説・条件に基づいて、計算化学の優秀な研究者がスパコンで「クラスタ」の計算をしてくれました。かなりの日数が経過してから、TB教授から「クラスタ」の計算は終了したいとの要請がありました。半分は冗談でしたが、担当しているFS氏がこのままではノイローゼになると仰っていました。スパコンは仮説が正しいとして計算し、正しくないと言う判断はし難いようで、収束する結果が出るまで計算を続けるようです。私の自己保身のための軽薄な考えで、貴重な計算時間を無駄にし、優秀な研究者が不愉快な思いをしてまでも、誠意ある対応をしていただいたTB教授、FS氏、SN氏、IK氏には心より申し訳なく思っています。
 第3項で記載していますが、その後カーボン負極は理論限界で高容量化の希望なしと言う結論が主流になり、金属または合金負極が開発の中心になってしまいました。諸悪の根源は「クラスタ論にあり」と言い切っては言い過ぎでしょうか?


5)昔話:昔々の話

 この章は私の「昔話/リチウムイオン電池誕生頃の逸話」で、気軽にお読み下さい。
 カナダME社から空輸されるリチウム金属電池が,空輸中減圧になる影響はあるとしても、到着開封後にも「臭い」がする原因はシールが完璧でないためと考えました。シール不良を出荷前に検出する方法を考えましたが、これと言って上手い方法がなく困っていました。偶々TK大EH助手と一献交わしていた時に「匂いセンサ」の話が出て、新コスモス電機製「匂いセンサ」をお借りし、実電池を測定しました。見事に電解液の臭いを検出しその有効性が確かめられました。1997年に早速この考案を部下のNN氏が特許出願しました(特許第3276288、特開平10-12285)。1998年6月に小田原でお世話になっていたMU氏、NB氏の企画で、「あじさい電車」、箱根保養所に1泊旅行をしました。EH助手もお誘いすると喜んで参加され、本当に楽しい時代でした。この時の印象で紫陽花が大好きな花になりました。
 ある程度のデータが揃った段階で前述の情報交換会で紹介すると、非常に面白い、関心があるとのことで、開発協力が得られることになりました。また、X社A氏からは、実験装置を発注しているKH社で同じようなことを考えているから共同で開発を進めたら良いとの提案があり、KH社内に「匂いセンサ」を組み込んだ実験装置を組み立てていただき、NN氏が忙しい中を出張して実験しました。量産試験ができるように測定時間短縮が主としての開発課題で、その成果を京都で学会発表し、特許を3件出願(特許第3860312号、特許第4355042号、特開2000-188135)しましたが、測定時間の短縮は目標値には達せず、量産での測定には不向きと解りました。なお、実験室レベルでは非常に感度良く検知でき、また封止不良になっている個所を特定できる有効なシール不良検出器が開発できました。
 18650円筒型セルは3社からサンプルを入手しました。流石にSN社は「臭い」つまりシール不良全く検出できませんでした。他の2社はやはり「カシメ部」で僅かに臭いが検出されるセルがありました。角型は2社のサンプルの測定をしました。数10個の内1個だけ臭いを検出しました。当然「上部溶接部」から電解液成分が漏れ出ていると考えましたが、溶接部では針は動かず筐体の横、底部から1cm程度の所で「臭い」が検出されました。おそらくは角型缶作製時に「深絞り工程」に無理があり表面からは見えない亀裂が生じていると推定しました。
 KH社社長は、臭いを検知できなかった18650セルでも軽く机の角などで叩くとしばらくは臭いが検知されることに気が付かれました。円筒缶のかしめシールは「金属の弾性」で密封しているので、応力がかかると歪が生じシール不良状態になるようです。機器に装填された時にかしめ部に余分な力が加わるとシール不良になる訳で、機器設計に当り十分な余裕を見ることが必要です。あるいは逆に内部でガス圧が上昇し易いニッケル系では十分な注意が必要でしょう。昔から、PN社は乾電池外形ギリギリに電池ケースを設計することで有名でしたが、大丈夫でしょうか?
 ノートパソコンにリチウムイオン電池が採用されるようになり、ある時IB社MT氏から18650電池が早期容量低下を起こし、電池メーカーの説明ではロボットアームが電池を挟み込む時の力が強過ぎて変形し捲きズレが起きたためで、その証拠としてジュリーロールの変形した写真を見せられたが、本当の不良原因だろうかと相談されました。その写真のセルは肉眼でも明確に解る程変形していて、出荷時外観検査をパスするはずがないと不思議に思いました。今考えると、事実は外観検査では判らない程度で「かしめ部に歪」が生じていて、シール不良が起きたと考察しています。
 この測定方法がラミネート型電池の端子部の融着不良検出にも役立つことが実証され、研究の試作段階では非常に役立ちましたが、量産の検査装置にはできず、特許料収入は入りませんでした。SY社がこのセンサで開発製品の試験をしていると言う裏情報が入り、EH助手から特許侵害で訴えて特許料収入を請求せよとの要請がありました。社内開発中での「実施」では難しいと説明しましたが納得していただけず、共同開発をしていたKH社社長と仲違いしてしまい、その仲介を上手く取れなかったために両者から恨まれることになりました。私の人付き合いの下手さで両者にご迷惑をかけてしまったことは苦い思い出です。


6)おわりに

1)地元東海地区の「花火」を紹介しました。
2)面積、距離の違いで起きる「初歩的な」デンドライト発生を説明しました。次回は「劣化」が原因の場合を解説します。
3)次世代電池用「負極材料」が抱える課題の解説をしました。次回は「金属系」におけるデンドライト抑制について紹介します。
4)「平面層」での計算結果を図示しました。「クラスタ論」を完全否定しました。
5)「臭いセンサ」でのシール不良検出装置開発の経過を報告しました。次回は「情報交換会」を披露します。




第9回(2019/6/5)



1)はじめに : 名古屋走り その2

<方向指示を出さない>
 右折車線で信号待ちをしている車の半分は「ウインカー」を出していません。方向指示は自分のためではなく、周りの運転者・歩行者に次の動きを知らせる目的ですが、人のために何かをするという習慣が名古屋では希薄なので、このような運転になります。では、方向指示は何時出すのでしょう。ハンドルを切り始めてからウインカーを点滅します。意味がない!
 さらに過激な話は、右折車線で信号待ちしていて突然直進をする車があります。対向の右折車は予測できず衝突します。方向指示器を出していないから何処に向かおうが構わないという危険極まりない運転です。

<あおりハンドル>
 この危険運転は愛知県だけではないとも言われていますが、圧倒的に愛知県は酷く、「軽自動車」の大半はこの「あおりハンドル」をします。大型車が狭い道で内輪差を考えて左折する時に車線をはみ出て大回りするのと同様に、左折する時にハンドルを一度右に切ってから左折する運転です。丁度フェイントを仕掛けるような動きです。右後方の車線を走っていて、左車線から車線を跨いで入って来るように見え、必死で急ブレーキを踏んだことが度々あります。もちろん左折の方向指示器は点いていません。「あおりハンドル」をする理由は、自動車ラリーにおける急カーブでの「アウト・イン・アウト」走行の真似で、「格好いいから」と聞き呆れました。ラリー愛好者は街中でこんなバカな運転は絶対にしません。

 決して特殊な飛ばし屋がするのではなく一般運転者がするので、名古屋での道交法になっています。他県の方で運転に自信のない方は、愛知県内では公共交通機関を使う方が無難です!なお、阿波の黄走り、岡山ルール、播磨道交法、伊予の早曲がり、松本走り、山梨ルール、茨城ダッシュなど、「名古屋走り」だけでなく、各地方独特の「危険運転」があるようです。
 本年度の4月までの交通死亡者数は、愛知県は第3位、千葉県が第1位で、やっと不名誉な連続記録から抜け出せるかもしれません。また、HEV普及に伴い静粛な運転に慣れ、転じて安全運転が身に付けば、TY社が地元の愛知県としては誇れるようになれるかもしれません。こじ付け過ぎでしょうか?


2)電池及びリチウムイオン電池の基礎:初歩的なデンドライト発生 その1

 リチウムイオン電池の負極は、グラファイトまたはハードカーボンの数μの微粒子集合体で出来ており、グラファイトの場合には約0.3nmのグラフェンの層間に挿入、ハードカーボンの場合にはnm程度の不規則な空隙に挿入され、リチウムイオンの状態で安定に存在します。リチウムイオンが0価つまり金属になる電位とは明確に区別が出来ます。
 リチウム金属析出  Li+ + e- ⇒  Li(metal) E0=―3.0V(水素標準極基準)
 カーボンへの挿入  Li+ + C6 + e- ⇒LiC6   E0=〜−2.9V
 夫々が電極反応を起こす電極電位E0を固有しており、負極の電位を制御することで、反応を制御することが出来ますが、現実の電池では正負両極端子の電圧で計測・制御しているので、正極電位と負極電位を分離することが出来ません。充放電に連れて正極電位は大きく変化しますが、負極電位の変化は小さいので、結局は正極しか制御できません。言い換えれば、正極ではリチウムイオン挿入脱離に伴う電圧計測で過充電を制御可能ですが、負極は挿入脱離に伴う電圧変化の計測では制御出来ず、過充電つまりデンドライト発生を防げません。
 「過充電を電気制御しています」が電圧制御だけなら、デンドライト発生に対しては「無力」です。


<正負容量バランス>

 
Fig.51 正常な充電                    Fig.52 正極容量>負極容量


 もっとも単純なデンドライト発生原因は、正極容量が負極容量を上回った場合です。
 Fig.52、比較のためにFig.51で図説します。通常はFig.51に示すように正極から負極にリチウムイオンが移動し、正極の容量全てが無くなり負極に挿入された充電末でも、負極にはリチウムイオンを「受け入れる余裕」があります。つまり、「正極容量<負極容量」に設計されています。一般的には「正負容量バランスが取れている」と言っています。一方、Fig.52のように正極容量が負極容量を上回っている設計だと、負極が満充電、つまり負極にリチウムイオンを収納できる場所が無くなると、正極から負極に向かって移動するリチウムイオンは行き先が無くなります。もし、参照電極基準で制御をしていれば、この段階で充電を止めることが出来ますが、両端電圧で制御をしているので、負極が満充電になっていることを検出できず、充電を続けてしまいます。行き場を失ったリチウムイオンは負極表面に到達すると、起きてはいけない「リチウム金属析出」が起き、デンドライトが発生します。この反応が何回も続くと結局はデンドライトが成長し、最悪の場合正極に到達し内部短絡、ショートします。
 正極が満充電になると電圧制御で充電は停止されますが、この時にリチウム金属が負極表面に析出した状態になります。クリスマスのモミの木のような結晶形状(樹脂状=デンドライト)のリチウム金属表面は非常に活性で電解液と直ちに反応し、表面にSEIを形成し、電解液劣化、ガス発生を引き起こします。また、デンドライトが千切れて、多数のリチウム金属の微結晶が出来ます。金属溶解反応の方が、負極からのリチウムイオン脱離反応より反応電位が低い(反応し易い)のでデンドライトは容易に放電しますが、千切れたリチウム金属結晶は電気的に孤立しているので放電できません。放電できないリチウムのことをデッドリチウムと呼ぶこともあります。デッドリチウムは正極に戻れなくなる訳ですから、正極放電容量は少なくなります。正極の「早期容量劣化」現象の大半がこの理由です。学会発表などで正極劣化を正極活物質の微細化と考察していますが、データを良く観て正しく考察すれば間違いが解ります。300サイクル程度で正極劣化したデータはこの視点で見直すことをお勧めします。


3)次世代電池:電気化学会春季大会報告

 4月度の雑誌・新聞記事について紹介及び所見を整理しました(Fig.53)。今月はテスラ関連記事が多く驚いています。



Fig.53 4月度雑誌・新聞記事の紹介と評価


・ EVに関し各社を紹介する時に、テスラ抜きは不自然と解っており、テスラギガファクトリ関連情報を整理する必要性は感じているのですが、入手情報の真贋が解らず勇気が出ません。
・ 以前から取り上げている電池交換方式(メカニカルチャージ)に関し、電池容量が少ない、つまり軽い小さいことから、充電ステーション方式の二輪車で実用化が進んでいます。電動自転車が普及しているのは家庭充電が便利だからで、充電ステーションのようなインフラ整備を変える方式には疑問を持っています。川崎市のごみ収集車のような社会インフラ構築の必要がない特殊用途で普及を進めるべきです。




Fig.54 第86回 電気化学春季大会調査報告


 電気化学会春の大会に参加しました。以前に比べ韓国・中国の参加者は減っている感じがします。費用対効果が小さいと判断されていると思うと残念な気がします。半導体⇒液晶⇒電池が日本のお家芸ではなくなって来ているのでしょう。
   表中の※印について以下記載します。
(※1) 東大山田教授グループの発表が目立ちます。ハードカーボンについて層間距離との関係など示唆されることが多く感心して聞いていました。ただし、ナトリウム「イオン」と表現しないのは何故なのか不思議に思っていました所、イオンでは絶対にありえず0価でなければならない「クラスター」で貯蔵機構を解釈していました。金属結晶になっているなら、活物質表面での金属析出との競合を考えればあり得ない現象で、電池では間違った解釈です。
 「クラスター」と言う表現は、「水のクラスター」などと聞こえが良い言葉のために、TR大KB教授には訪問して直接説明したにもかかわらず、相変わらず使用されています。他人のせいにしてはいけませんが、イオン同士ではありえない「クラスター」の表現が通用している間は、「新規な電池理論=片持ち論+篩膜」は陽の目は見ません。考え直していただけることを期待しています。
(※2) PAN系材料は10年以上前にパナソニックから、焼却処理時に有毒ガス発生の可能性が指摘され、電池特性が向上しても民生製品としての採用は自粛すると言う提案があったはずです。その提案を読んで、メーカーとしてこの発表をした研究者およびそれを許した上司に感心しました。製品化を前提としない研究でも断りなしで良いのだろうか?私は現役の研究者でなくなってから、安全性・毒性に神経質になりました。
(※3) 全ての溶媒分子がLi+に配位した高濃度電解液は、間接的効果かも知れないが、金属溶出抑制など面白い特性が得られている。溶媒分解が律速の電池は全て見直す必要があるかもしれない。昔話だが、40年前に鉛蓄電池の研究中に、フリーな水が無くなる濃硫酸では不思議な電池特性を示すことに気が付きました。しかし、若気の至りで濃硫酸の一滴を目に入れて失明しかけて、研究継続を諦めた。今から思えば苦い「青春の思い出」です。
(※4) 半導体技術の展開で楽しみです。一杉教授には別件で丁寧に解り易く指導を受け感謝しています。半導体技術者は実験と理論を結び付ける習慣があり、私のような電池技術者にはない視点をお持ちです。
 「液系電池」の反応界面過電圧増大は表面での反応種(リチウムイオン)減少で解釈できます。「全固体電池」でも固体電解質/活物質反応界面で反応種(リチウムイオン)の減少で解釈できるのではないでしょうか?電流/電圧の関係がオーム則(E=IR)に従わないのではないでしょうか?
(※5) 電池メーカーが固体電解質開発を断念したのは、@電極活物質の体積変化に伴う界面抵抗と、A硫黄系の硫化水素発生であり、決してイオン伝導度不足ではなかった。硫黄系で硫化水素を軽視するのは間違っています。阪府大グループは必ず一言は触れており、研究姿勢を高く評価しています。
 本来、硫化水素の毒性問題はLIBTECのような国の研究機関で調査・研究し、その毒性・安全性に結論を出すべきです。全固体電池搭載のEVが事故・火災を起こした場合に、消火活動はどうすべきかとの問い合わせも来ています。「割れない鉄箱の電槽」と言う回答だけで良いのでしょうか?地方の消防団の青年が安心してできる消火活動の指針を出すべきでしょう。

   電気化学会春季大会の報告が長くなったので、「次世代負極材料が抱える課題」は次回に延期します。


4)新規な電池理論:カーボンナノチューブ計算方法

 金属リチウム析出しない境界条件の中でカーボンナノチューブ(CNT)で計算をしました。
 電池討論会発表、特許の拒絶査定反論などで、私の説明が誤解を呼び、カーボンナノチューブでの特殊な計算結果と思われてしまいました。弁理士にも理解されず、特許庁の審査官との面談にも苦労しました。
・ 電子状態・構造等が規定できる「カーボンナノチューブ」で計算したが、片持ち論の証明結果は全ての「多孔性カーボン」に適用できます。
 <カーボンナノチューブに限定されません>
・ さらに言えば、「カーボン」に限定されず、全ての電子電導性微孔構造体であれば適用できるはずです。
 Fig.55の計算式で、文献により最も一般的と思われたCNT構造を特定し(Fig.56)、LiをCNTに導入し、系全体を中性として安定化エネルギーを計算しました。CNTを輪切りにした平面で、予備計算で安定と思われた1.0Å~3.0Åを0.5Å刻みで詳細に計算しました。さらに、1個ずつLiを加えて安定化エネルギーを計算しました(Fig.57)。7個以上ではリチウム金属生成の安定化エネルギーより低い結果は得られませんでした。
 次回計算結果を詳述します。


 
Fig.55 Li導入の計算方法          Fig.56 分子軌道法計算の計算モデル



Fig.57 カーボンナノチューブ平面層計算モデル


5)昔話 : 昔々の話

 この章は私の「昔話/リチウムイオン電池誕生頃の逸話」で、気軽にお読み下さい。
 先に行く前に、振り返ってさらに昔々の話、失敗談をさせて下さい。
<金属負極電池>
 ニッケル亜鉛電池、NM社のリチウム金属電池の話はしましたが、その他にも金属電池では嫌な思い出があります。
 40年以上前入社3年目、順繰りで薬品管理担当を任されていました。薬品棚にノートが吊らされ、持ち出す時に数量を記入することになっていました。水銀などの毒物も同じ取り扱いで、建前ではノートの記載量と実際の量とを担当は確認することになっていましたが、本音はいい加減で良いと聞いていたので全く管理していませんでした。お盆休暇が終わって直ぐに総務から呼び出しを受け、薬品管理について質問され管理の実態を報告すると、呆れ顔で事情を話してくれました。ARテーマリーダーが故郷四国の山奥で服毒自殺したと言うことでした。会社から「青酸カリ」を持ち出したようです。後日警察の聴取があると聞きびくびくしていましたが、その後呼び出しはなく私の失態は不問に付されたようです。後に聞いた話では、ARリーダーはリチウム金属電池の2次電池化と言うテーマを担当していたようです。金属電池の2次電池化は、取り組んではいけない「呪われた」テーマとの印象を持ちました。
 高分子固体電解質(SPE)をフランスから日本に導入した張本人は私ですが、最初の動機はリチウムイオンがホッピング伝導するからデンドライト成長が起きないと言う宣伝文句に「騙された」からです。今でもホッピング伝導と聞くと熱振動距離が理屈に合わないのに大丈夫かなと首を傾げたくなります。SPE導入の経緯はいずれ記載しますが、会社に1億円の損をさせ、数人の研究者を数年間に亘り徒労をさせたと申し訳なく思っております。
 40年の研究の歴史がある「金属電池」、国プロRISINGなどで脚光を浴びていますが、斬新的なアイディアに基づいているのでしょうか?

<リチウムイオン電池情報>
 当時この名前はありませんでしたが「リチウムイオン電池」の情報は、A社KB氏から持ち込まれました。上司IB部長と気が合われて、私も会食に同席させていただきました。この話の詳細はまだ記載する決心が出来ていないので保留します。
 一方、ソニー(株)が1991年に商品化する数年前に、ソニー(株)開発中の電池について情報を得ていました。上司のIB部長、恩人のNS氏にもこの話はしていません。ある異業種交流会のお世話役を仰せつかっていて、カーボンメーカーのKR社技術企画担当AK氏と会食をする機会があり、電池技術者と名乗らなかったので、AK氏は油断をして電池メーカーから特殊なカーボンの開発を依頼されていることを話されました。しかし、私はカネボウ、ブリヂストンが開発していた導電性ポリマー電池と勘違いしました。KT大YM教授から導電性高分子については教えていただき、その電池としての実力は把握していたので、AK氏の話を無視してしまいました。私の誤った思い込みのせいで、リチウムイオン電池研究先行の絶好のチャンスを逸してしまいました。得られた情報の取り扱いが戦略を根本から変える可能性があることを知りました。

<クラスター>
 大学の時に腐食の研究をしていました。恩師AY氏から参考になるからと勧められ「水のクラスター」について文献を読み漁り、かなりの見識を持っていました。丁度DRAMで日本が米国に追い付いた、半導体業界が活気あふれた時代に、電池から浮気して「半導体」を勉強するために、亡くなられた「東北大西澤教授」に弟子入りをしました。兄弟会社「ユアサ商事のNM部長」がセミコンジャパンの幹事をしている関係で、当時飛ぶ鳥を落とす勢いの若手実力者、「広島大学広瀬教授・東芝(株)堀池主幹研究員」と4人で会食をしました。超純水洗浄がサブミクロンの領域では上手く出来ないとの話が出て、それは水が「クラスター」となりポリマーのような大きな分子になっていると言う物理的イメージを説明し、イオン化して分断すると微孔内でも洗浄できることを話すと、堀池氏は非常に喜んで早速試してみると仰っていました。その後暫くしてDRAMで日本は米国を追い抜き、東芝は世界一になりました。「水クラスター論」が役に立ったとほくそ笑んでいます。この話のように、「クラスター」については明確な物理的イメージを持っています。クラスター論者は、カーボン微孔内にプラスイオン同士がクラスター(凝集体)として安定化すると言う物理的イメージをきちんと説明できるのでしょうか?


6)おわりに

 2)正負容量バランスの間違いに基づくデンドライト発生を図説しました。次回も初歩的な設計ミスを例示します。
 3)電気化学会春季大会の報告をしました。次回は次世代負極材料が抱える課題について記載します。
 4)カーボンナノチューブ計算方法を説明しました。次回は計算結果を詳述します。
 5)寄り道をして、金属負極電池、リチウムイオン電池情報、水のクラスターについて、昔々の話を記述しました。
 次回から「臭いセンサ」によるリーク検出装置の開発経過を報告します。




第8回(2019/5/10)



1)はじめに:名古屋走り(その1)信号無視

 春の全国交通安全運動が5月11日(土)から20日(月)に実施宇されますが、GW明けの久々の通勤・通学で交通事故の発生が心配されます。
 「名古屋走り」と言う交通ルールをご存知ですか?特に尾張地区が酷いと言われています。
 (その1) 黄色で突き進む。「黄色はまだまだ、赤勝負」
 ・ 信号が黄色に変わったら、アクセルを踏み込んで渡る。
 ・ 赤信号では左右を見て慎重に渡る。
 ・ 余所者の車が黄色で停止したら、クラクションを鳴らし、空いている車線で追い越す。
 尾張地区に住んだ当初、何度も黄色で停車してクラクションを鳴らされました。「飛ばし屋」が危険運転することは全国何処でもありますが、名古屋走りの特徴は、普通の「おばさん・おじさん」の運転です。いらいらする程ゆっくり走っているのに、黄色信号で平気で交差点に進入します。
 不思議な運転体験をしました。信号が青になり左折しようとすると、横断歩道手前の小学生が渡りません。小学生が見ている歩行者用信号はもちろん青です。一生懸命に手を振って渡るように促し、やっと私も左折出来ました。
 ・ 愛知県交通安全協会本年度ポスター:青信号でも子供は「いったんとまってみぎひだり」
 ・ 新聞の投書欄:「青信号に変わって子供が飛び出した。親の教育が悪い。」この投稿した運転手側の信号は当然「赤信号」です。
 子供は車が近付くと青信号でも渡らないように教育されています。逆に、運転者に対する「赤信号では止まれ」と言う普通の交通ルールが徹底しません。
 その結果、交通死亡者は2018年度全国3532人で、愛知県が189人で「16年連続1位」と言う輝かしい称号となっています。駐車違反は取締りを強化することで激減しました。「名古屋走りの信号無視」も、子供・歩行者側に注意を促すのではなく、道交法に従って取り締まりを強化すれば解決できるのでは・・・!
 EVの普及を大歓迎している立場とは無関係の話ですが、安全は日頃の心得が大事です。安全に疑いのある電池は、何よりもその疑いを晴らすことを優先すべきでしょう。


2)電池及びリチウムイオン電池の基礎:正極酸素発生

 リチウムイオン電池は、内部短絡(ショート)すると金属缶で密閉され酸素はないのに、激しく発火・燃焼します。酸素がないガソリンタンクとは根本的に違います。短絡箇所で短絡電流が流れ発生したジュール熱で電解液分解が起き、ガス発生が始まります。反応が急激でなく、この段階で内圧上昇により安全弁が開放されると、煙が出る程度で収まります。反応が急激の場合には反応熱も加わり、正極活物質が200℃以上になると、Fig.41に示された温度で熱分解し酸素を放出します。金属缶の中と言う酸素がない状態でも中から酸素が自発的に発生し激しく燃焼します。
 燃焼には、燃えるものと燃やすものが必要で、一般の火事では酸素つまり空気を遮断すれば、消火できるのですが、リチウムイオン電池では自分自身から酸素を供給するので、空気を遮断しても消化できず、激しい燃焼が起きます。極端なことを言えば、ダイナマイトと類似しています。Fig.42は反応式を比べました。ダイナマイトの爆発には窒素の大量発生があり同じとは言えませんが、燃焼に必要な酸素が内部から供給されるという点は同じです。酸素が出始めてからは熱暴走の状態になり手が付けられません。激しい場合には正極端子などで使われているアルミニウムが溶け、酸素と急激に反応します。
 発火事故を防ぐには、内部短絡を起こさないことに尽きます。内部短絡の原因としての異物混入も重要ですが、デンドライトショートが油断できません。私は異物混入よりもデンドライトショートの方が多くの火災事故の主原因と考えています。
 デンドライト発生原因を整理すると、
 1.初歩的な設計上のミス・無理・油断
  1)設計:正負極バランス 負極>正極  2)製造:精度不足・装置不良  3)電解液劣化
 2.電気化学的発生  (カーボン挿入反応過電圧>>デンドライト析出反応過電圧)
  1)電極活物質細孔内での電解液希薄:大半の主因 2)デンドライト成長に伴う表面積拡大! 3)過電圧の違い:反応機構の考察!
 次回以降これらを解説します。
 余談ですが、Fig.41に示すように、Mn<Co<Niと危険性は増します。Ni量を増やすことで、高容量化の改良がされていますが、この表を忘れていないことを祈るばかりです。


 
Fig.41 各種正極活物質の熱特性                     Fig.42 熱分解による酸素発生


3)次世代電池:負極材料候補

 3月度の雑誌・新聞記事について紹介及び所見を整理しました(Fig.43)。




Fig.43 3月度雑誌・新聞記事の紹介と評価


 今月は年度末のためか紹介記事は多くなりました。電池交換式が注目されています。スクータ程度の小容量用途あるいは川崎市で実証試験が行われているゴミ収集車のような限定された用途では実現性が高いと思います。最近頻繁に発表されている東北大折茂教授グループが開発している錯体水素化物固体電解質に注目しています。硫化水素発生がないので今後の研究の進展に期待しています。電解液分解防止のSEIが不要なのだから、デンドライトショートの問題を抱える金属負極に拘らず、TK大ST准教授のように多孔性カーボン負極で容量2倍を実現させるべきです。つまり、多孔性カーボンを「片持ち論」で見直すべきでしょう。




Fig.44 次世代負極材料の容量密度比較


 次世代負極材料の容量を現行負極グラファイト容量に対する倍数で整理しました(Fig.44)。次世代負極を現行の2倍以上と規定すると、4)項の「新規な電池理論」に従えば「2〜3倍」の高容量になる多孔性カーボンは次世代負極材料の候補になります。「軽金属系」は重量当たりでは10倍近い容量が得られますが、比重が軽いために「体積当り」では数倍に止まります。遷移金属の亜鉛は比重が高いために重量当りでも体積当たりでも2倍程度の容量があります。合金系は10倍の高容量と脚光を浴びていますが、充電後の「体積」を基準に考えると3倍程度です。マスプロの掛け声に踊らされることなく、どの材料を開発するかの戦略が最重要課題です。
 反応式に基づくファラデー則から得られる理論容量は物質のモル数つまり重量当りであり、電池技術者は電池の比較をするときに重量当りで考える習慣があり、NEDO等の次世代電池プロジェクトの目標値も重量エネルギー密度(Wh/kg)で定めていました。しかしながら、HEV・EV等の車両用次世代二次電池を比較検討することになり、TY社IB氏が、縦軸出力、横軸エネルギーのラゴンプロットで、縦軸・横軸を体積当りで記載されており非常に驚きました。今まで車のような移動体では電池自身を運ぶのであるから、重量が重要であると信じ込んでいましたが、搭載する空間の制限の方が厳しいと説明を受け、自動車設計の難しさを思い知らされました。体積当りのラゴンプロットは初めて見たので、早速IB氏には引用の許可をお願いしました。今でも多くの電池技術者が重量当りで解析をしますが、自動車の場合には体積当りで検討するべきでしょう。最近は国プロでも体積当りで考えるようになって来ています。一方、やはり移動するのですから重量も忘れてはならない基準でしょう。
 これら次世代負極の抱える課題を次回解説します。


4)次世代電池:計算の前提条件

 NEDO「Li-EAD」プロジェクトへの参加が決定し(Fig.45)、立花教授に計算をお願いしました。Fig.46に示すように計算の大前提を決定しました。電子の空間軌道を表現するのに使用する基底関数、計算Methodが異なると定量的比較ができなくなるので、Fig.47の基底関数系を用いて、予めリチウム金属の凝集エネルギーを計算しました。リチウム金属の結合エネルギー計算モデルをFig.48、計算結果をFig.49に記載しました。文献による0K、1atmにおける凝集エネルギー実測値=―1.63eV/atom=に最も近いDFT(B3LYP)の計算手法に決定しました(Fig.50)。その結果、リチウム金属が析出しない電位域でのリチウムイオンの安定状態を計算すると言う「電池固有の条件」を計算化学に導入することができました。この制限を導入したので、脱溶媒和したリチウムイオン単体の状態よりも金属リチウムの方が安定であると言う「全く意味のない」計算結果を避けることができました。


 
Fig.45 NEDOプロジェクト参加              Fig.46 計算による検証


 
        Fig.47 基底関数系                     Fig.48 Li金属結合エネルギー計算


 なお、 Fig.48に示すように、リチウム原子は数が増えるにつれて安定化エネルギーは小さくなります。リチウムイオンが細孔内で、「クラスター」で安定化していると言うクラレ(株)等の主張は「リチウム原子」では言えますが、「リチウムイオン」では絶対に間違っています。ハードカーボン内でリチウムは「イオン」で存在していることは認識しながら、「0価のリチウム原子」での凝集状態から「クラスター」と表現する間違いを犯しています。学会などで認知されている「この間違い」が、「新規な電池理論=片持ち論」の大きな壁として立ちはだかり、カーボン多孔体での高容量化の取り組みが金属リチウム析出と誤解され軽視されています。



       Fig.49 計算条件による計算結果           Fig.50 分子軌道法による計算方法


 本コラムの目的の一つは「クラスター論」の間違いを指摘し、「新規な電池理論/片持ち論」を立証し、充放電による体積変化の小さいカーボン多孔体での高容量化研究を促進することです。次回以降、カーボンナノチューブ中でリチウムイオンが「片持ち論」で安定に存在することを計算により立証します。 


5)昔話 : SN社NS氏との運命的な出会い

 この章は私の「昔話/リチウムイオン電池誕生頃の逸話」で、気軽にお読み下さい。
 NS氏との出会いをきっかけに、私はリチウムイオン電池を高く評価し、IB部長も賛成されましたが、社内的には身動きできないような状況にあり危機感を感じていました。IB部長からはいずれリチウムイオン電池に全社開発方針を切り替えるから、できるだけ情報収集をして欲しいと要請されました。
 当時は東京本社に所属し、小田原に小さな研究室を任されていましたが、実際には何もできない状況でした。しかし、幸運なことに本人の事情で私の研究室に中央研究所から若い人が異動して来ました。KZ大・工学部総代となったと噂されるNN氏で、私が抱え込んで放り出していたテーマを次々に引き受けてくれました。しかし、研究者としてはこのままでは死んでしまうと心配し、導電性高分子の相談に乗っていただいていたTK大YM教授の研究室に派遣しました(特開平1993−010908)。通学での導電性高分子の応用研究をしながら(特開平1994−052904)、私が支離滅裂に思い付くテーマを、愚痴をこぼさずにこなしてくれました。とにかく呆れる程に優秀で頭の中を見てみたいと思う程でした。
 NM社OT氏、SN社NS氏、X社Y氏とは「情報交換会」を、とは言っても私が一方的に情報収集をしていたと言うべきですが、時々開催していました。毎回OT氏が音頭を取り両氏も気軽に話されるようになり、多くの情報を入手することが出来ました。部下のNN氏に幹事役を任せると、日程調整が非常にスムーズになり、皆様楽しみにされ、定期的に開催されるようになりました。直接研究に携わっていないのにリチウムイオン電池に係わる重要な課題と対策については、耳学問としては超一流の知識を得ることができました。リチウムイオン電池の製品化に成功したSN社NS氏、リチウムイオン電池の特許権者X社Y氏が、お忙しい中でも日程調整されて必ず参加される贅沢な会ですから、後々、この会はリチウムイオン電池の情報の宝庫として羨望の眼差しで見られる程になりました。
 1990年頃TK大の電気化学の恩師AY助手(助教)から変わった人がいるからと、EH助手(助教)を紹介されました。ある事で内部告発をして大学内で完全に干されていましたが、当時は最低限の研究を許される裕度があったので、自分一人で研究をされていました。研究室は足の踏む場もない程に手作りの試作品が並んでいました。発明が得意で、その発明を自分の手で試作しないと気がすまない性質で、どれも役に立ちそうもない物ばかりでしたが、新コスモス電機(株)と共同開発した「匂いセンサ」がありました。半導体の電導度が吸着したガスの還元性で変化することに着目し、変化率が異なる複数のセンサで得られたデータをレーダーチャートにすることで、人間の嗅覚のように、心地良い匂いと、不愉快な臭いを数値化できると言う測定器「臭いセンサ」です。


6)おわりに

 2)内部短絡による発熱で正極から酸素が発生し熱暴走します。次回からはデンドライト発生の原因について解説します。
 3)次世代EV用電池負極材料の紹介をしました。次回からはそれが抱える課題について整理します。
 4)NEDOプロに参加し、前段階として「リチウム金属」を計算し、分子軌道法の計算条件を決定しました。次回からは、CNT内でリチウムイオンの「片持ち論」での存在を立証します。
 5)SN社NS氏等との情報交換会が始まりました。次回からは「臭いセンサ」によるリチウムイオン電池リーク検出装置開発の経過を報告します。




第7回(2019/4/5)



1)はじめに:東海のお花見

 3月27日〜29日京都大学で開催された「電気化学会第86回大会」から戻りこの原稿を書いています。大会中少しサボって花見もできました。2〜3人連れの和服の女性が何組も歩いていました。身振り手振りで写真を撮るよう頼まれ、背景、ポーズを変え数枚撮ると大変喜ばれました。もちろんインバウンドの中国人です。日本語は全く話せないようですが、着付けの店に行き、帯・足袋も含め和装姿にしてもらったようです。中国からの旅行者は「爆買い」を控え、日本文化を楽しんでいるようです。   
 名古屋は例年より4日早く、3月22日に開花宣言が出ました。(公財)日本さくらの会選定の「日本さくら名所100選」に、愛知県では山崎川四季の道(名古屋市)、鶴舞公園(名古屋市)、岡崎公園(岡崎市)、五条川(岩倉市・江南市・大口町)が選ばれています。他に東海地区では根尾谷の淡墨桜(岐阜県本巣市)が忘れてはならない桜です。
 現在住んでいる清洲は、秀吉が信長の孫・三法師を担ぎ天下取りの第一歩を踏み出した清洲会議で有名な地で、観光用に清須城模擬天守閣が建築されています。五条川は清州まで続いており、清須城周辺は花見の名所になっています。名古屋駅から東海道線2駅目と近いのに田畑が残っており、駅前にコンビニさえもない寂しい駅で東京との違いに驚きます。
 五条川の15km、4000本の桜並木は本当に見事です。鈴なりに桜花を付けた枝が両岸から伸びて川の中央で重なり合い花の色を濃くします。東京の目黒川とは趣が違い、護岸の斜面以外は雑草が生えた土手で自然が残っています。染色した「鯉のぼり・皐月のぼり」を川に浮かべて糊を落とす伝統的手法「のんぼり洗い」の実演、各町が保存する山車の巡行「からくり人形」の演舞など見所が沢山あります。満開には少し早目でしたが、今年もスーパーの弁当とお酒をぶら下げて土手道をお花見散歩しました。桜並木は4市町に延び、とても全部歩くことが出来ず、歩き疲れたら土手に座り酒を飲みながらのんびり桜を眺めうとうとするのが、この季節の楽しみです。一般的には桜は散りだすと見納めなのですが、水面が全く見えなくなる程に見事な「花筏」が出来、満開時、散り時と2回楽しめる素晴らしい花見の名所です。
 昨秋の台風21、24号で被害を被った「薄墨桜」を観に行ってきました。大きな枝が4本折れましたが、地元の方々尽力と県・市の協力を得て復活を遂げています。樹齢1500年余、樹高16.3m、幹回り9.91m、枝張り20〜27mの彼岸桜の巨樹で、「日本五大桜、三大巨桜」の一つで、「国指定天然記念物」です。この老桜は、これまでも多くの人の尽力で蘇っています。伊勢湾台風により被災し、痛々しい無残な姿になった老桜に心を痛めた宇野千代氏(1996年98歳没)が保存の呼び掛けをし国・県の補助で、満開の花を咲かすようになりました。
 初めて訪れた年は、開花には早く裏道には雪が残り、生憎小雨も降っていました。パンフレットには不死鳥のように蘇ったと書かれていたので、鮮やかな桜の大樹を思い描いていましたが、坂道を登って現れた眼前の巨木は今にも倒れそうな朽ち果てた老木でした。小説「薄墨の桜」では、作者自身と高級料亭の女将・養女が登場人物ですが、主人公はその名の通り、古木「薄墨桜」です。「宇野千代」は、私が抱いた老木のイメージと同じ気持ちで、主人公の女将の運命を悲劇の結末にさせたのでしょうか?
 今年も見事に咲いているのですが、やはり最初のイメージが強すぎて、華やかな気分は沸きません。この老木の巨大さには心底圧倒されるのですが、決して威風堂々ではなく、多くの支柱と、背後に咲き誇る元気な「実から育てた直系の二世桜」に支えられているように見えました。なお、世界中に「直系の二世桜」が植えられているそうです。最近の気候変動で、1,500年の歴史を経た「薄墨桜」も、観測史上初めて言われる異常気象を被ることになると思うと気が気ではありません。来年も再来年もこの老木を訪ね、「どうか長生きして下さい」と手を合わせなくてはという気持ちになります。


2)電池及びリチウムイオン電池の基礎:発火事故例と原因

 昨年2月26日「読売新聞社説」でリチウムイオン電池の事故が取り上げられました。電池による火災が注目されています。
  ・質の悪い海外製品の普及が背景にある。
  ・電気用品安全法の規制対象に加え、粗悪品を淘汰する。
  ・国内各メーカーは安全対策に努めている。
   ☆世界競争の中で日本の技術力を高めていきたい
 具体的に中国を名指ししてはいませんが、中国の中小メーカーを意識していることは想像に難くありません。
 (独法)製品評価技術基盤機構(略称:nite)が今年1月24日に、2013年度から2017年度の5年間で582件のリチウムイオン電池の事故があったと発表しました。
  ・事故の内402件が火災を伴い、内368件は製品不具合、内209件はリコール対象品であった。
  ・13年度46件が、17年度には121件と大幅に増加している。
  ・携帯電話の補助電源として携帯されているモバイルバッテリーで頻発した。
 Fig.34に事故例を表にしました。リュックサックの中のモバイルバッテリーが発火した件など粗悪品と思われる発火事故が起きています。しかし、5年前、2013年のボーイング787の事故は大手国内メーカーGSユアサ製の電池です。この航空機用電池開発を発表した技術者には、私が知っている名前はなく、ユアサ関係者はいないと解りホットしました。立派な調査報告書が作成され、発火したセルから他セルへの延焼に対策が取られましたが、最初のセルの発火原因は不明と片付けられました。この時には調査には電池関係者は参加していなかったようです。翌年1月14日に火災が再発し、著名な電池専門家及びGSユアサも参加し、事故調査・原因究明が行なわれました。前年度火災の対策が有効で、過熱したセル以外のセルは無事でバッテリー全体の機能は維持できた。
  ・「リチウム金属析出」など内部短絡・加熱の原因は特定できなかった。
  ・信頼性向上のために、潜在的な要因について検討する。
つまり、原因不明でセル発火には打つ手がないと言う結論です。私は公表されたデータに電圧パルスが入っていることが気になりました。GSユアサは製品設計・製造工程の見直しをして、二度と人命に関わる可能性がある事故は起こさないはずです。電池の専門家が加わってこの程度の調査報告とは落胆しました。私が加わっていれば・・・(笑)。
 第1回目の事故があった時に、某TVから取材の申し入れを受け、顔出しは不可、音声は変える、ことを約束に引き受けました。記者によるインタビューのみと言う約束で気軽に考えていたら、撮影用の大型バスに乗り付けられ、大慌て、冷や汗もので、記者に厳重に申し入れをし、インタビューのみを受けました。実際に放映されたニュースでは約束は守られており胸をなでおろしました。なお、この放映ではST大KN教授が詳しく話されており、私の話の大半はカットされていました。


Fig.34 リチウムイオン電池の発火事故例

 Fig.35は、TVインタビューの手元資料として、前夜に大慌てで作成したFMEA(Failure Mode and Effect Analysis)です。見直しをしていないので不備もあると思いますが、不具合が起きた時の参考にして下さい。テスラEVのように壁に激突するなど電池が機械的に損傷した事故ではなく、充電方法に不備がなく、ギャラクシ不良の一部の原因とされたセパレータ不良がなければ、火災事故は全て内部短絡、つまりは異物混入かデンドライトショートが原因です。



Fig.35 発火原因調査(FMEA)

 Fig.36にパナソニック・ノートパソコン用2011年から2018年製造品リコールを表にしました。右欄には同時期にパナソニック製電池を搭載した富士通ノートパソコン2011年から2016年製造品のリコールを表にしました。東芝も2016年1月28日、11月10日にパナソニック製電池のリコールを発表しています。5年以上に亘り、不良品を出荷し続けたと言うことは腑に落ちません。工程での異物混入であれば、返品電池の製造番号を見れば、何年何月何日、工場・ラインが特定出来、早期に解決できるはずです。また、出荷時には異常ではなく、ある期間使用することで不具合が生じることも製造時不良と片付けるには無理があるのではないでしょうか?満充電にしない対策が取られていますが、異物混入の対策になるのでしょうか?
 3月20日付中日新聞の記事によると、本件について東京地裁は「原因は特定できなくても、製造物責任法上の欠陥はあり、賠償責任はある。」との判決を下しました。原因不明だから、製品交換を5年も繰り返すと言う不可思議な対処方法に、言わば、「お灸をすえられた」と言うことと思います。今後は火傷などをした場合に刑事事件としての訴訟が起こる可能性があり、今回の判決を踏襲される可能性は高いと考えるべきと思います。内部ショート ⇒ 発火について、電池メーカーは原因不明だからと安易に考えず、もっと真摯に向き合うべきです。



Fig.36 パナソニックおよび富士通リコール

 パナソニックあるいは中国メーカーが原因とした異物混入は、塗装・注液工程などで環境中の埃が取り込まれる、蓋溶接時に溶接屑が内部に入るなど、工程の埃、屑などが電池内部に残ることで、その可能性は決して低くはないでしょう。混入した時に絶縁性ですと、エージング後の電圧検査では見付からず、不良として抜き取られずに出荷されることがあります。環境をクリーンルームにし、埃・屑をなくすこと、さらに電極シートなど電池内部構成部品に付着しないように静電気除去が有効と思います。
 大半の火災事故で、異物混入が原因とされていますが、数年使用後、あるいは長期間に渡り不具合が発生し続ける場合にはデンドライト発生が原因と考えており、次回以降詳しく解説します。


3)次世代EV用電池:改良型リチウムイオン電池について

 2月度の雑誌・新聞記事について紹介及び所見を整理しました(Fig.37)。東芝がEV用として負極に「希少金属ニオブ」を材料とする新製品を発表しました。数年前に、このニオブ負極について意見を求められましたが、@材料比率が高いEVでは現行カーボン負極に比較しはるかに高価になる。A現行カーボン負極に比し高エネルギーになることは考えられない。と言う理由で無視していました。EV普及の妨げの一つである「希少金属コバルト」を減らすことに努力している時に、新たに「希少金属ニオブ」を採用することには「疑念」を抱きます。



Fig.37 2月度の雑誌・新聞記事の紹介

 昨年11月27日から29日(木)、大坂府立国際会議場にて、「第59回電池討論会」が開催されました。電池関連の最大イベントで、特に企業研究者は電気化学会よりも重視しています。韓国・中国の参加者は減っているように感じました。電池技術委員会主催で大変収益があがっている様子が、懇親会の派手さから解ります。事前に調査依頼があり、意識的に「全固体電池」の発表を聞きました。
 「全固体電池」以外には、Fig.38のように、「シリコン負極」の寿命に係わる発表と「亜鉛負極」のデンドライトに関する発表を聞きました。負極は金属系、合金系が高容量になることは明確ですが、夫々の欠点が乗り越える壁として益々高いと言うことが明確になってきています。



Fig.38 電池討論会参加報告=全固体電池以外編=

 「全固体電池」については、Fig.39に一覧表にしました。注目していた「硫化水素発生」については、OF大TM教授グループ等は解決すべき課題として意識的にして取り上げていましたが、他の研究者は関心がないようでした。消防士の人命に関わるこの問題抜きに開発を進めることは許されず、電池「討論会」で「硫化水素発生」が必須検討項目とされないことに危惧を感じました。
 新たに水素化物の発表がありました。低温でのイオン伝導度、初充電効率等解決すべき課題はありますが、今後の開発に期待できます。硫化水素の発生はないが、水素発生がありそうなので、負の側面も十分に考慮して開発が進められることを望みます。



Fig.39 電池討論会参加報告=全固体電池編=

 EV用電池としては、リチウムイオン電池が当面の唯一の解ですが、エネルギー密度は理論値になっており、リーフ仕様である一充電走行距離400kmが限界で、ガソリン車に代替し一般に普及する性能である1000km走行を実現するためには、2倍のエネルギー密度が望まれています。
 リチウムイオン電池の「改良」が多くの研究機関で挑戦されており、整理するとFig.40のようになります。酸化還元しない電解液または添加剤に因る正極SEI形成により、「5V系高電圧系正極」は実現すると思います。それ以外の「リチウムイオン電池の改良」は他の性能を犠牲にすることになり、実用化は出来ないと思います。例えば、注目されている「高Ni比率正極」は、酸素発生温度とリチウム金属融点とのマージンが小さくなり破裂発火の可能性が高くなり、高容量化だけで喜ぶことは出来ないはずです。また、「5V系正極」の研究成果でも、他社が生産できない強い特許が成立するとは思えず、優れた「改良研究」をしても、直ぐに韓国・中国に類似技術を実現され、生き延びられるのは僅かな期間しかないと思います。
 「改良型リチウムイオン電池」は、EVの本格的普及には能力不足で、「日本の電池産業」を救う手段にはならず、現在各メーカーで必死に行われているコストダウン努力と同じように無駄になると思っています。



Fig.40 改良型リチウムイオン電池の正負極候補材料


4)新規な電池理論:国プロ応募および関連特許

 「新規な電池理論」を構築し特許出願しましたが、「篩膜」に目途が立たない限り、実験は難しいことが解っていたので、AH氏、京大立花教授の助言に従って、国プロに応募することにしました。2008年4月22日、NEDO募集「次世代自動車用高性能蓄電システム技術開発(略称Li-EADプロジェクト)」に、テーマ名「新規な電池理論の研究開発」で応募しました。大学と共同研究にした方が合格し易いとの助言があり、カーボンナノチューブ(CNT)発明者楠教授が異動した名古屋大学、計算化学立花教授の京都大学、JFCCの3社の共同研究にし、提案に重みをつけるために、リチウムイオン電池の「生みの親」NS氏、名古屋大学で電池研究をしていたSN氏に加わっていただき応募しました。
  ・ CNT内部でリチウムイオンの相互反発は?
  ・ CNT内部での存在状態・位置?グラファイトより高容量になるか?
  ・ リチウムイオンが先端孔を通過する時及び溶媒が通過する時のエネルギー障壁は?
 具体的には
  ・ 分子レベルでの計算モデルの構築と、静的状態での分子軌道法による軌道計算で理論の検証を行う。
  ・ 電気化学速度論に基づき先端孔をリチウムイオンが通過できることを確認する。
  ・ リチウムイオンの存在位置・状態を現象論から明らかにし、それが可能なCNT等を試作する。
 将来への展開は
  ・ 「新規な電池理論」の実験による証明。
  ・ 理論を実証する材料の計測・観測。
  ・ 多価カチオン、陰イオンでの適用。
 NEDO担当者はMB社からの出向のYZ氏で、電気制御の専門家で夢を見ることが出来る立場で、全く新しい革新的なアイディアに対し共感を持たれ、採用に向けて協力していただきました。NEDO上層部からは、計算だけで実験がないのは応募主旨に反するとの意見がありましたが、YZ氏が補足説明をし採用されました。
 なお、13年前のこの募集では、次世代電池関連で17件、内硫黄系正極4件、金属/空気電池3件、酸化物負極3件、イオン液体3件、合金系負極2件、金属負極1件、固体電解質1件、多価カチオン1件が採用されました。固体電解質関係を除けば、現在の国プロも配分は変り映えしません。
 業務委託契約書、実施計画書など、YZ氏の協力を得て作成・提出・契約し、2年分総額4千万円弱(主としてJFCC人件費、京都大学スパコン代)で、研究を開始しました。JFCCでは国立大学・国立研究機関とは異なり人件費に多くを割かれるので予算獲得には不利な条件かも知れません。
 開発資金が得られたので、早速京都大学立花教授に報告し計算を依頼すると、以下を確認されました。
  @  CNT内は等電位面になっているが、正電荷のリチウムイオン同士は反発する。
  A  カーボン壁とリチウムイオンは静電力よりは、ファンデルワールス力の寄与が大きい。
  B  CNT内で金属結晶になる安定状態なら、CNT外側に先に金属結晶ができると言う「電池特有の条件」を境界条件にする。
 Bの条件は、計算が進むにつれて、非常に重要かつ適切な条件であったと判明します。NEDOと応募内容の質疑応答を繰り返す内に、以下が採用反対の「裏の理由」であることに気が付きました。
  @  特許出願「済み」は委託業務での成果にならない。
  A  特許を出願したのだから実験データがあるはずで、応募の目的がその実験費用の回収に思える。
  B  学会などで周知されている「両持ち論、クラスター論」を否定し、数倍の高容量が得られる「新規な電池理論」は認めがたい。
 @は、理不尽ではあるがもっともと思いました。Aは、実験せずに実施例無しで出願する例は非常に少ないので、疑いの目で見られても仕方がないと思い、純粋に理論特許で実験はしていないことを必死で説明しました。Bはかなり憤慨しました。実際に中間発表の時に、「国立研究機関研究者」から、「悪意」を感じる質問をされました。後々その研究者が「クラスター論」の提唱者であったことが解り納得しました。
  出願特許が応募の最大の目玉で、まだ審査請求前で特許成立が決まっていなかったので、先行出願特許を再調査した所、残念ながら良く似た特許が見付かりました。
  @ 出願日:1994年2月18日 出願番号:1994−21344 発明者:大崎外2名 特許権者:日本酸素(株)
    特許番号:第2844302号 登録日:1998年10月30日 
  A 出願日:1994年2月18日 出願番号:平6−21349 発明者:大崎外2名 特許権者:日本酸素(株)
    特許番号:第2844303号 登録日:1998年10月30日
  請求要旨: 難黒鉛性炭素の微粒子表面の細孔入口径を、リチウムイオンが通過可能で、かつ、電解液中の有機溶媒が実質的に通過不可能な径とする。
 私の第1特許(第5062989号)の請求項と類似していますが、同一ではなく、入り口での大きな過電圧はデンドライト発生を引き起こすので、実用電池にはならないと思われました。電解液の細孔内への浸入を防ぎ、速度論的課題を解決できる「篩膜」には気が付いていません(第2特許第5134254号)。従って、「篩膜」での実用化は、「日本酸素の特許」には抵触しないと考え応募し、NEDOにも説明しました。
 自分の発明が最初と思っても、調査をすると先行技術があることが多いのですが、本件でも痛感しました。審査請求では、特許事務所からはCNTに絞らないと成立しないと忠告されましたが、CNTに限定すれば、理論上は有効だが実用上は有効な特許にならないと判断し、審査官面談を申し入れ、リチウムイオン電池が置かれている背景から、本発明考案までのいきさつを丁寧に説明しました。審査官は熱心に耳を傾け、最終的にCNTに限定せずに特許として成立することが出来ました。なお、本件特許2件はJFCCが維持年金の支払いができなくなり、現在は私に譲渡され、その特許維持年金を私個人が負担しているので、特許権を購入していただける方を探しています。


5)昔話:SN社NS氏との運命的な出会い

 この章は私の「昔話」で技術的に価値のない話ですが、リチウムイオン電池誕生頃の「逸話」を知りたい方は楽しんでお読み下さい。
 リチウムイオン電池と私との出会いは非常に古く、X社から評価依頼と共同開発の申し入れがあった時からです。ユアサ電池AH氏が評価し非常に素晴らしい電池との報告を受けました。X社との共同開発については今でも公表を「憚る」ので詳細は飛ばしますが、受け入れ難い条件があり合意に至りませんでした。また、当時NM社のリチウム金属電池、後述する高分子固体電解質電池の開発を進めており、人・物・金の開発資源は非常に厳しい状況でした。
 私は日記の習慣がなく記憶だけで本稿を書いていますが、大事なことなのでNS氏に確認を取ると、1993年8月に前述のNM社OT氏のアレンジで、NS氏、X社、ND社、OT氏、私の5名で東京・新橋で会食をしたのが最初のようです。残念ながら私は緊張しており、曖昧な記憶しかありません。リチウムイオン電池は本格的な取り組みが始まらず指を咥えて見ている状況でした。1996年2月に同じくOT氏から、リチウムイオン二次電池「生みの親」NS氏の話をじっくり聞ける機会を設けるからと誘われ、東京・人形町のNS氏が行きつけの寿司屋でお会いしました。競合メーカーになる可能性のある私にも、リチウムイオン電池の研究・開発の経過を誠実に解り易く話され、驚くと同時に運命的な感銘を受け、大変なことになると思いました。この時の印象をIB部長に報告し、高分子固体電解質電池の開発を中止し、リチウムイオン2次電池の開発に注力すべきと提言しました。
 この頃OT氏から、カナダNM社から空輸されてきた時に段ボールを開けると、「匂いがする」が構わないのかという相談がありました。確かに良く嗅いでみると、「パイナップル缶詰」のような芳香臭がします。梱包前の水洗を丁寧にしても変わりなく、空輸で減圧になることを考慮しても、「匂う」と言うことはシールが完璧でないことを意味しており、水分が逆に浸入している可能性もあり、出荷前に検出する方法を見出すべきと考えました。


6)おわりに

 2)発火事例と原因について説明しました。次回からは「デンドライトショート」について解説します。
 3)EV用電池としては現行リチウムイオン電池が「主流」になりますが、日本メーカーには勝ち目なく、「改良型」リチウムイオン電池も残念ながら勝ち目はないと思っています。次回からは「次世代電池」について整理します。
 4)NEDO募集「Li-EADプロジェクト」応募のいきさつを紹介しました。次回は、「リチウム金属」などの前提となる計算結果を報告します。
 5)「SN社NS氏」との運命的な出会いを記載しました。次回からは「シール不良検出器開発」について記載します。
   「平成」が終わり、新しい時代「令和」が始まります。「次世代電池」も間もなく花開くと思います。それが、「新規な電池理論」に基づく電池だと嬉しいのですが・・・。




第6回(2019/3/6)



1)はじめに:愛知の喫茶店文化

 愛知県に住んで一番感心したのは喫茶店です。全国に誇れる素晴らしい文化だと思います。以前卵焼きを敷いた鉄板スパを紹介しましたが、食べられるのはレストランではなく、喫茶店です。「名古屋地区、愛知地区」と分かれた広告チラシを見掛けます。名古屋は愛知県には含まれず、愛知地区は「尾張と三河」が代表で、それぞれ東、西に分かれています。愛知県喫茶店数は人口比で、高知県、岐阜県に次ぐ3位です。特に有名なのは「西尾張地区」です。小さな繊維工場が多く、会議室・応接室代わりに喫茶店を頻繁に利用していたそうです。田畑が残っている田園風景が広がる所で、徒歩10分以内には必ず明るい色彩の洋風の2階建てが見付かります。主要道沿いとは限らず一歩奥に入った小道に面している店もあります。マスター・ママの個性が発揮された内装で、コーヒー400円で、追加料金なしで必ず「モーニング」が付きます。トースト・サラダ・ゆで卵またはオムレツ・「小豆あん」・豆菓子が定番で、茶碗蒸しが付く店もあります。お年寄りには十分なボリュームです。最近では流石に経営不振になる店も出てきているようですが、実に不思議な光景です。
 裏の畑を耕しに来るお婆さんは、朝早くに畑仕事を済ませ、着替えて9時頃に喫茶店に行きます。最長老なので指定席が確保されていて、モーニングを食べながらマスターから提供される小説を読むことが日課です。この時間帯は常連の高齢者がボックス席で情報交換する、井戸端会議の場となり、人それぞれに寛げる憩いの場となります。老人が集う場所が、朝食代も含め400円/回で、歩いて集まれる距離にあると言うのは、本当に素晴らしい文化だと思います。東京の老母が遊びに来ると喫茶店に連れていきます。東京で近所の友達と話がしたい時には、長々と電話で話すか、中間にある公園で話をしています。玄関を通らずに縁側から気軽に入れるように改築しても、お互いの家に上がるのは気が引けるようです。数人で集まることになれば呼び掛ける事も大変ですし、雨の日、寒い時、暑い時には難儀なので、次第に会う機会が減ってきて家に籠りがちになります。名古屋の喫茶店に行くと毎回羨ましそうに、同年代の老人達が楽しそうに話をしているのを眺めています。名古屋の喫茶店文化はこれからの高齢社会で、孤独を紛らわせることが出来、ボケ防止になる有益な文化で、大切にするべきと思います。路線バスのシルバーパスのように、喫茶店用割引き券を発行する事は高齢化社会にとって有効な税金の使い道だと思います。
 私は土曜日昼に割子弁当(松花堂弁当)を食べに行きます。コーヒー込みで780円です。刺身・天ぷら・煮物が味噌汁付きで食べられます。カラオケ喫茶も兼ねているので、気が向くと11枚千円のチケットで1曲唄って帰ります。特に綺麗な訳でも美味しい訳でもないのですが、午後にはほぼ満席になり驚かされます。結局は安いこと(お値打ちと言います)、常連客を大事にしていることが成功の秘訣なのでしょう。
 顧客の要望で専用電池を開発することがあります。お客様と親密な関係が作れ、最先端の開発機器を一緒に開発している気分を味わえるので、技術者として遣り甲斐もあり楽しくなります。その製品がヒットすれば大儲け出来ますが、競合メーカーが標準品で同じような製品を作ると、特注品はコスト高のため採用されなくなります。小ロットで安く生産できる方法が構築できないのが残念です。



2)電池及びリチウムイオン電池の基礎:SEI剥離・修復・再形成

 前回Fig.25で図示したようにSEI(図中緑の五角形)は活物質表面を覆っていますが、温度変化、充放電に伴う体積変化などにより、Fig.31で図示するように一部が溶解・剥離します。剥離したSEI欠損部分には直ちに電解液が浸込み分解して埋めるので、SEIは修復されます。つまり、SEIは常に活物質表面を被覆し、電解液分解を防いでいます。一方、溶解・剥離した「SEIの残渣」(図中白抜きの緑の五角形)は電解液中に浮遊していきます。丁度滓が浮遊するようなイメージです。SEIは、リチウムイオンは通過させ(イオン伝導性)、電子は通過させない(電子電導性)特性を有し、リチウムイオン電池が充放電を繰り返すために重要な役割を果たしています。




Fig.31 SEI(固体電解質界面)剥離・溶解と修復

 一方、Fig.31で白抜きの緑の五角形で描いた溶解・剥離した「SEIの残渣」は、電解液中に浮遊し、イオン移動の妨げとなる電解液劣化の主因としての「マイナスの役割」しかありません。先日電池技術者とこの電解液劣化について議論をしている時に、「滓」が増えてくるようだとの発言があり、この言葉から、SEI層の電解液側で、滓が溜まっている層を「滓層」と名付けることにしました。この「滓層」を明確に定義付けすることで、電解液劣化、デンドライト発生などが非常に解り易く説明できるようになりました。これまでは「SEI層中を溶媒和したリチウムイオンが電極に向かって移動する」あるいは「SEI層は電解液劣化に伴い厚くなる」などと、電解液分解を防止するSEIの役割とは矛盾した表現をしていましたが、「SEI層」と「滓層」を分けて定義し、電解液側に広がる「SEI層」を「滓層」と言い換えれば、これらの現象を矛盾なく解説できます。
 前述のように水系電池でもSEIはでき、溶解・剥離した「滓」もできます、これらは、正極で酸化され酸素、あるいは負極で還元され水素になり、適切に密封した電池の中では、燃料電池の原理で最終的に安定かつ単純な分子「水」、電解液に戻ります。要するに「電解液分解生成物は電解液に戻ります。」従って、水系の電池では電解液劣化は起こりません。一方、リチウムイオン電池のような有機溶媒電池では、電解液である有機溶媒が分解すると、最終的には単純なリチウム塩、炭酸ガス、有機気体、水素、水などになりますが、これらは電池の中で複雑な分子である電解液に戻ることが出来ません。「有機系電解液は分解すると、元の電解液には戻れません。」その結果「滓」が増えて徐々に電解液は劣化していくことになります。
 電解液分解生成物にはリチウムイオンが含まれ固定化されるので、この分のリチウムオンは電池反応には寄与しなくなり、Fig.22で図説した指数関数劣化の一因になります。しかし、多くの場合にその量よりもはるかに劣化は早く済みます。負極でできた「滓」は徐々に正極に浮遊し、正極にて酸化され、正極の細孔内に安定な化合物として沈殿します。正極活物質細孔内は「滓」が非常に多くなり、イオン移動が阻害され、通常の終止電圧打ち切り放電試験では放電、つまり正極活物質細孔奥部でのリチウムイオンの挿入反応を妨げます。結果として充放電効率が下がることになります。リチウムイオンは正極に戻れず負極にとどまっています。負極からリチウムイオンが脱離できないと言う考察がされることがありますが、間違っています。正極に入ることが出来ないから負極に残っています。正極寿命になった電池から負極を取り出して新鮮な正極と組み合わせて引き出すと、十分リチウムイオンが残っていて、電極活物質として活性であることが証明できます。高率放電では容量が取り出せないが、低率放電では元に近い容量が得られ場合がこの劣化現象に当てはまります。簡便な検出方法として、「掃き出し放電」と名付け、1C、0.3C、0.1C・・・のように順次放電率を下げて、正極活物質としての容量測定を心掛けていました。「掃き出し放電」では、劣化したと判定された電池の多くで元に近い容量が得られます。正極劣化と解析されているデータをこの観点で見直すと、正極活物質自体は劣化していないことが多いことに気付かれると思います。学会などでこの種発表を聞いた時には注意をするのですが、私の表現が上手くないのか理解されないことがほとんどです。残念!
 余談ですが、電池試験・解析をしている関西の分析会社が、正極容量劣化が活物質微細化のためと解析している発表があり、「その充放電条件ではデンドライトが発生しているはずで、そのため正極容量が少なくなったのではないですか?」と質問した所、「デンドライトはこの種試験では『普通に』発生しますが、この発表では正極容量を継続的に測定しているので無関係です。」との回答でした。開いた口が塞がらなくなりました!
 正極活物質劣化と言う場合には、正極容量を測るだけでは解らないことがあります。電圧制御充電(例えば4.2V)ですから、充電末で脱離した状態はサイクルで変化しませんが、放電末は戻って来たリチウムイオン量で決まるので、放電末のOCVは重要な意味を持ちます。容量減少が起きていても、元のOCVに戻れていない、充電で放出したリチウムイオンの一部が戻ってこられていないことが良くあります。この戻ってこられない理由を解析することが重要で、容量減を正極活物質劣化と安易に結論付けるのは間違っています。

  <SEI(固体電解質界面)のまとめ>
  1)電解液(溶媒・溶質)が分解して、負極活物質表面に形成する。
  2)リチウムイオンは通過できるが、電子は通過(?)できない。厚さは10nm以下。
  3)熱・応力で溶解・剥離し、滓となって浮遊し、イオン移動を妨害する(滓層)。



3)次世代EV用電池:EV用リチウムイオン電池の技術的展望


Fig.32 1月度の雑誌・新聞記事の紹介

 1月度の雑誌・新聞記事について紹介及び私の所見を整理しました(Fig.32)。トヨタ自動車がパナソニックとEV用電池を開発・生産する新会社を設立するとの発表がありました。パナソニックの実態は旧サンヨーグループで、テスラー向け電池を開発・供給している旧パナソニックグループとは違うと推定しています。角型・3元系正極で、韓国メーカーさらには中国大手メーカーが手掛けている一般的な技術内容になるはずです。トヨタ自動車が子会社PEVE、つまり旧パナソニックの技術協力を得て自社開発した「HEV用リチウムイオン電池」の延長としてのEV用電池開発は放棄したと考えて良さそうです。トヨタ自動車(株)500人、旧サンヨーグループ3,000人はこれまでの実績から驚くことのない人数です。記事では「全固体電池」の開発も共同ですると書かれていましたが、トヨタ自動車はこれまで独自に開発し圧倒的に先行し、一方旧サンヨーグループは全固体電池についてほとんど実績がなく、僅かに手掛けていた旧パナソニックの「要素技術開発部隊」は移管されないことから、共同開発の報道は不思議に思っています。先ずは、明日からのEV用リチウムイオン電池をどうするかの早急な対策ではないかと思います。トヨタ自動車内でこれまで研究開発をしていた研究者・技術者が、体制変化に動揺しなければ良いと願っています。
 昨年秋、9月25日(火)から26日(水)、金沢大学にて、電気化学秋季大会が開催されました。電池は学問としては電気化学に属し、その学会の年2回の発表会です。全14会場の内、キャパシタ・燃料電池も含め3会場が電池関連で、129件の発表がありました。今回会場の雰囲気としては中国からの参加者が非常に少ないと思いました。ただし、中国の参加者が日本の学会の秩序に慣れてきて目立たなくなったためかも知れません。私が聞くことが出来た発表について紹介及び所見を整理しました(Fig.33)。著しく新鮮さを感じた発表はありませんでした。全固体電池については興味が湧かないので、ほとんど聞きませんでした。




Fig.33 電気化学秋季大会発表の紹介

 Fig.32、33などの情報を参考にして、今後のEV用電池について調査・検討をし、私の所見を記述していますが、怪しい話と思われたら飛ばして下さい。
 リチウムイオン電池が当面主流であることは衆目の一致した意見と思っていますが、前回までに述べたようには市場面では、日本市場は小さく、膨大な市場を抱える中国では国策としての補助・規制などにより、中国メーカーが圧倒的に有利になっています。また欧州市場では先行する韓国メーカーが優位に立っていると思います。
 市場では日本メーカーは負けが決定、技術では日本メーカーはどうでしょうか?
 およそ1年前、2018年2月28日国際2次電池展基調講演で、@マクセルホールディング(株)、ABYD BCATL、Cテスラー の代表者の講演を聞きました。Cテスラーは電池技術の話ではなく宣伝と太陽電池システム定置用電池の実績紹介で中味はありませんでした。ABYDは特に印象的な話はありませんでしたが、技術説明は要点を正確に把握して丁寧に説明されていました。リン酸鉄正極への執着心が残っているようで、早く割り切らないと製品競争に負けると言う気がしました。@マクセルホールディング(株)の講演は一般論に終始、技術的な話は隠していると言うより誤魔化しているとしか思えませんでした。技術的な内容について、電池の「素人ではないはず」の私が聞いていて、全く意味が解りませんでした。原稿はバリバリの技術者が書いたはずなのに、講演者がその内容を口頭発表できず、技術を軽んじているとしか思えませんでした。一方、BCATLは素晴らしい内容でした。「専門家のはず」の私が聞いても充分に内容のある話でした。今後の開発方針についても、現行リチウムイオン電池の抱える課題を解説した上で、今後の開発方針を論理矛盾なく説明されていました。技術を大切にしている心意気が明確で、このような経営者が率いる電池メーカーは成功するに違いないと思いました。
 数年程前に、韓国LGCのEV用電池開発に関する講演を聞いた時に、同時に話した日本メーカーよりはるかに技術内容に深みがあり感心しましたが、その時と同じ印象を持ちました。ご存知のように、韓国LGCは民生用では数年前に日本メーカーを追い抜き、EV用電池でも技術・市場共に日本メーカーが太刀打ちできなくなる程に成長しています。基調講演をする経営トップが技術を大切にしていないと言う印象を持たれる日本メーカーは非常に残念です。
 リチウムイオン電池技術では、@グッドイナフ氏のコバルト酸リチウムなど層状金属酸化物正極、A旭化成鰍フ正極アルミ集電体の2件の特許が強力で、韓国メーカーは特許実施料が大きな負担になっていましたが、現在では他社に対し圧倒的に有利になる特許はなく、これからも権利化できないと予測できます。しかるに、中国は電池産業を「輸出産業」とすべく戦略的に電池量産工場への優遇処置をしていると聞いており、量産品で日本メーカーに勝ち目はないと考えています。さらに、EV産業自体を「輸出産業」とすべく国策として支援すると思われます。
 当面現行リチウムイオン電池の部分改良でエネルギー密度つまり一充電走行距離を伸ばすことになりますが、安全性を考えると2〜30%向上できれば良い方で、独占的な特許のない日本メーカーには全く勝ち目ないので、早々に撤退し、エネルギー密度2〜3倍の次世代電池の研究・開発に全精力を注ぐべきです。



4)新規な電池理論:特許5062989号、特許513425号

 特願2005―330431、特願2007−13906(共同発明者:楠美智子、出願人:JFCC)の2件を出願した所で、数人の知人に今後の展開について相談をしました。「片持ち論」には絶対の自信がありましたが、世間はクラスター論(両持ち論)で固められていましたので、全く話を聞いてもらえませんでした。また、「篩膜」については目途がなく、簡単に見付かるとも思えず困惑しておりました。元部下のAH君に相談した所、今は実験で難しいことは計算化学で証明する手段がある、特に理論を計算化学で立証することは有意義であるとの助言を貰いました。私には計算化学の経験はなく、専門の知人もいなかったのですが、AH君から非常に厳しい方だけど専門家を知っているからと紹介されました。AH君に連れられて緊張してKT大学のTB教授を訪問しました。私の考えを手短にお話しすると、熱心に聞いていただき、下敷きを取り出して、片側に静電気で埃が付着するイメージですかと聞かれました。その通りですと答えると、計算する価値はありそうだと言っていただきました。計算をする上で条件を特定しないと効率が悪いと言われ、電池としての条件を数点明示すると直ぐに理解していただき、カーボンナノチューブのような閉じた構造は計算し易いと言われました。
 1)孔径を制御し静電力に基づく慣性力でCNTに入る初等幾何の発案は、量子力学でも通用する。
 2)等電位になっている内部でイオンが安定できる条件は、量子力学と共に電磁気学が重要でる。
 3)CNT内部のリチウムイオン同士は正電荷として反発し合う。
 4)内部のリチウムイオンはCNT壁とは、ファンデルワース力で引き合い釣り合う。
 5)3,4)により、リチウムイオンは内部で浮遊する。
 6)電気化学的に金属にならない制限を条件とすることは、量子力学としても興味深い。
   これらの助言をいただき、計算化学による立証をTB教授にお願いしました。TB教授からは、計算化学として絶対に正しい解を導き出すことをお約束します、ただし人為的に望む解に誘導する要請があっても絶対に受け入れないし、考慮もしないと厳しく言われました。
 KT大のスパコンは外部研究に対し開放されており、教授担当テーマは優先していただけるが、低額とは言え使用料が必要である事が解りました。JFCCでの私は知財担当が本職で、電池テーマを立ち上げられる立場にはなかったので、NEDOプロジェクトに応募する、つまり税金の補助を獲得することにしました。
  <新規な電池理論展開の課題>
  1)カーボン微孔に片持ち論で貯蔵して高容量になるか? ⇒計算化学での証明 ⇒国プロ提案
  2)リチウムイオンは通過出来、電解液は通過できない篩膜は実在するのか?



5)昔話:NiZn電池での内部短絡クレーム処理

 この章は私の「昔話」で技術的に価値のない話ですが、リチウムイオン電池誕生頃の「逸話」を知りたい方は楽しんでお読み下さい。なお、前回予告した運命的出会いの話は次回に譲ります。
 NM社のリチウム金属短絡事故と前後して、「ニッケル亜鉛電池」の内部短絡のクレーム処理を担当していました。北海道の山林で灌木の伐採をするための「チェーンソー」で、市販品はガソリンエンジンが動力源ですが、振動で白蝋病になることがあるので、林野庁の要請で電動式への変更に協力することになりました。山林ですから電線を引き回すことは無理、発電機は大きく騒音が酷いことから、リチウムイオン電池が世に出ていない当時では、鉛蓄電池よりは画期的に小型軽量になると予測された「ニッケル亜鉛電池」を搭載することになり、開発プロジェクトが発足し製品化しました。昼休み部分充電、夜間完全充電の繰り返しで、5月から9月まで約100日使用され、お客様からは、振動が小さく、軽くて馬力も十分あると感謝されました。しかし、翌年5月に充電できないと言う不具合が発生しました。ところが、「ニッケル亜鉛電池」プロジェクトの技術担当兼責任者が早期退職し担当不在となり、私がクレーム処理を担当しました。4個に1個の頻度で短絡し、短絡していない電池もセパレータが金属色に変色している部分が見付かりました。開発経過・研究報告書を読み直し再現実験すると、セパレータ・充電速度などが工夫・改良されているが、セパレータ中で金属結晶成長する短絡を完全には防止できていないことが解りました。基礎研究を担当した研究者は、特殊セパレータの機能で1年間は保証できると思っていたようですが、当時の営業現場でお客様に対しては3年保証をしたようでした。機器メーカーと期待寿命を打合わせる時に、300サイクル1年が、100サイクル3年と誤解された可能性もあります。サイクル寿命とカレンダー寿命との違いを解り易く説明する努力が不足していたと思っています。
 返品電池を解体すると多くは下部に金属結晶成長が発生していることが判明しました。保管中にアルカリイオン及び亜鉛イオン(ジンケートイオン)の重さに因る濃淡が出来、亜鉛イオンが濃い所では亜鉛金属析出が起き、薄い所では溶解が起きる「濃淡電池」による電流で亜鉛金属の析出が起きたと判定しました。対策としてのメッキインヒビターについて、化成品商社を通じて化学メーカーに相談しましたが、電池の社会的地位が低く玄関払いで断られました。充電方法などは決定的な効果があるはずもなく、対策を立てることはできず、林野庁の怖い担当者にビクビクしながら技術説明をしました。一度の説明では納得されないだろうと覚悟していたのですが、営業が話を上手く、つまり機器寿命までは毎年新品電池と交換すると言う対策案で大問題にはなりませんでした。
 金属結晶による短絡時にデンドライト(和訳では樹脂状結晶)が成長したと言いますが、実際にはセパレータが密着し、極板間には圧力(均圧と言う)がかかっているので、針のように成長し突き破るようなことはありません。特に、リチウム金属の場合には柔らかいので、セパレータを破る力があるとは考えられず、そのような発表を聞くとビーカー実験ではないのですかと突っ込みたくなります。セパレータの一部に金属結晶が張り付ついている状況は肉眼でも十分に観察できます。
 金属結晶による短絡は、「NM社リチウム金属電池」、「ニッケル亜鉛電池」2件の不具合の苦い経験をし、実験段階では金属結晶が成長しても短絡は起こらず、充放電が継続出来てしまうが、市場では短時間で不具合が発生してしまうことが身に沁みました。理論的に上手く行くことが確定していない場合には結局大失敗すると言うことです。次世代電池で金属負極が待望され、実験で50サイクルが100サイクルに延長出来たと言う発表がありますが、劣化原因が同じなら、市場では50サイクルで短絡が起きると思います。
 「メッキのインヒビター」はデンドライト成長を止めています。還元分解することが抑制機構かも知れませんが、電池の酸化還元雰囲気でも安定な、あるいは内部で再結合できる物質を開発してみませんか?電池がこれだけ注目されている「今」なら、化学会社も協力的かも知れません。



6)おわりに

 1)リチウムイオン電池には「SEI頼り」のために起きる電解液劣化と言う根本的な欠点があります。
 2)SEIの剥離・修復・再形成を図説しました。「滓層」と言う用語を提案しました。電解液劣化、さらに容量減について解説しました。次回は電池由来の「発火事例」を紹介します。
 3)現行リチウムイオン電池では、日本メーカーがいかに努力をしても勝ち目がないと思われます。次回は「改良型」リチウムイオン電池について紹介・解説します。
 4)「新規な電池理論」を「計算化学」で実証することを決め、KT大TB教授から計算化学の進め方について教えていただきました。次回は国プロ提案を概説します。
 5)納入後保管中の「ニッケル亜鉛電池」で、「濃淡電池」が原因の短絡が発生しました。実験結果より市場では悪い結果が出ます。次回はリチウムイオン電池開発を始めた頃の話をします。

   次回予定は変更することもありますが、ご容赦願います!





第5回(2019/2/6)



1)はじめに:BYDバス&EV

 京都駅前〜京都女子大間では、「中国BYD社製」の真っ赤な路線バス(プリンセスラインバス)が2015年2月より5台運行しています。電池は当然同社製「鉄オリビン系正極」のリチウムイオン電池のはずです。今春新型バスが2台増便になりました。魅力的な女子大生に囲まれてニヤニヤしながら試乗してみました。かなりモーター音が五月蠅く気になり、下車時に運転手に運転し易さについて尋ねると、30分待てば新型が来るから是非乗ってみて下さいと勧められ、帰路は新型に乗りました。運転手の自慢通りに本当に静かで、乗り心地も非常にスムーズで、女子高生が新型と喜んでいたのも合点が行きました。僅か2年で見違える程に改良出来る「中国BYD社」の開発力を目の当たりにし驚きました。京都のように常時渋滞している地区で、走行距離が決まっている路線バスには、EVバスは最適と思います。初期投資に税金を投入し普及させることは非常に有効な税金の使い道だと思いました。春の電気化学会で京都滞在中に是非このEVバスに試乗してみて下さい。
 京都市と言えば、「湯浅電池梶v入社時に鉛蓄電池の電池パックを「機械的に交換する」EVバスを運行していました。電池が寿命になった時の交換費用の予算が却下され継続できなくなったと聞いています。運行(放電)したバスが営業所に戻った時に搭載されている電池を、予め充電した電池と機械的取り換える方式「メカニカルチャージ方式」を採用していました。この方式は電気自動車普及の一手段として再評価されるべきと思います。この運用方法であれば、現行のリチウムイオン電池の低コスト化で十分満足できると思います。ただし、「機械的に交換する」ための車両改造などの技術・コストの面で実現出来ていないのかもしれません。川崎市がゴミ収集車で試行しているようで、結果が楽しみです。各自治体がごみ収集車、路線バスなどで「機械的に交換する方式」についての取り組みを進めれば良いと思っています。
 私が初めて間近にEVを見たのは、就活をしていた時です。電池研究者が希望でしたので、代表する電池メーカー2社と電池研究をしている総合電機メーカー2社を訪問しました。TS社では「TM氏」に電池研究室に入室させていただき、実験内容を説明していただきました。その後も「TM氏」には多くのことを教えていただきました。溶媒分解を避けた実験をするためには、負極にチタン酸を用いると良いと教えていただき、イオン液体の研究に役立たせました。SN社に伺うと、BB氏に階段下の質素な小部屋に案内され、バギーカーを見せていただきました。今も注目されている「空気/亜鉛電池」を搭載したEVです。最近になって、この「空気/亜鉛電池」をリチウムイオン電池の「生みの親NS氏」が開発したと聞き、不思議なご縁と驚きました。NS氏は相当苦労をされて開発したが、数点の越えられない壁が見付かり断念したと話されていました。現在の次世代電池開発プロジェクトでも取り上げられていますが、革新的な大発明があったのでしょうか?
 結局、総合電機メーカーでは電池研究を続けられると言う保証がなく、「湯浅電池梶vのHT所長のご高説を談話室で伺い、技術力の確かさ・研究に対する熱意に魅力を感じ入社しました。当時「ナトリウム/硫黄電池」搭載のEVをグランドで走らせた話も魅力的に感じました。いずれは、自分が開発した電池を搭載したEVでラリーに出場するという夢を見ていました。
 12月11日の中日新聞で、デニ・ムクウェゲ氏の「ノーベル賞」受賞演説が取り上げられていました。
 ・コバルトなど豊富な天然資源が、コンゴ(旧ザイール)の紛争と暴力、貧困の根本原因だ。
 ・電気自動車を運転するとき、スマートフォンを使うとき、それらがつくられた際の犠牲者に思いを巡らしてほしい。
 電池技術者がどこまで理解する必要があるかは解りませんが、重い言葉と受けています。



2)電池及びリチウムイオン電池の基礎:電解液劣化

 前回述べた指数関数的劣化の原因の大半が電解液の劣化なので、その原因たるSEI=固体電解質界面=の形成について、詳しく記載します。
 TVのリモコンなど家庭に昔から普及している乾電池は1.5Vです。自動車を運転する方ならご存知のスターターバッテリーは2V6直列12Vです。これらの電池には「水」が入っています。水の分解電圧は理論的に1.23Vと決まっており、1.23Vより高い電圧では「水」は分解し、水素と酸素が発生するはずで矛盾しています。ところが、水素過電圧、酸素過電圧と言う非常に都合が良い現象で、「水」の分解は実質的に防げており、電池として機能することが出来ています。水素過電圧、酸素過電圧については多くの研究がされており、諸説あるのですが、ここでは後々との繋がりもあり、電極の表面を保護膜が多い、その保護膜により電極の電子と「水」が直接接触できず、「水」の分解が抑制されていることにします。リチウムイオン電池ではどうなるのでしょうか?リチウムイオン電池の充電電圧は約4.2Vですが、全ての溶媒あるいは電解質塩は、2.5〜3.5Vで分解するはずなので、水の場合と同様に矛盾しています。リチウムイオン電池から電池分野に参入した方々は、有機溶媒は特殊でSEI、SEIと連呼しますが、大昔から理論分解電圧より高い電圧で電池を動作させることは、当たり前で大騒ぎするのはどうかと思います。
 電極を単に電解液に浸漬しただけでは何も起きません。外部電源から充電即ち電極を負の電位にすると、電解液あるいはPF6-のような陰イオンが電気化学反応により分解します。充電電流の一部は充電ではなく、分解に消費されることになります。この充電を「初充電」と名付け、次回からの充電とは区別して呼んでいます。当時ある方から「『化成』とはどういう意味か?」と質問され驚きました。即座に「『初充電』のことです。」と答えました。水系の電池でも最初の充電では充電電流の一部が充電とは異なる副反応に使われ、その後の充放電に適するように電極活物質を改質しています。電気「化」学反応が起き適切な活物質が形「成」されています。「初充電」と言う用語は、充電とは異なる反応が起きていることを明確に表していませんが、「化成」と言う用語は的確に現象を現しています。私は「化成」と言う用語を使いたいのですが、現状の流れに掉さすだけになりそうなので、このコラムでは以後「初充電」と言う用語を使います。




Fig.25 SEI(固体電解質界面)形成

 Fig.25はSEIが形成される状況を模式図で示しました。図のように充電に伴い、負極電位が下がると、電子と電解液との反応が起き、電解液の分解生成物(図中緑の五角形)が出来、それが負極活物質表面に付着し、表面全面を隙間なく覆います。電子が透過できる距離まではその反応が継続され、次々に表面に付着しSEIが形成されます。従って、SEIの厚さは電子が透過できる距離までです。そこより活物質表面から離れた位置には電子は届きませんから、電解液の分解は起きません。この距離は量子力学の領域で、私には理解できていないのですが、複数の専門家に聞いた所、室温であれば10nm程度(?)と伺いました。この厚みのSEI中に電解液が取り残されたり、浸み込んだりすれば、その電解液は直ちに分解しSEIを形成します。つまり、電子により分解された生成物からなり、これ以上は電気化学反応が起きない固体物質層と言うことになります。
 無論、カーボン負極への脱挿入反応が起きるのですから、脱溶媒したリチウムイオンは通過できます。溶媒和リチウムイオンはSEIの電解液側の表面で脱溶媒し、SEI内では脱溶媒した単体イオンの状態で活物質表面に移動し、カーボン負極に挿入すると考えています。溶媒和した溶媒は、フリーな状態でいる溶媒とは異なり、電気化学反応が起きにくいと言う説も学会発表されていますが、SEI内部を溶媒和した状態で移動し、電極活物質挿入時に脱溶媒すると仮定すると、残された溶媒は直ちに電子と反応し、充電するリチウムイオン量と同等以上の溶媒が分解することになり、電気量から考えても明らかに無理があると考えています。Fig.25のように、分解生成物(緑の五角形)が負極活物質表面に隙間なく並ぶことで、その後の電解液分解は起こらなくなり、安定に充放電機構が成立します。リチウムオン電池はこの機構により、優れた電池特性を実現できることになりました。不思議なことにプロピレンカーボネート(PC)だけでは難しく、エチレンカーボネート(EC)が必ず必要になると言うことも明らかにされています。さらに、「UB社YT氏」がビニレンカーボネート(VC)を電解液に添加することで、簡単に優れたSEIが形成できると言う機能性電解液の概念を提案しました。



3)次世代EV用電池:テスラーと中国の電池開発事情



Fig.26 12月度の雑誌・新聞記事の紹介

 12月度の雑誌・新聞記事について紹介及び私の所見を整理しました(Fig.26)。先月同様に電池着脱・交換充電=メカニカルチャージ=方式が取り上げられています。電池としての技術的ハードルは低いので、用途開発をすれば実現性は高いと思います。これらの情報を参考にして、次世代電池の各社開発動向及び私の所見を記述していますが、怪しい話と思われたら飛ばして下さい。
 「テスラー社」は、EV製造のベンチャー企業で、パナソニックの電池技術者が設立に参画し、パナソニック製民生用18650電池、約7,000本を直並列に接続しEV用電池パックを実現しました。EV専用電池が理不尽に高価であった時に、200円/本×7,000本=1,400千円の電池費用です。高級EVと言う新しいコンセプトを提案し、カリフォルニア州1990年「ZEV法」のクレジット転売の恩恵を得て、営業的には大成功しています。しかし、販売したEVが事故を起こし火災を発生した動画を見ると、非常に激しく炎上していることが気になります。交通事故が原因で電池は発火したが、運転者は十分に退避することが出来たと「テスラー社」は抗弁していますが、最近の事故例では発火後直ぐに炎上してしまった事故例もあるように聞いています。リチウムイオン電池は正極でのニッケル比率が増えると発火開始温度が低くなり、発火エネルギーも大きくなります。「パナソニック」が供給している「テスラー社」用電池はニッケル比率が高く、元々危なさを感じています。また、多数の電池を直並列に接続すると言う方式は、各セルの制御が非常に難しいはずで、私は絶対に推奨しません。
 「パナソニック」からの輸入ではなく自社生産することに拘り、大規模工場「ギガファクトリ」を立ち上げましたが、計画より2年遅れ、最近やっと生産ができるようになったようです。生産計画の大幅な遅れから経営が危うくなってきているとの噂もあります。「ギガファクトリ」の立ち上げ遅れは「溶接ロボット」の不具合が原因と聞いていましたが、機械的不具合にしては改善に時間がかかり過ぎると不思議に思っていました。私の独断の推定ですが、2018年1月に「旭化成梶vが「セパレータ」の販売計画を発表し、国内及び韓国で生産する「ハイポア」は現行6億1千万m2を7億m2に、米国子会社製「セルガード」は現行2億5千万m2を4億m2に増産する計画です。「ハイポア」は15%増産に対し、「セルガード」は160%増産になります。中国EVメーカー向けと思えますが、中国では現地生産が始まっており、むしろ米国国内向け、つまりテスラー社「ギガファクトリ」向けではないかと疑っております。しかし、パナソニックは「セルガード」を使っていないはずで、明らかに矛盾しています。「ハイポア」から「セルガード」に変更したとすれば、電池の内部を変更したことになり、電池単体の完成に2年程度かかることは当然です。セパレータの変更は、充放電特性よりも安全性に大きく影響するので、実績のないセパレータを米国現地技術者の判断で採用したとすれば、不幸な事故が起きるのではないかと心配しています。11月19日の日刊工業新聞にパナソニックの研究開発と生産技術の機能及び技術者を「ギガファクトリ」に移管すると言う記事が出ていました。量産だけでなく電池自体に関する技術支援が必要と判断したからではないでしょうか?
 1月16日中日新聞で、トヨタ自動車(株)の子会社「プライムアアースEVエナジー(PEVE)社」中国工場でのHEV用「ニッケル水素電池(NiMH)電池」を、現状の3倍の増産にすると言う発表がありました。HEV用「NiMH電池」は「PEVE社」、つまりトヨタ自動車(株)が世界唯一ですから、市場が伸びれば絶対に儲けることが出来るはずです。本田技研工業(株)と(株)GSユアサとの合弁会社「ブルーエナジー社」も、「ハードカーボン負極」のリチウムイオン電池と言う特徴を有しているので、売れれば儲かるはずです。しかし、CMCリサーチ社発行の「中国のEV市場動向」を参考にすると、現状の中国市場でHEVが受け入れられるとは思えません。トヨタ自動車(株)もいずれはEVになるとしても、現状のHEV販売実績の伸びを支え、トヨタ自動車(株)の「車」としての顧客確保を目的としての先行投資ではないでしょうか?中国市場で主流になるのはHEVではなくEVです。
 中国政府は、安全性が高く豊富な埋蔵量を誇る「鉄オリビン系正極リチウムイオン電池」に開発の重点を置き、日韓が先行している「三元系正極」リチウムイオン電池を排除する政策を取り、「BYD社」などの国内電池メーカーの支援を行ってきました。しかし、「エネルギー密度」と言う客観的で、公平で、絶対的な比較基準には勝てず、現在では中国国内メーカーも積極的に「三元系正極」電池に開発の重点を移して製品化を進めています。また、中国政府は国内に工場を設置するなどの条件を満たした企業を「規範条件登録制=ホワイトリスト=」として、EV向け補助金での手厚い優遇措置を講じています。現状では、この「ホワイトリスト」には約57社が登録され、日韓企業は排除されています。中国は「電池立国」を目指しています。最近の電池生産成長率を見るとこの政策は功を奏しており、中国電池産業の躍進を支えています。2016年からこの補助政策は縮小され、2020年には打ち切られると言われています。この間に電池メーカーの淘汰を進めています。2020年以降は中国国内に工場を建設した日韓の有力電池メーカーとの競争が始まり、中小の現地メーカーは苦しい戦いを強いられることになると思います。ただし、中国政府は突然に政策を変更することが度々あり、国内メーカー支援のために補助政策が延長される可能性もあります。その場合には進出した日韓の電池メーカーが苦戦を強いられることになります。
 2018年から施工されるはずであった「NEV(New・Energy・Vehicle)規制法」は2019年まで延期しました。既に2019年になっていますが、今の所施行されたかどうか判りません。米国カリフォルニア州「ZEV(Zero・Emission・Vehicle)規制法」を参考にした規制で、自動車生産台数の内8%のEV・PHEV・FCVを生産し、クレジットを獲得しなければならないと言う厳しい規制で,現状ではPHEVは2クレジット、EVは3〜5クレジットで、日本メーカーが独占的地位を確保しているHEVは認められていません。2016年実績は、EV140千台、PHEV110千台、HEV30千台、EV大型190千台合計470千台で、2020年にはEV360千台、PHEV220千台、HEV40千台、EV大型400千台合計1,020千台と予測されています。このようにガソリン車生産に対して厳しい規制を使ってEV普及を目指す理由は、@大気汚染防止 ACO2排出量抑制で、確かに北京・上海などの大都市圏では深刻な大気汚染に見舞われているし、発電における化石燃料比率は65%程度と高く、これら環境問題の解決にEV普及が有効な方策であることは間違いありません。しかし、環境問題解決であれば、排出ガス規制などの優先されるべき方策がありますが、EV普及を最優先している本当の理由は、自動車を「輸出産業」にすることにあると考えます。
 太陽電池技術者から聞いた話ですが、中国政府は環境問題を前面に打ち出して自然エネルギーである太陽電池の普及を熱心に進め、日米欧の太陽電池メーカーを誘致し、技術移転が完了した後は国内メーカーの育成を計り、国内需要をはるかに上回る設備投資を行い生産過剰になると一斉に輸出を開始し、世界中で日米欧の太陽電池メーカーとのコスト競争に勝利し、瞬く間に世界一の太陽電池生産国となって行ったそうです。リチウムイオン電池もその二の舞になるような気がします。
 「電池立国」には成功しつつある中国は、「EV立国」も目指しています。ガソリン車では日欧米の実績のある大手自動車メーカーの製品技術・量産技術に追い付くにはかなりの時間的・技術的にギャップあるが、EVの場合には、日欧米の大手自動車メーカーも大した実績はないし、基幹技術の「電池」を国内調達できれば、十分に対抗できる条件が揃っています。先程のxEVの販売予測とは別に、中国EVメーカー各社の2020年設備計画を単純に合算すると5,400千台となり、国内市場の5倍の設備を保有することになり、この過剰設備分は輸出を計画していると考えるべきでしょう。「本コラムはじめに」に記載したように、既に「BYD社大型バス」は京都市内を定期運行し、徐々に実績は出て来ています。「CATL社」のような中国大手電池メーカーの製品技術力は既に追い付いているので、量産技術・設備が整った段階で、電池だけでなくEVも一気に世界展開し、輸出産業になると予測します。この時に日本メーカーは競争することが出来るのでしょうか?



4)新規な電池理論:特許5062989号、特許513425号

 前回クラスター論を全面否定しましたが、クラレ社はまだお読みなっていないようで、残念ながら反論は来ていません。いずれ議論をすることになると思い楽しみにしています。
 ファインセラミックスセンター(JFCC)でSiC表面分解法カーボンナノチューブ(CNT)の機械的応用プロジェクトを担当している時に、発明者楠教授からSiC表面分解法CNTは最上部が塞がった状態で成長する、また簡単な操作で最上部(キャップ)を外すことができると伺いました。Fig.27のように、CNTを電解液に浸漬すれば、内部に電解液が入り込み、初充電時にSEIが成長して電池には使えないと思いました。しかし、キャップを取らずに電解液に浸漬すると、電気2重層キャパシタ測定の結果からCNT内部には電解液は進入できないことは判明していましたので、リチウムイオンと、電解液中の溶媒分子あるいは電解質塩分子とは大きさが違うので、その大きさの違いを選別して、リチウムイオンだけをCNT内部に入れれば、内部で安定に存在し電極として成立するのではないかと考えました。CNTのキャップに孔を開け、その孔径が、リチウムイオンが通過することが出来るようにリチウムイオンより大きく、溶媒分子・溶質塩分子が通過することが出来ないように同分子より小さければ、丁度万華鏡を覗いた時のキラキラのように、リチウムイオンだけがCNT内部でキラキラと存在する光景になるのではないかと考えました(Fig.28)。前回解説したように「両持ち論」と「クラスター論」とは全く相容れない状態、「片持ち論」が成立すると考え、特許5062989号を出願しました。




Fig.27 開放型CNT負極模式図


Fig.28 先端孔付きCNT負極模式図

 CNTに該当する孔を開けると言う考えは正しかったのですが、孔に一つずつ出入りするのでは、速度的・量的に電池としては全く不足どころか話にならないと気が付きました。Fig.29に図示するように、孔を複数開ける、より効果的にはリチウムイオンは通過できるが、溶媒あるいは溶質が入らないサイズの分子篩膜で覆うと言う特許513425号を追加出願しました。出願時に、固体電解質のイオン伝導度が実用レベルに向上してきたと言う情報が話題になり始めており、固体電解質を明細書に記述することを意識し過ぎて、本来の分子篩の役割が明確に書かれていない特許になってしまい、非常に後悔しています。なお、孔径つまり篩目はFig.30の表のように水素分離膜を基準にすれば良いと推定できました。




Fig.29 篩膜付きCNT負極模式図


Fig.30 篩膜付きCNT負極模式図

 ・CNTのような多孔性カーボンの壁にリチウムイオン(0.15nm)は通過できるが、プロピレンカーボネートのような溶媒分子は(0.6nm〜)は通過できないサイズの微孔を複数個設ける。
 ・微孔を篩膜で代用する。



 特許を2件出願し、「新規な電池理論」と名付けました。



5)昔話 : NM社金属リチウム電池とデンドライトショート

 この章は私の「昔話」で技術的には価値のない話ですので、リチウムイオン2次電池誕生頃の「逸話」を知りたい方は、楽しんでお読み下さい。
 NM社の「金属リチウム電池」は予想通り発火事故を起こしました。裏社会の奥方の箪笥の中で発火し、高級な和服を燃やしてしまったという騒ぎも聞きました。直ぐに製造中止にすれば良かったのですが、カナダ技術者の技術力のなさと対話不足、NT社、MB社の社会的対面があり、相当数を出荷してしまいました。この間「NTT社YK氏」を中心に技術的な実験、裏付け調査が行われました。私自身は余り会議には出なかったのですが、関連資料は全て目を通していました。YK氏グループの基本技術・解析は素晴らしく非常に勉強になりました。当時関東には、電池の電気化学をしている大学が少なかったので、「NTT学校」と言われるようになり、YK氏を先導に現在大活躍されている大学教授(GM大TS教授、TG大SI教授、TK大AI教授)を搬出しています。私は今も個人的に相談に乗っていただいています(感謝!)。
 この間、OT氏は電気回路技術者として責任を感じ、電気制御でデンドライトショートを止めようと奮闘されました。怪しげな情報を基に充電実験を繰り返し、その度に意見を求められました。金属負極のデンドライトショートを外部でコントロールできる訳がないので、諦めるように何度も進言しましたが、いつも怒鳴り返されました。最終的にはオシロスコープ計測により、OT氏自身が自分の目で電圧低下を観測され納得されました。その時に「電池技術者はいつも都合の悪いことは隠す」と嘆いていたのを思い出します。私も十分な説明を怠っていたと、思い出すたびに反省をしています。パルス充電、デンドライトショートのスパイクノイズ等、電気回路技術者との対話は、口説いと思われても充分過ぎることはありません。納入品クレームの最終的な政治決着には関与しませんでしたが、ユアサ側の責任者としてIB部長の苦労は大変なものでした。技術者が回りを「忖度」し過ぎると結果的に問題は大きくなるということを痛感しました。
 その後、NM社はリチウム金属負極電池の生産を断念しました。折角の電池開発・生産環境があるので、電池開発を継続することになり、当時活発になっていたリチウムイオン電池の開発に移行しました。正極にはコバルト系とマンガン系の2種を並行して開発を進めていました。湯浅電池(株)は開発テーマの絞り込みもあり、NM社からは撤退し、その代わりにNECが出資、参画することになりました。コバルト系はグッドイナフ特許に抵触することが明確でしたが、マンガン系は抵触しない可能性があると言う理由で、NEC技術者はマンガン系を選択したと聞いています。その後、民生用でのエネルギー密度競争が激しくなるにつれても、NECグループはマンガン系を継続し、京セラの携帯電話に採用され、さらに日産自動車の初代EV「リーフ」に搭載されました。マンガン系は三菱自動車の「iミーヴ」にも搭載され、原料コスト、安全性の点では優れた電池です。
 なお、OT氏はスパイクショートについて、その後も研究を続け、一部の充放電試験装置ではこのスパイクショートが観測されないことに気付きました。電気回路の素人である私なりの解釈では、数店の計測値を平均化して、1点のデータとして出力するから、その間に一度位スパイクショートによる瞬時電圧降下があっても、出力されたデータは平均化され僅かな電圧低下としてしか記録されず、検出できないと言うことでした。OT氏からこの現象と、東洋システム(株)だけがこの点を考慮した設計をしているとの連絡を受け、数社の充放電試験装置メーカーの技術者を呼び確認しました。NT社の営業マン・技術者の説明が非常に不真面目で、私の部署での調達は禁じました。次世代電池研究で金属負極、デンドライトが研究課題になる場合には、充放電装置の平均化の特性については十分考慮して実験を進める必要があります。素人考えですが、デンドライトショートは不規則で電圧降下時間も秒に近いが、一般のノイズ、例えば商用電源ノイズ・スイッチングノイズなどは周期性があり、ms振幅なので、特定周波数のノイズは平均化し、不規則なノイズは平均化せずに出力するような電気回路制御ができれば、デンドライトショートの検出には適していると思います。



6)おわりに

 メカニカルチャージ方式についてはもっと注目されるべきと思っています。
 リチウムイオン電池の劣化の主要因は電解液劣化と考えています。その前段としてSEI形成について模式図で解析しました。次回はSEIによる電解液劣化について図説します。テスラー社の動向について大胆に私の推定を記述しました。中国のEV事情を調査会社のデータを基に解説しました。次回は現行リチウムイオン電池の改良について解説します。「新規な電池理論」の基本特許2件の出願経緯を模式図で紹介しました。次回はNEDOプロジェクト応募について説明します。NM社金属負極電池クレームについて経過を記載しました。次回はOT氏から紹介された運命的出会いについて思い出話を記述します。





第4回(2019/1/9)



1)はじめに:名古屋めし「お雑煮、どて」

 新年おめでとうございます。古里のお雑煮を楽しまれたと思います。名古屋のお雑煮も変わっています。行きつけの床屋のご主人は「名古屋雑煮は貧乏臭い」と言います。反対に、お節料理でもたれた胃に優しい素晴らしいお雑煮だと、自慢をする方もいます。
 「餅菜」・「角餅」・「かつおぶし」だけの実にシンプルなお雑煮です。「餅菜」が曲者で、年末になるとスーパーで餅菜(小松菜)と書かれて売られています。前回コラムで紹介した所、JFCCでカーボンナノチューブの電気2重層キャパシタの研究をし、現在は和太鼓を趣味に農業をしているKT氏から、「餅菜」と小松菜とは種から違い、お雑煮向けに大切に栽培しているとの情報提供がありました。今回はKT氏のご厚意で本物の「餅菜」を分けていただきました。奥様のご指導を受け、自分で「名古屋雑煮」を作ってみました。かつおだしの鍋底に「餅菜」千切って敷き詰め、餅を乗せ、かつおぶしを掛けて弱火で煮込みます。見張っていないと餅が溶けてしまい酷いことになります。化学実験と同じです。お椀に移してからたっぷりかつおぶしを振掛けて食べました。味付けはともかく、「餅菜」は心地良い甘みがあり、さっぱりしていて、胃に優しいことは確かです。「餅菜」を絡めることで、お年寄りが餅を咽に詰まらせることを防げる利点もあるそうです。しかし、具沢山のお雑煮に慣れている私には、少し物足りませんでした。
 若い頃に出張で名古屋地区に来て、昼食を食べ損なったので駅前の喫茶店に飛び込みスパゲッティを注文しました。ステーキ用鉄皿の上に「ナポリタン」が盛り付けられ、麺の下に薄く卵焼きが敷き詰められていました。ケチャップ味のスパゲッティに焦げ目のついた卵焼きを絡めて食べると、絶妙なハーモニーでした。二つの味を重ね合わせることも名古屋めしの特徴の一つです。なお、当地の喫茶店では「ナポリタン」は通用せず、「イタリアンですね」と念を押されます。(笑)
 名古屋めしの代表が岡崎八丁味噌を基礎にした味噌料理です。味噌カツ、どて、みそうどん、みそおでんなど、甘く味付けした赤味噌味です。名古屋駅(名駅と言います)近くに「NK屋」という「どて」専門店があります。焼き鳥・串カツが甘い赤味噌鍋で煮込まれています。順番を待って、木製の長机・丸椅子にぎゅうぎゅう詰めで座り、店員の顔色を伺いながら「どて」とお酒を注文します。当店の「おでん」は本場の「名古屋おでん」で、赤味噌鍋で煮込んであります。14年前に行った時、たまたま隣り合わせた方が河村衆議院議員(現名古屋市長)で、気さくに雑談を交わしました。
 隣接して数件の「どて」の店がありますが、不思議なことにこの店だけが混んでいます。製品品質、価格に甲乙があるとも思われないのに、ガラガラの店と待っても座れない店が並んで成立している光景は、ブランド力の差と言えるのでしょう。今は「中国製」と「日本製」とでは、知名度に差があります。「どて」は人間の感性が関与するから簡単にはその位置関係は変わりませんが、一般の工業製品ではその立ち位置は短期間で埋められてしまうような気がします。電池では「日本製」は既に都市伝説かも知れません!



2)電池及びリチウムイオン電池の概説:サイクル試験

 前回くどくどと書いたことを整理します。
   ・ 直流通電開始直後・遮断直後の「瞬時電圧変化」と、1kHz交流測定では、電池開発・設計に重要な反応過電圧は
     測定できていない。
   ・ 測定している電圧はOCV・CCV・TRVの3種で、何を測定しているかを考える必要がある。
       OCV=開路電圧、 CCV=閉路電圧、 TRV=回復過渡電圧
   ・ 電極内SOCが不均一になった場合にどのSOC電圧が測定されるのか?平均か?
 この疑問に対し、ある電池研究者から、
 「2種の金属を張り合わせて対極間の電圧を測る、例えば銅集電体の一部にリチウム金属を貼り付けると、リチウム金属の電圧が測定され、リチウム金属が解けて無くなると、当然銅(酸素発生)の電圧が出る。」との助言をいただきました。この助言を展開すれば、電極内でSOC分布に差が出来た場合、例えば30%と70%の部分が存在した場合には、対極から一番離れた電圧、つまりSOC70%の電圧が測定されることになります。電位の異なる領域が同一電極内にあるのですから、時間に連れてSOC70%→50%に放電、SOC30%→50%に充電され、最終的には活物質全体が均一になった時のSOC電圧になります。この間はTRVが計測されています。従って、電極内の充電状態SOCが不均一であったり、電解液濃度分布ができているような場合には、電圧だけで直接に正確にSOCを測定することは出来ません。残量計にはこれらの不均一情報を読み込む必要があります。簡単とは思えませんが・・・・・。
 なお、電解液濃度不均一性の計測方法については名案があり、特許出願を予定しています。どなたかご協力いただけませんか?




 サイクル寿命試験(充放電試験)は1C程度で同じ電気量を充電放電で繰り返す試験が行われます。n回目容量
Qnは充放電効率をaとすると、前回容量Qn-1との積になり、初期容量Qに対してはaのn乗になり、Fig.22のように減少します。
Qn= Qn-1*a=Q*a*a*a・・・・・・・・・=Q*an
 Fig.22は単純に算数として上式を線で描いただけです。充放電効率99.9%つまり毎サイクル0.1%の劣化があるとすると、500サイクルで容量60%になります。装置の精度は片寄りがある、つまりプラス側に振れると毎回プラス側に振れる癖があり、それが蓄積されます。0.1%の装置精度の場合には、装置が原因でこの変化が起きていることになります。データ解析の際に注意が必要です。少なくともサイクル試験中には測定装置・チャネルは変えない方が、余計な不確定さ持ち込まずに済みます。この試験方法では、充電から放電に切り替わる時の電圧、休止を挟む場合には、通電開始直前のできるだけOCVに近い電圧は、データ解析時に非常に重要な意味を持っています。充放電装置では自動的に記録していますが、自分の目で必ず確認する習慣を身に着けることが大切です。
 1000サイクルで装置誤差を無視するためには0.01%の精度でも不十分と言うことになり、この精度を主題にしている研究も見受けられますが、電池の立場からはナンセンスです。装置精度の影響を受けないためには、装置精度に見合うサイクル数で定電圧充電を挟むべきです。この点、放電を定電流定時間、例えば1C40分、充電を定電流(1C)定電圧(4.2V)でする方法、いわゆる定電流定電圧充電、があります。この場合には終止電流の決定に悩まされます。1/10Cでは大き過ぎ、1/100では中々終止電圧に達しなくなり試験時間が長くなる、あるいは副反応が起きてしまうなどの弊害もあるので、供試電池・使用条件を踏まえて経験的に決定します。この試験方法では各回効率が累積で反映されることはないが、試験時間は定電流時間・定電圧時間に依存するので一定になりません。定電流充電時間、定電圧充電時間はサイクル劣化を評価する時に重要なデータです。
 最適な試験は、定電流充放電を繰り返し、一定期間後に、例えば100サイクル毎に定電流定電圧充電を挟ことで、満充電状態を意図的に作る方法が良いと思います。この時に各率放電試験をすると、劣化原因把握に有用な情報が得られます。
 なお、参照電極を用いて充放電試験をすると、負極・正極各々データが得られ、対極を大過剰にする手法も可能なので、試験電極の特性を把握し易いのですが、自信を持ってお薦め出来る参照電極が見当たらないので、データ解析に自信がない場合には、寿命試験では諦めた方が無難です。



3)次世代EV用電池:GSユアサ・パナソニックのEV用電池開発動向


 11月度の雑誌・新聞記事について紹介および私の所見を整理しました(Fig.23)。11月27〜29日電池討論会での研究発表がマスメディアでも取り上げられたようです。電池交換=メカニカルチャージ=方式の実証試験が行われています。技術的なハードルは低いので、用途開発をすれば実現性は高いと思います。呼び水として、初期投資に税金投入は有意義と思います。これらの情報を加味して次世代電池の各社開発動向について記載していますが、公知の記事から要約をしているだけで、真贋も確認できていないのですが、一応私の所見を加えました。危ない話と思われたら飛ばして下さい。
 私が勤務していた「旧湯浅電池」と鉛蓄電池の先駆者「旧日本電池」とが合併した「(株)GSユアサ」は、リチウムイオン電池では後塵を拝し、さらに営業戦略の間違いもあり民生用電池は断念しました。しかし、自動車スターター用鉛バッテリーでの自動車メーカーとの密接な関係は揺ぎ無く、「旧日本電池」は三菱自動車(株)と「リチウムエナジージャパン社」、旧ユアサは本田技研工業(株)と「ブルーエナジー社」を合弁で設立し、EV市場で一定の地位を築きました。
 「リチウムエナジージャパン社」は三菱自動車(株)向けにEV・PEV用電池を開発し量産設備を用意しましたが、ラインの生産量には余裕がありました。三菱商事(株)の仲立ちで世界一の電装品メーカー「ボッシュ社」と合弁会社「リチウムエナジー&パワー社」を設立しました。欧州市場での販売ルートを確保しましたが、欧州はEV化が遅れており物量確保に苦戦していました。さらに、「ボッシュ社」は車載電池を自社生産するとして事業判断をした結果、合弁は得策ではないと判断し、合弁解消を決断しました。裏返して考えると、GSユアサ製の技術・製品が韓国・中国の技術・製品に対し、圧倒的な優位性がなかったからとも言えると思います。GSユアサも韓国・中国の電池メーカーに対抗すべく、材料調達からのコストダウンをしていますが、価格競争を容認した時点で、その先の努力は徒労に終わることは明らかです。「ボッシュ社」との合弁が無くなったことで、技術流出は避けられましたが、世界市場への営業窓口が三菱商事だけになり、今後は非常に苦しい展開になると思います。
 一方、「ブルーエナジー社」は本田HEV用電池の開発に成功し量産しています。当初計画通りとは行かないまでも、一定の物量を確保し、着々と納入実績を重ねています。今後は徐々に立ち上がって来る欧州HEV市場に期待がかかっています。負極にハードカーボンという寿命末まで形状変化が非常に少ない活物質材料を採用している点で、他社とは差別化できます。ハードカーボンはソニー社が最初に製品化したリチウムイオン電池負極に採用されていましたが、グラファイトに比しエネルギー密度の点で見劣りするので民生用では普及しませんでした。ハードカーボンは高出力・長寿命と言うHEV用としては優れた特性有しており、さらに韓国・中国はHEV用には不熱心なので、価格競争から逃れられる可能性があり、今後も一定の市場を確保できると思います。しかし、HEVは法規制ではEVとして認められないので、今後はエネルギー密度の不利を克服してEV用を目指すべきと考えています。
 なお、別項目で解説している「新規な電池理論」では、ハードカーボン等の多孔性カーボンは重量で3倍、体積で2倍の高容量化が期待できる有望な材料であることを、計算化学で理論的に証明しました。HEV用での高い評価を受けている間にハードカーボンの高容量化に取り組めば勝機があると思います。
 「パナソニック」には、住之江を主力とする「旧パナソニックグループ」と淡路島を主力とする「旧サンヨーグループ」があり、各々独自に事業展開をしています。「旧パナソニックグループ」はテスラー社に電池供給をしており、国内最大のEV用電池メーカーです。テスラー社立ち上げの電池技術者は「旧パナソニックグループ」で電池開発を経験しており、電池技術を十分に理解した上で、EVに搭載しています。私の個人的見解では、ニッケル系正極は一般的な3元系正極よりはるかに安全性が低く、私が大好きな「釘刺し試験」は合格できないと思います。民生用サイズ18650電池約7,000本を直列・並列に使用していますが、その制御は決して簡単ではなく、特に並列使用は非常に難しく、危険な状態で寿命になるような気がします。また、最近パナソニックの電池技術者がテスラーのギガファクトリィに派遣されることになったようで、パナソニック本体の技術低下は免れないと思います。別途記載しますが、ノートパソコンでは考えられないようなクレームを度々出しており、足元を見つめなくて大丈夫なのかと心配しています。
 「旧サンヨーグループ」は携帯電話用角型電池で世界一になり一世を風靡しましたが、価格勝負に負け、今ではサムソンSDI・LGCに抜かれました。さらに中国ATL社にも数では負けたようです。民生用の小型電池では、NiCd時代からの長い間の豊かな実績がありますが、EV用のような大型電池では経験が足りないように思います。トヨタ自動車、本田技研工業などに納入実績は出始めていますが、第1ベンダーではない、LGC電池と互換性があることが弱点で、近々LGCに代替され、いずれは中国LGC工場に凌駕され、民生用と全く同じ経過をたどると思います。今は「ドッグイヤー」と言われていますから、その逆転までの時間は従来に比しはるかに早いはずです。出来るだけ早くこのことに気付き電池高容量化に戦略を変えた方が良いと思います。



4)新規な電池理論:クラスター論=多孔性カーボン中のリチウムイオン

 片持ち論に関し、もう一つ障害となる理論があります。ハードカーボン・ソフトカーボンと呼ばれるカーボンはグラファイト層間のような明確な間隙はないが、空隙つまり多孔性にすることが出来ます。その空隙にリチウムイオンを挿入脱離して負極として出来たのが、ソニー鰍ェ最初に商品化したリチウムイオン2次電池でした。この空隙に貯蔵されている状態を核磁気共鳴測定などで調査し、空隙には金属ではない複数個のリチウムイオンがイオンとして存在し、その中央に集合して安定に貯蔵されているという「クラスター論」が提唱され、産総研、ハードカーボンメーカーのクレハなどの発表により「正しい」と考えられています。この「クラスター論」は「壁」に沿って存在するという「片持ち論」とは正反対で、私に立ちはだかる大きな「壁」となりました。不精ですから元論文は調べていません。後述するNEDO補助金獲得に関してもこの理論との相違を説明することに大変苦労しました。
 「クラスター」については、学生時代に「水のクラスター」をかなり調べたことがあり、確かに液体中では水は単分子で存在するより、集合して存在する方が安定で、中心に向かって集合するので、「クラスター=集合=」という表現が相応しいと理解していました。また、遠赤外線加熱の効果を調べた時にも、怪しげな論文でしたが、「水のクラスター」については一定の知識は得ていました。





 しかしながら、水は中性に対し、リチウムイオンは「プラス」に荷電しています。「プラス」に荷電した複数個のイオンが反発することなく、団子のように集まって安定に存在することは出来ないのではないかと考えました。「プラス」同士のイオンが集まれば、電荷を共有、つまり0価の金属となって存在する方が安定のはずで、結晶となった金属は空隙の中ではなく、空隙の外で結晶として存在する方が自然であろうと考えました。(Fig.24)反発し合ったリチウムイオンはお互い遠のき、逆に壁に引き付けられると考える方が正しいと考え「片持ち論」が信念になって行きました。中性でなく「プラス」に荷電したイオン同士が、反発することなく集まってクラスターになるのは「変である」と言う初歩的な疑問をどのように解決しているのかが不思議で仕方がありません。
 今でもクレハなどから「クラスター論」が大々的に吹聴されていますが、私共は計算化学で「クラスター論」は完全否定しました。ここまでを整理すると、FIG.25のようになり、「片持ち論」が構築できました。





5)昔話:太陽電池システムとOT氏との出会い

 この項は私の「昔話」で技術的には価値のない話ですから、技術情報を得たい方は飛ばして下さい。リチウムイオン2次電池誕生頃の「逸話」を知りたい方は、難しい話はありませんので、楽しんでお読み下さい。
 1989年湯浅電池時代に、大切な顧客の商社MB社から特注依頼があり、IB部長の命令で私が任されました。担当の商社マン「ID氏」は、風貌は地味でしたが、頭脳明晰で鋭いという印象でした。区の承認が取れて東京下町JR駅前に地区の案内図を「夜間点灯式案内板」として設置するという企画でした。昼間に太陽電池で発電し、「小型制御弁式蓄電池(当時は陰極吸収式と呼ばれていた)」に蓄電し、夜間にLEDを点灯すると言うことでした。昼間発電充電・夜間放電方式は珍しくなく何の問題もないように思えますが、太陽電池の裏面に設けた箱に電池を収納するので、環境温度が「50℃」を超えると推定できました。当時の陰極吸収式鉛蓄電池は高温での「正極板異常成長(グロースと呼ぶ)」を解決できていず、「期待寿命(注5)」が提示できないと言うことになりました。ID氏から制御回路の設計者として元SN社「OT氏」を紹介されました。OT氏は部屋のホワイトボードに回路を描き始めました。電気回路の素人にも解り易く、手早く描く「職人業」には驚きました。高温では充電しないから大丈夫であるとの主旨でした。グロースは充電中に限らず起こるのですが、サイクル使用では起こりにくいと言うことは解っていましたし、最終的に寿命保証はしなくても良いとの合意を得て受注しました。打ち合わせ中、太陽電池は発電量に制限があるから過充電保護はいらないのではないかと提案すると、ID氏・OT氏直ぐに理解し、その理解力の速さに驚きました。結局、自動車用充電器での補充電を警戒して過充電回路は組み込まれました。3人で話をしていると、飛躍的な意見が飛び交って充実した時間を過ごせ、勉強になりました。
 「アルミ筐体」で洒落た案内板をデザイン設計したDC社KS氏を、KS氏がインテリアをデザインした居酒屋「岡永倶楽部」で紹介されました。「岡永倶楽部」は「日本名門酒会」のアンテナショップで全国の銘酒と洒落た肴がお値打ちで用意され、日本酒好きのセレブにはお薦めのお店です。店長MK氏は年に1〜2回しか行けないのに今でも親切にしてくれます。ある日「岡永倶楽部」で会食をしていた時に、OT氏がアパートを探していると言う話をされ、その場で大学の先輩で、該当地区で不動産業をしているNG氏に電話を入れ、アパート探しを依頼しました。「その場で直ぐに対応し、解決するとは大した者だ!」と誉められ、その後信頼されるようになりました。<閑話休題>
 翌年調査に行くと、40℃炎天下にもかかわらず筐体を触ると明らかにひんやりしていました。この天候下では50℃以上で触れないと予想していたので驚きました。
 2年前に「アルミ形材メーカー」HK社から、岐阜県多治見の街燈がなく深夜には真っ暗になる新興住宅地で、玄関に太陽電池式「玄関前モニュメント」を設置するという企画が持ち込まれました。新婚向け戸建ては両親が購入費用を支払うが、実際に住む新婚所帯は電気代を節約して玄関燈を着けないので、家庭電力を使わずに太陽電池で点燈し街燈代わりにする企画でした。道路に街頭が設置されるまでの数年持てば良いとのことで、シャープに協力を求め、HK社に納入しました(特開1989−134492号)。この「玄関前モニュメント」の件を思い出し確かめに行きました。やはり「玄関前モニュメント」は炎天下でも熱くなく触れました。共通点は「アルミ筐体」と言うことです。その後確認実験はしていないのですが、鉄板筐体と違い「アルミ筐体」の場合には地面への設置が適当であれば、地面に熱が逃げ、筐体温度が上がらないと推定しました。太陽電池の買い取り制度との関連から、自宅消費型の蓄電池設置が考えられますが、その際に電池寿命は電気料金のトータルコストに反映しますから、是非「アルミ筐体」を検討すると良いと思います。
 当時、ユアサの重要顧客のNTT社が開発した携帯電話に、前述MB社とカナダ自治省(?)との合弁会社「ME社」から電池を輸入し搭載すると言う企画があり、技術サポートとしてユアサに資本参加を要請されていました。「リチウム金属電池」と聞き、これはだめと思っていましたが、MB社とNTT社からの要請ですから無下に断るわけにいかず、IB部長は困って、NM社のキーマンは前述のOT氏だから、その本音を聞き出してくれと依頼されました。新橋にあったユアサの7階会議室で、MB社ID氏・NM社OT氏と密談をしました。OT氏が早速事情・背景説明を始め、MB社対策はID氏、ユアサ対策は私が担当することになり、その旨をIB部長に報告をしました。その後、IB部長は社内調整をし、ユアサはNM社に出資することになりました。

 注5)期待寿命: 正式な電池用語ではないが良く使われます。温度などによる加速試験で得られた結果から
           換算・推定して寿命を予測します。保証ではありません。電池は「生物」ですから、
           この用語のような人間臭い表現があります。




6)昔話:太陽電池システムとOT氏との出会い

 11月27〜29日電池討論会が開催されました。学会発表は大学院生の研究成果発表の場でもあるので、大学の発表が玉石混交になるのは仕方がないと思います。若い方が電池討論会のような場で訓練を積むのは非常に良いことで、先生方のご苦労は大変なことと敬服しております。一方、国の研究機関が薄膜電池の研究をしていますが、自動車産業の盛衰を握ると言われている電池開発競争で、実用化に役立つと思っているのでしょうか?
 サイクル試験方法について基本的なことを書きました。次回は容量劣化推定について解析します。聞きかじった情報を基に、「GSユアサとパナソニック」の開発状況について概略しました。次回は無謀にも「テスラーと中国事情」について私の考えを記載します。「新規な電池理論」構築の説明に続き、基本出願について説明します。「昔話」は「NM社」について記述します。

以上





第3回(2018/12/5)



1)はじめに:名古屋弁「しぶちがする。もうやっこする。」

 前回書き忘れました。電池工業会のホームページから引用します。1986年に旧日本乾電池工業会が11月11日を「電池の日」と制定しました。11月11日を漢字で書くと、+(プラス)−(マイナス)+(プラス)−(マイナス)となり、電池の正負極を表すことからです。では、12月12日は何の日でしょう。1985年に旧日本蓄電池工業会が制定しました。野球のバッテリーの守備位置が数字で、1,2と表されることからです。今年の最優秀バッテリーは、セが広島・大瀬良/曾澤、パが西武・多和田/森と決まったようです。両日の間を「電池月間」と呼んでいます。
 紅葉が終わりストーブのお世話になっています。この季節、愛知県西部(小牧、江南、一宮)では独特の言葉があります。どんよりとした曇り空の下で子供が遊んでいると、お母さんが(最近はおばあさんだけです)「しぶちがするから家に入りなさい」と声を掛けます。琵琶湖の水蒸気を含んだ冷たい西風が、伊吹山を越えて旧中山道の米原・大垣を経由して能美平野に流れ込み、非常に弱い小雨が降ります。みぞれが降り出すと「しぶちがする」とは言いません。「しぶち」の語源を伺うと、雨の降り方がいかにも貧乏臭く「しぶちん」をイメージするからだろうという答えが返ってきました。「〜が降る」ではなく「〜がする」の表現が不思議です。この地方独特の人柄・気候をよく表していると面白く聞いています。
 一言で名古屋弁と言っても、愛知県西部尾張弁、名古屋市名古屋弁、愛知県東部三河弁の3種があります。私は最初小牧に住んでいて、近所の畑を耕していた90歳のお婆さんに指導を受けたので、尾張弁を良く知っています。検索すれば意味は解り標準語に言い換えられるが、標準語を想像しにくい言葉があります。

あかる、えらい、おうちゃくい、かした、くろ、黒にえ、コロ、ざら板、
だだくさ、つる、はばにする、ばりかく、ぼう、まわしといて、めんぼ、やっとかめだなあ、等々

 

 私が一番気に入っている方言は、「もうやっこする」と言う表現です。標準語では言い換えることが出来ません。お母さんが子供達に「もうやっこしなさい」と言います。おもちゃを皆で仲良く遊びなさい。おやつを分け合って食べなさい。と言うような意味です。可愛らしく、素敵な言葉と感心しています。最近の若い人は方言を使わなくなって来ているので、これら素敵な方言も死語になりつつあります。宴席で若い人に手帳を開いてこれらの言葉を尋ねると、名古屋出身者でも知らない人がいて、結構盛り上がります。
 やはり宴席で「充電」が話題になった時に、若い人から「電池の充電は知らない」と言われ驚きました。よくよく聞くと携帯電話は毎日充電しているそうで、大笑いしました。乾電池は解るようですが、2次電池が携帯電話に内蔵されていることは知らないようです。電池が偉大な縁の下の力持ちであること、充電作業が本当に身近になっていることに変な気持ちで感心しました。最近のサムソン製携帯電話ギャラクシは電池容量を前面に打ち出してPRしています。電池の高容量化が携帯電話では競争の本丸になりそうです。
 もちろんEV用も!



2)電池及びリチウムイオン電池の概説:充電曲線

 前回の文章で誤解を呼んでしまいました。
 OCVとCCVとの電圧差a、bは、IRドロップと過電圧の和です。高率・低温放電時の大幅な容量減の理由にはならないと記載しました。この過電圧については、KT大AB教授が丁寧な研究をされており、脱溶媒過程が主因であると言う結論を導き出しています。過電圧は電池の評価・解析には非常に重要な値です。
 予定をしていなかったのですが、最近ある電池技術者と話す機会があり、抵抗・過電圧についての考え方・測定方法を誤解しているように思いましたので、急遽解説を加えることにしました。当然ながら電圧は電圧計で測りますが、電流が流れていない時のOCVと電流が流れている時のCCVがあり、その差が電池設計では非常に重要です。一般に抵抗は、オームの法則<電圧=電流×抵抗>に従うと思われていますが、OCVとCCVとの差はオームの法則には従わないので、内部抵抗と言う方は大きな誤解を生むことになります。直流通電を遮断した瞬間にOCVに向かう方向に変化をします。充電なら低く、放電なら高くなります。この瞬間の電圧降下を前回IRドロップと呼びましたが、このIRドロップは電子抵抗とイオン移動抵抗の和です。オームの法則に従わないOCVとCCVとの差である全電圧降下分を適切に表現でき、定義された用語を知りません。私は便宜的に、内部抵抗とは違うと言う意味で、内部インピーダンスと言う造語をし、解説をすることがあります。しかし、交流インピーダンス法と言う定義された測定方法と混乱する可能性があるので、慎重に使う必要があります。
 電圧降下分(内部インピーダンス)=内部抵抗(電子抵抗+イオン移動抵抗)×電流+過電圧
 通電電流を遮断し電圧変化を測定する直流遮断法で測定した「直後の」電圧降下には電極反応過電圧は含まれていません。交流抵抗計は電池抵抗を測るのに非常な便利な測定器ですが、1kHzの交流での交流抵抗を測定しており、この周波数、つまり1ms印加では、電子抵抗、イオン移動抵抗、電気2重層の充電の一部が測定できますが、電極反応の過電圧は測定できません。電池メーカーの製造ラインの品質管理項目では、測定の簡便さから交流抵抗計が頻繁に使われていますが、電極反応過電圧は全く計れていないので、電池の設計段階ではそのことを十分に理解した上で利用することが重要です。電極反応過電圧を正しく理解し測定せずに、安易に交流測定に頼って設計をするようなことがあれば、必ず不良品を出荷し、最悪破裂発火の事故を引き起こすことになります。
 通電遮断後、回復過渡電圧(TRV=Transient Recovary Voltage)を経てOCVに戻ります。安定になるには、数秒から数時間かかります。電極電位は電解液の濃度分布、電極活物質中の反応種の濃度分布に依存します。充電条件によりこれらが全ての領域で均一にはなりません。電解液の濃度差は拡散により均一化し、異なる反応種濃度の活物質間では局部電池により内部電流が流れ、徐々に均一化されます。両端子に接続した電圧計で測定される電圧は一つしかなく、その電圧は各部の内最も大きな電圧差を示す電圧が測定されると考えております。つまり、SOC40%の領域と、SOC60%の領域があるとすれば、SOC60%の電圧が計測されると言うことになります。SOC60%の領域は放電し、SOC40%の領域は充電され、全体がSOC50%に均一になります。この議論については、TR大IG教授、TK大KM准教授から今回改めてご指導をいただきました。





 充電曲線はFig.15のようになります。第1回目の充電を「初充電」として破線で描きましたが、数サイクル繰り返し安定になってからの充電曲線とは明らかに違います。充電初期に平坦部が現れ、この電圧域に該当する反応が進行していることが解ります。代表的には充電による電解液の還元分解が起き、リチウムイオンが含まれる塩が生成し、電極活物質表面に付着します。この付着物をSEI(固体電解質界面)と呼んでいます。SEIについてはいずれ詳しく解析します。水系の従来電池では、第2回目充電以降には起こらない最初の充電で起きる現象を「化成」と呼んでいます。充電とは異なる用語「化成」と呼ぶことで、SEI形成のような本来の電荷を蓄電する充電とは別の反応を明確に区別しています。リチウムイオン電池誕生の頃に、ある方から「化成とは何の事ですか?」と質問されたことがあります。「初充電」と言う用語は、2回目以降の充電との中味の違いが明確でないので「化成」と言い換えるべきと今でも思っています。このコラムでは、「化成」と言いたいのですが、「化成」と言う言葉を知らない方も多いので、現状で使われている「初充電」で統一します。初充電中に行われる副反応には非常に大きな意味があり、安易に電解液分解と解釈するのではなく、電気量などを計算して何が起こったかを考察するべきです。
 サイクル試験では一定の電気量(=電流×時間)で充電放電を繰り返す場合もありますが、通常の充電はFig.15示すように、一定電流で所定の電圧まで充電し、その後所定の電流まで小さくなった時に停止する、定電流定電圧充電(CCCV)を行います。電極内の不均一性のために所定電圧に到達していない活物質が、所定電圧に到達するまで定電圧充電を継続します。充電による電圧上昇は負極電位の影響は小さく、ほとんどは正極電位が決めています。正極活物質はリチウムイオン含有量により2Vほど変化し、その電位変化が電圧変化になります。この上限電圧を超えて充電すると、正極活物質は結晶性が低下し、構造の不安定化、最終的には酸素を放出するようになり、安全性が大きく低下します。現況の正極活物質では4.2Vを充電上限電圧としていますが、高エネルギー化にするために高電圧にする開発が進められています。
 放電後すぐに充電をせずに休止を挟む場合には、充電開始電圧は正極中のリチウムイオン量を示しているので重要なデータです。また、定電流領域から定電圧領域に変わる時点も電極性能を評価する上で大事な点です。定電圧充電に移行してからは、電池特性を考慮して決めた終止電流に到達した時に充電を終了します。充電終止電流を1/100C以下にすると電解液分解などの自己放電を促進することがあるので、時間制限もした方が良いと思います。定電圧時間を一定にするか、定電流時間も含めた全体の充電時間を一定にするかは試験の目的応じて決定することになります。
 充電制御は負極、正極個々に制御すべきですが、適当な参照電極がないので、両端電圧で制御します。参照電極測定をすれば、Fig.16のように正極・負極の電位が測定され、その差が両端の電圧となります。図のように、電圧制御は正極の電位上昇につれて両端電圧が上昇し、4.2Vで上限としてその電圧を保つように電流を減少させます。この制御により正極が過充電になることは防げています。しかし、4.2Vは両端の電圧ですから、負極がリチウム金属析出電位になっても検出することは出来ません。充電曲線だけを観察していても、負極が過充電、つまりデンドライト析出していることを見付けることはなかなか困難です。



3)次世代EV用電池:日産自動車(株)・トヨタ自動車(株)のEV用電池開発動向

 10月度の雑誌・新聞記事について紹介および私の所見を整理しました(Fig.17)。日本の自動車メーカーも、中国市場では中国メーカーの電池を搭載すべく準備を進めているようです。これらの情報を加味して次世代電池の各社開発動向について記載しますが、元来私の苦手な作業で、公知の記事からその要約をしているだけですので、真贋も明確ではなく全く自信がありません。一応私の所見を加えながら記載しますが、危ない話と思われたら飛ばして下さい。





 日本のEVメーカーでは最も実績がある日産自動車はゴーン元会長の不祥事で大騒ぎになっています。私がコメントすることはありませんが、EVリーフの販売に影響が出ないことを祈るばかりです。既にリーフは30万台以上の実績有しながら、米国テスラー社製EVとは異なり、全く火災事故による死者は出ていません。リーフも一定の確率で交通事故を起こしているはずですが、火災事故になったと言う話は聞きません。
 一方、テスラー社EVは度々火災事故になり、不幸なことに少なくとも2名の犠牲者が出ています。テスラー社は、原因は電池ではないと表明しています。もちろん私もそれを望んでいますが、両社の採用している電池の安全性には明らかに大きな差があるので、電池にも原因があるのではないかと心配しております。リーフは昨秋に正極をマンガン系から3元系に変更することで大幅な容量向上をし、一充電走行距離400kmを宣伝しています。一般の感覚では実力が7割程度、つまり300kmでしょう。この変更で、貯蔵する電気量は向上出来ましたが、安全性は明らかに低下しているので電池劣化後を心配しています。
 2007年に設立した日産自動車(株)と日本電気(株)との合弁会社AESC社=Automotive Energy Supply Corporation=がリーフ用電池を製造しています。1985年頃に三井物産(株)子会社 日本モリセル(株)が金属リチウム2次電池をカナダから輸入し、日本電信電話公社(現ドコモ)の携帯電話に搭載しました。電池メーカーYA社が技術支援・出資をしましたが、リチウム金属による短絡が発生し、発煙発火事故が多発し販売中止になりました。リチウム金属電池の販売を中止し、代わりにリチウムイオン電池の開発を始めました。その後YA社は撤退し日本電気(株)が支援・出資しました。コバルト系はグッドイナフ氏の基本特許に抵触しますが、マンガン系であれば抵触しないと可能性があるとの特許判断があり、マンガン系正極でのリチウムイオン電池開発を開始しました。現在の日本電気(株)の電池部隊の発祥です。京セラ(株)向けの携帯電話などで安全性を武器に実績を積み、日産自動車のEVに採用されました。三菱自動車の小型EVに最初に採用された電池もマンガン系でした。当時YA社でもマンガン系を選択すべきとの意見もありましたが、携帯電話では高容量を優先すべきとの意見が強くYA社はコバルト系を選択しました。マンガン系がコバルト系よりは安全である、量産時にコバルト価格は致命的であると言う選択理由は今でも通用します。昨秋に日産自動車が合弁を解消し、現在は中国系ファンドに買収されました。その結果、日本にはマンガン系技術を有している機関はなく、今後例えば自動車共有化のように市場要求・要求特性が変わり、マンガン系が最適になることがあると、マンガン系技術を有する中国が独占することになるのではないかと心配しています。なお、AESC社は、中国系資本の元に中国での工場建設などを進めることで新展開があるのかもしれません。
 日産自動車はマンガン系から3元系に変えたことで、AESC技術に頼る必要はなくなり、どこからも調達できることになりました。当面はパナ・旧サンヨーの電池が採用されると思いますが、いずれ互換性のある韓国LGケミカル社製に変わり、その後LGケミカル社中国工場または中国CATL社に移行すると予測しております。
 この辺りの調達先の変遷については、ゴーン氏の調達方針でもある国際調達、価格主義がどの程度徹底するかに因ると思います。(Fig.18)





 一方、日本ならず世界最大の自動車メーカーであるトヨタ自動車(株)が、2030年HV・PHV:450万台、EV・FCV:100万台と、EVについて数字目標を掲げたことに驚きますが、本音はHV販売ではないでしょうか?EVでは明らかに乗り遅れています。開発戦略としてはパナソニックとの協業を発表しました。自社内での開発を諦めたとも受け取れる発表でした。
 500名体制でHEV用リチウムイオン電池の開発に成功し、HEV用NiMH電池を製造している関連会社PEVE社で、HEV用リチウムイオン電池を製造し、新型プリウスに搭載しています。電池専業メーカーを凌ぐ実力を有していうので、EV用も研究開発を進め、PEVE社で製造・調達すると推定していたので非常に驚きました。パナ・旧サンヨーからの調達を増やしているようですが、自社開発のリチウムイオン電池も性能では決して見劣りしないはずですから、価格だけで決めているとすれば、技術の蓄積は出来ず電池メーカーが実質的に一つなくなったことになり非常に残念です。なお、中国で販売するEV用電池は現地CATL社に積極的に働きかけをしていると聞いています。リッチウムイオン電池の自社単独での開発は諦めましたが、パナ・サンヨーとの共同開発は続けられているので、細々ではあっても技術者の養成は出来ているのかも知れません。また、最近トヨタ自動車関連企業での電池関連の発表が数件ありましたが、トヨタ自動車本体の技術レベルからは相当差があり、発表の裏側では選択と集中が始まっているように感じております。
 パナソニック(株)との協業の共同発表記事に、次世代電池としての全固体電池の開発も協業すると書かれていました。不思議な話と良く見直すと、記者作成記事とパナソニック(株)発言にはその意味が含まれているのですが、トヨタ自動車(株)発言では不明瞭です。10年以上前にパナソニック(株)でも全固体電池を開発しており、実際に見せてもらいましたが、とても商品化できるとは思えないレベルでした。一方、トヨタ自動車(株)では特許発明者の9割が全固体電池に関する技術者であると言う調査結果もあり、全固体電池の開発は圧倒的にトヨタ自動車(株)が先行しており、パナソニック(株)との協業には価値が見いだせないと思います。全固体電池については別途調査結果をご報告申し上げます。(Fig.19)



4)新規な電池理論:片持ち論=グラファイト・カーボンナノチューブ中のリチウムイオン



 両方から引っ張られて安定に存在するという「両持ち論」を否定しました。新たに「片持ち論」を提唱します。Fig.20に示すように、充電により<負>に帯電したグラファイト片面と<正>に帯電しているリチウムイオンは静電力で引き合い<図中f3>近付こうとします。間隔が狭くなると、グラファイト中の電子とリチウムイオンの最外郭電子とが反発し合い<図中f4>離れようとします。この両者の逆方向の力が釣り合うことで、その位置で安定化します。場の揺らぎ、例えば、僅かにグラファイト壁に近付くと電子同士の反発力が大きくなり、元に戻ります。僅かに離れるとグラファイト壁とリチウムイオンとの静電引力が大きくなり、元に戻ります。このようにバランスの取れた安定な状態が保たれることになります。カーボンナノチューブの場合にも、全く同じでFig.21のようになります。円弧の何処が安定化は定めることは出来ません。
 このように、グラファイト壁、カーボンナノチューブの壁とリチウムイオンとが釣り合って安定化する現象を「片持ち論」と命名し、この状態でリチウムイオンが貯蔵されていることを「新規な電池理論」として発表しました。



5)おわりに

 第3回目で少し慣れてきましたが、逆に書こうとする意識が強すぎて、筆は進まなくなりました。新規参入の電池技術者と話をして、日常・単純に測定している電圧、抵抗について、正しく理解されていないことがあると知り、急遽「電池の電圧」・「電池の抵抗」およびその測定の基本について解説を加えました。
 長々と書きましたが、測定している電圧・抵抗は電池の何を測っているか、じっくり考えて見ることも大切だと思います。測定器で数字が出ればそれでよしとしていては、「チコちゃんに叱られますよ!」。開発競争の最中にいる方も、足元を見つめ直すことは必要でしょう。疎かにすると必ず破裂発火事故が起きます。
 充電曲線について基本的な、大事なことだけを解析しました。次回はサイクル試験について記載します。聞きかじった情報を基に、日産自動車(株)とトヨタ自動車(株)の事業戦略について記載しました。次回はGSユアサ・ボッシュとテスラーについて解析します。「両持ち論」に対する「片持ち論」を提唱・解説しました。カーボンの微細孔内に複数個のリチウムイオンが安定に存在する状態についてクラスター論が言われていますが、次回その矛盾を指摘します。
 1990年初め、リチウムイオン電池勃興期を目前にユニークな活動が進められていました。秋の電気化学会懇親会で、HS商社TG社長より昔のことを知っている人は少なくなったと言われました。今となっては技術的には何の価値もないかも知れませんが、折角コラムを書いているのですから、当時のことを記録として残してみようと言う気になりました。項目を一つ増やして、思い出すままに数回に渡り昔話を記載することにしました。紙面の無駄と思われる方は読み飛ばして下さい。なお、登場する方々に事前了解を得ていませんので、文責は全て小職にあり、ご批判は小職にお寄せ下さい。
 次回は年明けとなります。良いお歳をお過ごしください!



第2回(2018/11/15)



1)はじめに:題名「オーバー・ドライブ」

 学生時代にラリーを少しかじっていました。「オーバー・ドライブ=Over Drive」と言う題名のラリーが主役の邦画を観ました。主演は東出昌大、新田真剣佑さんです。「オーバー・ドライブ」は変速機のギア比1以下で高速時のエコ運転用ギア設定を言いますが、映画には全くその名に相応しいシーンは出て来ません。途中で色恋話が出て来て白けましたが、ラリーシーンは勝田範彦氏などが担当しスリル満点に演出されていました。ドリフト走行は見応えがあります。名古屋に赴任した15年程前、土曜夜に岐阜市金華山ドライブウェイに走りに行っていました。若者達に迷惑がられても最後尾でローリング走行を味わっていました。ある時、ブラインドカーブの出口でうずくまっている狸に出会い急停車し、車から飛び降りて後続の車両に知らせました。後続車数台が急ブレーキを踏み怒鳴っていました。ヘッドライトをスモールにすると、のこのこ動き出し、見守っていた若者達もとても喜んでいました。別れ際に若者達が「おじさん、余り飛ばすなよ」と心地好い笑顔で挨拶をして追い越していきました。執筆に当り念のためと、金華山ドライブウェイ(全長5km、所要時間?分)を明るい内に実際に走行してきました。溜まり場だった公園駐車場、手前のトイレなどは昔のままでしたが、やはり恐怖感が先に立ち膝が震えました。この映画の題名はブレーキとアクセルを同時に案配良く踏む「ヒール・アンド・トゥ」にすれば良かったのにと思いました。
 前回記しましたように「リチウムイオン2次電池」と言う名称は、その意味が心技体一致しています。私は専門用語、電池用語はその意味を理解した上で、常に正しく使うべきと思っています。このコラムでも正しい用語を使うよう心掛けますが、間違いがあれば是非ともご指摘下さい。



2)電池及びリチウムイオン電池の概説:放電曲線

 

初歩的な話で大変に申し訳ないのですが、学会発表などで充放電試験結果の解釈で疑問を感じることがあるので、敢えて取り上げました。





 Fig.9 破線Aは電流が流れていない時の開路電圧=OCV=(注3)、点線Bは典型的な放電曲線、一点鎖線Cは高率(大電流)放電時の放電曲線を示しています。線B、C(CCV)と破線A(OCV)との電圧差、矢印a、bはエネルギーロスになります。また、矢印qは、高率放電などで蓄電されているが放電できなかった電気量を表しています。この差、矢印a、b、qが生じる理由を考察することが、私のような電気化学出身の電池屋の仕事になります。
 研究されている数は矢印a、bに関するものがほとんどですが、私は矢印qが矢印a、bよりはるかに重要と考えています。先端の材料研究の場合には省略することも仕方がないかもしれませんが、矢印qを説明できることが前提で放電曲線の解釈をしなければ、技術としては片手落ちでしょう。交流測定データで矢印a、bを説明し、同じ理由で矢印qを説明している講演があり、2回ほど間違いを指摘しましたが無視されました。ソーラートロン(交流測定装置)でデータを沢山取るだけでなく、電気化学速度論を学んで「律速段階」を理解した上で、「過電圧」を語るべきです。
 放電直後の電圧降下は所謂IRドロップで、電子抵抗・イオン抵抗(イオン伝導度の逆数)を示しています。このIRドロップは熱損失になりますから、エネルギー効率の面では小さい方が良いことになります。しかし、短絡・ショートをした時にこの値が小さいと、短絡電流は大きくなり安全性は低くなり破裂発火の可能性が高くなります。従って、設計者は意識的に高くすることもあるので、一概に低ければ良い電池と言う訳ではありません。一般に2次電池ではこのIRドロップは非常に小さいので、安全性の見地からはIRドロップは高い方が良い電池と言うことになります。
 放電電圧(CCV)と開路電圧(OCV)との差(矢印a、b)からIRドロップを差し引いた電圧差は、正極、負極それぞれの過電圧を足したものです。この過電圧を研究することが電気化学の重要な役割になります。本来参照電極を用いて区別して考えるべきです(Fig.10)。しかし、困ったことに現状ではリチウムイオン電池内で安定に存在できる電極がないので、実電池では両端電圧での過電圧を考えざるを得ません。実験的には目的とする電極(作用極)の容量を反対の電極(対極)の容量の10分の1以下にすることで、作用極の挙動とする実験手法が使われることがありますが、意図しない現象を招く可能性もあるので、十分に検討してから実験する必要があります。TH大SI教授がチタン酸負極を参照電極に使う試みをしており、その使い勝手・安定性に注目しています。
 電気2重層の放電を示す短時間の電圧降下があり、その後直線に近い放電曲線になり、充電状態=SOC=(注4)に従って電圧が降下していきます。負極の影響は小さく、正極組成の影響を受けた数点の変曲点を伴って徐々に降下します。傾斜電圧は出力制御上は織り込み済みなので、ゆったりと変化することは実用上全く問題ありません。この変曲点について微分などをして丁寧に調査・解析している研究発表をよく見聞きします。材料調査には役立つかも知れませんが、電池の良否判定には結び付きません。
 0.05C以下(小さな電流)の低率放電では放電終期に容量が無くなったことを示す急激な電圧ドロップがあります。通常は副反応の恐れがある0Vよりはるかに高い、例えば2.8Vの放電終止電圧で放電を中断します。通電終了後電圧はOCV(注3)まで回復します。1C以上(大電流)の高率放電では矢印qに示すように、本来の容量より小さな容量しか得られません。この場合も、通電終了後にOCVまで時間をかけて戻ります。(Fig.11)





 この電圧がOCVに戻る現象は非常に重要な意味を持っており、呼び方についてKT大AB教授に相談しました。非常に丁寧な回答があり、「回復過渡電圧」(Fig.11)と呼称すべきと教えていただきました。簡単なメールでの質問でも、その本意まで御理解いただき感心しました。この「回復過渡電圧」については、京都の研究機関が昔から着目していて流石だなと感心していたのですが、最近の解説資料を見ると曖昧な表現が多く誤解を呼ぶのではないかと心配しています。
 この矢印qは高率放電に加え低温でも大きくなります。今後コラム連載の中で詳しく解説します。

 注3)OCV:Open Circuit Voltage 開路電圧。電流が流れていない時の電池電圧。
    CCV:Closed Circuit Voltage、閉路電圧。電流が流れている時は、
 注4)SOC:State of Charge 充電状態。満充電はSOC100%になる。
    DOD:Depth of Discharge 放電状態。満充電は0%。になる。



3)次世代電池:EV用リチウムイオン電池

 9月度の雑誌・新聞記事について、紹介および私の所見を整理しました(fig.12)。技術的知見には余り役立ちませんが、市場動向、各電池メーカー・各自動車メーカー戦略について知ることができます。真実とは思えない情報もありますが、参考のため添付・掲載します。今月度は、メカニカルチャージについて注釈をつけました。これらの情報を加味して次世代電池の開発動向について解析・検討し、その結果を今後解説・記載して行きます。セカンドオピニオンとして心に留めておけば、きっと将来お役に立つと思います。




Fig.12 2018年9月度記事の紹介と評価



 

日産自動車リーフのEV用電池の1充電走行距離は公称400km、実力300km程度です。通勤と買物に限定した用途ではこの距離で十分ですが、休日のお出掛けの時には不便・不安でしょう。このことが価格以外にEVの普及を妨げています。その壁を乗り越えるためには現行の倍、公称800kmは必要と思います。大雑把に言えば、80kWhの電池を積む必要があります。EVの魅力はガソリンスタンドに行かず家庭あるいは宿泊先で充電できることにあり、充電ステイションに立ち寄って充電することは非常時に限定するべきで、急速充電性能は不要と考えています。寿命については、電解液などを改良した改良型リチウムイオン電池で10年要求は満たせると思います。
 現行のリチウムイオン電池は負極・正極とも理論限界に達しており、これ以上の高容量化は望めません。リチウムイオン電池の標準になっている円筒型18650は、ソニーが最初に出荷した1990年代は1000mAh、2000年代に2000mAh、2010年代3000mAhと容量増を果たしました。設計で達成出来たのは2500mAhまでで、その後は負極の高密度充填、ニッケル増と言う安全性を犠牲にしての容量増で、これ以上は安全性に無理があると懸念しています。
 電極活物質以外の電解液・セパレータなどの補助部品の改良は、電極活物質の能力を十分に引き出すことが出来るので数10%の改良には役立ちますが、倍の容量増は期待できません。電解液・セパレータなどの開発で数倍の容量増が実現できたと言う発表を見聞きしますが、電極活物質は何ですかと聞きたくなります。注目を浴びている固体電解質も、それ自体では高容量化の課題解決になりません。絶対に誤解があってはならない点です。



4)従来説=両持ち論=グラファイト中のリチウムイオン



 リチウムイオン電池で実用化されているカーボン構造はグラファイトとハードカーボンです。グラファイトに貯蔵されたリチウムイオンについては、リチウムイオンがグラファイト層間0.0335nmに入り、充電により負に帯電した上下2層のグラフェン層に挟まれた位置が安定な存在と言われています。リチウムイオンは正に帯電し、グラフェン層は充電により負に帯電しているのでお互いに引き付け合います。この引き付ける静電力が上下均等(f1=f2) になり、上下層の中央で釣り合うことにより安定に存在すると言われています。 (Fig.13)
 しかし、全ての場で揺らぎはあります。中央に位置するリチウムイオンがほんの僅か上層に近付くと上からの引力<f1>は少し増えます。下層からの引力<f2>は距離が遠くなるので少し小さくなります。つまり、f1>f2となり、リチウムイオンは上層に向かって移動し、その結果f1>>f2となりリチウムイオンは益々上層に向かって移動します。
 少し長くなりますが、私が思い出した説話を引用します




<大岡裁き/子争い>
 子供の母親は一人ですが、母親を主張する女子が二人いました。双方共に「わたしこそがこの子の母親よ」と、頑として引かない様子です。二人の争いはとうとう収まらず、大岡越前の奉行所でついに白黒付ける事になりました。
 大岡越前は二人にこう提案しました『その子の腕を一本ずつ持ち、それを引っ張り合いなさい。 勝った方を母親と認めよう。』 その言葉に従い、二人の母親は子供を引っ張り合いました。当然ながら引っ張られた子供はただではすみません。たまらず「痛い、痛い!」と叫びました。 すると、その声を聞いて哀れに思ったのか、片方の母親が手を離してしまいます。
引っ張りきった方の母親は子供を嬉々として連れて行こうとしますが、大岡越前はこれを制止します。
 『本当の親なら、子が痛いと叫んでいる行為をどうして続けられようか』と言いました。母の持つ愛情をしっかり見切ったのでした。これにて一件落着。



 

つまり、両方から引っ張っている状態のグラファイト中リチウムイオンは決して安定ではないと考えました。この両方から引っ張って安定に存在すると言う従来の説を私は「両持ち論」と名付けました。
 カーボンナノチューブのような円筒中では、Fig.14に図示するように周囲から引っ張られて中央に存在することになります。多角形の壁に囲まれた空間の場合には安定に落ち着く位置を見つけるのに、リチウムイオンは苦労しそうです。
 この「両持ち論」に疑問を抱き「片持ち論」を考え付き、「新規な電池理論」を考案しました。



5)おわりに

 

第2回は電池屋としての放電曲線の見方を解説しました。幼稚な話ですから専門家の方は読み飛ばして下さい。「律速段階・過電圧」についてもう少し解り易く説明すべきであったと後悔しています。次回は充電曲線について解析します。電池の容量は電極活物質で決まります。その理論容量を如何に100%引き出し放電させるかが電池屋の腕の見せ所です。EV使用ではリチウムイオン電池は安全性を考慮しても、ほぼ理論容量を引き出せるはずです。倍の容量が要求される次世代電池では電極活物質開発に研究・開発資源を注ぎ込むべきです。次回からはEV関連メーカーの開発動向を紹介します。カーボン系での高容量化が断念される理由、グラファイトで内蔵される状態について「両持ち論」を説明しその矛盾を指摘しました。次回は私が考案・提唱している「片持ち論」を解説します。
 第1回で数通のご意見をいただきました。次回以降に反映させていきます。ご批判・ご質問を大歓迎しておりますので、是非お寄せください。次回をお楽しみに!




第1回(2018/10/10)



1)自己紹介および本コラム執筆について

 初めまして、バッテリーコンシェルジュ佐野です。
 記録的豪雨、経験のない猛暑、最大級台風、震度7の地震があった異常な夏が過ぎました。自然に狂いが生じていると言われることもありますが、彼岸花は例年通りお彼岸の日にお墓に咲きました。葉のない茎の上に華麗な朱色と純白の花が乗っている姿は孤高の華やかさがあります。純白は珍しく突然変異かも知れません。
 平成20年11月から翌年2月まで当コラムを執筆していました。丁度10年振りになります。
     https://johokiko.co.jp/column/column_shigeru_sano.php
 「バッテリーコンシェルジュ」と言う肩書は勝手に作り出したもので、今の所苦情を聞いていませんが、学会・業界では認知されている訳ではありません。学会などで名乗る時には恥ずかしく言い淀んでいます。
 今春に名古屋にある一般財団法人ファインセラミックスセンター(JFCCと略す)の客員研究員を退任し、現在は某充放電装置メーカーの援助で何とか電池と関り続けています。中学2年の時に電池研究者になる夢を抱き、半世紀に亘り電池に携わってきました。研究開発に関し世界一の失敗例を有していると自負しています。(FIG.1)





 

前回執筆から10年が経ち、EV用電池開発など電池業界は激変しており、また、「新規な電池理論」について篩膜を実証できました。私の知見が電池技術修得、次世代開発に役立つことがあると執筆を思い付き、鰹報機構様にご相談しました所、本コラム執筆に快諾いただきました。月1回全24回の掲載を予定しております。各回2)、3)、4)項を平行に書き進めていきます。3)項は順不同になりますがご容赦願います。



2)電池全般及びリチウムイオン電池の特徴と課題
  副題:電池及びリチウムイオン電池の現状


 

最初に電池工業会発行の「でんち」に掲載されている国内電池産業の概要を紹介します。小冊子「でんち」は電池工業会が編纂しており、電池業界の施策などが解り易く書かれています。屋井電器が登場する電池開発の歴史などは面白く読ませていただきました。
 国内での電池生産は約8,000億円で、年率5%上昇を続けられれば5年程で1兆円産業になります。充電できない1次電池は8%以内です。量販店で安売りされているマンガン乾電池の国内生産は打ち切られています。乾電池トップメーカー某社の最新工場はアフリカのコンゴにあると聞いています。コンゴはコバルト生産でも有名で電池との関りが強い国です。(追記:寄稿時には知らなかったのですが、コンゴのムクウェグさんがノーベル平和賞を受賞されました。コンゴの紛争には鉱物資源の利権が絡んでいると聞き複雑な気持ちです。)2次電池販売金額は7,900億円で、大半はリチウムイオン電池(注1)で、内車載用が2,700億円65%です。鉛蓄電池、ニッケル水素電池はほとんど増えることなく、リチウムイオン電池特に車載用と輸出が伸びを支えています。(Fig.2) 輸出先は大半が東南アジアです。グラフの縦軸の金額には余り意味がありません。1992年にソニーが製品化に成功したリチウムイオン電池も携帯電話に代表される民生用は韓国、中国に追い抜かれ、車載用も中国に追い抜かれたと言われています。世界規模での電池市場については調査会社の報告を参考にして下さい。
 昨秋に中国CATL社トップのEV用リチウムイオン電池に関する講演を聞きました。数年前に日本メーカー2社と韓国LG化学の方のEV用リチウムイオン電池の技術講演を聞いた時に、日本メーカーが最新技術を隠したことを割り引いても、LG化学の技術トップの講演内容が一番素晴らしいと思いました。その時の印象と全く同じでCATL技術トップがリチウムイオン電池の技術に真摯に立ち向かって事業を進めていると感じました。一方、日本メーカートップの講演からは技術を理解した上で話されているようには聞こえませんでした。リチウムイオン電池技術では日本メーカーは完全に追い付かれました。



  

※注1:「リチウムイオン2次電池」という名称は、ソニー鰍ェ最初に製品化した時に命名し、現在一般に通用している名称です。リチウム金属電池と区別する呼び方で、技術的には正負極どちらに収納されてもイオン状態にあり、使用面ではリチウム金属に比し遥かに安全であることを表現していて、非常に上手い名付けと感心しています。充電できないリチウムイオン1次電池は存在していないので、本稿では充電できるという意味の2次(蓄)は省略します。文字数制限でLIBと略すこともあります。Iを小文字iで表記していることがありますが、リチウム金属電池と混同するので適当とは思えません。なお、Siなどとの合金系負極電池を、リチウムイオン電池と呼称するのは相応しくないと思います。




<リチウムイオン電池販売推移>車載用と輸出が伸びています。


3)EV用次世代電池の課題 副題:用途別要求特性とHEV用電池について

 

電池は用途に応じて機種が決められます。代表的な用途について要求される特性を整理しました。(Fig.3)
 民生用と総称している携帯電話・パソコンなどの携帯機器では現状のリチウムイオン電池で最低限のニーズは満たせています。使用頻度の高いユーザーはリチウムイオン電池が内蔵されているモバイルバッテリーと言う携帯型充電器を予備に持っています。
 ハイブリッドカー用電池は、トヨタ自動車が関連会社のPEVE社製ニッケル水素電池とリチウムイオン電池とを車種別に併用し、ホンダ自動車がGSユアサ社との合弁会社ブルーエナジー社製リチウムイオン電池を搭載しています。基本的にはガソリンエンジンで走行し、スタート時・急加速時などのエンジン効率が良くない時の補助としての役割で、エネルギー貯蔵自体は重要な性能ではなく、5Ah程度の電池が採用されています。一方、出力は重要で数kw、つまり10C(※注)以上の電流を流せる設計になっています。ブルーエナジー社の負極にはグラファイトではなくハードカーボンが使われています。リチウムイオンの挿入・脱離速度が速い、膨張収縮が少ないなどの利点から採用されていると思います。僅かであってもグラファイトの膨張収縮はSEI(固体電解質界面:後述)の溶解・沈殿による電池劣化を促進します。
 トヨタ自動車新型プリウスにはニッケル水素電池とリチウムイオン電池の両方が搭載されています。電池占有容積は35.5Lと30.5Lとで5Lの差が電池容量に反映され、前者は6.5Ah、後者は3.6Ahです。公表された写真を見るとこの差を制御回路が占有しています。つまりニッケル水素電池に比しリチウムイオン電池は複雑な制御が必要なことが理解できます。両者の電池容量差は理論体積エネルギー密度からは理解できない大きな差で、リチウムイオン電池がエネルギー密度を無視してパワー重視設計、つまり活物質の充填率を下げた設計になっていると推定します。(Fig.4)
 定置用は後述しますが、リチウムイオン電池では価格が難問と思います。

※注2:「C」は電池専門記号で、容量を乗じると電流に換算できます。異なる容量の電池特性を比較評価する時に便利な単位です。ただし、容量の少ない薄膜電池では適用できません。ある学会で、「薄膜電池で100C充電ができた。」と言う発表があり、某電池メーカーの方が座長としての中立の立場を忘れ憤慨していました。


 

<用途別要求特性>EV用は全て高性能で、特にエネルギー密度が重要!



<HEV用とEV用> HEV用はパワー重視、EV用はエネルギー密度が重要!


4)新規な電池理論「片持ち論+篩膜」
  副題:新規な電池理論考案のきっかけとなったカーボンナノチューブ


 

JFCC在籍中に、楠主幹研究員(その後名古屋大学教授、今春退任)が発明したカーボンナノチューブ(CNTと略す)の応用開発を担当し、楠主幹研究員よりCNTについて教えていただきました。楠CNTはSiCの単結晶基板を加熱分解して成長させ、非常に密なブラシのような形状です。(Fig.5,6) その特性を活かし研磨材としての応用を検討しました。特性は非常に良いのですが、価格がネックになり実用化は出来ていないと思います。(Fig.7)
 CNTはS大のE教授を通じて知識がありました。E教授とは30年程前に特殊カーボンの応用開発に関する国プロ委員会でご一緒し、その精力的なご活躍に感心しました。E教授が発明したCNT前身の気相成長カーボンファイバー(VGCF)は昭和電工(株)にて製品化され、負極添加剤としてリチウムイオン電池の重要な材料となっています。
 私は研磨剤としての応用と並行して電池電極として使えないかを考えましたが、この内径では内部が電解液分解生成物で埋められイオンが動けなくなり、電池として機能できないことを直ぐに理解しました。(Fig.8) CNTを電池材料にする研究が多くなされましたが、結局は全てこの結論になっています。金属酸化物を導入してレドックスキャパシタ容量を測定して、CNTで電池ができたと言う発表には厭になります。
 なお、JFCCのK氏は硫酸系で水分解が起こらない電位域でのキャパシタ容量を測定し、非常にきれいなデータを得ています。CNTの先端をキャップと言いますが、そのキャップを焼き切って除去するとCNT内部に電解液が入り容量が増大することを実証しました。この知見は多孔性カーボン全般に適用できる非常に貴重な実験結果で、「新規な電池理論」構築にも役立っています。(特開2010-10623)




<SiC表面分解法CNT>ブラシのように密に林立している。



<SiC表面分解法の機構>SiCを真空加熱して分解する。



<SiC表面分解法CNTの特長>研磨材として優れた特性を有している。



<CNTが電池に使えない理由>CNT内部がSEI分解生成物で埋まり、動作しない。


5)終わりに

 

今回は自己紹介から始め本コラムの今後の進め方について記述しました。
 電池業界は車載用リチウムイオン電池に支えられ幸いにも現在は成長産業ですが、他の電池のように衰退に向かわないためには、産・官・学の真剣な取り組みが必要と考えています。次回は基礎的なことですが、充放電曲線の見方について説明をします。用途別に電池に対する要求性能を整理し、HEV用電池はパワー重視設計であることを説明しました。次回は、EV用としてのリチウムイオン電池を評価します。「新規な電池理論」考案のきっかけになったCNTを紹介しました。次回は、グラファイトを代表とするカーボン材料におけるリチウムイオン貯蔵に関する現行理論の矛盾について詳述します。
 9月25日、26日金沢大学で開催された「2018年電気化学会秋季大会」に参加しました。発表内容は次回に報告します。参加者1000人以上、発表500件、懇親会300人と聞きました。会場が広いためか各会場とも空いていました。韓国・中国からの参加者はほとんど見掛けませんでした。11月末開催の電池討論会に集中しているかも知れませんが、日本の電気化学会には価値がないと思われるようになったとしたら残念です。
 久し振りの執筆で手古摺りました。お読み難い部分が沢山あったと思いますがご容赦願います。徐々に読み易い文章が書けるようになるとご期待願います。ご質問・ご意見をお寄せいただけますことを楽しみにしております。是非ともよろしくお願い申し上げます。
 彼岸花と言えば、山口百恵が唄った「曼珠沙華(シャカ)」を思い出します。彼岸花と同じく本コラムも毒を抜けば非常時にきっと役立つはずです。次回をお楽しみに!



佐野 氏のご紹介

佐野 茂 氏
バッテリーコンシェルジュ

■講師自己紹介: ・中学2年の時、電池研究者になる夢を抱いた。
・湯浅電池(株)(現(株)GSユアサ)で多くの電池研究。
・成功談はないが、失敗談は豊富にある。

■ご略歴:
 1972年 東工大電気化学科卒。
 1973年 湯浅電池(現GSユアサ)入社。蓄電池研究。
 1993年 リチウムイオン電池研究・開発・量試。
 2005年 ファインセラミックスセンター。「新規な電池理論」考案・出願。
 2007年 国プロ受託「計算化学による実証」。
 2009年 東洋システム鞄d池評価担当。
 2016年 バッテリーコンシェルジュ。「SiC篩膜」特許出願。




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