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講師コラム:佐野 茂 氏


『 電池特にEV用電池の最新事情 
リチウムイオン電池・次世代電池の課題を解決する
新規な電池理論
 



コラムへのご意見、ご感想がありましたら、こちらまでお願いします。

第5回(2019/2/6)



1)はじめに:BYDバス&EV

 京都駅前〜京都女子大間では、「中国BYD社製」の真っ赤な路線バス(プリンセスラインバス)が2015年2月より5台運行しています。電池は当然同社製「鉄オリビン系正極」のリチウムイオン電池のはずです。今春新型バスが2台増便になりました。魅力的な女子大生に囲まれてニヤニヤしながら試乗してみました。かなりモーター音が五月蠅く気になり、下車時に運転手に運転し易さについて尋ねると、30分待てば新型が来るから是非乗ってみて下さいと勧められ、帰路は新型に乗りました。運転手の自慢通りに本当に静かで、乗り心地も非常にスムーズで、女子高生が新型と喜んでいたのも合点が行きました。僅か2年で見違える程に改良出来る「中国BYD社」の開発力を目の当たりにし驚きました。京都のように常時渋滞している地区で、走行距離が決まっている路線バスには、EVバスは最適と思います。初期投資に税金を投入し普及させることは非常に有効な税金の使い道だと思いました。春の電気化学会で京都滞在中に是非このEVバスに試乗してみて下さい。
 京都市と言えば、「湯浅電池梶v入社時に鉛蓄電池の電池パックを「機械的に交換する」EVバスを運行していました。電池が寿命になった時の交換費用の予算が却下され継続できなくなったと聞いています。運行(放電)したバスが営業所に戻った時に搭載されている電池を、予め充電した電池と機械的取り換える方式「メカニカルチャージ方式」を採用していました。この方式は電気自動車普及の一手段として再評価されるべきと思います。この運用方法であれば、現行のリチウムイオン電池の低コスト化で十分満足できると思います。ただし、「機械的に交換する」ための車両改造などの技術・コストの面で実現出来ていないのかもしれません。川崎市がゴミ収集車で試行しているようで、結果が楽しみです。各自治体がごみ収集車、路線バスなどで「機械的に交換する方式」についての取り組みを進めれば良いと思っています。
 私が初めて間近にEVを見たのは、就活をしていた時です。電池研究者が希望でしたので、代表する電池メーカー2社と電池研究をしている総合電機メーカー2社を訪問しました。TS社では「TM氏」に電池研究室に入室させていただき、実験内容を説明していただきました。その後も「TM氏」には多くのことを教えていただきました。溶媒分解を避けた実験をするためには、負極にチタン酸を用いると良いと教えていただき、イオン液体の研究に役立たせました。SN社に伺うと、BB氏に階段下の質素な小部屋に案内され、バギーカーを見せていただきました。今も注目されている「空気/亜鉛電池」を搭載したEVです。最近になって、この「空気/亜鉛電池」をリチウムイオン電池の「生みの親NS氏」が開発したと聞き、不思議なご縁と驚きました。NS氏は相当苦労をされて開発したが、数点の越えられない壁が見付かり断念したと話されていました。現在の次世代電池開発プロジェクトでも取り上げられていますが、革新的な大発明があったのでしょうか?
 結局、総合電機メーカーでは電池研究を続けられると言う保証がなく、「湯浅電池梶vのHT所長のご高説を談話室で伺い、技術力の確かさ・研究に対する熱意に魅力を感じ入社しました。当時「ナトリウム/硫黄電池」搭載のEVをグランドで走らせた話も魅力的に感じました。いずれは、自分が開発した電池を搭載したEVでラリーに出場するという夢を見ていました。
 12月11日の中日新聞で、デニ・ムクウェゲ氏の「ノーベル賞」受賞演説が取り上げられていました。
 ・コバルトなど豊富な天然資源が、コンゴ(旧ザイール)の紛争と暴力、貧困の根本原因だ。
 ・電気自動車を運転するとき、スマートフォンを使うとき、それらがつくられた際の犠牲者に思いを巡らしてほしい。
 電池技術者がどこまで理解する必要があるかは解りませんが、重い言葉と受けています。

2)電池及びリチウムイオン電池の基礎:電解液劣化

 前回述べた指数関数的劣化の原因の大半が電解液の劣化なので、その原因たるSEI=固体電解質界面=の形成について、詳しく記載します。
 TVのリモコンなど家庭に昔から普及している乾電池は1.5Vです。自動車を運転する方ならご存知のスターターバッテリーは2V6直列12Vです。これらの電池には「水」が入っています。水の分解電圧は理論的に1.23Vと決まっており、1.23Vより高い電圧では「水」は分解し、水素と酸素が発生するはずで矛盾しています。ところが、水素過電圧、酸素過電圧と言う非常に都合が良い現象で、「水」の分解は実質的に防げており、電池として機能することが出来ています。水素過電圧、酸素過電圧については多くの研究がされており、諸説あるのですが、ここでは後々との繋がりもあり、電極の表面を保護膜が多い、その保護膜により電極の電子と「水」が直接接触できず、「水」の分解が抑制されていることにします。リチウムイオン電池ではどうなるのでしょうか?リチウムイオン電池の充電電圧は約4.2Vですが、全ての溶媒あるいは電解質塩は、2.5〜3.5Vで分解するはずなので、水の場合と同様に矛盾しています。リチウムイオン電池から電池分野に参入した方々は、有機溶媒は特殊でSEI、SEIと連呼しますが、大昔から理論分解電圧より高い電圧で電池を動作させることは、当たり前で大騒ぎするのはどうかと思います。
 電極を単に電解液に浸漬しただけでは何も起きません。外部電源から充電即ち電極を負の電位にすると、電解液あるいはPF6-のような陰イオンが電気化学反応により分解します。充電電流の一部は充電ではなく、分解に消費されることになります。この充電を「初充電」と名付け、次回からの充電とは区別して呼んでいます。当時ある方から「『化成』とはどういう意味か?」と質問され驚きました。即座に「『初充電』のことです。」と答えました。水系の電池でも最初の充電では充電電流の一部が充電とは異なる副反応に使われ、その後の充放電に適するように電極活物質を改質しています。電気「化」学反応が起き適切な活物質が形「成」されています。「初充電」と言う用語は、充電とは異なる反応が起きていることを明確に表していませんが、「化成」と言う用語は的確に現象を現しています。私は「化成」と言う用語を使いたいのですが、現状の流れに掉さすだけになりそうなので、このコラムでは以後「初充電」と言う用語を使います。


Fig.25 SEI(固体電解質界面)形成

 Fig.25はSEIが形成される状況を模式図で示しました。図のように充電に伴い、負極電位が下がると、電子と電解液との反応が起き、電解液の分解生成物(図中緑の五角形)が出来、それが負極活物質表面に付着し、表面全面を隙間なく覆います。電子が透過できる距離まではその反応が継続され、次々に表面に付着しSEIが形成されます。従って、SEIの厚さは電子が透過できる距離までです。そこより活物質表面から離れた位置には電子は届きませんから、電解液の分解は起きません。この距離は量子力学の領域で、私には理解できていないのですが、複数の専門家に聞いた所、室温であれば10nm程度(?)と伺いました。この厚みのSEI中に電解液が取り残されたり、浸み込んだりすれば、その電解液は直ちに分解しSEIを形成します。つまり、電子により分解された生成物からなり、これ以上は電気化学反応が起きない固体物質層と言うことになります。
 無論、カーボン負極への脱挿入反応が起きるのですから、脱溶媒したリチウムイオンは通過できます。溶媒和リチウムイオンはSEIの電解液側の表面で脱溶媒し、SEI内では脱溶媒した単体イオンの状態で活物質表面に移動し、カーボン負極に挿入すると考えています。溶媒和した溶媒は、フリーな状態でいる溶媒とは異なり、電気化学反応が起きにくいと言う説も学会発表されていますが、SEI内部を溶媒和した状態で移動し、電極活物質挿入時に脱溶媒すると仮定すると、残された溶媒は直ちに電子と反応し、充電するリチウムイオン量と同等以上の溶媒が分解することになり、電気量から考えても明らかに無理があると考えています。Fig.25のように、分解生成物(緑の五角形)が負極活物質表面に隙間なく並ぶことで、その後の電解液分解は起こらなくなり、安定に充放電機構が成立します。リチウムオン電池はこの機構により、優れた電池特性を実現できることになりました。不思議なことにプロピレンカーボネート(PC)だけでは難しく、エチレンカーボネート(EC)が必ず必要になると言うことも明らかにされています。さらに、「UB社YT氏」がビニレンカーボネート(VC)を電解液に添加することで、簡単に優れたSEIが形成できると言う機能性電解液の概念を提案しました。

3)次世代EV用電池:テスラーと中国の電池開発事情



Fig.26 12月度の雑誌・新聞記事の紹介

 12月度の雑誌・新聞記事について紹介及び私の所見を整理しました(Fig.26)。先月同様に電池着脱・交換充電=メカニカルチャージ=方式が取り上げられています。電池としての技術的ハードルは低いので、用途開発をすれば実現性は高いと思います。これらの情報を参考にして、次世代電池の各社開発動向及び私の所見を記述していますが、怪しい話と思われたら飛ばして下さい。
 「テスラー社」は、EV製造のベンチャー企業で、パナソニックの電池技術者が設立に参画し、パナソニック製民生用18650電池、約7,000本を直並列に接続しEV用電池パックを実現しました。EV専用電池が理不尽に高価であった時に、200円/本×7,000本=1,400千円の電池費用です。高級EVと言う新しいコンセプトを提案し、カリフォルニア州1990年「ZEV法」のクレジット転売の恩恵を得て、営業的には大成功しています。しかし、販売したEVが事故を起こし火災を発生した動画を見ると、非常に激しく炎上していることが気になります。交通事故が原因で電池は発火したが、運転者は十分に退避することが出来たと「テスラー社」は抗弁していますが、最近の事故例では発火後直ぐに炎上してしまった事故例もあるように聞いています。リチウムイオン電池は正極でのニッケル比率が増えると発火開始温度が低くなり、発火エネルギーも大きくなります。「パナソニック」が供給している「テスラー社」用電池はニッケル比率が高く、元々危なさを感じています。また、多数の電池を直並列に接続すると言う方式は、各セルの制御が非常に難しいはずで、私は絶対に推奨しません。
 「パナソニック」からの輸入ではなく自社生産することに拘り、大規模工場「ギガファクトリ」を立ち上げましたが、計画より2年遅れ、最近やっと生産ができるようになったようです。生産計画の大幅な遅れから経営が危うくなってきているとの噂もあります。「ギガファクトリ」の立ち上げ遅れは「溶接ロボット」の不具合が原因と聞いていましたが、機械的不具合にしては改善に時間がかかり過ぎると不思議に思っていました。私の独断の推定ですが、2018年1月に「旭化成梶vが「セパレータ」の販売計画を発表し、国内及び韓国で生産する「ハイポア」は現行6億1千万m2を7億m2に、米国子会社製「セルガード」は現行2億5千万m2を4億m2に増産する計画です。「ハイポア」は15%増産に対し、「セルガード」は160%増産になります。中国EVメーカー向けと思えますが、中国では現地生産が始まっており、むしろ米国国内向け、つまりテスラー社「ギガファクトリ」向けではないかと疑っております。しかし、パナソニックは「セルガード」を使っていないはずで、明らかに矛盾しています。「ハイポア」から「セルガード」に変更したとすれば、電池の内部を変更したことになり、電池単体の完成に2年程度かかることは当然です。セパレータの変更は、充放電特性よりも安全性に大きく影響するので、実績のないセパレータを米国現地技術者の判断で採用したとすれば、不幸な事故が起きるのではないかと心配しています。11月19日の日刊工業新聞にパナソニックの研究開発と生産技術の機能及び技術者を「ギガファクトリ」に移管すると言う記事が出ていました。量産だけでなく電池自体に関する技術支援が必要と判断したからではないでしょうか?
 1月16日中日新聞で、トヨタ自動車(株)の子会社「プライムアアースEVエナジー(PEVE)社」中国工場でのHEV用「ニッケル水素電池(NiMH)電池」を、現状の3倍の増産にすると言う発表がありました。HEV用「NiMH電池」は「PEVE社」、つまりトヨタ自動車(株)が世界唯一ですから、市場が伸びれば絶対に儲けることが出来るはずです。本田技研工業(株)と(株)GSユアサとの合弁会社「ブルーエナジー社」も、「ハードカーボン負極」のリチウムイオン電池と言う特徴を有しているので、売れれば儲かるはずです。しかし、CMCリサーチ社発行の「中国のEV市場動向」を参考にすると、現状の中国市場でHEVが受け入れられるとは思えません。トヨタ自動車(株)もいずれはEVになるとしても、現状のHEV販売実績の伸びを支え、トヨタ自動車(株)の「車」としての顧客確保を目的としての先行投資ではないでしょうか?中国市場で主流になるのはHEVではなくEVです。
 中国政府は、安全性が高く豊富な埋蔵量を誇る「鉄オリビン系正極リチウムイオン電池」に開発の重点を置き、日韓が先行している「三元系正極」リチウムイオン電池を排除する政策を取り、「BYD社」などの国内電池メーカーの支援を行ってきました。しかし、「エネルギー密度」と言う客観的で、公平で、絶対的な比較基準には勝てず、現在では中国国内メーカーも積極的に「三元系正極」電池に開発の重点を移して製品化を進めています。また、中国政府は国内に工場を設置するなどの条件を満たした企業を「規範条件登録制=ホワイトリスト=」として、EV向け補助金での手厚い優遇措置を講じています。現状では、この「ホワイトリスト」には約57社が登録され、日韓企業は排除されています。中国は「電池立国」を目指しています。最近の電池生産成長率を見るとこの政策は功を奏しており、中国電池産業の躍進を支えています。2016年からこの補助政策は縮小され、2020年には打ち切られると言われています。この間に電池メーカーの淘汰を進めています。2020年以降は中国国内に工場を建設した日韓の有力電池メーカーとの競争が始まり、中小の現地メーカーは苦しい戦いを強いられることになると思います。ただし、中国政府は突然に政策を変更することが度々あり、国内メーカー支援のために補助政策が延長される可能性もあります。その場合には進出した日韓の電池メーカーが苦戦を強いられることになります。
 2018年から施工されるはずであった「NEV(New・Energy・Vehicle)規制法」は2019年まで延期しました。既に2019年になっていますが、今の所施行されたかどうか判りません。米国カリフォルニア州「ZEV(Zero・Emission・Vehicle)規制法」を参考にした規制で、自動車生産台数の内8%のEV・PHEV・FCVを生産し、クレジットを獲得しなければならないと言う厳しい規制で,現状ではPHEVは2クレジット、EVは3〜5クレジットで、日本メーカーが独占的地位を確保しているHEVは認められていません。2016年実績は、EV140千台、PHEV110千台、HEV30千台、EV大型190千台合計470千台で、2020年にはEV360千台、PHEV220千台、HEV40千台、EV大型400千台合計1,020千台と予測されています。このようにガソリン車生産に対して厳しい規制を使ってEV普及を目指す理由は、@大気汚染防止 ACO2排出量抑制で、確かに北京・上海などの大都市圏では深刻な大気汚染に見舞われているし、発電における化石燃料比率は65%程度と高く、これら環境問題の解決にEV普及が有効な方策であることは間違いありません。しかし、環境問題解決であれば、排出ガス規制などの優先されるべき方策がありますが、EV普及を最優先している本当の理由は、自動車を「輸出産業」にすることにあると考えます。
 太陽電池技術者から聞いた話ですが、中国政府は環境問題を前面に打ち出して自然エネルギーである太陽電池の普及を熱心に進め、日米欧の太陽電池メーカーを誘致し、技術移転が完了した後は国内メーカーの育成を計り、国内需要をはるかに上回る設備投資を行い生産過剰になると一斉に輸出を開始し、世界中で日米欧の太陽電池メーカーとのコスト競争に勝利し、瞬く間に世界一の太陽電池生産国となって行ったそうです。リチウムイオン電池もその二の舞になるような気がします。
 「電池立国」には成功しつつある中国は、「EV立国」も目指しています。ガソリン車では日欧米の実績のある大手自動車メーカーの製品技術・量産技術に追い付くにはかなりの時間的・技術的にギャップあるが、EVの場合には、日欧米の大手自動車メーカーも大した実績はないし、基幹技術の「電池」を国内調達できれば、十分に対抗できる条件が揃っています。先程のxEVの販売予測とは別に、中国EVメーカー各社の2020年設備計画を単純に合算すると5,400千台となり、国内市場の5倍の設備を保有することになり、この過剰設備分は輸出を計画していると考えるべきでしょう。「本コラムはじめに」に記載したように、既に「BYD社大型バス」は京都市内を定期運行し、徐々に実績は出て来ています。「CATL社」のような中国大手電池メーカーの製品技術力は既に追い付いているので、量産技術・設備が整った段階で、電池だけでなくEVも一気に世界展開し、輸出産業になると予測します。この時に日本メーカーは競争することが出来るのでしょうか?

4)新規な電池理論:特許5062989号、特許513425号

 前回クラスター論を全面否定しましたが、クラレ社はまだお読みなっていないようで、残念ながら反論は来ていません。いずれ議論をすることになると思い楽しみにしています。
 ファインセラミックスセンター(JFCC)でSiC表面分解法カーボンナノチューブ(CNT)の機械的応用プロジェクトを担当している時に、発明者楠教授からSiC表面分解法CNTは最上部が塞がった状態で成長する、また簡単な操作で最上部(キャップ)を外すことができると伺いました。Fig.27のように、CNTを電解液に浸漬すれば、内部に電解液が入り込み、初充電時にSEIが成長して電池には使えないと思いました。しかし、キャップを取らずに電解液に浸漬すると、電気2重層キャパシタ測定の結果からCNT内部には電解液は進入できないことは判明していましたので、リチウムイオンと、電解液中の溶媒分子あるいは電解質塩分子とは大きさが違うので、その大きさの違いを選別して、リチウムイオンだけをCNT内部に入れれば、内部で安定に存在し電極として成立するのではないかと考えました。CNTのキャップに孔を開け、その孔径が、リチウムイオンが通過することが出来るようにリチウムイオンより大きく、溶媒分子・溶質塩分子が通過することが出来ないように同分子より小さければ、丁度万華鏡を覗いた時のキラキラのように、リチウムイオンだけがCNT内部でキラキラと存在する光景になるのではないかと考えました(Fig.28)。前回解説したように「両持ち論」と「クラスター論」とは全く相容れない状態、「片持ち論」が成立すると考え、特許5062989号を出願しました。


Fig.27 開放型CNT負極模式図


Fig.28 先端孔付きCNT負極模式図

 CNTに該当する孔を開けると言う考えは正しかったのですが、孔に一つずつ出入りするのでは、速度的・量的に電池としては全く不足どころか話にならないと気が付きました。Fig.29に図示するように、孔を複数開ける、より効果的にはリチウムイオンは通過できるが、溶媒あるいは溶質が入らないサイズの分子篩膜で覆うと言う特許513425号を追加出願しました。出願時に、固体電解質のイオン伝導度が実用レベルに向上してきたと言う情報が話題になり始めており、固体電解質を明細書に記述することを意識し過ぎて、本来の分子篩の役割が明確に書かれていない特許になってしまい、非常に後悔しています。なお、孔径つまり篩目はFig.30の表のように水素分離膜を基準にすれば良いと推定できました。


Fig.29 篩膜付きCNT負極模式図


Fig.30 篩膜付きCNT負極模式図

 ・CNTのような多孔性カーボンの壁にリチウムイオン(0.15nm)は通過できるが、プロピレンカーボネートのような溶媒分子は(0.6nm〜)は通過できないサイズの微孔を複数個設ける。
 ・微孔を篩膜で代用する。

 特許を2件出願し、「新規な電池理論」と名付けました。

5)昔話 : NM社金属リチウム電池とデンドライトショート

 この章は私の「昔話」で技術的には価値のない話ですので、リチウムイオン2次電池誕生頃の「逸話」を知りたい方は、楽しんでお読み下さい。
 NM社の「金属リチウム電池」は予想通り発火事故を起こしました。裏社会の奥方の箪笥の中で発火し、高級な和服を燃やしてしまったという騒ぎも聞きました。直ぐに製造中止にすれば良かったのですが、カナダ技術者の技術力のなさと対話不足、NT社、MB社の社会的対面があり、相当数を出荷してしまいました。この間「NTT社YK氏」を中心に技術的な実験、裏付け調査が行われました。私自身は余り会議には出なかったのですが、関連資料は全て目を通していました。YK氏グループの基本技術・解析は素晴らしく非常に勉強になりました。当時関東には、電池の電気化学をしている大学が少なかったので、「NTT学校」と言われるようになり、YK氏を先導に現在大活躍されている大学教授(GM大TS教授、TG大SI教授、TK大AI教授)を搬出しています。私は今も個人的に相談に乗っていただいています(感謝!)。
 この間、OT氏は電気回路技術者として責任を感じ、電気制御でデンドライトショートを止めようと奮闘されました。怪しげな情報を基に充電実験を繰り返し、その度に意見を求められました。金属負極のデンドライトショートを外部でコントロールできる訳がないので、諦めるように何度も進言しましたが、いつも怒鳴り返されました。最終的にはオシロスコープ計測により、OT氏自身が自分の目で電圧低下を観測され納得されました。その時に「電池技術者はいつも都合の悪いことは隠す」と嘆いていたのを思い出します。私も十分な説明を怠っていたと、思い出すたびに反省をしています。パルス充電、デンドライトショートのスパイクノイズ等、電気回路技術者との対話は、口説いと思われても充分過ぎることはありません。納入品クレームの最終的な政治決着には関与しませんでしたが、ユアサ側の責任者としてIB部長の苦労は大変なものでした。技術者が回りを「忖度」し過ぎると結果的に問題は大きくなるということを痛感しました。
 その後、NM社はリチウム金属負極電池の生産を断念しました。折角の電池開発・生産環境があるので、電池開発を継続することになり、当時活発になっていたリチウムイオン電池の開発に移行しました。正極にはコバルト系とマンガン系の2種を並行して開発を進めていました。湯浅電池(株)は開発テーマの絞り込みもあり、NM社からは撤退し、その代わりにNECが出資、参画することになりました。コバルト系はグッドイナフ特許に抵触することが明確でしたが、マンガン系は抵触しない可能性があると言う理由で、NEC技術者はマンガン系を選択したと聞いています。その後、民生用でのエネルギー密度競争が激しくなるにつれても、NECグループはマンガン系を継続し、京セラの携帯電話に採用され、さらに日産自動車の初代EV「リーフ」に搭載されました。マンガン系は三菱自動車の「iミーヴ」にも搭載され、原料コスト、安全性の点では優れた電池です。
 なお、OT氏はスパイクショートについて、その後も研究を続け、一部の充放電試験装置ではこのスパイクショートが観測されないことに気付きました。電気回路の素人である私なりの解釈では、数店の計測値を平均化して、1点のデータとして出力するから、その間に一度位スパイクショートによる瞬時電圧降下があっても、出力されたデータは平均化され僅かな電圧低下としてしか記録されず、検出できないと言うことでした。OT氏からこの現象と、東洋システム(株)だけがこの点を考慮した設計をしているとの連絡を受け、数社の充放電試験装置メーカーの技術者を呼び確認しました。NT社の営業マン・技術者の説明が非常に不真面目で、私の部署での調達は禁じました。次世代電池研究で金属負極、デンドライトが研究課題になる場合には、充放電装置の平均化の特性については十分考慮して実験を進める必要があります。素人考えですが、デンドライトショートは不規則で電圧降下時間も秒に近いが、一般のノイズ、例えば商用電源ノイズ・スイッチングノイズなどは周期性があり、ms振幅なので、特定周波数のノイズは平均化し、不規則なノイズは平均化せずに出力するような電気回路制御ができれば、デンドライトショートの検出には適していると思います。

6)おわりに

 メカニカルチャージ方式についてはもっと注目されるべきと思っています。
 リチウムイオン電池の劣化の主要因は電解液劣化と考えています。その前段としてSEI形成について模式図で解析しました。次回はSEIによる電解液劣化について図説します。テスラー社の動向について大胆に私の推定を記述しました。中国のEV事情を調査会社のデータを基に解説しました。次回は現行リチウムイオン電池の改良について解説します。「新規な電池理論」の基本特許2件の出願経緯を模式図で紹介しました。次回はNEDOプロジェクト応募について説明します。NM社金属負極電池クレームについて経過を記載しました。次回はOT氏から紹介された運命的出会いについて思い出話を記述します。



第4回(2019/1/9)



1)はじめに:名古屋めし「お雑煮、どて」

 新年おめでとうございます。古里のお雑煮を楽しまれたと思います。名古屋のお雑煮も変わっています。行きつけの床屋のご主人は「名古屋雑煮は貧乏臭い」と言います。反対に、お節料理でもたれた胃に優しい素晴らしいお雑煮だと、自慢をする方もいます。
 「餅菜」・「角餅」・「かつおぶし」だけの実にシンプルなお雑煮です。「餅菜」が曲者で、年末になるとスーパーで餅菜(小松菜)と書かれて売られています。前回コラムで紹介した所、JFCCでカーボンナノチューブの電気2重層キャパシタの研究をし、現在は和太鼓を趣味に農業をしているKT氏から、「餅菜」と小松菜とは種から違い、お雑煮向けに大切に栽培しているとの情報提供がありました。今回はKT氏のご厚意で本物の「餅菜」を分けていただきました。奥様のご指導を受け、自分で「名古屋雑煮」を作ってみました。かつおだしの鍋底に「餅菜」千切って敷き詰め、餅を乗せ、かつおぶしを掛けて弱火で煮込みます。見張っていないと餅が溶けてしまい酷いことになります。化学実験と同じです。お椀に移してからたっぷりかつおぶしを振掛けて食べました。味付けはともかく、「餅菜」は心地良い甘みがあり、さっぱりしていて、胃に優しいことは確かです。「餅菜」を絡めることで、お年寄りが餅を咽に詰まらせることを防げる利点もあるそうです。しかし、具沢山のお雑煮に慣れている私には、少し物足りませんでした。
 若い頃に出張で名古屋地区に来て、昼食を食べ損なったので駅前の喫茶店に飛び込みスパゲッティを注文しました。ステーキ用鉄皿の上に「ナポリタン」が盛り付けられ、麺の下に薄く卵焼きが敷き詰められていました。ケチャップ味のスパゲッティに焦げ目のついた卵焼きを絡めて食べると、絶妙なハーモニーでした。二つの味を重ね合わせることも名古屋めしの特徴の一つです。なお、当地の喫茶店では「ナポリタン」は通用せず、「イタリアンですね」と念を押されます。(笑)
 名古屋めしの代表が岡崎八丁味噌を基礎にした味噌料理です。味噌カツ、どて、みそうどん、みそおでんなど、甘く味付けした赤味噌味です。名古屋駅(名駅と言います)近くに「NK屋」という「どて」専門店があります。焼き鳥・串カツが甘い赤味噌鍋で煮込まれています。順番を待って、木製の長机・丸椅子にぎゅうぎゅう詰めで座り、店員の顔色を伺いながら「どて」とお酒を注文します。当店の「おでん」は本場の「名古屋おでん」で、赤味噌鍋で煮込んであります。14年前に行った時、たまたま隣り合わせた方が河村衆議院議員(現名古屋市長)で、気さくに雑談を交わしました。
 隣接して数件の「どて」の店がありますが、不思議なことにこの店だけが混んでいます。製品品質、価格に甲乙があるとも思われないのに、ガラガラの店と待っても座れない店が並んで成立している光景は、ブランド力の差と言えるのでしょう。今は「中国製」と「日本製」とでは、知名度に差があります。「どて」は人間の感性が関与するから簡単にはその位置関係は変わりませんが、一般の工業製品ではその立ち位置は短期間で埋められてしまうような気がします。電池では「日本製」は既に都市伝説かも知れません!

2)電池及びリチウムイオン電池の概説:サイクル試験

 前回くどくどと書いたことを整理します。
   ・ 直流通電開始直後・遮断直後の「瞬時電圧変化」と、1kHz交流測定では、電池開発・設計に重要な反応過電圧は
     測定できていない。
   ・ 測定している電圧はOCV・CCV・TRVの3種で、何を測定しているかを考える必要がある。
       OCV=開路電圧、 CCV=閉路電圧、 TRV=回復過渡電圧
   ・ 電極内SOCが不均一になった場合にどのSOC電圧が測定されるのか?平均か?
 この疑問に対し、ある電池研究者から、
 「2種の金属を張り合わせて対極間の電圧を測る、例えば銅集電体の一部にリチウム金属を貼り付けると、リチウム金属の電圧が測定され、リチウム金属が解けて無くなると、当然銅(酸素発生)の電圧が出る。」との助言をいただきました。この助言を展開すれば、電極内でSOC分布に差が出来た場合、例えば30%と70%の部分が存在した場合には、対極から一番離れた電圧、つまりSOC70%の電圧が測定されることになります。電位の異なる領域が同一電極内にあるのですから、時間に連れてSOC70%→50%に放電、SOC30%→50%に充電され、最終的には活物質全体が均一になった時のSOC電圧になります。この間はTRVが計測されています。従って、電極内の充電状態SOCが不均一であったり、電解液濃度分布ができているような場合には、電圧だけで直接に正確にSOCを測定することは出来ません。残量計にはこれらの不均一情報を読み込む必要があります。簡単とは思えませんが・・・・・。
 なお、電解液濃度不均一性の計測方法については名案があり、特許出願を予定しています。どなたかご協力いただけませんか?


 サイクル寿命試験(充放電試験)は1C程度で同じ電気量を充電放電で繰り返す試験が行われます。n回目容量
Qnは充放電効率をaとすると、前回容量Qn-1との積になり、初期容量Qに対してはaのn乗になり、Fig.22のように減少します。
Qn= Qn-1*a=Q*a*a*a・・・・・・・・・=Q*an
 Fig.22は単純に算数として上式を線で描いただけです。充放電効率99.9%つまり毎サイクル0.1%の劣化があるとすると、500サイクルで容量60%になります。装置の精度は片寄りがある、つまりプラス側に振れると毎回プラス側に振れる癖があり、それが蓄積されます。0.1%の装置精度の場合には、装置が原因でこの変化が起きていることになります。データ解析の際に注意が必要です。少なくともサイクル試験中には測定装置・チャネルは変えない方が、余計な不確定さ持ち込まずに済みます。この試験方法では、充電から放電に切り替わる時の電圧、休止を挟む場合には、通電開始直前のできるだけOCVに近い電圧は、データ解析時に非常に重要な意味を持っています。充放電装置では自動的に記録していますが、自分の目で必ず確認する習慣を身に着けることが大切です。
 1000サイクルで装置誤差を無視するためには0.01%の精度でも不十分と言うことになり、この精度を主題にしている研究も見受けられますが、電池の立場からはナンセンスです。装置精度の影響を受けないためには、装置精度に見合うサイクル数で定電圧充電を挟むべきです。この点、放電を定電流定時間、例えば1C40分、充電を定電流(1C)定電圧(4.2V)でする方法、いわゆる定電流定電圧充電、があります。この場合には終止電流の決定に悩まされます。1/10Cでは大き過ぎ、1/100では中々終止電圧に達しなくなり試験時間が長くなる、あるいは副反応が起きてしまうなどの弊害もあるので、供試電池・使用条件を踏まえて経験的に決定します。この試験方法では各回効率が累積で反映されることはないが、試験時間は定電流時間・定電圧時間に依存するので一定になりません。定電流充電時間、定電圧充電時間はサイクル劣化を評価する時に重要なデータです。
 最適な試験は、定電流充放電を繰り返し、一定期間後に、例えば100サイクル毎に定電流定電圧充電を挟ことで、満充電状態を意図的に作る方法が良いと思います。この時に各率放電試験をすると、劣化原因把握に有用な情報が得られます。
 なお、参照電極を用いて充放電試験をすると、負極・正極各々データが得られ、対極を大過剰にする手法も可能なので、試験電極の特性を把握し易いのですが、自信を持ってお薦め出来る参照電極が見当たらないので、データ解析に自信がない場合には、寿命試験では諦めた方が無難です。

3)次世代EV用電池:GSユアサ・パナソニックのEV用電池開発動向


 11月度の雑誌・新聞記事について紹介および私の所見を整理しました(Fig.23)。11月27〜29日電池討論会での研究発表がマスメディアでも取り上げられたようです。電池交換=メカニカルチャージ=方式の実証試験が行われています。技術的なハードルは低いので、用途開発をすれば実現性は高いと思います。呼び水として、初期投資に税金投入は有意義と思います。これらの情報を加味して次世代電池の各社開発動向について記載していますが、公知の記事から要約をしているだけで、真贋も確認できていないのですが、一応私の所見を加えました。危ない話と思われたら飛ばして下さい。
 私が勤務していた「旧湯浅電池」と鉛蓄電池の先駆者「旧日本電池」とが合併した「(株)GSユアサ」は、リチウムイオン電池では後塵を拝し、さらに営業戦略の間違いもあり民生用電池は断念しました。しかし、自動車スターター用鉛バッテリーでの自動車メーカーとの密接な関係は揺ぎ無く、「旧日本電池」は三菱自動車(株)と「リチウムエナジージャパン社」、旧ユアサは本田技研工業(株)と「ブルーエナジー社」を合弁で設立し、EV市場で一定の地位を築きました。
 「リチウムエナジージャパン社」は三菱自動車(株)向けにEV・PEV用電池を開発し量産設備を用意しましたが、ラインの生産量には余裕がありました。三菱商事(株)の仲立ちで世界一の電装品メーカー「ボッシュ社」と合弁会社「リチウムエナジー&パワー社」を設立しました。欧州市場での販売ルートを確保しましたが、欧州はEV化が遅れており物量確保に苦戦していました。さらに、「ボッシュ社」は車載電池を自社生産するとして事業判断をした結果、合弁は得策ではないと判断し、合弁解消を決断しました。裏返して考えると、GSユアサ製の技術・製品が韓国・中国の技術・製品に対し、圧倒的な優位性がなかったからとも言えると思います。GSユアサも韓国・中国の電池メーカーに対抗すべく、材料調達からのコストダウンをしていますが、価格競争を容認した時点で、その先の努力は徒労に終わることは明らかです。「ボッシュ社」との合弁が無くなったことで、技術流出は避けられましたが、世界市場への営業窓口が三菱商事だけになり、今後は非常に苦しい展開になると思います。
 一方、「ブルーエナジー社」は本田HEV用電池の開発に成功し量産しています。当初計画通りとは行かないまでも、一定の物量を確保し、着々と納入実績を重ねています。今後は徐々に立ち上がって来る欧州HEV市場に期待がかかっています。負極にハードカーボンという寿命末まで形状変化が非常に少ない活物質材料を採用している点で、他社とは差別化できます。ハードカーボンはソニー社が最初に製品化したリチウムイオン電池負極に採用されていましたが、グラファイトに比しエネルギー密度の点で見劣りするので民生用では普及しませんでした。ハードカーボンは高出力・長寿命と言うHEV用としては優れた特性有しており、さらに韓国・中国はHEV用には不熱心なので、価格競争から逃れられる可能性があり、今後も一定の市場を確保できると思います。しかし、HEVは法規制ではEVとして認められないので、今後はエネルギー密度の不利を克服してEV用を目指すべきと考えています。
 なお、別項目で解説している「新規な電池理論」では、ハードカーボン等の多孔性カーボンは重量で3倍、体積で2倍の高容量化が期待できる有望な材料であることを、計算化学で理論的に証明しました。HEV用での高い評価を受けている間にハードカーボンの高容量化に取り組めば勝機があると思います。
 「パナソニック」には、住之江を主力とする「旧パナソニックグループ」と淡路島を主力とする「旧サンヨーグループ」があり、各々独自に事業展開をしています。「旧パナソニックグループ」はテスラー社に電池供給をしており、国内最大のEV用電池メーカーです。テスラー社立ち上げの電池技術者は「旧パナソニックグループ」で電池開発を経験しており、電池技術を十分に理解した上で、EVに搭載しています。私の個人的見解では、ニッケル系正極は一般的な3元系正極よりはるかに安全性が低く、私が大好きな「釘刺し試験」は合格できないと思います。民生用サイズ18650電池約7,000本を直列・並列に使用していますが、その制御は決して簡単ではなく、特に並列使用は非常に難しく、危険な状態で寿命になるような気がします。また、最近パナソニックの電池技術者がテスラーのギガファクトリィに派遣されることになったようで、パナソニック本体の技術低下は免れないと思います。別途記載しますが、ノートパソコンでは考えられないようなクレームを度々出しており、足元を見つめなくて大丈夫なのかと心配しています。
 「旧サンヨーグループ」は携帯電話用角型電池で世界一になり一世を風靡しましたが、価格勝負に負け、今ではサムソンSDI・LGCに抜かれました。さらに中国ATL社にも数では負けたようです。民生用の小型電池では、NiCd時代からの長い間の豊かな実績がありますが、EV用のような大型電池では経験が足りないように思います。トヨタ自動車、本田技研工業などに納入実績は出始めていますが、第1ベンダーではない、LGC電池と互換性があることが弱点で、近々LGCに代替され、いずれは中国LGC工場に凌駕され、民生用と全く同じ経過をたどると思います。今は「ドッグイヤー」と言われていますから、その逆転までの時間は従来に比しはるかに早いはずです。出来るだけ早くこのことに気付き電池高容量化に戦略を変えた方が良いと思います。

4)新規な電池理論:クラスター論=多孔性カーボン中のリチウムイオン

 片持ち論に関し、もう一つ障害となる理論があります。ハードカーボン・ソフトカーボンと呼ばれるカーボンはグラファイト層間のような明確な間隙はないが、空隙つまり多孔性にすることが出来ます。その空隙にリチウムイオンを挿入脱離して負極として出来たのが、ソニー鰍ェ最初に商品化したリチウムイオン2次電池でした。この空隙に貯蔵されている状態を核磁気共鳴測定などで調査し、空隙には金属ではない複数個のリチウムイオンがイオンとして存在し、その中央に集合して安定に貯蔵されているという「クラスター論」が提唱され、産総研、ハードカーボンメーカーのクレハなどの発表により「正しい」と考えられています。この「クラスター論」は「壁」に沿って存在するという「片持ち論」とは正反対で、私に立ちはだかる大きな「壁」となりました。不精ですから元論文は調べていません。後述するNEDO補助金獲得に関してもこの理論との相違を説明することに大変苦労しました。
 「クラスター」については、学生時代に「水のクラスター」をかなり調べたことがあり、確かに液体中では水は単分子で存在するより、集合して存在する方が安定で、中心に向かって集合するので、「クラスター=集合=」という表現が相応しいと理解していました。また、遠赤外線加熱の効果を調べた時にも、怪しげな論文でしたが、「水のクラスター」については一定の知識は得ていました。



 しかしながら、水は中性に対し、リチウムイオンは「プラス」に荷電しています。「プラス」に荷電した複数個のイオンが反発することなく、団子のように集まって安定に存在することは出来ないのではないかと考えました。「プラス」同士のイオンが集まれば、電荷を共有、つまり0価の金属となって存在する方が安定のはずで、結晶となった金属は空隙の中ではなく、空隙の外で結晶として存在する方が自然であろうと考えました。(Fig.24)反発し合ったリチウムイオンはお互い遠のき、逆に壁に引き付けられると考える方が正しいと考え「片持ち論」が信念になって行きました。中性でなく「プラス」に荷電したイオン同士が、反発することなく集まってクラスターになるのは「変である」と言う初歩的な疑問をどのように解決しているのかが不思議で仕方がありません。
 今でもクレハなどから「クラスター論」が大々的に吹聴されていますが、私共は計算化学で「クラスター論」は完全否定しました。ここまでを整理すると、FIG.25のようになり、「片持ち論」が構築できました。



5)昔話:太陽電池システムとOT氏との出会い

 この項は私の「昔話」で技術的には価値のない話ですから、技術情報を得たい方は飛ばして下さい。リチウムイオン2次電池誕生頃の「逸話」を知りたい方は、難しい話はありませんので、楽しんでお読み下さい。
 1989年湯浅電池時代に、大切な顧客の商社MB社から特注依頼があり、IB部長の命令で私が任されました。担当の商社マン「ID氏」は、風貌は地味でしたが、頭脳明晰で鋭いという印象でした。区の承認が取れて東京下町JR駅前に地区の案内図を「夜間点灯式案内板」として設置するという企画でした。昼間に太陽電池で発電し、「小型制御弁式蓄電池(当時は陰極吸収式と呼ばれていた)」に蓄電し、夜間にLEDを点灯すると言うことでした。昼間発電充電・夜間放電方式は珍しくなく何の問題もないように思えますが、太陽電池の裏面に設けた箱に電池を収納するので、環境温度が「50℃」を超えると推定できました。当時の陰極吸収式鉛蓄電池は高温での「正極板異常成長(グロースと呼ぶ)」を解決できていず、「期待寿命(注5)」が提示できないと言うことになりました。ID氏から制御回路の設計者として元SN社「OT氏」を紹介されました。OT氏は部屋のホワイトボードに回路を描き始めました。電気回路の素人にも解り易く、手早く描く「職人業」には驚きました。高温では充電しないから大丈夫であるとの主旨でした。グロースは充電中に限らず起こるのですが、サイクル使用では起こりにくいと言うことは解っていましたし、最終的に寿命保証はしなくても良いとの合意を得て受注しました。打ち合わせ中、太陽電池は発電量に制限があるから過充電保護はいらないのではないかと提案すると、ID氏・OT氏直ぐに理解し、その理解力の速さに驚きました。結局、自動車用充電器での補充電を警戒して過充電回路は組み込まれました。3人で話をしていると、飛躍的な意見が飛び交って充実した時間を過ごせ、勉強になりました。
 「アルミ筐体」で洒落た案内板をデザイン設計したDC社KS氏を、KS氏がインテリアをデザインした居酒屋「岡永倶楽部」で紹介されました。「岡永倶楽部」は「日本名門酒会」のアンテナショップで全国の銘酒と洒落た肴がお値打ちで用意され、日本酒好きのセレブにはお薦めのお店です。店長MK氏は年に1〜2回しか行けないのに今でも親切にしてくれます。ある日「岡永倶楽部」で会食をしていた時に、OT氏がアパートを探していると言う話をされ、その場で大学の先輩で、該当地区で不動産業をしているNG氏に電話を入れ、アパート探しを依頼しました。「その場で直ぐに対応し、解決するとは大した者だ!」と誉められ、その後信頼されるようになりました。<閑話休題>
 翌年調査に行くと、40℃炎天下にもかかわらず筐体を触ると明らかにひんやりしていました。この天候下では50℃以上で触れないと予想していたので驚きました。
 2年前に「アルミ形材メーカー」HK社から、岐阜県多治見の街燈がなく深夜には真っ暗になる新興住宅地で、玄関に太陽電池式「玄関前モニュメント」を設置するという企画が持ち込まれました。新婚向け戸建ては両親が購入費用を支払うが、実際に住む新婚所帯は電気代を節約して玄関燈を着けないので、家庭電力を使わずに太陽電池で点燈し街燈代わりにする企画でした。道路に街頭が設置されるまでの数年持てば良いとのことで、シャープに協力を求め、HK社に納入しました(特開1989−134492号)。この「玄関前モニュメント」の件を思い出し確かめに行きました。やはり「玄関前モニュメント」は炎天下でも熱くなく触れました。共通点は「アルミ筐体」と言うことです。その後確認実験はしていないのですが、鉄板筐体と違い「アルミ筐体」の場合には地面への設置が適当であれば、地面に熱が逃げ、筐体温度が上がらないと推定しました。太陽電池の買い取り制度との関連から、自宅消費型の蓄電池設置が考えられますが、その際に電池寿命は電気料金のトータルコストに反映しますから、是非「アルミ筐体」を検討すると良いと思います。
 当時、ユアサの重要顧客のNTT社が開発した携帯電話に、前述MB社とカナダ自治省(?)との合弁会社「ME社」から電池を輸入し搭載すると言う企画があり、技術サポートとしてユアサに資本参加を要請されていました。「リチウム金属電池」と聞き、これはだめと思っていましたが、MB社とNTT社からの要請ですから無下に断るわけにいかず、IB部長は困って、NM社のキーマンは前述のOT氏だから、その本音を聞き出してくれと依頼されました。新橋にあったユアサの7階会議室で、MB社ID氏・NM社OT氏と密談をしました。OT氏が早速事情・背景説明を始め、MB社対策はID氏、ユアサ対策は私が担当することになり、その旨をIB部長に報告をしました。その後、IB部長は社内調整をし、ユアサはNM社に出資することになりました。

 注5)期待寿命: 正式な電池用語ではないが良く使われます。温度などによる加速試験で得られた結果から
           換算・推定して寿命を予測します。保証ではありません。電池は「生物」ですから、
           この用語のような人間臭い表現があります。


6)昔話:太陽電池システムとOT氏との出会い

 11月27〜29日電池討論会が開催されました。学会発表は大学院生の研究成果発表の場でもあるので、大学の発表が玉石混交になるのは仕方がないと思います。若い方が電池討論会のような場で訓練を積むのは非常に良いことで、先生方のご苦労は大変なことと敬服しております。一方、国の研究機関が薄膜電池の研究をしていますが、自動車産業の盛衰を握ると言われている電池開発競争で、実用化に役立つと思っているのでしょうか?
 サイクル試験方法について基本的なことを書きました。次回は容量劣化推定について解析します。聞きかじった情報を基に、「GSユアサとパナソニック」の開発状況について概略しました。次回は無謀にも「テスラーと中国事情」について私の考えを記載します。「新規な電池理論」構築の説明に続き、基本出願について説明します。「昔話」は「NM社」について記述します。

以上



第3回(2018/12/5)



1)はじめに:名古屋弁「しぶちがする。もうやっこする。」

 前回書き忘れました。電池工業会のホームページから引用します。1986年に旧日本乾電池工業会が11月11日を「電池の日」と制定しました。11月11日を漢字で書くと、+(プラス)−(マイナス)+(プラス)−(マイナス)となり、電池の正負極を表すことからです。では、12月12日は何の日でしょう。1985年に旧日本蓄電池工業会が制定しました。野球のバッテリーの守備位置が数字で、1,2と表されることからです。今年の最優秀バッテリーは、セが広島・大瀬良/曾澤、パが西武・多和田/森と決まったようです。両日の間を「電池月間」と呼んでいます。
 紅葉が終わりストーブのお世話になっています。この季節、愛知県西部(小牧、江南、一宮)では独特の言葉があります。どんよりとした曇り空の下で子供が遊んでいると、お母さんが(最近はおばあさんだけです)「しぶちがするから家に入りなさい」と声を掛けます。琵琶湖の水蒸気を含んだ冷たい西風が、伊吹山を越えて旧中山道の米原・大垣を経由して能美平野に流れ込み、非常に弱い小雨が降ります。みぞれが降り出すと「しぶちがする」とは言いません。「しぶち」の語源を伺うと、雨の降り方がいかにも貧乏臭く「しぶちん」をイメージするからだろうという答えが返ってきました。「〜が降る」ではなく「〜がする」の表現が不思議です。この地方独特の人柄・気候をよく表していると面白く聞いています。
 一言で名古屋弁と言っても、愛知県西部尾張弁、名古屋市名古屋弁、愛知県東部三河弁の3種があります。私は最初小牧に住んでいて、近所の畑を耕していた90歳のお婆さんに指導を受けたので、尾張弁を良く知っています。検索すれば意味は解り標準語に言い換えられるが、標準語を想像しにくい言葉があります。

あかる、えらい、おうちゃくい、かした、くろ、黒にえ、コロ、ざら板、
だだくさ、つる、はばにする、ばりかく、ぼう、まわしといて、めんぼ、やっとかめだなあ、等々
 

 私が一番気に入っている方言は、「もうやっこする」と言う表現です。標準語では言い換えることが出来ません。お母さんが子供達に「もうやっこしなさい」と言います。おもちゃを皆で仲良く遊びなさい。おやつを分け合って食べなさい。と言うような意味です。可愛らしく、素敵な言葉と感心しています。最近の若い人は方言を使わなくなって来ているので、これら素敵な方言も死語になりつつあります。宴席で若い人に手帳を開いてこれらの言葉を尋ねると、名古屋出身者でも知らない人がいて、結構盛り上がります。
 やはり宴席で「充電」が話題になった時に、若い人から「電池の充電は知らない」と言われ驚きました。よくよく聞くと携帯電話は毎日充電しているそうで、大笑いしました。乾電池は解るようですが、2次電池が携帯電話に内蔵されていることは知らないようです。電池が偉大な縁の下の力持ちであること、充電作業が本当に身近になっていることに変な気持ちで感心しました。最近のサムソン製携帯電話ギャラクシは電池容量を前面に打ち出してPRしています。電池の高容量化が携帯電話では競争の本丸になりそうです。
 もちろんEV用も!

2)電池及びリチウムイオン電池の概説:充電曲線

 前回の文章で誤解を呼んでしまいました。
 OCVとCCVとの電圧差a、bは、IRドロップと過電圧の和です。高率・低温放電時の大幅な容量減の理由にはならないと記載しました。この過電圧については、KT大AB教授が丁寧な研究をされており、脱溶媒過程が主因であると言う結論を導き出しています。過電圧は電池の評価・解析には非常に重要な値です。
 予定をしていなかったのですが、最近ある電池技術者と話す機会があり、抵抗・過電圧についての考え方・測定方法を誤解しているように思いましたので、急遽解説を加えることにしました。当然ながら電圧は電圧計で測りますが、電流が流れていない時のOCVと電流が流れている時のCCVがあり、その差が電池設計では非常に重要です。一般に抵抗は、オームの法則<電圧=電流×抵抗>に従うと思われていますが、OCVとCCVとの差はオームの法則には従わないので、内部抵抗と言う方は大きな誤解を生むことになります。直流通電を遮断した瞬間にOCVに向かう方向に変化をします。充電なら低く、放電なら高くなります。この瞬間の電圧降下を前回IRドロップと呼びましたが、このIRドロップは電子抵抗とイオン移動抵抗の和です。オームの法則に従わないOCVとCCVとの差である全電圧降下分を適切に表現でき、定義された用語を知りません。私は便宜的に、内部抵抗とは違うと言う意味で、内部インピーダンスと言う造語をし、解説をすることがあります。しかし、交流インピーダンス法と言う定義された測定方法と混乱する可能性があるので、慎重に使う必要があります。
 電圧降下分(内部インピーダンス)=内部抵抗(電子抵抗+イオン移動抵抗)×電流+過電圧
 通電電流を遮断し電圧変化を測定する直流遮断法で測定した「直後の」電圧降下には電極反応過電圧は含まれていません。交流抵抗計は電池抵抗を測るのに非常な便利な測定器ですが、1kHzの交流での交流抵抗を測定しており、この周波数、つまり1ms印加では、電子抵抗、イオン移動抵抗、電気2重層の充電の一部が測定できますが、電極反応の過電圧は測定できません。電池メーカーの製造ラインの品質管理項目では、測定の簡便さから交流抵抗計が頻繁に使われていますが、電極反応過電圧は全く計れていないので、電池の設計段階ではそのことを十分に理解した上で利用することが重要です。電極反応過電圧を正しく理解し測定せずに、安易に交流測定に頼って設計をするようなことがあれば、必ず不良品を出荷し、最悪破裂発火の事故を引き起こすことになります。
 通電遮断後、回復過渡電圧(TRV=Transient Recovary Voltage)を経てOCVに戻ります。安定になるには、数秒から数時間かかります。電極電位は電解液の濃度分布、電極活物質中の反応種の濃度分布に依存します。充電条件によりこれらが全ての領域で均一にはなりません。電解液の濃度差は拡散により均一化し、異なる反応種濃度の活物質間では局部電池により内部電流が流れ、徐々に均一化されます。両端子に接続した電圧計で測定される電圧は一つしかなく、その電圧は各部の内最も大きな電圧差を示す電圧が測定されると考えております。つまり、SOC40%の領域と、SOC60%の領域があるとすれば、SOC60%の電圧が計測されると言うことになります。SOC60%の領域は放電し、SOC40%の領域は充電され、全体がSOC50%に均一になります。この議論については、TR大IG教授、TK大KM准教授から今回改めてご指導をいただきました。



 充電曲線はFig.15のようになります。第1回目の充電を「初充電」として破線で描きましたが、数サイクル繰り返し安定になってからの充電曲線とは明らかに違います。充電初期に平坦部が現れ、この電圧域に該当する反応が進行していることが解ります。代表的には充電による電解液の還元分解が起き、リチウムイオンが含まれる塩が生成し、電極活物質表面に付着します。この付着物をSEI(固体電解質界面)と呼んでいます。SEIについてはいずれ詳しく解析します。水系の従来電池では、第2回目充電以降には起こらない最初の充電で起きる現象を「化成」と呼んでいます。充電とは異なる用語「化成」と呼ぶことで、SEI形成のような本来の電荷を蓄電する充電とは別の反応を明確に区別しています。リチウムイオン電池誕生の頃に、ある方から「化成とは何の事ですか?」と質問されたことがあります。「初充電」と言う用語は、2回目以降の充電との中味の違いが明確でないので「化成」と言い換えるべきと今でも思っています。このコラムでは、「化成」と言いたいのですが、「化成」と言う言葉を知らない方も多いので、現状で使われている「初充電」で統一します。初充電中に行われる副反応には非常に大きな意味があり、安易に電解液分解と解釈するのではなく、電気量などを計算して何が起こったかを考察するべきです。
 サイクル試験では一定の電気量(=電流×時間)で充電放電を繰り返す場合もありますが、通常の充電はFig.15示すように、一定電流で所定の電圧まで充電し、その後所定の電流まで小さくなった時に停止する、定電流定電圧充電(CCCV)を行います。電極内の不均一性のために所定電圧に到達していない活物質が、所定電圧に到達するまで定電圧充電を継続します。充電による電圧上昇は負極電位の影響は小さく、ほとんどは正極電位が決めています。正極活物質はリチウムイオン含有量により2Vほど変化し、その電位変化が電圧変化になります。この上限電圧を超えて充電すると、正極活物質は結晶性が低下し、構造の不安定化、最終的には酸素を放出するようになり、安全性が大きく低下します。現況の正極活物質では4.2Vを充電上限電圧としていますが、高エネルギー化にするために高電圧にする開発が進められています。
 放電後すぐに充電をせずに休止を挟む場合には、充電開始電圧は正極中のリチウムイオン量を示しているので重要なデータです。また、定電流領域から定電圧領域に変わる時点も電極性能を評価する上で大事な点です。定電圧充電に移行してからは、電池特性を考慮して決めた終止電流に到達した時に充電を終了します。充電終止電流を1/100C以下にすると電解液分解などの自己放電を促進することがあるので、時間制限もした方が良いと思います。定電圧時間を一定にするか、定電流時間も含めた全体の充電時間を一定にするかは試験の目的応じて決定することになります。
 充電制御は負極、正極個々に制御すべきですが、適当な参照電極がないので、両端電圧で制御します。参照電極測定をすれば、Fig.16のように正極・負極の電位が測定され、その差が両端の電圧となります。図のように、電圧制御は正極の電位上昇につれて両端電圧が上昇し、4.2Vで上限としてその電圧を保つように電流を減少させます。この制御により正極が過充電になることは防げています。しかし、4.2Vは両端の電圧ですから、負極がリチウム金属析出電位になっても検出することは出来ません。充電曲線だけを観察していても、負極が過充電、つまりデンドライト析出していることを見付けることはなかなか困難です。

3)次世代EV用電池:日産自動車(株)・トヨタ自動車(株)のEV用電池開発動向

 10月度の雑誌・新聞記事について紹介および私の所見を整理しました(Fig.17)。日本の自動車メーカーも、中国市場では中国メーカーの電池を搭載すべく準備を進めているようです。これらの情報を加味して次世代電池の各社開発動向について記載しますが、元来私の苦手な作業で、公知の記事からその要約をしているだけですので、真贋も明確ではなく全く自信がありません。一応私の所見を加えながら記載しますが、危ない話と思われたら飛ばして下さい。



 日本のEVメーカーでは最も実績がある日産自動車はゴーン元会長の不祥事で大騒ぎになっています。私がコメントすることはありませんが、EVリーフの販売に影響が出ないことを祈るばかりです。既にリーフは30万台以上の実績有しながら、米国テスラー社製EVとは異なり、全く火災事故による死者は出ていません。リーフも一定の確率で交通事故を起こしているはずですが、火災事故になったと言う話は聞きません。
 一方、テスラー社EVは度々火災事故になり、不幸なことに少なくとも2名の犠牲者が出ています。テスラー社は、原因は電池ではないと表明しています。もちろん私もそれを望んでいますが、両社の採用している電池の安全性には明らかに大きな差があるので、電池にも原因があるのではないかと心配しております。リーフは昨秋に正極をマンガン系から3元系に変更することで大幅な容量向上をし、一充電走行距離400kmを宣伝しています。一般の感覚では実力が7割程度、つまり300kmでしょう。この変更で、貯蔵する電気量は向上出来ましたが、安全性は明らかに低下しているので電池劣化後を心配しています。
 2007年に設立した日産自動車(株)と日本電気(株)との合弁会社AESC社=Automotive Energy Supply Corporation=がリーフ用電池を製造しています。1985年頃に三井物産(株)子会社 日本モリセル(株)が金属リチウム2次電池をカナダから輸入し、日本電信電話公社(現ドコモ)の携帯電話に搭載しました。電池メーカーYA社が技術支援・出資をしましたが、リチウム金属による短絡が発生し、発煙発火事故が多発し販売中止になりました。リチウム金属電池の販売を中止し、代わりにリチウムイオン電池の開発を始めました。その後YA社は撤退し日本電気(株)が支援・出資しました。コバルト系はグッドイナフ氏の基本特許に抵触しますが、マンガン系であれば抵触しないと可能性があるとの特許判断があり、マンガン系正極でのリチウムイオン電池開発を開始しました。現在の日本電気(株)の電池部隊の発祥です。京セラ(株)向けの携帯電話などで安全性を武器に実績を積み、日産自動車のEVに採用されました。三菱自動車の小型EVに最初に採用された電池もマンガン系でした。当時YA社でもマンガン系を選択すべきとの意見もありましたが、携帯電話では高容量を優先すべきとの意見が強くYA社はコバルト系を選択しました。マンガン系がコバルト系よりは安全である、量産時にコバルト価格は致命的であると言う選択理由は今でも通用します。昨秋に日産自動車が合弁を解消し、現在は中国系ファンドに買収されました。その結果、日本にはマンガン系技術を有している機関はなく、今後例えば自動車共有化のように市場要求・要求特性が変わり、マンガン系が最適になることがあると、マンガン系技術を有する中国が独占することになるのではないかと心配しています。なお、AESC社は、中国系資本の元に中国での工場建設などを進めることで新展開があるのかもしれません。
 日産自動車はマンガン系から3元系に変えたことで、AESC技術に頼る必要はなくなり、どこからも調達できることになりました。当面はパナ・旧サンヨーの電池が採用されると思いますが、いずれ互換性のある韓国LGケミカル社製に変わり、その後LGケミカル社中国工場または中国CATL社に移行すると予測しております。
 この辺りの調達先の変遷については、ゴーン氏の調達方針でもある国際調達、価格主義がどの程度徹底するかに因ると思います。(Fig.18)



 一方、日本ならず世界最大の自動車メーカーであるトヨタ自動車(株)が、2030年HV・PHV:450万台、EV・FCV:100万台と、EVについて数字目標を掲げたことに驚きますが、本音はHV販売ではないでしょうか?EVでは明らかに乗り遅れています。開発戦略としてはパナソニックとの協業を発表しました。自社内での開発を諦めたとも受け取れる発表でした。
 500名体制でHEV用リチウムイオン電池の開発に成功し、HEV用NiMH電池を製造している関連会社PEVE社で、HEV用リチウムイオン電池を製造し、新型プリウスに搭載しています。電池専業メーカーを凌ぐ実力を有していうので、EV用も研究開発を進め、PEVE社で製造・調達すると推定していたので非常に驚きました。パナ・旧サンヨーからの調達を増やしているようですが、自社開発のリチウムイオン電池も性能では決して見劣りしないはずですから、価格だけで決めているとすれば、技術の蓄積は出来ず電池メーカーが実質的に一つなくなったことになり非常に残念です。なお、中国で販売するEV用電池は現地CATL社に積極的に働きかけをしていると聞いています。リッチウムイオン電池の自社単独での開発は諦めましたが、パナ・サンヨーとの共同開発は続けられているので、細々ではあっても技術者の養成は出来ているのかも知れません。また、最近トヨタ自動車関連企業での電池関連の発表が数件ありましたが、トヨタ自動車本体の技術レベルからは相当差があり、発表の裏側では選択と集中が始まっているように感じております。
 パナソニック(株)との協業の共同発表記事に、次世代電池としての全固体電池の開発も協業すると書かれていました。不思議な話と良く見直すと、記者作成記事とパナソニック(株)発言にはその意味が含まれているのですが、トヨタ自動車(株)発言では不明瞭です。10年以上前にパナソニック(株)でも全固体電池を開発しており、実際に見せてもらいましたが、とても商品化できるとは思えないレベルでした。一方、トヨタ自動車(株)では特許発明者の9割が全固体電池に関する技術者であると言う調査結果もあり、全固体電池の開発は圧倒的にトヨタ自動車(株)が先行しており、パナソニック(株)との協業には価値が見いだせないと思います。全固体電池については別途調査結果をご報告申し上げます。(Fig.19)

4)新規な電池理論:片持ち論=グラファイト・カーボンナノチューブ中のリチウムイオン



 両方から引っ張られて安定に存在するという「両持ち論」を否定しました。新たに「片持ち論」を提唱します。Fig.20に示すように、充電により<負>に帯電したグラファイト片面と<正>に帯電しているリチウムイオンは静電力で引き合い<図中f3>近付こうとします。間隔が狭くなると、グラファイト中の電子とリチウムイオンの最外郭電子とが反発し合い<図中f4>離れようとします。この両者の逆方向の力が釣り合うことで、その位置で安定化します。場の揺らぎ、例えば、僅かにグラファイト壁に近付くと電子同士の反発力が大きくなり、元に戻ります。僅かに離れるとグラファイト壁とリチウムイオンとの静電引力が大きくなり、元に戻ります。このようにバランスの取れた安定な状態が保たれることになります。カーボンナノチューブの場合にも、全く同じでFig.21のようになります。円弧の何処が安定化は定めることは出来ません。
 このように、グラファイト壁、カーボンナノチューブの壁とリチウムイオンとが釣り合って安定化する現象を「片持ち論」と命名し、この状態でリチウムイオンが貯蔵されていることを「新規な電池理論」として発表しました。

5)おわりに

 第3回目で少し慣れてきましたが、逆に書こうとする意識が強すぎて、筆は進まなくなりました。新規参入の電池技術者と話をして、日常・単純に測定している電圧、抵抗について、正しく理解されていないことがあると知り、急遽「電池の電圧」・「電池の抵抗」およびその測定の基本について解説を加えました。
 長々と書きましたが、測定している電圧・抵抗は電池の何を測っているか、じっくり考えて見ることも大切だと思います。測定器で数字が出ればそれでよしとしていては、「チコちゃんに叱られますよ!」。開発競争の最中にいる方も、足元を見つめ直すことは必要でしょう。疎かにすると必ず破裂発火事故が起きます。
 充電曲線について基本的な、大事なことだけを解析しました。次回はサイクル試験について記載します。聞きかじった情報を基に、日産自動車(株)とトヨタ自動車(株)の事業戦略について記載しました。次回はGSユアサ・ボッシュとテスラーについて解析します。「両持ち論」に対する「片持ち論」を提唱・解説しました。カーボンの微細孔内に複数個のリチウムイオンが安定に存在する状態についてクラスター論が言われていますが、次回その矛盾を指摘します。
 1990年初め、リチウムイオン電池勃興期を目前にユニークな活動が進められていました。秋の電気化学会懇親会で、HS商社TG社長より昔のことを知っている人は少なくなったと言われました。今となっては技術的には何の価値もないかも知れませんが、折角コラムを書いているのですから、当時のことを記録として残してみようと言う気になりました。項目を一つ増やして、思い出すままに数回に渡り昔話を記載することにしました。紙面の無駄と思われる方は読み飛ばして下さい。なお、登場する方々に事前了解を得ていませんので、文責は全て小職にあり、ご批判は小職にお寄せ下さい。
 次回は年明けとなります。良いお歳をお過ごしください!



第2回(2018/11/15)



1)はじめに:題名「オーバー・ドライブ」

 学生時代にラリーを少しかじっていました。「オーバー・ドライブ=Over Drive」と言う題名のラリーが主役の邦画を観ました。主演は東出昌大、新田真剣佑さんです。「オーバー・ドライブ」は変速機のギア比1以下で高速時のエコ運転用ギア設定を言いますが、映画には全くその名に相応しいシーンは出て来ません。途中で色恋話が出て来て白けましたが、ラリーシーンは勝田範彦氏などが担当しスリル満点に演出されていました。ドリフト走行は見応えがあります。名古屋に赴任した15年程前、土曜夜に岐阜市金華山ドライブウェイに走りに行っていました。若者達に迷惑がられても最後尾でローリング走行を味わっていました。ある時、ブラインドカーブの出口でうずくまっている狸に出会い急停車し、車から飛び降りて後続の車両に知らせました。後続車数台が急ブレーキを踏み怒鳴っていました。ヘッドライトをスモールにすると、のこのこ動き出し、見守っていた若者達もとても喜んでいました。別れ際に若者達が「おじさん、余り飛ばすなよ」と心地好い笑顔で挨拶をして追い越していきました。執筆に当り念のためと、金華山ドライブウェイ(全長5km、所要時間?分)を明るい内に実際に走行してきました。溜まり場だった公園駐車場、手前のトイレなどは昔のままでしたが、やはり恐怖感が先に立ち膝が震えました。この映画の題名はブレーキとアクセルを同時に案配良く踏む「ヒール・アンド・トゥ」にすれば良かったのにと思いました。
 前回記しましたように「リチウムイオン2次電池」と言う名称は、その意味が心技体一致しています。私は専門用語、電池用語はその意味を理解した上で、常に正しく使うべきと思っています。このコラムでも正しい用語を使うよう心掛けますが、間違いがあれば是非ともご指摘下さい。

2)電池及びリチウムイオン電池の概説:放電曲線

 初歩的な話で大変に申し訳ないのですが、学会発表などで充放電試験結果の解釈で疑問を感じることがあるので、敢えて取り上げました。



 Fig.9 破線Aは電流が流れていない時の開路電圧=OCV=(注3)、点線Bは典型的な放電曲線、一点鎖線Cは高率(大電流)放電時の放電曲線を示しています。線B、C(CCV)と破線A(OCV)との電圧差、矢印a、bはエネルギーロスになります。また、矢印qは、高率放電などで蓄電されているが放電できなかった電気量を表しています。この差、矢印a、b、qが生じる理由を考察することが、私のような電気化学出身の電池屋の仕事になります。
 研究されている数は矢印a、bに関するものがほとんどですが、私は矢印qが矢印a、bよりはるかに重要と考えています。先端の材料研究の場合には省略することも仕方がないかもしれませんが、矢印qを説明できることが前提で放電曲線の解釈をしなければ、技術としては片手落ちでしょう。交流測定データで矢印a、bを説明し、同じ理由で矢印qを説明している講演があり、2回ほど間違いを指摘しましたが無視されました。ソーラートロン(交流測定装置)でデータを沢山取るだけでなく、電気化学速度論を学んで「律速段階」を理解した上で、「過電圧」を語るべきです。
 放電直後の電圧降下は所謂IRドロップで、電子抵抗・イオン抵抗(イオン伝導度の逆数)を示しています。このIRドロップは熱損失になりますから、エネルギー効率の面では小さい方が良いことになります。しかし、短絡・ショートをした時にこの値が小さいと、短絡電流は大きくなり安全性は低くなり破裂発火の可能性が高くなります。従って、設計者は意識的に高くすることもあるので、一概に低ければ良い電池と言う訳ではありません。一般に2次電池ではこのIRドロップは非常に小さいので、安全性の見地からはIRドロップは高い方が良い電池と言うことになります。
 放電電圧(CCV)と開路電圧(OCV)との差(矢印a、b)からIRドロップを差し引いた電圧差は、正極、負極それぞれの過電圧を足したものです。この過電圧を研究することが電気化学の重要な役割になります。本来参照電極を用いて区別して考えるべきです(Fig.10)。しかし、困ったことに現状ではリチウムイオン電池内で安定に存在できる電極がないので、実電池では両端電圧での過電圧を考えざるを得ません。実験的には目的とする電極(作用極)の容量を反対の電極(対極)の容量の10分の1以下にすることで、作用極の挙動とする実験手法が使われることがありますが、意図しない現象を招く可能性もあるので、十分に検討してから実験する必要があります。TH大SI教授がチタン酸負極を参照電極に使う試みをしており、その使い勝手・安定性に注目しています。
 電気2重層の放電を示す短時間の電圧降下があり、その後直線に近い放電曲線になり、充電状態=SOC=(注4)に従って電圧が降下していきます。負極の影響は小さく、正極組成の影響を受けた数点の変曲点を伴って徐々に降下します。傾斜電圧は出力制御上は織り込み済みなので、ゆったりと変化することは実用上全く問題ありません。この変曲点について微分などをして丁寧に調査・解析している研究発表をよく見聞きします。材料調査には役立つかも知れませんが、電池の良否判定には結び付きません。
 0.05C以下(小さな電流)の低率放電では放電終期に容量が無くなったことを示す急激な電圧ドロップがあります。通常は副反応の恐れがある0Vよりはるかに高い、例えば2.8Vの放電終止電圧で放電を中断します。通電終了後電圧はOCV(注3)まで回復します。1C以上(大電流)の高率放電では矢印qに示すように、本来の容量より小さな容量しか得られません。この場合も、通電終了後にOCVまで時間をかけて戻ります。(Fig.11)



 この電圧がOCVに戻る現象は非常に重要な意味を持っており、呼び方についてKT大AB教授に相談しました。非常に丁寧な回答があり、「回復過渡電圧」(Fig.11)と呼称すべきと教えていただきました。簡単なメールでの質問でも、その本意まで御理解いただき感心しました。この「回復過渡電圧」については、京都の研究機関が昔から着目していて流石だなと感心していたのですが、最近の解説資料を見ると曖昧な表現が多く誤解を呼ぶのではないかと心配しています。
 この矢印qは高率放電に加え低温でも大きくなります。今後コラム連載の中で詳しく解説します。

 注3)OCV:Open Circuit Voltage 開路電圧。電流が流れていない時の電池電圧。
    CCV:Closed Circuit Voltage、閉路電圧。電流が流れている時は、
 注4)SOC:State of Charge 充電状態。満充電はSOC100%になる。
    DOD:Depth of Discharge 放電状態。満充電は0%。になる。

3)次世代電池:EV用リチウムイオン電池

 

9月度の雑誌・新聞記事について、紹介および私の所見を整理しました(fig.12)。技術的知見には余り役立ちませんが、市場動向、各電池メーカー・各自動車メーカー戦略について知ることができます。真実とは思えない情報もありますが、参考のため添付・掲載します。今月度は、メカニカルチャージについて注釈をつけました。これらの情報を加味して次世代電池の開発動向について解析・検討し、その結果を今後解説・記載して行きます。セカンドオピニオンとして心に留めておけば、きっと将来お役に立つと思います。


Fig.12 2018年9月度記事の紹介と評価



 

日産自動車リーフのEV用電池の1充電走行距離は公称400km、実力300km程度です。通勤と買物に限定した用途ではこの距離で十分ですが、休日のお出掛けの時には不便・不安でしょう。このことが価格以外にEVの普及を妨げています。その壁を乗り越えるためには現行の倍、公称800kmは必要と思います。大雑把に言えば、80kWhの電池を積む必要があります。EVの魅力はガソリンスタンドに行かず家庭あるいは宿泊先で充電できることにあり、充電ステイションに立ち寄って充電することは非常時に限定するべきで、急速充電性能は不要と考えています。寿命については、電解液などを改良した改良型リチウムイオン電池で10年要求は満たせると思います。
 現行のリチウムイオン電池は負極・正極とも理論限界に達しており、これ以上の高容量化は望めません。リチウムイオン電池の標準になっている円筒型18650は、ソニーが最初に出荷した1990年代は1000mAh、2000年代に2000mAh、2010年代3000mAhと容量増を果たしました。設計で達成出来たのは2500mAhまでで、その後は負極の高密度充填、ニッケル増と言う安全性を犠牲にしての容量増で、これ以上は安全性に無理があると懸念しています。
 電極活物質以外の電解液・セパレータなどの補助部品の改良は、電極活物質の能力を十分に引き出すことが出来るので数10%の改良には役立ちますが、倍の容量増は期待できません。電解液・セパレータなどの開発で数倍の容量増が実現できたと言う発表を見聞きしますが、電極活物質は何ですかと聞きたくなります。注目を浴びている固体電解質も、それ自体では高容量化の課題解決になりません。絶対に誤解があってはならない点です。

4)従来説=両持ち論=グラファイト中のリチウムイオン



 リチウムイオン電池で実用化されているカーボン構造はグラファイトとハードカーボンです。グラファイトに貯蔵されたリチウムイオンについては、リチウムイオンがグラファイト層間0.0335nmに入り、充電により負に帯電した上下2層のグラフェン層に挟まれた位置が安定な存在と言われています。リチウムイオンは正に帯電し、グラフェン層は充電により負に帯電しているのでお互いに引き付け合います。この引き付ける静電力が上下均等(f1=f2) になり、上下層の中央で釣り合うことにより安定に存在すると言われています。 (Fig.13)
 しかし、全ての場で揺らぎはあります。中央に位置するリチウムイオンがほんの僅か上層に近付くと上からの引力<f1>は少し増えます。下層からの引力<f2>は距離が遠くなるので少し小さくなります。つまり、f1>f2となり、リチウムイオンは上層に向かって移動し、その結果f1>>f2となりリチウムイオンは益々上層に向かって移動します。
 少し長くなりますが、私が思い出した説話を引用します


<大岡裁き/子争い>
 子供の母親は一人ですが、母親を主張する女子が二人いました。双方共に「わたしこそがこの子の母親よ」と、頑として引かない様子です。二人の争いはとうとう収まらず、大岡越前の奉行所でついに白黒付ける事になりました。
 大岡越前は二人にこう提案しました『その子の腕を一本ずつ持ち、それを引っ張り合いなさい。 勝った方を母親と認めよう。』 その言葉に従い、二人の母親は子供を引っ張り合いました。当然ながら引っ張られた子供はただではすみません。たまらず「痛い、痛い!」と叫びました。 すると、その声を聞いて哀れに思ったのか、片方の母親が手を離してしまいます。
引っ張りきった方の母親は子供を嬉々として連れて行こうとしますが、大岡越前はこれを制止します。
 『本当の親なら、子が痛いと叫んでいる行為をどうして続けられようか』と言いました。母の持つ愛情をしっかり見切ったのでした。これにて一件落着。



 

つまり、両方から引っ張っている状態のグラファイト中リチウムイオンは決して安定ではないと考えました。この両方から引っ張って安定に存在すると言う従来の説を私は「両持ち論」と名付けました。
 カーボンナノチューブのような円筒中では、Fig.14に図示するように周囲から引っ張られて中央に存在することになります。多角形の壁に囲まれた空間の場合には安定に落ち着く位置を見つけるのに、リチウムイオンは苦労しそうです。
 この「両持ち論」に疑問を抱き「片持ち論」を考え付き、「新規な電池理論」を考案しました。

5)おわりに

 

第2回は電池屋としての放電曲線の見方を解説しました。幼稚な話ですから専門家の方は読み飛ばして下さい。「律速段階・過電圧」についてもう少し解り易く説明すべきであったと後悔しています。次回は充電曲線について解析します。電池の容量は電極活物質で決まります。その理論容量を如何に100%引き出し放電させるかが電池屋の腕の見せ所です。EV使用ではリチウムイオン電池は安全性を考慮しても、ほぼ理論容量を引き出せるはずです。倍の容量が要求される次世代電池では電極活物質開発に研究・開発資源を注ぎ込むべきです。次回からはEV関連メーカーの開発動向を紹介します。カーボン系での高容量化が断念される理由、グラファイトで内蔵される状態について「両持ち論」を説明しその矛盾を指摘しました。次回は私が考案・提唱している「片持ち論」を解説します。
 第1回で数通のご意見をいただきました。次回以降に反映させていきます。ご批判・ご質問を大歓迎しておりますので、是非お寄せください。次回をお楽しみに!


第1回(2018/10/10)



1)自己紹介および本コラム執筆について

 初めまして、バッテリーコンシェルジュ佐野です。
 記録的豪雨、経験のない猛暑、最大級台風、震度7の地震があった異常な夏が過ぎました。自然に狂いが生じていると言われることもありますが、彼岸花は例年通りお彼岸の日にお墓に咲きました。葉のない茎の上に華麗な朱色と純白の花が乗っている姿は孤高の華やかさがあります。純白は珍しく突然変異かも知れません。
 平成20年11月から翌年2月まで当コラムを執筆していました。丁度10年振りになります。
     https://johokiko.co.jp/column/column_shigeru_sano.php
 「バッテリーコンシェルジュ」と言う肩書は勝手に作り出したもので、今の所苦情を聞いていませんが、学会・業界では認知されている訳ではありません。学会などで名乗る時には恥ずかしく言い淀んでいます。
 今春に名古屋にある一般財団法人ファインセラミックスセンター(JFCCと略す)の客員研究員を退任し、現在は某充放電装置メーカーの援助で何とか電池と関り続けています。中学2年の時に電池研究者になる夢を抱き、半世紀に亘り電池に携わってきました。研究開発に関し世界一の失敗例を有していると自負しています。(FIG.1)



 

前回執筆から10年が経ち、EV用電池開発など電池業界は激変しており、また、「新規な電池理論」について篩膜を実証できました。私の知見が電池技術修得、次世代開発に役立つことがあると執筆を思い付き、鰹報機構様にご相談しました所、本コラム執筆に快諾いただきました。月1回全24回の掲載を予定しております。各回2)、3)、4)項を平行に書き進めていきます。3)項は順不同になりますがご容赦願います。

2)電池全般及びリチウムイオン電池の特徴と課題
  副題:電池及びリチウムイオン電池の現状


 

最初に電池工業会発行の「でんち」に掲載されている国内電池産業の概要を紹介します。小冊子「でんち」は電池工業会が編纂しており、電池業界の施策などが解り易く書かれています。屋井電器が登場する電池開発の歴史などは面白く読ませていただきました。
 国内での電池生産は約8,000億円で、年率5%上昇を続けられれば5年程で1兆円産業になります。充電できない1次電池は8%以内です。量販店で安売りされているマンガン乾電池の国内生産は打ち切られています。乾電池トップメーカー某社の最新工場はアフリカのコンゴにあると聞いています。コンゴはコバルト生産でも有名で電池との関りが強い国です。(追記:寄稿時には知らなかったのですが、コンゴのムクウェグさんがノーベル平和賞を受賞されました。コンゴの紛争には鉱物資源の利権が絡んでいると聞き複雑な気持ちです。)2次電池販売金額は7,900億円で、大半はリチウムイオン電池(注1)で、内車載用が2,700億円65%です。鉛蓄電池、ニッケル水素電池はほとんど増えることなく、リチウムイオン電池特に車載用と輸出が伸びを支えています。(Fig.2) 輸出先は大半が東南アジアです。グラフの縦軸の金額には余り意味がありません。1992年にソニーが製品化に成功したリチウムイオン電池も携帯電話に代表される民生用は韓国、中国に追い抜かれ、車載用も中国に追い抜かれたと言われています。世界規模での電池市場については調査会社の報告を参考にして下さい。
 昨秋に中国CATL社トップのEV用リチウムイオン電池に関する講演を聞きました。数年前に日本メーカー2社と韓国LG化学の方のEV用リチウムイオン電池の技術講演を聞いた時に、日本メーカーが最新技術を隠したことを割り引いても、LG化学の技術トップの講演内容が一番素晴らしいと思いました。その時の印象と全く同じでCATL技術トップがリチウムイオン電池の技術に真摯に立ち向かって事業を進めていると感じました。一方、日本メーカートップの講演からは技術を理解した上で話されているようには聞こえませんでした。リチウムイオン電池技術では日本メーカーは完全に追い付かれました。

  

※注1:「リチウムイオン2次電池」という名称は、ソニー鰍ェ最初に製品化した時に命名し、現在一般に通用している名称です。リチウム金属電池と区別する呼び方で、技術的には正負極どちらに収納されてもイオン状態にあり、使用面ではリチウム金属に比し遥かに安全であることを表現していて、非常に上手い名付けと感心しています。充電できないリチウムイオン1次電池は存在していないので、本稿では充電できるという意味の2次(蓄)は省略します。文字数制限でLIBと略すこともあります。Iを小文字iで表記していることがありますが、リチウム金属電池と混同するので適当とは思えません。なお、Siなどとの合金系負極電池を、リチウムイオン電池と呼称するのは相応しくないと思います。


<リチウムイオン電池販売推移>車載用と輸出が伸びています。


3)EV用次世代電池の課題 副題:用途別要求特性とHEV用電池について

 

電池は用途に応じて機種が決められます。代表的な用途について要求される特性を整理しました。(Fig.3)
 民生用と総称している携帯電話・パソコンなどの携帯機器では現状のリチウムイオン電池で最低限のニーズは満たせています。使用頻度の高いユーザーはリチウムイオン電池が内蔵されているモバイルバッテリーと言う携帯型充電器を予備に持っています。
 ハイブリッドカー用電池は、トヨタ自動車が関連会社のPEVE社製ニッケル水素電池とリチウムイオン電池とを車種別に併用し、ホンダ自動車がGSユアサ社との合弁会社ブルーエナジー社製リチウムイオン電池を搭載しています。基本的にはガソリンエンジンで走行し、スタート時・急加速時などのエンジン効率が良くない時の補助としての役割で、エネルギー貯蔵自体は重要な性能ではなく、5Ah程度の電池が採用されています。一方、出力は重要で数kw、つまり10C(※注)以上の電流を流せる設計になっています。ブルーエナジー社の負極にはグラファイトではなくハードカーボンが使われています。リチウムイオンの挿入・脱離速度が速い、膨張収縮が少ないなどの利点から採用されていると思います。僅かであってもグラファイトの膨張収縮はSEI(固体電解質界面:後述)の溶解・沈殿による電池劣化を促進します。
 トヨタ自動車新型プリウスにはニッケル水素電池とリチウムイオン電池の両方が搭載されています。電池占有容積は35.5Lと30.5Lとで5Lの差が電池容量に反映され、前者は6.5Ah、後者は3.6Ahです。公表された写真を見るとこの差を制御回路が占有しています。つまりニッケル水素電池に比しリチウムイオン電池は複雑な制御が必要なことが理解できます。両者の電池容量差は理論体積エネルギー密度からは理解できない大きな差で、リチウムイオン電池がエネルギー密度を無視してパワー重視設計、つまり活物質の充填率を下げた設計になっていると推定します。(Fig.4)
 定置用は後述しますが、リチウムイオン電池では価格が難問と思います。

※注2:「C」は電池専門記号で、容量を乗じると電流に換算できます。異なる容量の電池特性を比較評価する時に便利な単位です。ただし、容量の少ない薄膜電池では適用できません。ある学会で、「薄膜電池で100C充電ができた。」と言う発表があり、某電池メーカーの方が座長としての中立の立場を忘れ憤慨していました。
 


<用途別要求特性>EV用は全て高性能で、特にエネルギー密度が重要!



<HEV用とEV用> HEV用はパワー重視、EV用はエネルギー密度が重要!


4)新規な電池理論「片持ち論+篩膜」
  副題:新規な電池理論考案のきっかけとなったカーボンナノチューブ


 

JFCC在籍中に、楠主幹研究員(その後名古屋大学教授、今春退任)が発明したカーボンナノチューブ(CNTと略す)の応用開発を担当し、楠主幹研究員よりCNTについて教えていただきました。楠CNTはSiCの単結晶基板を加熱分解して成長させ、非常に密なブラシのような形状です。(Fig.5,6) その特性を活かし研磨材としての応用を検討しました。特性は非常に良いのですが、価格がネックになり実用化は出来ていないと思います。(Fig.7)
 CNTはS大のE教授を通じて知識がありました。E教授とは30年程前に特殊カーボンの応用開発に関する国プロ委員会でご一緒し、その精力的なご活躍に感心しました。E教授が発明したCNT前身の気相成長カーボンファイバー(VGCF)は昭和電工(株)にて製品化され、負極添加剤としてリチウムイオン電池の重要な材料となっています。
 私は研磨剤としての応用と並行して電池電極として使えないかを考えましたが、この内径では内部が電解液分解生成物で埋められイオンが動けなくなり、電池として機能できないことを直ぐに理解しました。(Fig.8) CNTを電池材料にする研究が多くなされましたが、結局は全てこの結論になっています。金属酸化物を導入してレドックスキャパシタ容量を測定して、CNTで電池ができたと言う発表には厭になります。
 なお、JFCCのK氏は硫酸系で水分解が起こらない電位域でのキャパシタ容量を測定し、非常にきれいなデータを得ています。CNTの先端をキャップと言いますが、そのキャップを焼き切って除去するとCNT内部に電解液が入り容量が増大することを実証しました。この知見は多孔性カーボン全般に適用できる非常に貴重な実験結果で、「新規な電池理論」構築にも役立っています。(特開2010-10623)


<SiC表面分解法CNT>ブラシのように密に林立している。



<SiC表面分解法の機構>SiCを真空加熱して分解する。



<SiC表面分解法CNTの特長>研磨材として優れた特性を有している。



<CNTが電池に使えない理由>CNT内部がSEI分解生成物で埋まり、動作しない。


5)終わりに

 

今回は自己紹介から始め本コラムの今後の進め方について記述しました。
 電池業界は車載用リチウムイオン電池に支えられ幸いにも現在は成長産業ですが、他の電池のように衰退に向かわないためには、産・官・学の真剣な取り組みが必要と考えています。次回は基礎的なことですが、充放電曲線の見方について説明をします。用途別に電池に対する要求性能を整理し、HEV用電池はパワー重視設計であることを説明しました。次回は、EV用としてのリチウムイオン電池を評価します。「新規な電池理論」考案のきっかけになったCNTを紹介しました。次回は、グラファイトを代表とするカーボン材料におけるリチウムイオン貯蔵に関する現行理論の矛盾について詳述します。
 9月25日、26日金沢大学で開催された「2018年電気化学会秋季大会」に参加しました。発表内容は次回に報告します。参加者1000人以上、発表500件、懇親会300人と聞きました。会場が広いためか各会場とも空いていました。韓国・中国からの参加者はほとんど見掛けませんでした。11月末開催の電池討論会に集中しているかも知れませんが、日本の電気化学会には価値がないと思われるようになったとしたら残念です。
 久し振りの執筆で手古摺りました。お読み難い部分が沢山あったと思いますがご容赦願います。徐々に読み易い文章が書けるようになるとご期待願います。ご質問・ご意見をお寄せいただけますことを楽しみにしております。是非ともよろしくお願い申し上げます。
 彼岸花と言えば、山口百恵が唄った「曼珠沙華(シャカ)」を思い出します。彼岸花と同じく本コラムも毒を抜けば非常時にきっと役立つはずです。次回をお楽しみに!

佐野 氏のご紹介

佐野 茂 氏
バッテリーコンシェルジュ

■講師自己紹介: ・中学2年の時、電池研究者になる夢を抱いた。
・湯浅電池(株)(現(株)GSユアサ)で多くの電池研究。
・成功談はないが、失敗談は豊富にある。

■ご略歴:
 1972年 東工大電気化学科卒。
 1973年 湯浅電池(現GSユアサ)入社。蓄電池研究。
 1993年 リチウムイオン電池研究・開発・量試。
 2005年 ファインセラミックスセンター。「新規な電池理論」考案・出願。
 2007年 国プロ受託「計算化学による実証」。
 2009年 東洋システム鞄d池評価担当。
 2016年 バッテリーコンシェルジュ。「SiC篩膜」特許出願。



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