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講師コラム:佐野 茂 氏


『 電池特にEV用電池の最新事情 
リチウムイオン電池・次世代電池の課題を解決する
新規な電池理論
 



コラムへのご意見、ご感想がありましたら、こちらまでお願いします。

第15回(2019/12/6)



1)はじめに : 四季桜と紅葉狩り

 「12月12日」は何の日かご存知ですか?「バッテリーの日」です。1、2を野球の守備位置で書くと、投手と捕手です。投手と捕手を英語では「バッテリー」と言いますから、語呂合わせで「バッテリー=蓄電池」の日と1991年に電池工業会が制定しました。毎年スポーツニッポン新聞社と共催で「最強のバッテリー」表彰をしています。今年のセリーグは巨人山口投手と小林捕手、パリーグは西武増田投手と森捕手です。
 秋も深まり、紅葉狩りに「三重県御在所岳1212m」に行きました。数年前に休日に行ったことがあるのですが、かなり手前のファミレスで昼食を食べUターンして帰りました。とにかく物凄い渋滞で知人に話すと、早朝6時前に家を出ないと話にならないと言われました(笑)。今回は暇人の特権で平日に再挑戦し成功でした。日没が速いのでハイキング(約9時間)は予定せずロープウエイに乗り、天空から眺める中腹の紅葉は見事でした。山頂付近は盛りを過ぎていましたが遊歩道を散歩し、運が良ければ「カモシカ」に会えると楽しみにしていたのですが、その希望は叶いませんでした。展望レストランで菰野町の名産「真菰(マコモ)」の葉を練りこんだソフトクリームを食べ、険しい登山道に来春の挑戦を誓って帰りました。
 「カモシカ」と言えば、梅雨の終わりにハイキングの練習のために、小雨の中を鳳来寺山の階段を登り、下山後仏法僧で有名な自然科学博物館駐車場で帰り支度をしていると、灰色の獣が見えました。静かに近付き話し掛けると、振り向いてじっと私を見詰めていましたが、渓谷に降りていきました。突然のことで慌ててしまい写真を撮り損ないました。狸よりは大きいし、鹿にしてはグレーだし、きっと「カモシカ」だと思いましたが、人家がある村外れに「カモシカ」がいるとは信じられず、自然科学博物館で飼育していると思い電話で確認すると、「非常に珍しい偶然です。確かに近所に2匹生息しています。ゆったり動いたのなら、年寄りの方です。」と、明るい声で館員から返事を貰いました。不思議に得をした気分になりました。
 豊田市「小原の四季桜」を観に来ました。1820年頃に植樹されたのが初めでこの地区には約10,000本植えられ、10月下旬に小さな桜を咲かせ、紅葉とのコラボレーションを見せてくれます。平日でのんびりと絶景エリアの遊歩道を歩いていると、数組の若い女性グループが写真を撮っていて、話声は皆中国語です。韓国美人は余りいませんでした。日本人、名古屋人さえ知る人が少ないひなびた観光地に、大勢のインバウンドの方が来ていることに驚きます。駐車場の大型バスは中国語の大きな字でバスラップ中国語がペイントされていて,一目で中国の方専用のバスと判ります。中国恐るべしと思い知らされます。小原ふれあい公園では大道芸が演じられていて、楽しみにしていた「へぼ飯」(蜂の子の混ぜご飯)は売り切れでした。数年前に老母に珍品だからと勧めましたが、顔を背けられました。その時に耳慣れた演歌が聞こえてきました。親友の売れない作曲家が書いた曲「夕影の人」で、こんな所で聞くとは本当に驚きました。カラオケの好きな方はDAM6113-01、社交ダンスならルンバに編曲されています。
 東海地区の紅葉狩りの究極は、約4000本のモミジの香嵐渓です。今年の紅葉は1週間程遅れたようで、紅葉も気象変動の影響を受けているのでしょうか?11月中旬から冷え込みが始まり一気に色付いたようです。夕陽に照らされて赤や黄色に輝く様は見応えがあります。ここでは名所故か家族連れが多く、日本人も負けずに賑やかです。ライトアップが始まると、ライトで輝くモミジが自然光とは異なり一層派手になります。今回はライトアップが目的で夕方に来たので、飯盛山途中の香積寺で引き返しましたが、次回には飯盛山に登り、全山が燃え上がる景色を見たいと思いました。


2)電池の基礎:デンドライトの電気化学(2)ターフェル式

 「電気化学」を習った方には復習です。大学で習ったことを思い出しながらですので、間違いはご容赦願います。
 電気化学で電流と電位との関係を表す基本的な公式がターフェル式です。
   電極電位 : η = E ― E0= a +b * log(i)
        b = RT/αnF  α:移動係数と呼ばれる反応方向の分配係数:0<α<1
   α=1であれば、b=約60mV、α=0.5であれば、b=約120mVで、Fig.95のようになります。
      ※ この記述には自信がありません。調べ直したのですがよく解らなくなりました。
        数値でなく増減関係の記載は正しいはずです。
 電極反応場でのリチウムイオン濃度が異なる1mol、0.01mol、0.0001molつまり100倍、10000倍薄くなった時のターフェル式を平行線として図示(Fig.95)しました。イオン濃度との関係は、カーボンへのリチウムイオン挿入反応もデンドライト発生反応も同じです。
   負極反応:リチウムイオン挿入反応: Li+(溶媒) +C6(グラファイト) +e- ⇒ LiC6 +(溶媒)
   副反応 :リチウム金属析出反応 : Li+(溶媒) +e- ⇒ Li(金属) +(溶媒)



Fig.95 ターフェル式:電位と電流密度



Fig.96 電解液希薄のデンドライト発生


 リチウム金属析出反応のターフェル式は、Fig.96の青色の直線です。セパレータ側のカーボン表面では濃度変化は起きないので、リチウム金属析出反応はこの電位で変わらずに反応が進行します。一方、集電体に近い電極「奥」部の活物質細孔で濃度の「希薄化」が起きると(例えば10分の一)、電流―電位曲線は120mV移動します。挿入反応の電流値はまだ析出反応の電流値を上回っていますが、析出反応も起きています。電極活物質層「奥部」が1000倍希薄0.001molであれば挿入反応は1mol時より右側に360mV移動し、析出反応よりはるかに右側に位置します。3.37Vの電位を例に取ると、挿入反応は0.8A程度であるのに、「金属析出反応」は10A程度、つまりほとんど「金属析出反応」が起きます。この状態の電池はリチウム金属電池です。
 この電極活物質層「奥」部で濃度が薄くなるという概念は、電池の専門家は受け入れ易いのですが、表面的に理解しただけの理論の専門家には理解できないようです。交流測定で解説する時に実際の電池の挙動を反映していないとの疑問に対し何の答えも出来ないのは、この実際の通電により電極活物質「奥」部と表面とで濃度差が生じていることを考慮しないからです。実際に電極厚み、充填率=細孔体積などを変えた実験をすれば、高率充放電、低温充放電特性が大きく変化していることを実感します。中味を解らずに、交流測定で解かったつもりになり電池設計をすれば、デンドライトショートで「大クレーム」になります。電流、細孔径、細孔体積、電解液特性などを組み合わせれば、電極活物質「奥」部の濃度について定量的な数値解が求められるような気がします。是非実電池に役立つ理論に興味がある方は方程式を立てて検討してみてください。
 Fig.97は、活物質「奥」部の電解液希薄化によるデンドライト析出の様子を図説するために、「第11回Fig.65 デンドライト析出模式図」を書き直しました。不適切な充電をすると電極「奥」部でリチウムイオン濃度が低く、極端になると濃度が0近辺になり、その位置に電極活物質が残っていても充放電は出来なくなります。正極では放電時に起き高率放電で理論容量が取り出せない理由です。負極では充電時に起きデンドライト発生の理由です。
 低温特性で、極端に高率放電特性が低下、あるいは負極上にデンドライトが発生する場合がります。Fig.97―図5のように、極端に塩濃度が低下すると、凝固点が上昇し、1molでは凝固しない温度でも、凝固している可能性を考慮する必要があります。知人に、電解液中の塩濃度と凝固点上昇のデータ探しを依頼しましたが、見つかりませんでした。どなたかデータをお持ちの方は教えていただけませんか?
     <各種電解液/塩濃度/凝固点>
 <結論>元々の濃度、つまり電極表面での濃度に対し、電極活物質「奥」部が1桁薄い濃度になれば、「リチウム金属析出」が電極表面で起こる、3桁低い濃度になれば、「負極反応電流」はほとんど「デンドライト析出・成長」になります。




Fig.97 電極「奥部」希薄化起因のデンドライト発生

3)次世代電池:合金系負極の課題解決法

 「10月度」の雑誌・新聞記事について紹介及び所見を整理しました(Fig.98)。
 「京セラ(株)」が派手な発表をしました。「KRIワークショップ」で取り上げられているので別途報告しますが、直観的には鉛蓄電池での「極板製造工程(練塗行程)」と同じと思います。「バインダーレス」にするために、鉛蓄電池で成功しているように集電体を格子、穴あき、エクスパンド形状にして、活物質同士で集電体を挟むような工夫がされているかもしれません。「太陽電池」との組み合わせで住宅用だから急速充電の心配はないし、急速放電の必要もないと言う「使用制限」で成り立つ電池と思われます。1次電池とは違い2次電池では、ある速度の入出力、充放電を出来る設計にすべきで、使用条件を厳しくしてユーザーを制限する電池はビジネスとしての発展はないと思います。鉄オリビンで安全と言っても、市販の急速充電器で受電されて大丈夫でしょうか?
 吉野さんのノーベル賞は電池関係者また旧知の方の受賞で大変喜ばしく、私にも何故かお祝いのメールが10通ほど届きました。西さんとのダブル受賞でなかったのは残念ですが、所属機関の応援の差を感じました。
 「秋の電気化学会」第2日目の要約を作成しました(Fig.97)。「負極亜鉛」が国プロでも取り上げられ、今回発表が増えてきていますが、昔から乾電池の2次電池化と言うテーマで多くの研究者が失敗しています。前述のように私もニッケル亜鉛2次電池でデンドライトショートのクレーム処理をした経験があります。昔失敗した解決策に類似した研究では解決できないと思います。フッ化物系は現状では全く評価出来ないが、このような企業では認められないような成果が見えない研究は国プロでする意義があると応援します。
 <余計なことですが>今回も国プロ関係で高度なつまり非常に「高価な」装置を使って、従来想像しかできなかった現象が実際に計測できたと言う発表が多数ありました。製品開発に繋ぐ意識がなければ、経産省の資金援助でする意義はないと思います。




Fig.98 10月度 新聞と雑誌記事の紹介と評価



Fig.99 2019年電気化学会秋季大会 第2日目

 シリコン負極は体積変化が大きく、実用化できないと指摘しましたが、その解決法を提案します。Fig.100に図示するように、充電により体積膨張した状態の大きさ・形状に、Si合金粒子を篩膜で被覆します。篩膜の目は「リチウムイオンは透過するが、電解液は通過できない」サイズの網目を持った篩膜とします。充電時にはリチウムイオンは通過するので、篩膜内部でSi粒子と合金化し安定貯蔵出来ます。放電時は合金からリチウムイオンが離れ、篩膜を通過して外部で溶媒和されます。この間篩膜の内部に電解液が浸入しないことが重要です。浸入すれば、Si合金周囲にSEIが出来てしまい、放電により剥離し「滓」となり、篩膜の内側に「滓」が充満してリチウムイオンは動けなくなります。なお、中空状態の膜は非常に難しいので、SiLi合金になった、つまり充電状態の活物質を出発物質として、それを篩膜で覆う行程の方が良いでしょう。疑似的に補助材料で合金サイズにして後に除去すれば、より現実的な製造工程と思います。
 この考え方は、第4項の「新規な電池理論」の延長で思い付きました。篩膜にはアモルファスSiOI、SiCxが候補になります。



Fig.100 Si合金極の膨張収縮の解決方法


4)新規な電池理論:外側配置片持ちモデル

 リチウムイオンが「カーボンナノチューブ(CNT)」内で安定に存在出来る位置を、中心からの距離を規定して、平面から立面まで計算しました。リチウム個数で換算すると、「LiC6」は確実、「LiC4」が可能性ありの結果が得られました。さらに高容量化を得るために、カーボンナノチューブの外側、いわゆるカーボンナノチューブ技術用語で「バンドル」と呼んでいる空間を想定しました。カーボンナノチューブを電解液に浸漬すれば、充電時にカーボンナノチューブから供給される電子により電解液が電気化学反応で分解しSEIが形成され、いずれ「滓」となり、電池としては使えなくなります。本計算では、カーボンナノチューブ間の「バンドル」も後述する「篩膜」により電解液と接触しない環境が成立しているとして計算しました。「篩膜」がある条件下での計算であることが大前提です。
 Fig.101に図示されるように、カーボンナノチューブの外側にリチウムイオンを配置しました。内側のリチウムイオンとの位置関係を2種、リチウムイオン数を2個と4個の配置条件でカーボンナノチューブ壁からの距離に応じて、0.01nm毎に計算しました。無論この計算においても「金属リチウム」が析出しない範囲で、第8回第4項で計算した「金属リチウム」の安定化エネルギーも図示しました。




Fig.101 外側配置片持ちモデル


 Fig.102、103の結果のように、カーボンナノチューブ壁から2〜3nmの位置で安定に存在出来ることが判りました。つまり、カーボンナノチューブの壁の裏表に存在することが計算化学では立証できました。この外側配置の計算でも「リチウム金属」ではない、独立した「リチウムイオン」が存在できることを示しており、「クラスター論」の誤りを立証したことになると考えています。
 この結果をリチウムイオン個数に換算すると、「LiC2」になり、重量エネルギー密度では、現行グラファイトの「3倍」になります。グラファイトは体積効率が良いので、体積エネルギー密度では、「2倍」程度と推定しています。ギリギリですが、「次世代負極」としての要求性能は満たしていると思います。
 昔話の項で書くべきことですが、この計算をしていた頃に、国プロ延長に対し、当時そして今でも学会で主流になっている「クラスター論」が大きな障害であり、計算だけでは翌年度の支援が受けられないことが判ったのですが、「時既に遅し」でした。NEDOの指示により資金稼ぎのために無理矢理「実験計画」を提出しました。電池実験の専門家である私が、出来もしない「実験計画書」を書くことに人生最大の悔しい思いをしました。今思えば「実験計画書」など提出せずに「計算化学」だけで突っ張るべきであったと後悔しています。



Fig.102 外側配置モデル2個の計算結果



Fig.103 外側配置モデル4個の計算結果


 <結論>
 ・ 「片持ち論」の計算で、カーボン壁で「LiC2」が成立し、現行グラファイトの「3倍」容量が立証された。



5)昔話:ラミネートシール その1

 この章は私の「昔話/リチウムイオン電池誕生頃の逸話」で、気軽にお読み下さい。
 昔苦労した件でラミネートシールがあります。電池では「寿命」と言う人間臭い表現が使われ、「期待寿命」を仕様書に記載します。実際に所定の年数保管し定期的に充放電試験をして決定すべきですが、何年もかかる大変な作業になるので、最も影響の大きい「劣化因子」を特定し「加速試験」で寿命を予測します。ラミネートの場合には内部に入る「水分量」あるいは外部に逃げる「電解液減量」で寿命が決まるので、断面部を透過する量を特定しました。
 ポリプロピレンの素材としての水分透過量はデータブックに載っています。フィルム面としての透過量(速度)ですが、素材としての評価値と言い換えても良いので断面積方向でも同じと解釈しその値を引用しました。各種の高分子フィルムの一覧表で酸変性ポリプロピレンの遮断性が高いことが解りました。各種気体の内「水」は分子としては小さい水素よりも透過が速いことが意外でした。室温で液体であることがその理由と考えました。供試したアルミラミネートは、外側からポリエステル(強度)6μm/アルミニウム箔(透過遮断)30μm/酸変性ポリプロピレン(耐電解液)50μmです。融着部の断面をシール面積、融着部の長さをシール長とすると水分透過量を求める式が成立します。
   水分透過量=シール材質透過係数×時間×シール断面積×1/シール長(×t℃蒸気圧×相対湿度)
 ラミネート袋にリチウム金属を封入し、恒温恒湿槽(60℃相対湿度95%)にて保管し重量変化を測定しました。浸入した水分は全てリチウム金属と反応すると考え、重量変化量から水分透過量を算出しました。経過時間を変化させると見事に直線関係が成立しました。シール長、シール面積などを変化させて測定すると、やはり上式が成立することが確かめられました。20℃との比較をすると、「10℃で2倍」つまり60℃なら16倍のアレニウス則の簡易表現が成立することも解りました。「60℃相対湿度95%」の加速条件を「25℃相対湿度65%」の常温常湿の標準環境に換算すると、約30倍に相当します。予め「水分含有量」と電池性能との関係を求めた実験により、加速試験で「期待寿命」を決定することが出来ました。
 4カ月の加速試験で10年の期待寿命を仕様書に掛けることになり、実務的には非常に便利です。この「10℃で2倍」の簡易則は、理論家からはお叱りを受けそうですが、非常に役立つので推奨します。
 シール条件・作業標準として温度、押圧、シール幅などはシール後試験片での引っ張り試験で決定しました。作業標準を守ることで品質の安定を図りました。
 電解液を封入し、重量減から求めた同様の試験で、電解液・溶媒の透過量も確認しました。電解液についても上式が成立しました。外部は電解液がないので透過量は水より多くなりました。予め「電解液量」と電池性能との関係を求めた実験により、期待寿命期間内で、いわゆる液枯れを起こさない電解液量を決定できました。
 「ラミネートシール」について十分な知見がなく困っていた時に、薬品会社の開発部長OD氏と会食しました。薬品ではシールで密封していることが多く、水分・酸素の透過遮断が非常に重要なはずと気が付き話題にすると、薬品業界では薬剤自体を開発・製造し、それを容器に入れる作業は協力会社に委託しているとのことで、早速パップ剤を委託している加工業者を紹介してくれました。「富山の薬売り」の伝統から加工業者は、富山地方に多く存在し、薬品会社一社の専用ではなく数社から委託を得ているとのことでした。了解を取っていただき工場を見学させていだきました。私が期待していたスループット以上の速度でパップ剤(貼り薬)がシールされていました。隣のラインではスーパー向けの豆腐がシールされており驚きました。豆腐のパックでは水が多いのでシール部に水がかかるので難しいと話されていました。「百聞は一見に如かず」で、この見学と担当技術者との質疑応答は非常に役に立ちました。前述の透過量・シール不良についても多くの知見が得られ、ラミネートシールに自信を持ちました。また、量産設備としてのシール装置に関しても、非常に有益な知見が得られました。
 しかし、パップ剤のシールラインを見ていて電池との違いに気が付きました。シール剤には電極端子がありません。相当数のラミネート電池を試作し恒温恒湿槽に保管し充放電試験で評価をすると、試験データにバラツキが生じました。つまり、不良品が頻発しました。 (続く)


6)おわりに

 1)四季桜、紅葉狩りを記載しました。
 2)ターフェル式を用いて、電極「奥」部のリチウムイオン濃度が希薄化した時にデンドライトが発生することを解説しました。次回は発生原因として活物質表面移動が律速となる場合を図説します。
 3)電気化学会秋季大会第2日目の調査報告を載せました。合金(Si)系負極の課題を克服する方法を解説しました。次回は全固体電池・固体電解質についての所見を記載します。
 4)カーボンナノチューブ外側に配置した場合の計算結果により、「LiC2」つまり現行グラファイトの「3倍」容量を立証しました。次回は計算結果の中間まとめをします。
 5)ラミネートシールに関する経験を記述しました。次回は端子部シールについて記載します。



第14回(2019/11/7)



1)はじめに:曼珠沙華

 吉野さんノーベル賞受賞おめでとうございます。吉野さんの思い出話を5)昔話に記載します。ご笑覧下さい。

 「11月11日」は何の日かご存知ですか?「電池の日」です。11月11日を漢数字で書くと、+(プラス)―(マイナス)+(プラス)―(マイナス)となり、電池の正・負極を表すことから、電池工業会が11月11日を「電池の日」に制定しました。
 「マンジュシャカ恋する女は マンジュシャカ罪作り」山口百恵の唸る程の声量の前に、ただ平伏すのみ、正に「山口百恵は菩薩である:平岡正明著」です。曼珠沙華「ゲ」と読まずに「カ」と読ませたのは、濁音は「菩薩である山口百恵」には相応しくないからでしょう(サンスクリット語manjusakaの音写)。彼岸花は昔から庭に咲いていましたが、毒性のために両親が嫌っていたので邪険にしていました。彼岸花が曼珠沙華のことと知り大好きになりました。増えたり減ったりし、今年は40本程咲きました。毎年律儀に彼岸の頃に咲くので感心していたのですが、今年は珍しく10日程遅くなりました。やはり、異常気象でしょうか?庭の10本程が白い花です。元々は全て朱色で突然変異でしょうか?歌詞では「白い花さえ真っ赤に染める」とあります。数では少ない白は、今年もいつも通りにお彼岸に咲きました。
 東海一の彼岸花の名所、知多半島矢勝川沿い東西1.5kmに渡る300万本の彼岸花を観に行きました。1990年地元の住人が、新美南吉の「ごんぎつね」の記述を実現しようと、一人で草刈りし球根を植えたのが始まりで、協力する人が増え、見渡す限りの朱色の絨毯になっています。彼岸花は葉のない頼りない茎の上に華麗な花が咲く不思議な形で、その粛然とした姿が菩薩=山口百恵=と重なります。1本では寂しい花で、このような絨毯になって華やかさが際立ちます。一部に白色、黄色が不自然にまとまって咲いています。品種改良した球根を植えたと推察しました。朱色の絨毯の中に突然変異により「白色」に咲いた様子は認められませんでした。一部花の少ない背の高い雑草が目立つ所があります。陽当り、性質と思いましたが、広範囲で不規則なので、散歩している方に伺うと、「草刈りをしないと草に負け花が咲かなくなるので、近所の小学生を動員して夏に草刈りをして来たが、年々難しくなって来ている。」とのことでした。やはり、自然に任せるだけではこれだけの観光名所は維持できず、小学生が縁の下の力持ちであると知り複雑な思いになりました。遊歩道を一周して持参したカキピーとドリップコーヒーの香りで至福の一時を過ごしました。
 隣接する「新美南吉記念館」に立ち寄ると、前庭で小学校低学年の遠足の生徒達が昼食を食べていました。遠足にはもってこいの場所です。「ごん狐」は南吉18歳の作品で昭和31年から小学校の教科書に採用されています。昭和13年安城高等女学校教師になり、安城に下宿して精力的に執筆活動をし、地元の名士「都築弥厚」の伝記執筆にも取り組みました。「都築弥厚」は、江戸時代後期水不足に悩まされる安城に、矢作川から水を導く大規模な用水を計画したが、最も恩恵を受けるはずの農民からの猛反発で計画は断念させられました。没後50年に県の事業として、後に日本3大農業用水と称される「明治用水」が完成します。先駆的な提案は誤解から保守的な反対に会うと、実現するまで50年必要と言うことでしょう。ただし、ドッグイヤーと呼ばれる時の流れが速い現代では5年程度ではないでしょうか?安城は大正時代には農業王国となり、「日本の丁抹」と称されるようになりました。「丁抹」には、開発中のソニー互換ラミネート型リチウムイオン電池を携帯電話メーカーに売込むために出張したことがあります。「丁抹」読めますか?農業王国「デンマーク」のことです。
 私は今も東洋システム(株)東海営業所にお世話になっています。事務所の窓から「明治用水中井筋」が見え、昼休みの散歩道になっています。紫陽花が植えられ、蛍の生息地として地元に大事に維持され、途中に観賞用の水車もあります。用水の水をくみ上げて、最大109V・102Wの発電をし、蓄電池に電気を蓄えています。軽量小型の必要がないのでリチウムイオン電池の必要はなく、安価な鉛蓄電池です。このような簡易的な非常用蓄電システムを各所に設置すれば、千葉県で起きたような大規模停電の時に役立つのではないでしょうか?このおもちゃのような発電システムでは焼け石に水ですか?


2)電池の基礎:デンドライトの電気化学(1)ネルンスト式

 大学で「電気化学」を習った方には復習です。大学で「電気化学」を習い、一応は修得していると自負していましたが、実際の「電池挙動」に適用した時にずれを感じました。本コラムでは、「電池挙動」を私の知識の範囲での電気化学で解説します。電気化学そのものを学習したければ、玉虫怜太著「電気化学」などで系統立てて勉強すべきです。蛇足ながら、私は35年振りに電気化学的解析をするために、「TK大KM准教授」にお願いし、個別指導を受けました。正しく電気化学を学びたい方がおられればKM准教授を紹介します。またKT大AB研究室は、吉沢四郎先生の教科書など昔から「電池の電気化学」の権威ですが、最近は滅茶苦茶忙しそうです。一般論ですが、電気化学は金属の腐食・防食から出発しているので、この分野の方は基礎がしっかりしています。最近電池分野に参入した方は、材料出身の方が多く、革新電池の研究には向いていますが、実際に電流が流れる、つまり速度論が重要な「電池挙動」に関する解説については不安を感じます。



Fig.89 リチウムイオン濃度と電極電位


 電気化学の有名な公式=ネルンスト式、電解液側に於いて反応種が反応面に存在=衝突=する確率、つまり電解液中の反応種の活量≒濃度、つまりリチウムイオン濃度と平衡電位の関係は、Fig.89のようになります。鉛蓄電池の場合には、全反応は、
   Pb + PbO2 + SO42-  ⇔ 2PbSO4 
となり、電解液中の硫酸イオンの寄与が非常に明確で、実際の硫酸濃度を変えれば電池電圧が変化します。
一方、リチウムイオン電池の全反応は、
   Cn + LixMO2 ⇒ LiyCn + Li(x-y)MO2     ・・・・・(14−1)
        <グラファイトならn=6が最大で、ハ−ドカーボンでは変化します。>
式(14−1)のようになり、全反応にリチウムイオンの項はなく、濃度依存性はないように見えます。電解液リチウム塩濃度を変えても電池電圧に変動はなく、この事がリチウムイオンの電極反応面の濃度変化を考慮し忘れてしまう理由です。
 蛇足ながら、電解液に関しての理論を取り扱っている研究でも、電解液濃度が変化するとイオン伝導度が変化することは考慮されていますが、電極反応電位が変化することに関しては触れていないことが多く、学会発表などで指摘しても、回答をはぐらかされることが多くがっかりします。45年程前に、シュミレーションで著名なJ.ニュ−マンが鉛蓄電池の充放電曲線について近似した時に、表面での電極電位の項を理解されていなくて、私の上司が手紙を書いたのですが、無視されていました。最近は修正されているようです。電極表面での反応種濃度が変わる場合にシュミレーションをされる時には、ネルンスト式を忘れずに考慮するべきでしょう。
 蛇足ながら、低速充放電をシュミレーションしても無意味です。放電深さ(DOD)=充電状態(SOC)で一義的に決まります。高速充放電時の平衡電圧からの電圧のずれ、理論容量からのずれをシュミレーションすることに意義があり、その場合には電極反応界面での活性種濃度が最も重要です。この条件を記載していなかったり、無視できるとした発表を聞くと本当にうんざりします。
 正極・負極それぞれの反応は、
   正極 : LixMO2 ⇒ Li(x-y)MO2 + yLi+(溶媒) + e- 
   負極 : Cn + yLi+(溶媒) + e- ⇒ LiyCn + (溶媒) 
となり、リチウムイオン濃度を反映します。
   電極電位 : E = Eo ― (RT/ZF)ln(Cx)
   濃淡電池電圧 :  Ex = (RT/ZF) ln{(Cx)/(Co)} = 59.2mVlog{(Cx)/(Co)}
濃度が10倍で59.2mV変化するので、Fig.89の直線の傾きを「約60mV/decade」としてあります。
 本稿のテーマである副反応は
   リチウム金属析出反応 : Li+(溶媒) +e- ⇒ Li(金属) + (溶媒)
であり、電解液中のリチウムイオン濃度への依存性は同じになり、図示はしませんが平行線になります。(溶媒)は通常の希薄溶液では両辺でキャンセルされるので書く必要はありません。
 理論では電解液濃度は対象とする反応系全体が均一で、最初の電解液濃度が保たれていることが前提です。では、実際に電流が流れている時、電流が非常に小さくイオンの移動量が電流よりもはるかに大きければ、上の前提は保たれているので、リチウムイオン濃度は時間的にも空間的にも均一になり、何も考える必要はありません。しかし、電流が大きく電解液中のリチウムイオン濃度に差が生じる場合、充電では正極から電解液中にリチウムイオンは溶出し負極に挿入されます。イオン移動は3種の駆動力が働きます。
   イオン移動 = 対流 + 拡散 + 電気泳動
密接している電池内部では「対流」は無視できるとし、電流が「電気泳動」での移動量より早くなると、電極反応界面でのイオン不足が生じ電解液中のイオン濃度が下がり、「拡散」も加わりイオンが移動することになります。拡散による移動量はイオン拡散定数と濃度差との積となります。逆に言えば、「濃度拡散」つまり濃度差によりイオン移動量を増やすことで所要の電流を達成します。セパ中のイオン濃度は初期投入した電解液濃度で変化なく、電極セパ側表面も同じ濃度で変化しません。例えば、最初の電解液中のリチウムイオン濃度が1mol/lであれば、セパ中および電極セパ側表面の電解液濃度は1mol/lに保たれます。一方、電極活物質の集電体に近い深部はイオン移動量が不足しイオン濃度が下がります。例えば、電極活物質深部でのリチウムイオン濃度が0.1mol/lに下がれば、60mV変化することになります。0.01mol/lの場合には、120mV変化します。
 このように、電極表面と電極深部で濃度が違うと、それぞれに対し異なる電極電位があると言う考え方は、決して一般的ではなく、理論を取り扱っている専門家でも、電解液濃度変化でイオン伝導度が変化することは考慮されていますが、電極電位が変化していることを記載している方は少ないと思います。
 実験では多くの方が測定しているように濃度が異なる電極反応表面になった場合に各表面で電極電位は異なりますが、正負両極端子で測る電圧は1つしかなく、その電圧は第2回2)項に記したように、正極に対し最大の電圧が測られます。(続く)


3)次世代電池:合金系負極の課題と対策

 「9月度」の雑誌・新聞記事について紹介及び所見を整理しました(Fig.90)。
 相変わらず、トヨタ自動車の「EV化前倒し」関連ですが、中国「CATL」の増産が前倒しの引き金になっていると言う解析です。トヨタ自動車が当面のリチウムイオン電池のグループ内での開発・調達を放棄した事であり、私には不満が募ります。非常に重要な部品で、研究・開発はほぼ完成し、技術者も十分に育成・確保し、資金力も豊富なトヨタ自動車は、自社内で開発・量産をすべきです。「日本の電池産業」生き残りのためにも自社内調達の再検討を願っています。なお、先月記した「中国NEV規制」に「HEV」が認められると言う「トヨタ自動車関係者」の発言の裏は取れていません。本2件についての最新情報をご提供いただけると助かります。



Fig.90  9月度 新聞と雑誌記事の紹介と評価

 自動車用で寿命になった電池を再利用しようとする事業が複数あります。通常の劣化で容量減少した電池と、デンドライト発生で性能低下した電池との判別は出来ません。実車試験電池ではデンドライトが原因での性能低下は珍しくありません。デンドライトが電池内部に多数発生している電池を、温和な条件での使用だから使い続けて良いと言うのは、「安全に死んでもらう」と言う「電池寿命の鉄則」に反しています。電池を熟知している方が事業推進しているのでしょうか?事故発生・紛糾時に立ち向かえるのでしょうか?「想定外」などとは言わせません。
 秋の電気化学会に参加しました。第1日目の要約を作成しました(Fig.90)。正極の過剰容量について、遷移金属の価数変化では説明できず、酸素欠損と関連することが衆知の事実になりましたが、酸素の欠損量では過剰容量が説明できないことも漠然と認められるようになりました。しかし、材料の専門家の発表では良く見られる反応式を不要とする考えは間違っています。反応式を質問すると、検討していなかったとの答えが返ってきて、唖然とします。材料を変えたら「偶々増えた」ではなく、電極反応式をファラデー則に従って検討し、容量を確定すべきでしょう。電池を取り扱うのですから、「電気化学」も大切にしていただきたいと思います。
 数年前から<正極空隙論>を提唱しています。説明が面倒な場合には<正極佐野理論>と煙に巻いています。
 ★正極活物質でも結晶欠陥とは無関係に、単純に物理的空隙があれば、そこにリチウムイオンが蓄積する。
 説明してもほとんどの方に理解されず、無視されるので考察を中断していましたが、コラム終盤では<正極空隙論>を解説できるように理論の完成を目指したいと思います。



Fig.91 2019年電気化学会秋季大会 第1日目

 次世代負極として第8回Fig.44に記載したように、金属負極の他にSn、Siなどの「合金負極」も注目を浴びています。
   5Si + 22Li+ +e-  ⇒  Si5Lizz    ※Snも同じ。
反応式から解るように、電解液中のリチウムイオンが電子を受け取りSi金属と合金化すると、数倍体積膨張します。Fig.92に図示するように、この体積膨張により、SEIが充放電するごとに剥離し、「滓」となり、イオン移動が阻害され、電池として機能しなくなります。この対策として元のSi粒子を微細化する研究が多く実施されていますが、Fig.92に寸法が記入されていないように、ナノ・ミクロン・ミリなどの寸法で現象が違うはずはなく、多少のサイクル稼ぎにはなりますが解決策にはなりません。薄膜・ナノ粒子にして結果が良くなったと言う発表は製品化を意識しての研究としての価値はありません。
 10年以上前になりますが、FS社が仙台にSn負極電池の試作工場を建設しましたが、製品発表の直前にキャンセルしました。理由は発表されなかったのですが、充放電に伴うSEI剥離、「滓」の蓄積が止められなかったと推定しています。カーボン負極の一部にSiを含有されている電池も製品化されていますが、容量向上の数値から推定すると、Siの利用率は非常に低く、Si負極とは言えません。3倍の高容量化を目指すのであれば、SEIのサイクル毎の剥離脱落に対する対策が必須です。次回私の案を披露します。



Fig.92 合金(Si)系負極の膨張収縮によるSEIの剥離


4)新規な電池理論:非対称モデルの計算結果

 リチウムイオンが「カーボンナノチューブ(CNT)」内で安定に存在する位置を、中心からの距離を規定して計算しました。非対称モデルでは、水平断面において中心からの等距離の円周上で安定に存在する位置を計算しました。リチウムイオン第1個目は任意の点で同等ですが、第2個目は第1個目に対し円周上のどの位置に存在するかを、近接した状態を初期構造として計算しました。近接した構造は決して安定ではなく、リチウムイオン同士は反発して離れていきます。不思議なことに、180度反対側が最も反発できる位置ですが、その位置が最大の安定ではなく、ある角度を持った位置が安定との計算結果になりました。この結果は丁度4個のリチウムイオンを均等に並べた位置に近く、第10回Fig.63で図示した時に4個が一番安定であった結果と一致しています。この角度、約90度が一番安定になると言う結果を深く理解することなく、スパコンの計算結果を鵜呑みにしました。リチウムイオン同士のファンデルファールス力を反映しているのかもしれませんが、この結果が重要であることを当時の私に意識がなく、議論と考察が不十分になってしまったことを後悔しています。
 近接は安定ではないと言う結果は、「クラスタ論」を否定するこれまでの結果とも一致します。リチウムイオンはナノオーダーの細孔内では壁から一定の距離が離れ、お互いは反発した状態で安定化する。リチウムイオン同士が凝集することはなく、金属結晶とは明らかに異なり、凝集・集合と言う意味を含む「クラスタ」と言う表現は誤りです。逆に言えば、カーボンナノチューブが最適解とは言えませんが、適切な細孔であれば、金属ではない状態でグラファイトの「理論限界372mAh/g」を超える容量が得られることが示せました。しかし、グラファイトの1.5倍程度であり高容量化には不十分です。次回高容量になる計算結果を紹介します。



 

  Fig.93 リチウムイオンの非対称モデル              Fig.94 非対称モデル計算結果



5)昔話:吉野さん

 この章は私の「昔話/リチウムイオン電池誕生頃の逸話」で、気軽にお読み下さい。
 吉野さんノーベル賞受賞おめでとうございます。
 ここ10年程はすっかり疎遠になってしまったので、最近の吉野さんのことは書けませんが、15年以上前のことを思い出話として、記憶を頼りに記載します。企業間の交渉内容、技術内容については祝賀の時に相応しくないことも多いので、後日記載することにします。
 吉野さんとの最初の出会いは思い出せません。リチウムイオン電池と言う言葉がなかった25年以上前に上司のIB部長とAK社のKB氏とが意気投合し、その縁で吉野さんを紹介されたはずですが思い出せません。明確なのはNS氏のメモで証明される会合で、OT氏の仲介で1993年8月に5名が新橋で会食した時に同席しています。第5回5)項に記したように、開発した電池の性能については熟知し感心していましたので、お付き合いするようになり、前述の臭いセンサの開発では、吉野さんがリチウムイオン電池の実験設備を依頼していたKR社に実験装置を置かせていただき、部下のNNが実験をしました。その報告会を兼ねて情報交換会をしていたことは第11回5)項に記載通りで、吉野さんとは頻繁にお会いしていました。
 YB社がAK社と縁が切れた後に、東芝(株)との合弁会社ATB社の開発部長になられ、同業他社であるにも拘らず東芝叶崎工場内にあった工場を見学させていただきました。他社工場に間借りした状況に申し訳ないと思いつつ、是非ともリチウムイオン電池製造工場及び設備を観たいと思い、無理を承知でお願いしました。私が見学したことがある半導体工場と比較すると、想像していた最先端工場とは異なり、古く・汚く、ドライルームも簡易的で、これならYB社でも十分に太刀打ちできる工場が作れると思いました。当時リチウムイオン電池に関し何でも相談に乗っていただき、頼み事には本当に気軽に応じて助けて頂きました。
 気軽に何でも首を突っ込まれると言う印象があります。一番の思い出は、1999年7月に、部下MUの企画で私の小田原実験室の仲間プラス協力者10人程で、ライトアップした箱根登山鉄道「あじさい電車」に乗り会社の保養所で一泊する小旅行にお誘いすると、他社のそれも全くの私的旅行に快くお一人で気軽に参加されることに驚きました。仲間達とも直ぐに打ち解けていただきました。夜の2次会にもいつもの調子でカラオケを楽しまれていました。吉野さんはカラオケで興に乗ってくると、誰彼無しに隣の方に話し掛け仲良くなるので、傍で見ていていつもハラハラしていました。旅行の写真を見ると吉野さんは誰と並んでも、いつも笑顔で写っています。この頃にはリチウムイオン電池の成功を確信されていて余裕の笑顔であったのだと思います。
 なお、この登山電車は台風19号で土砂崩れが起き運休になっています。紫陽花は本来観光用ではなく、土砂崩れ防止のために植えられているとのことでした。一日も早い復旧を願っています。この旅行での小雨の中での紫陽花と蛍の印象が素晴らしく、紫陽花が大好きな花の一つとなり自宅の庭にも植えています。
 吉野さんは非常に人情味厚い方で、私が諸般の事情で名古屋に転勤し、一人寂しい思いをしていた時には、SN社NS氏と名古屋に慰問に来て下さいました。長良川の鵜飼を観て、岐阜柳ヶ瀬で宴会をしようと言う企画でした。吉野さんは都合が出来、夜からの参加となり、私が不慣れなために当日が花火大会と重なっていることに気付かず、大変な混雑の中を岐阜駅から非常に苦労してホテルにたどり着くことになりました。私の不手際に対し一言も不満を言わず、いつもの笑顔で柳ヶ瀬の夜を楽しんで下さいました。
 お茶目な人柄でもあり、2004年紫綬褒章を受章された際には、女優「岩下志麻」と一緒に写っている写真を嬉しそうに見せ、この写真を宝物のように大事にされています。ノーベル賞受賞ではどなたと一緒の写真を嬉しそうに見せ、宝物にされるのでしょうか?


6)おわりに

 1)曼珠沙華に関わる話、山口百恵・新美南吉・明治用水を記載しました。
 2)デンドライトの電気化学その1としてネルンスト式で電極表面濃度と電極反応電位との関連を解説しました。次回はターフェル式でデンドライト発生を解説します。
 3)電気化学会秋季大会第1日目の調査報告を載せました。合金(Si)系負極の課題を解説しました。次回は同第2日目の調査報告とSi系負極の課題の克服策を提案します。
 4)カーボンナノチューブの水平断面上の位置について、非対称モデルでの計算結果を記載しました。これまで同様「クラスタ論」を否定しました。次回は現行を上回る高容量な計算結果を記載します。
 5)ノーベル賞受賞の吉野さんとの1993年から2004年までの思い出話を記載しました。次回は「ラミネートシール」を解説します。



第13回(2019/10/7)



1)ノーベル文学賞

 読書の秋を前に夏休みから、ノーベル文学賞候補「村上春樹」の長編小説「騎士団長殺し」に挑戦しました。数多くある作品の中から、知人の勧めもありましたが、一人称の主人公が「画家」と言う設定に関心を持ちました。何故かと言うと小中学校で成績は良かったのですが、「図工・美術」は苦手で、リンゴを描くとミカンに、猫を描けば犬にと、自分でも絵の才能はないと諦めていました。画家が対象にどう接しているかの不思議が、この小説でうかがえ最後まで読み切ることが出来ました。長編の文学小説を完読したのは30年振りかもしれません。
 村上氏の作品をたった一つ読んで感想を書くのはおこがましいこととは承知の上で、画家としての人間洞察力、奇想天外、スリリング、複雑に絡み合った人間関係など、最終の決着はどうなるのかと、はらはら、どきどきで夢中で読んでいたのですが、終盤から主人公の「幻覚」がそれらの「絡み」を一気に片付けてしまい、あっけなさを感じました。劇画タッチで若い方には好まれるのかもしれません。ストーリーの彩りの「音楽」、「車」、「料理」に関する注釈には、その博識振り及び取材の丁寧さに驚かされました。表現の小気味良さは秀逸で「立派な翼をそなえて、東京から大阪まで二時間あれば空を飛んでいける『オムレツ』」。どんな「オムレツ」なのでしょうか?テレビの食レポで若いタレントが「甘くて美味しい〜。」との表現とは、雲泥の差があります。ノーベル文学賞候補者の作品を「オムレツ」だけで評価するのは失礼ですが、随所に凡人には思い付かない表現が多く、翻訳は大変だろうといらぬ心配をしてしまいました。
 10月7日医学生理学賞、8日物理学賞、9日化学賞、10日文学賞、11日平和賞、14日経済学賞が発表される予定です。ノーベル賞受賞者、候補者と私との接点を思い返してみました。
 白川英樹氏: 2000年受賞。東工大⇒筑波大。恩師のAY氏の紹介でお世話になっていたYM氏の
        所属研究室(通称ゴム研)で受賞対象の「導電性高分子」の研究をされていたので、
        AY氏からよく話を伺っていました。定年後は一緒に家庭菜園をする約束をしていたのが、
        受賞により忙しくなりできなくなったと嘆かれていらしたそうです。発表の瞬間まで本人に
        知らされていないことを知りました。
 西澤潤一氏: 光ファイバーの発明他。東北大総長など歴任。2018年10月21日(92歳没)。
        一時期、西澤発明の実用化開発を担当しました。応用物理学会の特別講演後恒例の
       「西澤詣で」で私の順番になると、先生はわざわざ立ちあがり丁寧に頭を下げてくださいました。
        一介の素人研究者に対しても、筋を通す「心遣い」に感激しました。その様子を見ていた
        先生方からは一目置かれるようになり、面会予約が簡単にできるようになりました。
 遠藤守信氏: カーボンナノチューブ発明者。信州大。25年程前にカーボンの電子デバイスへの応用に関する
        委員会でご一緒し、カーボンについて教えていただきました。
        当時は「カーボンナノチューブの発明者」とは知りませんでした。
        発明された「気相成長カーボンファイバー」はリチウムイオン電池負極添加剤として
        昭和電工(株)で実用化されました。紫綬褒章の祝賀パーティは長野県・市後援で盛大に開催され、
        ノーベル賞受賞の前夜祭のような賑わいでした。後述する私が主催した「NS氏慰労会」の
        主賓をお願いしました。
 飯島澄男氏: カーボンナノチューブ発見者。当時は日本電気(株)。日本電気(株)がつくば学園都市に基礎研究所を
        設立した時に、大学の先輩であるMM部長に立ち入り禁止の研究所内を見学させていただき、
        巨大な電子顕微鏡の前で座られていた飯島氏を、偉大な発見者として紹介されました。
        この時「カーボンナノチューブ」との言葉を聞いた記憶はありません。
振り返ると、「カーボンナノチューブ」とは少なからぬ因縁があるようです。
 さて、毎年化学賞に「リチウムイオン電池」も取り上げられています。数年前までは9月末に某新聞記者から電話があり、受賞確定前に記事を書き上げる必要があると言って、今年はどうでしょうか?と、技術内容・候補者の素顔などについて問い合わせがありました。毎回何故か宴会途中に掛かってくるのでほろ酔い加減で答えてしまい、不味いことを言っていなければと気に掛かっていました。
 さて、今年の化学賞発表は9日で、コラム締切りを過ぎているので、上記は的外れになるかもしれません。(笑)


2)電池の基礎:デンドライトショートに関するまとめ

 電気化学会で正極劣化の発表があり、充放電曲線に「デンドライト発生」と思われる挙動があり質問した所、実車試験であるからデンドライトショートは当然考えられますとの回答がありました。実際に実車試験後に解体して調査している現場の方達からすると、デンドライト発生は当たり前の現象で、短絡していなければ正極試験の結果には影響がないと考えているようでした。電池メーカーの技術者と話をしていると、デンドライトの発生の可能性は肯定しながら、問題にしている方が少なく驚かされます。
 デンドライトショートの「不思議」です。
  ・ 実車試験後の「解体電池」では時々見かける。
  ・ デンドライト自身が「充放電可能」で内部抵抗などの電気測定では検出できない。
    ※例外は後述します。
  ・ 短絡初期に「スパイク状の電圧降下」があるが、データを平均化する充放電試験装置では検出できない。
  ・ 短絡しても必ずしも「発火」する訳ではない。
  ・ 発火後は周囲と反応し、「金属」としては検出できないことが多い。
  ・ 放置することで、ショートさらにはデンドライトが消滅する。
 これらのことから、デンドライト発生は重視されませんが、市販されれば必ず発火事故が起こることを忘れてはならないと思います。
 最近はHEV電池が注目され試験電池もHEV用のパワー重視、つまり電極内に十分な電解液通路がある、電極活物質内にイオン濃度の欠乏は起きない設計です。パワーと言う理解し易い指標があり、正極の重点密度を下げると同時に負極も充填密度を下げるために、デンドライト発生は起きませんでした。
 しかし、EV用電池ではノートパソコン用、携帯電話用と同様に高容量化競争で、低率放電容量が評価基準になるので、充填密度を高めた設計となります。出力・パワー制限が外れているので、最適充電を忘れ詰め込み過ぎになっていることを見逃します。是非ともデンドライト発生について十分理解し、電解液劣化などを考慮して慎重な設計が望まれます。長期使用中にはSEIの残骸「滓」が流路壁に堆積し、初期より細くなるので、その影響は顕著になります。丁度、人間で不摂生な生活を送ると、血管にコレステロールが付着し高血圧症になる症状と似ています(笑)。デンドライト発生を侮ると発煙・発火の大クレームになります。
 蛇足ですが、活物質ナノ粒子化は電極反応面積を増やすことで電極反応過電圧は減少しますが、電解液流路が狭くなりイオン移動が不足します。急速充電では電極深部へのイオン供給が遅れ濃度差が生じ、電極セパ側表面にデンドライトが発生します。活物質ナノ粒子化は電解液分解によるSEIに頼っているリチウムイオン電池ではディメリットの方が多いと思います。


3)次世代電池:LDHによる亜鉛ショート防止

 「8月度」の雑誌・新聞記事について紹介及び所見を整理しました(Fig.84)。
 今月は夏休みのためか記事は少なかったのですが、重要な記事がありました。「中国NEV規制」が「HEV」抜きで始まったことは既報ですが、最近「トヨタ自動車関係者」からHEVがNEVに含まれると言う話が聞かれます。トヨタ自動車が自社のHEVでの優位性を保つために、特許・ノウハウの開放・無償譲渡と連携した「HEV普及キャンペーン」の可能性もあります。中国事情に詳しい関係者に問い合わせると、中国国内では全くその動きは感じられないとのことです。中国政府の方針変更は突然に起こるので、本件も全く予測できず困ります。最新情報をご提供いただけると助かります。
 第11回に予告し第12回で延期しましたが、「亜鉛負極デンドライトショート」を「日本ガイシ(株)」が非常に上手い方法で止められたのでご紹介します。EV用に相応しいとは言えませんが、安価な亜鉛(Zn)を2次電池負極として使えないかと言う研究は古くからされており、私自身も「第6回5)昔話」に書きましたように亜鉛極のデンドライトショートでは苦い経験があります。




Fig.84  8月度 新聞と雑誌記事の紹介と評価


 特許を基に紹介すると、Fig.84 左図のように、負極から正極までの全電解液中に亜鉛イオンが存在する場合には、亜鉛デンドライトはセパレータを通過して(セパレータを突き破るは間違い)、正極まで成長し、短絡=ショートします。正極側に存在する亜鉛イオンは優先して析出し成長します。しかし、Fig.84 右図のように、正極室に亜鉛イオンが存在しなければ、金属亜鉛はセパレータの負極側だけに析出し、セパレータの正極側には析出せず、短絡(ショート)は起きません。負極室と正極室とを分けているセパレータに「層状複水酸化物=Layered Double Hydrooxide=LDH」を用いることが、日本ガイシ(株)により発明され、WO2013118561A1など多くの特許が出願されています。LDHの製造方法・劣化防止・亜鉛イオン捕捉性などに多くの工夫がされ、ニッケル亜鉛電池しての実用化が間近いことが解ります。
 従来のニッケル亜鉛電池は水分解による減液防止でニッケル・カドミウム電池で実績のある酸素リサイクル方式を採用していますが、LDH使用電池では、正極室と負極室との電解液が交じり合わないことが必須なので、酸素透過が困難になり、構造上の工夫が必要と思われます。デンドライト成長に因る体積変化、反応集中、デンドライトの切断・孤立化については、従来の亜鉛極と同じことが起こり対策が必要です。チューブ上に編み上げたガラス繊維筒に2酸化鉛粉末を閉じ込めた「鞘」方式の電動フォークリフト用クラッド式鉛蓄電池が参考になると思います。これらの実用化への工夫を積み重ねることで、私が手古摺ったニッケル亜鉛電池を製品化できると思います。
 私がニッケル亜鉛電池を担当した当時はリチウムイオン電池が出現・普及する前で、エネルギー密度で他の電池より優れており、市場的に大きな魅力がありました。ニッケル正極を使うことで、コスト面での優越性は半減し、亜鉛の重さからの重量密度の欠点は本質的なので、可搬するEV用としては、リチウムイオン電池が出現した今日では優位性はないと思います。
 一方、亜鉛空気電池は正極も低価格化可能で、他の電池系とは比較にならない程に低価格になり、定置用としては最適で実現性も高いと思っています。
 亜鉛イオンを正極側に存在させないという「LDHの役割」は、「イオン交換樹脂膜」でも実現可能と思いますが、現状の「イオン交換樹脂膜」は電池と言う酸化・還元雰囲気では耐久性がないようです。セラミックス膜よりは高分子膜の方が取り扱い易く安価・実用的と思われます。電池業界に参入を試みている有機合成化学会社の研究テーマにはならないのでしょうか?
 なお、軽元素であるリチウムなどではLDHは難しいが、デンドライト成長を止めるのではなく、「ショートを止める」と言う概念は、リチウム空気電池でも非常に参考になると思います。




Fig.85  亜鉛負極のデンドライトショート防止


4)新規な電池理論:CNT半径2倍の計算結果

 リチウムイオンが「カーボンナノチューブ(CNT)」内で安定に存在する位置を計算しました。「第9回Fig.56」に図示したCNTは、文献で一般的と思われた半径0.425nmを選びました。計算の結果、CNT壁の内側0.2〜0.3nmの位置に1列に並んだ状態で、安定に存在することが判りました。しかし、CNTが細すぎて1列にしか並べず、2重に内側に存在できない結果になったのではないかとの懸念を抱き、Fig.86に図示するように、内側2重にリチウムイオンが存在する可能性を検討しました。CNT壁/正のリチウムイオン/正のリチウムイオンの並び方が可能かどうかを検討しました。
 Fig.87に図示したように「CNT半径2倍モデル」を、5層の立体にし構築しました。結果はFig.88のようになり、CNT壁から0.2〜0.3nmの位置で安定に存在できることが確認され、それより内側ではリチウムイオンは存在できない、つまり2重には存在できないことが判りました。半径を2倍にしても容量は改善されず、逆に体積エネルギー密度では悪くなりました。この計算においても「金属リチウム」より安定な状態と言う条件を導入しています。金属リチウムであることを認めてしまえば、CNT内外を問わず安定に存在し、その場合にはリチウムイオン電池でなく「リチウム金属電池」になってしまいます。

  ・ 「クラスター」が存在すると言う計算結果は得られません。「存在しない」ことを計算で証明することは難しいと聞きましたが「クラスター」は存在しないと私は断言します。
  ・ 半径2倍のCNT内にも、金属リチウムではなくイオンとしてグラファイトと「同等量」貯蔵できます。
  ・ CNT半径2倍つまり細孔が大きくなると体積密度は下がり、グラファイトより低くなるかも知れません。
  ・ 国プロ報告会で「クラスター」論者からの意見に、即座に反論できなかったことを悔やんでいます。
  ・ <結論>グラファイト以上に出現した容量を、副反応の電解液分解の容量あるいは金属析出と否定する考察は
    間違っており、CNTのようなカーボンの細孔は高容量を実現できます。





 Fig.86 内側への存在の仮想図                  Fig.87 CNT半径2倍のモデル




  Fig.88 カーボンナノチューブ半径2倍の計算結果


5)昔話:高分子固体電解質その2

 この章は私の「昔話/リチウムイオン電池誕生頃の逸話」で、気軽にお読み下さい。
 エルフ社が有する高分子固体電解質(Solid Polymer Electrolyte=SPE)技術導入交渉の過程で、エルフ社は、後述する医薬用語「イオントフォレーシス」について固執したが、それ以外は当方の注文に対する異論はなく、とにかく早く権利譲渡したいと言うのが本音でした。報告した内容を基に翌日FD氏が最終交渉し、ほぼ要求通り、当初覚悟した価格より易く、特許・ノウハウを入手できました。
 同時期に、懇意にしていた「TK大YM教授」より、「ポリビニルアルコール(PVA)」で「イオン伝導性」が出現することが見付かったとの話があり、実験結果を見せていただいた。PVAは「鉛蓄電池添加剤」として発表された研究の追試実験をしたので、ある程度の知識は持っていた。鉛蓄電池添加剤として「充電受け入れ性」を改善するという内容であったが、水分解電圧が下がるなど負の影響が多く、添加効果を否定する結論を出しました。YM教授の実験により、非常に多くのリチウムイオンが「PVA」に溶解出来ることに驚きました。バラついているデータを観ていて、乾燥条件・時間でイオン伝導度が大きく変化していることに気が付きました。YM教授の乾燥に関する説明から、製作時に必要な「溶媒が残留」し含有量が違うことに気が付き、乾燥後の溶媒含有量とイオン伝導度との相関性を調べていただくと、顕著な相関性があり、充分に乾燥すると実用のイオン伝導度が得られないと言う事が理解できました。
 この結果を得て、直ちに「エルフ社技術の評価」に反映させるべきでしたが、この時にはまだホッピング伝導に因るデンドライト防止効果への期待を捨てきれず、また私自身に「ゲル型」であると言う自信がなく言いそびれてしまいました。結局高額な特許・技術ノウハウ料を支払い技術導入しました。エルフ社技術が入手できた段階では、PEOにおいても「残留溶媒とのイオン伝導度の相関性」は成立し、既に有償で導入した技術であっても見切りをつけるべきであると進言しましたが、社内事情が非常に複雑になり、私の提案が取り上げられることはありませんでした。逆に、1988年3月には自ら「ペーパー電池」として新聞発表しました。大反響となり、株価が2日間ストップ高になったと聞き申し訳ない気持ちで一杯でした。企業として引くに引けない状況が作り出されてしまい、数年に亘りYB社がリチウムイオン電池の立ち上げに遅れ、多くの開発資金・人材・時間が失われたのは、「エルフ社技術の評価」を誤った私の責任です。
 この間、米国バレンス社が「PEO系高分子」に溶媒を含有させた「自立性ゲル型高分子固体電解質」で素晴らしい電池特性を発表しました。「ゲル型高分子固体電解質」は見掛け上自立しているので固体に見えますが、イオン伝導機構は溶液中でのイオン伝導機構と全く同じですから、デンドライトショートが止まるはずもなく、単なる「液保持」機能だけになると失望しました。
 米国ベル研究所(通称「ベルコア」=電話の研究所)が「PVDF」に溶媒を含有させることで、「自立性ゲル型高分子固体電解質」を開発しました。10年以上後にベルコアの発明者の一人SC氏とじっくり話す機会がありました。電話線は単純にビニール線と言っていましたが、触ると濡れている感じがするのは高分子に溶媒を含有したゲル構造になっているからだと教えていただき驚きました。その開発経験から、「ゲル型電解質」として「PVDF系固体電解質」を開発したとのことでした。SC氏は良く勉強されていましたが、電池の専門家ではないので「ゲル電解質」の電池特性・商品メリットについて熱心に聴かれていました。
 SN社が「PVDF系ゲル型固体電解質」を使用、アルミラミネートを外装とし、ポリマーリチウムイオン薄型電池を携帯電話用として商品化しました。アルミラミネートは容易に傷が付き漏液するので、ゲル化して溶液の流動性を抑えることは非常に有益で、実験的には蒸発速度も抑制でき発火初期には安全性の面での効果も認められました。YB社もSN社互換製品を開発する際に、社内会議でこの点を強調して開発資金を調達しました。
 その後も溶媒が残留していない高分子固体電解質「真性ポリマー」に関する研究発表が多数あり、それらの文献値および実験結果をイオン伝導度と粘度との「相関性」として再調査すると、結局は「ガラス転移温度」と密接な関係があり、自立しているといえども、内部では液としての性質を有する高分子で、実用的には液体並みの粘度を有する必要があることが確認できました。また、ガラス転移温度以上に加温すると、イオン伝導度が大きく向上することも判明しました。この特長を生かした「温めた(Warm)PEO電池」も開発されましたが、中途半端な温度で制限がある電池は、電池メーカーでは商品化できないことは当然です。
 ポリマー種は膨大にあるので、新規な高分子を使用した「真性ポリマー電池」の研究・開発が今でも行われていますが、ガラス転移温度との関係、実用上の効果を十分に考慮した上で、評価するべきであると考えています。


6)おわりに

 1)ノーベル文学賞「村上春樹」読後感とノーベル賞受賞者・候補者と私との接点を記載しました。
 2)デンドライトショートを整理しました。次回はデンドライトを初歩的な電気化学で解析します。
 3)「亜鉛極」でデンドライト防止に成功した「日本ガイシ梶vの発明を紹介しました。次回は、「合金負極」での課題を解説します。
 4)カーボンナノチューブ半径2倍で計算し、重量当りでは同等、体積当りでは不利になる結果となりました。再度「クラスター論」を否定しました。次回はリチウムイオンの配置を計算します。
 5)高分子固体電解質技術導入経過と、ゲル型高分子固体電解質、イオン伝導度と粘度との相関性、温めたPEO、真性ポリマーについて解説しました。



第12回(2019/9/11)



1)はじめに:ハイキング

 夏休みに那須主峰・茶臼岳から「那須5岳」を完歩しました。昨年の鳳凰三山に次ぐ快挙です。
 小学6年の時、夏休みに希望者が参加できる林間学校がありました。ツベルクリン検査で陰性の生徒はBCG注射を接種されます。私は免疫力が強いのか陽転せずBCG注射跡がひどく化膿しました。化膿している生徒は林間学校に参加することが許されず、非常に悔しい思いをしました。異質であることの惨めさとそれに対する反発心が芽生えたきっかけの一つです。その林間学校が那須岳でした。私にとっては、半世紀の恨みを晴らすハイキングになります。
  一日目:那須ロープウェイ山頂駅1690m⇒茶臼岳山頂1915m⇒無間地獄⇒牛ヶ首⇒三斗小屋温泉1480m
   歩き始めて20分後に雨が降り出し雷鳴がとどろき、びしょ濡れで歩きました。
  二日目:三斗小屋温泉⇒峰の茶屋⇒朝日岳1896m⇒三本槍岳1917m⇒大峠⇒三斗小屋温泉
   昼食時は快晴で遠景も良く見えましたが、午後からは大雨でびしょ濡れになりました。
  三日目:三斗小屋温泉⇒牛ヶ首⇒南月山1776m⇒黒尾谷岳1589m⇒那須ハイランド770m⇒バス停
   アブなどの虫がもの凄く集ってきて往生し、那須別荘地からの車道はバテました。
 登山・ワンゲルの正式な経験はないのですが、苦しい思いをして頂上に登り切った時の達成感が堪らなく好きで、時間に余裕が出てからは、年に3回以上行くようになりました。荷物が重いと歩く速度が著しく遅くなるので、飲料水などの重量物はシェルパ(息子)に持たせています。ゆっくり歩き休憩も十分に取り、標準時間に対し登りは2倍、下りは1.5倍の所要時間を見込み、できるだけ一筆書きになるように行程を選定びます。日帰りの場合には前日最寄り旅館に宿泊し、地元の食材を楽しみ早朝から歩き始めます。帰路は在来線のグリーン車で晩酌・夕食を優雅に楽しみます。動体視力が衰えて新幹線の速度では落ち着きませんが、在来線では窓外の景色をゆっくり楽しめます。今回は残念ながら豪華な駅弁は売り切れ、お稲荷さんしか手に入らず、コンビニ弁当を加えました。
 アサギマダラの優雅な舞い、エゾリンドウのつぼみを見付け、ハクサンシャジン(ツリガネニンジンの高山型)の可愛らしさに足を止め、計画のコースを完歩しました。三岳の山頂での見晴らしは素晴らしく、風も弱く、遠くの山々を眺めながらのおにぎりは、おかずがなくても至福のご馳走でした。晴れ男を自負していたのですが、一日目、二日目と大雨に振られました。山では3時過ぎには天候が変わると言われていますが、二日共に昼過ぎには降り出し、4時頃には止んでいました。同じ宿に連泊したので衣類を乾燥させる余裕がありましたが、着替えが心配になりました。最終日に那須別荘地に降りてから、舗装道路を2時間も歩き、タクシーを呼ぶべきであったと後悔しました。
 無間地獄では、「硫黄臭」がする噴煙の吹き出し口を間近に観ました。硫化水素に注意と書かれており、「無色無臭」と書かれていました。「腐乱臭」がすると言うのが一般的理解で、記載ミスとも思いましたが、高濃度になると嗅覚が麻痺して「無臭?」になるはずで、「臭い」を感じる、嗅覚が活きている間に退避せよと言う警告としてはこの表現で良いのかもしれません。
 最近研究・開発が進んでいる「全固体電池」の一部で、「消火活動の放水」で硫化水素発生が懸念されています。一言触れている研究もあるが、全く無視している研究もあります。頑丈な鉄箱に入れるから大丈夫と言う自動車技術者もいますが、電池屋としては頷けません。


2)電池の基礎:電気制御

 「デンドライト発生」の多くは電極中電解液つまりは「イオン濃度差」により発生すると解説しました。それを「外部制御」できるかと言う実用上重要な課題について解析します。
 Fig.72は正負両端子で電圧を測った時の「定電流放電曲線(CC)」です。放電直後・終止時以外は、ほぼ直線的に電圧が降下します。電流値が100時間率以下の小さな電流であれば、この電圧を開路電圧(OCV)と見做し、電池の「充電状態(SOC、DOD)」をほぼ正しく推定出来ます。実用に合わせる、また実験時間の短縮もあり、通常は5時間以下で測定されます。Fig.74両端電圧測定での「定電流定電圧充電曲線(CCCV)」です。定電流値は放電と同じ、またはより短い1時間率で充電します。放電の裏返しで、放電末の開路電圧(OCV)からほぼ直線的に上昇します。所定の電圧に到達した時に、定電圧充電に変わり電流が徐々に下がっていきます。一般的には100時間率電流で充電を停止します。ほぼ100%、満充電になります。これ以降は電解液の分解などに消費され、望ましくない副反応が進みます。



   
  Fig.73 放電曲線(5時間率)                   Fig.74 定電流定電圧充電曲線


 電気化学測定では、開発の対象としている電極(作用極)とその電極と対になる(対極)とを備えて試験をします。作用極だけの情報を得るためには、@作用極を大きく上回る対極と組み合わせる。A「参照電極(Fig.75)」を基準に測定する。これらにより対極の影響を無視できます。@の場合容量が異なるために本来の電池性能とは別の情報が含まれます。実験的にはA「参照電極」での測定が一般的です。簡便な参照電極にはリチウム金属が使われます。Fig.76参照極を基準にした放電曲線、Fig.77は充電曲線です。両端の電圧変化に加え、正極と負極夫々の電圧変化を測定することが出来ます。負極は数回充放電を繰り返すと中間の電圧変動は非常に小さくなり、両端電圧の変化は正極の電位変化を測定しています。Fig.77のように、参照電極を用いた負極測定では、電池反応である「グラファイト挿入反応」と、副反応の「金属デンドライト生成反応」とは「約100mV」の差があり明確に区分けでき、挿入反応だけに制御することが出来ます。しかしながら、実用電池で適用出来る参照電極はないので、両端電圧つまり正極電位変化は測定できていますが、負極電位は測定できていません。
 <結論>電圧測定だけでは、デンドライト生成は検知・制御できない。



     
 Fig.75 参照電極測定                   Fig.76 参照極での放電曲線

     
 Fig.77 参照極でのCCCV充電曲線            Fig.78 端子電圧での充電制御


 電流積算で「充電状態(SOC)」を測定し、それに対応する正極電位を推定し、実測値との差で負極電位を算定する制御方法も考えられますが、実使用では、特定電流だけではなく、3桁程変動する電流の精度を保証する必要があります。
   電気容量Q=電流A×時間t
   電気容量誤差δQ/Q=電流誤差δA/A×時間t+時間誤差δt/t×電流
 時間誤差δt/tはクオーツの性能が高精度で無視できますが、第2項電流誤差では、通常の電流精度は抵抗シャントの最大電流時つまり「フルスケール精度」です。電気容量が限られている電池特有の使われ方では、最大電流での通電時間は短く小さな電流での時間が長いので、容量の誤差は非常に大きくなります。例えば、100Ah電池、電流測定器の最大電流(1000A)精度0.1%の場合に、最大電流1000Aで0.05時間50Ah(50%)放電すると、電流の誤差は1Aで容量の誤差は0.05Ah、0.1%となり無視できます。しかし同じ電池、電流測定器で、1Aで100時間放電すると、電流の誤差は同じく0.1Aで、容量の誤差は10Ah、20%になり、無視できない量になります。20%SOCの誤差は、200mV以上の電池電圧誤差に相当しデンドライトが発生します。
 また、第4回第2項で解説したように、電流が流れている時の電圧(閉路電圧)は過電圧を含み、さらに充電状態の不均一性を反映していないので、電極全体としてのSOCを測定できているとは言えないことも加味すると、外部からの電気測定ではデンドライトは検知・制御できないと考えています。Fig.75に端的に図解しました。
 なお、AI導入で、劣化状態も含めSOCを正確に把握することで、電気制御でデンドライト発生を防げるようになることが期待できるのかもしれません。



3)次世代電池:トヨタ自動車電動化計画

「7月度」の雑誌・新聞記事について紹介及び所見を整理しました(Fig.79)。今月も「トヨタ自動車の電動化計画5年前倒し」に関する解説記事が多く観られました。その他海外での細かな研究発表が報告されていますが、解説する価値がある成果はないと判断しました。海外特に米国発の発表のほとんどは「資金集め」と疑ってかかる方が良いと思います。




  Fig.79 7月度 新聞と雑誌記事の紹介と評価

 「トヨタ自動車電動化方針・動向」については、「第3回第3項Fig.19」に記しましたが、大幅な変更が必要です。「電動化戦略」をFig.80、「電池調達方針」をFig.81にまとめました。電動化の内訳変更はなく、HEVが主力で、EVは補助との方針は変えていません。電池は国内外から調達する方針です。中国向けは中国メーカー「CATL、BYD」からの調達ですが、CATLは欧州メーカーとの付き合いが古くトヨタ自動車の足を引っ張る可能性が高く、またBYDは電池メーカーであるだけではなく、EVメーカーつまり競合メーカーなのでいずれ決別することになると思います。国内メーカーではGSユアサグループのLEJは三菱自動車/日産自動車の関連会社、BECは本田自動車の関連会社でトヨタ自動車の傘下には入れません。結局は「パナ・旧サンヨー」グループとの提携が唯一の策となります。
 同族会社の「豊田自動織機」の名前も挙がっていますが、電池開発の経験がないことは解っているはずで不思議としか言いようがありません。トヨタ自動車は2017年度100名以上の特許発明者がいることが判っています。研究者・研究補助者は500名の規模と思われます。最近は全固体電池に専念していますが、数年前まではその規模でリチウムイオン電池を研究開発していたはずで、電池専業メーカーを上回る規模です。研究予算は数倍の規模と思われ、十分に電池メーカーとしての技術力は有しています。コストは中国メーカーに敵わないと思いますが、EVが主流になる将来を考えると、自社内・PEVEのようなグループ会社で研究・開発・製造することは、お金だけでは買えない大きなメリットがあるはずです。選択と集中で全固体電池に限定した開発方針を、見直すべきと思っています。
 個人的見解ですが、旧サンヨーグループはリチウムイオン電池に関しては独創性に欠けており、同様に真似を得意とする韓国LGCには勝てません。中韓メーカーに技術的優位性を持てる可能性があるのは、トヨタ自動車の電池研究部隊がリチウムイオン電池の改良に取り組んだ時と思っています。



   
 Fig.80 トヨタ自動車EV化戦略                  Fig.81 トヨタ自動車電池調達方針



4)新規な電池理論:マリケンチャージ

 リチウムイオンがカーボンナノチューブ内で安定に存在する位置を計算して来ました。私は計算化学の専門ではないので基本的なことを理解できていないのですが、計算をしていただいた立花教授より、「マリケンチャージ」は非常に便利な計算結果であるから参考にすると良いと教えていただきました。安定化エネルギーの算出より付帯的に得られ、他のグラフと同様に中心からの距離を横軸に、荷電状態(価数)を縦軸に図示しました。単層、2層の結果は省略したが、立体である3層の各荷電状態の計算結果はFig.82のようになります。安定に存在することが立証された半径から0.2nm前後では、0.6であり、0価でも1価でもないことが検証できました。
 MRI測定ケミカルシフトで、1価ではなく伝導電子の存在が認められていますが、この結果と一致しています。ただし、強調すべきは、「中心でも壁直近でもなく、壁から一定の距離で、リチウムイオン同士は決して近付いていない。」と言うことで、「クラスター論」はこの結果とは異なります。
 リチウムイオン同士の電子共有はなく、カーボンナノチューブの電子との相互作用がある。言い方を変えれば、伝導電子の存在はカーボンの電子を共有、つまりリチウム・カーボン合金の状態に近いと言えるのではないでしょうか?「合金」と言う言い方は間違っているかも知れません。
 本来は「マリケンチャージ」について、物理的意味を十分に理解した上で、用語として用いるべきなのは承知していますが、不真面目なため手間を省きました。「マリケンチャージ」は非常に的確に「片持ち論」のリチウムイオンの状態を示していると思います。カーボン壁に近付くことで、カーボンの電子雲を共有しているような状態になり、所謂「1価イオン」ではない状態にあるのでしょう。しかしながら、「0価」ではなく、またリチウムイオン同士が近付こうとしている訳ではなく、狭い空間に複数のリチウムイオンが押し込められているから、近接しているように見えているだけで、リチウムイオン同士で電子の共有はしていないと考えています。



   
  Fig.82 電子稠度=マリケンチャージ               Fig.83 マリケンチャージ計算結果


 講演では次のような例え話をしました。150人定員の電車車内を想定する。
 @10人の人が乗車する。10人はバラバラに座っている。 ⇒ クラスターではない。
 A同じ空車両に、旅行に行く10人グループが乗車し、集まって座っている。 ⇒ クラスターである。
 B同じく300人乗車する。乗車率200%でお互い迷惑な顔をしてぃる。 ⇒ クラスターではない。
 「クラスター」の定義付けの問題ですが、Aのようにがら空き状態でも集まっていれば「クラスター」でしょう。一方、Bのようにお互いの距離はAよりはるかに近くても、お互いが離れようとしているならば、「クラスター」ではなく、単に混んでいる状態でしょう。有名な「水のクラスター」は水素原子と酸素原子が交互に引き合い数10個の大きな分子のようにふるまう原子集団となるから「クラスター」と呼ばれています。
 なお、何故「クラスター論」の否定に拘るかと言うと、私たちの計算では全てリチウム金属の安定化エネルギーより安定な範囲での計算に留めています。つまり電極電位が異なることを大前提にしています。計算化学だけならカーボンナノチューブ内外にリチウム金属の結晶は安定に存在する結果になりますが、電池ではカーボンナノチューブの内と外とでは速度論的に大きく違います。カーボンナノチューブの内側に金属として存在できるエネルギーを与えれば、カーボンナノチューブの外側にも金属析出ができるはずで、その安定化エネルギーつまり電極電位ではリチウム金属電池であり、リチウムイオン電池ではないと考えています。そのことを象徴的に図示したのが、第4回Fig.24です。



5)昔話:高分子固体電解質技術導入

 この章は私の「昔話/リチウムイオン電池誕生頃の逸話」で、気軽にお読み下さい。
 1980年代に時間を戻し「高分子固体電解質」の技術導入を書きます。現在活躍中のYB社の方に迷惑がかるかもしれず随分悩みましたが、私のような引退した立場で、かつ高齢者にしかできない役割と思い、出来るだけ現役の方には迷惑が掛からず、これからの研究者に参考になればと願いつつ、言葉を選びながら勇気を出して書くことにしました。
 経緯は思い出せないのですが、上司IB部長が「JC大OG教授」と懇意になり、イオン伝導性高分子を紹介されました。OG教授は、確か東レ出身で、戦略的創造的科学技術推進機構(ERATO)緒方ファインポリマープロジェクトの総括責任者をされており、TVなどにも出演し、日本の科学技術の先端を担っておられました。同席させていただくと非常に熱心な方で、また企業の研究・開発方針に対しても理解が深く、若い研究者にも丁寧に接することに驚きました。社内プロジェウトが発足した時には、IB部長の発案で、とことん議論し理解を深めようと、箱根の健保保養所で合宿をすることになり声をお掛けした所、お忙しい中快く承諾され驚きました。杉並区鷺宮の住んでおられ、阿佐ヶ谷駅でお見掛けしお話しすることもあり、私もすっかりその魅力にひかれました。
 OG教授が紹介した「高分子固体電解質」は、1973年イギリスのライト氏がポリエチレンオキサイド(PEO)にイソチアニン塩を溶解するとイオン伝導性を示すことを発見し、1979年にフランス国立研究機関(CNRS)の「アマン氏」らが、PEOとアルカリ金属塩の複合体が「固体二次電池電解質」として応用できることを指摘したことが、その後の研究開発の始まりです。OG教授より基本技術の説明を受けました。
 @ 高分子鎖により溶媒和されたイオンが、高分子鎖の移動によりバトンタッチされて泳動が起きる。
 A 高分子の粘弾性挙動の温度依存性は、アレニウス型直線にはならず、上に凸、低温時の影響が大きい。
 B 伝導機構は無機固体電解質のホッピング機構と類似する。
 アマン氏の特許および技術ノウハウは、フランスの石油会社エルフと、カナダの電力会社ハイドロケベックに権利譲渡され、エルフ社はこの特許・技術ノウハウを一括して譲渡する意向であることが判りました。IB部長はナトリウム/硫黄電池のプロジェクトリーダーをしていたので無機固体電解質中の「イオンホッピング伝導」について見識があり、有機化合物で無機化合物と同じイオン伝導機構が成立するなら、必ず革新的電池ができると歓迎した。また、当時は金属デンドライトショートは無機固体電解質のホッピング伝導機構では起きないと考えられていた。このような背景から、エルフ社から技術導入することが社内決定し、その直接の交渉を私が任された。
 エルフ社は日産自動車の親会社ルノーのように筆頭株主がフランス政府と言う国策会社で、石油の取扱高では世界有数の会社である。化学工業製品全般を製造販売しており、所謂巨大企業である。その巨大企業の一部門として、高分子固体電解質の研究に手を出していた。エルフ社の交渉人LZ氏は、フランス人で日本人と結婚し、東京の高級住宅街の一つ下北沢の豪華な借り上げ社宅に住んでいた。専門は有機化学で、東京工業大学に留学していた経験があり、その点でも私との共通の話題に事欠かなかった。奥様の教育により達者な日本語を話し、難しい技術用語では英語も混じるが、十分な会話は出来ていたと思っていた。ただし、フランスの習慣と言われ昼間からワインを飲むのに付き合わされるのには困った。毎回席に着くと、ワインのフルボトルを頼み7:3の比率で飲んでいた。ある時にはいつも通りフルボトルを頼み食事が始まると、昼一番で重要な会議があるから今日は飲めないと言い出し、全部飲めと言われ、流石にこの日は会社に戻らずに直帰した。
 ワインを飲みながらの打ち合わせで、見方が甘くなったのか、「秘密事項だから」の一言で重要なことは確認できないままに調査報告書を作成した。また、本社の管理部に所属していて研究所本体から外れた職場にいた事もあり、私自身が一旗上げたいと言う野望があったことも否定できない。最終交渉にはND氏が来日し、詳細を詰めることになった。当時の技術トップFD氏は海外からの技術導入に積極的で本件も前向きに捉えられ、最終交渉前日の土壇場の会食も、私一人で行ってこいと言われ、フランス人二人を京都の庶民的な料亭に招待し、京料理をご馳走しながら、日本酒とワインの御酌をしながら最終交渉をした。
 ☆ 次回もこの話を続けますが、飛ばして読みたい方のために結論を先に言うと、40歳頃の私には「荷が重い役目」であった。



6)おわりに

1)夏休みに挑戦した那須岳ハイキングを記述しました。
2)外部からの「電気計測」ではデンドライト発生を検知・制御できないことを解説しました。次回はデンドライトショートを整理します。
3)「トヨタ自動車」のEV化戦略の5年前倒しを取り上げました。次回は「亜鉛極」でデンドライトショート防止に成功した発明を紹介します。
4)「マリケンチャージ」の計算結果を解説・考察しました。次回はカーボンナノチューブの半径を倍にした時の結果を紹介します。
5)「高分子固体電解質」技術導入の思い出話を記述しました。次回も継続します。



第11回(2019/8/6)



1)はじめに:渋沢栄一

 2月22日封切り第1週目に興行収入TOPになり、既に30億円以上になっている「翔んで埼玉」を平日のシニア割引きで観に行きました。埼玉県では大ヒットしたようですが、名古屋では300名の館内に4人しか観客はいませんでした。「埼玉県民」が東京都民に酷い虐待を受けていたと言う大茶番劇で、主役は芸能人格付けチェックで無敗の「GACKT」と今流行りの「二階堂ふみ」です。GACKTが高校生役、二階堂ふみが男役と異色のキャスティングです。埼玉県民が自虐ネタとして、「埼玉には名物が草加せんべいと『深谷』ネギしかない。」と言いますが、確かに埼玉県で他に思い出すことは「長瀞の舟下り」位です。私は小さい頃梅林堂の「五家宝」(きな粉を塗した円筒型の御菓子)が大好きで、「ごかぼう」と言えず「ばかぼう」と言って笑われていたことを思い出しました。
 2015年電気化学会秋季大会が「埼玉工業大学」で開催され、初めて「深谷」を知った方も多いと思います。渋沢栄一氏が設立した日本煉瓦製造会社のレンガが使われている東京駅を模擬して作られた深谷駅には、「渋沢栄一」のポスターが貼られています。新1万円札の顔に「渋沢栄一」が選ばれたことで、深谷市民/埼玉県民は大いに喜んでいます。深谷の「渋沢栄一記念館」に行ってみました。出生地ならではの展示で、幕閣、明治政府での閣僚と頭角を現したが、官界の体制に限界を感じ実業界へ転身し、約500社の設立に寄与したことが解り易く展示され、赤城山に向かって立派な銅像が立っています。最近になって来館者が急増しているとのことです。資料館としては物足りなく、東京都北区飛鳥公園内「渋沢史料館」を尋ね、渋沢栄一伝記資料を閲覧しました。
 実業界での活躍はマスコミで報道されていますが、私は特に「東洋紡株式会社」への貢献に目が留まりました。私がリチウムイオン電池の製品化を担当し製造装置情報を集めていた時に、「東洋紡」が開発中との情報が入り半信半疑で工場を訪問しました。とてつもなく大きな某部品の製造装置を組み立てている脇に、開発中の「捲回装置」があり、詳しく説明を受けました。既存装置を把握した上で工夫を重ねてあり良く出来ていました。携帯電話サイズより一回り大きいサイズの電池に向いていると感じました。
 前身の「大阪紡績会社」が明治16年に設立されています。創立発起人22名の筆頭が「渋沢栄一氏」で、大半は投資した華族、財閥人ですが、「山辺丈夫氏、岡村勝正氏」の名前も挙がっています。渋沢氏が紡績業発展のために大規模生産工場の建設を説き、保険業習得のために英国留学中の山辺氏に白羽の矢を立て、最新の紡績技術修得を依頼し、3年の滞英中に技術書を翻訳し、実務経験をまとめ「虎の巻/紡績書」を完成させました。14年「岡村勝正氏他3名」を技術者として採用し、招請した英国技術者の指導の下に技術を完成させました。山辺氏は当時としては珍しく資本家ではない社長に就任されました。
 岡村勝正氏「懐旧談」「談話」に興味深い記述がありました。@山辺氏の「虎の巻:紡績書」で理屈を学んだ。A各紡績工場遍歴で実地を体験した。B優秀な専門家の指導を受けた。この3点で機械据付・運転など新技術導入ができた。この新技術導入のキーポイントは今でも通用するのではないでしょうか?また、山辺氏は非常に多忙で、実際には「岡村氏他3名の技術者」が技術を完成させました。功労者として山辺氏は社長になりましたが、その影には優秀な協力者がいたということでしょう。
 大阪紡績は設立当初から黒字になりました。技術・量産規模などに技術者としては目が行きがちですが、「岡村氏談話」によると、「夜業」で装置稼働率を上げたことを第1の理由としています。働き方改革が叫ばれる昨今では余り強調出来ませんが、日本の紡績業の繁栄に「夜業」が貢献したことは確かなようです。夜業で使われた灯油ランプが度々火災を引き起こし夜業廃止が叫ばれた時に、岡村氏は、14年5月最初に渋沢氏邸で会食をした際にエジソン発明の「エレキトルライト」を室内灯にする話を思い出し、米国製電灯・発電機を入手し、民間で初めて「電灯」を使用しました。紡績業発展の基礎には第1は「夜業」、第2に「電灯の採用」があったとも言えるとのことです。その縁を作ったのも「渋沢栄一氏」です。「エレキトルライト」採用が紡績業発展の「裏話」とは・・・。リチウムイオン電池開発にも裏話が沢山ありそうです。


2)電池の基礎:初歩的なデンドライト発生/劣化

 電池設計・製造工程にはデンドライト発生の原因がない電池であっても、電解液劣化に伴いデンドライトが発生します。発火事故の大半は、使用開始後数年、つまり劣化してから発生します。



   
  Fig.64 急速充電模式図                   Fig.65 デンドライト析出模式図


 Fig.64に数μの粒子を厚さ100μ程度に塗工した負極活物質層を、粒子間の複雑な電解液通路を説明の都合上直線に簡略化して、充電途中を模式図で描きました。正常な急速充電では、正極からセパレータを通過して移動するリチウムイオン量(正確には塩)は十分に足りているので、白色から茶色のように活物質の正極に近い所から充電されていき、いずれは全体が充電、茶色に染まることになります。ところが過度な急速充電・極低温充電では、供給されるリチウムイオン量が活物質細孔内で少なくなり細孔内のイオン濃度、正確には塩濃度が低くなってきます。元々のセパレータ中の塩濃度(バルク濃度)と細孔内の塩濃度とに差ができ、濃度拡散がイオンの供給に貢献し、デンドライト発生することなく充電は完了できますが、充電電流の設計に間違いがあると、細孔内に供給されるイオン量(電気泳動+濃度拡散)が不足し細孔内のイオン濃度が下がり、デンドライトが発生します(Fig.65)。
 リチウムイオン濃度(塩濃度)とデンドライト発生については、電気化学的に次々回に説明する予定です。



 
Fig.66 劣化(孔壁での滓層形成)                     Fig.67 デンドライト発生正条件件


 急速充電試験で基礎データを積み重ね、充電電流と空孔つまりは充填率に十分余裕ある設計をします。しかし、第6回2)項に記載したように、ある期間電池を使用すると、SEI生成⇒剥離・溶解⇒再生により電解液中に「滓」が溜まります。Fig.66のように、電解液劣化つまり「滓」が多く堆積し、電解液通路が狭まってしまうと、活物質細孔深部へのイオン供給量が不足し、細孔内イオン濃度が低下します。丁度コレステロールが溜まり細くなった欠陥のようですと講演では話しています(笑う)。
 なお、Fig.67は講演で使用しているデンドライト発生条件の一覧表で、大雑把な表現で自信がないので説明しませんが、参考にして下さい。
 次回は、デンドライト発生を外部からの電気での充電制御では出来ないことを解説します。



3)次世代電池:亜鉛など金属負極

 6月度の雑誌・新聞記事について紹介及び所見を整理しました(Fig.68)。新聞記事で確認できてはいませんが、廃プラスティック集積場で火災発生が増えているようです。最近の携帯電話ではユーザーが電池の取り外しができないので、携帯電話内蔵のリチウムイオン電池はプラごみと一緒に廃棄されます。圧縮されれば、正に安全性試験です。通常ゴミの山は酸素(空気)不足で燻るだけですが、第8回Fig.42に記したように、正極活物質自体が酸素源で、電池の中ではショートで火花が飛び破裂発火します。消防関係者と話すと、酸素源を内包していることについて理解していないようです。電池工業会などが積極的に情報発信するべきです。
 トヨタが電動化計画を5年前倒ししました。ただしHEVとEVの配分についての変更はなく、HEVが主力で、EVは補助との方針は変えていないようです。電池は国内外から調達する方針です。従来からトヨタ自動車は電池を自社開発すべきと主張し今も考えは変わっていません。7月になりさらに動きが慌ただしくなっています。第3回Fig.19に記した「トヨタ自動車(株)の動向」については大幅な修正が必要になり、次回情報整理して再掲します。
 ニッケル亜鉛電池、亜鉛空気電池は再生可能エネルギーシステムなどの定置用電池として優れています。本コラムの主題であるEV用電池としては不向きですが、国プロで脚光を浴びている金属極におけるデンドライトショート対策について、亜鉛極は参考になります。第6回5)項に私の苦い経験を記述しましたので、その経験を基に、亜鉛極を例にして金属負極でのデンドライトショートについて解説します。

     金属析出反応電位:平衡電位+電流×抵抗+反応抵抗*電流の対数

     抵抗:電解液中のイオン移動抵抗+導線の電子抵抗+表面被膜抵抗

 正極との間に充電電圧が印加された時に、各部に印加される電圧は全て均等ですが、その中味は違います。各微小部分での反応過電圧が均一であれば、デンドライト成長はなく均一に成長するはずです。しかし、ミクロにみれば抵抗は均一にはならず、抵抗が小さい箇所では反応に寄与する過電圧が大きくなり、電流は対数比例で集中して流れます。小さなデンドライトが発生し正極との距離に遠近が生じれば、近い所に電流がさらに集中しデンドライトが成長します。実験では急速充電で観測しますが、観測し易いだけで、小さな電流にすれば起きないと言うのは、保管中にも発生した経験から間違いです。学会発表では多い表面を平滑にすると言う対策は、数10サイクルを100サイクル程度に出来るだけで、サイクル数が多い用途での対策にはなりません。同様に、集電体表面の結晶についての均一性なども意味はありません。





  Fig.68  6月度 新聞と雑誌記事の紹介と評価


 デンドライト抑制に成功している平滑メッキのインヒビターは、凸凹を無視できる程に表面被膜抵抗を大きくして、平滑にできていると推定しています。メッキ作業者はメッキの仕上がり、メッキ浴の状況を観察しながら、インヒビター効果が弱くなれば適宜補充しています。つまり、インヒビターは「劣化・減少」が前提とされています。私も当時入手できるメッキインヒビターを調査しましたが、全て電池の中で酸化分解し、電池では使えないと判断しました。また、有機合成メーカーに開発依頼をしましたが、技術的には可能であるが、市場規模がないと言うことで、体良く断られました。現在のような電池ブームであれば、有機合成メーカーも協力的と思うので、電池内部で分解・再生を繰り返す有機化合物の開発をお願いすれば、電池用のインヒビターを開発できると思います。
 セパレータで金属結晶を捕捉し正極側に成長させないと言う開発もされています。確かにセロハン系セパレータは、正極側に樹脂状に成長する(縦方向)前に、セパレータ内で結晶が成長(横方向)し、セパレータは灰色になりますが、直ぐにはショートしません。結果としてある程度ショートするまでの期間を延ばすことが出来ます。しかし、保存中のショートを結局防げなかったように寿命が要求される用途では解決策になりません。また、セパレータの微孔サイズをサブミクロンにする開発もされていますが、リチウム金属原子からすれば桁違いの大きさで、同様の結論で解決策になるはずがありません。
 次回は亜鉛極で非常に優れたデンドライト防止策が発明されたので、ご紹介します。



4)新規な電池理論:3層計算結果

 前回、Fig.62、63で「単層モデル」での結果を図示しました。書き落としがあり追記します。
  ・ CNTの両端は水素が結合した終端で、終端の影響が出ない程に十分に長いと仮定している。
  ・ CNTに1個のリチウムイオンが導入される場合には、CNTはー1価、同様にn個のリチウムイオンが導入される場合にはCNTはーn価とし、全体として系は「中性」である。
  ・ 絶対零度での計算であるが、常温でも結果は変わらない。
 多層・立体、つまりCNT縦方向に複数個のリチウムイオンが安定に存在できるかを確認するために、Fig.69に示す「多層モデル」で、「単層モデル」と同様に順次リチウムイオンをCNT内部に導入し、安定化エネルギー計算した。「多層モデル」は縦方向同じ位置に並ぶ場合と、6員環ズレて並ぶ場合との両方を計算したが、結果は同じであった。3層以上の4層目は1層目と同じ結果になることが解かっている。計算された安定化エネルギーは2層ではFig.70のようになり、「金属リチウム析出」より低い安定化エネルギーの範囲でC24個に対し、単層の結果と同様に6個は挿入できる。3層目ではFig.71のように、6個目はかなり厳しくなる。最終的にCの数との比に換算すると、Fig.72のようになり、グラファイトでの実績の1.5倍が限界であることが判る。なお、グラファイトでリチウムイオンはc軸方向で連続できず1個飛ばしで収納されるが、この3層での結果を反映していると思われる。
 中心からの距離としての安定化エネルギーが得られる位置は、2層、3層でも単層と変わりなく、中心と壁との間であり、中央に集まって存在できることはない。



    
  Fig.69 CNT立体計算モデル                   Fig.70 リチウムイオン2層 計算結果



 CNT表面に「金属リチウム」が析出していない範囲での安定化エネルギーを求めているが、金属リチウムを許容してしまえば、壁に金属として析出した状態、あるいはCNT中央部で結晶になった状態も安定化エネルギーが求められる。しかし、電池実験で、リチウム金属をグラファイト負極に貼り付け放置すると、金属リチウムが放電しグラファイトにリチウムイオンが挿入する。両者の電位が違うために起きる現象で、速度論を無視できる場合には、リチウム金属とリチウム挿入反応は完全に分離できる。電極反応電位と安定化エネルギーとは絶対値は異なるが物理的意味は同じであるから、速度論を考慮しない場合には、計算化学で示された結果は「実電池」においても成立する。CNT外側に金属リチウムが析出しないつまり「0価リチウム」でない「イオン」の場合には、CNT内部で金属クラスターが存在するという説は完全に否定される。
 計算結果をまとめると、
  ・ 安定化エネルギーが負になる条件があり、「新規な電池理論/片持ち論」が立証できた。
  ・ 金属リチウムが析出しない条件で片持ち論が成立し、LiC4が成立することが判明した。
  ・ さらに、現行LiC6を大幅に上回るモデルを推定し、計算で検証する。
 次回は、CNT中心と壁との中間に安定に存在するリチウムイオンの荷電状態について記述します。



    
Fig.71 リチウムイオン3層 計算結果                   Fig.72 立体モデルでの極小値



5)昔話:情報交換会メンバー

 この章は私の「昔話/リチウムイオン電池誕生頃の逸話」で、気軽にお読み下さい。
 定期的に開催されたシール不良検出装置開発の進捗状況報告会は、参加者間の情報交換会になり、大いに賑わいました。メンバーを紹介すると、
 KH社SS社長:下町のものづくり工場のモデルになりそうな方で、X社の開発を下支えし、シール不良検知については同様の考案をされていて実験場・打合せ室を提供していただいた。
 TK大EH助手:「匂いセンサー」の発明者。新コスモス電機製の複数の半導体センサーを組み合わせ、レーダーチャートで解析し匂いを定性・定量化する。大学では不遇であったが、アイディアマンでそのアイディアを自分の手で試作されていた。
 NM社OT氏:初代携帯電話用「リチウム金属電池」の保護回路、充電制御を開発した。本コラムに度々ご登場いただいていますが、個性豊かな方で「電池技術者は肝心なことは言わない」と、私はいつも怒られました。デンドライトを電気制御で解決すると無理を言って困らせられた。
 SN社NS氏:リチウムイオン電池を最初に商品化された。亜鉛空気電池の経験もされている。人格者で、公私に亘り私は御世話になっている。
 X社A氏:リチウムイオン電池発明者の一人。特に正極集電体アルミは随分調査したが、先行文献が見付からず脱帽した。
 HS商社TG氏、TD氏:この業界で知らない人がいない有名人。電池関連の実験装置の仕事で古くからの知り合い。商社マンらしい大胆さをお持ちで、SN社NU氏の移籍仲介でも相談に来られた。KH社の営業窓口でもある。
 MS社FY氏:OT氏の紹介。MS社の電解液分野参入を企画され、メーカー納入を実現した。技術者と聞いていたが、営業の方が向いている印象であった。
 MI大SM教授:FY氏の紹介。大学の先生としては製品に近いテーマを選ばれていた。毎回名古屋から自腹で来られ、全くお酒を飲まないのに、懇親会にも参加されていた。

なお、「SM教授」には、私が名古屋に赴任して落ち込んでいた時に元気付けていただき、今では電池関係を卒業されていますが、引き続き親しくさせて頂いており、年1〜2回東海地区電池関係者懇親会の発起人の一人で、毎回主賓として非常に面白い話をされます。本コラムの掲載許可を得ている「株式会社情報機構様」も紹介していただきました。人の縁は本当に不思議で、人見知りが激しく、人と接することが嫌で研究職になった若い頃の私には考えられないことですが、今では多くの方と話をできるようになり、助けていただいています。<感謝>



6)おわりに

1) 新1万円札の顔となられる「渋沢栄一氏」を調べて見ました。
2) 電極活物質細孔内に電解液劣化生成物「滓」が溜まることが、デンドライト発生の原因であると解説しました。次回は、外部からの電気制御ではデンドライトを防げないことを説明します。
3) 亜鉛極を題材に「金属負極」でのデンドライトショート対策は難しいことを説明しました。次回は、「亜鉛極」でデンドライト防止に成功した発明を紹介します。
4) 多層でもリチウムイオンが「片持ち論」で安定に存在できた計算結果を図示し、「クラスタ論」を完全否定しました。次回はその条件でのリチウムイオンの「荷電状態」についての計算結果を紹介します。
5) シール不良検知器開発の進捗状況報告会のメンバーを紹介しました。



第10回(2019/7/3)



1)はじめに:花火

 住んでいる清須市の「尾張西枇杷島まつり」花火大会に行ってきました。
 東京では、「隅田川の花火」が有名ですが、庶民は立ち止まって観ることも出来ない「遠花火」で、迫力はテレビで感じるものだと思っていました。中部では1000〜5000発程度の花火大会が身近に頻繁に開催されます。徳川家康が火薬開発の平和利用として推奨したと言われ、特に若衆が脇腹に抱え点火すると、炎が10m越えて噴出する勇壮な「三河手筒花火」が盛んです。
 「清須市」の花火大会は6月8日に開催され、小規模ですが、花火シーズン最初の大会で人気があります。お祭りは、200年の歴史を誇る5輌の「山車(だし)」(この地区では「やま」と呼びます)の運行で、からくり人形の舞も面白いですが、一番の見所は山車が方向転換する「曲場(まえば))」です。花火開始1時間前に庄内川土手に陣取り、ビール・どて串・助六寿司で晩酌を済ませ、ドリップコーヒーの香りを楽しんでいると、仕掛け花火(西枇祭り)を合図に、ドーンと言う音と共に尺玉が上がります。続いてスターマインが華々しく彩ると大会の始まりです。ドーンと言う音は花火が開くと同時に時間差なくお腹に響きます。遠花火ではなく、目線より上、首を見上げて観るのが本当の花火の醍醐味です。関東では立派な花火が上がると、「鍵屋、玉屋」と威勢の良い掛け声を上げますが、当地ではその風習はないようで、私だけが下を向いて小声で掛け声をかけていました。
 東海地区で一番大きな花火大会は、7月末の「長良川中日花火大会」です。岐阜駅から臨時バスで行き、早くから場所取りをします。炎天下の場所取りの途中に熱中症で気分が悪くなり、ビール缶で首を冷やし事なきを得ました。終了後は一斉に帰路に就くので、バスに乗れず岐阜駅まで歩きました。この花火大会は「昔話」の項でいずれ記述しますが、NS氏、X氏ともご一緒したことがあります。
 花火シーズンの最後は、以前住んでいた「江南市」で10月中旬に開催される花火大会です。リクエスト曲に合わせて打ち上げる「音楽花火」が見所です。老母を連れて行った際、「炎天下」の場所取りが必要なく、「間近で観られるのは初めて」と、とても喜んでいました。帰り際に車のキーをシートの下に落とし、暗闇の中大騒ぎをして老母に要らぬ心配をかけたことを思い出します。
 花火のカラフルな色は金属の「炎色反応」です。リチウム=赤、濃赤=ストロンチウム、橙色=カルシウム、黄色=ナトリウム、緑色=バリウム、青色=銅、紫色=カリウム、銀色=アルミニウム、金色=チタン。
 EVが普及して、リチウムが不足すると、花火の赤色が出せなくなるかもしれません(笑)。真相は、リチウムなどのアルカリ・アルカリ土類金属は薄いけれども海水に含まれており、濃縮して回収すれば良いので、国プロなどで資源枯渇、商社のリチウム鉱山の権利確保と騒いでいるのは、苦々しく思っています。


2)電池及びリチウムイオン電池の基礎:初歩的なデンドライト発生 その2

 正負容量バランスが取れていないとデンドライトが発生・成長するのと同じように、正負の対向面積が正極<負極となっていないと、正極面に対向していない負極面上にデンドライトが発生します(Fig.58)。容量としては正負バランスが取れていても、正極面が負極面からはみ出た箇所でデンドライトが発生します。図の面積の尺度はmm単位で、厚みはμ単位で、1000倍の縮尺の違いがあり、正⇒負の移動距離に比較し、同じ尺度であれば、平面方向への移動距離は図示できない僅かな量であり、対抗する場所に負極活物質=カーボンがなければデンドライトが発生します。
 積層型での重ね合わせ時のズレは解り易い例ですが、捲回型においても捲きずれが起きると=竹の子巻き=、同じようなことになります。設計ミスで起きることは少ないのですが、製造装置の重ね合わせ精度に裕度を持たせないとこの現象が起きてしまいます。また、塗工後に端子タブを打ち抜きで作り正負極を対向させない場合には、正極タブ下部の活物質塗工部を剥ぎ取りますが、この工程で剥ぎ取り方が不十分で対向する負極タブの縁にデンドライト発生が起きたことがあります。
 マンガン系電池では、マンガン溶解による正極容量減少量は非常に少ないのに、電池としては大きく容量が減少します。溶解したマンガンイオンが負極表面でマンガン金属として付着し、カーボン挿入口を蓋したようになり、リチウムイオンの挿入が出来なくなり、実質的に対抗表面が無くなったのと同じことになり、マンガン金属上にデンドライトが発生し、それがデッドリチウムとして正極に戻れなくなるためです。
 銅などの金属片がセパレータの正極側に存在すると、正極により酸化されイオンとなり、それが負極カーボン上で還元され金属として析出し、セパレータ細孔中を正極まで成長し短絡すると学会発表がありましたが、析出した金属上でリチウムイオンが還元されリチウム金属がデンドライト状に成長し短絡したと考えてデータを見直した方が良いと思いました。



 
  Fig.58 正極面>負極面                   Fig.59 正負極間距離の不均一


 正負容量バランスが取れ正極面の負極面からの食み出しがない場合でも、Fig.59に示すように、正負極間距離に不均一が生じた場合に、正極に近い方の負極表面上にリチウム金属析出・デンドライトが生成成長する可能性があります。この現象は単純に距離の問題ですから、一番遠い箇所までの正極からの距離L2と一番近い箇所からの距離Liとで、イオン伝導度の逆数に電流密度を乗じた積が、デンドライト生成の電極電位とカーボンへの挿入の電極電位との差約100mVを上回れば、デンドライト生成が優先します。普通の積層、捲回工程では起こることはなく、装置に異常があったと考えるべきでしょう。
   (L2−L1)*(1/イオン伝導度)*電流密度 > (デンドライト発生電位―挿入電位) ≒ 100mV


3)次世代電池:次世代負極の長短

 5月度の雑誌・新聞記事について紹介及び所見を整理しました(Fig.60)。今月は件数も内容も乏しく、注釈すべき事項はありません。中国BYD社がEVバス販売に力を入れているようです。コラム第5回で京都市内の路線バスを紹介しましたが、僅か2年で見違える程に改善できる開発スピードに驚かされました。日本メーカーは油断し過ぎているのではないでしょうか?



Fig.60  5月度 新聞と雑誌記事の紹介と評価


 Fig.44に表記した次世代電池の負極活物質候補が抱えている課題をFig.61に記載しました。
 5月23日に名古屋大学にて、科学技術振興機構主催、名古屋大学共催で「カーボン材料革新への期待と課題」というフォーラムが開催されました。講演者の一人がEV用電池開発の第1人者TY社IB氏と知り参加しました。恥ずかしいことにIB氏の講演途中で眠くなり一部聞き損なってしまいました。他の講演はカーボンの専門家の話で、用途開発には「電池」と言う言葉が出て来ますが、「導電補助剤」としての効果についてで、肝心要の「電極活物質」としての話は全く出て来ませんでした。情けない話です。「導電補助剤」は数種あり、コストも考慮して一長一短がありますが、電池容量としては数%の改善があるだけです。仰々しいフォーラムで話題とすることなのでしょうか?「カーボン系」は既に「理論容量密度」に達していると言われている間違った理論を疑いもせず真面目に検討していないからです。「両持ち論とクラスター論」に基づいているために容量限界となっていますが、私の「新規な電池理論」では間違っていることが立証されています。この間違いを正すことがコラム執筆の最大の目的であり、以後順序立てて解説をしていきます。是非とも、カーボンの専門家が高容量負極活物質開発に取り組まれることを望んでいます。
 リチウムイオン電池の優れている点は、正極・負極共に結晶構造への「挿入・脱離反応」であるために、充放電に因る体積変化が非常に小さいことです。一方、次世代負極として最有望視されている「金属系」の欠点は、充電時のデンドライト成長とそれに伴う短絡ショートで、他の項目で記述したように容易に解決できない難しい問題です。デンドライトショート発生で苦汁を舐めさせられた亜鉛は、乾電池にも使われている非常に安価で資源も豊富な金属で、次世代負極材料の候補から外すべきではなく、特に定置用では最有力候補と思っています。デンドライト短絡防止について、解決のヒントを次回ご紹介します。
 同じく合金系の欠点は、充電時の体積膨張、放電時の体積収縮に因る孤立化つまり絶縁化と表面SEIの剥離・溶解です。ナノサイズに微粒子化すれば解決できると言う発表が多数ありますが、表面積が大きくなり、それに伴う多量のSEI形成が必ず悪影響を及ぼすので、成功しないと断言できます。しかし、解決のヒントを次回ご紹介します。



Fig.61 次世代負極の課題と解決策


4)新規な電池理論:単層計算結果

 カーボンナノチューブ(CNT)の中心から1.0Å≦r≦3.0Åの範囲で変化させて、安定点を見積もり、さらに安定点近傍で詳細に計算した。中心付近(r≦1.0Å)および壁近く(3.0Å≦r)の範囲は、安定点が得られず図示できなかった。リチウムイオンを1個から6個まで徐々に増やし、各計算結果を点と折れ線でFig.62に描いた。


 
    Fig.62 安定化エネルギー計算結果           Fig.63 安定化エネルギーの極小値
         (リチウムイオン1層)                    (リチウムイオン1層)


  

 図から解るように中心から約1.5Å以内の範囲では、金属リチウムより安定であると言う条件の下では、図中破線以下でより安定な点は得られなかった。また、半径4.25ÅのCNT壁から約1.5Å以内の範囲でも同じくより安定な点は得られなかった。
 リチウムイオン1個の場合には中心から2.6Åの場所が最も安定で、同2個の場合には1.5〜2.0Å、同じく3個の場合には1.5〜2.5Åの広い範囲で、同じく4個の場合には2.0〜2.5Åの範囲で安定な状態が得られ、6個場合には2.3〜2.4Åの狭い範囲だけで安定に状態が得られました。「7個以上」では、金属リチウムより低い安定化エネルギーは求められませんでした。Fig.62から、リチウムイオン「1個から6個」まで、夫々の最も低い安定化エネルギーをFig.63に点と折れ線で図示しました。リチウム金属の値と比較すると、6個の場合に僅かな差となり、電極の可逆電位の差が小さいことと定性的には一致しました。7個以上では金属リチウムの方が安定なので、現行のグラファイトと同じ結果であり、残念ながら高容量化と言う結論は導き出せませんでした。
 結論として、CNT中心に寄り集まって存在する「クラスタ論」は完全に否定できた。「クラスタ論」主張者は、核磁気共鳴測定(NMR)結果から「イオン」としての存在は認めながら、正イオン同士の静電反発を無視して、中性の金属リチウムとして考察すると言うとんでもない間違いを犯していると主張します。
 なお、この計算をした時点では、私自身に自信がなかったために、NEDOプロジェクト中間審査で、「両持ち+クラスタ論」を論破できず、質疑応答に行き詰まり、意に反してクラスタでの存在を前提にした計算を実施することを約束してしまいました。「リチウムイオンがクラスタで存在する」条件に変更してTB教授に計算を依頼しました。ド素人の私が提示した仮説・条件に基づいて、計算化学の優秀な研究者がスパコンで「クラスタ」の計算をしてくれました。かなりの日数が経過してから、TB教授から「クラスタ」の計算は終了したいとの要請がありました。半分は冗談でしたが、担当しているFS氏がこのままではノイローゼになると仰っていました。スパコンは仮説が正しいとして計算し、正しくないと言う判断はし難いようで、収束する結果が出るまで計算を続けるようです。私の自己保身のための軽薄な考えで、貴重な計算時間を無駄にし、優秀な研究者が不愉快な思いをしてまでも、誠意ある対応をしていただいたTB教授、FS氏、SN氏、IK氏には心より申し訳なく思っています。
 第3項で記載していますが、その後カーボン負極は理論限界で高容量化の希望なしと言う結論が主流になり、金属または合金負極が開発の中心になってしまいました。諸悪の根源は「クラスタ論にあり」と言い切っては言い過ぎでしょうか?


5)昔話:昔々の話

 この章は私の「昔話/リチウムイオン電池誕生頃の逸話」で、気軽にお読み下さい。
 カナダME社から空輸されるリチウム金属電池が,空輸中減圧になる影響はあるとしても、到着開封後にも「臭い」がする原因はシールが完璧でないためと考えました。シール不良を出荷前に検出する方法を考えましたが、これと言って上手い方法がなく困っていました。偶々TK大EH助手と一献交わしていた時に「匂いセンサ」の話が出て、新コスモス電機製「匂いセンサ」をお借りし、実電池を測定しました。見事に電解液の臭いを検出しその有効性が確かめられました。1997年に早速この考案を部下のNN氏が特許出願しました(特許第3276288、特開平10-12285)。1998年6月に小田原でお世話になっていたMU氏、NB氏の企画で、「あじさい電車」、箱根保養所に1泊旅行をしました。EH助手もお誘いすると喜んで参加され、本当に楽しい時代でした。この時の印象で紫陽花が大好きな花になりました。
 ある程度のデータが揃った段階で前述の情報交換会で紹介すると、非常に面白い、関心があるとのことで、開発協力が得られることになりました。また、X社A氏からは、実験装置を発注しているKH社で同じようなことを考えているから共同で開発を進めたら良いとの提案があり、KH社内に「匂いセンサ」を組み込んだ実験装置を組み立てていただき、NN氏が忙しい中を出張して実験しました。量産試験ができるように測定時間短縮が主としての開発課題で、その成果を京都で学会発表し、特許を3件出願(特許第3860312号、特許第4355042号、特開2000-188135)しましたが、測定時間の短縮は目標値には達せず、量産での測定には不向きと解りました。なお、実験室レベルでは非常に感度良く検知でき、また封止不良になっている個所を特定できる有効なシール不良検出器が開発できました。
 18650円筒型セルは3社からサンプルを入手しました。流石にSN社は「臭い」つまりシール不良全く検出できませんでした。他の2社はやはり「カシメ部」で僅かに臭いが検出されるセルがありました。角型は2社のサンプルの測定をしました。数10個の内1個だけ臭いを検出しました。当然「上部溶接部」から電解液成分が漏れ出ていると考えましたが、溶接部では針は動かず筐体の横、底部から1cm程度の所で「臭い」が検出されました。おそらくは角型缶作製時に「深絞り工程」に無理があり表面からは見えない亀裂が生じていると推定しました。
 KH社社長は、臭いを検知できなかった18650セルでも軽く机の角などで叩くとしばらくは臭いが検知されることに気が付かれました。円筒缶のかしめシールは「金属の弾性」で密封しているので、応力がかかると歪が生じシール不良状態になるようです。機器に装填された時にかしめ部に余分な力が加わるとシール不良になる訳で、機器設計に当り十分な余裕を見ることが必要です。あるいは逆に内部でガス圧が上昇し易いニッケル系では十分な注意が必要でしょう。昔から、PN社は乾電池外形ギリギリに電池ケースを設計することで有名でしたが、大丈夫でしょうか?
 ノートパソコンにリチウムイオン電池が採用されるようになり、ある時IB社MT氏から18650電池が早期容量低下を起こし、電池メーカーの説明ではロボットアームが電池を挟み込む時の力が強過ぎて変形し捲きズレが起きたためで、その証拠としてジュリーロールの変形した写真を見せられたが、本当の不良原因だろうかと相談されました。その写真のセルは肉眼でも明確に解る程変形していて、出荷時外観検査をパスするはずがないと不思議に思いました。今考えると、事実は外観検査では判らない程度で「かしめ部に歪」が生じていて、シール不良が起きたと考察しています。
 この測定方法がラミネート型電池の端子部の融着不良検出にも役立つことが実証され、研究の試作段階では非常に役立ちましたが、量産の検査装置にはできず、特許料収入は入りませんでした。SY社がこのセンサで開発製品の試験をしていると言う裏情報が入り、EH助手から特許侵害で訴えて特許料収入を請求せよとの要請がありました。社内開発中での「実施」では難しいと説明しましたが納得していただけず、共同開発をしていたKH社社長と仲違いしてしまい、その仲介を上手く取れなかったために両者から恨まれることになりました。私の人付き合いの下手さで両者にご迷惑をかけてしまったことは苦い思い出です。


6)おわりに

1)地元東海地区の「花火」を紹介しました。
2)面積、距離の違いで起きる「初歩的な」デンドライト発生を説明しました。次回は「劣化」が原因の場合を解説します。
3)次世代電池用「負極材料」が抱える課題の解説をしました。次回は「金属系」におけるデンドライト抑制について紹介します。
4)「平面層」での計算結果を図示しました。「クラスタ論」を完全否定しました。
5)「臭いセンサ」でのシール不良検出装置開発の経過を報告しました。次回は「情報交換会」を披露します。




第9回(2019/6/5)



1)はじめに : 名古屋走り その2

<方向指示を出さない>
 右折車線で信号待ちをしている車の半分は「ウインカー」を出していません。方向指示は自分のためではなく、周りの運転者・歩行者に次の動きを知らせる目的ですが、人のために何かをするという習慣が名古屋では希薄なので、このような運転になります。では、方向指示は何時出すのでしょう。ハンドルを切り始めてからウインカーを点滅します。意味がない!
 さらに過激な話は、右折車線で信号待ちしていて突然直進をする車があります。対向の右折車は予測できず衝突します。方向指示器を出していないから何処に向かおうが構わないという危険極まりない運転です。

<あおりハンドル>
 この危険運転は愛知県だけではないとも言われていますが、圧倒的に愛知県は酷く、「軽自動車」の大半はこの「あおりハンドル」をします。大型車が狭い道で内輪差を考えて左折する時に車線をはみ出て大回りするのと同様に、左折する時にハンドルを一度右に切ってから左折する運転です。丁度フェイントを仕掛けるような動きです。右後方の車線を走っていて、左車線から車線を跨いで入って来るように見え、必死で急ブレーキを踏んだことが度々あります。もちろん左折の方向指示器は点いていません。「あおりハンドル」をする理由は、自動車ラリーにおける急カーブでの「アウト・イン・アウト」走行の真似で、「格好いいから」と聞き呆れました。ラリー愛好者は街中でこんなバカな運転は絶対にしません。

 決して特殊な飛ばし屋がするのではなく一般運転者がするので、名古屋での道交法になっています。他県の方で運転に自信のない方は、愛知県内では公共交通機関を使う方が無難です!なお、阿波の黄走り、岡山ルール、播磨道交法、伊予の早曲がり、松本走り、山梨ルール、茨城ダッシュなど、「名古屋走り」だけでなく、各地方独特の「危険運転」があるようです。
 本年度の4月までの交通死亡者数は、愛知県は第3位、千葉県が第1位で、やっと不名誉な連続記録から抜け出せるかもしれません。また、HEV普及に伴い静粛な運転に慣れ、転じて安全運転が身に付けば、TY社が地元の愛知県としては誇れるようになれるかもしれません。こじ付け過ぎでしょうか?


2)電池及びリチウムイオン電池の基礎:初歩的なデンドライト発生 その1

 リチウムイオン電池の負極は、グラファイトまたはハードカーボンの数μの微粒子集合体で出来ており、グラファイトの場合には約0.3nmのグラフェンの層間に挿入、ハードカーボンの場合にはnm程度の不規則な空隙に挿入され、リチウムイオンの状態で安定に存在します。リチウムイオンが0価つまり金属になる電位とは明確に区別が出来ます。
 リチウム金属析出  Li+ + e- ⇒  Li(metal) E0=―3.0V(水素標準極基準)
 カーボンへの挿入  Li+ + C6 + e- ⇒LiC6   E0=〜−2.9V
 夫々が電極反応を起こす電極電位E0を固有しており、負極の電位を制御することで、反応を制御することが出来ますが、現実の電池では正負両極端子の電圧で計測・制御しているので、正極電位と負極電位を分離することが出来ません。充放電に連れて正極電位は大きく変化しますが、負極電位の変化は小さいので、結局は正極しか制御できません。言い換えれば、正極ではリチウムイオン挿入脱離に伴う電圧計測で過充電を制御可能ですが、負極は挿入脱離に伴う電圧変化の計測では制御出来ず、過充電つまりデンドライト発生を防げません。
 「過充電を電気制御しています」が電圧制御だけなら、デンドライト発生に対しては「無力」です。


<正負容量バランス>

 
Fig.51 正常な充電                    Fig.52 正極容量>負極容量


 もっとも単純なデンドライト発生原因は、正極容量が負極容量を上回った場合です。
 Fig.52、比較のためにFig.51で図説します。通常はFig.51に示すように正極から負極にリチウムイオンが移動し、正極の容量全てが無くなり負極に挿入された充電末でも、負極にはリチウムイオンを「受け入れる余裕」があります。つまり、「正極容量<負極容量」に設計されています。一般的には「正負容量バランスが取れている」と言っています。一方、Fig.52のように正極容量が負極容量を上回っている設計だと、負極が満充電、つまり負極にリチウムイオンを収納できる場所が無くなると、正極から負極に向かって移動するリチウムイオンは行き先が無くなります。もし、参照電極基準で制御をしていれば、この段階で充電を止めることが出来ますが、両端電圧で制御をしているので、負極が満充電になっていることを検出できず、充電を続けてしまいます。行き場を失ったリチウムイオンは負極表面に到達すると、起きてはいけない「リチウム金属析出」が起き、デンドライトが発生します。この反応が何回も続くと結局はデンドライトが成長し、最悪の場合正極に到達し内部短絡、ショートします。
 正極が満充電になると電圧制御で充電は停止されますが、この時にリチウム金属が負極表面に析出した状態になります。クリスマスのモミの木のような結晶形状(樹脂状=デンドライト)のリチウム金属表面は非常に活性で電解液と直ちに反応し、表面にSEIを形成し、電解液劣化、ガス発生を引き起こします。また、デンドライトが千切れて、多数のリチウム金属の微結晶が出来ます。金属溶解反応の方が、負極からのリチウムイオン脱離反応より反応電位が低い(反応し易い)のでデンドライトは容易に放電しますが、千切れたリチウム金属結晶は電気的に孤立しているので放電できません。放電できないリチウムのことをデッドリチウムと呼ぶこともあります。デッドリチウムは正極に戻れなくなる訳ですから、正極放電容量は少なくなります。正極の「早期容量劣化」現象の大半がこの理由です。学会発表などで正極劣化を正極活物質の微細化と考察していますが、データを良く観て正しく考察すれば間違いが解ります。300サイクル程度で正極劣化したデータはこの視点で見直すことをお勧めします。


3)次世代電池:電気化学会春季大会報告

 4月度の雑誌・新聞記事について紹介及び所見を整理しました(Fig.53)。今月はテスラ関連記事が多く驚いています。



Fig.53 4月度雑誌・新聞記事の紹介と評価


・ EVに関し各社を紹介する時に、テスラ抜きは不自然と解っており、テスラギガファクトリ関連情報を整理する必要性は感じているのですが、入手情報の真贋が解らず勇気が出ません。
・ 以前から取り上げている電池交換方式(メカニカルチャージ)に関し、電池容量が少ない、つまり軽い小さいことから、充電ステーション方式の二輪車で実用化が進んでいます。電動自転車が普及しているのは家庭充電が便利だからで、充電ステーションのようなインフラ整備を変える方式には疑問を持っています。川崎市のごみ収集車のような社会インフラ構築の必要がない特殊用途で普及を進めるべきです。




Fig.54 第86回 電気化学春季大会調査報告


 電気化学会春の大会に参加しました。以前に比べ韓国・中国の参加者は減っている感じがします。費用対効果が小さいと判断されていると思うと残念な気がします。半導体⇒液晶⇒電池が日本のお家芸ではなくなって来ているのでしょう。
   表中の※印について以下記載します。
(※1) 東大山田教授グループの発表が目立ちます。ハードカーボンについて層間距離との関係など示唆されることが多く感心して聞いていました。ただし、ナトリウム「イオン」と表現しないのは何故なのか不思議に思っていました所、イオンでは絶対にありえず0価でなければならない「クラスター」で貯蔵機構を解釈していました。金属結晶になっているなら、活物質表面での金属析出との競合を考えればあり得ない現象で、電池では間違った解釈です。
 「クラスター」と言う表現は、「水のクラスター」などと聞こえが良い言葉のために、TR大KB教授には訪問して直接説明したにもかかわらず、相変わらず使用されています。他人のせいにしてはいけませんが、イオン同士ではありえない「クラスター」の表現が通用している間は、「新規な電池理論=片持ち論+篩膜」は陽の目は見ません。考え直していただけることを期待しています。
(※2) PAN系材料は10年以上前にパナソニックから、焼却処理時に有毒ガス発生の可能性が指摘され、電池特性が向上しても民生製品としての採用は自粛すると言う提案があったはずです。その提案を読んで、メーカーとしてこの発表をした研究者およびそれを許した上司に感心しました。製品化を前提としない研究でも断りなしで良いのだろうか?私は現役の研究者でなくなってから、安全性・毒性に神経質になりました。
(※3) 全ての溶媒分子がLi+に配位した高濃度電解液は、間接的効果かも知れないが、金属溶出抑制など面白い特性が得られている。溶媒分解が律速の電池は全て見直す必要があるかもしれない。昔話だが、40年前に鉛蓄電池の研究中に、フリーな水が無くなる濃硫酸では不思議な電池特性を示すことに気が付きました。しかし、若気の至りで濃硫酸の一滴を目に入れて失明しかけて、研究継続を諦めた。今から思えば苦い「青春の思い出」です。
(※4) 半導体技術の展開で楽しみです。一杉教授には別件で丁寧に解り易く指導を受け感謝しています。半導体技術者は実験と理論を結び付ける習慣があり、私のような電池技術者にはない視点をお持ちです。
 「液系電池」の反応界面過電圧増大は表面での反応種(リチウムイオン)減少で解釈できます。「全固体電池」でも固体電解質/活物質反応界面で反応種(リチウムイオン)の減少で解釈できるのではないでしょうか?電流/電圧の関係がオーム則(E=IR)に従わないのではないでしょうか?
(※5) 電池メーカーが固体電解質開発を断念したのは、@電極活物質の体積変化に伴う界面抵抗と、A硫黄系の硫化水素発生であり、決してイオン伝導度不足ではなかった。硫黄系で硫化水素を軽視するのは間違っています。阪府大グループは必ず一言は触れており、研究姿勢を高く評価しています。
 本来、硫化水素の毒性問題はLIBTECのような国の研究機関で調査・研究し、その毒性・安全性に結論を出すべきです。全固体電池搭載のEVが事故・火災を起こした場合に、消火活動はどうすべきかとの問い合わせも来ています。「割れない鉄箱の電槽」と言う回答だけで良いのでしょうか?地方の消防団の青年が安心してできる消火活動の指針を出すべきでしょう。

   電気化学会春季大会の報告が長くなったので、「次世代負極材料が抱える課題」は次回に延期します。


4)新規な電池理論:カーボンナノチューブ計算方法

 金属リチウム析出しない境界条件の中でカーボンナノチューブ(CNT)で計算をしました。
 電池討論会発表、特許の拒絶査定反論などで、私の説明が誤解を呼び、カーボンナノチューブでの特殊な計算結果と思われてしまいました。弁理士にも理解されず、特許庁の審査官との面談にも苦労しました。
・ 電子状態・構造等が規定できる「カーボンナノチューブ」で計算したが、片持ち論の証明結果は全ての「多孔性カーボン」に適用できます。
 <カーボンナノチューブに限定されません>
・ さらに言えば、「カーボン」に限定されず、全ての電子電導性微孔構造体であれば適用できるはずです。
 Fig.55の計算式で、文献により最も一般的と思われたCNT構造を特定し(Fig.56)、LiをCNTに導入し、系全体を中性として安定化エネルギーを計算しました。CNTを輪切りにした平面で、予備計算で安定と思われた1.0Å~3.0Åを0.5Å刻みで詳細に計算しました。さらに、1個ずつLiを加えて安定化エネルギーを計算しました(Fig.57)。7個以上ではリチウム金属生成の安定化エネルギーより低い結果は得られませんでした。
 次回計算結果を詳述します。


 
Fig.55 Li導入の計算方法          Fig.56 分子軌道法計算の計算モデル



Fig.57 カーボンナノチューブ平面層計算モデル


5)昔話 : 昔々の話

 この章は私の「昔話/リチウムイオン電池誕生頃の逸話」で、気軽にお読み下さい。
 先に行く前に、振り返ってさらに昔々の話、失敗談をさせて下さい。
<金属負極電池>
 ニッケル亜鉛電池、NM社のリチウム金属電池の話はしましたが、その他にも金属電池では嫌な思い出があります。
 40年以上前入社3年目、順繰りで薬品管理担当を任されていました。薬品棚にノートが吊らされ、持ち出す時に数量を記入することになっていました。水銀などの毒物も同じ取り扱いで、建前ではノートの記載量と実際の量とを担当は確認することになっていましたが、本音はいい加減で良いと聞いていたので全く管理していませんでした。お盆休暇が終わって直ぐに総務から呼び出しを受け、薬品管理について質問され管理の実態を報告すると、呆れ顔で事情を話してくれました。ARテーマリーダーが故郷四国の山奥で服毒自殺したと言うことでした。会社から「青酸カリ」を持ち出したようです。後日警察の聴取があると聞きびくびくしていましたが、その後呼び出しはなく私の失態は不問に付されたようです。後に聞いた話では、ARリーダーはリチウム金属電池の2次電池化と言うテーマを担当していたようです。金属電池の2次電池化は、取り組んではいけない「呪われた」テーマとの印象を持ちました。
 高分子固体電解質(SPE)をフランスから日本に導入した張本人は私ですが、最初の動機はリチウムイオンがホッピング伝導するからデンドライト成長が起きないと言う宣伝文句に「騙された」からです。今でもホッピング伝導と聞くと熱振動距離が理屈に合わないのに大丈夫かなと首を傾げたくなります。SPE導入の経緯はいずれ記載しますが、会社に1億円の損をさせ、数人の研究者を数年間に亘り徒労をさせたと申し訳なく思っております。
 40年の研究の歴史がある「金属電池」、国プロRISINGなどで脚光を浴びていますが、斬新的なアイディアに基づいているのでしょうか?

<リチウムイオン電池情報>
 当時この名前はありませんでしたが「リチウムイオン電池」の情報は、A社KB氏から持ち込まれました。上司IB部長と気が合われて、私も会食に同席させていただきました。この話の詳細はまだ記載する決心が出来ていないので保留します。
 一方、ソニー(株)が1991年に商品化する数年前に、ソニー(株)開発中の電池について情報を得ていました。上司のIB部長、恩人のNS氏にもこの話はしていません。ある異業種交流会のお世話役を仰せつかっていて、カーボンメーカーのKR社技術企画担当AK氏と会食をする機会があり、電池技術者と名乗らなかったので、AK氏は油断をして電池メーカーから特殊なカーボンの開発を依頼されていることを話されました。しかし、私はカネボウ、ブリヂストンが開発していた導電性ポリマー電池と勘違いしました。KT大YM教授から導電性高分子については教えていただき、その電池としての実力は把握していたので、AK氏の話を無視してしまいました。私の誤った思い込みのせいで、リチウムイオン電池研究先行の絶好のチャンスを逸してしまいました。得られた情報の取り扱いが戦略を根本から変える可能性があることを知りました。

<クラスター>
 大学の時に腐食の研究をしていました。恩師AY氏から参考になるからと勧められ「水のクラスター」について文献を読み漁り、かなりの見識を持っていました。丁度DRAMで日本が米国に追い付いた、半導体業界が活気あふれた時代に、電池から浮気して「半導体」を勉強するために、亡くなられた「東北大西澤教授」に弟子入りをしました。兄弟会社「ユアサ商事のNM部長」がセミコンジャパンの幹事をしている関係で、当時飛ぶ鳥を落とす勢いの若手実力者、「広島大学広瀬教授・東芝(株)堀池主幹研究員」と4人で会食をしました。超純水洗浄がサブミクロンの領域では上手く出来ないとの話が出て、それは水が「クラスター」となりポリマーのような大きな分子になっていると言う物理的イメージを説明し、イオン化して分断すると微孔内でも洗浄できることを話すと、堀池氏は非常に喜んで早速試してみると仰っていました。その後暫くしてDRAMで日本は米国を追い抜き、東芝は世界一になりました。「水クラスター論」が役に立ったとほくそ笑んでいます。この話のように、「クラスター」については明確な物理的イメージを持っています。クラスター論者は、カーボン微孔内にプラスイオン同士がクラスター(凝集体)として安定化すると言う物理的イメージをきちんと説明できるのでしょうか?


6)おわりに

 2)正負容量バランスの間違いに基づくデンドライト発生を図説しました。次回も初歩的な設計ミスを例示します。
 3)電気化学会春季大会の報告をしました。次回は次世代負極材料が抱える課題について記載します。
 4)カーボンナノチューブ計算方法を説明しました。次回は計算結果を詳述します。
 5)寄り道をして、金属負極電池、リチウムイオン電池情報、水のクラスターについて、昔々の話を記述しました。
 次回から「臭いセンサ」によるリーク検出装置の開発経過を報告します。




第8回(2019/5/10)



1)はじめに:名古屋走り(その1)信号無視

 春の全国交通安全運動が5月11日(土)から20日(月)に実施宇されますが、GW明けの久々の通勤・通学で交通事故の発生が心配されます。
 「名古屋走り」と言う交通ルールをご存知ですか?特に尾張地区が酷いと言われています。
 (その1) 黄色で突き進む。「黄色はまだまだ、赤勝負」
 ・ 信号が黄色に変わったら、アクセルを踏み込んで渡る。
 ・ 赤信号では左右を見て慎重に渡る。
 ・ 余所者の車が黄色で停止したら、クラクションを鳴らし、空いている車線で追い越す。
 尾張地区に住んだ当初、何度も黄色で停車してクラクションを鳴らされました。「飛ばし屋」が危険運転することは全国何処でもありますが、名古屋走りの特徴は、普通の「おばさん・おじさん」の運転です。いらいらする程ゆっくり走っているのに、黄色信号で平気で交差点に進入します。
 不思議な運転体験をしました。信号が青になり左折しようとすると、横断歩道手前の小学生が渡りません。小学生が見ている歩行者用信号はもちろん青です。一生懸命に手を振って渡るように促し、やっと私も左折出来ました。
 ・ 愛知県交通安全協会本年度ポスター:青信号でも子供は「いったんとまってみぎひだり」
 ・ 新聞の投書欄:「青信号に変わって子供が飛び出した。親の教育が悪い。」この投稿した運転手側の信号は当然「赤信号」です。
 子供は車が近付くと青信号でも渡らないように教育されています。逆に、運転者に対する「赤信号では止まれ」と言う普通の交通ルールが徹底しません。
 その結果、交通死亡者は2018年度全国3532人で、愛知県が189人で「16年連続1位」と言う輝かしい称号となっています。駐車違反は取締りを強化することで激減しました。「名古屋走りの信号無視」も、子供・歩行者側に注意を促すのではなく、道交法に従って取り締まりを強化すれば解決できるのでは・・・!
 EVの普及を大歓迎している立場とは無関係の話ですが、安全は日頃の心得が大事です。安全に疑いのある電池は、何よりもその疑いを晴らすことを優先すべきでしょう。


2)電池及びリチウムイオン電池の基礎:正極酸素発生

 リチウムイオン電池は、内部短絡(ショート)すると金属缶で密閉され酸素はないのに、激しく発火・燃焼します。酸素がないガソリンタンクとは根本的に違います。短絡箇所で短絡電流が流れ発生したジュール熱で電解液分解が起き、ガス発生が始まります。反応が急激でなく、この段階で内圧上昇により安全弁が開放されると、煙が出る程度で収まります。反応が急激の場合には反応熱も加わり、正極活物質が200℃以上になると、Fig.41に示された温度で熱分解し酸素を放出します。金属缶の中と言う酸素がない状態でも中から酸素が自発的に発生し激しく燃焼します。
 燃焼には、燃えるものと燃やすものが必要で、一般の火事では酸素つまり空気を遮断すれば、消火できるのですが、リチウムイオン電池では自分自身から酸素を供給するので、空気を遮断しても消化できず、激しい燃焼が起きます。極端なことを言えば、ダイナマイトと類似しています。Fig.42は反応式を比べました。ダイナマイトの爆発には窒素の大量発生があり同じとは言えませんが、燃焼に必要な酸素が内部から供給されるという点は同じです。酸素が出始めてからは熱暴走の状態になり手が付けられません。激しい場合には正極端子などで使われているアルミニウムが溶け、酸素と急激に反応します。
 発火事故を防ぐには、内部短絡を起こさないことに尽きます。内部短絡の原因としての異物混入も重要ですが、デンドライトショートが油断できません。私は異物混入よりもデンドライトショートの方が多くの火災事故の主原因と考えています。
 デンドライト発生原因を整理すると、
 1.初歩的な設計上のミス・無理・油断
  1)設計:正負極バランス 負極>正極  2)製造:精度不足・装置不良  3)電解液劣化
 2.電気化学的発生  (カーボン挿入反応過電圧>>デンドライト析出反応過電圧)
  1)電極活物質細孔内での電解液希薄:大半の主因 2)デンドライト成長に伴う表面積拡大! 3)過電圧の違い:反応機構の考察!
 次回以降これらを解説します。
 余談ですが、Fig.41に示すように、Mn<Co<Niと危険性は増します。Ni量を増やすことで、高容量化の改良がされていますが、この表を忘れていないことを祈るばかりです。


 
Fig.41 各種正極活物質の熱特性                     Fig.42 熱分解による酸素発生


3)次世代電池:負極材料候補

 3月度の雑誌・新聞記事について紹介及び所見を整理しました(Fig.43)。




Fig.43 3月度雑誌・新聞記事の紹介と評価


 今月は年度末のためか紹介記事は多くなりました。電池交換式が注目されています。スクータ程度の小容量用途あるいは川崎市で実証試験が行われているゴミ収集車のような限定された用途では実現性が高いと思います。最近頻繁に発表されている東北大折茂教授グループが開発している錯体水素化物固体電解質に注目しています。硫化水素発生がないので今後の研究の進展に期待しています。電解液分解防止のSEIが不要なのだから、デンドライトショートの問題を抱える金属負極に拘らず、TK大ST准教授のように多孔性カーボン負極で容量2倍を実現させるべきです。つまり、多孔性カーボンを「片持ち論」で見直すべきでしょう。




Fig.44 次世代負極材料の容量密度比較


 次世代負極材料の容量を現行負極グラファイト容量に対する倍数で整理しました(Fig.44)。次世代負極を現行の2倍以上と規定すると、4)項の「新規な電池理論」に従えば「2〜3倍」の高容量になる多孔性カーボンは次世代負極材料の候補になります。「軽金属系」は重量当たりでは10倍近い容量が得られますが、比重が軽いために「体積当り」では数倍に止まります。遷移金属の亜鉛は比重が高いために重量当りでも体積当たりでも2倍程度の容量があります。合金系は10倍の高容量と脚光を浴びていますが、充電後の「体積」を基準に考えると3倍程度です。マスプロの掛け声に踊らされることなく、どの材料を開発するかの戦略が最重要課題です。
 反応式に基づくファラデー則から得られる理論容量は物質のモル数つまり重量当りであり、電池技術者は電池の比較をするときに重量当りで考える習慣があり、NEDO等の次世代電池プロジェクトの目標値も重量エネルギー密度(Wh/kg)で定めていました。しかしながら、HEV・EV等の車両用次世代二次電池を比較検討することになり、TY社IB氏が、縦軸出力、横軸エネルギーのラゴンプロットで、縦軸・横軸を体積当りで記載されており非常に驚きました。今まで車のような移動体では電池自身を運ぶのであるから、重量が重要であると信じ込んでいましたが、搭載する空間の制限の方が厳しいと説明を受け、自動車設計の難しさを思い知らされました。体積当りのラゴンプロットは初めて見たので、早速IB氏には引用の許可をお願いしました。今でも多くの電池技術者が重量当りで解析をしますが、自動車の場合には体積当りで検討するべきでしょう。最近は国プロでも体積当りで考えるようになって来ています。一方、やはり移動するのですから重量も忘れてはならない基準でしょう。
 これら次世代負極の抱える課題を次回解説します。


4)次世代電池:計算の前提条件

 NEDO「Li-EAD」プロジェクトへの参加が決定し(Fig.45)、立花教授に計算をお願いしました。Fig.46に示すように計算の大前提を決定しました。電子の空間軌道を表現するのに使用する基底関数、計算Methodが異なると定量的比較ができなくなるので、Fig.47の基底関数系を用いて、予めリチウム金属の凝集エネルギーを計算しました。リチウム金属の結合エネルギー計算モデルをFig.48、計算結果をFig.49に記載しました。文献による0K、1atmにおける凝集エネルギー実測値=―1.63eV/atom=に最も近いDFT(B3LYP)の計算手法に決定しました(Fig.50)。その結果、リチウム金属が析出しない電位域でのリチウムイオンの安定状態を計算すると言う「電池固有の条件」を計算化学に導入することができました。この制限を導入したので、脱溶媒和したリチウムイオン単体の状態よりも金属リチウムの方が安定であると言う「全く意味のない」計算結果を避けることができました。


 
Fig.45 NEDOプロジェクト参加              Fig.46 計算による検証


 
        Fig.47 基底関数系                     Fig.48 Li金属結合エネルギー計算


 なお、 Fig.48に示すように、リチウム原子は数が増えるにつれて安定化エネルギーは小さくなります。リチウムイオンが細孔内で、「クラスター」で安定化していると言うクラレ(株)等の主張は「リチウム原子」では言えますが、「リチウムイオン」では絶対に間違っています。ハードカーボン内でリチウムは「イオン」で存在していることは認識しながら、「0価のリチウム原子」での凝集状態から「クラスター」と表現する間違いを犯しています。学会などで認知されている「この間違い」が、「新規な電池理論=片持ち論」の大きな壁として立ちはだかり、カーボン多孔体での高容量化の取り組みが金属リチウム析出と誤解され軽視されています。



       Fig.49 計算条件による計算結果           Fig.50 分子軌道法による計算方法


 本コラムの目的の一つは「クラスター論」の間違いを指摘し、「新規な電池理論/片持ち論」を立証し、充放電による体積変化の小さいカーボン多孔体での高容量化研究を促進することです。次回以降、カーボンナノチューブ中でリチウムイオンが「片持ち論」で安定に存在することを計算により立証します。 


5)昔話 : SN社NS氏との運命的な出会い

 この章は私の「昔話/リチウムイオン電池誕生頃の逸話」で、気軽にお読み下さい。
 NS氏との出会いをきっかけに、私はリチウムイオン電池を高く評価し、IB部長も賛成されましたが、社内的には身動きできないような状況にあり危機感を感じていました。IB部長からはいずれリチウムイオン電池に全社開発方針を切り替えるから、できるだけ情報収集をして欲しいと要請されました。
 当時は東京本社に所属し、小田原に小さな研究室を任されていましたが、実際には何もできない状況でした。しかし、幸運なことに本人の事情で私の研究室に中央研究所から若い人が異動して来ました。KZ大・工学部総代となったと噂されるNN氏で、私が抱え込んで放り出していたテーマを次々に引き受けてくれました。しかし、研究者としてはこのままでは死んでしまうと心配し、導電性高分子の相談に乗っていただいていたTK大YM教授の研究室に派遣しました(特開平1993−010908)。通学での導電性高分子の応用研究をしながら(特開平1994−052904)、私が支離滅裂に思い付くテーマを、愚痴をこぼさずにこなしてくれました。とにかく呆れる程に優秀で頭の中を見てみたいと思う程でした。
 NM社OT氏、SN社NS氏、X社Y氏とは「情報交換会」を、とは言っても私が一方的に情報収集をしていたと言うべきですが、時々開催していました。毎回OT氏が音頭を取り両氏も気軽に話されるようになり、多くの情報を入手することが出来ました。部下のNN氏に幹事役を任せると、日程調整が非常にスムーズになり、皆様楽しみにされ、定期的に開催されるようになりました。直接研究に携わっていないのにリチウムイオン電池に係わる重要な課題と対策については、耳学問としては超一流の知識を得ることができました。リチウムイオン電池の製品化に成功したSN社NS氏、リチウムイオン電池の特許権者X社Y氏が、お忙しい中でも日程調整されて必ず参加される贅沢な会ですから、後々、この会はリチウムイオン電池の情報の宝庫として羨望の眼差しで見られる程になりました。
 1990年頃TK大の電気化学の恩師AY助手(助教)から変わった人がいるからと、EH助手(助教)を紹介されました。ある事で内部告発をして大学内で完全に干されていましたが、当時は最低限の研究を許される裕度があったので、自分一人で研究をされていました。研究室は足の踏む場もない程に手作りの試作品が並んでいました。発明が得意で、その発明を自分の手で試作しないと気がすまない性質で、どれも役に立ちそうもない物ばかりでしたが、新コスモス電機(株)と共同開発した「匂いセンサ」がありました。半導体の電導度が吸着したガスの還元性で変化することに着目し、変化率が異なる複数のセンサで得られたデータをレーダーチャートにすることで、人間の嗅覚のように、心地良い匂いと、不愉快な臭いを数値化できると言う測定器「臭いセンサ」です。


6)おわりに

 2)内部短絡による発熱で正極から酸素が発生し熱暴走します。次回からはデンドライト発生の原因について解説します。
 3)次世代EV用電池負極材料の紹介をしました。次回からはそれが抱える課題について整理します。
 4)NEDOプロに参加し、前段階として「リチウム金属」を計算し、分子軌道法の計算条件を決定しました。次回からは、CNT内でリチウムイオンの「片持ち論」での存在を立証します。
 5)SN社NS氏等との情報交換会が始まりました。次回からは「臭いセンサ」によるリチウムイオン電池リーク検出装置開発の経過を報告します。




第7回(2019/4/5)



1)はじめに:東海のお花見

 3月27日〜29日京都大学で開催された「電気化学会第86回大会」から戻りこの原稿を書いています。大会中少しサボって花見もできました。2〜3人連れの和服の女性が何組も歩いていました。身振り手振りで写真を撮るよう頼まれ、背景、ポーズを変え数枚撮ると大変喜ばれました。もちろんインバウンドの中国人です。日本語は全く話せないようですが、着付けの店に行き、帯・足袋も含め和装姿にしてもらったようです。中国からの旅行者は「爆買い」を控え、日本文化を楽しんでいるようです。   
 名古屋は例年より4日早く、3月22日に開花宣言が出ました。(公財)日本さくらの会選定の「日本さくら名所100選」に、愛知県では山崎川四季の道(名古屋市)、鶴舞公園(名古屋市)、岡崎公園(岡崎市)、五条川(岩倉市・江南市・大口町)が選ばれています。他に東海地区では根尾谷の淡墨桜(岐阜県本巣市)が忘れてはならない桜です。
 現在住んでいる清洲は、秀吉が信長の孫・三法師を担ぎ天下取りの第一歩を踏み出した清洲会議で有名な地で、観光用に清須城模擬天守閣が建築されています。五条川は清州まで続いており、清須城周辺は花見の名所になっています。名古屋駅から東海道線2駅目と近いのに田畑が残っており、駅前にコンビニさえもない寂しい駅で東京との違いに驚きます。
 五条川の15km、4000本の桜並木は本当に見事です。鈴なりに桜花を付けた枝が両岸から伸びて川の中央で重なり合い花の色を濃くします。東京の目黒川とは趣が違い、護岸の斜面以外は雑草が生えた土手で自然が残っています。染色した「鯉のぼり・皐月のぼり」を川に浮かべて糊を落とす伝統的手法「のんぼり洗い」の実演、各町が保存する山車の巡行「からくり人形」の演舞など見所が沢山あります。満開には少し早目でしたが、今年もスーパーの弁当とお酒をぶら下げて土手道をお花見散歩しました。桜並木は4市町に延び、とても全部歩くことが出来ず、歩き疲れたら土手に座り酒を飲みながらのんびり桜を眺めうとうとするのが、この季節の楽しみです。一般的には桜は散りだすと見納めなのですが、水面が全く見えなくなる程に見事な「花筏」が出来、満開時、散り時と2回楽しめる素晴らしい花見の名所です。
 昨秋の台風21、24号で被害を被った「薄墨桜」を観に行ってきました。大きな枝が4本折れましたが、地元の方々尽力と県・市の協力を得て復活を遂げています。樹齢1500年余、樹高16.3m、幹回り9.91m、枝張り20〜27mの彼岸桜の巨樹で、「日本五大桜、三大巨桜」の一つで、「国指定天然記念物」です。この老桜は、これまでも多くの人の尽力で蘇っています。伊勢湾台風により被災し、痛々しい無残な姿になった老桜に心を痛めた宇野千代氏(1996年98歳没)が保存の呼び掛けをし国・県の補助で、満開の花を咲かすようになりました。
 初めて訪れた年は、開花には早く裏道には雪が残り、生憎小雨も降っていました。パンフレットには不死鳥のように蘇ったと書かれていたので、鮮やかな桜の大樹を思い描いていましたが、坂道を登って現れた眼前の巨木は今にも倒れそうな朽ち果てた老木でした。小説「薄墨の桜」では、作者自身と高級料亭の女将・養女が登場人物ですが、主人公はその名の通り、古木「薄墨桜」です。「宇野千代」は、私が抱いた老木のイメージと同じ気持ちで、主人公の女将の運命を悲劇の結末にさせたのでしょうか?
 今年も見事に咲いているのですが、やはり最初のイメージが強すぎて、華やかな気分は沸きません。この老木の巨大さには心底圧倒されるのですが、決して威風堂々ではなく、多くの支柱と、背後に咲き誇る元気な「実から育てた直系の二世桜」に支えられているように見えました。なお、世界中に「直系の二世桜」が植えられているそうです。最近の気候変動で、1,500年の歴史を経た「薄墨桜」も、観測史上初めて言われる異常気象を被ることになると思うと気が気ではありません。来年も再来年もこの老木を訪ね、「どうか長生きして下さい」と手を合わせなくてはという気持ちになります。


2)電池及びリチウムイオン電池の基礎:発火事故例と原因

 昨年2月26日「読売新聞社説」でリチウムイオン電池の事故が取り上げられました。電池による火災が注目されています。
  ・質の悪い海外製品の普及が背景にある。
  ・電気用品安全法の規制対象に加え、粗悪品を淘汰する。
  ・国内各メーカーは安全対策に努めている。
   ☆世界競争の中で日本の技術力を高めていきたい
 具体的に中国を名指ししてはいませんが、中国の中小メーカーを意識していることは想像に難くありません。
 (独法)製品評価技術基盤機構(略称:nite)が今年1月24日に、2013年度から2017年度の5年間で582件のリチウムイオン電池の事故があったと発表しました。
  ・事故の内402件が火災を伴い、内368件は製品不具合、内209件はリコール対象品であった。
  ・13年度46件が、17年度には121件と大幅に増加している。
  ・携帯電話の補助電源として携帯されているモバイルバッテリーで頻発した。
 Fig.34に事故例を表にしました。リュックサックの中のモバイルバッテリーが発火した件など粗悪品と思われる発火事故が起きています。しかし、5年前、2013年のボーイング787の事故は大手国内メーカーGSユアサ製の電池です。この航空機用電池開発を発表した技術者には、私が知っている名前はなく、ユアサ関係者はいないと解りホットしました。立派な調査報告書が作成され、発火したセルから他セルへの延焼に対策が取られましたが、最初のセルの発火原因は不明と片付けられました。この時には調査には電池関係者は参加していなかったようです。翌年1月14日に火災が再発し、著名な電池専門家及びGSユアサも参加し、事故調査・原因究明が行なわれました。前年度火災の対策が有効で、過熱したセル以外のセルは無事でバッテリー全体の機能は維持できた。
  ・「リチウム金属析出」など内部短絡・加熱の原因は特定できなかった。
  ・信頼性向上のために、潜在的な要因について検討する。
つまり、原因不明でセル発火には打つ手がないと言う結論です。私は公表されたデータに電圧パルスが入っていることが気になりました。GSユアサは製品設計・製造工程の見直しをして、二度と人命に関わる可能性がある事故は起こさないはずです。電池の専門家が加わってこの程度の調査報告とは落胆しました。私が加わっていれば・・・(笑)。
 第1回目の事故があった時に、某TVから取材の申し入れを受け、顔出しは不可、音声は変える、ことを約束に引き受けました。記者によるインタビューのみと言う約束で気軽に考えていたら、撮影用の大型バスに乗り付けられ、大慌て、冷や汗もので、記者に厳重に申し入れをし、インタビューのみを受けました。実際に放映されたニュースでは約束は守られており胸をなでおろしました。なお、この放映ではST大KN教授が詳しく話されており、私の話の大半はカットされていました。


Fig.34 リチウムイオン電池の発火事故例

 Fig.35は、TVインタビューの手元資料として、前夜に大慌てで作成したFMEA(Failure Mode and Effect Analysis)です。見直しをしていないので不備もあると思いますが、不具合が起きた時の参考にして下さい。テスラEVのように壁に激突するなど電池が機械的に損傷した事故ではなく、充電方法に不備がなく、ギャラクシ不良の一部の原因とされたセパレータ不良がなければ、火災事故は全て内部短絡、つまりは異物混入かデンドライトショートが原因です。



Fig.35 発火原因調査(FMEA)

 Fig.36にパナソニック・ノートパソコン用2011年から2018年製造品リコールを表にしました。右欄には同時期にパナソニック製電池を搭載した富士通ノートパソコン2011年から2016年製造品のリコールを表にしました。東芝も2016年1月28日、11月10日にパナソニック製電池のリコールを発表しています。5年以上に亘り、不良品を出荷し続けたと言うことは腑に落ちません。工程での異物混入であれば、返品電池の製造番号を見れば、何年何月何日、工場・ラインが特定出来、早期に解決できるはずです。また、出荷時には異常ではなく、ある期間使用することで不具合が生じることも製造時不良と片付けるには無理があるのではないでしょうか?満充電にしない対策が取られていますが、異物混入の対策になるのでしょうか?
 3月20日付中日新聞の記事によると、本件について東京地裁は「原因は特定できなくても、製造物責任法上の欠陥はあり、賠償責任はある。」との判決を下しました。原因不明だから、製品交換を5年も繰り返すと言う不可思議な対処方法に、言わば、「お灸をすえられた」と言うことと思います。今後は火傷などをした場合に刑事事件としての訴訟が起こる可能性があり、今回の判決を踏襲される可能性は高いと考えるべきと思います。内部ショート ⇒ 発火について、電池メーカーは原因不明だからと安易に考えず、もっと真摯に向き合うべきです。



Fig.36 パナソニックおよび富士通リコール

 パナソニックあるいは中国メーカーが原因とした異物混入は、塗装・注液工程などで環境中の埃が取り込まれる、蓋溶接時に溶接屑が内部に入るなど、工程の埃、屑などが電池内部に残ることで、その可能性は決して低くはないでしょう。混入した時に絶縁性ですと、エージング後の電圧検査では見付からず、不良として抜き取られずに出荷されることがあります。環境をクリーンルームにし、埃・屑をなくすこと、さらに電極シートなど電池内部構成部品に付着しないように静電気除去が有効と思います。
 大半の火災事故で、異物混入が原因とされていますが、数年使用後、あるいは長期間に渡り不具合が発生し続ける場合にはデンドライト発生が原因と考えており、次回以降詳しく解説します。


3)次世代EV用電池:改良型リチウムイオン電池について

 2月度の雑誌・新聞記事について紹介及び所見を整理しました(Fig.37)。東芝がEV用として負極に「希少金属ニオブ」を材料とする新製品を発表しました。数年前に、このニオブ負極について意見を求められましたが、@材料比率が高いEVでは現行カーボン負極に比較しはるかに高価になる。A現行カーボン負極に比し高エネルギーになることは考えられない。と言う理由で無視していました。EV普及の妨げの一つである「希少金属コバルト」を減らすことに努力している時に、新たに「希少金属ニオブ」を採用することには「疑念」を抱きます。



Fig.37 2月度の雑誌・新聞記事の紹介

 昨年11月27日から29日(木)、大坂府立国際会議場にて、「第59回電池討論会」が開催されました。電池関連の最大イベントで、特に企業研究者は電気化学会よりも重視しています。韓国・中国の参加者は減っているように感じました。電池技術委員会主催で大変収益があがっている様子が、懇親会の派手さから解ります。事前に調査依頼があり、意識的に「全固体電池」の発表を聞きました。
 「全固体電池」以外には、Fig.38のように、「シリコン負極」の寿命に係わる発表と「亜鉛負極」のデンドライトに関する発表を聞きました。負極は金属系、合金系が高容量になることは明確ですが、夫々の欠点が乗り越える壁として益々高いと言うことが明確になってきています。



Fig.38 電池討論会参加報告=全固体電池以外編=

 「全固体電池」については、Fig.39に一覧表にしました。注目していた「硫化水素発生」については、OF大TM教授グループ等は解決すべき課題として意識的にして取り上げていましたが、他の研究者は関心がないようでした。消防士の人命に関わるこの問題抜きに開発を進めることは許されず、電池「討論会」で「硫化水素発生」が必須検討項目とされないことに危惧を感じました。
 新たに水素化物の発表がありました。低温でのイオン伝導度、初充電効率等解決すべき課題はありますが、今後の開発に期待できます。硫化水素の発生はないが、水素発生がありそうなので、負の側面も十分に考慮して開発が進められることを望みます。



Fig.39 電池討論会参加報告=全固体電池編=

 EV用電池としては、リチウムイオン電池が当面の唯一の解ですが、エネルギー密度は理論値になっており、リーフ仕様である一充電走行距離400kmが限界で、ガソリン車に代替し一般に普及する性能である1000km走行を実現するためには、2倍のエネルギー密度が望まれています。
 リチウムイオン電池の「改良」が多くの研究機関で挑戦されており、整理するとFig.40のようになります。酸化還元しない電解液または添加剤に因る正極SEI形成により、「5V系高電圧系正極」は実現すると思います。それ以外の「リチウムイオン電池の改良」は他の性能を犠牲にすることになり、実用化は出来ないと思います。例えば、注目されている「高Ni比率正極」は、酸素発生温度とリチウム金属融点とのマージンが小さくなり破裂発火の可能性が高くなり、高容量化だけで喜ぶことは出来ないはずです。また、「5V系正極」の研究成果でも、他社が生産できない強い特許が成立するとは思えず、優れた「改良研究」をしても、直ぐに韓国・中国に類似技術を実現され、生き延びられるのは僅かな期間しかないと思います。
 「改良型リチウムイオン電池」は、EVの本格的普及には能力不足で、「日本の電池産業」を救う手段にはならず、現在各メーカーで必死に行われているコストダウン努力と同じように無駄になると思っています。



Fig.40 改良型リチウムイオン電池の正負極候補材料


4)新規な電池理論:国プロ応募および関連特許

 「新規な電池理論」を構築し特許出願しましたが、「篩膜」に目途が立たない限り、実験は難しいことが解っていたので、AH氏、京大立花教授の助言に従って、国プロに応募することにしました。2008年4月22日、NEDO募集「次世代自動車用高性能蓄電システム技術開発(略称Li-EADプロジェクト)」に、テーマ名「新規な電池理論の研究開発」で応募しました。大学と共同研究にした方が合格し易いとの助言があり、カーボンナノチューブ(CNT)発明者楠教授が異動した名古屋大学、計算化学立花教授の京都大学、JFCCの3社の共同研究にし、提案に重みをつけるために、リチウムイオン電池の「生みの親」NS氏、名古屋大学で電池研究をしていたSN氏に加わっていただき応募しました。
  ・ CNT内部でリチウムイオンの相互反発は?
  ・ CNT内部での存在状態・位置?グラファイトより高容量になるか?
  ・ リチウムイオンが先端孔を通過する時及び溶媒が通過する時のエネルギー障壁は?
 具体的には
  ・ 分子レベルでの計算モデルの構築と、静的状態での分子軌道法による軌道計算で理論の検証を行う。
  ・ 電気化学速度論に基づき先端孔をリチウムイオンが通過できることを確認する。
  ・ リチウムイオンの存在位置・状態を現象論から明らかにし、それが可能なCNT等を試作する。
 将来への展開は
  ・ 「新規な電池理論」の実験による証明。
  ・ 理論を実証する材料の計測・観測。
  ・ 多価カチオン、陰イオンでの適用。
 NEDO担当者はMB社からの出向のYZ氏で、電気制御の専門家で夢を見ることが出来る立場で、全く新しい革新的なアイディアに対し共感を持たれ、採用に向けて協力していただきました。NEDO上層部からは、計算だけで実験がないのは応募主旨に反するとの意見がありましたが、YZ氏が補足説明をし採用されました。
 なお、13年前のこの募集では、次世代電池関連で17件、内硫黄系正極4件、金属/空気電池3件、酸化物負極3件、イオン液体3件、合金系負極2件、金属負極1件、固体電解質1件、多価カチオン1件が採用されました。固体電解質関係を除けば、現在の国プロも配分は変り映えしません。
 業務委託契約書、実施計画書など、YZ氏の協力を得て作成・提出・契約し、2年分総額4千万円弱(主としてJFCC人件費、京都大学スパコン代)で、研究を開始しました。JFCCでは国立大学・国立研究機関とは異なり人件費に多くを割かれるので予算獲得には不利な条件かも知れません。
 開発資金が得られたので、早速京都大学立花教授に報告し計算を依頼すると、以下を確認されました。
  @  CNT内は等電位面になっているが、正電荷のリチウムイオン同士は反発する。
  A  カーボン壁とリチウムイオンは静電力よりは、ファンデルワールス力の寄与が大きい。
  B  CNT内で金属結晶になる安定状態なら、CNT外側に先に金属結晶ができると言う「電池特有の条件」を境界条件にする。
 Bの条件は、計算が進むにつれて、非常に重要かつ適切な条件であったと判明します。NEDOと応募内容の質疑応答を繰り返す内に、以下が採用反対の「裏の理由」であることに気が付きました。
  @  特許出願「済み」は委託業務での成果にならない。
  A  特許を出願したのだから実験データがあるはずで、応募の目的がその実験費用の回収に思える。
  B  学会などで周知されている「両持ち論、クラスター論」を否定し、数倍の高容量が得られる「新規な電池理論」は認めがたい。
 @は、理不尽ではあるがもっともと思いました。Aは、実験せずに実施例無しで出願する例は非常に少ないので、疑いの目で見られても仕方がないと思い、純粋に理論特許で実験はしていないことを必死で説明しました。Bはかなり憤慨しました。実際に中間発表の時に、「国立研究機関研究者」から、「悪意」を感じる質問をされました。後々その研究者が「クラスター論」の提唱者であったことが解り納得しました。
  出願特許が応募の最大の目玉で、まだ審査請求前で特許成立が決まっていなかったので、先行出願特許を再調査した所、残念ながら良く似た特許が見付かりました。
  @ 出願日:1994年2月18日 出願番号:1994−21344 発明者:大崎外2名 特許権者:日本酸素(株)
    特許番号:第2844302号 登録日:1998年10月30日 
  A 出願日:1994年2月18日 出願番号:平6−21349 発明者:大崎外2名 特許権者:日本酸素(株)
    特許番号:第2844303号 登録日:1998年10月30日
  請求要旨: 難黒鉛性炭素の微粒子表面の細孔入口径を、リチウムイオンが通過可能で、かつ、電解液中の有機溶媒が実質的に通過不可能な径とする。
 私の第1特許(第5062989号)の請求項と類似していますが、同一ではなく、入り口での大きな過電圧はデンドライト発生を引き起こすので、実用電池にはならないと思われました。電解液の細孔内への浸入を防ぎ、速度論的課題を解決できる「篩膜」には気が付いていません(第2特許第5134254号)。従って、「篩膜」での実用化は、「日本酸素の特許」には抵触しないと考え応募し、NEDOにも説明しました。
 自分の発明が最初と思っても、調査をすると先行技術があることが多いのですが、本件でも痛感しました。審査請求では、特許事務所からはCNTに絞らないと成立しないと忠告されましたが、CNTに限定すれば、理論上は有効だが実用上は有効な特許にならないと判断し、審査官面談を申し入れ、リチウムイオン電池が置かれている背景から、本発明考案までのいきさつを丁寧に説明しました。審査官は熱心に耳を傾け、最終的にCNTに限定せずに特許として成立することが出来ました。なお、本件特許2件はJFCCが維持年金の支払いができなくなり、現在は私に譲渡され、その特許維持年金を私個人が負担しているので、特許権を購入していただける方を探しています。


5)昔話:SN社NS氏との運命的な出会い

 この章は私の「昔話」で技術的に価値のない話ですが、リチウムイオン電池誕生頃の「逸話」を知りたい方は楽しんでお読み下さい。
 リチウムイオン電池と私との出会いは非常に古く、X社から評価依頼と共同開発の申し入れがあった時からです。ユアサ電池AH氏が評価し非常に素晴らしい電池との報告を受けました。X社との共同開発については今でも公表を「憚る」ので詳細は飛ばしますが、受け入れ難い条件があり合意に至りませんでした。また、当時NM社のリチウム金属電池、後述する高分子固体電解質電池の開発を進めており、人・物・金の開発資源は非常に厳しい状況でした。
 私は日記の習慣がなく記憶だけで本稿を書いていますが、大事なことなのでNS氏に確認を取ると、1993年8月に前述のNM社OT氏のアレンジで、NS氏、X社、ND社、OT氏、私の5名で東京・新橋で会食をしたのが最初のようです。残念ながら私は緊張しており、曖昧な記憶しかありません。リチウムイオン電池は本格的な取り組みが始まらず指を咥えて見ている状況でした。1996年2月に同じくOT氏から、リチウムイオン二次電池「生みの親」NS氏の話をじっくり聞ける機会を設けるからと誘われ、東京・人形町のNS氏が行きつけの寿司屋でお会いしました。競合メーカーになる可能性のある私にも、リチウムイオン電池の研究・開発の経過を誠実に解り易く話され、驚くと同時に運命的な感銘を受け、大変なことになると思いました。この時の印象をIB部長に報告し、高分子固体電解質電池の開発を中止し、リチウムイオン2次電池の開発に注力すべきと提言しました。
 この頃OT氏から、カナダNM社から空輸されてきた時に段ボールを開けると、「匂いがする」が構わないのかという相談がありました。確かに良く嗅いでみると、「パイナップル缶詰」のような芳香臭がします。梱包前の水洗を丁寧にしても変わりなく、空輸で減圧になることを考慮しても、「匂う」と言うことはシールが完璧でないことを意味しており、水分が逆に浸入している可能性もあり、出荷前に検出する方法を見出すべきと考えました。


6)おわりに

 2)発火事例と原因について説明しました。次回からは「デンドライトショート」について解説します。
 3)EV用電池としては現行リチウムイオン電池が「主流」になりますが、日本メーカーには勝ち目なく、「改良型」リチウムイオン電池も残念ながら勝ち目はないと思っています。次回からは「次世代電池」について整理します。
 4)NEDO募集「Li-EADプロジェクト」応募のいきさつを紹介しました。次回は、「リチウム金属」などの前提となる計算結果を報告します。
 5)「SN社NS氏」との運命的な出会いを記載しました。次回からは「シール不良検出器開発」について記載します。
   「平成」が終わり、新しい時代「令和」が始まります。「次世代電池」も間もなく花開くと思います。それが、「新規な電池理論」に基づく電池だと嬉しいのですが・・・。




第6回(2019/3/6)



1)はじめに:愛知の喫茶店文化

 愛知県に住んで一番感心したのは喫茶店です。全国に誇れる素晴らしい文化だと思います。以前卵焼きを敷いた鉄板スパを紹介しましたが、食べられるのはレストランではなく、喫茶店です。「名古屋地区、愛知地区」と分かれた広告チラシを見掛けます。名古屋は愛知県には含まれず、愛知地区は「尾張と三河」が代表で、それぞれ東、西に分かれています。愛知県喫茶店数は人口比で、高知県、岐阜県に次ぐ3位です。特に有名なのは「西尾張地区」です。小さな繊維工場が多く、会議室・応接室代わりに喫茶店を頻繁に利用していたそうです。田畑が残っている田園風景が広がる所で、徒歩10分以内には必ず明るい色彩の洋風の2階建てが見付かります。主要道沿いとは限らず一歩奥に入った小道に面している店もあります。マスター・ママの個性が発揮された内装で、コーヒー400円で、追加料金なしで必ず「モーニング」が付きます。トースト・サラダ・ゆで卵またはオムレツ・「小豆あん」・豆菓子が定番で、茶碗蒸しが付く店もあります。お年寄りには十分なボリュームです。最近では流石に経営不振になる店も出てきているようですが、実に不思議な光景です。
 裏の畑を耕しに来るお婆さんは、朝早くに畑仕事を済ませ、着替えて9時頃に喫茶店に行きます。最長老なので指定席が確保されていて、モーニングを食べながらマスターから提供される小説を読むことが日課です。この時間帯は常連の高齢者がボックス席で情報交換する、井戸端会議の場となり、人それぞれに寛げる憩いの場となります。老人が集う場所が、朝食代も含め400円/回で、歩いて集まれる距離にあると言うのは、本当に素晴らしい文化だと思います。東京の老母が遊びに来ると喫茶店に連れていきます。東京で近所の友達と話がしたい時には、長々と電話で話すか、中間にある公園で話をしています。玄関を通らずに縁側から気軽に入れるように改築しても、お互いの家に上がるのは気が引けるようです。数人で集まることになれば呼び掛ける事も大変ですし、雨の日、寒い時、暑い時には難儀なので、次第に会う機会が減ってきて家に籠りがちになります。名古屋の喫茶店に行くと毎回羨ましそうに、同年代の老人達が楽しそうに話をしているのを眺めています。名古屋の喫茶店文化はこれからの高齢社会で、孤独を紛らわせることが出来、ボケ防止になる有益な文化で、大切にするべきと思います。路線バスのシルバーパスのように、喫茶店用割引き券を発行する事は高齢化社会にとって有効な税金の使い道だと思います。
 私は土曜日昼に割子弁当(松花堂弁当)を食べに行きます。コーヒー込みで780円です。刺身・天ぷら・煮物が味噌汁付きで食べられます。カラオケ喫茶も兼ねているので、気が向くと11枚千円のチケットで1曲唄って帰ります。特に綺麗な訳でも美味しい訳でもないのですが、午後にはほぼ満席になり驚かされます。結局は安いこと(お値打ちと言います)、常連客を大事にしていることが成功の秘訣なのでしょう。
 顧客の要望で専用電池を開発することがあります。お客様と親密な関係が作れ、最先端の開発機器を一緒に開発している気分を味わえるので、技術者として遣り甲斐もあり楽しくなります。その製品がヒットすれば大儲け出来ますが、競合メーカーが標準品で同じような製品を作ると、特注品はコスト高のため採用されなくなります。小ロットで安く生産できる方法が構築できないのが残念です。



2)電池及びリチウムイオン電池の基礎:SEI剥離・修復・再形成

 前回Fig.25で図示したようにSEI(図中緑の五角形)は活物質表面を覆っていますが、温度変化、充放電に伴う体積変化などにより、Fig.31で図示するように一部が溶解・剥離します。剥離したSEI欠損部分には直ちに電解液が浸込み分解して埋めるので、SEIは修復されます。つまり、SEIは常に活物質表面を被覆し、電解液分解を防いでいます。一方、溶解・剥離した「SEIの残渣」(図中白抜きの緑の五角形)は電解液中に浮遊していきます。丁度滓が浮遊するようなイメージです。SEIは、リチウムイオンは通過させ(イオン伝導性)、電子は通過させない(電子電導性)特性を有し、リチウムイオン電池が充放電を繰り返すために重要な役割を果たしています。




Fig.31 SEI(固体電解質界面)剥離・溶解と修復

 一方、Fig.31で白抜きの緑の五角形で描いた溶解・剥離した「SEIの残渣」は、電解液中に浮遊し、イオン移動の妨げとなる電解液劣化の主因としての「マイナスの役割」しかありません。先日電池技術者とこの電解液劣化について議論をしている時に、「滓」が増えてくるようだとの発言があり、この言葉から、SEI層の電解液側で、滓が溜まっている層を「滓層」と名付けることにしました。この「滓層」を明確に定義付けすることで、電解液劣化、デンドライト発生などが非常に解り易く説明できるようになりました。これまでは「SEI層中を溶媒和したリチウムイオンが電極に向かって移動する」あるいは「SEI層は電解液劣化に伴い厚くなる」などと、電解液分解を防止するSEIの役割とは矛盾した表現をしていましたが、「SEI層」と「滓層」を分けて定義し、電解液側に広がる「SEI層」を「滓層」と言い換えれば、これらの現象を矛盾なく解説できます。
 前述のように水系電池でもSEIはでき、溶解・剥離した「滓」もできます、これらは、正極で酸化され酸素、あるいは負極で還元され水素になり、適切に密封した電池の中では、燃料電池の原理で最終的に安定かつ単純な分子「水」、電解液に戻ります。要するに「電解液分解生成物は電解液に戻ります。」従って、水系の電池では電解液劣化は起こりません。一方、リチウムイオン電池のような有機溶媒電池では、電解液である有機溶媒が分解すると、最終的には単純なリチウム塩、炭酸ガス、有機気体、水素、水などになりますが、これらは電池の中で複雑な分子である電解液に戻ることが出来ません。「有機系電解液は分解すると、元の電解液には戻れません。」その結果「滓」が増えて徐々に電解液は劣化していくことになります。
 電解液分解生成物にはリチウムイオンが含まれ固定化されるので、この分のリチウムオンは電池反応には寄与しなくなり、Fig.22で図説した指数関数劣化の一因になります。しかし、多くの場合にその量よりもはるかに劣化は早く済みます。負極でできた「滓」は徐々に正極に浮遊し、正極にて酸化され、正極の細孔内に安定な化合物として沈殿します。正極活物質細孔内は「滓」が非常に多くなり、イオン移動が阻害され、通常の終止電圧打ち切り放電試験では放電、つまり正極活物質細孔奥部でのリチウムイオンの挿入反応を妨げます。結果として充放電効率が下がることになります。リチウムイオンは正極に戻れず負極にとどまっています。負極からリチウムイオンが脱離できないと言う考察がされることがありますが、間違っています。正極に入ることが出来ないから負極に残っています。正極寿命になった電池から負極を取り出して新鮮な正極と組み合わせて引き出すと、十分リチウムイオンが残っていて、電極活物質として活性であることが証明できます。高率放電では容量が取り出せないが、低率放電では元に近い容量が得られ場合がこの劣化現象に当てはまります。簡便な検出方法として、「掃き出し放電」と名付け、1C、0.3C、0.1C・・・のように順次放電率を下げて、正極活物質としての容量測定を心掛けていました。「掃き出し放電」では、劣化したと判定された電池の多くで元に近い容量が得られます。正極劣化と解析されているデータをこの観点で見直すと、正極活物質自体は劣化していないことが多いことに気付かれると思います。学会などでこの種発表を聞いた時には注意をするのですが、私の表現が上手くないのか理解されないことがほとんどです。残念!
 余談ですが、電池試験・解析をしている関西の分析会社が、正極容量劣化が活物質微細化のためと解析している発表があり、「その充放電条件ではデンドライトが発生しているはずで、そのため正極容量が少なくなったのではないですか?」と質問した所、「デンドライトはこの種試験では『普通に』発生しますが、この発表では正極容量を継続的に測定しているので無関係です。」との回答でした。開いた口が塞がらなくなりました!
 正極活物質劣化と言う場合には、正極容量を測るだけでは解らないことがあります。電圧制御充電(例えば4.2V)ですから、充電末で脱離した状態はサイクルで変化しませんが、放電末は戻って来たリチウムイオン量で決まるので、放電末のOCVは重要な意味を持ちます。容量減少が起きていても、元のOCVに戻れていない、充電で放出したリチウムイオンの一部が戻ってこられていないことが良くあります。この戻ってこられない理由を解析することが重要で、容量減を正極活物質劣化と安易に結論付けるのは間違っています。

  <SEI(固体電解質界面)のまとめ>
  1)電解液(溶媒・溶質)が分解して、負極活物質表面に形成する。
  2)リチウムイオンは通過できるが、電子は通過(?)できない。厚さは10nm以下。
  3)熱・応力で溶解・剥離し、滓となって浮遊し、イオン移動を妨害する(滓層)。



3)次世代EV用電池:EV用リチウムイオン電池の技術的展望


Fig.32 1月度の雑誌・新聞記事の紹介

 1月度の雑誌・新聞記事について紹介及び私の所見を整理しました(Fig.32)。トヨタ自動車がパナソニックとEV用電池を開発・生産する新会社を設立するとの発表がありました。パナソニックの実態は旧サンヨーグループで、テスラー向け電池を開発・供給している旧パナソニックグループとは違うと推定しています。角型・3元系正極で、韓国メーカーさらには中国大手メーカーが手掛けている一般的な技術内容になるはずです。トヨタ自動車が子会社PEVE、つまり旧パナソニックの技術協力を得て自社開発した「HEV用リチウムイオン電池」の延長としてのEV用電池開発は放棄したと考えて良さそうです。トヨタ自動車(株)500人、旧サンヨーグループ3,000人はこれまでの実績から驚くことのない人数です。記事では「全固体電池」の開発も共同ですると書かれていましたが、トヨタ自動車はこれまで独自に開発し圧倒的に先行し、一方旧サンヨーグループは全固体電池についてほとんど実績がなく、僅かに手掛けていた旧パナソニックの「要素技術開発部隊」は移管されないことから、共同開発の報道は不思議に思っています。先ずは、明日からのEV用リチウムイオン電池をどうするかの早急な対策ではないかと思います。トヨタ自動車内でこれまで研究開発をしていた研究者・技術者が、体制変化に動揺しなければ良いと願っています。
 昨年秋、9月25日(火)から26日(水)、金沢大学にて、電気化学秋季大会が開催されました。電池は学問としては電気化学に属し、その学会の年2回の発表会です。全14会場の内、キャパシタ・燃料電池も含め3会場が電池関連で、129件の発表がありました。今回会場の雰囲気としては中国からの参加者が非常に少ないと思いました。ただし、中国の参加者が日本の学会の秩序に慣れてきて目立たなくなったためかも知れません。私が聞くことが出来た発表について紹介及び所見を整理しました(Fig.33)。著しく新鮮さを感じた発表はありませんでした。全固体電池については興味が湧かないので、ほとんど聞きませんでした。




Fig.33 電気化学秋季大会発表の紹介

 Fig.32、33などの情報を参考にして、今後のEV用電池について調査・検討をし、私の所見を記述していますが、怪しい話と思われたら飛ばして下さい。
 リチウムイオン電池が当面主流であることは衆目の一致した意見と思っていますが、前回までに述べたようには市場面では、日本市場は小さく、膨大な市場を抱える中国では国策としての補助・規制などにより、中国メーカーが圧倒的に有利になっています。また欧州市場では先行する韓国メーカーが優位に立っていると思います。
 市場では日本メーカーは負けが決定、技術では日本メーカーはどうでしょうか?
 およそ1年前、2018年2月28日国際2次電池展基調講演で、@マクセルホールディング(株)、ABYD BCATL、Cテスラー の代表者の講演を聞きました。Cテスラーは電池技術の話ではなく宣伝と太陽電池システム定置用電池の実績紹介で中味はありませんでした。ABYDは特に印象的な話はありませんでしたが、技術説明は要点を正確に把握して丁寧に説明されていました。リン酸鉄正極への執着心が残っているようで、早く割り切らないと製品競争に負けると言う気がしました。@マクセルホールディング(株)の講演は一般論に終始、技術的な話は隠していると言うより誤魔化しているとしか思えませんでした。技術的な内容について、電池の「素人ではないはず」の私が聞いていて、全く意味が解りませんでした。原稿はバリバリの技術者が書いたはずなのに、講演者がその内容を口頭発表できず、技術を軽んじているとしか思えませんでした。一方、BCATLは素晴らしい内容でした。「専門家のはず」の私が聞いても充分に内容のある話でした。今後の開発方針についても、現行リチウムイオン電池の抱える課題を解説した上で、今後の開発方針を論理矛盾なく説明されていました。技術を大切にしている心意気が明確で、このような経営者が率いる電池メーカーは成功するに違いないと思いました。
 数年程前に、韓国LGCのEV用電池開発に関する講演を聞いた時に、同時に話した日本メーカーよりはるかに技術内容に深みがあり感心しましたが、その時と同じ印象を持ちました。ご存知のように、韓国LGCは民生用では数年前に日本メーカーを追い抜き、EV用電池でも技術・市場共に日本メーカーが太刀打ちできなくなる程に成長しています。基調講演をする経営トップが技術を大切にしていないと言う印象を持たれる日本メーカーは非常に残念です。
 リチウムイオン電池技術では、@グッドイナフ氏のコバルト酸リチウムなど層状金属酸化物正極、A旭化成鰍フ正極アルミ集電体の2件の特許が強力で、韓国メーカーは特許実施料が大きな負担になっていましたが、現在では他社に対し圧倒的に有利になる特許はなく、これからも権利化できないと予測できます。しかるに、中国は電池産業を「輸出産業」とすべく戦略的に電池量産工場への優遇処置をしていると聞いており、量産品で日本メーカーに勝ち目はないと考えています。さらに、EV産業自体を「輸出産業」とすべく国策として支援すると思われます。
 当面現行リチウムイオン電池の部分改良でエネルギー密度つまり一充電走行距離を伸ばすことになりますが、安全性を考えると2〜30%向上できれば良い方で、独占的な特許のない日本メーカーには全く勝ち目ないので、早々に撤退し、エネルギー密度2〜3倍の次世代電池の研究・開発に全精力を注ぐべきです。



4)新規な電池理論:特許5062989号、特許513425号

 特願2005―330431、特願2007−13906(共同発明者:楠美智子、出願人:JFCC)の2件を出願した所で、数人の知人に今後の展開について相談をしました。「片持ち論」には絶対の自信がありましたが、世間はクラスター論(両持ち論)で固められていましたので、全く話を聞いてもらえませんでした。また、「篩膜」については目途がなく、簡単に見付かるとも思えず困惑しておりました。元部下のAH君に相談した所、今は実験で難しいことは計算化学で証明する手段がある、特に理論を計算化学で立証することは有意義であるとの助言を貰いました。私には計算化学の経験はなく、専門の知人もいなかったのですが、AH君から非常に厳しい方だけど専門家を知っているからと紹介されました。AH君に連れられて緊張してKT大学のTB教授を訪問しました。私の考えを手短にお話しすると、熱心に聞いていただき、下敷きを取り出して、片側に静電気で埃が付着するイメージですかと聞かれました。その通りですと答えると、計算する価値はありそうだと言っていただきました。計算をする上で条件を特定しないと効率が悪いと言われ、電池としての条件を数点明示すると直ぐに理解していただき、カーボンナノチューブのような閉じた構造は計算し易いと言われました。
 1)孔径を制御し静電力に基づく慣性力でCNTに入る初等幾何の発案は、量子力学でも通用する。
 2)等電位になっている内部でイオンが安定できる条件は、量子力学と共に電磁気学が重要でる。
 3)CNT内部のリチウムイオン同士は正電荷として反発し合う。
 4)内部のリチウムイオンはCNT壁とは、ファンデルワース力で引き合い釣り合う。
 5)3,4)により、リチウムイオンは内部で浮遊する。
 6)電気化学的に金属にならない制限を条件とすることは、量子力学としても興味深い。
   これらの助言をいただき、計算化学による立証をTB教授にお願いしました。TB教授からは、計算化学として絶対に正しい解を導き出すことをお約束します、ただし人為的に望む解に誘導する要請があっても絶対に受け入れないし、考慮もしないと厳しく言われました。
 KT大のスパコンは外部研究に対し開放されており、教授担当テーマは優先していただけるが、低額とは言え使用料が必要である事が解りました。JFCCでの私は知財担当が本職で、電池テーマを立ち上げられる立場にはなかったので、NEDOプロジェクトに応募する、つまり税金の補助を獲得することにしました。
  <新規な電池理論展開の課題>
  1)カーボン微孔に片持ち論で貯蔵して高容量になるか? ⇒計算化学での証明 ⇒国プロ提案
  2)リチウムイオンは通過出来、電解液は通過できない篩膜は実在するのか?



5)昔話:NiZn電池での内部短絡クレーム処理

 この章は私の「昔話」で技術的に価値のない話ですが、リチウムイオン電池誕生頃の「逸話」を知りたい方は楽しんでお読み下さい。なお、前回予告した運命的出会いの話は次回に譲ります。
 NM社のリチウム金属短絡事故と前後して、「ニッケル亜鉛電池」の内部短絡のクレーム処理を担当していました。北海道の山林で灌木の伐採をするための「チェーンソー」で、市販品はガソリンエンジンが動力源ですが、振動で白蝋病になることがあるので、林野庁の要請で電動式への変更に協力することになりました。山林ですから電線を引き回すことは無理、発電機は大きく騒音が酷いことから、リチウムイオン電池が世に出ていない当時では、鉛蓄電池よりは画期的に小型軽量になると予測された「ニッケル亜鉛電池」を搭載することになり、開発プロジェクトが発足し製品化しました。昼休み部分充電、夜間完全充電の繰り返しで、5月から9月まで約100日使用され、お客様からは、振動が小さく、軽くて馬力も十分あると感謝されました。しかし、翌年5月に充電できないと言う不具合が発生しました。ところが、「ニッケル亜鉛電池」プロジェクトの技術担当兼責任者が早期退職し担当不在となり、私がクレーム処理を担当しました。4個に1個の頻度で短絡し、短絡していない電池もセパレータが金属色に変色している部分が見付かりました。開発経過・研究報告書を読み直し再現実験すると、セパレータ・充電速度などが工夫・改良されているが、セパレータ中で金属結晶成長する短絡を完全には防止できていないことが解りました。基礎研究を担当した研究者は、特殊セパレータの機能で1年間は保証できると思っていたようですが、当時の営業現場でお客様に対しては3年保証をしたようでした。機器メーカーと期待寿命を打合わせる時に、300サイクル1年が、100サイクル3年と誤解された可能性もあります。サイクル寿命とカレンダー寿命との違いを解り易く説明する努力が不足していたと思っています。
 返品電池を解体すると多くは下部に金属結晶成長が発生していることが判明しました。保管中にアルカリイオン及び亜鉛イオン(ジンケートイオン)の重さに因る濃淡が出来、亜鉛イオンが濃い所では亜鉛金属析出が起き、薄い所では溶解が起きる「濃淡電池」による電流で亜鉛金属の析出が起きたと判定しました。対策としてのメッキインヒビターについて、化成品商社を通じて化学メーカーに相談しましたが、電池の社会的地位が低く玄関払いで断られました。充電方法などは決定的な効果があるはずもなく、対策を立てることはできず、林野庁の怖い担当者にビクビクしながら技術説明をしました。一度の説明では納得されないだろうと覚悟していたのですが、営業が話を上手く、つまり機器寿命までは毎年新品電池と交換すると言う対策案で大問題にはなりませんでした。
 金属結晶による短絡時にデンドライト(和訳では樹脂状結晶)が成長したと言いますが、実際にはセパレータが密着し、極板間には圧力(均圧と言う)がかかっているので、針のように成長し突き破るようなことはありません。特に、リチウム金属の場合には柔らかいので、セパレータを破る力があるとは考えられず、そのような発表を聞くとビーカー実験ではないのですかと突っ込みたくなります。セパレータの一部に金属結晶が張り付ついている状況は肉眼でも十分に観察できます。
 金属結晶による短絡は、「NM社リチウム金属電池」、「ニッケル亜鉛電池」2件の不具合の苦い経験をし、実験段階では金属結晶が成長しても短絡は起こらず、充放電が継続出来てしまうが、市場では短時間で不具合が発生してしまうことが身に沁みました。理論的に上手く行くことが確定していない場合には結局大失敗すると言うことです。次世代電池で金属負極が待望され、実験で50サイクルが100サイクルに延長出来たと言う発表がありますが、劣化原因が同じなら、市場では50サイクルで短絡が起きると思います。
 「メッキのインヒビター」はデンドライト成長を止めています。還元分解することが抑制機構かも知れませんが、電池の酸化還元雰囲気でも安定な、あるいは内部で再結合できる物質を開発してみませんか?電池がこれだけ注目されている「今」なら、化学会社も協力的かも知れません。



6)おわりに

 1)リチウムイオン電池には「SEI頼り」のために起きる電解液劣化と言う根本的な欠点があります。
 2)SEIの剥離・修復・再形成を図説しました。「滓層」と言う用語を提案しました。電解液劣化、さらに容量減について解説しました。次回は電池由来の「発火事例」を紹介します。
 3)現行リチウムイオン電池では、日本メーカーがいかに努力をしても勝ち目がないと思われます。次回は「改良型」リチウムイオン電池について紹介・解説します。
 4)「新規な電池理論」を「計算化学」で実証することを決め、KT大TB教授から計算化学の進め方について教えていただきました。次回は国プロ提案を概説します。
 5)納入後保管中の「ニッケル亜鉛電池」で、「濃淡電池」が原因の短絡が発生しました。実験結果より市場では悪い結果が出ます。次回はリチウムイオン電池開発を始めた頃の話をします。

   次回予定は変更することもありますが、ご容赦願います!





第5回(2019/2/6)



1)はじめに:BYDバス&EV

 京都駅前〜京都女子大間では、「中国BYD社製」の真っ赤な路線バス(プリンセスラインバス)が2015年2月より5台運行しています。電池は当然同社製「鉄オリビン系正極」のリチウムイオン電池のはずです。今春新型バスが2台増便になりました。魅力的な女子大生に囲まれてニヤニヤしながら試乗してみました。かなりモーター音が五月蠅く気になり、下車時に運転手に運転し易さについて尋ねると、30分待てば新型が来るから是非乗ってみて下さいと勧められ、帰路は新型に乗りました。運転手の自慢通りに本当に静かで、乗り心地も非常にスムーズで、女子高生が新型と喜んでいたのも合点が行きました。僅か2年で見違える程に改良出来る「中国BYD社」の開発力を目の当たりにし驚きました。京都のように常時渋滞している地区で、走行距離が決まっている路線バスには、EVバスは最適と思います。初期投資に税金を投入し普及させることは非常に有効な税金の使い道だと思いました。春の電気化学会で京都滞在中に是非このEVバスに試乗してみて下さい。
 京都市と言えば、「湯浅電池梶v入社時に鉛蓄電池の電池パックを「機械的に交換する」EVバスを運行していました。電池が寿命になった時の交換費用の予算が却下され継続できなくなったと聞いています。運行(放電)したバスが営業所に戻った時に搭載されている電池を、予め充電した電池と機械的取り換える方式「メカニカルチャージ方式」を採用していました。この方式は電気自動車普及の一手段として再評価されるべきと思います。この運用方法であれば、現行のリチウムイオン電池の低コスト化で十分満足できると思います。ただし、「機械的に交換する」ための車両改造などの技術・コストの面で実現出来ていないのかもしれません。川崎市がゴミ収集車で試行しているようで、結果が楽しみです。各自治体がごみ収集車、路線バスなどで「機械的に交換する方式」についての取り組みを進めれば良いと思っています。
 私が初めて間近にEVを見たのは、就活をしていた時です。電池研究者が希望でしたので、代表する電池メーカー2社と電池研究をしている総合電機メーカー2社を訪問しました。TS社では「TM氏」に電池研究室に入室させていただき、実験内容を説明していただきました。その後も「TM氏」には多くのことを教えていただきました。溶媒分解を避けた実験をするためには、負極にチタン酸を用いると良いと教えていただき、イオン液体の研究に役立たせました。SN社に伺うと、BB氏に階段下の質素な小部屋に案内され、バギーカーを見せていただきました。今も注目されている「空気/亜鉛電池」を搭載したEVです。最近になって、この「空気/亜鉛電池」をリチウムイオン電池の「生みの親NS氏」が開発したと聞き、不思議なご縁と驚きました。NS氏は相当苦労をされて開発したが、数点の越えられない壁が見付かり断念したと話されていました。現在の次世代電池開発プロジェクトでも取り上げられていますが、革新的な大発明があったのでしょうか?
 結局、総合電機メーカーでは電池研究を続けられると言う保証がなく、「湯浅電池梶vのHT所長のご高説を談話室で伺い、技術力の確かさ・研究に対する熱意に魅力を感じ入社しました。当時「ナトリウム/硫黄電池」搭載のEVをグランドで走らせた話も魅力的に感じました。いずれは、自分が開発した電池を搭載したEVでラリーに出場するという夢を見ていました。
 12月11日の中日新聞で、デニ・ムクウェゲ氏の「ノーベル賞」受賞演説が取り上げられていました。
 ・コバルトなど豊富な天然資源が、コンゴ(旧ザイール)の紛争と暴力、貧困の根本原因だ。
 ・電気自動車を運転するとき、スマートフォンを使うとき、それらがつくられた際の犠牲者に思いを巡らしてほしい。
 電池技術者がどこまで理解する必要があるかは解りませんが、重い言葉と受けています。



2)電池及びリチウムイオン電池の基礎:電解液劣化

 前回述べた指数関数的劣化の原因の大半が電解液の劣化なので、その原因たるSEI=固体電解質界面=の形成について、詳しく記載します。
 TVのリモコンなど家庭に昔から普及している乾電池は1.5Vです。自動車を運転する方ならご存知のスターターバッテリーは2V6直列12Vです。これらの電池には「水」が入っています。水の分解電圧は理論的に1.23Vと決まっており、1.23Vより高い電圧では「水」は分解し、水素と酸素が発生するはずで矛盾しています。ところが、水素過電圧、酸素過電圧と言う非常に都合が良い現象で、「水」の分解は実質的に防げており、電池として機能することが出来ています。水素過電圧、酸素過電圧については多くの研究がされており、諸説あるのですが、ここでは後々との繋がりもあり、電極の表面を保護膜が多い、その保護膜により電極の電子と「水」が直接接触できず、「水」の分解が抑制されていることにします。リチウムイオン電池ではどうなるのでしょうか?リチウムイオン電池の充電電圧は約4.2Vですが、全ての溶媒あるいは電解質塩は、2.5〜3.5Vで分解するはずなので、水の場合と同様に矛盾しています。リチウムイオン電池から電池分野に参入した方々は、有機溶媒は特殊でSEI、SEIと連呼しますが、大昔から理論分解電圧より高い電圧で電池を動作させることは、当たり前で大騒ぎするのはどうかと思います。
 電極を単に電解液に浸漬しただけでは何も起きません。外部電源から充電即ち電極を負の電位にすると、電解液あるいはPF6-のような陰イオンが電気化学反応により分解します。充電電流の一部は充電ではなく、分解に消費されることになります。この充電を「初充電」と名付け、次回からの充電とは区別して呼んでいます。当時ある方から「『化成』とはどういう意味か?」と質問され驚きました。即座に「『初充電』のことです。」と答えました。水系の電池でも最初の充電では充電電流の一部が充電とは異なる副反応に使われ、その後の充放電に適するように電極活物質を改質しています。電気「化」学反応が起き適切な活物質が形「成」されています。「初充電」と言う用語は、充電とは異なる反応が起きていることを明確に表していませんが、「化成」と言う用語は的確に現象を現しています。私は「化成」と言う用語を使いたいのですが、現状の流れに掉さすだけになりそうなので、このコラムでは以後「初充電」と言う用語を使います。




Fig.25 SEI(固体電解質界面)形成

 Fig.25はSEIが形成される状況を模式図で示しました。図のように充電に伴い、負極電位が下がると、電子と電解液との反応が起き、電解液の分解生成物(図中緑の五角形)が出来、それが負極活物質表面に付着し、表面全面を隙間なく覆います。電子が透過できる距離まではその反応が継続され、次々に表面に付着しSEIが形成されます。従って、SEIの厚さは電子が透過できる距離までです。そこより活物質表面から離れた位置には電子は届きませんから、電解液の分解は起きません。この距離は量子力学の領域で、私には理解できていないのですが、複数の専門家に聞いた所、室温であれば10nm程度(?)と伺いました。この厚みのSEI中に電解液が取り残されたり、浸み込んだりすれば、その電解液は直ちに分解しSEIを形成します。つまり、電子により分解された生成物からなり、これ以上は電気化学反応が起きない固体物質層と言うことになります。
 無論、カーボン負極への脱挿入反応が起きるのですから、脱溶媒したリチウムイオンは通過できます。溶媒和リチウムイオンはSEIの電解液側の表面で脱溶媒し、SEI内では脱溶媒した単体イオンの状態で活物質表面に移動し、カーボン負極に挿入すると考えています。溶媒和した溶媒は、フリーな状態でいる溶媒とは異なり、電気化学反応が起きにくいと言う説も学会発表されていますが、SEI内部を溶媒和した状態で移動し、電極活物質挿入時に脱溶媒すると仮定すると、残された溶媒は直ちに電子と反応し、充電するリチウムイオン量と同等以上の溶媒が分解することになり、電気量から考えても明らかに無理があると考えています。Fig.25のように、分解生成物(緑の五角形)が負極活物質表面に隙間なく並ぶことで、その後の電解液分解は起こらなくなり、安定に充放電機構が成立します。リチウムオン電池はこの機構により、優れた電池特性を実現できることになりました。不思議なことにプロピレンカーボネート(PC)だけでは難しく、エチレンカーボネート(EC)が必ず必要になると言うことも明らかにされています。さらに、「UB社YT氏」がビニレンカーボネート(VC)を電解液に添加することで、簡単に優れたSEIが形成できると言う機能性電解液の概念を提案しました。



3)次世代EV用電池:テスラーと中国の電池開発事情



Fig.26 12月度の雑誌・新聞記事の紹介

 12月度の雑誌・新聞記事について紹介及び私の所見を整理しました(Fig.26)。先月同様に電池着脱・交換充電=メカニカルチャージ=方式が取り上げられています。電池としての技術的ハードルは低いので、用途開発をすれば実現性は高いと思います。これらの情報を参考にして、次世代電池の各社開発動向及び私の所見を記述していますが、怪しい話と思われたら飛ばして下さい。
 「テスラー社」は、EV製造のベンチャー企業で、パナソニックの電池技術者が設立に参画し、パナソニック製民生用18650電池、約7,000本を直並列に接続しEV用電池パックを実現しました。EV専用電池が理不尽に高価であった時に、200円/本×7,000本=1,400千円の電池費用です。高級EVと言う新しいコンセプトを提案し、カリフォルニア州1990年「ZEV法」のクレジット転売の恩恵を得て、営業的には大成功しています。しかし、販売したEVが事故を起こし火災を発生した動画を見ると、非常に激しく炎上していることが気になります。交通事故が原因で電池は発火したが、運転者は十分に退避することが出来たと「テスラー社」は抗弁していますが、最近の事故例では発火後直ぐに炎上してしまった事故例もあるように聞いています。リチウムイオン電池は正極でのニッケル比率が増えると発火開始温度が低くなり、発火エネルギーも大きくなります。「パナソニック」が供給している「テスラー社」用電池はニッケル比率が高く、元々危なさを感じています。また、多数の電池を直並列に接続すると言う方式は、各セルの制御が非常に難しいはずで、私は絶対に推奨しません。
 「パナソニック」からの輸入ではなく自社生産することに拘り、大規模工場「ギガファクトリ」を立ち上げましたが、計画より2年遅れ、最近やっと生産ができるようになったようです。生産計画の大幅な遅れから経営が危うくなってきているとの噂もあります。「ギガファクトリ」の立ち上げ遅れは「溶接ロボット」の不具合が原因と聞いていましたが、機械的不具合にしては改善に時間がかかり過ぎると不思議に思っていました。私の独断の推定ですが、2018年1月に「旭化成梶vが「セパレータ」の販売計画を発表し、国内及び韓国で生産する「ハイポア」は現行6億1千万m2を7億m2に、米国子会社製「セルガード」は現行2億5千万m2を4億m2に増産する計画です。「ハイポア」は15%増産に対し、「セルガード」は160%増産になります。中国EVメーカー向けと思えますが、中国では現地生産が始まっており、むしろ米国国内向け、つまりテスラー社「ギガファクトリ」向けではないかと疑っております。しかし、パナソニックは「セルガード」を使っていないはずで、明らかに矛盾しています。「ハイポア」から「セルガード」に変更したとすれば、電池の内部を変更したことになり、電池単体の完成に2年程度かかることは当然です。セパレータの変更は、充放電特性よりも安全性に大きく影響するので、実績のないセパレータを米国現地技術者の判断で採用したとすれば、不幸な事故が起きるのではないかと心配しています。11月19日の日刊工業新聞にパナソニックの研究開発と生産技術の機能及び技術者を「ギガファクトリ」に移管すると言う記事が出ていました。量産だけでなく電池自体に関する技術支援が必要と判断したからではないでしょうか?
 1月16日中日新聞で、トヨタ自動車(株)の子会社「プライムアアースEVエナジー(PEVE)社」中国工場でのHEV用「ニッケル水素電池(NiMH)電池」を、現状の3倍の増産にすると言う発表がありました。HEV用「NiMH電池」は「PEVE社」、つまりトヨタ自動車(株)が世界唯一ですから、市場が伸びれば絶対に儲けることが出来るはずです。本田技研工業(株)と(株)GSユアサとの合弁会社「ブルーエナジー社」も、「ハードカーボン負極」のリチウムイオン電池と言う特徴を有しているので、売れれば儲かるはずです。しかし、CMCリサーチ社発行の「中国のEV市場動向」を参考にすると、現状の中国市場でHEVが受け入れられるとは思えません。トヨタ自動車(株)もいずれはEVになるとしても、現状のHEV販売実績の伸びを支え、トヨタ自動車(株)の「車」としての顧客確保を目的としての先行投資ではないでしょうか?中国市場で主流になるのはHEVではなくEVです。
 中国政府は、安全性が高く豊富な埋蔵量を誇る「鉄オリビン系正極リチウムイオン電池」に開発の重点を置き、日韓が先行している「三元系正極」リチウムイオン電池を排除する政策を取り、「BYD社」などの国内電池メーカーの支援を行ってきました。しかし、「エネルギー密度」と言う客観的で、公平で、絶対的な比較基準には勝てず、現在では中国国内メーカーも積極的に「三元系正極」電池に開発の重点を移して製品化を進めています。また、中国政府は国内に工場を設置するなどの条件を満たした企業を「規範条件登録制=ホワイトリスト=」として、EV向け補助金での手厚い優遇措置を講じています。現状では、この「ホワイトリスト」には約57社が登録され、日韓企業は排除されています。中国は「電池立国」を目指しています。最近の電池生産成長率を見るとこの政策は功を奏しており、中国電池産業の躍進を支えています。2016年からこの補助政策は縮小され、2020年には打ち切られると言われています。この間に電池メーカーの淘汰を進めています。2020年以降は中国国内に工場を建設した日韓の有力電池メーカーとの競争が始まり、中小の現地メーカーは苦しい戦いを強いられることになると思います。ただし、中国政府は突然に政策を変更することが度々あり、国内メーカー支援のために補助政策が延長される可能性もあります。その場合には進出した日韓の電池メーカーが苦戦を強いられることになります。
 2018年から施工されるはずであった「NEV(New・Energy・Vehicle)規制法」は2019年まで延期しました。既に2019年になっていますが、今の所施行されたかどうか判りません。米国カリフォルニア州「ZEV(Zero・Emission・Vehicle)規制法」を参考にした規制で、自動車生産台数の内8%のEV・PHEV・FCVを生産し、クレジットを獲得しなければならないと言う厳しい規制で,現状ではPHEVは2クレジット、EVは3〜5クレジットで、日本メーカーが独占的地位を確保しているHEVは認められていません。2016年実績は、EV140千台、PHEV110千台、HEV30千台、EV大型190千台合計470千台で、2020年にはEV360千台、PHEV220千台、HEV40千台、EV大型400千台合計1,020千台と予測されています。このようにガソリン車生産に対して厳しい規制を使ってEV普及を目指す理由は、@大気汚染防止 ACO2排出量抑制で、確かに北京・上海などの大都市圏では深刻な大気汚染に見舞われているし、発電における化石燃料比率は65%程度と高く、これら環境問題の解決にEV普及が有効な方策であることは間違いありません。しかし、環境問題解決であれば、排出ガス規制などの優先されるべき方策がありますが、EV普及を最優先している本当の理由は、自動車を「輸出産業」にすることにあると考えます。
 太陽電池技術者から聞いた話ですが、中国政府は環境問題を前面に打ち出して自然エネルギーである太陽電池の普及を熱心に進め、日米欧の太陽電池メーカーを誘致し、技術移転が完了した後は国内メーカーの育成を計り、国内需要をはるかに上回る設備投資を行い生産過剰になると一斉に輸出を開始し、世界中で日米欧の太陽電池メーカーとのコスト競争に勝利し、瞬く間に世界一の太陽電池生産国となって行ったそうです。リチウムイオン電池もその二の舞になるような気がします。
 「電池立国」には成功しつつある中国は、「EV立国」も目指しています。ガソリン車では日欧米の実績のある大手自動車メーカーの製品技術・量産技術に追い付くにはかなりの時間的・技術的にギャップあるが、EVの場合には、日欧米の大手自動車メーカーも大した実績はないし、基幹技術の「電池」を国内調達できれば、十分に対抗できる条件が揃っています。先程のxEVの販売予測とは別に、中国EVメーカー各社の2020年設備計画を単純に合算すると5,400千台となり、国内市場の5倍の設備を保有することになり、この過剰設備分は輸出を計画していると考えるべきでしょう。「本コラムはじめに」に記載したように、既に「BYD社大型バス」は京都市内を定期運行し、徐々に実績は出て来ています。「CATL社」のような中国大手電池メーカーの製品技術力は既に追い付いているので、量産技術・設備が整った段階で、電池だけでなくEVも一気に世界展開し、輸出産業になると予測します。この時に日本メーカーは競争することが出来るのでしょうか?



4)新規な電池理論:特許5062989号、特許513425号

 前回クラスター論を全面否定しましたが、クラレ社はまだお読みなっていないようで、残念ながら反論は来ていません。いずれ議論をすることになると思い楽しみにしています。
 ファインセラミックスセンター(JFCC)でSiC表面分解法カーボンナノチューブ(CNT)の機械的応用プロジェクトを担当している時に、発明者楠教授からSiC表面分解法CNTは最上部が塞がった状態で成長する、また簡単な操作で最上部(キャップ)を外すことができると伺いました。Fig.27のように、CNTを電解液に浸漬すれば、内部に電解液が入り込み、初充電時にSEIが成長して電池には使えないと思いました。しかし、キャップを取らずに電解液に浸漬すると、電気2重層キャパシタ測定の結果からCNT内部には電解液は進入できないことは判明していましたので、リチウムイオンと、電解液中の溶媒分子あるいは電解質塩分子とは大きさが違うので、その大きさの違いを選別して、リチウムイオンだけをCNT内部に入れれば、内部で安定に存在し電極として成立するのではないかと考えました。CNTのキャップに孔を開け、その孔径が、リチウムイオンが通過することが出来るようにリチウムイオンより大きく、溶媒分子・溶質塩分子が通過することが出来ないように同分子より小さければ、丁度万華鏡を覗いた時のキラキラのように、リチウムイオンだけがCNT内部でキラキラと存在する光景になるのではないかと考えました(Fig.28)。前回解説したように「両持ち論」と「クラスター論」とは全く相容れない状態、「片持ち論」が成立すると考え、特許5062989号を出願しました。




Fig.27 開放型CNT負極模式図


Fig.28 先端孔付きCNT負極模式図

 CNTに該当する孔を開けると言う考えは正しかったのですが、孔に一つずつ出入りするのでは、速度的・量的に電池としては全く不足どころか話にならないと気が付きました。Fig.29に図示するように、孔を複数開ける、より効果的にはリチウムイオンは通過できるが、溶媒あるいは溶質が入らないサイズの分子篩膜で覆うと言う特許513425号を追加出願しました。出願時に、固体電解質のイオン伝導度が実用レベルに向上してきたと言う情報が話題になり始めており、固体電解質を明細書に記述することを意識し過ぎて、本来の分子篩の役割が明確に書かれていない特許になってしまい、非常に後悔しています。なお、孔径つまり篩目はFig.30の表のように水素分離膜を基準にすれば良いと推定できました。




Fig.29 篩膜付きCNT負極模式図


Fig.30 篩膜付きCNT負極模式図

 ・CNTのような多孔性カーボンの壁にリチウムイオン(0.15nm)は通過できるが、プロピレンカーボネートのような溶媒分子は(0.6nm〜)は通過できないサイズの微孔を複数個設ける。
 ・微孔を篩膜で代用する。



 特許を2件出願し、「新規な電池理論」と名付けました。



5)昔話 : NM社金属リチウム電池とデンドライトショート

 この章は私の「昔話」で技術的には価値のない話ですので、リチウムイオン2次電池誕生頃の「逸話」を知りたい方は、楽しんでお読み下さい。
 NM社の「金属リチウム電池」は予想通り発火事故を起こしました。裏社会の奥方の箪笥の中で発火し、高級な和服を燃やしてしまったという騒ぎも聞きました。直ぐに製造中止にすれば良かったのですが、カナダ技術者の技術力のなさと対話不足、NT社、MB社の社会的対面があり、相当数を出荷してしまいました。この間「NTT社YK氏」を中心に技術的な実験、裏付け調査が行われました。私自身は余り会議には出なかったのですが、関連資料は全て目を通していました。YK氏グループの基本技術・解析は素晴らしく非常に勉強になりました。当時関東には、電池の電気化学をしている大学が少なかったので、「NTT学校」と言われるようになり、YK氏を先導に現在大活躍されている大学教授(GM大TS教授、TG大SI教授、TK大AI教授)を搬出しています。私は今も個人的に相談に乗っていただいています(感謝!)。
 この間、OT氏は電気回路技術者として責任を感じ、電気制御でデンドライトショートを止めようと奮闘されました。怪しげな情報を基に充電実験を繰り返し、その度に意見を求められました。金属負極のデンドライトショートを外部でコントロールできる訳がないので、諦めるように何度も進言しましたが、いつも怒鳴り返されました。最終的にはオシロスコープ計測により、OT氏自身が自分の目で電圧低下を観測され納得されました。その時に「電池技術者はいつも都合の悪いことは隠す」と嘆いていたのを思い出します。私も十分な説明を怠っていたと、思い出すたびに反省をしています。パルス充電、デンドライトショートのスパイクノイズ等、電気回路技術者との対話は、口説いと思われても充分過ぎることはありません。納入品クレームの最終的な政治決着には関与しませんでしたが、ユアサ側の責任者としてIB部長の苦労は大変なものでした。技術者が回りを「忖度」し過ぎると結果的に問題は大きくなるということを痛感しました。
 その後、NM社はリチウム金属負極電池の生産を断念しました。折角の電池開発・生産環境があるので、電池開発を継続することになり、当時活発になっていたリチウムイオン電池の開発に移行しました。正極にはコバルト系とマンガン系の2種を並行して開発を進めていました。湯浅電池(株)は開発テーマの絞り込みもあり、NM社からは撤退し、その代わりにNECが出資、参画することになりました。コバルト系はグッドイナフ特許に抵触することが明確でしたが、マンガン系は抵触しない可能性があると言う理由で、NEC技術者はマンガン系を選択したと聞いています。その後、民生用でのエネルギー密度競争が激しくなるにつれても、NECグループはマンガン系を継続し、京セラの携帯電話に採用され、さらに日産自動車の初代EV「リーフ」に搭載されました。マンガン系は三菱自動車の「iミーヴ」にも搭載され、原料コスト、安全性の点では優れた電池です。
 なお、OT氏はスパイクショートについて、その後も研究を続け、一部の充放電試験装置ではこのスパイクショートが観測されないことに気付きました。電気回路の素人である私なりの解釈では、数店の計測値を平均化して、1点のデータとして出力するから、その間に一度位スパイクショートによる瞬時電圧降下があっても、出力されたデータは平均化され僅かな電圧低下としてしか記録されず、検出できないと言うことでした。OT氏からこの現象と、東洋システム(株)だけがこの点を考慮した設計をしているとの連絡を受け、数社の充放電試験装置メーカーの技術者を呼び確認しました。NT社の営業マン・技術者の説明が非常に不真面目で、私の部署での調達は禁じました。次世代電池研究で金属負極、デンドライトが研究課題になる場合には、充放電装置の平均化の特性については十分考慮して実験を進める必要があります。素人考えですが、デンドライトショートは不規則で電圧降下時間も秒に近いが、一般のノイズ、例えば商用電源ノイズ・スイッチングノイズなどは周期性があり、ms振幅なので、特定周波数のノイズは平均化し、不規則なノイズは平均化せずに出力するような電気回路制御ができれば、デンドライトショートの検出には適していると思います。



6)おわりに

 メカニカルチャージ方式についてはもっと注目されるべきと思っています。
 リチウムイオン電池の劣化の主要因は電解液劣化と考えています。その前段としてSEI形成について模式図で解析しました。次回はSEIによる電解液劣化について図説します。テスラー社の動向について大胆に私の推定を記述しました。中国のEV事情を調査会社のデータを基に解説しました。次回は現行リチウムイオン電池の改良について解説します。「新規な電池理論」の基本特許2件の出願経緯を模式図で紹介しました。次回はNEDOプロジェクト応募について説明します。NM社金属負極電池クレームについて経過を記載しました。次回はOT氏から紹介された運命的出会いについて思い出話を記述します。





第4回(2019/1/9)



1)はじめに:名古屋めし「お雑煮、どて」

 新年おめでとうございます。古里のお雑煮を楽しまれたと思います。名古屋のお雑煮も変わっています。行きつけの床屋のご主人は「名古屋雑煮は貧乏臭い」と言います。反対に、お節料理でもたれた胃に優しい素晴らしいお雑煮だと、自慢をする方もいます。
 「餅菜」・「角餅」・「かつおぶし」だけの実にシンプルなお雑煮です。「餅菜」が曲者で、年末になるとスーパーで餅菜(小松菜)と書かれて売られています。前回コラムで紹介した所、JFCCでカーボンナノチューブの電気2重層キャパシタの研究をし、現在は和太鼓を趣味に農業をしているKT氏から、「餅菜」と小松菜とは種から違い、お雑煮向けに大切に栽培しているとの情報提供がありました。今回はKT氏のご厚意で本物の「餅菜」を分けていただきました。奥様のご指導を受け、自分で「名古屋雑煮」を作ってみました。かつおだしの鍋底に「餅菜」千切って敷き詰め、餅を乗せ、かつおぶしを掛けて弱火で煮込みます。見張っていないと餅が溶けてしまい酷いことになります。化学実験と同じです。お椀に移してからたっぷりかつおぶしを振掛けて食べました。味付けはともかく、「餅菜」は心地良い甘みがあり、さっぱりしていて、胃に優しいことは確かです。「餅菜」を絡めることで、お年寄りが餅を咽に詰まらせることを防げる利点もあるそうです。しかし、具沢山のお雑煮に慣れている私には、少し物足りませんでした。
 若い頃に出張で名古屋地区に来て、昼食を食べ損なったので駅前の喫茶店に飛び込みスパゲッティを注文しました。ステーキ用鉄皿の上に「ナポリタン」が盛り付けられ、麺の下に薄く卵焼きが敷き詰められていました。ケチャップ味のスパゲッティに焦げ目のついた卵焼きを絡めて食べると、絶妙なハーモニーでした。二つの味を重ね合わせることも名古屋めしの特徴の一つです。なお、当地の喫茶店では「ナポリタン」は通用せず、「イタリアンですね」と念を押されます。(笑)
 名古屋めしの代表が岡崎八丁味噌を基礎にした味噌料理です。味噌カツ、どて、みそうどん、みそおでんなど、甘く味付けした赤味噌味です。名古屋駅(名駅と言います)近くに「NK屋」という「どて」専門店があります。焼き鳥・串カツが甘い赤味噌鍋で煮込まれています。順番を待って、木製の長机・丸椅子にぎゅうぎゅう詰めで座り、店員の顔色を伺いながら「どて」とお酒を注文します。当店の「おでん」は本場の「名古屋おでん」で、赤味噌鍋で煮込んであります。14年前に行った時、たまたま隣り合わせた方が河村衆議院議員(現名古屋市長)で、気さくに雑談を交わしました。
 隣接して数件の「どて」の店がありますが、不思議なことにこの店だけが混んでいます。製品品質、価格に甲乙があるとも思われないのに、ガラガラの店と待っても座れない店が並んで成立している光景は、ブランド力の差と言えるのでしょう。今は「中国製」と「日本製」とでは、知名度に差があります。「どて」は人間の感性が関与するから簡単にはその位置関係は変わりませんが、一般の工業製品ではその立ち位置は短期間で埋められてしまうような気がします。電池では「日本製」は既に都市伝説かも知れません!



2)電池及びリチウムイオン電池の概説:サイクル試験

 前回くどくどと書いたことを整理します。
   ・ 直流通電開始直後・遮断直後の「瞬時電圧変化」と、1kHz交流測定では、電池開発・設計に重要な反応過電圧は
     測定できていない。
   ・ 測定している電圧はOCV・CCV・TRVの3種で、何を測定しているかを考える必要がある。
       OCV=開路電圧、 CCV=閉路電圧、 TRV=回復過渡電圧
   ・ 電極内SOCが不均一になった場合にどのSOC電圧が測定されるのか?平均か?
 この疑問に対し、ある電池研究者から、
 「2種の金属を張り合わせて対極間の電圧を測る、例えば銅集電体の一部にリチウム金属を貼り付けると、リチウム金属の電圧が測定され、リチウム金属が解けて無くなると、当然銅(酸素発生)の電圧が出る。」との助言をいただきました。この助言を展開すれば、電極内でSOC分布に差が出来た場合、例えば30%と70%の部分が存在した場合には、対極から一番離れた電圧、つまりSOC70%の電圧が測定されることになります。電位の異なる領域が同一電極内にあるのですから、時間に連れてSOC70%→50%に放電、SOC30%→50%に充電され、最終的には活物質全体が均一になった時のSOC電圧になります。この間はTRVが計測されています。従って、電極内の充電状態SOCが不均一であったり、電解液濃度分布ができているような場合には、電圧だけで直接に正確にSOCを測定することは出来ません。残量計にはこれらの不均一情報を読み込む必要があります。簡単とは思えませんが・・・・・。
 なお、電解液濃度不均一性の計測方法については名案があり、特許出願を予定しています。どなたかご協力いただけませんか?




 サイクル寿命試験(充放電試験)は1C程度で同じ電気量を充電放電で繰り返す試験が行われます。n回目容量
Qnは充放電効率をaとすると、前回容量Qn-1との積になり、初期容量Qに対してはaのn乗になり、Fig.22のように減少します。
Qn= Qn-1*a=Q*a*a*a・・・・・・・・・=Q*an
 Fig.22は単純に算数として上式を線で描いただけです。充放電効率99.9%つまり毎サイクル0.1%の劣化があるとすると、500サイクルで容量60%になります。装置の精度は片寄りがある、つまりプラス側に振れると毎回プラス側に振れる癖があり、それが蓄積されます。0.1%の装置精度の場合には、装置が原因でこの変化が起きていることになります。データ解析の際に注意が必要です。少なくともサイクル試験中には測定装置・チャネルは変えない方が、余計な不確定さ持ち込まずに済みます。この試験方法では、充電から放電に切り替わる時の電圧、休止を挟む場合には、通電開始直前のできるだけOCVに近い電圧は、データ解析時に非常に重要な意味を持っています。充放電装置では自動的に記録していますが、自分の目で必ず確認する習慣を身に着けることが大切です。
 1000サイクルで装置誤差を無視するためには0.01%の精度でも不十分と言うことになり、この精度を主題にしている研究も見受けられますが、電池の立場からはナンセンスです。装置精度の影響を受けないためには、装置精度に見合うサイクル数で定電圧充電を挟むべきです。この点、放電を定電流定時間、例えば1C40分、充電を定電流(1C)定電圧(4.2V)でする方法、いわゆる定電流定電圧充電、があります。この場合には終止電流の決定に悩まされます。1/10Cでは大き過ぎ、1/100では中々終止電圧に達しなくなり試験時間が長くなる、あるいは副反応が起きてしまうなどの弊害もあるので、供試電池・使用条件を踏まえて経験的に決定します。この試験方法では各回効率が累積で反映されることはないが、試験時間は定電流時間・定電圧時間に依存するので一定になりません。定電流充電時間、定電圧充電時間はサイクル劣化を評価する時に重要なデータです。
 最適な試験は、定電流充放電を繰り返し、一定期間後に、例えば100サイクル毎に定電流定電圧充電を挟ことで、満充電状態を意図的に作る方法が良いと思います。この時に各率放電試験をすると、劣化原因把握に有用な情報が得られます。
 なお、参照電極を用いて充放電試験をすると、負極・正極各々データが得られ、対極を大過剰にする手法も可能なので、試験電極の特性を把握し易いのですが、自信を持ってお薦め出来る参照電極が見当たらないので、データ解析に自信がない場合には、寿命試験では諦めた方が無難です。



3)次世代EV用電池:GSユアサ・パナソニックのEV用電池開発動向


 11月度の雑誌・新聞記事について紹介および私の所見を整理しました(Fig.23)。11月27〜29日電池討論会での研究発表がマスメディアでも取り上げられたようです。電池交換=メカニカルチャージ=方式の実証試験が行われています。技術的なハードルは低いので、用途開発をすれば実現性は高いと思います。呼び水として、初期投資に税金投入は有意義と思います。これらの情報を加味して次世代電池の各社開発動向について記載していますが、公知の記事から要約をしているだけで、真贋も確認できていないのですが、一応私の所見を加えました。危ない話と思われたら飛ばして下さい。
 私が勤務していた「旧湯浅電池」と鉛蓄電池の先駆者「旧日本電池」とが合併した「(株)GSユアサ」は、リチウムイオン電池では後塵を拝し、さらに営業戦略の間違いもあり民生用電池は断念しました。しかし、自動車スターター用鉛バッテリーでの自動車メーカーとの密接な関係は揺ぎ無く、「旧日本電池」は三菱自動車(株)と「リチウムエナジージャパン社」、旧ユアサは本田技研工業(株)と「ブルーエナジー社」を合弁で設立し、EV市場で一定の地位を築きました。
 「リチウムエナジージャパン社」は三菱自動車(株)向けにEV・PEV用電池を開発し量産設備を用意しましたが、ラインの生産量には余裕がありました。三菱商事(株)の仲立ちで世界一の電装品メーカー「ボッシュ社」と合弁会社「リチウムエナジー&パワー社」を設立しました。欧州市場での販売ルートを確保しましたが、欧州はEV化が遅れており物量確保に苦戦していました。さらに、「ボッシュ社」は車載電池を自社生産するとして事業判断をした結果、合弁は得策ではないと判断し、合弁解消を決断しました。裏返して考えると、GSユアサ製の技術・製品が韓国・中国の技術・製品に対し、圧倒的な優位性がなかったからとも言えると思います。GSユアサも韓国・中国の電池メーカーに対抗すべく、材料調達からのコストダウンをしていますが、価格競争を容認した時点で、その先の努力は徒労に終わることは明らかです。「ボッシュ社」との合弁が無くなったことで、技術流出は避けられましたが、世界市場への営業窓口が三菱商事だけになり、今後は非常に苦しい展開になると思います。
 一方、「ブルーエナジー社」は本田HEV用電池の開発に成功し量産しています。当初計画通りとは行かないまでも、一定の物量を確保し、着々と納入実績を重ねています。今後は徐々に立ち上がって来る欧州HEV市場に期待がかかっています。負極にハードカーボンという寿命末まで形状変化が非常に少ない活物質材料を採用している点で、他社とは差別化できます。ハードカーボンはソニー社が最初に製品化したリチウムイオン電池負極に採用されていましたが、グラファイトに比しエネルギー密度の点で見劣りするので民生用では普及しませんでした。ハードカーボンは高出力・長寿命と言うHEV用としては優れた特性有しており、さらに韓国・中国はHEV用には不熱心なので、価格競争から逃れられる可能性があり、今後も一定の市場を確保できると思います。しかし、HEVは法規制ではEVとして認められないので、今後はエネルギー密度の不利を克服してEV用を目指すべきと考えています。
 なお、別項目で解説している「新規な電池理論」では、ハードカーボン等の多孔性カーボンは重量で3倍、体積で2倍の高容量化が期待できる有望な材料であることを、計算化学で理論的に証明しました。HEV用での高い評価を受けている間にハードカーボンの高容量化に取り組めば勝機があると思います。
 「パナソニック」には、住之江を主力とする「旧パナソニックグループ」と淡路島を主力とする「旧サンヨーグループ」があり、各々独自に事業展開をしています。「旧パナソニックグループ」はテスラー社に電池供給をしており、国内最大のEV用電池メーカーです。テスラー社立ち上げの電池技術者は「旧パナソニックグループ」で電池開発を経験しており、電池技術を十分に理解した上で、EVに搭載しています。私の個人的見解では、ニッケル系正極は一般的な3元系正極よりはるかに安全性が低く、私が大好きな「釘刺し試験」は合格できないと思います。民生用サイズ18650電池約7,000本を直列・並列に使用していますが、その制御は決して簡単ではなく、特に並列使用は非常に難しく、危険な状態で寿命になるような気がします。また、最近パナソニックの電池技術者がテスラーのギガファクトリィに派遣されることになったようで、パナソニック本体の技術低下は免れないと思います。別途記載しますが、ノートパソコンでは考えられないようなクレームを度々出しており、足元を見つめなくて大丈夫なのかと心配しています。
 「旧サンヨーグループ」は携帯電話用角型電池で世界一になり一世を風靡しましたが、価格勝負に負け、今ではサムソンSDI・LGCに抜かれました。さらに中国ATL社にも数では負けたようです。民生用の小型電池では、NiCd時代からの長い間の豊かな実績がありますが、EV用のような大型電池では経験が足りないように思います。トヨタ自動車、本田技研工業などに納入実績は出始めていますが、第1ベンダーではない、LGC電池と互換性があることが弱点で、近々LGCに代替され、いずれは中国LGC工場に凌駕され、民生用と全く同じ経過をたどると思います。今は「ドッグイヤー」と言われていますから、その逆転までの時間は従来に比しはるかに早いはずです。出来るだけ早くこのことに気付き電池高容量化に戦略を変えた方が良いと思います。



4)新規な電池理論:クラスター論=多孔性カーボン中のリチウムイオン

 片持ち論に関し、もう一つ障害となる理論があります。ハードカーボン・ソフトカーボンと呼ばれるカーボンはグラファイト層間のような明確な間隙はないが、空隙つまり多孔性にすることが出来ます。その空隙にリチウムイオンを挿入脱離して負極として出来たのが、ソニー鰍ェ最初に商品化したリチウムイオン2次電池でした。この空隙に貯蔵されている状態を核磁気共鳴測定などで調査し、空隙には金属ではない複数個のリチウムイオンがイオンとして存在し、その中央に集合して安定に貯蔵されているという「クラスター論」が提唱され、産総研、ハードカーボンメーカーのクレハなどの発表により「正しい」と考えられています。この「クラスター論」は「壁」に沿って存在するという「片持ち論」とは正反対で、私に立ちはだかる大きな「壁」となりました。不精ですから元論文は調べていません。後述するNEDO補助金獲得に関してもこの理論との相違を説明することに大変苦労しました。
 「クラスター」については、学生時代に「水のクラスター」をかなり調べたことがあり、確かに液体中では水は単分子で存在するより、集合して存在する方が安定で、中心に向かって集合するので、「クラスター=集合=」という表現が相応しいと理解していました。また、遠赤外線加熱の効果を調べた時にも、怪しげな論文でしたが、「水のクラスター」については一定の知識は得ていました。





 しかしながら、水は中性に対し、リチウムイオンは「プラス」に荷電しています。「プラス」に荷電した複数個のイオンが反発することなく、団子のように集まって安定に存在することは出来ないのではないかと考えました。「プラス」同士のイオンが集まれば、電荷を共有、つまり0価の金属となって存在する方が安定のはずで、結晶となった金属は空隙の中ではなく、空隙の外で結晶として存在する方が自然であろうと考えました。(Fig.24)反発し合ったリチウムイオンはお互い遠のき、逆に壁に引き付けられると考える方が正しいと考え「片持ち論」が信念になって行きました。中性でなく「プラス」に荷電したイオン同士が、反発することなく集まってクラスターになるのは「変である」と言う初歩的な疑問をどのように解決しているのかが不思議で仕方がありません。
 今でもクレハなどから「クラスター論」が大々的に吹聴されていますが、私共は計算化学で「クラスター論」は完全否定しました。ここまでを整理すると、FIG.25のようになり、「片持ち論」が構築できました。





5)昔話:太陽電池システムとOT氏との出会い

 この項は私の「昔話」で技術的には価値のない話ですから、技術情報を得たい方は飛ばして下さい。リチウムイオン2次電池誕生頃の「逸話」を知りたい方は、難しい話はありませんので、楽しんでお読み下さい。
 1989年湯浅電池時代に、大切な顧客の商社MB社から特注依頼があり、IB部長の命令で私が任されました。担当の商社マン「ID氏」は、風貌は地味でしたが、頭脳明晰で鋭いという印象でした。区の承認が取れて東京下町JR駅前に地区の案内図を「夜間点灯式案内板」として設置するという企画でした。昼間に太陽電池で発電し、「小型制御弁式蓄電池(当時は陰極吸収式と呼ばれていた)」に蓄電し、夜間にLEDを点灯すると言うことでした。昼間発電充電・夜間放電方式は珍しくなく何の問題もないように思えますが、太陽電池の裏面に設けた箱に電池を収納するので、環境温度が「50℃」を超えると推定できました。当時の陰極吸収式鉛蓄電池は高温での「正極板異常成長(グロースと呼ぶ)」を解決できていず、「期待寿命(注5)」が提示できないと言うことになりました。ID氏から制御回路の設計者として元SN社「OT氏」を紹介されました。OT氏は部屋のホワイトボードに回路を描き始めました。電気回路の素人にも解り易く、手早く描く「職人業」には驚きました。高温では充電しないから大丈夫であるとの主旨でした。グロースは充電中に限らず起こるのですが、サイクル使用では起こりにくいと言うことは解っていましたし、最終的に寿命保証はしなくても良いとの合意を得て受注しました。打ち合わせ中、太陽電池は発電量に制限があるから過充電保護はいらないのではないかと提案すると、ID氏・OT氏直ぐに理解し、その理解力の速さに驚きました。結局、自動車用充電器での補充電を警戒して過充電回路は組み込まれました。3人で話をしていると、飛躍的な意見が飛び交って充実した時間を過ごせ、勉強になりました。
 「アルミ筐体」で洒落た案内板をデザイン設計したDC社KS氏を、KS氏がインテリアをデザインした居酒屋「岡永倶楽部」で紹介されました。「岡永倶楽部」は「日本名門酒会」のアンテナショップで全国の銘酒と洒落た肴がお値打ちで用意され、日本酒好きのセレブにはお薦めのお店です。店長MK氏は年に1〜2回しか行けないのに今でも親切にしてくれます。ある日「岡永倶楽部」で会食をしていた時に、OT氏がアパートを探していると言う話をされ、その場で大学の先輩で、該当地区で不動産業をしているNG氏に電話を入れ、アパート探しを依頼しました。「その場で直ぐに対応し、解決するとは大した者だ!」と誉められ、その後信頼されるようになりました。<閑話休題>
 翌年調査に行くと、40℃炎天下にもかかわらず筐体を触ると明らかにひんやりしていました。この天候下では50℃以上で触れないと予想していたので驚きました。
 2年前に「アルミ形材メーカー」HK社から、岐阜県多治見の街燈がなく深夜には真っ暗になる新興住宅地で、玄関に太陽電池式「玄関前モニュメント」を設置するという企画が持ち込まれました。新婚向け戸建ては両親が購入費用を支払うが、実際に住む新婚所帯は電気代を節約して玄関燈を着けないので、家庭電力を使わずに太陽電池で点燈し街燈代わりにする企画でした。道路に街頭が設置されるまでの数年持てば良いとのことで、シャープに協力を求め、HK社に納入しました(特開1989−134492号)。この「玄関前モニュメント」の件を思い出し確かめに行きました。やはり「玄関前モニュメント」は炎天下でも熱くなく触れました。共通点は「アルミ筐体」と言うことです。その後確認実験はしていないのですが、鉄板筐体と違い「アルミ筐体」の場合には地面への設置が適当であれば、地面に熱が逃げ、筐体温度が上がらないと推定しました。太陽電池の買い取り制度との関連から、自宅消費型の蓄電池設置が考えられますが、その際に電池寿命は電気料金のトータルコストに反映しますから、是非「アルミ筐体」を検討すると良いと思います。
 当時、ユアサの重要顧客のNTT社が開発した携帯電話に、前述MB社とカナダ自治省(?)との合弁会社「ME社」から電池を輸入し搭載すると言う企画があり、技術サポートとしてユアサに資本参加を要請されていました。「リチウム金属電池」と聞き、これはだめと思っていましたが、MB社とNTT社からの要請ですから無下に断るわけにいかず、IB部長は困って、NM社のキーマンは前述のOT氏だから、その本音を聞き出してくれと依頼されました。新橋にあったユアサの7階会議室で、MB社ID氏・NM社OT氏と密談をしました。OT氏が早速事情・背景説明を始め、MB社対策はID氏、ユアサ対策は私が担当することになり、その旨をIB部長に報告をしました。その後、IB部長は社内調整をし、ユアサはNM社に出資することになりました。

 注5)期待寿命: 正式な電池用語ではないが良く使われます。温度などによる加速試験で得られた結果から
           換算・推定して寿命を予測します。保証ではありません。電池は「生物」ですから、
           この用語のような人間臭い表現があります。




6)昔話:太陽電池システムとOT氏との出会い

 11月27〜29日電池討論会が開催されました。学会発表は大学院生の研究成果発表の場でもあるので、大学の発表が玉石混交になるのは仕方がないと思います。若い方が電池討論会のような場で訓練を積むのは非常に良いことで、先生方のご苦労は大変なことと敬服しております。一方、国の研究機関が薄膜電池の研究をしていますが、自動車産業の盛衰を握ると言われている電池開発競争で、実用化に役立つと思っているのでしょうか?
 サイクル試験方法について基本的なことを書きました。次回は容量劣化推定について解析します。聞きかじった情報を基に、「GSユアサとパナソニック」の開発状況について概略しました。次回は無謀にも「テスラーと中国事情」について私の考えを記載します。「新規な電池理論」構築の説明に続き、基本出願について説明します。「昔話」は「NM社」について記述します。

以上





第3回(2018/12/5)



1)はじめに:名古屋弁「しぶちがする。もうやっこする。」

 前回書き忘れました。電池工業会のホームページから引用します。1986年に旧日本乾電池工業会が11月11日を「電池の日」と制定しました。11月11日を漢字で書くと、+(プラス)−(マイナス)+(プラス)−(マイナス)となり、電池の正負極を表すことからです。では、12月12日は何の日でしょう。1985年に旧日本蓄電池工業会が制定しました。野球のバッテリーの守備位置が数字で、1,2と表されることからです。今年の最優秀バッテリーは、セが広島・大瀬良/曾澤、パが西武・多和田/森と決まったようです。両日の間を「電池月間」と呼んでいます。
 紅葉が終わりストーブのお世話になっています。この季節、愛知県西部(小牧、江南、一宮)では独特の言葉があります。どんよりとした曇り空の下で子供が遊んでいると、お母さんが(最近はおばあさんだけです)「しぶちがするから家に入りなさい」と声を掛けます。琵琶湖の水蒸気を含んだ冷たい西風が、伊吹山を越えて旧中山道の米原・大垣を経由して能美平野に流れ込み、非常に弱い小雨が降ります。みぞれが降り出すと「しぶちがする」とは言いません。「しぶち」の語源を伺うと、雨の降り方がいかにも貧乏臭く「しぶちん」をイメージするからだろうという答えが返ってきました。「〜が降る」ではなく「〜がする」の表現が不思議です。この地方独特の人柄・気候をよく表していると面白く聞いています。
 一言で名古屋弁と言っても、愛知県西部尾張弁、名古屋市名古屋弁、愛知県東部三河弁の3種があります。私は最初小牧に住んでいて、近所の畑を耕していた90歳のお婆さんに指導を受けたので、尾張弁を良く知っています。検索すれば意味は解り標準語に言い換えられるが、標準語を想像しにくい言葉があります。

あかる、えらい、おうちゃくい、かした、くろ、黒にえ、コロ、ざら板、
だだくさ、つる、はばにする、ばりかく、ぼう、まわしといて、めんぼ、やっとかめだなあ、等々

 

 私が一番気に入っている方言は、「もうやっこする」と言う表現です。標準語では言い換えることが出来ません。お母さんが子供達に「もうやっこしなさい」と言います。おもちゃを皆で仲良く遊びなさい。おやつを分け合って食べなさい。と言うような意味です。可愛らしく、素敵な言葉と感心しています。最近の若い人は方言を使わなくなって来ているので、これら素敵な方言も死語になりつつあります。宴席で若い人に手帳を開いてこれらの言葉を尋ねると、名古屋出身者でも知らない人がいて、結構盛り上がります。
 やはり宴席で「充電」が話題になった時に、若い人から「電池の充電は知らない」と言われ驚きました。よくよく聞くと携帯電話は毎日充電しているそうで、大笑いしました。乾電池は解るようですが、2次電池が携帯電話に内蔵されていることは知らないようです。電池が偉大な縁の下の力持ちであること、充電作業が本当に身近になっていることに変な気持ちで感心しました。最近のサムソン製携帯電話ギャラクシは電池容量を前面に打ち出してPRしています。電池の高容量化が携帯電話では競争の本丸になりそうです。
 もちろんEV用も!



2)電池及びリチウムイオン電池の概説:充電曲線

 前回の文章で誤解を呼んでしまいました。
 OCVとCCVとの電圧差a、bは、IRドロップと過電圧の和です。高率・低温放電時の大幅な容量減の理由にはならないと記載しました。この過電圧については、KT大AB教授が丁寧な研究をされており、脱溶媒過程が主因であると言う結論を導き出しています。過電圧は電池の評価・解析には非常に重要な値です。
 予定をしていなかったのですが、最近ある電池技術者と話す機会があり、抵抗・過電圧についての考え方・測定方法を誤解しているように思いましたので、急遽解説を加えることにしました。当然ながら電圧は電圧計で測りますが、電流が流れていない時のOCVと電流が流れている時のCCVがあり、その差が電池設計では非常に重要です。一般に抵抗は、オームの法則<電圧=電流×抵抗>に従うと思われていますが、OCVとCCVとの差はオームの法則には従わないので、内部抵抗と言う方は大きな誤解を生むことになります。直流通電を遮断した瞬間にOCVに向かう方向に変化をします。充電なら低く、放電なら高くなります。この瞬間の電圧降下を前回IRドロップと呼びましたが、このIRドロップは電子抵抗とイオン移動抵抗の和です。オームの法則に従わないOCVとCCVとの差である全電圧降下分を適切に表現でき、定義された用語を知りません。私は便宜的に、内部抵抗とは違うと言う意味で、内部インピーダンスと言う造語をし、解説をすることがあります。しかし、交流インピーダンス法と言う定義された測定方法と混乱する可能性があるので、慎重に使う必要があります。
 電圧降下分(内部インピーダンス)=内部抵抗(電子抵抗+イオン移動抵抗)×電流+過電圧
 通電電流を遮断し電圧変化を測定する直流遮断法で測定した「直後の」電圧降下には電極反応過電圧は含まれていません。交流抵抗計は電池抵抗を測るのに非常な便利な測定器ですが、1kHzの交流での交流抵抗を測定しており、この周波数、つまり1ms印加では、電子抵抗、イオン移動抵抗、電気2重層の充電の一部が測定できますが、電極反応の過電圧は測定できません。電池メーカーの製造ラインの品質管理項目では、測定の簡便さから交流抵抗計が頻繁に使われていますが、電極反応過電圧は全く計れていないので、電池の設計段階ではそのことを十分に理解した上で利用することが重要です。電極反応過電圧を正しく理解し測定せずに、安易に交流測定に頼って設計をするようなことがあれば、必ず不良品を出荷し、最悪破裂発火の事故を引き起こすことになります。
 通電遮断後、回復過渡電圧(TRV=Transient Recovary Voltage)を経てOCVに戻ります。安定になるには、数秒から数時間かかります。電極電位は電解液の濃度分布、電極活物質中の反応種の濃度分布に依存します。充電条件によりこれらが全ての領域で均一にはなりません。電解液の濃度差は拡散により均一化し、異なる反応種濃度の活物質間では局部電池により内部電流が流れ、徐々に均一化されます。両端子に接続した電圧計で測定される電圧は一つしかなく、その電圧は各部の内最も大きな電圧差を示す電圧が測定されると考えております。つまり、SOC40%の領域と、SOC60%の領域があるとすれば、SOC60%の電圧が計測されると言うことになります。SOC60%の領域は放電し、SOC40%の領域は充電され、全体がSOC50%に均一になります。この議論については、TR大IG教授、TK大KM准教授から今回改めてご指導をいただきました。





 充電曲線はFig.15のようになります。第1回目の充電を「初充電」として破線で描きましたが、数サイクル繰り返し安定になってからの充電曲線とは明らかに違います。充電初期に平坦部が現れ、この電圧域に該当する反応が進行していることが解ります。代表的には充電による電解液の還元分解が起き、リチウムイオンが含まれる塩が生成し、電極活物質表面に付着します。この付着物をSEI(固体電解質界面)と呼んでいます。SEIについてはいずれ詳しく解析します。水系の従来電池では、第2回目充電以降には起こらない最初の充電で起きる現象を「化成」と呼んでいます。充電とは異なる用語「化成」と呼ぶことで、SEI形成のような本来の電荷を蓄電する充電とは別の反応を明確に区別しています。リチウムイオン電池誕生の頃に、ある方から「化成とは何の事ですか?」と質問されたことがあります。「初充電」と言う用語は、2回目以降の充電との中味の違いが明確でないので「化成」と言い換えるべきと今でも思っています。このコラムでは、「化成」と言いたいのですが、「化成」と言う言葉を知らない方も多いので、現状で使われている「初充電」で統一します。初充電中に行われる副反応には非常に大きな意味があり、安易に電解液分解と解釈するのではなく、電気量などを計算して何が起こったかを考察するべきです。
 サイクル試験では一定の電気量(=電流×時間)で充電放電を繰り返す場合もありますが、通常の充電はFig.15示すように、一定電流で所定の電圧まで充電し、その後所定の電流まで小さくなった時に停止する、定電流定電圧充電(CCCV)を行います。電極内の不均一性のために所定電圧に到達していない活物質が、所定電圧に到達するまで定電圧充電を継続します。充電による電圧上昇は負極電位の影響は小さく、ほとんどは正極電位が決めています。正極活物質はリチウムイオン含有量により2Vほど変化し、その電位変化が電圧変化になります。この上限電圧を超えて充電すると、正極活物質は結晶性が低下し、構造の不安定化、最終的には酸素を放出するようになり、安全性が大きく低下します。現況の正極活物質では4.2Vを充電上限電圧としていますが、高エネルギー化にするために高電圧にする開発が進められています。
 放電後すぐに充電をせずに休止を挟む場合には、充電開始電圧は正極中のリチウムイオン量を示しているので重要なデータです。また、定電流領域から定電圧領域に変わる時点も電極性能を評価する上で大事な点です。定電圧充電に移行してからは、電池特性を考慮して決めた終止電流に到達した時に充電を終了します。充電終止電流を1/100C以下にすると電解液分解などの自己放電を促進することがあるので、時間制限もした方が良いと思います。定電圧時間を一定にするか、定電流時間も含めた全体の充電時間を一定にするかは試験の目的応じて決定することになります。
 充電制御は負極、正極個々に制御すべきですが、適当な参照電極がないので、両端電圧で制御します。参照電極測定をすれば、Fig.16のように正極・負極の電位が測定され、その差が両端の電圧となります。図のように、電圧制御は正極の電位上昇につれて両端電圧が上昇し、4.2Vで上限としてその電圧を保つように電流を減少させます。この制御により正極が過充電になることは防げています。しかし、4.2Vは両端の電圧ですから、負極がリチウム金属析出電位になっても検出することは出来ません。充電曲線だけを観察していても、負極が過充電、つまりデンドライト析出していることを見付けることはなかなか困難です。



3)次世代EV用電池:日産自動車(株)・トヨタ自動車(株)のEV用電池開発動向

 10月度の雑誌・新聞記事について紹介および私の所見を整理しました(Fig.17)。日本の自動車メーカーも、中国市場では中国メーカーの電池を搭載すべく準備を進めているようです。これらの情報を加味して次世代電池の各社開発動向について記載しますが、元来私の苦手な作業で、公知の記事からその要約をしているだけですので、真贋も明確ではなく全く自信がありません。一応私の所見を加えながら記載しますが、危ない話と思われたら飛ばして下さい。





 日本のEVメーカーでは最も実績がある日産自動車はゴーン元会長の不祥事で大騒ぎになっています。私がコメントすることはありませんが、EVリーフの販売に影響が出ないことを祈るばかりです。既にリーフは30万台以上の実績有しながら、米国テスラー社製EVとは異なり、全く火災事故による死者は出ていません。リーフも一定の確率で交通事故を起こしているはずですが、火災事故になったと言う話は聞きません。
 一方、テスラー社EVは度々火災事故になり、不幸なことに少なくとも2名の犠牲者が出ています。テスラー社は、原因は電池ではないと表明しています。もちろん私もそれを望んでいますが、両社の採用している電池の安全性には明らかに大きな差があるので、電池にも原因があるのではないかと心配しております。リーフは昨秋に正極をマンガン系から3元系に変更することで大幅な容量向上をし、一充電走行距離400kmを宣伝しています。一般の感覚では実力が7割程度、つまり300kmでしょう。この変更で、貯蔵する電気量は向上出来ましたが、安全性は明らかに低下しているので電池劣化後を心配しています。
 2007年に設立した日産自動車(株)と日本電気(株)との合弁会社AESC社=Automotive Energy Supply Corporation=がリーフ用電池を製造しています。1985年頃に三井物産(株)子会社 日本モリセル(株)が金属リチウム2次電池をカナダから輸入し、日本電信電話公社(現ドコモ)の携帯電話に搭載しました。電池メーカーYA社が技術支援・出資をしましたが、リチウム金属による短絡が発生し、発煙発火事故が多発し販売中止になりました。リチウム金属電池の販売を中止し、代わりにリチウムイオン電池の開発を始めました。その後YA社は撤退し日本電気(株)が支援・出資しました。コバルト系はグッドイナフ氏の基本特許に抵触しますが、マンガン系であれば抵触しないと可能性があるとの特許判断があり、マンガン系正極でのリチウムイオン電池開発を開始しました。現在の日本電気(株)の電池部隊の発祥です。京セラ(株)向けの携帯電話などで安全性を武器に実績を積み、日産自動車のEVに採用されました。三菱自動車の小型EVに最初に採用された電池もマンガン系でした。当時YA社でもマンガン系を選択すべきとの意見もありましたが、携帯電話では高容量を優先すべきとの意見が強くYA社はコバルト系を選択しました。マンガン系がコバルト系よりは安全である、量産時にコバルト価格は致命的であると言う選択理由は今でも通用します。昨秋に日産自動車が合弁を解消し、現在は中国系ファンドに買収されました。その結果、日本にはマンガン系技術を有している機関はなく、今後例えば自動車共有化のように市場要求・要求特性が変わり、マンガン系が最適になることがあると、マンガン系技術を有する中国が独占することになるのではないかと心配しています。なお、AESC社は、中国系資本の元に中国での工場建設などを進めることで新展開があるのかもしれません。
 日産自動車はマンガン系から3元系に変えたことで、AESC技術に頼る必要はなくなり、どこからも調達できることになりました。当面はパナ・旧サンヨーの電池が採用されると思いますが、いずれ互換性のある韓国LGケミカル社製に変わり、その後LGケミカル社中国工場または中国CATL社に移行すると予測しております。
 この辺りの調達先の変遷については、ゴーン氏の調達方針でもある国際調達、価格主義がどの程度徹底するかに因ると思います。(Fig.18)





 一方、日本ならず世界最大の自動車メーカーであるトヨタ自動車(株)が、2030年HV・PHV:450万台、EV・FCV:100万台と、EVについて数字目標を掲げたことに驚きますが、本音はHV販売ではないでしょうか?EVでは明らかに乗り遅れています。開発戦略としてはパナソニックとの協業を発表しました。自社内での開発を諦めたとも受け取れる発表でした。
 500名体制でHEV用リチウムイオン電池の開発に成功し、HEV用NiMH電池を製造している関連会社PEVE社で、HEV用リチウムイオン電池を製造し、新型プリウスに搭載しています。電池専業メーカーを凌ぐ実力を有していうので、EV用も研究開発を進め、PEVE社で製造・調達すると推定していたので非常に驚きました。パナ・旧サンヨーからの調達を増やしているようですが、自社開発のリチウムイオン電池も性能では決して見劣りしないはずですから、価格だけで決めているとすれば、技術の蓄積は出来ず電池メーカーが実質的に一つなくなったことになり非常に残念です。なお、中国で販売するEV用電池は現地CATL社に積極的に働きかけをしていると聞いています。リッチウムイオン電池の自社単独での開発は諦めましたが、パナ・サンヨーとの共同開発は続けられているので、細々ではあっても技術者の養成は出来ているのかも知れません。また、最近トヨタ自動車関連企業での電池関連の発表が数件ありましたが、トヨタ自動車本体の技術レベルからは相当差があり、発表の裏側では選択と集中が始まっているように感じております。
 パナソニック(株)との協業の共同発表記事に、次世代電池としての全固体電池の開発も協業すると書かれていました。不思議な話と良く見直すと、記者作成記事とパナソニック(株)発言にはその意味が含まれているのですが、トヨタ自動車(株)発言では不明瞭です。10年以上前にパナソニック(株)でも全固体電池を開発しており、実際に見せてもらいましたが、とても商品化できるとは思えないレベルでした。一方、トヨタ自動車(株)では特許発明者の9割が全固体電池に関する技術者であると言う調査結果もあり、全固体電池の開発は圧倒的にトヨタ自動車(株)が先行しており、パナソニック(株)との協業には価値が見いだせないと思います。全固体電池については別途調査結果をご報告申し上げます。(Fig.19)



4)新規な電池理論:片持ち論=グラファイト・カーボンナノチューブ中のリチウムイオン



 両方から引っ張られて安定に存在するという「両持ち論」を否定しました。新たに「片持ち論」を提唱します。Fig.20に示すように、充電により<負>に帯電したグラファイト片面と<正>に帯電しているリチウムイオンは静電力で引き合い<図中f3>近付こうとします。間隔が狭くなると、グラファイト中の電子とリチウムイオンの最外郭電子とが反発し合い<図中f4>離れようとします。この両者の逆方向の力が釣り合うことで、その位置で安定化します。場の揺らぎ、例えば、僅かにグラファイト壁に近付くと電子同士の反発力が大きくなり、元に戻ります。僅かに離れるとグラファイト壁とリチウムイオンとの静電引力が大きくなり、元に戻ります。このようにバランスの取れた安定な状態が保たれることになります。カーボンナノチューブの場合にも、全く同じでFig.21のようになります。円弧の何処が安定化は定めることは出来ません。
 このように、グラファイト壁、カーボンナノチューブの壁とリチウムイオンとが釣り合って安定化する現象を「片持ち論」と命名し、この状態でリチウムイオンが貯蔵されていることを「新規な電池理論」として発表しました。



5)おわりに

 第3回目で少し慣れてきましたが、逆に書こうとする意識が強すぎて、筆は進まなくなりました。新規参入の電池技術者と話をして、日常・単純に測定している電圧、抵抗について、正しく理解されていないことがあると知り、急遽「電池の電圧」・「電池の抵抗」およびその測定の基本について解説を加えました。
 長々と書きましたが、測定している電圧・抵抗は電池の何を測っているか、じっくり考えて見ることも大切だと思います。測定器で数字が出ればそれでよしとしていては、「チコちゃんに叱られますよ!」。開発競争の最中にいる方も、足元を見つめ直すことは必要でしょう。疎かにすると必ず破裂発火事故が起きます。
 充電曲線について基本的な、大事なことだけを解析しました。次回はサイクル試験について記載します。聞きかじった情報を基に、日産自動車(株)とトヨタ自動車(株)の事業戦略について記載しました。次回はGSユアサ・ボッシュとテスラーについて解析します。「両持ち論」に対する「片持ち論」を提唱・解説しました。カーボンの微細孔内に複数個のリチウムイオンが安定に存在する状態についてクラスター論が言われていますが、次回その矛盾を指摘します。
 1990年初め、リチウムイオン電池勃興期を目前にユニークな活動が進められていました。秋の電気化学会懇親会で、HS商社TG社長より昔のことを知っている人は少なくなったと言われました。今となっては技術的には何の価値もないかも知れませんが、折角コラムを書いているのですから、当時のことを記録として残してみようと言う気になりました。項目を一つ増やして、思い出すままに数回に渡り昔話を記載することにしました。紙面の無駄と思われる方は読み飛ばして下さい。なお、登場する方々に事前了解を得ていませんので、文責は全て小職にあり、ご批判は小職にお寄せ下さい。
 次回は年明けとなります。良いお歳をお過ごしください!



第2回(2018/11/15)



1)はじめに:題名「オーバー・ドライブ」

 学生時代にラリーを少しかじっていました。「オーバー・ドライブ=Over Drive」と言う題名のラリーが主役の邦画を観ました。主演は東出昌大、新田真剣佑さんです。「オーバー・ドライブ」は変速機のギア比1以下で高速時のエコ運転用ギア設定を言いますが、映画には全くその名に相応しいシーンは出て来ません。途中で色恋話が出て来て白けましたが、ラリーシーンは勝田範彦氏などが担当しスリル満点に演出されていました。ドリフト走行は見応えがあります。名古屋に赴任した15年程前、土曜夜に岐阜市金華山ドライブウェイに走りに行っていました。若者達に迷惑がられても最後尾でローリング走行を味わっていました。ある時、ブラインドカーブの出口でうずくまっている狸に出会い急停車し、車から飛び降りて後続の車両に知らせました。後続車数台が急ブレーキを踏み怒鳴っていました。ヘッドライトをスモールにすると、のこのこ動き出し、見守っていた若者達もとても喜んでいました。別れ際に若者達が「おじさん、余り飛ばすなよ」と心地好い笑顔で挨拶をして追い越していきました。執筆に当り念のためと、金華山ドライブウェイ(全長5km、所要時間?分)を明るい内に実際に走行してきました。溜まり場だった公園駐車場、手前のトイレなどは昔のままでしたが、やはり恐怖感が先に立ち膝が震えました。この映画の題名はブレーキとアクセルを同時に案配良く踏む「ヒール・アンド・トゥ」にすれば良かったのにと思いました。
 前回記しましたように「リチウムイオン2次電池」と言う名称は、その意味が心技体一致しています。私は専門用語、電池用語はその意味を理解した上で、常に正しく使うべきと思っています。このコラムでも正しい用語を使うよう心掛けますが、間違いがあれば是非ともご指摘下さい。



2)電池及びリチウムイオン電池の概説:放電曲線

 

初歩的な話で大変に申し訳ないのですが、学会発表などで充放電試験結果の解釈で疑問を感じることがあるので、敢えて取り上げました。





 Fig.9 破線Aは電流が流れていない時の開路電圧=OCV=(注3)、点線Bは典型的な放電曲線、一点鎖線Cは高率(大電流)放電時の放電曲線を示しています。線B、C(CCV)と破線A(OCV)との電圧差、矢印a、bはエネルギーロスになります。また、矢印qは、高率放電などで蓄電されているが放電できなかった電気量を表しています。この差、矢印a、b、qが生じる理由を考察することが、私のような電気化学出身の電池屋の仕事になります。
 研究されている数は矢印a、bに関するものがほとんどですが、私は矢印qが矢印a、bよりはるかに重要と考えています。先端の材料研究の場合には省略することも仕方がないかもしれませんが、矢印qを説明できることが前提で放電曲線の解釈をしなければ、技術としては片手落ちでしょう。交流測定データで矢印a、bを説明し、同じ理由で矢印qを説明している講演があり、2回ほど間違いを指摘しましたが無視されました。ソーラートロン(交流測定装置)でデータを沢山取るだけでなく、電気化学速度論を学んで「律速段階」を理解した上で、「過電圧」を語るべきです。
 放電直後の電圧降下は所謂IRドロップで、電子抵抗・イオン抵抗(イオン伝導度の逆数)を示しています。このIRドロップは熱損失になりますから、エネルギー効率の面では小さい方が良いことになります。しかし、短絡・ショートをした時にこの値が小さいと、短絡電流は大きくなり安全性は低くなり破裂発火の可能性が高くなります。従って、設計者は意識的に高くすることもあるので、一概に低ければ良い電池と言う訳ではありません。一般に2次電池ではこのIRドロップは非常に小さいので、安全性の見地からはIRドロップは高い方が良い電池と言うことになります。
 放電電圧(CCV)と開路電圧(OCV)との差(矢印a、b)からIRドロップを差し引いた電圧差は、正極、負極それぞれの過電圧を足したものです。この過電圧を研究することが電気化学の重要な役割になります。本来参照電極を用いて区別して考えるべきです(Fig.10)。しかし、困ったことに現状ではリチウムイオン電池内で安定に存在できる電極がないので、実電池では両端電圧での過電圧を考えざるを得ません。実験的には目的とする電極(作用極)の容量を反対の電極(対極)の容量の10分の1以下にすることで、作用極の挙動とする実験手法が使われることがありますが、意図しない現象を招く可能性もあるので、十分に検討してから実験する必要があります。TH大SI教授がチタン酸負極を参照電極に使う試みをしており、その使い勝手・安定性に注目しています。
 電気2重層の放電を示す短時間の電圧降下があり、その後直線に近い放電曲線になり、充電状態=SOC=(注4)に従って電圧が降下していきます。負極の影響は小さく、正極組成の影響を受けた数点の変曲点を伴って徐々に降下します。傾斜電圧は出力制御上は織り込み済みなので、ゆったりと変化することは実用上全く問題ありません。この変曲点について微分などをして丁寧に調査・解析している研究発表をよく見聞きします。材料調査には役立つかも知れませんが、電池の良否判定には結び付きません。
 0.05C以下(小さな電流)の低率放電では放電終期に容量が無くなったことを示す急激な電圧ドロップがあります。通常は副反応の恐れがある0Vよりはるかに高い、例えば2.8Vの放電終止電圧で放電を中断します。通電終了後電圧はOCV(注3)まで回復します。1C以上(大電流)の高率放電では矢印qに示すように、本来の容量より小さな容量しか得られません。この場合も、通電終了後にOCVまで時間をかけて戻ります。(Fig.11)





 この電圧がOCVに戻る現象は非常に重要な意味を持っており、呼び方についてKT大AB教授に相談しました。非常に丁寧な回答があり、「回復過渡電圧」(Fig.11)と呼称すべきと教えていただきました。簡単なメールでの質問でも、その本意まで御理解いただき感心しました。この「回復過渡電圧」については、京都の研究機関が昔から着目していて流石だなと感心していたのですが、最近の解説資料を見ると曖昧な表現が多く誤解を呼ぶのではないかと心配しています。
 この矢印qは高率放電に加え低温でも大きくなります。今後コラム連載の中で詳しく解説します。

 注3)OCV:Open Circuit Voltage 開路電圧。電流が流れていない時の電池電圧。
    CCV:Closed Circuit Voltage、閉路電圧。電流が流れている時は、
 注4)SOC:State of Charge 充電状態。満充電はSOC100%になる。
    DOD:Depth of Discharge 放電状態。満充電は0%。になる。



3)次世代電池:EV用リチウムイオン電池

 9月度の雑誌・新聞記事について、紹介および私の所見を整理しました(fig.12)。技術的知見には余り役立ちませんが、市場動向、各電池メーカー・各自動車メーカー戦略について知ることができます。真実とは思えない情報もありますが、参考のため添付・掲載します。今月度は、メカニカルチャージについて注釈をつけました。これらの情報を加味して次世代電池の開発動向について解析・検討し、その結果を今後解説・記載して行きます。セカンドオピニオンとして心に留めておけば、きっと将来お役に立つと思います。




Fig.12 2018年9月度記事の紹介と評価



 

日産自動車リーフのEV用電池の1充電走行距離は公称400km、実力300km程度です。通勤と買物に限定した用途ではこの距離で十分ですが、休日のお出掛けの時には不便・不安でしょう。このことが価格以外にEVの普及を妨げています。その壁を乗り越えるためには現行の倍、公称800kmは必要と思います。大雑把に言えば、80kWhの電池を積む必要があります。EVの魅力はガソリンスタンドに行かず家庭あるいは宿泊先で充電できることにあり、充電ステイションに立ち寄って充電することは非常時に限定するべきで、急速充電性能は不要と考えています。寿命については、電解液などを改良した改良型リチウムイオン電池で10年要求は満たせると思います。
 現行のリチウムイオン電池は負極・正極とも理論限界に達しており、これ以上の高容量化は望めません。リチウムイオン電池の標準になっている円筒型18650は、ソニーが最初に出荷した1990年代は1000mAh、2000年代に2000mAh、2010年代3000mAhと容量増を果たしました。設計で達成出来たのは2500mAhまでで、その後は負極の高密度充填、ニッケル増と言う安全性を犠牲にしての容量増で、これ以上は安全性に無理があると懸念しています。
 電極活物質以外の電解液・セパレータなどの補助部品の改良は、電極活物質の能力を十分に引き出すことが出来るので数10%の改良には役立ちますが、倍の容量増は期待できません。電解液・セパレータなどの開発で数倍の容量増が実現できたと言う発表を見聞きしますが、電極活物質は何ですかと聞きたくなります。注目を浴びている固体電解質も、それ自体では高容量化の課題解決になりません。絶対に誤解があってはならない点です。



4)従来説=両持ち論=グラファイト中のリチウムイオン



 リチウムイオン電池で実用化されているカーボン構造はグラファイトとハードカーボンです。グラファイトに貯蔵されたリチウムイオンについては、リチウムイオンがグラファイト層間0.0335nmに入り、充電により負に帯電した上下2層のグラフェン層に挟まれた位置が安定な存在と言われています。リチウムイオンは正に帯電し、グラフェン層は充電により負に帯電しているのでお互いに引き付け合います。この引き付ける静電力が上下均等(f1=f2) になり、上下層の中央で釣り合うことにより安定に存在すると言われています。 (Fig.13)
 しかし、全ての場で揺らぎはあります。中央に位置するリチウムイオンがほんの僅か上層に近付くと上からの引力<f1>は少し増えます。下層からの引力<f2>は距離が遠くなるので少し小さくなります。つまり、f1>f2となり、リチウムイオンは上層に向かって移動し、その結果f1>>f2となりリチウムイオンは益々上層に向かって移動します。
 少し長くなりますが、私が思い出した説話を引用します




<大岡裁き/子争い>
 子供の母親は一人ですが、母親を主張する女子が二人いました。双方共に「わたしこそがこの子の母親よ」と、頑として引かない様子です。二人の争いはとうとう収まらず、大岡越前の奉行所でついに白黒付ける事になりました。
 大岡越前は二人にこう提案しました『その子の腕を一本ずつ持ち、それを引っ張り合いなさい。 勝った方を母親と認めよう。』 その言葉に従い、二人の母親は子供を引っ張り合いました。当然ながら引っ張られた子供はただではすみません。たまらず「痛い、痛い!」と叫びました。 すると、その声を聞いて哀れに思ったのか、片方の母親が手を離してしまいます。
引っ張りきった方の母親は子供を嬉々として連れて行こうとしますが、大岡越前はこれを制止します。
 『本当の親なら、子が痛いと叫んでいる行為をどうして続けられようか』と言いました。母の持つ愛情をしっかり見切ったのでした。これにて一件落着。



 

つまり、両方から引っ張っている状態のグラファイト中リチウムイオンは決して安定ではないと考えました。この両方から引っ張って安定に存在すると言う従来の説を私は「両持ち論」と名付けました。
 カーボンナノチューブのような円筒中では、Fig.14に図示するように周囲から引っ張られて中央に存在することになります。多角形の壁に囲まれた空間の場合には安定に落ち着く位置を見つけるのに、リチウムイオンは苦労しそうです。
 この「両持ち論」に疑問を抱き「片持ち論」を考え付き、「新規な電池理論」を考案しました。



5)おわりに

 

第2回は電池屋としての放電曲線の見方を解説しました。幼稚な話ですから専門家の方は読み飛ばして下さい。「律速段階・過電圧」についてもう少し解り易く説明すべきであったと後悔しています。次回は充電曲線について解析します。電池の容量は電極活物質で決まります。その理論容量を如何に100%引き出し放電させるかが電池屋の腕の見せ所です。EV使用ではリチウムイオン電池は安全性を考慮しても、ほぼ理論容量を引き出せるはずです。倍の容量が要求される次世代電池では電極活物質開発に研究・開発資源を注ぎ込むべきです。次回からはEV関連メーカーの開発動向を紹介します。カーボン系での高容量化が断念される理由、グラファイトで内蔵される状態について「両持ち論」を説明しその矛盾を指摘しました。次回は私が考案・提唱している「片持ち論」を解説します。
 第1回で数通のご意見をいただきました。次回以降に反映させていきます。ご批判・ご質問を大歓迎しておりますので、是非お寄せください。次回をお楽しみに!




第1回(2018/10/10)



1)自己紹介および本コラム執筆について

 初めまして、バッテリーコンシェルジュ佐野です。
 記録的豪雨、経験のない猛暑、最大級台風、震度7の地震があった異常な夏が過ぎました。自然に狂いが生じていると言われることもありますが、彼岸花は例年通りお彼岸の日にお墓に咲きました。葉のない茎の上に華麗な朱色と純白の花が乗っている姿は孤高の華やかさがあります。純白は珍しく突然変異かも知れません。
 平成20年11月から翌年2月まで当コラムを執筆していました。丁度10年振りになります。
     https://johokiko.co.jp/column/column_shigeru_sano.php
 「バッテリーコンシェルジュ」と言う肩書は勝手に作り出したもので、今の所苦情を聞いていませんが、学会・業界では認知されている訳ではありません。学会などで名乗る時には恥ずかしく言い淀んでいます。
 今春に名古屋にある一般財団法人ファインセラミックスセンター(JFCCと略す)の客員研究員を退任し、現在は某充放電装置メーカーの援助で何とか電池と関り続けています。中学2年の時に電池研究者になる夢を抱き、半世紀に亘り電池に携わってきました。研究開発に関し世界一の失敗例を有していると自負しています。(FIG.1)





 

前回執筆から10年が経ち、EV用電池開発など電池業界は激変しており、また、「新規な電池理論」について篩膜を実証できました。私の知見が電池技術修得、次世代開発に役立つことがあると執筆を思い付き、鰹報機構様にご相談しました所、本コラム執筆に快諾いただきました。月1回全24回の掲載を予定しております。各回2)、3)、4)項を平行に書き進めていきます。3)項は順不同になりますがご容赦願います。



2)電池全般及びリチウムイオン電池の特徴と課題
  副題:電池及びリチウムイオン電池の現状


 

最初に電池工業会発行の「でんち」に掲載されている国内電池産業の概要を紹介します。小冊子「でんち」は電池工業会が編纂しており、電池業界の施策などが解り易く書かれています。屋井電器が登場する電池開発の歴史などは面白く読ませていただきました。
 国内での電池生産は約8,000億円で、年率5%上昇を続けられれば5年程で1兆円産業になります。充電できない1次電池は8%以内です。量販店で安売りされているマンガン乾電池の国内生産は打ち切られています。乾電池トップメーカー某社の最新工場はアフリカのコンゴにあると聞いています。コンゴはコバルト生産でも有名で電池との関りが強い国です。(追記:寄稿時には知らなかったのですが、コンゴのムクウェグさんがノーベル平和賞を受賞されました。コンゴの紛争には鉱物資源の利権が絡んでいると聞き複雑な気持ちです。)2次電池販売金額は7,900億円で、大半はリチウムイオン電池(注1)で、内車載用が2,700億円65%です。鉛蓄電池、ニッケル水素電池はほとんど増えることなく、リチウムイオン電池特に車載用と輸出が伸びを支えています。(Fig.2) 輸出先は大半が東南アジアです。グラフの縦軸の金額には余り意味がありません。1992年にソニーが製品化に成功したリチウムイオン電池も携帯電話に代表される民生用は韓国、中国に追い抜かれ、車載用も中国に追い抜かれたと言われています。世界規模での電池市場については調査会社の報告を参考にして下さい。
 昨秋に中国CATL社トップのEV用リチウムイオン電池に関する講演を聞きました。数年前に日本メーカー2社と韓国LG化学の方のEV用リチウムイオン電池の技術講演を聞いた時に、日本メーカーが最新技術を隠したことを割り引いても、LG化学の技術トップの講演内容が一番素晴らしいと思いました。その時の印象と全く同じでCATL技術トップがリチウムイオン電池の技術に真摯に立ち向かって事業を進めていると感じました。一方、日本メーカートップの講演からは技術を理解した上で話されているようには聞こえませんでした。リチウムイオン電池技術では日本メーカーは完全に追い付かれました。



  

※注1:「リチウムイオン2次電池」という名称は、ソニー鰍ェ最初に製品化した時に命名し、現在一般に通用している名称です。リチウム金属電池と区別する呼び方で、技術的には正負極どちらに収納されてもイオン状態にあり、使用面ではリチウム金属に比し遥かに安全であることを表現していて、非常に上手い名付けと感心しています。充電できないリチウムイオン1次電池は存在していないので、本稿では充電できるという意味の2次(蓄)は省略します。文字数制限でLIBと略すこともあります。Iを小文字iで表記していることがありますが、リチウム金属電池と混同するので適当とは思えません。なお、Siなどとの合金系負極電池を、リチウムイオン電池と呼称するのは相応しくないと思います。




<リチウムイオン電池販売推移>車載用と輸出が伸びています。


3)EV用次世代電池の課題 副題:用途別要求特性とHEV用電池について

 

電池は用途に応じて機種が決められます。代表的な用途について要求される特性を整理しました。(Fig.3)
 民生用と総称している携帯電話・パソコンなどの携帯機器では現状のリチウムイオン電池で最低限のニーズは満たせています。使用頻度の高いユーザーはリチウムイオン電池が内蔵されているモバイルバッテリーと言う携帯型充電器を予備に持っています。
 ハイブリッドカー用電池は、トヨタ自動車が関連会社のPEVE社製ニッケル水素電池とリチウムイオン電池とを車種別に併用し、ホンダ自動車がGSユアサ社との合弁会社ブルーエナジー社製リチウムイオン電池を搭載しています。基本的にはガソリンエンジンで走行し、スタート時・急加速時などのエンジン効率が良くない時の補助としての役割で、エネルギー貯蔵自体は重要な性能ではなく、5Ah程度の電池が採用されています。一方、出力は重要で数kw、つまり10C(※注)以上の電流を流せる設計になっています。ブルーエナジー社の負極にはグラファイトではなくハードカーボンが使われています。リチウムイオンの挿入・脱離速度が速い、膨張収縮が少ないなどの利点から採用されていると思います。僅かであってもグラファイトの膨張収縮はSEI(固体電解質界面:後述)の溶解・沈殿による電池劣化を促進します。
 トヨタ自動車新型プリウスにはニッケル水素電池とリチウムイオン電池の両方が搭載されています。電池占有容積は35.5Lと30.5Lとで5Lの差が電池容量に反映され、前者は6.5Ah、後者は3.6Ahです。公表された写真を見るとこの差を制御回路が占有しています。つまりニッケル水素電池に比しリチウムイオン電池は複雑な制御が必要なことが理解できます。両者の電池容量差は理論体積エネルギー密度からは理解できない大きな差で、リチウムイオン電池がエネルギー密度を無視してパワー重視設計、つまり活物質の充填率を下げた設計になっていると推定します。(Fig.4)
 定置用は後述しますが、リチウムイオン電池では価格が難問と思います。

※注2:「C」は電池専門記号で、容量を乗じると電流に換算できます。異なる容量の電池特性を比較評価する時に便利な単位です。ただし、容量の少ない薄膜電池では適用できません。ある学会で、「薄膜電池で100C充電ができた。」と言う発表があり、某電池メーカーの方が座長としての中立の立場を忘れ憤慨していました。


 

<用途別要求特性>EV用は全て高性能で、特にエネルギー密度が重要!



<HEV用とEV用> HEV用はパワー重視、EV用はエネルギー密度が重要!


4)新規な電池理論「片持ち論+篩膜」
  副題:新規な電池理論考案のきっかけとなったカーボンナノチューブ


 

JFCC在籍中に、楠主幹研究員(その後名古屋大学教授、今春退任)が発明したカーボンナノチューブ(CNTと略す)の応用開発を担当し、楠主幹研究員よりCNTについて教えていただきました。楠CNTはSiCの単結晶基板を加熱分解して成長させ、非常に密なブラシのような形状です。(Fig.5,6) その特性を活かし研磨材としての応用を検討しました。特性は非常に良いのですが、価格がネックになり実用化は出来ていないと思います。(Fig.7)
 CNTはS大のE教授を通じて知識がありました。E教授とは30年程前に特殊カーボンの応用開発に関する国プロ委員会でご一緒し、その精力的なご活躍に感心しました。E教授が発明したCNT前身の気相成長カーボンファイバー(VGCF)は昭和電工(株)にて製品化され、負極添加剤としてリチウムイオン電池の重要な材料となっています。
 私は研磨剤としての応用と並行して電池電極として使えないかを考えましたが、この内径では内部が電解液分解生成物で埋められイオンが動けなくなり、電池として機能できないことを直ぐに理解しました。(Fig.8) CNTを電池材料にする研究が多くなされましたが、結局は全てこの結論になっています。金属酸化物を導入してレドックスキャパシタ容量を測定して、CNTで電池ができたと言う発表には厭になります。
 なお、JFCCのK氏は硫酸系で水分解が起こらない電位域でのキャパシタ容量を測定し、非常にきれいなデータを得ています。CNTの先端をキャップと言いますが、そのキャップを焼き切って除去するとCNT内部に電解液が入り容量が増大することを実証しました。この知見は多孔性カーボン全般に適用できる非常に貴重な実験結果で、「新規な電池理論」構築にも役立っています。(特開2010-10623)




<SiC表面分解法CNT>ブラシのように密に林立している。



<SiC表面分解法の機構>SiCを真空加熱して分解する。



<SiC表面分解法CNTの特長>研磨材として優れた特性を有している。



<CNTが電池に使えない理由>CNT内部がSEI分解生成物で埋まり、動作しない。


5)終わりに

 

今回は自己紹介から始め本コラムの今後の進め方について記述しました。
 電池業界は車載用リチウムイオン電池に支えられ幸いにも現在は成長産業ですが、他の電池のように衰退に向かわないためには、産・官・学の真剣な取り組みが必要と考えています。次回は基礎的なことですが、充放電曲線の見方について説明をします。用途別に電池に対する要求性能を整理し、HEV用電池はパワー重視設計であることを説明しました。次回は、EV用としてのリチウムイオン電池を評価します。「新規な電池理論」考案のきっかけになったCNTを紹介しました。次回は、グラファイトを代表とするカーボン材料におけるリチウムイオン貯蔵に関する現行理論の矛盾について詳述します。
 9月25日、26日金沢大学で開催された「2018年電気化学会秋季大会」に参加しました。発表内容は次回に報告します。参加者1000人以上、発表500件、懇親会300人と聞きました。会場が広いためか各会場とも空いていました。韓国・中国からの参加者はほとんど見掛けませんでした。11月末開催の電池討論会に集中しているかも知れませんが、日本の電気化学会には価値がないと思われるようになったとしたら残念です。
 久し振りの執筆で手古摺りました。お読み難い部分が沢山あったと思いますがご容赦願います。徐々に読み易い文章が書けるようになるとご期待願います。ご質問・ご意見をお寄せいただけますことを楽しみにしております。是非ともよろしくお願い申し上げます。
 彼岸花と言えば、山口百恵が唄った「曼珠沙華(シャカ)」を思い出します。彼岸花と同じく本コラムも毒を抜けば非常時にきっと役立つはずです。次回をお楽しみに!



佐野 氏のご紹介

佐野 茂 氏
バッテリーコンシェルジュ

■講師自己紹介: ・中学2年の時、電池研究者になる夢を抱いた。
・湯浅電池(株)(現(株)GSユアサ)で多くの電池研究。
・成功談はないが、失敗談は豊富にある。

■ご略歴:
 1972年 東工大電気化学科卒。
 1973年 湯浅電池(現GSユアサ)入社。蓄電池研究。
 1993年 リチウムイオン電池研究・開発・量試。
 2005年 ファインセラミックスセンター。「新規な電池理論」考案・出願。
 2007年 国プロ受託「計算化学による実証」。
 2009年 東洋システム鞄d池評価担当。
 2016年 バッテリーコンシェルジュ。「SiC篩膜」特許出願。




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