第17回_GHSによる世界調和とEUの新ハザードクラス導入
◆GHSとは
化学品の分類及び表示に関する世界調和システム(Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals:GHS)(*1)は、国連勧告として2003年に採択された化学品の分類及び表示に関する世界共通の枠組みです。GHSの開発背景には、世界各国で異なっていた「分類」や「表示」のルールがあります。このルールの不統一は、国際貿易における障壁となり、情報伝達の混乱の要因となっていました。このような要因を解決するために、「化学品の分類と表示の調和」を推進し、国際間の貿易円滑化や労働者・消費者の保護、環境保護を目的に共通の言葉で危険有害性を伝えるための国際的なツールとして開発されたのがGHSです。GHSは世界共通の分類・表示ルールとして普及していきましたが、各国・地域で要件が異なることがあります。なかでもEUでは、CLP規則においてGHSには存在しない危険有害性クラスが導入されるなど、独自の動きが見られています。
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◆GHSのビルディングブロック方式
世界各国は、化学品の分類及び表示を国際的に調和させるため、GHSに基づいた法規制を整備しています。ただし、GHSは各国・地域に対して一律の導入を求める制度ではなく、「ビルディングブロック方式」を採用しています。この「ビルディングブロック方式」において、各国・地域は自国の法規制やリスク管理の考え方に応じて、採用する危険有害性クラスやカテゴリーを選択することができるようになっています。ビルディングブロック方式では、採用した項目についてはGHSに従った運用が求められる一方、どの項目を採用するかについては各国・地域に裁量が認められています。そのため、同じGHSを採用していても、国や地域によって要求事項に差が生じることがあります。
国や地域によって要求事項に差が生じる代表的な例としては、各国で採用している「版」が異なることがあげられます。GHSは原則2年ごとに化学物質の最新の科学的知見や、実際の運用で明らかになった課題に対応するための改版が行われています。現状の最新版は2025年9月に出版された「第11版」(*2)ですが、GHSは前述の通り最新版を採用しなければならないという制度ではありません。例えば、日本では、2025年に改正されたJIS Z 7252及びJIS Z 7253においてGHS第9版が採用されていますので、関連のJIS規格などは、GHS第9版の記載に基づくことになります。一方で、従来のGHS第6版に基づく2019年版JISからの移行期間が設けられており、現在は新旧規格が併存している状態です。
このような「版」による違いは、GHSが想定しているビルディングブロック方式の範囲内のものと考えられますが、近年のEUにおいては、採用する版数の違いだけでなく、GHSに存在しない危険有害性クラスを追加する動きが見られています。
◆EUによる危険有害性クラスの新設-2023年のCLP規則改正
EUにおけるGHSに基づく分類や表示に関する法規制としてCLP規則があります。このCLP規則は、2023年に委員会委任規則((EU)2023/707)(*3)により改正され、次の4つの危険有害性クラス群が導入されることが決定されています。
・区分1および区分2のED HH(人間の健康のための内分泌かく乱)
・ED ENV 区分1および区分2(環境への内分泌かく乱)
・PBT(持続性、生体内蓄積性、毒性)、vPvB(非常に持続性、非常に生体蓄積性)
・PMT(持続性、移動性、毒性))、vPvM(非常に持続性、非常に移動性)
これら4つの危険有害性クラス群は、GHSに記載がなくEUが独自に設定したものとなります。この新たな危険有害性クラスの導入は従来のビルディングブロック方式の運用からすると性質の異なる動きといえそうです。EUはこのGHSを拡張するような動きについて、委員会委任規則((EU)2023/707)の前文において、以下のような理由をあげています。
人間の健康および環境に対する内分泌かく乱
内分泌のかく乱が人間の特定の障害や発達、生殖、神経発達障害、がん、糖尿病、肥満などを引き起こすことが証明されていること。
PBT(持続性、生体内蓄積性、毒性)、vPvB(非常に持続性、非常に生体蓄積性)
環境内で簡単に分解されず、食物網の生きた生物に蓄積する傾向があり、動物と人間の両方が環境を通じて累積的にばく露することになること。
PMT(持続性、移動性、毒性)、vPvM(非常に持続性、非常に移動性)
飲料水を含む水循環に侵入し、長距離にわたって広がることがあるため懸念があり、動物と人間の両方が環境を通じて累積的にばく露され、その影響を予測することが困難な状態にあること。
EUは科学的知見の蓄積に基づき、新たなハザードを設定する方針を示しましたが、国際調和を目指し、貿易上の混乱を抑制していくというGHSの考えからは逸脱する方向性と捉えることもできます。実際に委員会委任規則((EU)2023/707)が制定される過程におけるパブリックコメントでは、日本化学工業協会(JCIA)やアメリカ化学評議会(ACC)が危険有害性クラスの新設は、グローバル•バリューチェーンに重大な混乱を引き起こす可能性があり、国連GHSの委員会で議論するべきとの意見を表明しています(*4)。
EUによる新たな危険有害性の導入は、現在、段階的な移行期間中で実装段階にありますので、対象物質を取り扱う企業は、期限までに分類やSDS、ラベルの見直し対応が求められることになります。GHSにない新たな危険有害性を科学的知見の蓄積に基づき導入していこうというEUの動きは世界調和との整合性という新たな課題を生む一方で、将来的な国際的議論に影響を与える可能性もあると考えられます。今後、これらの危険有害性クラスがEU独自の要求事項として定着するのか、それとも国連GHSへ取り込まれていくのか、引き続き注目していく必要があると考えられます。
株式会社ジュシパートナーズ 長野 知広氏
【参考URL】
(*1) GHSポータルサイト
http://www.unece.org/trans/danger/publi/ghs/ghs_welcome_e.html
(*2) 国連GHS文書(改訂第11版 2025年)
https://unece.org/transport/dangerous-goods/ghs-rev11-2025
(*3) 委員会委任規則(EU) 2023/707
https://eur-lex.europa.eu/eli/reg_del/2023/707/oj/eng
(*4) Draft delegated regulation – Ares(2022)6485391
https://ec.europa.eu/info/law/better-regulation/have-your-say/initiatives/13578-Hazardous-chemicals-updated-rules-on-classification-labelling-and-packaging_en
免責事項:当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。
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