第15回_速報 ELV規則が公布(2026年7月24日)
2026年7月24日に、ELV規則が公布されました。
ELV規則(車両設計の循環性要件および使用済み車両の管理に関する規則:EU議会及び理事会規則(EU)2026/1738)(*1)は、ELV指令((EC) 2000/53)と、車両の再使用可能性・再資源化可能性・回収可能性に関する 型式認証指令((EC)2005/64)を廃止し、それらを単一の 規則(Regulation)として統合したものです。制度の狙いは、車両の設計段階から使用済み車両の回収・処理・再資源化までを一体で扱い、自動車産業を循環経済へ移行させることにあると整理できます。あわせて、重要原材料への依存低減、温室効果ガス排出の抑制、違法な廃車処理や不適切な中古車輸出の抑制も重要な政策目的として位置づけられています。本規則の特徴は、単なる廃車処理規制にとどまらず、次項を一つの制度の中で接続している点にあります。
(i)車両設計
(ii)再生材使用
(iii)デジタル情報管理
(iv)拡大生産者責任(Extended Producer Responsibility: EPR)
(v)有害化学物質規制
(vi)回収・処理実務
そのため、法務や環境部門だけでなく、設計、調達、品質保証、アフターサービス、回収、解体、再資源化まで含めた横断的な対応が必要になる構造です。完成車メーカー、部品メーカー、材料メーカー、再資源化事業者のいずれにとっても、影響の大きい規則と位置づけられます。
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§1. 要求事項の概要
本規則の対象は、中心的には M1(乗用車)とN1(小型商用車)ですが、それに加えて一部の Lカテゴリ(自動二輪車、三輪車、四輪車)、M2(小型バス)、M3(大型バス)、N2(中型貨物車)、N3(大型貨物車)、さらに Oカテゴリ(トレーラー) にまで部分的に適用が広がります。一方で、軍用車両、消防・警察・救急用途の特殊車両、歴史的価値を有する車両、一定の少量生産車、特定のペダル付き車両、トレーラーキャラバンなどは対象外です。したがって、従来の典型的な乗用車・小型商用車向け制度よりも、カバー範囲が広い制度になったと見ることができます。
要求事項の第一の柱は、「循環設計」です。
新たに型式認証される車両については、重量の85%以上が再使用または再資源化可能、95%以上が再使用または回収可能 であることが求められます。数値自体は旧制度から大きく変わっていませんが、新規則では、それを裏付ける材料情報や構成情報の把握、計算方法、検証方法の実効性が強く意識されています。つまり、理論上再資源化できるというだけでは足りず、実際の材料構成に基づいて説明できる状態が前提になる、という読み方になります。
第二の柱は、「取り外し・交換が可能な設計」です。
特に、電気自動車用電池、電池パック、電動駆動モーターについては、使用段階でも廃車段階でも、容易かつ非破壊的に取り外し・交換できることが求められます。これは、修理、再使用、再製造、再資源化を後工程で成立させるための上流側の設計要件と整理できます。構造設計だけでなく、整備情報やソフトウェア制御の扱いにも影響が及ぶ可能性があります。
第三の柱は、「再生プラスチック含有率の義務化」です。
新たに型式認証される車両に含まれるプラスチックについて、2032年9月1日以降は15%以上、2036年9月1日以降は25%以上 の 使用後再生プラスチック(post-consumer recycled plastic) が求められます。さらに、その目標量のうち 少なくとも20%は使用済み車両由来 である必要があります。これは、単なる再生材使用義務ではなく、自動車から自動車へ戻す 閉ループ(closed-loop) の考え方を制度に組み込んだものと理解できます。
第四の柱は、「情報提供とデジタル化」です。
メーカーには、部品の取り外し・交換情報、有害化学物質情報、再生材宣言、スペアパーツ情報などの提供が求められます。その中核となるのが、デジタル・サーキュラリティ・ビークル・パスポート(Digital Circularity Vehicle Passport: DCVP)です。DCVP は消費者向けラベルというより、解体業者、修理事業者、再資源化事業者、当局が車両の循環性情報を利用できるようにする実務的な情報基盤と位置づけるのが自然です。
第五の柱は、「使用済み車両の回収・処理体制」です。
無償引取り、認定処理施設、廃車証明、脱汚染、破砕前の部品除去、越境コスト配分などが体系的に規定されています。したがって本規則は、「車をどう作るか」と「使い終わった車をどう処理するか」を一つの制度でつないだものと捉えることができます。
§2. ELV指令からの改定内容
最大の改定点は、指令(Directive)から規則(Regulation)への転換 です。指令は加盟国ごとの国内法化を前提とするため、各国で運用差や解釈差が生じやすい仕組みでした。これに対して規則は EU 全域で直接適用されるため、単一市場におけるルールの統一性が高まります。その結果、加盟国ごとの差異に依存した対応は採りにくくなり、より一貫した対応が求められる構造になっています。
次に、旧 ELV指令と旧型式認証指令で分かれていた 設計要件 と 廃車処理要件 が統合されました。従来は、車両設計段階の再使用可能性・再資源化可能性の議論と、廃車回収・処理の議論が別制度で進んでいましたが、新規則ではこれが一つの法体系で扱われます。その結果、設計部門の判断が end-of-life 処理と直結し、設計・調達・アフターサービス・解体・リサイクルが一つの流れとして扱われる構造が明確になっています。
また、対象車種の拡大も重要です。従来の M1 / N1 中心の制度から、一部の Lカテゴリ車両、大型車、トレーラーにまで対象が広がりました。したがって、車両循環性規制は乗用車固有の制度というより、より広い移動・輸送分野に関わる制度へ展開したと理解できます。部品メーカーや材料メーカーにとっても、自社製品がどの車種向けであっても、規制の影響を受ける可能性が高まった、という整理になります。
さらに、再生材使用義務 と DCVP の導入は、旧 ELV指令にはなかった大きな変化です。旧制度は主として「廃車になった後の適正処理」を重視していましたが、新規則は「新車の設計と材料選定」そのものに循環性を組み込んでいます。この点が、本規則を単なる ELV 制度の改正ではなく、自動車の循環設計規則として位置づける理由といえます。
§3. EPRの要求
本規則の 拡大生産者責任(Extended Producer Responsibility: EPR) は、車両を市場に出した生産者に対し、その車両が使用済みになった後の回収、処理、報告などの責任を負わせる制度です。
ここで重要なのは、EPR が単なる費用負担制度ではなく、回収ネットワーク、無償引取り、生産者登録、代理人、生産者責任組織(Producer Responsibility Organisation: PRO)、越境コスト配分 を含む包括的な制度として設計されている点です。生産者は、少なくとも 使用済み車両の回収・処理費用の一部 を負担します。ただし、その費用設計にあたっては、二次原料や再利用部品から得られる収入も考慮されます。
したがって、EPR は単純なコスト転嫁というより、回収された価値を織り込んだ費用分担制度と読むことができます。より循環的な設計や材料回収が、長期的には EPR 負担構造にも影響する可能性があります。無償引取り は EPR の中心的な要素です。車両所有者または保有者は、原則として使用済み車両を認定処理施設または回収拠点に、過大な負担なく引き渡せる必要があります。
ただし、エンジン、電動駆動モーター、大きな車体部材などの重要部品が欠落している場合には、無償引取りが拒否されることがあります。電池が欠落している場合も、それが専門事業者によって適切に処理された証拠の有無で扱いが変わります。
したがって、無償引取りは無条件の権利というより、一定の車両完全性を前提とした制度と整理できます。加盟国は 生産者登録簿 を整備し、越境販売や遠隔販売を含めて、生産者の識別と責任所在を明確にします。生産者は EPR 義務を単独で履行することも、生産者責任組織を通じて共同履行することも可能です。中古車の域内移動が多い EU では、上市国と使用済み車両の発生国が一致しない場面が少なくないため、越境コスト配分の仕組み も重要な制度要素になります。EPR を加盟国ごとに閉じた制度ではなく、域内市場全体で機能させようとする設計意図が読み取れます。
§4. 有害化学物質規制
本規則における有害化学物質規制の中心は、従来どおり 鉛、水銀、カドミウム、六価クロムです。これらの使用は原則として制限され、例外的な用途のみが 適用除外(derogation) の下で認められます。したがって、部品・材料メーカーには引き続き材料単位での化学物質管理と適用除外管理が求められる、という整理になります。ただし、新規則の視野は四物質制限だけではありません。REACH など他制度との接続を前提に、より広い 懸念物質(substances of concern) の把握と管理が意識されています。そのため、実務上は、金属や樹脂だけでなく、接着剤、塗膜、難燃剤、再生材由来の不純物まで含めた管理が論点になりやすいと考えられます。
処理段階では、脱汚染(depollution) が重要です。使用済み車両は認定処理施設に引き渡された後、30日以内に必要な脱汚染処理を受けることが想定されています。油類、液類、冷媒、電池などは、適切に分別回収・分別保管される必要があります。ここでは、有害化学物質規制が単なる含有禁止ではなく、使用済み段階での処理実務と一体になっていることがわかります。
また、破砕前の必須除去 も重要です。すべての電池、電動駆動モーター、および再使用・再製造・再資源化価値の高い部品は、可能な限り破砕前に取り外されることが前提になっています。これは有害物質の拡散防止だけでなく、高付加価値部材の回収促進という循環経済上の狙いも持っています。メーカーは、解体業者や修理事業者に対し、制限のない、標準化された、非差別的なアクセス により、安全な取り外しのための情報を提供する必要があります。ここでは有害部材、重要原材料を含む部品、電池、電動駆動モーターなどの取り外し情報が中核になります。したがって、有害化学物質規制は化学物質そのものの規制であると同時に、情報提供の規制でもあるとみることができます。
§5. DCVPと電池パスポートなどのエコデザイン規則が求めるDPPの違い
DCVP は一般的な DPP(Digital Product Passport)そのものではなく、車両全体について、解体・再資源化・部品交換に必要な情報をまとめる 車両固有の循環性パスポートです。主な収載情報は、部品の取り外し、交換情報、有害化学物質情報、再生材宣言、スペアパーツ情報などです。主目的は消費者向け説明ではなく、修理・解体・再資源化の実務支援にあります。これに対し、電池パスポート(battery passport) は、電池規則(Regulation (EU) 2023/1542) に基づく電池専用のデジタル記録です。これは、炭素フットプリント、再生材含有率、原材料の由来、化学組成、修理・再利用可能性、終末処理情報など、より上流のトレーサビリティとデューディリジェンスを強く意識した仕組みです。したがって、DCVP よりも上流情報の要求が深く、由来や証憑の意味合いが強いと整理できます。
エコデザイン規則(ESPR: Regulation (EU) 2024/1781)に基づく DPP は、全製品共通の一律フォーマットではなく、製品群ごとに委任法で中身を決める枠組みです。ESPR 自体は DPP の基本的な技術要件と全体構造を定めますが、どの製品群に何のデータ項目を求めるかは個別に決まります。したがって、ESPR の DPP は分野横断の共通基盤、DCVP は自動車向けの循環性パスポート、電池パスポートは電池専用の持続可能性パスポート、という役割分担で理解すると整理しやすくなります。
§6. 川中のTier nの対応
川中の Tier n サプライヤにとって重要なのは、法令上の最終義務主体が OEM や市場投入者であっても、必要な原データは Tier n に遡って求められるという点です。DPP、電池パスポート、DCVP は最終的には完成品側で構成・提示されますが、その元になる部品構成、材料情報、含有化学物質、再生材、由来、修理・交換条件、解体情報などは上流サプライヤーが保有しています。したがって、Tier n の論点は「どの法令に該当するか」だけではなく、「複数制度に再利用可能な原データの形を持てるか」に移っていると整理できます。
DPPの技術基盤として、2026年7月15日に 6本の整合規格(harmonised standards) が EU 官報に告示(*2)され、残り2本は9月に公布が見込まれています。整合規格が公布され、識別子、データ交換、データキャリア、保存、API、相互運用のルールは固まりつつあります。したがって、今後の実務課題は「どう送るか」が未定なことよりも、「どの原データをどう整備し、誰にどこまで見せるか」というデータガバナンスの設計にあると考えられます。日本側の受け皿として注目されるのが、CMP(Chemical and Circular Management Platform)(*3)と ウラノス・エコシステム です。CMPは、製品・部品・材料・物質の階層に沿って、化学物質情報と資源循環情報を共通原簿として持つ構想です。狙いは、顧客ごとの個別調査票に都度答える「バケツリレー」から離れ、複数業界に再利用可能な基礎データ管理へ移ることにあります。
一方、ウラノス・エコシステム(*4)は、企業間・業界間でデータを安全に接続するための データ空間(data space) の考え方です。CMP が「何を持つか」を担うのに対し、ウラノスは「どうつなぐか」「どう信頼して共有するか」を担う位置づけと読むことができます。Tier n にとっては、原データの整備と企業間データ連携の準備の両方が論点になります。したがって、Tier n の実務対応は、個社ごとの帳票対応を続けることではなく、次項のような方向に向かうことになると思われます。
(i)製品・部品・材料・物質の階層構造を持つこと
(ii)再生材・由来・証憑を整理すること
(iii)アクセス権限と秘匿管理を設計すること
(iv)顧客別・法令別にマッピングできるようにすること
ELV規則への対応(*5)も、自動車向けの単独対応というより、電機電子、家電、電池、日用品まで含めた横断的なデータ整備課題の一部として捉えると理解しやすくなります。
まとめ
ELV規則(Regulation (EU) 2026/1738)は、従来の ELV指令を置き換え、車両設計、再生材使用、デジタル情報、EPR、有害化学物質管理、使用済み車両処理を一体化した新しい規則です。最大の特徴は、廃車処理の問題を下流だけの課題として扱わず、上流の設計・材料選定・情報管理と直接結び付けた点にあります。EPR の面では、生産者が回収・処理責任と費用負担を担い、有害化学物質規制の面では、四物質規制に加えて脱汚染や解体情報提供まで求められます。DCVP はその実務的な情報基盤です。一方で、DCVP は、電池規則((EU)2023/1542)(*6)の電池パスポートや ESPR(持続可能な製品のエコデザイン要件の設定に関する枠組み規則)(*7)のDPPと同じものではなく、車両固有の循環性・解体実務向けパスポートと位置づけるのが妥当です。
そして、川中 Tier n にとっての本質は、法令が増えたことそのものよりも、複数業界の制度対応に必要な原データが共通化されつつあり、それを再利用可能な形で整備できるか にあります。したがって、ELV規則対応は、自動車法規への個別対応としてだけではなく、DPP、電池パスポート、CMP、ウラノス・エコシステムを見据えた横断的なデータ整備戦略(*8)の一部として整理するのが実務的です。
化学物質法規制研究会 松浦技術士事務所 松浦 徹也氏
引用先
*1:ELV規則
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=OJ:L_202601738
*2:6本の整合規格
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=OJ:L_202601736
*3:CMP構想
https://www.env.go.jp/content/000331845.pdf
*4:ウラノス・エコシステム
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/digital_architecture/ouranos.html
*5:ELV規則への対応
https://single-market-economy.ec.europa.eu/single-market/digital-product-passport_en
*6:電池規則
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:32023R1542
*7:ESPR
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:32024R1781
*8:ウラノス・エコシステム整備戦略
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/digital_architecture/ouranos.html
免責事項:当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。
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