まえがき(一部抜粋)
最近、「量子コンピュータ」という言葉をニュースなどでよく耳にするようになった。 ――しかしながら、ニュースや解説記事などで得られる情報には限界がある。従来のコンピューティング技術に比べこの分野を正確に語ることができる評論家もまだまだ少なく、しばしば誤解を招く表現があったりすることも事実である。企業においても量子がわかる人材が圧倒的に不足しており、「量子」そのものが日常の直感に反する現象を取り扱うため、専門書を読んでもいまいちよくわからないという話をよく耳にする。 本書の目的は、こういった量子コンピュータ及び関連する次世代コンピューティング技術に関して、その分野の専門家からの、できるだけわかりやすくかつ正確な解説を提供することである。 ほぼすべての解説がそれぞれの分野において世界最先端で活躍する研究者や実際に開発を行っているプレイヤー自身によって解説されたものであり、量子コンピュータ及びイジング型コンピュータに関する動向を知る上で貴重な一冊となっている。それぞれの部分ができる限り独立して理解できるように構成されているので、是非自分と関連する部分から理解を深めていって頂ければ幸いである。(藤井啓祐:京都大学)
発刊・体裁・価格
発刊 2019年2月25日 定価 61,600円 (税込(消費税10%))
体裁 B5判 263ページ ISBN 978-4-86502-165-3 →詳細、申込方法はこちらを参照
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本書のポイント
★本分野の最前線で活躍中の執筆者陣27名が、話題の量子コンピュータと関連技術を徹底解説!
★セキュリティ崩壊の危険性等様々な情報が飛び交う中、本書を通してこれらの情報に振り回されない正しい知識が身に付く!
■量子コンピュータ/イジング型コンピュータの基礎解説
・〇〇方式、〇〇型etc...そもそも量子コンピュータとは?各方式で何が違うのか?
巷で煩雑に取り扱われている関連情報をしっかり整理し、正しい知識が身につく!
・各国(米国、カナダ、欧州、日本)における研究開発戦略と要注目のプロジェクト情報を紹介。日本の研究開発に求められる視点は?
・基本演算の仕組みから、量子回路設計、アルゴリズム、量子誤り訂正、量子ネットワークなど、量子コンピュータの要素技術を丸ごと網羅!
■ハード・ソフト・アプリケーション開発動向(量子コンピュータ/イジング型コンピュータ)
・考えられる応用先やキラーアプリは? 身近な組み合わせ問題への活用は可能か?
実用化を目指す日立、富士通、デンソー等の大手企業&有望ベンチャー企業の取組み事例を多数ご紹介。
ハード、ソフト、アプリ開発側に求められる技術的課題は?気になる自社の活躍の場は・・・。
・近年のトレンド技術が把握できる!
実用化を意識した中規模量子デバイス「NISQ」、多少のエラーを含んでも動作するアルゴリズム「VQE」、
期待の応用先「量子化学計算、量子機械学習」、大規模化集積化技術、環境ノイズ耐性獲得のためのアプローチ、
IBM解説のクラウド経由で気軽に量子計算を行う手順など。
■量子コンピュータ/イジング型コンピュータのビジネス活用を考える
・国内外のキープレーヤー&パートナー企業の最新情報。今後参入が見込まれる企業は?
・ビジネス化に求められる要件とは?考えられる顧客ターゲット層及びサービス形態は?
・量子コンピュータ実現に向けてユーザー側/メーカー側が準備する事は?
執筆者一覧(敬称略)
・藤井啓祐(京都大学)
・山下茂(立命館大学)
・徳永裕己(日本電信電話(株))
・フランソワルガル(京都大学)
・佐藤貴彦(慶應義塾大学)
・嶋田義皓(JST研究開発戦略センター)
・根来誠(大阪大学)
・御手洗光祐(大阪大学)
・吉原文樹(情報通信研究機構)
・米田淳(理化学研究所)
・武田健太(理化学研究所)
・樽茶清悟(理化学研究所)
・森貴洋(産業技術総合研究所)
・武田俊太郎(東京大学)
・富田章久(北海道大学)
・松浦俊司(1QB Information Technologies)
・山本直樹(慶應義塾大学)
・沼田祈史(日本アイビーエム(株))
・大関真之(東北大学)
・田中宗(早稲田大学)
・寺部雅能((株)デンソー)
・川畑史郎(産業技術総合研究所)
・山岡雅直((株)日立製作所)
・竹本一矢(富士通研究所(株))
・前川純一((株)情報通信総合研究所)
・湊雄一郎(MDR(株))
・楊天任((株)QunaSys)
目次
第1章 量子コンピュータ概論 (藤井啓祐)
第1節 量子コンピュータの基礎
はじめに
1.万能量子コンピュータの基礎
1.1 量子力学と量子ビット
1.2 1量子ビットの基本演算
1.3 複数量子ビットの記述
1.4 複数量子ビットの演算
2.さまざまな量子デバイス
2.1 超伝導量子ビット
2.2 イオントラップ
2.3 半導体量子ビット
2.4 光量子ビット
3.究極の量子コンピュータに向けて
第2節 量子回路設計手法 (山下茂)
はじめに:量子回路の設計とは?
1.量子回路の設計フロー
2.実用的な量子回路設計フロー
3.量子回路の最適化
3.1 量子コスト(Quantum Cost)
3.2 T-Count(Tゲートの数)
3.3 Nearest Neighbor Cost(NNC)
4.NNCの最適化手法と研究動向
4.1 対象とするアーキテクチャによる分類
4.2 最適化する項目による分類
4.3 SWAPゲートの挿入方法の最適化
4.4 量子ビットの初期配置の最適化
4.5 可換なゲートの適用順序の最適化
第3節 量子誤り訂正とフォールトトレラント量子計算 (徳永裕己)
はじめに
1.量子誤り訂正符号
2.表面符号
3.表面符号によるフォールトトレラント量子計算
おわりに
第4節 量子アルゴリズム (フランソワルガル)
1.量子アルゴリズムの研究の動機
2.Groverのアルゴリズム
2.1 汎用探索問題
2.2 量子探索アルゴリズム
3.その他の量子アルゴリズム
3.1 量子ウォーク
3.2 代数的問題
第5節 大規模量子コンピューティングのための重要技術~さまざまな量子ネットワーク (佐藤貴彦)
1.ネットワークシステムの重要性
1.1 古典端末ー古典ネットワークー古典端末
1.2 古典端末ー古典ネットワークー量子端末
1.3 古典端末ー量子ネットワークー古典端末
2.スタンドアローン型量子プロセッサの限界
3.拠点内量子ネットワークを用いた分散量子計算
4.大規模かつ複雑な量子ネットワークへの道筋と課題
4.1 統一された方式を持つ小・中規模量子ネットワークの構成とルーティングテーブルの作成
4.2 ネットワーク大規模化のための多層量子中継器ネットワークモデル
4.3 運営者が異なる量子中継器ネットワーク間の通信経路決定プロトコル
4.4 ネットワーク大規模化のための多層量子中継器ネットワークモデル
4.5 量子中継器ネットワークのセキュリティ問題
5.量子インターネットのある世界
5.1 古典端末―量子ネットワーク―古典端末
5.2 古典端末―量子ネットワーク―量子端末
5.3 量子端末―量子ネットワーク―量子端末
第6節 NISQ時代の量子コンピュータ (藤井啓祐)
はじめに
1.第2次量子コンピュータブーム
2.NISQ時代の幕開け
3.変分量子アルゴリズム
4.量子コンピュータ開発状況
4.1 Google
4.2 IBM
4.3 Rigetti computing
4.4 IonQ
5.展望
第7節 国内外国家プロジェクトから見る日本の量子コンピュータ研究開発戦略 (嶋田義皓)
1.我が国の量子科学技術政策・研究開発プロジェクト
2.海外の量子科学技術政策の状況
2.1 米国
2.2 欧州
2.3 中国
2.4 カナダ
3.注目すべき研究プロジェクト
3.1 ERATO「今井量子計算機構プロジェクト」(日本)
3.2 IARPA「Quantum Computer Science」「Logical Qubits」(アメリカ)
3.3 QuTech(オランダ)
3.4 IEEE Rebooting Computing Initiative(アメリカ)
4.今後の展望
第2章 量子コンピュータハードウェア
第1節 量子コンピュータの物理実装:NMR量子コンピュータなど (根来誠)
1.量子コンピュータの物理実装についての俯瞰
2.NMR量子コンピュータ
3.NMR量子コンピュータの最近の発展と今後の展望
第2節 超伝導量子コンピュータ (吉原文樹)
1.超伝導量子コンピュータのいろは
1.1 超伝導量子コンピュータの概要
1.2 超伝導量子コンピュータの特徴
1.3 超伝導体の中で起こっていること
1.4 Josephson接合
1.5 巨視的量子コヒーレンス
1.6 超伝導量子ビットの誕生
1.7 超伝導量子ビットの設計
1.8 超伝導量子ビットの作製
1.9 超伝導量子ビットの測定
2.超伝導量子ビットから超伝導量子コンピュータへ
2.1 DiVincenzo Criteria
2.2 コヒーレンス時間
2.3 量子ビットゲート操作
2.4 量子非破壊測定
3.最近の話題
3.1 エラー訂正にむけて
3.2 中規模超伝導量子コンピュータ
3.3 今後の超伝導量子コンピュータ研究開発展望
第3節 シリコン量子ドット構造による超高精度量子ビット素子の開発 (樽茶清悟)
1.シリコン量子ドットの電子スピン
1.1 量子ビットの種類と実装法
2.シリコン量子ドット構造による超高精度量子ビットの実現
2.1 電子スピンのコヒーレンス伸長
2.2 電子スピン操作の高速化
2.3 超高精度操作の実証
3.量子コンピュータの開発状況
3.1 高操作精度化と大規模化
3.2 ゲート型量子コンピュータの短期的目標
3.3 今後の研究開発に望まれること
おわりに
第4節 シリコン量子コンピュータの集積化技術 (森貴洋)
はじめに
1. 量子回路と制御回路
1.1 量子回路
1.2 制御回路
1.3 量子回路と制御回路の実装
2.量子回路作製
2.1 リソグラフィ技術の選択
2.2 レイアウト設計
2.3 制御回路との接続
3.シリコン量子ビットの集積性能
3.1 集積技術からの要請
3.2 素子特性のばらつき
おわりに
第5節 大規模光量子コンピュータ実現に向けたアプローチ (武田俊太郎)
1.なぜ光量子コンピュータか?
2.従来の光量子コンピュータの課題
3.高効率な量子テレポーテーション手法の開発
4.大規模量子計算へ向けたループ型光量子コンピュータ
5.今後の課題と展望
第6節 光量子コンピュータ:量子誤り/環境ノイズ耐性を持つ量子ビット配列法による現実的な量子コンピュータ構成法 (富田章久)
1.道具立て
1.1 誤り耐性のある量子計算
1.2 測定型量子計算
1.3 連続量量子情報
1.4 GKP量子ビット
2.アナログ情報を利用した量子誤り確率の低減
2.1 尤度関数
2.2 尤度を用いた誤り確率の低減
2.3 GKP量子ビットに対する誤り訂正
3.大規模光量子コンピュータの構成法
第3章 量子コンピュータソフトウェアとアプリケーション
第1節 量子コンピュータのアプリケーション:量子機械学習など (根来誠)
1.応用先の俯瞰
2.実用可能性について
3.量子機械学習
おわりに
第2節 量子コンピュータの考えられる応用先・アプリケーション:量子化学計算 (松浦俊司)
1.量子系における数値計算
2.量子化学
3.VQE
3.1 UCC:ユニタリー結合クラスター理論
3.2 発見的方法
3.3 励起状態
4.シュレディンガー方程式
5.エラー緩和
6.今後の発展と実用化
第3節 量子コンピュータソフトウェアとクラウド
第1項 IBM Q Hub (山本直樹)
1.実量子コンピュータがもたらす教育と研究の変革
2.IBM Q NetworkとQ Hub @ Keio
第2項 IBM Qで体験する量子プログラミング (沼田祈史)
はじめに
1.IBM Q Experienceで誰でも量子コンピュータ
2.Qiskitを使った量子プログラミング
2.1 Qiskit Terraでの計算
2.2 Qiskit Aquaでの計算
3.まとめと今後の展望
第3項 量子コンピュータのアルゴリズム・アプリケーション開発 (楊天任)
1.量子コンピュータのアルゴリズム・アプリケーションの現在
2. QunaSysが取り組むアルゴリズム開発
3. QunaSysが取り組むアプリケーション開発
4.アルゴリズム・アプリケーション開発環境
5.実際の量子コンピュータの利用
まとめ
第4章 イジング型コンピュータ概論とアプリケーション
第1節 量子アニーリングの最新研究開発動向 (大関真之)
1.毛色の違うイジングマシン
2.量子アニーリングの概要
3.D-Waveマシンを使ってみる
4.定式化の重要性
5.最後に
第2節 イジングマシンに関係するソフトウェア開発およびアプリケーション探索動向 (田中宗)
はじめに
1.組合せ最適化問題とイジングマシン
2.イジングマシン利用方法とユーザ視点からの困難
3.ソフトウェア開発動向
4.アプリケーション探索動向
おわりに
第3節 渋滞解消などのコネクティッドサービス実現に向けた実証実験の取り組み (寺部雅能)
1.モビリティサービス実現に向けた実証実験
2.課題と研究開発展望および世の中への期待
2.1 ハードウェアの課題
2.2 ソフトウェアの課題
2.3 アプリケーションの課題
第5章 イジング型コンピュータハードウェア
第1節 超伝導量子アニーリングマシン (川畑史郎)
1.イジング模型と量子アニーリング
2.超伝導量子ビット
2.1 ジョセフソン接合とジョセフソン効果
2.2 超伝導磁束量子ビット
3.超伝導量子アニーリングマシンのハードウェア
3.1 局所磁場と横磁場
3.2 スピン間相互作用
3.3 読み出し回路
3.4 アーキテクチャ:キメラグラフ
3.5 ハードウェアの問題点
4.ハードウェアの研究開発動向
4.1 D-Wave Systems(カナダ)
4.2 Google(アメリカ)
4.3 Massachusetts工科大学(アメリカ)
4.4 産業技術総合研究所(日本)
4.5 理化学研究所(日本)
4.6 Northrop Grumman(アメリカ)
4.7 Qilimanjaro(スペイン)
4.8 Rigetti Computing(アメリカ)
4.9 MDR(日本)
4.10 その他の機関
おわりに
第2節 CMOSアニーリングマシン:CMOSアニーリングチップによるイジングモデルの疑似的な再現および組合せ最適化問題の解決 (山岡雅直)
1.COMSアニーリングマシンのプロトタイプとその測定結果
2.プロトタイプの作成及び動作実証
おわりに
第3節 大規模組合せ最適化問題を高速に解く「デジタルアニーラ」技術 (竹本一矢)
はじめに
1.組合せ最適化問題とデジタルアニーラ
2.デジタルアニーラの概要
2.1 イジング型エネルギー関数による探索手法
2.2 並列試行による高速化
2.3 動的オフセット付加による高速化
2.4 レプリカ交換法
3.大規模化技術
3.1 大規模化に向けた取り組み
3.2 ソフトウェア分割技術
4.アプリケーション:創薬分野への応用
5.将来展望
おわりに
第6章 量子コンピュータ市場動向 (前川純一)
1.市場動向概要
1.1 NISQの時代
1.2 量子コンピュータ市場規模
1.3 産業別の市場規模
1.3.1 国内外のキープレーヤー&パートナー企業研究開発動向
2.主要各社の動向
2.1 IBM
2.2 Microsoft
2.3 Google
2.4 US Airforce
3.決して無視できない中国の存在
3.1 Alibaba
3.2 その他の中国IT企業
4.今後参入が想定されるプレーヤー
4.1 AWS(Amazon Web Services)
第7章 量子コンピュータ・イジング型コンピュータのビジネス活用を考える
第1節 量子コンピュータ業界のエコシステム (楊天任)
1.量子コンピュータハードウェア製作
2.量子コンピュータソフトウェア製作
3.量子コンピュータエコシステムの形成
第2節 量子コンピュータの実現に向けて何をするべきか? (楊天任)
1.ユーザーとしての準備
2.化学・製薬メーカーとしての準備
3.暗号解読
4.その他
まとめ
第3節 代表的な量子コンピュータ・イジング型コンピュータのツールの紹介、アプリの使い方 (湊雄一郎)
はじめに
1.ビジネス参入の可能性
1.1 量子コンピュータのビジネス化に必要な要件
1.2 顧客として考えられるターゲット層(ハード提供者の場合)
1.3 顧客として考えられるターゲット層(ソフト提供者の場合)
1.4 事業化に向けて展開が考えられるサービス形態
2.代表的な量子コンピュータツールの紹介、アプリの使い方
2.1 量子アニーリングの基本的なツール紹介 Ocean SDK
2.2 量子アニーリングの基本的なツール紹介 Wildqat SDK
2.3 量子アニーリングの大規模問題分割ツール Qbsolv
3.量子ゲートモデルの基本的なツール紹介 全体概要
3.1 量子ゲートモデルの基本的なツール紹介 IBM Qiskit
3.2 量子ゲートモデルの基本的なツール紹介 Microsoft Q#
3.3 量子ゲートモデルの基本的なツール紹介 Cirq
3.4 量子ゲートモデルの基本的なツール紹介 Blueqat
まとめ